【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第五章 魔国連邦建国宣言

翌朝。

ジュラの大森林に建設中の都市――いや、今日この日をもって正式に一つの『国家』となるこの地に、清々しい朝日が差し込んでいた。

 

迎賓館の前に急遽設けられた特設の式典会場には、テンペストの全住民と、整列した五百の天翔騎士団(ペガサスナイツ)、そしてドワルゴンの首脳陣がずらりと並び、水を打ったような静けさの中で固唾を飲んでその瞬間を見守っていた。

 

会場の中央に置かれた一枚板の立派なテーブル。

そこに用意されているのは、シエルの完璧な法的知識とシュナの達筆によって記された、歴史的な羊皮紙――『魔国連邦(テンペスト)の建国宣言書』、および『武装国家ドワルゴンとの恒久的な不可侵・技術提携を約する同盟書』である。

 

テーブルを挟んで向かい合っているのは、ドワルゴンの英雄王ガゼル・ドワルゴと、銀髪金眼の人型をとった過去の俺、リムル=テンペストだ。

 

「……よく眠れたか、リムル王よ」

 

ガゼル王が、羽ペンを手に取る前に静かに口を開いた。

昨晩の宴での豪快な様子から一転し、その顔には一国の運命を背負う者としての厳格な威厳が満ちている。

 

「ああ。おかげさまでな。そっちも、うちの客室の寝心地は悪くなかっただろ?」

 

過去の俺も、微塵も臆することなく、真っ直ぐにガゼル王の目を見返して堂々と答えた。

その背後には、ベニマル、ハクロウ、シオン、ソウエイ、シュナ、リグルド、ゲルドといった最高幹部たちが、各々の種族の正装とも言える真新しい衣服を身に纏い、誇り高く胸を張って控えている。

さらにその少し離れた特等席では、朝から三つ目のプリンをご機嫌な様子で頬張っている最強の魔王ミリムの姿があった。

 

ガゼル王は、俺の背後の陣容と、横でプリンを食べる魔王をちらりと見て、微かに口角を上げた。

 

「……良い面構えだ。もはや誰も、お前たちをただの魔物の寄り合い所などとは呼べまい。これより、世界の歴史が大きく動くことになるぞ」

 

「望むところだ。誰もが笑って暮らせる国を造るって、昨日あんたに約束したからな」

 

過去の俺の言葉に、ガゼル王は深く頷くと、迷いのない力強い手つきで羊皮紙に自らの名を記した。

『ガゼル・ドワルゴ』

超大国を統べる王の署名が刻まれた瞬間、その紙は単なる宣言書から、世界を揺るがすほどの重みを持つ「歴史の楔」へと変わる。

 

「次はお前の番だ、リムル」

 

ガゼル王から羽ペンを受け取った過去の俺は、小さく深呼吸をした。

スライムとしてこの世界に転生し、ゴブリンたちを助け、牙狼族を退け、オーガたちを迎え入れ、オークの軍勢を呑み込んだ。

ただ「楽しく平和に暮らしたい」という思いで駆け抜けてきた日々が、今、一つの強大な『国』として結実しようとしている。

 

過去の俺は、背後に立つ仲間たちの期待に満ちた熱い視線と、少し離れた場所で見守る俺(未来)の視線を受け止めると、迷いのない筆致でサインを書き込んだ。

 

『リムル=テンペスト』

 

書き終え、羽ペンがテーブルに置かれた瞬間だった。

羊皮紙に刻まれた二つの署名が、突如として眩い魔法の光を放ち始めたのだ。

 

「おお……!」

 

群衆から驚嘆の声が漏れる中、羊皮紙から放たれた光は一本の強烈な柱となって一直線に天空へと打ち上がった。

そして、はるか上空の分厚い雲を突き抜けたところで弾け飛び、無数の眩い光の粒子となって四方八方へと飛び去っていく。

これは魔法的手段を用いた大掛かりな宣誓魔法だ。

世界中に飛散した光は、各国の王や有力者、公的な機関の元へと届き、『新たなる国家の誕生』と『ドワルゴンとの同盟締結』の事実を強制的に通達する仕組みになっている。

今この瞬間、魔国連邦(テンペスト)の存在が、名実ともに全世界へと知れ渡ったのである。

 

光の雨が降り注ぐ中、ガゼル王がバッと立ち上がり、広場を埋め尽くす群衆と騎士たちに向かって、腹の底から響く覇気を伴った大音声で宣言した。

 

「見よ! そして世界が今、知ることとなる!! 本日この刻をもって、ジュラの大森林に新たなる多種族共存国家『魔国連邦(テンペスト)』の建国を認める! 同時に、我が武装国家ドワルゴンは、この国と永遠の友好と不可侵を誓う同盟を結んだことを、ここに宣言する!!」

 

