【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第三章 英雄王の視察と宣戦の招待状

時は少しだけ遡る。

 

武装国家ドワルゴンの王城、その奥深くに位置する謁見の間には、国を揺るがすほどの重苦しい緊張感が漂っていた。

玉座に腰を下ろす英雄王ガゼル・ドワルゴの手には、暗部から届けられたばかりの報告書が握られている。

そこに記された内容は、彼ら首脳陣の常識を根底から覆すほどに荒唐無稽で、そして恐るべきものだった。

 

かつてこのドワルゴンを訪れ、不本意な形で追放処分としたあの不思議なスライム。

リムルと名乗ったあの魔物が、ジュラの大森林で規格外の事態を引き起こしているというのだ。

 

報告によれば、ジュラの森を席巻していた二十万もの豚頭族(オーク)の軍勢は、数日のうちに鎮圧された。

しかも、ただ討伐しただけではない。

後続を含めれば30万余りにもなろう生き残りのオークたちすべてが『猪人族(ハイ・オーク)』へと進化を遂げ、暴動も起こさずに各地へ散ったこと、そしてその一部は一糸乱れぬ統率のもと、巨大都市の建設のための労働力として使役されているという。

さらには、森の強者である大鬼族(オーガ)の集落も壊滅を免れ、彼らもまたスライムの軍門に下っている。

各種族が争うジュラの森において、一匹のスライムを盟主として複数の魔物が結束し、かつてない規模の国家を形成しつつある……。

 

(……これは、放置できる事態ではないな)

 

ガゼル王は鋭い眼光を細め、静かに状況を分析した。

 

オークロード単体の出現であれば、国軍を動かして対処することは辛うじて可能だろう。

だが、その大軍勢を瞬く間に平定し、あまつさえ全軍を己の配下として完全統率してみせた『スライム』という存在の底知れなさは、もはや国家の存亡に関わる特A級、いや、S級の危険度に匹敵する。

もしそのスライムが人類にとって邪悪な存在であるならば、今この段階で芽を摘んでおかなければ、取り返しのつかない災厄となるだろう。

 

「余自らが赴き、その者の本質を見極めるしかあるまい」

 

ガゼル王が重々しく宣言すると、謁見の間に集った王国の重鎮たちが一斉に動き出した。

 

「では、私が御供致しましょう」

 

暗部の長であるアンリエッタが進み出る。

 

「陛下自らが赴くというのであれば、自分も同行するとも」

 

軍部最高司令官のバーンが力強く胸を叩いた。

 

「久々に外の空気を吸うのもいいかも知れないねえ」

 

宮廷魔導師のジェーンが杖をつきながらニヤリと笑う。

 

「無論、我ら天翔騎士団(ペガサスナイツ)の全力をもってお守りいたします」

 

そして、天翔騎士団団長であるドルフが深く首を垂れた。

 

王国の最高戦力が総出で動く。

ガゼルが英雄王として即位して以来、かつてない異常事態であった。

だが、それほどの備えが必要な相手だと、ガゼルの直感が告げていた。

 

「よし。ただちに出立の準備を——」

 

ガゼル王が決断を下し、行動を開始しようとした、まさにその時だった。

 

「も、申し上げます!!」

 

重厚な謁見の間の扉が乱暴に開かれ、ひどく狼狽した様子の暗部の者が転がり込むようにして飛び込んできた。

 

「何事か! 王の御前であるぞ!」

 

長であるアンリエッタが鋭く咎めるが、暗部の者は息を乱し、震える手で一通の豪奢な封筒を高く掲げた。

 

「も、森を監視していた我が部隊の背後に、突如として鬼人族と思われる上位魔人が出現! 我々の隠形法など一切通用せず、抵抗する間もなく全員が背後を取られ……っ!」

 

「なんだと!? それで、被害は出たのか!?」

 

バーンが怒鳴るように問うと、暗部の者は青ざめた顔で首を横に振った。

 

「い、いえ……。その魔人は我々の命を取る事なく、ただ恐るべき殺気で我々を威圧したのち……『これをお前たちの王に直接渡せ。監視などせずとも、いつでも歓迎してやる』と、この書状を……!」

 

その言葉に、謁見の間にいた全員が息を呑み、絶句した。

ドワルゴンが誇る暗部の監視網がとっくに筒抜けであったばかりか、あえて彼らを泳がせ、連絡係として利用したというのか。

それは、「お前たちの手の内など全て見透かしているぞ」という、新興国家からの強烈な牽制に他ならない。

 

「……貸せ」

 

ガゼル王は玉座から立ち上がり、重い足取りで暗部の者の前まで歩み寄ると、その手から書状を受け取った。

封蝋には、見慣れぬ国章が刻まれている。

ガゼルは静かに封を切り、中に記された流麗な文字に目を通した。

 

 

 

『ジュラの大森林に新たなる多種族共存国家、魔国連邦(テンペスト)を建国する。つきましては、武装国家ドワルゴンの英雄王ガゼル・ドワルゴ殿を、我が国の最初の来賓として正式にご招待申し上げる。

