『ねえ、だから一緒にやろう』
スマートフォン越しに誘われていた少女、
やがてめぐみは、小さくため息を吐く。
「仕方ありませんね。ぼっちの縫衣が一生懸命誘ってるのです。私もご一緒しますよ」
『ぼっちとか言わないでよっ』
縫衣は文句を言うが、すぐに機嫌を直す。
『それで日取りだけど…』
「ちょっと待ってください。ハードはありますが、肝心のソフトがありませんよ。お小遣いが出て、ソフトを購入するまでは無理です」
『あ、ごめん。……って、貯金はしてないの?』
「してますよ? ですがそれは、将来何かあったときのために備えてのものです。目の前の娯楽のために、簡単に手を付けるつもりはありません」
毅然とした答えに、縫衣は一瞬口籠り。
『うん。やっぱりごめん』
素直に謝るのだった。
それから半月ほどが過ぎ、ついに[NewWorld Online]のソフトを購入しためぐみ。縫衣に誘われてから色々と調べてみたところ、異世界ファンタジータイプのRPGに属するらしい。それを知って以来、めぐみも興味を持ち始めていた。
めぐみはファンタジーものの魔法というものに、強い憧れがあった。今まで個人的にプレイしたゲームもファンタジー系のRPGが殆どで、職業も魔法使いやそれに類するものばかりを選んでいる。
だが、その全てのゲームは、プレイしていくうちに物足りなくなってしまう。使っている魔法が、自分が望むものとは違うような気がしてくるのだ。
(今度こそ、私を満足させてください)
そう願いながら家へ帰ると、さっさと宿題を済ませてから入浴、夕食を食べてひと息つき、八時近くなってから縫衣へとラインを送り、返信を確認してからゲームを開始する。
初期設定を済ませてゲーム本編へとログインしたのは八時ちょうど。さすが私、とめぐみが自画自賛していると、少しして縫衣がログインした。
このゲームでは個人の見た目を変えることは出来ない。精々がカラーリングを変えたり髪型を少し調整したり、あるいは若干の小物を身に着けたり外したり、程度のものなので、ログインした知り合いに気づかないということはまず無いのである。
「あ、めぐみ。ひと…」
「待ってください。この手のゲームでは、本名呼びはご法度ですよ。私はメグミンです」
「あ、そうなんだ。私はユンユンだよ」
「ユンユン?」
幼馴染みのゲーム内名称を聞き、少し考え込む。
「……ほら私、学校じゃぬいぬいって呼ばれてるでしょ?」
「数少ない知り合いが、そんなあだ名付けてましたね」
「と、友達だから! それにせめて、愛称って言ってよ!」
めぐみの発言に過剰に反応しつつ、縫衣は説明を続けた。
「えっと、だから私の名前をローマ字にしてひっくり返したものを、愛称と同じ様に繰り返したのよ」
「……縫衣だとローマ字表記でNUI、ひっくり返して繰り返したら、イウンイウンじゃないですか?」
「わざとだよね? 絶対わかってて、わざと言ってるよね!?」
縫衣に詰め寄られ、小さくため息を吐くめぐみ。
「[い]は[I]ではなく、[Y]だと言いたいんでしょう?」
これは縫衣の妙なこだわりである。もちろん、幼馴染みのめぐみも知ってることだった。なお、当然の事ながら授業や公式表記に迫られた時には、素直に[I]を使うくらいには空気を読める。
「もう、からかわないでよ」
「はいはい。それでユンユンは何を言いかけてたのですか?」
「え? ああ、そうだった。メグミンは瞳の色を変えたんだね、って言いたかったのよ」
「そういうことですか」
確かにめぐみは、本来の黒い瞳から紅い瞳へとカラーリングを変更していた。
「苗字に[紅]が付くので、それに合わせたのですよ。普通は髪色だと思うのですが、私に赤髪は合わないですし、そもそもこの黒髪を気に入ってるので、次点で瞳の色にしたというわけです」
ショートボブ気味のショートを手で触れながら、めぐみは説明する。
「うん。メグミンには黒髪が似合うと思う。でも、ロングにしたことはないよね? メグミンなら黒髪ロングが、より似合いそうなんだけど」
「それは手入れが面倒なだけです。あと、肩が凝るとも聞きますし。もしこのゲームでそういったツールがあるなら、いずれ試してみるかも知れませんが」
めぐみとて、ロングヘアーに興味がない訳ではないのだ。
「……と。つい話し込んでしまいましたね。取り敢えず、ポーションなどを買い揃えてからレベリングを…と思うのですが、まさか二人揃って魔法職とは」
「うん。誰かと一緒にプレイするのは初めてだから、つい確認し忘れちゃったけど…」
「いえ、ユンユンとは理由が違いますが、私も普段はソロプレイですから、そこは致し方ありません。しかしパーティーのバランスは明らかに悪いですね」