ガゼル王の高らかな声が朝の空気を震わせた直後、一瞬の静寂を破って、爆発的な歓声が天を衝いた。

 

「おおおおおっ!! リムル様、万歳!!」 「テンペスト万歳! ドワルゴン万歳!!」

 

リグルドたちが涙を流しながら抱き合い、猪人族(ハイ・オーク)たちが地響きのような雄叫びを上げる。

天翔騎士団の騎士たちも、ペガサスとともに剣を空へと掲げ、新たなる同盟国の誕生を祝福した。

カイジンや三兄弟は男泣きしながら肩を組み、ベニマルたち幹部陣も、その目に熱いものを浮かべながら、誇らしげに自分たちの主(リムル)を見つめている。

 

「わはははは! やったなリムル! お前もこれで立派な王様だぞ!」

 

ミリムがプリンの皿を持ったまま飛んできて、過去の俺の背中をバンバンと叩いて祝福する。

 

「い、痛ぇってミリム! ……でも、まあ、ありがとな!」

 

過去の俺も、痛がりながらも満面の笑みで群衆に向かって大きく手を振った。

 

俺は、その歴史的な熱狂の渦から一歩引いた場所で、腕を組んで静かに光景を焼き付けていた。

元の歴史でも、ガゼル王との同盟はこのタイミングで行われた。

だが、そのプロセスと結果の『質』はまるで違う。

圧倒的な国力の誇示、暗部すらも手玉に取る情報網の提示、そして最古の魔王ミリム・ナーヴァがすでに「親友」としてこの国に滞在しているという事実。

ドワルゴン側はテンペストを単なる「新興の友好国」としてではなく、下手に対立すれば自国が滅びかねない「最大級の敬意を払うべき対等以上の超大国」として認識している。

 

《マスター。現在の時間軸におけるテンペストの地盤は、経済面および軍事面等を総合的に考慮すると、マスターの歴史と比較しての4倍の堅牢さを獲得しています》

 

(ああ。出だしとしては、完璧すぎるほど完璧だ。今後の技術開発も、これからはドワルゴンからの正式な支援付きでさらに加速させることができる)

 

俺は満足げに頷き、歓声の中心にいる過去の俺に視線を向けた。

 

ここまでは、ある意味で「内固め」だ。

森の魔物たちを統合し、強固な基盤を作り、強国と手を結ぶ。

だが、国として正式に名乗りを上げ、光の魔法で世界中に存在をアピールしたということは、同時に世界中のあらゆる勢力からの『標的』になるということでもある。

 

西側諸国の人間たち。

暗躍する中庸道化連。

魔王クレイマンの謀略。

そして、この世界を裏から操る真の黒幕たち。

 

これから押し寄せるそれらの悪意は、元の歴史よりも遥かに巨大で、予測困難なものへと変貌して襲いかかってくるはずだ。

なぜなら、テンペストという国の存在感が、この時点ですでに大きくなりすぎているからだ。

 

(だが、望むところだ。どんな理不尽が襲ってこようと、俺が全部叩き潰して、全員生きて笑える道に引きずり込んでやる)

 

 

 

 

魔法の光の雨が完全に空へ溶け込み、広場に心地よい熱狂の余韻が残る中、俺は熱狂の中心から少し外れた場所で控えているドワルゴンの重鎮たちへと歩み寄った。

 

「いやはや……とんでもない魔法を見させてもらったよ」

 

俺の気配に気づいた宮廷魔導師のジェーンが、杖をつきながら半ば呆れたように空を見上げていた。

 

「やれやれ、通常の通達魔法を使うんじゃなく、あんな広域の通達魔法を編み出すなんてね。莫大な魔素の消費もさることながら、術式の精密な制御だけでも神業だ。あれもあんたの……未来のリムル殿の入れ知恵かい?」

 

「いや、術式の構築は俺(シエル)も手伝ったが、実際に魔素を練って発動させたのは過去の俺だよ。あいつも、やればできるんだ」

 

俺が笑って答えると、軍部最高司令官のバーンが腕を組み、唸るように言った。

 

「だとしてもだ。これであのガビルという龍人族(ドラゴニュート)をはじめとした屈強な戦士たちや、剣鬼殿のような達人まで揃っている。……ドルフ、もし我らが天翔騎士団がこの国と本気でぶつかっていたらどうなっていたと思う?」

 

「考えたくもありませんな」

 

天翔騎士団長のドルフが、兜の下で苦く笑って首を横に振った。

 

「地の利、個々の異常な戦闘力、そしてあのデタラメな魔王(ミリム)の存在……。彼らと同盟国となれたこと、まさに我が国にとっての僥倖と言えましょう」

 

武官たちが戦術的な視点から感嘆の声を漏らす中、ただ一人、暗部の長であるアンリエッタだけは、冷徹な美貌に深いため息を浮かべていた。

 

