転生したら竜だったので、とりま竜種目指しまっす! 作:遊燐千
アクラが封印の洞窟へ向かっている、その頃。
アクラに置いていかれたヴェルが、露骨に不機嫌そうな顔をしていた。
頬をぷくっと膨らませ、腕を組みながら地面に座り込んでいる。
『置いてかれたッスぅ〜……!!!』
ぷくーっと、さらに頬を膨らませる。
その姿は、遊びに連れて行ってもらえず拗ねている子供そのものだった。もっとも、実際にはアクラの中にヴェルの本体とも言える核が存在しているため、物理的な距離など本来なら大した問題ではない。アクラがどこへ行こうとも、ヴェル自身はアクラと繋がっている。
それでも──ヴェルにとっては、それとこれとは別問題だった。
結局のところ、寂しいのである。
いつも隣にいるアクラが、今はそこにいない。それだけのことが、思っていた以上に暇で、そして寂しかった。
いつも一緒にいて、くだらないことで騒いでは怒られ、怒られてはまた騒ぐ。そんな日々が、いつの間にかヴェルにとって当たり前になっていたのだ。
だからこそ、ほんの少し離れただけだというのに、妙に物足りない。
「……あれ、どうしたんだ?」
そんなヴェルを遠巻きに眺めていた大鬼族の一人が、隣にいた仲間へ小声で尋ねる。
「アクラ殿に置いていかれたらしい」
「……なるほど」
それ以上の説明は必要なかった。
『むぅぅぅぅ〜……!!』
当のヴェルは、そんな周囲の視線など気にも留めず、未だに頬を膨らませている。
『アクちー……早く帰ってこないッスかねぇ……』
ぽつりと呟きながら、里の入口の方へ視線を向ける。
アクラが出て行ってから、しばらく経っていた。
暇だった。
ものすご〜く暇だった。
普段ならアクラの隣で適当に話をしたり、何か食べたり、時には怒られたりしている時間だというのに、今は何もすることがない。
『暇ッス……』
とうとう耐えられなくなったのか、ヴェルはその場にごろんと横になった。
『……アクちー、まだかなぁ』
そんな呟きが、静かな里の中へぽつりと落ちる。
──その時だった。
「──族長! 族長はどちらに!?」
突然、遠くから慌ただしい声が響いてきた。
『……ん?』
ヴェルが顔だけを上げる。
見ると、一人の
そのままヴェルの横を通り過ぎると、
「失礼!」
一言だけ残し、族長のいる部屋へと駆け込んでいった。
『なんスかね?』
暇を持て余していたヴェルにとって、突然起きた騒ぎは格好の暇潰しだった。
何の躊躇もなく立ち上がると、ヴェルもその後を追って部屋へと向かう。
そして、部屋へ入った瞬間──。
「我が里の入口に、謎の魔人が現れました!」
そんな報告が耳に飛び込んできた。
『魔人?』
ヴェルは入り口付近で足を止め、首を傾げる。
族長の前では、先ほどの大鬼族が膝を着いていた。
「謎の魔人?」
「はっ! その魔人はゲルミュッドと名乗り……その……」
「なんだ」
「魔王の使いであると……」
「──なに?」
魔王。
一体、何の目的でこの里へ来たのか。
敵意があるのか。それとも、別の目的があるのか。
情報が少なすぎる。
もし不用意な対応をすれば、魔王本人の機嫌を損ねる可能性もある。かといって、何もせずに放置するわけにもいかない。
族長は腕を組み、しばし考え込んだ。
──その時だった。
『ん〜? なんの話してるんスカ〜?』
場違いなほど呑気な声が響いた。
「「……」」
その場にいた全員が、ほぼ同時に入口へ視線を向ける。
そこには、ひょこっと顔を覗かせるヴェルがいた。
『なんかみんな怖い顔してるッスけど……』
どうやら、何が起きているのかまったく分かっていないらしい。
族長は一瞬だけ頭を抱えたくなった。
……この状況で、よりによってヴェル殿か。
魔王の使い。
その一言を聞けば、ヴェルが興味本位で飛び出していく可能性は十分にある。むしろ、アクラが一緒にいたなら間違いなく「見に行くッス!」とでも言い出していただろう。