ソロプレイなら自己管理しながら遠距離攻撃に徹する等の方法もあるが、パーティーを組んだ場合では相手に合わせる分、自己管理が疎かになりやすい。それでも長年のパーティーなら阿吽の呼吸といくだろうが、この二人は幼馴染みとはいえ、ゲームで組むのは初めてだ。さすがに、そう都合良くはいかないだろう。
「仕方がありません。誰かレベリングに協力してくれそうな人と、仮のパーティーを組みましょう」
「ええっ」
「そうですね…。むむっ。あの人にしましょう。あの赤い鎧に赤い大盾を装備した、あの赤髪の男性に!」
「赤って言っても弁柄色に近いし、髪も赤って言うより茶色だと思うんだけど…」
「私が赤と言ったら赤なのです!」
「横暴!?」
突っ込む縫衣を無視して、めぐみはつかつかとその男に近づいてゆく。
「すみません。今日一日、私とパーティーを組んではくれませんか?」
「……は?」
突然のことに男は間の抜けた返事をし、その目が点になった。
初心者向きの狩場へとやって来ためぐみ達。かの男も一緒である。
「【ファイアーボール】!」
「【ウインドカッター】!」
めぐみと縫衣が魔法を使って倒し。
「よっ、と」
近づいてくる敵は男が大盾でいなしてゆく。あくまでめぐみと縫衣のレベリングが目的なので、モンスターにダメージ判定が入らないようにである。この段階で、かなりの技能を持った高レベルプレイヤーなのが良くわかる。
やがて戦闘も一段落し。
「ふむ。レベルが5に上がりましたよ」
「私も。でも、クロムさんが優しい人で良かった」
そう言って縫衣は、男…クロムを見る。
「まったく、これだからぼっちは。簡単に他人を信用してはダメですよ」
「おいおい。その意見には同意するけど、さすがに少しばかり、心が傷つくんだが」
苦笑いを浮かべてクロムは言った。
「……まあ、私もあなたが悪い人とは思ってませんが、とにかくこの子は簡単に人を信用しすぎます。まったく、頭が良くても人が良すぎですよ」
「それは確かに、少し慎重になった方がいいとは思うが…。だけどちょっと過保護じゃないか?」
「そうかも知れませんが、ぼっち矯正のためにひとりでやらせようと思うと、なんだかとんでもなく拗らせそうで怖いんですよ」
何故かは知らないが、昔からめぐみは、そんな確信めいた想いに囚われているのだ。
「……あの、そういう話は当人のいないところでして欲しいんですけど」
「何を言ってるのです。あなたにもっと自覚を持ってもらうために、わざとやってるに決まってるじゃないですか」
「そうだったのか?」
「……多少はからかう気持ちもありますが、概ね本当です」
「メグミン、私の身を案じて…。ん? からかう気持ちも、って…」
縫衣は一瞬感動しかけるが、すぐにもうひとつの思いの吐露に気がついた。
「さて、休憩はこれくらいにして、レベリングを再開しましょうか」
「ちょっと、メグミン! はぐらかそうとしないでよおおおっ!!」
誤魔化そうとするめぐみに、激しくツッコミを入れる縫衣だった。
この日、二人はレベルを8まで上げ、クロムとフレンド登録をしてからログアウトした。
初ログインからおよそ一か月。めぐみは縫衣がログイン出来ない日にも、積極的にログインしていた。いくつかの隠しイベントもクリアして、超レアアイテムやレアスキルを獲得しては縫衣に自慢して、優越感に浸ったりもしている。
そしてこの日もひとりで探索し、フィールド上で隠しイベントを発見した。それは鬱蒼とした森の奥。身の丈の何倍もある大きな岩が目についた。
「この巨大な岩、
つまりは破壊不能オブジェクトではない、むしろモンスター等の攻撃対象と同じということだ。
めぐみは試しに【ファイアーボール】を放ってみる。すると岩のHPは、ほんの僅かだけだが削られた。
「……今のレベルでは、この岩を打ち崩す前にMPが底を尽きますね。仕方がありません。出直しましょう。……ですがその前に」
そう言って一旦、岩のHP表示がされなくなるまで距離をとり、再び近づいてみる。
「ふむ。やはり仕切り直しとなる仕様のようですね」
岩のHPは再び満タンになっていたのだ。
「なら、それを踏まえた上で準備をする事としましょう。というわけで、今日のところは狩りに勤しむとしますか」
そしてめぐみは有言実行、MPが尽きるまでモンスターを狩り続け、ログアウトしていくのだった。
それから更に数日後。この日は縫衣もログイン出来たのだが、めぐみはあえてソロプレイを提案する。
「めぐみ、どういうこと?」
(縫衣、そんな売られていく仔牛のような、哀しそうな瞳で私を見ないでくださいっ!)