「ええ、本当に。ですが……これであんな宣言を世界中に放った以上、人間の国家や裏組織が、一斉にこのジュラの森に注目することになります。我が国の情報局も、その対応と各国の動向調査で、明日から寝る間もなくなるでしょうね」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず苦笑いを浮かべ、アンリエッタに向かってスッと両手を合わせた。

 

「あー……そのことなんだけどさ。本当に、今のうちから謝っておくよ。ごめんな、アンリエッタさん」

 

「……は? 未来のリムル殿が、なぜ私に謝罪を?」

 

アンリエッタが不思議そうに目を瞬かせる。

 

「いや……未来のガゼル王から、酒の席でこぼされた愚痴を思い出してな。『貴様が次から次へと規格外の騒動を起こすせいで、我が国の暗部は数ヶ月単位で休みが消し飛び、最近のアンリエッタの目が据わってきていて恐ろしい』って……」

 

その暴露に、アンリエッタの顔が見事に引き攣った。

バーンやジェーンたちが「数ヶ月休みなし……」「あのアンリエッタの目が据わるほどの過労……」と気の毒そうな声を漏らす。

 

「み、未来の私は……そんなに過労死寸前の働き方を……?」

 

「ごめんな。俺の歴史でも相当やらかした自覚はあるんだが、今回は同盟の規模もデカいし、俺が裏で色々と派手に立ち回る予定だから……たぶん、元の歴史以上に仕事が増えると思う。マジで無理しない程度に頑張ってくれ。あとで美味い菓子でも差し入れするからさ」

 

俺が本気で申し訳なさそうに言うと、アンリエッタは片手で顔を覆い、天を仰いだ。

 

「……王だけでなく、暗部の長である私にまで同情と労いの言葉をかける魔物。やはり、貴方たちの存在は我々の常識の枠外ですね。……ええ、覚悟を決めておきます。その代わり、極上の甘味を期待していますよ」

 

「ああ、約束する。最高級のケーキを用意しておくよ」

 

アンリエッタがプロとしての割り切ったため息をつき、俺たちが和やかに笑い合った、その時だった。

 

「おーい! 未来の俺!」

 

 歓声の中心にいたはずの過去の俺が、パタパタとこちらへ走ってくる。

その後ろには、式典の余韻など全く気にしていない様子で、大きなあくびをしているミリムの姿があった。

 

「どうした?」

 

「いや、ガゼル王たちとの正式な会談も終わったし、とりあえず一息つけるかと思ったんだけどさ。ミリムが『腹が減ったのだ!』って騒ぎ出して……」

 

「むはははは! 宴も宣言も楽しかったが、そろそろおやつの時間ではないか! リムル、昨日言っていた『新しいお菓子』とやらはまだか!」

 

ミリムが俺と過去の俺の間に割り込み、期待に満ちた竜眼をキラキラと輝かせて主張してくる。

 

「わかったわかった。シュナに頼んで、とびきり美味い新作を用意させてるから、一緒に食堂に行こうぜ」

 

俺がミリムの頭を軽く撫でてやると、彼女は「おおっ!」と歓喜の声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 

「ガゼル王たちはどうする? もし時間があるなら、お茶でも飲みながら今後の具体的な技術交流の打ち合わせでも……」

 

過去の俺がガゼル王やバーンたちに視線を向けると、ガゼル王は鷹揚に頷いた。

 

「よかろう。魔王を交えた茶会など、歴史上でもそうそうあるまい。それに、貴様らが一体どのような未知の菓子を隠し持っているのか、俺も興味があるからな」

 

「ははっ、ガゼル王もすっかりウチの飯の虜になったみたいだな。よし、全員で食堂へ移動だ!」

 

俺たちは連れ立って、完成したばかりの広々とした食堂へと向かった。

そこにはすでに、シュナとゴブリーナたちが忙しそうに立ち働き、テーブルの上には見たこともないような色鮮やかなスイーツや、香り高い紅茶が次々と並べられていた。

 

「さあさあ、遠慮せずに座ってくれ。シュナ、例の『特製パフェ』を出してやってくれ」

 

「はい、ただいまお持ちしますね」

 

シュナが運んできたのは、透明なガラスの器に、たっぷりの果実、生クリーム、そして冷たい『アイスクリーム』が何層にも重ねられた、芸術品のような一品だった。

 

「おおおおっ!? なんだこの冷たくて甘い層は! 口の中で雪のように溶けていくぞ!」

 

ミリムは特製パフェを一口食べるなり、竜眼をこれ以上ないほど見開いて歓喜の声を上げた。

横に座っている過去の俺も、「おお、アイスクリームの再現度たけえ! シュナ、天才か!?」と感動しながらスプーンを動かしている。

 