しかし今はアクラがいない。
それならば──。
族長は考えを切り替え、ヴェルへ向き直った。
「ヴェル殿」
『はいッス?』
「すまないが──しばらく、この里を守ってはくれないか?」
『いいっすけど……なんでッス〜?』
「俺は、魔王の使いだという魔人に会いに行く」
『魔王……?』
「ああ」
族長が頷く。
ヴェルはしばらく黙り込み、何かを考えているようだった。
普段のヴェルならば、ここで「魔王!? 見に行くッス!」とでも言い出しそうなものだ。
族長も内心では、そうなることを覚悟していた。
ところが──。
『……わかったッス!』
思いのほか素直な返事に、族長の方が少し驚いた。
『アクちーにも、里を守ってたって言えば褒めてもらえそうッスし!』
そう言って、ヴェルは嬉しそうに胸を張る。
……なるほど。
理由はともかく、引き受けてくれるのなら問題はない。
むしろ、非常に頼もしい。
族長は小さく息を吐き、ヴェルへ向かって頭を下げた。
「……感謝する、ヴェル殿」
『任せるッス!』
ヴェルの返事を背に受けながら、族長は立ち上がる。
そして、そのまま部屋の出口へ向かって歩き出した。
里の入口では、今も魔王の使いを名乗る魔人が待っている。
一体、何を目的にこの里へ来たのか。
アクラとヴェルに何の用があるというのか。
そして──自分に名を与えると言った、その真意は何なのか。
それを確かめるために、族長は一人、里の入口へと向かった。
◇◇◇
里を囲む木々の間を涼しい風が吹き抜けていく。その中で、族長は一人の魔人と向かい合っていた。目の前にいるのは、魔王の使いを名乗る男──ゲルミュッド。魔王の配下というだけで警戒するには十分だが、何より気になるのは、彼がわざわざこの里まで足を運んできた理由だった。
先日の戦いでアクラとヴェルの力を目の当たりにした族長には、二人がただの魔物ではないことくらい分かっている。巨大な黒蛇を一撃で吹き飛ばしたアクラの力。そして、その傍らにいたヴェルから感じた異質な魔素。未だに二人の実力の底は見えていない。そんな二人を目当てに、魔王の使いがやって来たとなれば、どうしても良からぬ考えが頭をよぎる。
「それで、一体なんの用だ」
族長が問いかけると、ゲルミュッドは少し面倒そうに眉を吊り上げた。
「なんの用かだとぉ……? まぁいい。俺は貴様と、つい最近来たという女二人に用がある」
「女二人……?」
その言葉を聞いた瞬間、族長の脳裏に二人の姿が浮かんだ。
──アクラ殿と、ヴェル殿か。
なぜ、あの二人を?
二人の力を知って、魔王の戦力として取り込もうとしているのか。それとも、何か別の目的があるのか。どちらにせよ、理由も分からぬまま二人を渡すわけにはいかない。族長はゲルミュッドの表情を探るように見つめながら、さらに問いかけた。
「何故だ?」
「貴様に教える義理はない」
即答だった。
族長は僅かに眉を寄せる。随分と傲慢な男だ。しかし、ここで感情的になって事を荒立てるわけにもいかない。相手は魔王の使い。下手な対応をすれば、この里そのものが魔王の敵と見なされる可能性だってある。
ならば、まずは自分自身について尋ねるしかない。
「……我になんの用がある」
そう問い返すと、ゲルミュッドは待っていたと言わんばかりに口元を歪めた。
「それは教えてやろう……」
勿体ぶるように間を置き、ゲルミュッドは族長を指差す。
「お前に、名をやろう」
「……」
族長は思わず黙り込んだ。
名をやる──その意味を理解するまで、ほんの僅かに時間が掛かった。魔素を持つ者に名を与えることで、その者の力を大きく引き上げる。それは確かに魅力的な話ではある。里を守るために、より強い力が必要なのも事実だ。
しかし、それ以上に気になることがあった。
なぜ、この男が自分たちに名を与えようとしている?
