星の軌跡   作:風森斗真

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その剣、八葉の剣にあらず

全員が立ち上がり、銀髪の少女が落ちてくると、落とし穴の扉が閉まり、元の道を戻るという選択肢が削除された。

どうしたものか、と考えていると、ピリピリ、という高い音が聞こえてきた。

 

「……この音は?」

「……こいつからか」

「こ、これって……!」

 

そういって、リィンはポケットから事前に渡されていた戦術オーブメントを取り出し、耳にあてた。

全員それに倣い、オーブメントを取り出した。約一名、手にしているものに驚愕している様子があったのだが、それはあえて無視して、ルオンもオーブメントを耳にあてた。

すると、オーブメントからサラの声が聞こえてきた。

 

『ハロー、さっき会った美人のお姉さんよ~』

「……自分で言っちゃう残念系の美人さんでしたか」

『……ルオン。あんた、ずいぶん遠慮なくなったわね。お姉さん、うれしいわ~』

「うれしいならもう少しやさしい声出してもらった方が実感わくんですが?」

 

ルオンの反論に、サラの方はぐうの音も出せなくなったらしく、ほんの数秒だけ、黙り込んでしまった。エマをはじめとしたその場にいた全員が、そのやり取りに冷や汗をかいたのは言うまでもない。

気を取り直して、とサラの声がオーブメントから響き、説明を開始した。

説明を要約すると、配布した第五世代戦術オーブメント"ARCUS"を自分たちの手で試si

てほしい、ということだった。

そのための仕掛けは十分に用意しているため、この旧校舎に集合してもらった、ということらしい。

 

「……で、"特別オリエンテーリング"ってのは」

『そう。ARCUSと自分たちの戦闘技術を使って、この迷宮を脱出しなさい。それでオリエンテーリングは終了よ……あ、そうそう。校門で預かったあなたたちの荷物は、そこの台座に置いてあるから。それからルオン』

「……名指しですか。なんです?」

『以前、あなたから"預かったもの"も一緒に置いてあるから。ついでに持って行ってちょうだい』

 

そういわれ、ルオンは自分が預けた二つのポーチが置かれている台座に近づき、サラが言っていた"預けていたもの"が何であるか、確認した。

そこあったのは、太刀よりもやや短い、「長脇差」と呼ばれる東方伝来の武器だった。

 

「……サラさん、これ……」

『いつだったか、あんたが私たちのところから離れたときに忘れていったものよ……母親の形見なんでしょ?受け取んなさい』

 

それは確かに、ルオンの持ち物だった。しかし、それは、一年前、サラたちとたもとを分かった際に、世話になったお礼の代わりに渡したものだった。

しかし、こうして再び自分の目の前にあるということは、どうやら、サラたちの元同僚の中に、目の前にあるこれを扱うことができる人間はいなかったようだ。

いや、あるいはこれが母親が遺した形見の一つであることを知ったから、こうしてルオンのもとへ戻してくれたのだろうか。

 

「……んじゃ、ありがたく」

『さて、と……無事に一階まで戻って来れたら文句や質問を受け付けるわ。なんだったら、ほっぺにちゅ~してあげちゃう』

「……御冗談を」

『……ちっ、冷めてるのが一人いるわね。ま、いいわ。せいぜい頑張りなさい』

 

それだけ言って、サラは通信を切ってしまった。

ルオンたちは指示された通り、ARCUSに預けていた荷物と一緒に置かれていた"マスタークォーツ"をセットし、それぞれ預けていた荷物を身に着け、再び集合した。

 

「さて……脱出しろと言われても、どうするべきか」

「魔獣もいるようだし……まぁ、何人かでグループを作った方がいいかもしれないが」

 

ルオンはそう言いながら、さっさと部屋の出口へ向かって行っていた。

むろん、その行動に一番驚いたのはエマであって。

 

「って、ルオン?!話、聞いてたの?!というか、そういう話題を振っておいて……」

「久々に手になじませときたいから、すまんが一人にしといてくれ。あ、死んでたら骨拾っといてな」

 

ひらひらと、片手を振り、ルオンはその場を去っていった。

ちなみに、ルオンの後に続くかのように、銀髪の少女とマキアス、ユーシスの三人が出口へ向かっていき、残った六人がそれぞれチームを組んで迷宮に挑むことになった。

 

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落とされた部屋を出て、ルオンはしばらく、一人で歩いていた。

が、周囲が壁で囲まれた、小部屋のような空間に迷い込むと、まるでルオンがそこに来るのを待っていたかのように、魔獣たちが姿を現し、ルオンを取り囲んだ。

 

「……弱い奴ほど群れるっていうが、ほんとだな」

 

ルオンはそっとため息をつき、腰にさしていた刀を右手で引き抜き、逆手に構えた。そして左手で、ホルダーから数枚の札を取り出し、身構えた。

 

「いいぜ……来いよ!!」

 

ルオンの叫びに答えるかのように、魔獣たちは一斉にルオンに向かって飛び掛かってきた。

正面から飛び掛かってきた甲虫型の魔獣を回避し、すり抜けざまに逆手に構えていた刀で切り付けた。刀の刃は、魔獣を真二つに切り裂いた。

が、それはルオンの猛攻が始まる合図に過ぎなかった。

刀を持つ手とは反対の手で持っていた札をすべて魔獣の群れの中へと投げつけると、札を持っていた方の手の人差し指と中指を立て、胸の前に構えた。

 

「ノウマクサンマンダ、インドラヤ、ソワカ!!」

 

この国の、いや、この大陸の言葉ではない言葉が、ルオンの口から紡がれた。その瞬間、投げつけた札から青白い火花が飛び散ったかと思うと、突如、札から雷が発生し、魔獣たちに襲い掛かった。