ガゼル王やドワルゴンの重鎮たちにも同じものが振る舞われており、ジェーンなどは「ほう……これは、氷魔法の応用かい? だがこの滑らかな舌触りは……」と魔導師らしい分析をしながらも、そのスプーンの動きは完全に魅了された者のそれだった。

アンリエッタも、先ほどの「数ヶ月休みなし」という過労宣告のショックを和らげるかのように、無言で、しかし凄まじいスピードでパフェを平らげている。

 

「ふふふ、満足してもらえたみたいで何よりだ」

 

俺が自分の分の紅茶を口に運んでいると、器の底まで綺麗に舐め回すように完食したミリムが、キラキラとした瞳で俺の方をじっと見つめてきた。

 

「なあなあ、未来のリムルよ!」

 

「ん? おかわりならシュナに言ってくれよ」

 

「いや、そうではない! お前、『ずっと先の未来から来た』と言っておったな! なら、未来の私のことも知っているのだろ!?」

 

ミリムがテーブルに身を乗り出し、俺の顔を覗き込んでくる。

その純粋な好奇心に満ちた問いに、ガゼル王たちもスプーンを止め、静かにこちらの会話に聞き耳を立て始めた。

最強の魔王の未来。

当然、一国の王として、いや、この世界に生きる者として気にならないはずがない。

 

「ああ、知ってるぞ。未来のお前は、新しい服を着たり、自分の領地で美味しいものを食べたりして、毎日楽しく暮らしてるよ」

 

俺が笑って答えると、ミリムは「おおっ!」と嬉しそうに目を輝かせた。

 

「そうかそうか! 未来の私も毎日美味いものを食っているのだな! ……して、お前と私は、未来でもちゃんと『マブダチ』なのか?」

 

少しだけ不安そうに、上目遣いで尋ねてくるミリム。

本当に、こいつは寂しがり屋で素直な奴だ。

強すぎる力と長すぎる寿命のせいで、対等に遊べる『友人』という存在にずっと飢えていたのだから。

 

「当たり前だろ。未来でも俺たちはずっと最高の親友だ。一緒に新しいお菓子を開発したり、巨大な迷宮(ダンジョン)で遊んだり、たまに俺の仕事を手伝ってもらったりもしてるぞ」

 

「むはははは! そうか! ならば安心だな!」

 

俺の答えを聞いて、ミリムは本当に嬉しそうに、安心したように満面の笑みで胸を反らした。

 

「だが、もう一つ気になっていたことがあるのだ!」

 

ミリムの表情が、ふいに無邪気な子供のものから、純粋な『武闘派の魔王』のそれへと切り替わった。

竜眼が鋭い光を帯び、俺の身体の芯まで見透かそうとするかのように細められる。

 

「お前……とんでもなく、強いだろ? 私の『竜眼』で見ても、お前の持つ魔素の底が全く見えないのだ。……お前、私より強いのか?」

 

その直球すぎる質問に、食堂の空気が一瞬にして凍りついた。

過去の俺が「ぶふっ!?」と紅茶を吹き出しそうになり、ガゼル王やバーンたちが目を見開いて息を止める。

『破壊の暴君』たるミリムが、自ら「私より強いのか」と相手に尋ねる。

それがいかに異常な事態であるか、ドワルゴン勢には痛いほど理解できていたからだ。

 

「ちょ、ミリム! いきなり何聞いてんだよ!?」

 

「何だリムル、お前だって気になるだろ?」

 

「それは……まあ、気になるけどさ!」

 

過去の俺がオロオロと俺とミリムを交互に見る中、俺は肩をすくめて言葉を継いだ。

 

「……さてな。どっちが強いか、単純な力比べをしたことはないから断言はできないが」

 

俺は肩をすくめ、紅茶のカップをスッとテーブルに置いて言葉を継いだ。

 

「参考になるかどうかはわからないが……ミリムって、『憤怒の衝動(スタンピード)』ができるだろ?」

 

「なっ!?」

 

ミリムの竜眼が極限まで見開かれ、パフェのおかわりを要求しようとしていた手がピタリと空中で止まった。

 

「な、なぜお前が私の奥の手を知っているのだ!?」

 

「未来で、ちょっとだけお前と本気でやり合ったことがあってな。その時、お前が憤怒の衝動(スタンピード)した状態で放った全力の『竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)』を、俺は真正面から完全に受け切ったことがある」

 

カシャン、と。

ジェーンの手からスプーンが滑り落ち、皿に当たる音が食堂に空しく響いた。

 

過去の俺も、スプーンを口に咥えたまま石のように固まっている。

 

(……え? ドラゴ・ノヴァ? なにその名前からしてヤバそうな技。それを真正面から……完全無効化? 未来の俺、マジで何者だよ……)

 

過去の俺の心の声が、驚愕と共に漏れ聞こえてきそうだ。

 

「ス、憤怒の衝動(スタンピード)状態の私の全力のドラゴ・ノヴァを、受け切っただと……!?」

 

