星の軌跡   作:風森斗真

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"特科クラスⅦ組"結成

エマがようやく泣き止んだが、ルオンは壁に突っ伏し、どんよりとした空気を醸し出していた。

その光景に、エマはおろおろとしながらルオンに話しかけていた。

 

「え、えっと、ルオン……」

「……」

「そ、その……すみません。まさか、そこまでショックを受けるとは思ってなくて」

「……あぁ、うん、もう大丈夫だ」

 

ルオンはそっとため息をつきながら、エマに答えた。

エマもほっとため息をつき、安心しきった顔で微笑んだ。

 

「よかった……」

「このあと、なんかおごってくれよ?」

 

だが、自分自身の自業自得とはいえ、困らせたことを根に持っているらしく、何らかの形で詫びさせるつもりのようだ。

エマは、その一言とルオンの不敵な笑みに押し負け、しぶしぶ、といった様子でため息をついた。

その様子をラウラとアリサが、呆れた、と言いたげな顔でため息をついていたが、それも一瞬で凍り付いた。

何かを切りつける音と、魔獣の怒号、そして、エマとルオンだけ感じ取れた、導力魔法の波動。

それらが、何を意味しているのか、察せないほどこの場にいる全員は、いや、このオリエンテーリングに参加させられている新入生たちは鈍くはなかった。

 

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激しい戦闘音が聞こえた方向へ走っていくと、そこには、赤い制服をまとった四人の男子生徒が巨大な魔獣と対峙していた。

普通ならば、数の利で男子生徒たちが優勢になるはずだ。

しかし。

 

「なっ?!」

「再生したというのか?!」

 

金髪の青年が驚愕したと同時に、魔獣の爪がその生徒に襲い掛かってきた。

それを見た黒髪の青年、リィンは、金髪の生徒を突き飛ばし、その爪からかばった。

それを見て平然としていられなかったのは、アリサだった。

 

「……下がりなさいっ!!」

 

弓を構え、導力エネルギーで作られた矢を、魔獣に向けて放った。

矢は、魔獣に命中し、爪はリィンの鼻先をかすめるにとどまった。

アリサの攻撃に続き、ラウラが大剣で切りかかり、エマが導力杖で簡易的な導力魔法を発現させた。

ルオンもまた、腰に取り付けたポーチから札を取り出し、魔獣に向かって投げつけた。

その瞬間、札は光に包まれ、鷹のような姿へ変わり、魔獣に激突していった。

 

鷹と魔獣の体格の差が歴然であるため、大したダメージを与えることはできなかったが、それでもリィンたちと合流するには十分な隙を作ることはできた。

 

「遅くなった!」

「ご無事で何よりです」

「すまない!助かった!!」

 

刀を抜きながら、ルオンは魔獣との間合いを詰めた。

八人に囲まれ、完全に不利な状態であるにもかかわらず、魔獣の闘気は衰えを見せず、むしろ高まりを見せるばかりだった。

 

「……厄介な」

石の守護者(ガーゴイル)か……暗黒時代の産物が、なんでこんなとこにいるんだか」

 

ルオンは目の前にいる魔獣が暗黒時代と呼ばれる時代に作られた魔導生物(ゴーレム)の一種であることに気づき、悪態づいた。

魔導生物は、"生物"とこそ名はついているが、実際のところ、無機質体であり、物理的な攻撃が有効打とならないことが多い。おまけに、ある程度の魔力耐性がついている。

 

長脇差を手放してからは術を主体にした戦闘を行っていたルオンにとって、魔導生物との相性は最悪に近かった。

そのせいで、毎度毎度、魔導生物を見ると、ルオンは渋い顔をするようになってしまっていた。

しかし、目の前の魔獣に対し、勝利を疑わない青年が一人いた。

 

「だが、この人数ならば、勝機をつかめれば!!」

 

槍を持つ褐色肌の青年は、まっすぐにガーゴイルを見据えながら、そう語った。

ルオンも、その意見には同意だった。

そのための布石はすでに仕掛けてあるし、隣には、このメンバーの中で最も信頼できる術者がいる。

そして、その勝機はすぐに訪れた。

 

「ま、仕方ないね」

「間に合ったようだな」

 

自分たちが入ってきた入口の方から、二人の声が聞こえてきた。

そちらのほうへ視線を向けると、そこにはマキアスと銀髪の少女が立っていた。

マキアスが持っていたショットガンを構えた瞬間、導力エネルギーが充填された。

 

「導力銃のリミッターを解除……《ブレイクショット》!!」

 

ショットガンの弾丸は、まっすぐにガーゴイルに着弾した。それと同時に、銀髪の少女が地面を蹴り、瞬時にガーゴイルの背後に回り、持っていたナイフを突き刺した。

その場所が急所であったのだろう、ガーゴイルはこれまでにない悲痛な叫びをあげた。

 