追伸:天翔騎士団(ペガサスナイツ)でのご来訪も大歓迎だが、駐馬場の用意があるので、事前に到着日時を知らせてくれると助かる。

魔国連邦盟主・リムル=テンペスト』

 

 

「…………」

 

ガゼル王は書状から目を離し、しばらくの間、微動だにしなかった。

アンリエッタも、バーンも、ドルフも、王の反応を固唾を飲んで見守っている。

未知の脅威からの、宣戦布告か、それとも――。

 

やがて、ガゼル王の肩が小刻みに震え始めた。

 

「……ふはっ」

 

それは、怒りでも恐怖でもなかった。

 

「ふはは、ふはははははははっ!!」

 

ドワルゴンの英雄王は、玉座の間が震えるほどの大声で、腹の底から愉快そうに笑い声を上げたのだ。

 

「王よ、まさか……」

 

「見事だ。見事な先制の一手ではないか! 隠れてコソコソと軍備を整えるのではなく、堂々と国を興し、我が国の最高戦力すらも『客』としてもてなすと言ってのけおったわ!」

 

ガゼル王は笑い涙を拭いながら、書状をバーンたちに回し見させた。

内容を見た首脳陣たちも、「駐馬場だと……?」

 

「なんという傲岸不遜な……」

 

「いや、しかしこれは……」と、呆れと感嘆の入り混じった声を漏らす。

 

「良いだろう。受けて立ってやろうではないか」

 

ガゼル王は獰猛な笑みを浮かべ、マントを翻した。

 

「ドルフ! 天翔騎士団に出撃の号令をかけよ! 討伐目的ではない、英雄王の威信をかけた『視察』である! あの得体の知れぬスライムが、本当に一国の王としての器を持っているのか、この俺の目で直接確かめてやる!!」

 

 

 

 

一方、その頃。

ジュラの大森林の開拓拠点――のちに魔国連邦(テンペスト)の首都と呼ばれることになるその場所は、夜明けの陽光が差し込むと同時に、凄まじい熱気と喧騒に包まれていた。

 

「おい! そっちの木材は第二区画の迎賓館予定地だ! 丁寧に、だが急いで運べ!」

 

「インフラ用の地下配管、第一フェーズの敷設完了しました! ドワーフの親方衆、確認をお願いします!」

 

「よぉし、上出来だ! 図面通りの寸分狂わぬ完璧な仕事だぜ。この調子でガンガン進めるぞ!」

 

広大な森を切り拓いた広場に、カイジンや三兄弟の威勢のいい怒号と、それに応える猪人族(ハイ・オーク)たちの野太い声が響き渡る。

ゲルド率いるハイ・オークの建築部隊の働きぶりは、まさに圧巻の一言だった。

数万という単位の屈強な魔物たちが、まるで一つの生き物のように統率の取れた動きで巨木を伐採し、巨大な岩を砕き、恐ろしい速度で更地を造り上げていく。

重機など存在しないこの世界において、彼ら自身の肉体と連携こそが最強の重機なのだ。

 

俺は小高い丘の上に立ち、眼下で猛スピードで形作られていく街の基礎を眺めていた。

脳内には、シエルが演算し尽くした『未来の首都完成予想図』が展開されており、現実の進捗状況と常に照らし合わせている。

 

《第一区画のインフラ基盤および、迎賓施設の工事進捗率、予定を15%上回っています。猪人族(ハイ・オーク)たちの疲労度も許容範囲内です。このペースであれば、ガゼル王の到着までに御もてなしに使用する主要施設の完成、またそれ以外の建造物による『見栄えのする都市の姿』を偽装……もとい、構築することは十分に可能ですね》

 

(偽装って言うな。まあ、ハリボテにならないように基礎はガチガチに固めさせてるけどな)

 

俺はシエルの報告に内心でツッコミを入れつつ、満足げに頷いた。

 

「すごいな……。たった一晩で、あんなに広大な更地が出来上がってるし、もう建物の骨組みができ始めてるぞ……」

 

俺の隣で、ふかふかの専用クッションに鎮座した過去の俺が、目を丸くしてぽんぽんと跳ねた。

昨日、半ば強制的に『森の盟主』という重責を背負わされたばかりだが、この驚異的な光景を前にして不安よりもワクワク感が勝っているようだ。

 

「ああ。あいつらの体力とカイジンたちの技術、それに俺の未来の知識と設計図が合わされば、これくらい造作もないさ。むしろ、これからが本番だぞ」

 

「これでもまだ序の口なのか……。俺、とんでもない国を造ろうとしてるんだな」

 

「他人事みたいに言うなよ、お前の国だぞ」

 

俺が苦笑しながら過去の自分の頭を撫でていると、背後の影がわずかに揺らいだ。

 

「――リムル様。ただいま戻りました」

 