ミリムの顔に、今日一番の――いや、彼女の途方もなく長い生涯の中でもトップクラスの驚愕が張り付いていた。

彼女の全力がどれほどの破壊力をもたらすか、一番よく知っているのは彼女自身だ。

文字通り星の地形を変え、すべてを光の粒子へと還元する究極の破壊。

それを「真正面から完全に受け切った」と言ってのける存在など、竜種か、かつての星王竜くらいしか思い浮かばない。

 

「む、むはははは! お前、でたらめすぎるぞ! そんなことができる奴など、この世に……いや、お前のその底知れなさなら、本当にやりかねんな!」

 

驚愕の直後、ミリムは心底愉快そうに、そして誇らしげに笑い声を上げた。

 

「だからって、今ここで戦うつもりはないぞ。俺はお前の友達だし、友達同士でどっちが強いかなんて決める必要ないだろ?」

 

「むむっ……まあ、それもそうか! 私の全力を受け切るようなバケモノが、私の一番のマブダチだというなら、それはそれで最高に面白いからな!」

 

俺の答えに、ミリムはあっさりと納得し、再び「シュナ! 次のおかわりを頼む!」と上機嫌に叫んだ。

だが、そのやり取りを聞いていたガゼル王たちの顔色は、完全に真っ青を通り越して土気色になっていた。

 

(おい、未来のリムル……。今、奴の全力の攻撃を受け切ったと言ったな。あの最古の魔王の、地形を変えるほどの究極魔法をだぞ……!?)

 

ガゼル王が、念話で俺にだけ聞こえるように、震える声を送ってくる。

 

(ああ。まあ色々あってな。でも安心してくれ。さっきも言った通り、あいつは大事な親友だから、この時代じゃ絶対にそんな事態にはさせないよ)

 

(せ、世界が……いくつか消し飛んでもおかしくないバケモノ同士が、友として笑い合っているだと……)

 

俺が念話で軽く返すと、ガゼル王は頭を抱え、再び大きな、本当に大きなため息を吐いた。

 

「……ジェーン。お前、さっきこの未来のリムル殿に『極上のケーキ』とやらを用意させると約束していたな」

 

「えっ? ああ、アンリエッタの過労の詫びとして……」

 

「絶対に、何が何でも受け取れ。そして、我が国でも最高の職人を集めて、それに匹敵する菓子を作れるように研究しろ。……もはや、この世界のパワーバランスは、武力ではなく『甘味』で決まるのかもしれん」

 

ガゼル王の冗談とも本気ともつかない呟きに、バーンやドルフたちが真顔で深く頷いている。

どうやら、ドワルゴンの国家戦略に『菓子作りの技術向上』という謎の項目が追加された瞬間だったらしい。

 

「あはは、ガゼル王もすっかりウチのペースに巻き込まれちゃったな」

 

隣で過去の俺が、俺にだけ聞こえる声でクスクスと笑う。

 

「まあな。でも、これでドワルゴンとの関係は最高のものになったし、ミリムという最強の盾も味方についた。これからの波乱を乗り切るための、最高の第一歩だ」

 

俺は自分の手元にある紅茶のカップを軽く持ち上げ、過去の俺のカップと小さく乾杯の音を鳴らした。

 

 

 

 

「そういえば……俺からも、一つお前に聞きたいことがあったんだ、ミリム」

 

俺が少しだけ真面目なトーンでそう切り出すと、ミリムはピタッとスプーンを空中で止めた。

 

「む? 私に聞きたいことだと?」

 

口の端に生クリームをつけたまま、ミリムが興味津々といった様子で身を乗り出してくる。

 

ガゼル王たちも再び息を潜めて俺たちの会話に意識を集中させた。

 

そんなガゼル王の様子を見つつ俺は言う。

 

「まぁここまで色々ガゼル王に暴露した後だったら聞かれても問題ないとは思うから言うが」

 

俺は手に持っていたティーカップを置き、ミリムへと視線を戻す。

 

「一応、俺は普段この村で生活するにあたって、俺が正体を明かした相手以外には俺の姿や気配を正しく感知できないような、かなり高度な幻惑魔法を常に展開してるんだ。だから、今まで村の様子を監視するために密偵を送り込まれたりしていても、俺の存在は他の魔王には感知されていないはずだけどな」

 

俺がさらりと告げたその言葉に、暗部を束ねるアンリエッタが目を見開いた。

 

(……なるほど。我々の優秀な暗部がこの村を監視していても、直前までこの未来のリムル殿の存在に全く気が付かなかったのは、そのデタラメな隠蔽魔法のせいでしたか)

 

アンリエッタが、過労の要因の一つである規格外の魔法技術に、半ば呆れたような、それでいて深い納得の表情を浮かべて小さく頷く。

ドワルゴン側はこれで、今まで未来のリムルの存在に気が付かなかった理由を完全に察したようだ。

 

