サラのセリフはややオリジナルが入ってますが、まぁ、気にしない気にしない(汗
四月も半ばを過ぎようとしている頃。
学院内は新学期初の自由行動日に、少々浮かれ気味の状態だった。
そんな中、ルオンは一人、技術棟に顔を出していた。
「ちわーっす……って誰もいないのか?」
少し大きな声を出し、中に人がいるかを確認したが、返事をする人間がいないため、留守なのか、と一瞬疑ってしまったが、やや遅れて奥の方から愛らしい声が響いてきた。
「はーい……あ、ルオン君。こんにちは」
「ども……生徒会長がこんなとこで何してるんで?」
現れたのは入学式の日に門の前でⅦ組の装備を回収する手伝いをしていた生徒会長、トワ・ハーシェル生徒会長だった。
年上、ということはわかっているのだが、年齢には不相応の体型のせいで、制服を着ていなければ、おそらく迷子と勘違いされてしまうであろう生徒会長は、ルオンを見上げる形で問いかけた。
「ちょっとお手伝いを、ね。ルオン君こそ、どうしたの?」
「ここの部品をもらえないかな、と。ジャンク品で構わないんで」
実のところ、ルオンが
一世代前のエニグマの駆動時間もそうだったが、刀も使うが、基本的に魔法のほうが得意なルオンにとって、導力魔法が発現するまでの時間というのは、まさに生命線なのだ。
そのことを、以前、世話になったサラの同僚に話すと、自分が行っている改造を教えてくれたのだ。
その応用を、今回はARCUSで行おうかと考えていたのだ。
「あぁ、それなら問題ないよ」
と、奥の方から黄色のつなぎを着た、恰幅のいい青年が姿を現した。
この青年も、入学式以来だ。
しかし、名前までは聞いていない。
どう呼んだらいいか、困惑していると、青年はそれに気づき、すまない、と謝罪した。
「自己紹介がまだだったね。僕はジョルジュ。ジョルジュ・ノームだ」
「ルオン・ツクヨです。入学式以来、ですよね?先輩」
「そうなるね。よろしく、ルオン君」
ジョルジュは人のよさそうな笑みを浮かべ、そう返した。
その笑顔に、二年生男子の良心なのかもしれない、という感想を抱いたルオンは。
「それじゃ、さっそく」
と言って、技術棟の奥へと潜って行った。
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技術棟に入ったルオンは、早速、部品と機材を取りだし、作業台に置いていった。
作るべきものの図面は、すでに頭の中に入っている。
ルオンは自分のARCUSを取り出し、さっそく作業を開始した。
ARCUSのカバーを開き、中の機構をいじり始めた。
――構造自体は、エニグマと似たような感じだな……あぁ、でもこれには触れない方がよさそうだな……
自分が持っていたエニグマを開き、ARCUSと同じように内部の機構を覗き込みながら、どこをどういじるべきか、逆にどこに触れてはいけないか、心のうちで呟きながら作業を進めた。
数分もしないうちに、すべての作業が終了し、ルオンはARCUSとエニグマのカバーを閉じ、ARCUSを手にし、立ち上がった。
「……ARCUS駆動」
ARCUSにセットされているクォーツに親指をふれさせ、ルオンはARCUSを駆動させた。
すると、数秒としないうちに、導力魔法が発現可能状態になった。
実際に発動させることなく、ルオンはそのまま駆動を制止し、ARCUSをしまった。
――成功だな……しかし、こんなもんに頼らないと魔術を使えないってのは、不便なもんだな
ルオンは胸中でそう思いながら、ARCUSをポケットにしまった。
そのタイミングを見計らっていたのか、終わったかい、とジョルジュが声をかけてきた。
「えぇ、ちょうど」
「グッドタイミングだったようだね。ちょうど、僕のお友達とお茶しようってことになったんだけど、君もどうだい?」
お茶、という言葉に反応してか、ルオンの腹が、くぅっと小さくなった。
そういえば、作業に集中するあまり、何も口にいれていなかった。
このまま夕食まで耐えられるかどうか、少し自信がない。
なので。
「……お言葉に甘えて」
と答えてしまった。
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ジョルジュの提案で軽食を済ませた頃には、すでに夜の帳が下りていた。
もっとも、同席していたトワは、生徒会の仕事が途中だということを理由に、途中退席していたため、ほとんどアンゼリカとクロウという、ジョルジュの友人二人を交えての、ややはちゃめちゃなお茶会となったのだが。
そんなお茶会からようやく解放されたルオンは、もう夜なのか、とそっとため息をつき、帰路につこうとした。
その時、ふと、感じたことがある気配を覚え、その気配を追って生徒会館まで向かった。
すると、ルオンの視界に、見慣れた黒髪の青年が入り込んだ。
どうやら、ARCUSで誰かと通信をしているようだ。
――……ほんとはいけないことだけど、好奇心には勝てないよ、なっ!!
心中でそう思いながら、ルオンは腰のホルダーにしまっていた札を取り出し、その青年に向かって投げつけ、もう一方の、対となる呪符を耳にあてた。
すると、その札から、予想通り、リィンの声が聞こえてきた。
『どうして、俺なんですか?』
"それは、あなたがこのクラスにとって重心となりえるからよ。貴族と平民だけでなく、留学生までいるこのクラスで、貴方の生い立ちは特殊と言えるわ"
どうやら、通話している相手はサラだったようだ。
札から聞こえてくる女性の声に聞き覚えがあったルオンは、しかしその声の主との間にいい思い出がないために、半眼になりながら二人の会話を聞いていた。
"だから、貴方の立ち振る舞いが、今後のⅦ組の重心を左右することになるの。"中心"じゃないわ、あくまで"重心"よ……ま、せいぜい悩みなさい"
そういって、サラはどうやら通信を切ったらしい。
あとから聞こえてきたのは、リィンの重々しいため息だった。
――なるほど……リィンにも深い事情があるようだ……
会話の一部始終を聞いていたルオンは、そっとため息をつきながら、手にしていた札をしまい、第三学生寮へと歩き始めた。