めぐみとて、当然そういった罪悪感は持ち合わせている。
「あー、ええと、少し試したいイベントがあるのですが、少々時間がかかりそうなので、その間に縫衣に遅れた分のレベリングでもしてもらおうかと思ったのです」
「……前半のはともかく、後半はただの言い訳でしょ?」
(ちっ、勘がいい…)
内心で舌打ちするものの、すぐに気持ちを切り替える。
「否定はしません。が、あなたの予想どおり前半の、時間がかかりそうというのは本当の事です。なのでお互い、別行動をした方が効率がいいのも間違ってはいませんよ」
改めてなされた説明に、縫衣はひとつため息を吐く。
「変に恩着せがましい事言わないで、始めっからそう言えばいいのに。……まあ、そういう事なら仕方がないわね。今日のところはめぐみの提案どおり、レベル上げでもしておくわ」
「そうしてください。明日は休みですし、お互いにとって有意義に楽しみましょう。ただし、くれぐれも、知らない相手とパーティー組もうなどとは思わないでくださいよ?」
「……やっぱりめぐみって過保護だと思う。でも、大丈夫だよ。ソロプレイか、クロムさんに頼むかのどちらかだと思うから」
その返事を聞いて、確かに過保護だとは思いつつも安堵するめぐみであった。
なお、この日の縫衣はクロムと共に、彼の知り合いである生産職プレイヤーの採集作業で護衛をすることになるのだが、それはまた別のお話である。
そして、めぐみは再び巨大な岩の前までやってきた。めぐみはインベントリの中身を確認する。そこにはMPポーションの項目があり、数が数十までいっていた。
(ポーションよりも値は張ったけど、これで多分MPの心配はない…はず!)
そう心の中で言い聞かせると、一旦大きく息を吐き、一気に気合を入れる。
「【ファイアーボール】!」
めぐみの挑戦が始まった。
それから約二時間が過ぎ。
「【ウインドカッター】!」
ただ黙々と、魔法を撃ち込み続けるだけの時間。今は【ファイアーボール】よりも効果が高いのが判明した【ウインドカッター】に絞って攻撃をしている。
だがそれも、終わりが目前に迫っていた。あれだけ買い込んだMPポーションも残り四つ…いや、たった今回復させて残りは三つだ。岩の方もHPバーがほんの僅かである。まさにMP切れが先か、HPを削りきるのが先かの状況なのだ。
「【ウインドカッター】!」
またもやMPを使い切り…、しかしめぐみはインベントリを開かない。それはつまり。
ピシ… ピシピシ…
ひび割れる音が響き。
ズ…ズウウウ……ン……
巨大な岩は崩れさった。
「やっ…た…」
めぐみがつぶやいた直後。
『スキル【
というアナウンスと。
巨大な岩が崩れた先の様相が変わり、木々の一部が消え去り奥へと続く道が現れる。
「これはまさか、隠しボス?」
めぐみはゴクリと唾を飲む。
「……いえ、まずは取得スキルの確認が先ですね」
気持ちを落ち着けてから、めぐみは確認のためにパネルを開く。
【
このスキル所持者の魔法攻撃力を二倍にする代わりに、VITの補正値が0.7%に下降修正される。
取得条件
二時間の間、敵一体に対して、二十秒以内に一回の間隔で攻撃を放ち続けて撃破すること。その間、魔法以外の攻撃を一切与えてはならない。
「随分と厳しい条件ですが、これはそれに見合う、魔法職としてはかなり破格のスキルですね。ただ、紙装甲が更に薄っぺらになりますが…」
めぐみはソロプレイが普段のスタイルのため、ステータスポイントの割り振りではINTを少し抑えてVITへ少し多めに振ってはいたが、それとて気持ち程度、攻撃力にさほど影響が出ない程度だ。それが0.7%に補正されるのはかなり痛い。戦闘的にも、痛覚的にも。