影から音もなく姿を現したのは、ドワルゴンへの極秘任務に向かわせていたソウエイだった。

その涼しげな顔には、疲労の色など微塵も浮かんでいない。

 

「おお、ソウエイ。ご苦労だったな。それで、書状の件はどうだった?」

 

「はっ。ご指示通り、森の境界付近に潜伏していたドワルゴンの暗部どもを捕捉し、一切気付かれることなく背後を取りました。奴らは恐慌状態に陥っておりましたが、殺気で制圧したのち、間違いなくガゼル王宛ての招待状を託してまいりました」

 

「よしよし、完璧な仕事だ」

 

俺はニヤリと笑い、ソウエイの肩を叩いて労った。

今頃、ドワルゴンの王城は大騒ぎになっているはずだ。

最強の天翔騎士団(ペガサスナイツ)を率いて奇襲や偵察に来るつもりだったところに、完全に見透かされた上で「遊びに来いよ」と招待状を叩きつけられたのだから。

ガゼル王のことだ、激怒するどころか、腹を抱えて大笑いし、喜んでその誘いに乗ってくるだろう。

 

「これで、ガゼル王は正式な『来賓』としてこの村にやってくる。ドワルゴンの王が最初に国交を結ぶ相手として、俺たちがどれだけ魅力的で、かつ底知れない力を持っているか……この建国祭でたっぷりと見せつけてやるんだ」

 

「その準備につきましても、着々と進んでおりますよ」 ソウエイと入れ替わるように丘を登ってきたのは、お盆を持ったシュナと、その後ろでなぜか得意げに胸を張っているシオンだった。

 

「おお、シュナ。料理や宴の準備のほうはどうだ?」

 

「はい。ミリム様という魔王の方をおもてなしするため、各方面に手を尽くし、苦労して十分な量の『砂糖』を確保いたしました。それに、未来のリムル様から教わった新しいお菓子――『プリン』や『クレープ』の試作も、ゴブリナたちと一緒に進めております」

 

「おお、この時期だとまだかなり貴重なはずの砂糖をよくそんなに集められたな! それは頼もしい。ガゼル王への食事はドワルゴンの最高級の酒と山の幸を使ったフルコース、ミリムへは砂糖をふんだんに使った甘味攻めのデザートフルコースだ。料理の質が外交の質を決めると言っても過言じゃないからな」

 

俺が太鼓判を押すと、シュナは花が咲くような笑みを浮かべた。

しかし、その後ろでシオンが一歩前に進み出る。

 

「ふふふ……未来のリムル様、そしてリムル様。安心してください。このシオンも、王たちをもてなすための『究極の隠し味』を加えた特製手料理を、現在猛烈な勢いで開発中で――」

 

「ストップ!! お前は絶対に厨房に入るな!!」

 

俺と過去の俺の声が、見事にユニゾンして森に響き渡った。

 

「えっ……? な、なぜですか!? 私、お二人のために腕によりをかけて……っ!」

 

シオンが紫色の瞳に大粒の涙を浮かべ、今にも泣き出しそうにぷるぷると震え始めた。

 

「い、いや! シオンの料理に対する情熱は凄く嬉しいんだけど、お前にはもっと重要で、お前にしかできない任務があるだろ!?」

 

過去の俺が慌ててフォローに入り、俺もすかさずそれに乗っかる。

 

「そうそう! お前は盟主である過去の俺の『筆頭秘書』兼『筆頭護衛』だ。ガゼル王や魔王が来た時、お前が隣でスバシッと立っていてくれないと、国の威厳が保てないだろ? 料理なんて裏方の仕事をしてる場合じゃないんだよ!」

 

「ひ、筆頭秘書……筆頭護衛……!」

 

その言葉の響きに、シオンの顔からスッと悲哀が消え去り、パァァァッと向日葵のような満面の笑みが咲き誇った。

 

「お任せください! このシオン、何があっても盟主様たちの御側を離れず、完璧な護衛と秘書を務め上げてみせます!」

 

「お、おう。頼んだぞ」

 

チョロい。

本当にチョロくて助かる。

シュナも横で「ふふっ」と笑いながら、「では、お料理のほうは私とゴブリナたちで完璧に仕上げておきますね」と優雅にお辞儀をし、厨房の方へと戻っていった。

 

こうして最大の危機を回避した俺たちは、いよいよ目前に迫った国家の命運を分ける超大型イベントの最終準備へと取り掛かった。

 

それから数日後。

突貫工事と準備が最終段階に入ったその日の昼下がり、ついに『彼ら』はやってきた。

 

「――リムル様。上空より、高速で接近する集団あり。数は約五百。間違いなく、武装国家ドワルゴンの天翔騎士団(ペガサスナイツ)です」

 

物見の櫓から、ソウエイの配下である影の者が報告を告げる。

同時に、広場に集まっていた幹部たちの間にピリッとした緊張が走った。

 

