まぁ、マキアスが「セントアークも似たようなものだがだいぶまし」と話していたくらいですから、これくらいはあってもいいかなぁ、と
実習課題を終わらせ、レポートも書き上げたB班一行は、レストランで夕食を摂っていた。
が、その空気は少しばかり重かった。
特に、ルオンとラウラはご機嫌斜めどころか、爆発寸前のダイナマイトと同じくらい危険な状態になった。
「(ど、どうしよう……ふたりとも機嫌悪いよ?)」
「(やはり、さきほどの"あれ"が原因だろうな)」
「(け、けど下手に声かけられないわよ、こんなの……)」
ひそひそと、エリオットたちがどうしたらいいか、対策会議を開き始めた。
なお、ガイウスが話した、さきほどのあれ、というのは、課題の中にあった準貴石《樹精の涙》を、依頼してきた工房に届けたのだが、その受取人は依頼主ではなく、貴族の男だった。
その男は、あろうことかルオンたちの目の前で受け取った《樹精の涙》をそのまま口に放り込み、飲み込んでしまったのだ。
曰く、《樹精の涙》捜索の依頼が出されたことを聞きつけ、工房と依頼主を説得し、買い取ったのだという。
当然、そんな傲慢な態度を笑って許すことが出来るほどの度量はルオンたちにはなかった。
だが文句を言っても聞かないだろうし、ラウラが公爵令嬢であることを知ったうえで説教をされたとしても、暖簾に腕押し、というものだろう。
ひとまず、こらえはしたが、怒りの矛先をどこにむければいいかわからなくなってしまい、ルオンとラウラは苛立ってしまったのだ。
それこそ、同じく苛立ちを覚えているであろうアリサたちが思わず引いてしまうほどに。
だが、徐々にその怒りも収まってきたのだろう。
不機嫌そうな雰囲気こそにじみ出てはいたが、食事をしながら話をするくらいには機嫌を直したようで。
「……こう言っちゃあれだが、ここにマキアスがいなくてよかったと思うよ、俺は」
「そうだな……あやつも悪人ではないが、どこか貴族を憎んでいるような気がしてならん」
「実際、何かやられたんだろうよ。でなきゃあそこまで親の仇みたいに扱わねぇって」
と、二人の間で会話が繰り広げられていた。
その様子に安堵したのか、エリオットが先陣を切って口を開いた。
「でも、いくらなんでも横からかすめ取るようなこと、するかな」
「その家の教えにもよるのだろうが……さすがに人としてどうかと思うな、あれは」
「まったくだ……同じ貴族として恥ずかしい限りだ」
ガイウスの言葉に、ラウラは疲れた表情でため息をついた。
いくら特権階級であったとしても、人としての道を外れる行いをよしとするほど寛容ではないし、あってはならないと思っているようだ。
「セントアークはまだましな方っていうのは、たぶん、ハイアームズ侯の人柄なんだろうね」
「四大名門の一角……ユーシスの実家もそうだったな?」
「アルバレア公爵だな。最近はカイエン公との勢力争いで勢いがだいぶそがれてしまっているらしいが」
「権力争い、ねぇ……くっだらね。民草を守るって義務を放棄してまで執着するもんかねぇ?」
ため息をつきながら、ルオンはそうつぶやいた。
そもそも、貴族に特権が与えられているのは皇族から認められているというだけではなく、自分の領地に住む領民を守護するためにあらゆる責任を背負う立場にあるためだ。
アルバレア公はそこをはき違え、自分に従わない領民は守るべき領民ではない、と判断し、暴挙に出ていたが。
「最近は貴族じゃなくて平民出身の政治家が増えたし、鉄血宰相の締め付けも厳しいからね。どうにかして固執しようとするのも仕方ないと思うけど」
「だが、本来、貴族とは領民の楯となり剣となるものだ。それを忘れるなど言語道断」
エリオットの言葉に返してきた、いかにも武人の家であるアルゼイドらしいラウラの言葉に一同は、まったくだ、とうなずいた。
だが、自分たちはあくまで学生であり、これ以上はここで議論していてもどうにもしようがないことだ。
それに耳ざとい貴族のことだ。
貴族制を否定するような発言を聞いて、何かしらの妨害を仕掛けてくるかもしれない。
その可能性を考慮して、ルオンたちはさっさと切り上げて、ホテルへと戻っていった。
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部屋に戻り、レポートを書き上げたルオンたちは自分たちの部屋へと戻り、就寝の支度をしていた。
その時、ルオンのARCUSから通信の着信音が響いてきた。
「うん?誰だ……ルオンだ」
《突然すまない、ラウラだ。いま、大丈夫だろうか?》
「構わないが、どうした?」
《うむ。そなたと一度、話がしたいと思ってな》
通信をかけてきたのはラウラで、なにやら、ルオンと話したいことがあるようだ。
ふむ、とルオンは少し考えるそぶりを見せたが、別に構わない、と了承した。
《すまない。エントランスで待っている》
「了解」
一言、そう返して、ルオンは通信を切った。
話をすることに了承したが、ラウラのことだから話というよりも剣での語り合いになる可能性も考える必要がある。
少し、安請け合いだっただろうか、と反省をしつつ、ルオンは愛刀を手に取り、エリオットとガイウスに外出することを伝えて、部屋から出た。