「……まあ、破格スキルの代償です。どうしても使えないとなれば、スキルの破棄という手だってあります。
……そんな事よりも」
そう言うと、めぐみは新たに出来た道を見つめる。
「……私の今のレベル、しかもソロプレイでは、隠しボス…中ボスを倒すのはおそらく無理でしょうね。……けれど、それでも」
めぐみは、インベントリからMPポーションを取り出して使用し。
「私は、挑戦したい!」
真剣な表情で言うと、中ボスへと続くであろう道へ一歩、足を踏み入れるのだった。
進んで行った先で大きく開けた場所に出る。そこを数歩進むと大きな岩がせり出して退路を塞ぎ、ドーム状に結界が張られて完全に閉じ込められた。
「つまりここが戦闘フィールドということですね」
そのセリフに反応したかの様に、フィールドの中央に光の柱が立ち昇る。やがて光が収まると、そこには黒いローブで全身を覆い、ローブに付いたフードを目深に被って顔が分からない、明らかに魔法使い風の男がそこにいた。
『我が領域に足を踏み入れるとは、命が惜しくはないようだな』
魔法使いはそう言うと片手を掲げ、その手に持つスタッフに光が宿り。
「!?」
『【爆炎】!』
激しく炎が爆ぜる。嫌な予感に、咄嗟に移動していなければ、今の一撃でスタート地点へ死に戻りしていただろう。だが勿論めぐみも、ただ避けただけでは済まさない。
「【ファイアーボール】!」
放った火球が魔法使いに直撃した。が。
「……冗談でしょう?」
魔法使いのHPバーは、髪の毛一本分程度しか削られていなかったのだ。さすがは中ボスである。
「【
思わずピントがズレた愚痴をこぼすが、少しだけ現実逃避がしたかっただけである。当然めぐみも、レベル不足の魔法威力が二倍になったところで大したダメージが与えられないことくらい、百も承知で挑んでいるのだから。
(……この感じだと、レベル30くらいのプレイヤーがパーティーを組んで倒すレベルか。……ええい! 無謀なのはわかってて挑んだんだ。愚痴なんか零さず、とにかく色々と試してみないと!)
めぐみは気合を入れ直し。
「【ウインドカッター】!」
とにかく手持ちの魔法を次々と放ち始めた。
戦闘を始めて一時間は経っただろうか。既に手持ち全ての攻撃魔法は試し尽くし、どの魔法も与えるダメージに変化がないのがわかっただけだった。一方の魔法使いは。
『【噴火】!』
『【爆炎】!』
魔力切れ等気にせずに、強力な魔法を連発してくる。はっきり言ってVIT補正0.7%等関係なく、めぐみの紙装甲とHPでは、掠っただけでもHPの全てが消し飛ぶだろう。必然的に今は、躱すだけで精一杯なのだ。
「……あっ!?」
そしていつしかめぐみは、自分がこのフィールドに入った時の入口、今は大岩で塞がれた場所を背にする形まで追い込まれていた。
と。魔法使いが今までとは違い、魔法の詠唱を始める。
(マズい! 大技がくる!?)
前方と後方は塞がれ、左右のどちらかにしか逃げられない。しかしそれだと、NPCのAIでも的を目で追いながら魔法を撃ち込むくらいはやってのけるだろうし、そもそもこの状況での大技。おそらくは広範囲魔法なのだろう。逃げおおせるとはとても思えない。
(……仕方がない、か)
めぐみに、諦めの色が浮かぶ。
そして魔法使いはスタッフを前に突き出し。
『【エクスプロージョン】!』
魔法を放ち。
「反魔水晶!」
めぐみはインベントリから取り出した、赤い球状の何かが取り込まれた水晶を高々と挙げる。すると魔法使いの魔法が水晶へと取り込まれ。パリーンと砕けるとともに、魔法は魔法使いへと跳ね返る。そして。
ドゴォオオオオ…!!