俺が空を見上げると、青空を切り裂くようにして、白銀の鎧をまとった一団が飛来するのが見えた。

天を駆ける魔獣ペガサスに跨る、一騎当千の精鋭騎士たち。

 彼らが放つ威圧感は、並の魔物であればその姿を見ただけで平伏してしまうほどに圧倒的だ。

元の歴史で初めて見た時、過去の俺もあまりのプレッシャーに冷や汗を流したものだ。

 

だが、今のこの村――いや、魔国連邦(テンペスト)の住民たちは違う。

 

「おうおう、ドワーフの騎士様のお出ましだぞ! 予定通り、作業は止めずに堂々としとけ!」

 

「ガハハ! 王に俺たちの街の立派さをしっかりと見届けてもらわないといかんからな!」

 

カイジンや猪人族(ハイ・オーク)たちは、空を見上げて指を差しながらも、手を止めることなく笑い合っている。

リグルド率いるゴブリンたちも、誰もパニックを起こすことなく、むしろ『大切なお客様』を迎え入れるための歓迎の列を作り始めていた。

事前に「王様が遊びに来るぞ」と伝達し、徹底的にパニック対策を施していた成果が完全に出ている。

 

上空の天翔騎士団からすれば、絶対的な威圧感を持って飛来したはずなのに、下の魔物たちが誰一人怯えることなく、むしろニコニコしながら手を振っているという異常な光景だ。

向こうのほうがよっぽど不気味で戸惑っているに違いない。

 

やがて、天翔騎士団は俺たちが用意しておいた『特設・駐馬場(広大な更地に高級な牧草を敷き詰め、水飲み場まで完備したVIPエリア)』へと、整然と降下してきた。

五百のペガサスが着地し、騎士たちが一糸乱れぬ動きで整列する。

 

その中心。

騎士たちが道を開けたその奥から、一人の男が進み出てきた。

ドワーフでありながら、常人よりも遥かに筋骨隆々で巨大な体躯。

威厳と覇気に満ちた、ライオンのような顔つき。

武装国家ドワルゴンを統べる絶対者、英雄王ガゼル・ドワルゴその人である。

 

ガゼル王は、周囲で整然と作業を続ける猪人族(ハイ・オーク)たちや、立ち並ぶ真新しい建築物、そして真っ直ぐに自分を見据える俺たち幹部陣を鋭い眼光で見回した。

その目には、驚愕と、隠しきれない歓喜の色が浮かんでいるように見えた。

 

「……ふん。わざわざ使者をよこして余の視察を要求するとは、随分と大きく出たものだな、スライム」

 

地の底から響くような重低音の声。

それだけで空気が震え、並の者なら立っていることすら困難になるほどの『覇気』が放たれる。

だが、俺の傍らに鎮座する過去の俺は、堂々と胸(?)を張ってポンッと跳ねた。

 

「遠路はるばるよく来てくれたな、ガゼル王。俺が魔国連邦の盟主、リムル=テンペストだ」

 

過去の俺がそう名乗りを上げると、ガゼル王はニヤリと猛禽類のような笑みを浮かべた。

 

「ふん。言葉だけならいくらでも取り繕える。だが、ただの魔物であるスライムに、これほどの者たちを束ね、一国の王を名乗るだけの『器』があるとは到底思えんな」

 

その言葉とともに、ガゼル王の全身から周囲の空気が軋むほどの凄まじい覇気が放たれた。

『英雄覇気』

長きにわたり幾多の死線を潜り抜け、強国ドワルゴンを力と知恵で統治してきた絶対者のみが放つことのできる、王の威圧である。

物理的な重力すら伴っているのではないかと錯覚するほどのプレッシャーが広場を支配し、ビリビリと肌を刺すような緊張感が張り詰める。

並の魔物であれば、その場に平伏し、息をすることすら困難になるほどの重圧だ。

背後に控える五百の天翔騎士団(ペガサスナイツ)の精鋭たちも、微動だにせず王の覇気と同調し、静かで冷徹な威圧感を放っている。

 

ガゼル王の鋭い眼光が、過去の俺の背後に立つ幹部たちを一人ひとり射抜くように見定めていく。

 

「ドワルゴンが誇った最高峰の業物師であるカイジン。そればかりか、大鬼族(オーガ)の生き残りであり、今や上位魔人へと進化したと思われる鬼人たち。……そして、数十万の同胞を平定され、その軍門に下った猪人族(ハイ・オーク)の王」

 

ガゼル王の視線が、特にベニマルやハクロウ、そして巨体を揺るがさずに直立するゲルドへと向けられた。

彼らが放つ尋常ではない妖気と存在感は、武の頂に立つ英雄王の目から見ても、到底侮れるものではないのだろう。

 

「これほどの強者たちが、なぜただのスライムに忠誠を誓っている? 貴様が裏で姑息な呪術や洗脳を施しているというのなら、今この場でその邪悪な命を絶ち、俺が直々にこの森を平定してやらねばならんからな」

 

その言葉が広場に響いた瞬間だった。

俺の背後に控えるベニマルたちの瞳の奥に、スッと昏い怒りの炎が灯った。

 