「縛っ!」

 

ルオンは左手の人差し指と中指以外のすべての指を折り曲げて印を結び、力強く叫んだ。

石畳から光の鎖がガーゴイルの体に巻き付き、その動きを束縛した。

それを逃すほど、リィンたちは甘くはなかった。

 

「勝機だ!!」

 

褐色肌の青年が叫んだ瞬間、その場にいた全員の体が青白い光に包まれた。

そして、みんなの攻撃が、絶妙なタイミングでガーゴイルに命中し、最後には、ラウラが、ガーゴイルの首を、文字通り、叩き斬った。

斬り飛ばされた首は、着地した場所で徐々に灰色になっていき、最終的には完全な石に戻ってしまった。

 

「……なんとか、勝てた、か」

 

今まで腹に溜め込んでいた息を出し切るかのように、ルオンはほうっとため息をいた。ふと見ると、いつの間にか、全員、円陣を組んで、何かを話し合っていた。

ルオンもその輪に加わり、先ほどの現象についての考察を話し合った。

 

「それにしても、最後のアレ、なんだったんだろう?」

 

ふと、赤毛の少年が指を顎に添えながら、そんなことをつぶやいた。

最後のアレ、というのはおそらく、ガーゴイルに一斉攻撃を仕掛けたときに見えた、体を包みこんだ、青白い光のことだろう。

それは、ルオンを含め、この場にいた全員が感じ取っていたものだ。

まして、母親から受け継いだ書物に記された、様々な"秘術"と呼ばれる、導力魔法とは一線を引く特殊な技術を知っているルオンにも経験のない事柄である以上、気にならないわけがない。

 

「……気のせいだろうか、皆の動きが手に取るように"視えた"気がしたのだが」

「たぶん、気のせいじゃないと思う」

「えぇ……不思議な感覚でした」

 

ルオンはエマの言葉を聞き、そっとため息をつき、これ以上、自分の知識から考えることをやめた。

目を閉じ、なぜ、あの現象が自分たちに発現したのか、今まで集めた前提知識を抜きにして考えてみることにした。

 

あの現象が起きたのは、この場にいるメンバー全員。ということは、このメンバーに共通する"何か"があるはず。

そこまで思考をめぐらせる中で目にしたのは、自分が、いや、自分たちが手に持っている戦術オーブメント。

 

「……第五世代戦術オーブメント"ARCUS"。俺たちに共通しているものとしたら、こいつしかないな」

「あぁ……もしかしたら、あの現象が」

 

リィンがルオンの言葉をつなごうとした瞬間、頭上から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 

「ARCUSの真価ってわけね……やぁ、よくやったわね。最後はやっぱり、友情と信頼の勝利ってところかしら?」

「……サラさん、茶化さないでもらえます?それと、早いとこ説明してください」

「わ、わかってるわよ……だから、そんな怖い顔しないで……ね?」

 

出てきたサラに対し、ルオンは鋭い目つきで問いかけた。

その眼から、いや、ルオンの体からほとばしる殺気から、少しでも誤魔化せばどのような目にあうか、嫌でも想像できてしまった。

 

「説明してあげるし、誤魔化しもしないから、その物騒な殺気は抑えてちょうだい」

 

ルオンはその言葉を聞き、ほとばしらせていた殺気をおさえた。

それを確認したサラは説明を始めた。

先ほどの現象は、「戦術リンク」と呼ばれるARCUSに搭載されている機能の一つらしい。

互いに信頼し合った仲間と、そのリンクを結べば、リンクを結んだ相手の動きだけではなく、考えていることも理解できるというシステムだ。

先ほどサラが言った「友情と信頼の勝利」というのは、あながち間違いではないということだ。

 

「……そして、このシステムを士官学院で試験運用することに決定したのは」

「軍に転用することで、より練度の高い動きを実戦で行うことができる、と……」

「なるほど、確かに有益ですね」

 

練度の高さ、特に十人を超える大連隊となれば、それは大きな課題となる。

実際、軍の機甲化が進む中、正規軍で練度の高い部隊は第四機甲部隊と第七機甲部隊の二組のみであり、領邦軍に至っては、そのような部隊は存在しないといわれるほどだ。

各隊の隊長たちに、この事態についての意見を問えば、現状、改善の余地があるという返事が返ってくるだろう。

それを解消できる可能性があるのが、この「戦術リンク」なのだ。

 

しかし、まだ試験運用段階であるために、士官学院生の生徒たちの中でも、特に適性の高い生徒たちに使用させ、データ採取を行っているといったところだろう。

ルオンはそう考え、そっとため息をついた。

 