激しい爆音と爆焔。めぐみは一瞬、その光景に気を取られるが、急激に嫌な予感がした。そしてその感覚を肯定するかのように、髪の毛一本分程度を残したHPバーが爆焔の中に薄っすらと浮かんでいるのが見えた。
爆焔が収まっていく中、クールタイムが解けたのか、魔法使いがスタッフを突き出そうと…。
「【ウインドカッター】!」
したところで、めぐみが先に魔法を叩き込む。……めぐみがこの敵に与えられる魔法ダメージは、まさに髪の毛一本分。魔法使いは断末魔の叫びを上げると、死亡エフェクトと共に消滅していった。
「油断してたらヤバかったですね。まさか、あの威力の魔法を食らって倒しきれないとは。……いえ、もしかしたら、そういった仕様だったのかも」
めぐみの考察は、実は正しい。この中ボス、正式なキャラクター名【ダーク・ウィザード】は、先程の大技が反射された場合、残りのHPがどれだけ少なかろうとも、必ずHP1を残して耐え抜くという風に設定されていたのだ。制作側の悪意の一端である。と。
『スキル【
『スキル【
「エクスプロージョン…」
めぐみはその名称に引っかかりを覚えつつ、パネルを開き確認をする。まずは【
【
HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。
取得条件
HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。
結構癖のあるこのスキルは取り敢えず保留とし、次にもうひとつの取得スキルを確認する。
【
種族・属性にかかわらず、あらゆる相手にダメージを与え得る複合魔法。ただし魔力消費量が高いため、MPの回復手段がない限り一戦闘に一回の使用が限度。
取得条件
杖持ちの職業専用。個別指定された敵が放つ爆裂魔法を受けつつ生存し、かつ、自身が対象を討伐すること。
「……つまり、紙装甲が一般的な魔法使いに、あの魔法を耐えろ、と。どんだけ鬼畜なのですか、ここの運営は。……けど、魔法反射でも魔法を受けたと判定されたのは幸いでした。超貴重なアイテムを消費した甲斐はありましたよ」
そう言って小さくため息を吐く。
めぐみが使用した【反魔水晶】はイベント入手限定であり、プレイヤーごとに一回のみ入手可能、販売・譲渡は不可の、あらゆる魔法を反射可能な消費アイテムだ。本来ならパーティープレイで窮地に陥った時に使うような、奥の手的なアイテムである。我を張る必要のない状況で使うのには勿体ないアイテムでもあり、めぐみが落ち込み気味になるのも当然のことであった。
「まあ、いいです。……ん?」
よく見ると、【
注意喚起
このスキルの発動に必須な最低MPが足りません。このままでは当スキルを取得出来ません。当スキルを破棄するか、以下の条件を満たして再取得してください。
「通常はこの様な縛りはないはず。このスキル専用の隠しルールでしょうか?」
そう呟き、説明の続きを読み進める。
特殊取得条件
全ての攻撃魔法スキル・回復魔法スキル・補助魔法スキルを廃棄する事。同時にHP、MP、INT以外のステータスが全て0になる。
この条件で取得した場合、最大MPの全てを消費してスキルの発動が可能となるが、最大MP値が魔法威力による修正値を加えた通常の使用MP値に達するまでは、一日一回が限度となる。またスキル使用後に最大MP値の一割が回復するまで、スタン効果が付与される。ただし、自身への回復系アイテムの使用は可能。
なお、このスキルは一度破棄すると、再取得は出来ない。
「使用条件が更に厳しくなるということですか…」
条件を満たし、スキルを再取得しますか?
「……普通に考えれば、こんな癖のある、はっきり言ってネタ魔法、これほどのリスクを犯してまで取得する意味はありません。ない、のですが…」
跳ね返した爆裂魔法が発動した瞬間、その光景に何故か心が揺さぶられた。遠い昔に、同じ感覚を感じたかのような、そんな既視感。これが一体何なのか、もう一度見たらわかるような気がするのだ。
めぐみは熟考して、選択画面をタップした。
『特殊条件を満たし、スキル【
システムアナウンスが告げる。
(私は、この気持ちの正体を知りたいんだ!)