敬愛する主を「姑息な呪術を使う邪悪な魔物」と愚弄され、あまつさえその命を絶つと面と向かって宣告されたのだ。

シオンの指がピクリと大太刀の柄に動き、ベニマルの全身から凄まじい熱量の妖気が一瞬だけ漏れ出す。

ハクロウやゲルドからも、英雄王の覇気に真っ向から噛み付くような強烈な殺気が膨れ上がろうとした。

 

だが――彼らは誰一人として、武器を抜くことも、一歩前に出ることもなかった。

 

ギリッと奥歯を噛み締める音が微かに響いたかと思うと、爆発寸前だった殺気と妖気は見事なまでにピタリと収束し、完全に霧散したのである。

事前の会議で俺が厳命した『絶対に誰も武器を抜くな、絶対に敵対するな』という絶対の指示。

彼らはそれを、己の激しい怒りやプライドよりも最優先し、完璧な自制心で呑み込んだのだ。

それは、力任せに操られているだけの「洗脳された人形」には絶対に不可能な、深い信頼と理性に裏打ちされた真の忠誠の証だった。

 

ガゼル王の言葉には、一切の妥協も容赦もなかった。

彼は本気だ。

俺たちの返答や態度次第では、背後の天翔騎士団を即座に動かし、本気でこの開拓村を焦土と化す覚悟でここに来ている。

 

だが、過去の俺は、そんな英雄王の強烈な殺気と覇気を真っ向から浴びながらも、全く動じることなく、ぽんぽんと呑気に跳ねた。

 

「器があるかどうかは、これから証明していくさ。それに……スライムの姿のままだと、どうも下に見られそうだし、会話の目線も合わなくて首が痛いだろ?」

 

過去の俺がまるで近所のオッサンに話しかけるような軽口を叩くと、ガゼル王の眉がピクリと動いた。

天翔騎士団の騎士たちの中にも、「一国の王に対して、なんという無礼な……」と殺気を露わにする者が何人かいる。

 

しかし、過去の俺はそんな空気を意に介さない。

 

スライムの丸いフォルムが、流体のように形を変え、立ち上がっていく。

魔素の霧が晴れた直後、そこにいたのは一匹の魔物ではなく、銀色の長い髪を風に揺らし、神秘的な金色の瞳を持った、絶世の美貌を誇る『人』の姿だった。

性別を感じさせない中性的な容姿でありながら、その内側から立ち昇る澄み切った、それでいて底知れない莫大な妖気は、ただの魔物のそれとは完全に次元が異なっていた。

 

「なっ……人型に……!?」

 

ガゼル王の目が、今日初めて驚愕に見開かれた。

背後の騎士たちからも、「スライムが、人化だと……!?」「馬鹿な、魔物の人化など、高位の魔族か一部の特異な魔物にしか……」というざわめきが波のように広がる。

 

「こっちの姿のほうが、対等に話を聞いてもらえそうだからな」

 

銀髪を揺らしながら、過去の俺がスッと一歩前に出る。

そして、その右手を虚空へと差し出した。

 

空間がわずかに歪み、『胃袋』のスキルによって亜空間に収納されていた一振りの刀が、過去の俺の手に握り込まれる。

ドワルゴンの最高技術と、俺たちの世界の素材が融合して生まれた、黒々とした刀身を持つ特注の業物だ。

 

過去の俺は、その刀を鞘からゆっくりと引き抜き、流れるような無駄のない動作で、刃を自身の顔の横に添えるようにして構えてみせた。

その構えを見た瞬間、ガゼル王の顔から驚愕の色が消え、代わりに信じられないものを見るような、それでいて純粋な武人としての本能が刺激されたような、強烈な『歓喜』の色が浮かび上がった。

 

「ほう……。まさか人化できるとは。それに、ただの威嚇ではない、その無駄を一切削ぎ落とした洗練された構え。……お前、ただの魔物ではないな。剣が使えるのだな?」

 

ガゼル王の声のトーンが、先ほどまでの「見下すような王の声音」から、「対等な強者を前にした戦士の声音」へと明確に変化した。

強者同士だからこそわかる。

過去の俺のその何気ない構え一つに、どれだけの修練と実力が隠されているか(もっとも、中身は俺の未来の細胞とシエルの補正、そしてハクロウの剣技のコピーなのだが)。

 

「ああ。言葉だけじゃ信用できないって言うなら、俺の剣の腕がどれくらいか、直接試してみるか?」

 

過去の俺が不敵に笑いかけ、刀の切っ先をわずかにガゼル王へと向ける。

それは、明らかな挑発であり、一国の王に対する決闘の申し込みに等しかった。

並の相手なら不敬罪で即座に首を跳ねられても文句は言えない場面だが、相手は剣に生き、剣で国を治める英雄王だ。

 

「……ふ、ふはははは! 面白い!」

 

ガゼル王は、腹の底から湧き上がるような笑い声を上げ、自らの腰に提げていた大振りの長剣に手をかけた。

 