そんな彼らの反応を確認しつつ、俺は本題を切り出した。

 

「一応、俺の知る歴史通りに物事が動いているかを確認したくてね。……お前がここへ遊びに来る直前にやってた、クレイマン、カリオン、フレイとの『魔王会談』はどうだったんだ?」

 

「なっ!?」

 

ミリムの竜眼が、今日何度目かわからないほどに丸く見開かれた。

隣で聞いていた過去の俺も、「魔王会談!? お前ら、そんな物騒な集まりをやってたのか!?」と驚愕の声を上げる。

 

「な、なぜお前がそのことを知っているのだ!? 私がここに来る直前にクレイマンの城で集まっていたことなど、お前たちには絶対に知り得ないはず……あっ! そうか、お前は未来から来たから知っているのか!」

 

ミリムは一人で納得し、腕を組んで「うむうむ」と深く頷いた。

 

「まあな。ゲルミュッドを裏で操っていたのがクレイマンで、お前たち他の三人は『誰の配下が次の魔王になるか』っていうゲームに傍観者として乗っかっていただけってことも知ってる」

 

「むぅっ……なんだ、全部お見通しではないか! 未来の私め、ペラペラと喋りおってからに!」

 

ミリムは少しだけバツが悪そうに唇を尖らせたが、すぐにケロリとした顔でパフェの残りのフルーツを口に放り込んだ。

 

「まあ良い! マブダチのお前が相手なら、隠す必要もないからな。……お前の言う通りだ。私たちはクレイマンの呼び出しで集まって、あのゲルミュッドとかいう小悪党の計画の顛末を報告させていたのだ」

 

ミリムは、過去の俺と俺を交互に見つめ、楽しそうにニシシと笑った。

 

「元々は退屈しのぎのゲームだったのだがな。ゲルミュッドが手駒にしていた豚頭族(オーク)の軍勢を、どこからともなく現れた謎のスライムの集団があっという間に平定してしまっただろう? クレイマンの奴は自分の計画が潰されて腹を立てていたようだが、私はそんなことよりも、ゲームの盤面ごとひっくり返したお前たちの方に断然興味が湧いたのだ!」

 

「それで、俺たちを直接見に来たってわけか。……あいつらには何て言って抜け出してきたんだ?」

 

俺が尋ねると、ミリムは誇らしげに胸を張った。

 

「『私が直接挨拶に行ってやる!』と宣言して、飛び出してきたのだ! フレイもカリオンも驚いていたが、私が言い出したら誰も止められんからな! むはははは!」

 

(……相変わらずの自由奔放っぷりだな。カリオンやフレイが頭を抱えている姿が目に浮かぶぜ) 

 

俺は内心で苦笑しつつ、ミリムの話から現在の状況を改めて整理する。

やはり、俺の介入で村の発展速度やオーク討伐の規模が段違いに跳ね上がっていても、クレイマンの初期の動き自体は元の歴史とそう変わっていないようだ。

あいつの目には、あくまで「過去の俺が率いる魔物の集落が、予想外にオークを倒した」程度にしか映っていない。

俺の幻惑魔法のおかげで、未来から来た魔王が潜んでいることも、俺の歴史よりも早くドワルゴンと同盟を結ぶほどの国力に急成長していることも、まだ正確には把握できていないはずだ。

 

「なるほどな。お前が勝手に飛び出してきたせいで、クレイマンの奴は今頃、お前がどう動くか警戒しながら、俺たちの情報を血眼になって探ろうとしてるってわけだ」

 

過去の俺が、ため息をつきながら呆れたように言う。

 

「うむ! だが安心しろ! 私はお前たちを気に入ったし、マブダチになったのだからな! クレイマンの奴が何を企んでいようと、私が手を出させないようにしてやるぞ!」

 

ミリムが頼もしく胸を叩く。

その言葉に、これまで張り詰めていたガゼル王やドワルゴンの重鎮たちの顔に、ようやく少しだけ安堵の色が浮かんだ。

 

「それは心強いな。だが、クレイマンは自分が直接手を下すような真似はしない。あいつは狡猾で、いつも他人の手駒を使って盤面をコントロールしようとする策士だからな」

 

俺の言葉に、ミリムも「うむ、あいつはそういう陰湿な奴だ」と同調するように頷く。

その反応を見て、俺は小さく息を吐きながら結論を口にした。

 

「今の話を聞く限りだと、クレイマンの行動パターンは元の歴史と全く変わってない。となると……間違いなく『暴風大妖渦(カリュブディス)』がここへ来るのは確実だろうな」

 

「カリュブディス……昨日の会議で言っていた、空を泳ぐっていう災厄級のバケモノか」

 

過去の俺が、思い出したように顔をしかめる。

 