ゲルミュッドが何を目的としているのか分からない以上、安易に受け入れることなどできなかった。
「聞こえなかったか? 貴様に名をやろうと言っている」
「……要らぬ」
族長は、迷うことなく答えた。
「……なにぃ?」
今度はゲルミュッドが言葉を失う番だった。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。先ほどまで浮かべていた余裕のある笑みが消え、顔を引きつらせている。
「要らぬと言っている」
族長は改めて告げる。
「な、何故だ!? 名を持てば、より強き存在へと至れるのだぞ!?」
「それでも必要ない」
「必要ないだとぉ!?」
声を荒らげるゲルミュッドを前にしても、族長は一歩も引かなかった。目の前の魔人が放つ威圧に対しても、その表情に浮かぶのは冷静さだけだった。
確かに、力は欲しい。里を守るためにも、同胞を守るためにも、強さは必要だ。自分たちがまだ十分な力を持っていないことも、族長である彼自身が誰より理解している。
だが、それでも──信頼に値せぬ誰かに与えられた力に頼るつもりはなかった。
自分たちの力は、自分たちの手で磨いていく。
それが、彼が族長として掲げてきた考えだった。
何より、目の前にいる魔人が善意だけで名を与えようとしているとは到底思えない。甘い言葉の裏に、何か別の思惑がある。そんな疑念が、どうしても拭えなかった。
名を与えられるということは、ただ力を得るだけではない。
俺が認め、我らが認め、そして心から忠誠を誓いたいと思えるような者でなければ、願い下げだ。
族長はゲルミュッドを真っ直ぐ見据えた。
「我らには、我らの生き方がある」
静かな声だった。
しかし、その一言には、里を背負う者としての確かな意志が込められていた。
「誰かに力を与えられずとも、我らは我らだ」
「……ちっ、なら貴様は良い。さっさと女を連れてこい! ノロマが!」
ゲルミュッドの苛立ちが、隠しきれないほど露わになる。
だが、族長は即座に答えを返した。
「断る」
「なにぃ……?」
「たとえ魔王の使いであろうとも、信頼に足らぬ者に我々の恩人を差し出すわけがなかろう」
アクラ殿とヴェル殿。
彼女らは、この里の同胞を救ってくれた恩人だ。
そんな二人を、得体の知れない魔人の要求だけで差し出すなど、族長としても、一人の鬼としても到底認められるものではなかった。
ゲルミュッドはしばらく族長を睨みつけていたが、やがて怒りを露わにして口を開く。
「俺はあの方から直々に頼まれたのだ……それを断るということの意味をわかっての発言か? 馬鹿め!」
「嗚呼」
魔王の名を出されても、族長は揺らがない。
その態度が、かえってゲルミュッドの癇に障ったのだろう。
「そうか……」
ゲルミュッドの口元から、先ほどまで浮かべていた苛立ち混じりの笑みが消えた。
その表情に宿っていたのは、もはや交渉相手へ向けるものではない。自分の要求を拒絶されたことへの、明確な怒りだった。
「ならば滅びろ……!」
低く吐き捨てると同時に、ゲルミュッドの周囲を禍々しい魔力が渦巻き始める。地面に刻まれた魔法陣が淡い光を放ち、周囲の空気が魔法の発動に呼応するように震え始めた。
族長は、その光景を見据えたまま動かなかった。
「……ッ」
まさか、本当に里へ攻撃を仕掛けてくるとは。
だが、ここで退くわけにはいかない。
背後には、守るべき同胞たちがいる。
「
ゲルミュッドが魔法名を口にし、指先を前へ突き出す。
膨大な魔力が一気に解き放たれようとした──。
その時だった。
『……何してるんスカ……?』
魔人ゲルミュッドの背後には、我らが同胞の
原作より大幅に早めにゲルミュッドが
次回はもしかしたら明日には上げれるかもしれません!
感想とかアンケートの方もよろしくお願いします!
ってことで、またいつか!
オークロードをどうする。
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原作に忠実にいく…。
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助ける!(みんな助かる!)
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助ける!(モブ達が全滅)
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助けるために奮闘。
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敗北