「スライムが剣を振るうなどと、誰が想像できたか。良いだろう。お前が真の王の器を持つのか、虚勢を張るだけの愚か者か。この俺の剣で、お前の『魂』を直接確かめさせてもらおうか!!」

 

ガチンッ、と重厚な音を立てて、ガゼル王の長剣が抜き放たれる。

先ほどまでの威圧的な覇気が、今度は鋭く研ぎ澄まされた一本の巨大な刃となって、過去の俺へと真っ直ぐに向けられた。

 

英雄王とスライムの、種族も常識も超えた激突。

周囲の時間が凍りついたかのような静寂の中、ガゼル王の巨大な体躯が、その巨体からは想像もつかないほどの神速で動いた。

 

ドンッ!!

 

王が地を蹴った瞬間、広場の硬い土が爆発したかのように抉り飛ぶ。

縮地。

一瞬にして数十メートルの距離をゼロにし、ガゼル王は上段に振りかぶった長剣を、過去の俺の頭上へと文字通り叩き落とした。

 

空気を切り裂く音すら置き去りにする、必殺の剛剣。

並の魔物なら、反応することすらできずに両断されているだろう。

 

(いくぞ、未来の俺。力の使い方のサポート、頼む!)

 

(ああ。だけどな、俺の力に頼ってるだけでは、あの英雄王の心は打てない。お前自身の『ハクロウから教わった剣』で迎え撃て!身体のブーストだけは俺が全力で支えてやる)

 

(……っ! わかった、やってやる!)

 

過去の俺は、頭上から迫り来る死の暴風を前に、ギリッと奥歯を噛み締めた。

未来の俺の細胞が筋力を極限までブーストしているとはいえ、英雄王の剣の重圧は凄まじい。

恐怖で体がすくみそうになるのを、過去の俺は持ち前の意地と、ハクロウとの地獄の特訓の記憶でねじ伏せた。

 

「おおおおおっ!!」

 

過去の俺は、わずかに体を半身に開きながら、自らの意志で手にした黒刀を下から鋭く斬り上げた。

力任せに受け止めるのではない。

相手の剛剣の威力を斜めに受け流しつつ、その力のベクトルを利用して弾き返す、柔と剛を兼ね備えた絶妙な太刀筋。

 

 

ガキィィィィィンッッ!!

 

凄まじい金属音とともに、衝突の余波が衝撃波となって全方位に吹き荒れた。

周囲の木々が大きく揺れ、砂埃が舞い上がる。

天翔騎士団のペガサスたちが、その凄まじい音と覇気の衝突に嘶き、後ろ足で立ち上がりそうになるのを騎士たちが必死でなだめる。

 

砂埃が晴れた後、そこには、お互いの剣を交差させ、鍔迫り合いの状態で拮抗している二人の姿があった。

 

「なにっ!?」

 

ガゼル王の顔に、今日二度目の、そして最大の驚きが走った。

自分の渾身の踏み込みからの斬り下ろしを、一歩も引くことなく、完璧な形で受け止められたのだ。

しかも、力負けしている様子すらない。

 

「……この太刀筋、それにこの剣の軌跡は……まさか……剣鬼殿か!?」

 

ガゼル王が、目の前で剣を交えている銀髪の少年(中身はスライム)越しに、背後に静かに佇んでいる老剣士に――自分の剣の師匠である剣鬼の姿を重ね合わせる。

その驚きは、すぐに強烈な喜びと納得へと変わっていった。

 

「……ふ、ふはははは!! 見事だ! よもやスライムを相手に、これほどの剣戟を交えることになるとは思わなかったぞ! その剣、確かに俺の『魂』に響いたわ!」

 

鍔迫り合いの形になったまま、ガゼル王はニヤリと猛禽類のような笑みをさらに深め、己の全身から溢れ出る闘気を一段と高めようとした。

過去の俺も、それに負けじと妖気を練り上げ、次の斬り合いへの備えを固める。

 

だが、二人が互いの剣を弾き、次のステップへと移行しようとした、まさにその時だった。

 

ふわり、と。

張り詰めた殺気と覇気の空間に、全く異質な、爽やかで清涼な風が吹き抜けた。

 

どこからともなく淡い緑色の光の粒子が舞い散り、広場の中央、俺たちとガゼル王の間に降り注ぐ。

その光景に、ガゼル王も過去の俺も、思わず剣の勢いを止め、警戒とともに一歩後方に跳んだ。

 

「――そこまでになさってくださいませ、ドワルゴンの王よ」

 

鈴の音を転がしたような、透き通る美しい声。

光の中から姿を現したのは、透き通るような緑色の髪と、大自然の神秘を凝縮したような美貌を持つ精霊。

ジュラの大森林の管理者たる樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんだった。

 

その神々しいまでの登場と、広場を包み込む清浄な気配に、王の背後で待機していたドワルゴンの首脳陣たちは息を呑み、完全に言葉を失っていた。

 

無理もない。

ここに至るまでのわずかな時間、彼らの常識はことごとく打ち砕かれ続けていたのだから。

 

(なんだ、あの魔物たちは……!?)