「ああ。ミリムがここにいると知ったカリオンは、この村の偵察のために部下である『三獣士』の一人を向かわせるはずだ。そいつのプライドの高さと短気な性格を利用して、クレイマンの配下の道化どもがカリュブディスの封印を解かせるように仕向ける。そして、俺たちへの当てつけとして、復活した災厄をこの村へ誘導してくるんだよ」

 

俺が淡々とこれからの展開を予言すると、ガゼル王やバーンたちが、またしても信じられないものを見る目で俺を見た。

 

「未来のリムル殿。あなたは魔王の策から災厄級魔物の復活の経緯まで、そこまで完璧に見通しているというのですか……?」

 

軍部最高司令官のバーンが、呆然とした声で呟く。

 

「見通してるというか、一度経験した歴史だからな。まあ、今回俺が歴史に介入して村の発展速度を異常に早めたことで、本来の目的が変わってクレイマンが別の刺客を差し向けてくる可能性もゼロじゃなかったんだ。だが、ミリムの証言で確信に変わった。クレイマンの認識はまだ『自分の計画を邪魔した見知らぬ魔物の集落』で止まっている。なら、次の一手も元の歴史通り、カリュブディスを使った間接的な破壊工作になるはずだ」

 

「むむっ? なんだなんだ、強い魔物が来るのか!? ならば私がそいつをぶっ飛ばしてやろう!」

 

ミリムがパフェの器をテーブルに置き、目を輝かせて拳を振り回し始めた。

 

「いや、お前は手出し無用だ。これは俺たち『魔国連邦』が、自分たちの力で国を護れるってことを世界に示すための絶好のデモンストレーションになるからな。お前には特等席で美味しいお菓子を食べながら、俺たちの戦いぶりを見学しててほしい」

 

「な、なんだとーっ! 私も暴れたいのだ! 仲間外れは嫌だぞ!」

 

「言うこと聞いて大人しくしてたら、シュナ特製の新作おやつを追加してやる。あとでたっぷり遊んでやるから、仕事の邪魔はするなよ」

 

「……わ、わかった! ならば大人しく見学してやろう!」

 

あっさりと餌付けされて席に座り直す最強の魔王の姿に、過去の俺が(お前、魔王の扱いが完全にプロのそれだな……)と呆れたような念話を送ってくる。

 

ガゼル王も、もはや驚く気力も失せたのか、深く、重い長ため息を吐いた。

 

「……災厄級の魔物の襲来すら、自国の軍事力を世界にアピールするための盤面に使う気か。もはや、我々の常識など一つも通用せん国だな」

 

ガゼル王はそう言うと、傍らに控えるバーンやアンリエッタたちへと力強い視線を向けた。

 

「ドワルゴンとて、うかうかしてはいられんな。バーン、ジェーン、ドルフ。急ぎ王都へ帰還するぞ」

 

「はっ!」

 

「この魔国連邦との同盟は、我が国にとって最大の防衛線であると同時に、最大の刺激となる。あの未来の知識と技術の恩恵を受けるだけではなく、我々自身もこれより、軍と魔導の技術革新を急ピッチで進める必要がある」

 

ガゼル王の覇気に満ちた宣言に、ドワルゴンの重鎮たちが一斉に居住まいを正し、力強く頷いた。

どうやら、ただ庇護されるだけの同盟国になるつもりはないらしい。

さすがは長きにわたり超大国を牽引してきた英雄王と、その精鋭たちだ。

これなら、のちに控えている東の帝国との大戦でも、十分に頼りになる戦力として肩を並べることができるだろう。

 

「おっ、もう帰るのか? せっかくならもう一晩くらいゆっくりしていけばいいのに」

 

過去の俺が声をかけると、ガゼル王はニヤリと笑って立ち上がった。

 

「そうもいかん。お前たちがこれほどの速度で国を造り上げているのだ、俺も王宮で呑気に椅子を温めている暇はないからな。……そこにいるカイジンよ」

 

ガゼル王は、俺たちの少し後ろに控えていたカイジンへと真っ直ぐに視線を向けた。

 

「王よ……」

 

「後日、正式に我が国から技術団を派遣する。お前たちがこの国で発展させている驚異的な技術、ドワルゴンもしっかりと学ばせてもらうぞ」

 

「任せてください。こちらもドワルゴンの職人たちから教わりたいことは山ほどありますからな。歓迎いたします」

 

カイジンが職人らしい不敵な笑みで応えると、ガゼル王も満足げに頷いた。

 

「お互い、最高の国造りをしようぜ」

 

過去の俺とガゼル王が、国を背負う者同士として、固く握手を交わす。

それを見届けた後、ガゼル王は俺の方へと向き直った。

 

「未来のリムルよ。貴様が描く『最高の未来』とやら……このガゼル・ドワルゴも、同盟国として全力で乗らせてもらおう。次なる災厄の対処、見事な手並みを楽しみにしているぞ」