さらに、ルオンは先ほど渡された戦術オーブメント(ARCUS)を取り出し、そこにセットしているマスタークォーツに意識を集中させた。

セットされている"ジャグラー"のクォーツが白い輝きを放つと、ルオンの周囲に光で描かれた魔法陣のようなものが浮かび上がった。

 

「ARCUS駆動――ルミナスレイ!!」

 

どういう原理なのかはわからないが、導力魔法(オーヴァルアーツ)が発動可能な状態になったことを、瞬時に理解できたルオンは、左手を魔獣たちにかざした。瞬間、ルオンの左手の平に白い光の玉が浮かび上がり、レーザー光線のように魔獣たちに向かって真っすぐに伸びていった。

光に飲まれた魔獣たちは、そのまま塵と化したのだろう。光が伸びていった方向には、魔獣が一体も見当たらなかった。

 

「……んじゃ、そろそろ片付けますかね」

 

ルオンは逆手に構えていた刀を持ち替え、すっと目を閉じ、耳を澄ました。

大きな隙を見せた、と判断した魔獣は、ルオンに一斉に飛び掛かっていった。

しかし、魔獣の中の一匹が動き出した瞬間、ルオンは目を見開き、刀をさやから抜き放た。

その瞬間、襲い掛かってきた魔獣が数体、一度に切り裂かれた。

だが、ルオンは魔獣の息の根を止めたかを確認する間もなく、右足を軸にして後ろに振り向き、刀を逆手に持ち替え、襲ってきた魔獣を再び切りつけた。

さらに左足を軸にして左へ体を向け、その途中で刀を左手に持ち替え、刃を振るった。

 

そんな、まるで舞うかのような軽やかな動きを数度、繰り返すと、ルオンは刀を鞘に納めた。

ぱちん、という、刀が鞘に収まった音が響くと、魔獣たちがほぼ同時に真二つに裂け、地面に落ちた。

驚くべきことに、魔獣に襲い掛かられてからそのすべてを地面に落とすまで、ほんの数秒しかかかっていない。

 

「……やはりまだ未熟か」

 

周囲に散らばる魔獣たちの残骸を見回し、ルオンは舌打ちをして、右手で札を引き抜き、背後に向けて投げた。

投げられた札はまっすぐに魔獣まで飛んでいき、張り付いた。

その瞬間、札から蒼い炎が立ち上り、魔獣を焼き尽くした。

 

「はぁ……札に頼ることなく、やれないようじゃ、俺もまだまだか……さて、と。あとはいないな……やっぱり駆動時間が少し遅いか。こっから抜け出たら改造しよう……」

 

ルオンは周囲にこれ以上魔獣がいないことを知り、そっとため息をつきながら、部屋の外へ出るべく、もと来た道を戻りながら、ぶつぶつとそんなことをつぶやいた。

なお、遅い、と本人は言っているが、同い年の人間が仮に導力魔法を使用した場合の早さと比べれば、頭一つ抜けているほど早い。

だが、とある人物と行動を共にしている際に手にしていた戦術オーブメントを使った際の駆動の感覚が強いため、どうしても遅く感じてしまっているようだ。

 

閑話休題(それはそれとして)

 

ぼやきながらも部屋を出て、元来た通路を戻ろうとした瞬間、ルオンの耳は三人ほどの足音と微かな会話のような音をとらえた。

現状、この迷宮内には自分を除けば十人しかいない。ということは、その中の誰か、ということになるのだが、さきほど戦闘したせいか、体の中に戦いの熱がくすぶっているらしく、つい、警戒して鍔に指をかけ、いつでも抜けるよう、準備していた。

 

 

「……二人とも、止まってくれ。どうやら、誰かいるようだ」

「え?」

「大丈夫です、ラウラさん……出てきてください、ルオン」

「……ばれてたか」

 

聞き覚えのある声にこたえるようにして、ルオンは影から出てきて、苦笑しながら謝罪した。

 

「すまなかったな。放浪が長かったせいか、つい警戒してしまってな……ルオン・ツクヨだ」

「ラウラ・S・アルゼイドだ。なるほど、そなたがエマの言っていた幼馴染か……よろしく頼む」

「……アリサ・R、ルーレ市から来たわ。よろしくね」

「"R"、ね……ま、俺もあまり自分の家はあまり好きじゃないけど」

 

ルオンが自己紹介を終えると、青いポニーテールの少女――ラウラと、さきほどリィンに見事な平手打ちを浴びせていた少女――アリサが簡単に自己紹介をしてきた。

エマはすでにルオンのことを知っていたためか、名乗ることはなかった。

名乗ることはなかったのだが、半眼でルオンを見ながら、静かな声で問いかけてきた。

 

「……ルオン、なぜあの時、一人で行ったんですか?」

「言っただろ?手になじませたいから一人になりたいって……」

「だからって……また、一人で……」

 

反論をつづけるエマの目には、涙が浮かんでいた。

一人で出ていったことに、彼女が怒るであろうことは、ある程度予想できていた。なにしろ、昔、エマに黙って里を出ていったのだから、当然だ。

しかし、そのショックが、まさか泣くほどのものだったとは、思いもしなかった。

 

「な、ちょ?!」

「……ど、して……わた……だまって……」

「わ、悪かった!頼むから、泣くなて……」

「……やで、す……もぅ、置いてか、な、て」

「約束するから!頼むから泣かないでくれ!!」

 

ルオンはかなり動揺しながら、どうにか泣きじゃくるエマをなだめようとしていた。

その光景を、意外、といわんばかりのまなざしを向ける少女二人(ラウラとアリサ)を気にする余裕など、その時のルオンにはなかった。

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