 

軍部最高司令官であるバーンは、冷や汗を流しながら過去の俺の背後に控える幹部たち――ベニマルやゲルドを凝視していた。

先ほど、ガゼル王がスライムを愚弄した瞬間、彼らから放たれた殺気は本物だった。

バーンほどの歴戦の猛者であっても、一瞬死を覚悟するほどの特濃の妖気。

だが、彼らはそれほどの激怒を抱えながらも、主の命令一つで、己の感情を完全にねじ伏せたのだ。

 

(恐怖による支配でも、呪術による洗脳でもない。アレは……魂の底からの絶対的な忠誠心……っ!)

 

天翔騎士団団長のドルフもまた、戦慄していた。

軍隊において、個人の感情を殺して規律を守り抜くことがどれほど困難で、どれほどの訓練を要するかを誰よりも知っているからだ。

 

そして、暗部の長であるアンリエッタと、宮廷魔導師のジェーンの驚愕はさらに別のところにあった。

 

(スライムが意思を持ち人化するなど…ましてやガゼル王とまともに剣を交えるなどとあり得ないことだえ!?)

 

ジェーンが、シワだらけの顔を引き攣らせて杖を強く握りしめる。

魔導の頂点を極めた彼女だからこそ、あの黒い霧のような魔素の奔流を淀みなく制御し、完璧な人の形を構成してみせた過去の俺の芸当が、どれほど異常なものかが理解できていた。

 

(しかも、あの剣戟……。王の縮地からの全力の一撃を、寸分の狂いもなく受け流して弾き返すなど……!)

 

アンリエッタも、隠しきれない動揺で瞳を揺らしていた。

英雄王ガゼル・ドワルゴの本気の一撃。

それを、手足を生やしたばかりの魔物が、いとも容易く受け止めてみせたのだ。

 

異常な統率力。

規格外の魔力制御。

そして、英雄王と互角に打ち合うほどの絶技。

特A級どころではない。

この国は、この盟主は、間違いなく世界の勢力図を塗り替えるほどの『S級の脅威』になり得る。

ドワルゴンの重鎮たちがそう確信し、極度の緊張感に包まれていた、まさにその時。

 

さらに追い打ちをかけるように現れたのが、森の管理者たる樹妖精(ドライアド)だったのだ。

 

「ト、トレイニーさん!?」

 

過去の俺が驚いて声を上げる。

オークロード討伐の際にも現れた彼女だが、まさかこの建国前の、しかもガゼル王と剣を交えている絶妙なタイミングで出てくるとは俺も予想外だった。

 

トレイニーさんは俺たちに向けて優雅に微笑んだ後、ガゼル王と、上空で待機している天翔騎士団に向かって凛とした声で宣言した。

 

「ジュラの大森林の管理者たる樹妖精(ドライアド)の名において、宣言いたします。この森に生きる多種族を束ねる真の盟主として、私どもはリムル=テンペスト様を承認し、支持いたします。どうか、英雄王ガゼル・ドワルゴ殿。森の総意たる我らが主を、それに相応しき王としてお見知りおきくださいませ」

 

その神々しいまでの宣言に、バーンやドルフたちが「森の管理者が、自ら……!?」とどよめきを漏らす。

魔物たちの頂点に立つだけではなく、ジュラの森そのものの意思とも言えるドライアドまでもが、このスライムを『森の盟主』として公に認めたのだ。

もはや、一個人の武力や魔物たちの集落という枠組みの話ではない。

これは正真正銘、ジュラの大森林という広大な不可侵領域が、一つの『国家』として立ち上がった歴史的瞬間であった。

 

ガゼル王も目を丸くした後、やがて呆れたように、しかしひどく愉快そうに天を仰いだ。

 

「……ふっ、ふはははは! 傑作だ! まさか森の管理者殿に直接止めに入られるとはな!」

 

ガゼル王は豪快に笑いながら、構えていた長剣をスッと鞘に収めた。

 

「良いだろう。お前の剣、そしてお前の部下たちが放つその『目』。さらにはドライアドの承認……。もはや、貴様がただの邪悪な魔物であるなどと疑う余地はない」

 

王の威圧的な覇気が完全に霧散し、広場に本来の穏やかな空気が戻ってくる。

ガゼル王は、かつて剣の修行に明け暮れていた一人の武人としての、真っ直ぐで清々しい笑顔を過去の俺に向けた。

 

「見事なり、スライム……いや、リムル=テンペスト! このガゼル・ドワルゴ、お前をジュラの森を統べる一国の王として認めよう!!」

 

その高らかな宣言に、一瞬の静寂の後、広場を揺るがすほどの凄まじい歓声が巻き起こった。

リグルドたちゴブリンが涙を流して抱き合い、カイジンやドワーフの三兄弟が拳を突き上げて咆哮する。

ゲルド率いるハイ・オークたちも地響きのような雄叫びを上げ、ベニマルやシュナたちも安堵と誇らしさの入り混じった笑みを浮かべていた。

 