口には出さず、それでもめぐみは決意したのだ。
「……さて、あとは」
そう言って戦闘フィールドの中央へと視線を向ける。そこには大きな宝箱が置かれていた。魔法使いを倒してから出現したのだ。
めぐみは宝箱へ近づくとその蓋を開ける。その中にはウィッチハット、ローブ、そして
【ユニークシリーズ】
単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる、攻略者だけの為の唯一無二の装備。
一ダンジョンに一つきり。
取得した者はこの装備を譲渡出来ない。
『識者の魔法帽』
【INT +25】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『煌魔のローブ』
【INT +20】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『赫光』
【MP +15】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
「破壊成長にスキルスロット…」
何となくは予想できるが、破壊成長に関しては、予想と実際とで齟齬があると大きな問題が生じる恐れがあるため、その確認をおろそかには出来ない。
【破壊成長】
この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。
スキルスロット
自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。
付与したスキルは一日に五回だけMP消費0で発動出来る。
それ以降は通常通りMPを必要とする。
スロットは15レベル毎に一つ解放される。
「……つまり、破壊成長させた場合、ステータスがアップして再生される、と。まあ、ほぼ予想通りでしたね。むしろ予想外だったのが、スキルスロットの方です。これ、取得した爆裂魔法を付与すれば、現状の問題は解決…どころか、好転するのでは?」
確かに、今の状態でもスキルスロットに付与すれば、MP0で爆裂魔法を、しかも一日五回、確実に使うことが出来るのだ。
「……しかし」
めぐみの中に芽生える、それは違うという想い。感じた既視感に起因するのは間違いないだろう。
「……まずは試しに、この魔法を使ってみるとしましょう。幸いここはボス部屋。……屋外なので部屋というのもどうかと思いますが、森の中のダンジョンボスだから、まあいいでしょう。とにかくボス部屋のシステム上、私がここから出ない限り、他のプレイヤーやモンスターは入ってこれません。実験にはもってこいの場所です」
そう言うとめぐみは、MPポーションを取り出して減った分の魔力を回復させる。MPの残量を考えると勿体ないが、現在の爆裂魔法使用条件が、最大MP全ての使用なので仕方のないことだ。
因みに、めぐみが独り言を言っているのは、思考の整理のしやすさと気持ちを整えるのが主な理由で、わざとである。
めぐみはユニークシリーズを装備すると、スタッフを構えて呪文の詠唱を始める。……呪文を必要とする魔法はシステムからアバターを通して自動に紡がれる。プレイヤースキルは反映されず、早口な人でも詠唱速度は上げられない。INTを上げるか専用スキルによってようやく変動するのだ。なお、システム化されてはいるが、途中でキャンセルすることは可能だ。
「……その紅き
めぐみは呪文を唱え終わると、構えたスタッフを突き出し叫ぶ。
「【エクスプロージョン】ッ!!」
カッ!っと、閃光とともに爆焔が広がる。それは先程の魔法使いのものにも引けを取らない。……いやむしろ、それよりも僅かながらも威力が高く見える。ユニークシリーズによるINT上昇に加え、【
……だが、めぐみの気持ちはそこにはなかった。彼女の頬につぅっと涙が伝い、そしてスタン効果のために、仰向けに倒れ込む。
……それでもなお、紅い爆焔の炎が少女を照らし続けた。
── お嬢ちゃん、お名前は?
その熱さと輝きが、心…いや、魂に焼きついていた彼女の想いを呼び醒ます。
── こと、爆裂魔法に関しては、誰にも負けたくないのです!
── これは…
── 120点!
めぐみとは違う記憶が次々と
── 本当によろしいのですか?
── はい。たとえ一度の人生限定だろうと、生まれ変わった彼のいる世界に、私も生まれ変わりたい。だからお願いします! エリス様!!