理由は、結局は"戦争で使うため"ということに気づいたからだった。

ルオン自身、戦わなければ生き残れない場所に身を置いていた。それに、人間はどのような場であれ"戦わなければならない"宿命を背負っており、それを避けることができないのだということも、実際に見て学んだ。

だから、戦争の存在や軍の存在を否定するつもりはないし、"戦争"と言う事象を否定するつもりもない。

だが、関係のない人間が巻き込まれ、人生を狂わされてしまうことを、ルオンはよしとは思っていない。

それゆえのためいきだった。

 

「ということは、私たちが身分や出身に関係なく選出された理由は」

「そう、あなたたちがARCUSの適正が特に高かったからよ」

「……なるほど」

「……な、なんて偶然だ」

 

褐色肌の青年はその言葉で納得し、マキアスは驚愕していた。

いや、マキアスだけではない、褐色肌の青年も少なからず驚愕していたようだ。しかし、ルオンだけは、どこか冷めた視線をしていた。

マキアスが言っていた"偶然"という言葉に、どこか引っ掛かりを覚えていたのだ。

 

それは、自分の師であり、母の形見でもある書に記されている教え、「この世に"偶然"はない。あるのは星の導きにより導かれた、"宿星(しゅくせい)"と言う名の"必然"のみ」、という言葉からだった。

それは、エマも同じだったらしく、どこか祈るような表情で顔を伏せていた。

 

「さて、約束通り、文句を受け付けるわよ?……最初に言っておくけど、今回はARCUSの試験運用も兼ねているの。けれど、やる気のない人や気の進まない人を編入させるほど、予算に余裕はないわ。何より、通常の学級よりもかなりハードなカリキュラムになるはず……あぁ、ちなみに辞退する場合、本来所属するはずだったクラスへ編入になるわ。貴族ならⅠ組かⅡ組、平民ならⅢからⅤ組ね」

 

その言葉に、皆が皆、迷いの表情を浮かべ、考え始めた。

が、その中で一人、リィンは覚悟を決めた目をして、一歩前に出た。

 

「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」

「一番乗りは君か……理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

サラは、リィンが名乗り出たことを意外に思ったのか、それとも何か別の意図があるのか、あえて参加する理由を問いただした。

その問いに、リィンはまっすぐな瞳を向け、答えた。

 

「もとより、わがままを言って通わせてもらったんです。自分を高めることができるのなら、どんなクラスでも参加します」

「……なるほどね。ほかの皆は?」

 

リィンの言葉を聞き、アリサ、ラウラ、エマ、フィーがそれぞれ参加を表明し、褐色肌の青年と赤毛の少年、そして金髪の青年もそれぞれ参加を表明した。

マキアスは金髪の青年の挑発に乗るような形で参加表明し、残るはルオンだけとなった。

 

「さ、ルオン。残るはあなただけだけど」

「……選ばれたことには意味があるなら、その意味を見出すために、何より約束を守るために、参加させてもらいます」

 

サラの問いかけに、ルオンは不敵な笑みを浮かべながら、しかしまっすぐな瞳でさらに答えた。

 

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Ⅶ組に選抜されたメンバー全員が参加を表明した頃。

彼らがいるエリアの上層部に、二人の人影があった。

一つは先ほど講堂で演説をしていたヴァンダイク学院長、そしてもう一人はこの学院の理事長を務める皇族、"放蕩皇子"ことオリヴァルト・ライゼ・アルノールだった。

 

「ふふふ。なかなかの子たちがそろったようだね」

「えぇ……あなたの期待通りに育ってくれるといいのですが」

 

にこやかに笑うオリヴァルトに対して、ヴァンダイクは少々不安げな表情を浮かべていた。

それもそのはず。なにしろ、このクラスは、身分に関係なく選抜された、様々な立場の生徒たちで構成されているのだ。

当然、彼らの中に不協和音が発生する。

しかし、まだひな鳥である彼らにその不協和音を乗り切ることができるかどうか、不安なのだ。

対するオリヴァルトは、にこやかな笑みを浮かべていた。

 

「それこそ、僕が彼らに求めているものだ……きっと彼らなら、"第三の風"となってくれる」

 

Ⅶ組のメンバーを見つめるオリヴァルトの瞳は、どこか慈愛に満ちた、まるで親や兄のような温かなものだった。




ようやくの投稿と相成りました……。
まぁほかにも作品抱えてるし、仕方ないといえば仕方ない……のか?
予定としては、実習の前日までを「幕間」、実習を「本編」みたいな形で投稿していきたいと思います。
ちなみに、幕間は「こうだったら」みたいな完全オリジナルの展開があ含まれています。
そのあたりはご容赦を。

では、また次回。
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