歓声が少し落ち着きを見せ始めた頃、ガゼル王はスッと視線をずらし、過去の俺の背後に控える一人の老剣士へと歩み寄った。

 

「……やはり、そうか」

 

王としての威厳ではなく、一人の武人としての、いや、師を前にしたかつての弟子の顔になり、ガゼル王の口元が微かに綻ぶ。

 

「その洗練された気配と太刀筋。見間違えるはずもない。我が剣の師、『剣鬼』殿とお見受けする」

 

その声掛けに、ハクロウは静かに一歩進み出ると、深く、しかしどこか親しげに頭を下げた。

 

「お久しゅうございますな、ガゼル坊。ドワルゴンを統べる立派な英雄王になられたようで、この爺も鼻が高うございますぞ」

 

「坊、か……。ふ、ふははっ! 貴殿にそう呼ばれるのも、実に数百年ぶりですな」

 

ドワルゴンの絶対的な王を『坊』と呼ぶ老人の姿に、周囲の天翔騎士団の面々やバーンたちがギョッと目を剥き、あんぐりと口を開ける。

だが、当のガゼル王はひどく懐かしそうに、そして心からの敬意を込めて目を細めていた。

 

「かつて貴殿に叩き込まれた剣の型。それが今の俺の礎となっている。そして先ほど、このリムル王が放ったあの太刀筋。……あれを受け止めた瞬間、もしやとは思ったのだ」

 

「ええ。今の我が主であるリムル様には、私の剣の極意をお伝えしております」

 

「なるほど。我が師が剣を捧げ、心からの忠誠を誓うほどの主というわけか。……どうりで、俺の覇気を受けても微動だにしないわけだ」

 

(……ん? ちょっと待てよ)

 

過去の俺は、二人のやり取りを聞いて内心でピクッと反応した。

 

(ハクロウがガゼル王の剣の師匠ってことは、俺と同じ剣の型を習ったってことだよな。てことは、このめちゃくちゃ強くて威圧感たっぷりのドワルゴンの英雄王は、俺にとってまさかの『兄弟子』にあたるってことか!? ひええ、いくらなんでも世間って狭すぎるだろ……!)

 

過去の俺が、思いがけない兄弟子の発覚に内心で密かに冷や汗を流していると、ガゼル王は深く深く頷き、感慨深げにハクロウの肩に手を置いた。

 

「生きて再会できたこと、そして貴殿が新たなる良き主君を得たこと、我が事のように嬉しく思いますぞ」

 

「勿体なきお言葉。ガゼル坊の剣の冴えも、健在のようで安心いたしました」

 

師弟の熱い絆を感じさせる二人のやり取りに、広場の空気はさらに温かく、和やかなものへと変わっていく。

ガゼル王は満足そうに微笑むと、再び過去の俺へと向き直った。

 

「へへっ、ありがとな、ガゼル王。……いや、ガゼル殿。これからはご近所さん同士、よろしく頼むよ」

 

過去の俺も、思いがけない兄弟子の縁に少し親近感を覚えつつ、人型の姿のままホッと息を吐いて刀を鞘に収め、ニシシと笑い返した。

 

「ああ、よかろう。だが、王として認めるのはあくまで始まりに過ぎんぞ。この森にどのような国を創り上げるつもりなのか、まずはその手並みを拝見させてもらおうか」

 

「ま、そりゃそうだ。俺たちも、あんたを最高の客人としてもてなす準備をして待ってたんだ。色々と驚かせてやるから、覚悟しておいてくれよ」

 

過去の俺が自信満々に胸を張ると、ガゼル王は「ほう?」と興味深そうに眉を上げた。

 

「では、早速案内してもらおうか。我が天翔騎士団の駐馬場まで用意してのけた、その豪胆なおもてなしとやらをな」

 

ガゼル王が振り返り、バーンやアンリエッタたち首脳陣に向かって顎をしゃくった。

彼らはまだ目の前のスライムが見せた力とドライアドの登場による衝撃から完全に抜け出せていない様子だったが、主君の機嫌がすこぶる良いことを見て取り、ようやく強張っていた肩の力を抜いたようだった。

 

「リグルド! シュナ! 宴の準備はできてるな!」

 

過去の俺が振り返って声をかけると、二人は満面の笑みで力強く頷いた。

 

「はっ! 最高級のドワルゴンの酒と、我が村の特産品を使った絶品のフルコース、すでに完成しております!」

 

「私とゴブリナたちで腕によりをかけてお作りいたしました。どうぞ、ご期待くださいませ」

 

「よし! それじゃあ、ドワルゴンの英雄王ガゼル・ドワルゴ殿の来訪と、俺たちの『魔国連邦(テンペスト)』の建国宣言を祝して……テンペストとドワルゴンの交流祭の開幕だ!!」

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