ようやく、理解した。爆裂魔法に対する既視感。そして、縫衣に対する想いにも。
(……まさか、あの子までこっちに来てるとは)
心の中でつぶやき、声高らかに叫ぶ。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、日本へと転生せし者! やがてはNWOにて、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を極めんとする者!!」
めぐみが[めぐみん]としての想いを受け継いだ、その表明であった。
さて、その頃。ある山の麓にある、
「もぐもぐ…あっ毒竜さん、ブレスかけてくれてありがとう。むぐむぐ…辛味があって、ピーマンっぽさが消えて助かるよぉ…」
そんな感じでダンジョンボスの毒竜に喰らいつき、食べることで攻撃を続けるひとりの少女がいた。彼女はその後五時間をかけて食べ続け、ダンジョンボスを倒すことになるのだが、それもまた別のお話である。
場面を戻す。しばらく横たわっていためぐみだが、やがて腕を持ち上げ、インベントリを開く。中には使用不可表示がされているものも数多くあるが、使用可能アイテムの中から最後の一本となったMPポーションを取り出し使用すると、MPバーが回復した。
「ふう。これでようやく動けます」
そう言ってめぐみは、ゆっくりと立ち上がる。
「……さて、爆裂魔法ですが。賢いやり方は先程言った様にスキルスロットへの付与ですが、かつての私同様に爆裂魔法を極めるのなら、これはやめておきましょう。防具や武器のスキルではなく、私自身のスキルとして極めなくては意味がないですからね」
[めぐみん]としての記憶は蘇ったものの、別に[めぐみん]になったわけではない。ただ、性格の一部やこだわりに関しては元々、所々で似た部分もあった。
それに何より、めぐみとしても爆裂魔法に魅入られてしまっていた。確かに、記憶がない内から無意識下で爆裂魔法を求めていたのはあるが、自らが放った時の爆焔と爆風、それらが途轍もない爽快感を与えていたのである。
「しかし、この魔法を極めていくのなら、以降のステータスポイントはINTへ全て注ぎ込んでいく覚悟でないとなりませんね。そうすれば【
そこで一旦、軽く考え込み。
「いえ、基本属性魔法をいくつか、スキルスロットに付与するという手はありますね。空きスロットはそれぞれひとつずつ。三つの属性魔法が付与できるので、合計十五回、MP0で魔法攻撃が出来ます」
効率的とは言えないが、爆裂魔法を特化させる事に重きを置くなら、手段としては悪くはない。
めぐみはニヤリと笑い、声高らかに宣言する。
「我が名はメグミン! 爆裂魔法の使い手にして、やがてNWO一の魔法使いの称号を得る者!」
これは後に、NWO最強の大魔法使いとも、極めて頭がおかしい爆裂魔法使いとも呼ばれる、ひとりの少女の物語。
街の広場に新たな初心者プレイヤーがログインする。
「ふーん。ちょっとダサい服装ね。ま、初心者じゃこんなもんかしら」
水色の髪をした少女がブツクサと文句を言う。
「まあいいわ。せっかくみんなの目を盗んでゲーム一式取り寄せたんだから、思いっきり楽しまなくっちゃね!」
本来ならこんな場所にいるはずのない彼女。だが、苦労しても変わらない性格ゆえ、こんな規定違反に引っかかるようなことを平気でやってしまうのだ。
「ん、どうした? お前、初心者か?」
そんな彼女に声をかける男性。見た目は彼女と同じくらいの少年だ。声をかけたのはおせっかいな性格と、彼女が美人でスタイルも抜群だったからである。
「……あら、あなた」
「ん?」
「ううん。なんでもないわ」
彼女は軽く否定すると、自己紹介を始めた。
「私はアクア。あなたが言うとおりの初心者プレイヤーよ」
「そうか。俺はカズマ。俺もNWOは初心者だけど、VRMMOはいくつもやってるから、それなりの経験はあるぞ」
カズマ…本名
「あら、そうなの? それじゃあ私とパーティー組みましょう」
「お? おう…」
(俺から誘おうと思ってたのに、まさか向こうから提案してくるとは)
美人とお近付きになりたかったカズマとしては願ったりだが、それにしてもトントン拍子だとは思う。
(……なんか、変なフラグ立てたんじゃないだろうな?)
実はそのとおりである。アクアの運の悪さとやらかしによって、カズマはゲームプレイに支障をきたすこととなるのである。
「さあ、早速モンスター狩りに行きましょう!」
(なんか知らんが、嫌な予感しかしねえ!)
これがカズマの、苦労の始まりだった。
所変わって現実世界。
『だからお願いっす。ティナも一緒に[NWO]をやって欲しいっすよ』
「……まあ、構わないが」
『本当っすか!? ありがとうっす!』
電話口の彼女は何度もお礼を言って通話を切った。
「まったく、相変わらずだな。結局引き受ける、私も私だが」
軽く愚痴をこぼし苦笑いを浮かべる金髪の少女。名をティナ・ダグラスと言う。両親ともにイギリス人だが、彼女自身は日本生まれの日本育ちである。
「しかし[NWO]…[NewWorld Online]か。確か父の会社も開発に関わっていたはずだが…」
実はティナ、財閥のご令嬢である。先程
「……この話は母にだけ伝えておくか。父に話すと、私のアバターにチートを付与してくるかもしれないしな」
ティナの父親は娘にはメチャクチャ甘かった。権力をかさに、という人物ではないが、開発チームに頼み込む、なんてことはしないとも限らない。
「それにしてもVRMMOは初めてだし、色々と予習でもしておくか」
そう言ってティナはネットに繋ぎ、VRMMO、そして[NewWorld Online]について下調べを始める。やがて自身が、ゲーム内で変な性癖を目覚めさせることになろうとは、知る由もなく…。
「お兄ちゃんだけずるいです! 私もVRMMOで遊びたいです!」
とある家庭で、小学校高学年の少女が母親に文句を言っている。
「潤は自分のお小遣いを貯めてた買ったのよ? だから私にねだっても、駄目なものは駄目です」
「でも…」
「あやめ!」
「はい…」
あやめと呼ばれた少女は渋々と頷いた。
少女の名は
あやめは自室に戻ると、机の引き出しから通帳を取り出す。開いて残高を見ると。
(……お年玉で貯めた分、殆どなくなってしまいます)
あやめは親が買ってくる衣服以外にも、自分でお小遣いを貯めておしゃれ着を買ったりしている。その最大の収入源がお年玉なのだが、ゲーム機とソフトを揃えると、お年玉分の殆どが吹っ飛んでしまうのだ。
「……おしゃれは当分お預けですね」
どうやらあやめ、ゲームの方を取ったようだ。
「……それに、今度こそ
夢見るような表情をして、独り言をつぶやく。そして。
「ゲーム内の名前は、当然アイリスです」
確信めいてその名を口にした。
それぞれがそれぞれの理由で、[NewWorld Online]へと集まってゆく。やがてお互いが交錯し。
これは少女がその力を手にし、真の仲間達と出会うまでの ── 物語。
おまけ
管理者A「おい、[ダーク・ウィザード]がやられた!」
管理者B「は? あの部屋はまだ誰も発見してなかったはずだろ?」
管理者A「それが、[ウォールロック]を破壊して、そのままダンジョンボスに挑んだやつがいる」
管理者C「だ、誰だ?」
管理者A「こいつだ」
そう言って管理人Aは画像を出す。
管理者A「彼女はメグミン。レベルはまだ13の魔法使いだ」
管理者D「おいおい、さすがにそのレベルじゃパーティー組んでても[ダーク・ウィザード]は無理だろ」
管理者A「……いや、ソロプレイで倒してるんだけど」
管理者B・C・D「……は?」
管理者A、今度は戦闘シーンを再生する。
管理者B「……なんだ。攻撃したのは最初だけで、あとは躱してるだけじゃないか」
管理者A「いや、ここからが問題なんだ」
そう言って問題のシーンまで早送る。
管理者D「な!? 反魔水晶!?」
管理者C「確かに戦略として考慮はしてたけど、まさかそんな超レアアイテム、普通こんな場所で使うか?」
管理者B「使い方は間違ってない。間違ってないけど、個人消費、しかもまだイベントすら開いてない、こんな序盤で消費するなんて勿体なさ過ぎるだろ」
管理者C「あ! ということは、【
管理者D「い、いや、アレを取得するにはMPが足りないだろう」
管理者A「……あ。特殊条件で取得した」
管理者B・C・D「ええっ!?」
管理者C「い、いるんだ。あんな条件で取得するやつ」
管理者B「階層進めたら、もっと使い勝手のいい上位互換のスキルがあるのに…」
管理者D「ま、まあ、まだ二層すら開放してないのに、そんな事予想してるプレイヤーなんて、そんなに多くはないだろう」
管理者B「そ、それに、こんな訳のわからないスキルの取り方するやつなんて、そうそういるわけないしな」
管理者A・C・D「そうそう」
彼らはまだ気づいていない。めぐみが【