 

「期待しててくれ。ドワルゴンにも一切被害は出さないし、俺たちの国も傷一つつけさせないからな」

 

俺がそう言って自信に満ちた笑みを向けると、ガゼル王も満足げに頷き、きびすを返そうとした。

 

「あ、そうだ。ガゼル王、帰る前にもう一つだけ頼みたいことがあったんだ」

 

俺はふと思い出し、その広い背中に向かって声をかけた。

 

「ん? なんだ、申してみよ」

 

ガゼル王が足を止め、振り返る。

 

「後日、正式に技術団を派遣してくれる時にさ……お前の国の元大臣、『ベスター』を一緒に連れてきてくれないか?」

 

「なっ!?」

 

驚きの声を上げたのは、ガゼル王ではなく、先ほど王と言葉を交わしたばかりのカイジンだった。

 

「べ、ベスターだと!? 未来の旦那、なんであんな陰湿な野郎をわざわざ……! あいつは俺たちを陥れて破滅させようとしてきたんだぞ!」

 

カイジンが顔をしかめて猛抗議する。

過去の俺も、「あー、あのエルフの店でカイジンに絡んできた嫌味な大臣か」と思い出したように揺れた。

 

ガゼル王も眉をひそめ、俺の真意を探るように鋭い視線を向けてくる。

 

「……ベスターは確かに優秀な男ではあったが、私怨にとらわれ、国を支える職人であるカイジンを不当に貶めた。すでに余の裁きを下し、表舞台からは追放した身だ。あれをわざわざ欲しがるとはどういう風の吹き回しだ?」

 

「俺の知る未来じゃ、ガゼル王が後日お忍びでテンペストを訪れたときに、ベスターを一緒に連れてきたんだよ。俺たちへの謝罪と、あいつの再起を懸けてな」

 

俺の言葉に、ガゼル王がわずかに目を見張る。

 

「……余が、あやつに再起の機会を、か」

 

「ああ。あいつは本当に心の底から反省して、カイジンにも土下座して謝ったんだ。その後はウチの国で、誰よりも熱心に、寝る間も惜しんで回復薬(ポーション)の研究に打ち込んでくれた。俺たちの国が世界最高峰のポーションを量産できるようになったのは、間違いなくベスターの功績だ」

 

俺がかつての(未来の)ベスターの働きぶりを懐かしみながら語ると、カイジンは毒気を抜かれたようにぽかんと口を開け、やがて複雑そうな、だがどこか嬉しそうな顔で頭を掻いた。

 

「……あのプライドの塊みたいな野郎が、俺に土下座、ねえ。それに、誰より熱心に研究を、か。……チッ、未来の旦那がそこまで言うなら、悪いようにはならねえんだろ。俺は反対しねえよ」

 

「ありがとな、カイジン。……というわけだ、ガゼル王。俺たちはすでに封印の洞窟に研究施設を設けている。そこを本格的に稼働させるためにも、ベスターの頭脳がどうしても必要なんだ。頼めるか?」

 

俺が真っ直ぐに見据えて頼み込むと、ガゼル王はしばらく目を閉じ、やがてふうっと短く息を吐いた。

 

「……よかろう。貴様がそこまで言うのであれば、あの男にもう一度だけチャンスを与えよう。後日、技術団の長として必ず送り届けてやる」

 

「助かるよ!」

 

「それにしても……貴様を陥れようとした者を国の要として迎え入れるか。貴様のその『器のデカさ』には、もはや恐れ入るしかないな」

 

ガゼル王は呆れたように、だが確かな敬意を込めて笑った。

 

その後、俺たちは席を立ち、帰還の途につくガゼル王たちを天翔騎士団が待つ特設の『駐馬場』まで案内した。

 

広大な駐馬場には、すでにベニマルやハクロウ、リグルド、ゲルドをはじめとする魔国連邦の幹部たちが総出で整列し、威儀を正して待機していた。

先ほどまでの宴の和やかな空気から一転し、国家としての威厳と礼節に満ちた厳粛な空気が場を支配している。

 

ガゼル王が自身の巨大なペガサスの前に立つと、幹部陣が一斉に、同盟国の王に対する最上級の敬意をもって深く頭を下げた。

鬼人族も、ゴブリンも、猪人族(ハイ・オーク)も、一切の隙がない一糸乱れぬ完璧な所作だ。

その見事な統率ぶりに、バーンやドルフたちドワルゴンの重鎮、そして整列していた五百の天翔騎士団の騎士たちも背筋を伸ばし、厳粛な騎士の礼をもって応えた。

 

ガゼル王は満足そうに力強く頷き、バサリとマントを翻してペガサスに跨る。

 

「さらばだ、二人のリムル王! 次に会う時を楽しみにしているぞ!」

 

「ああ! 気をつけて帰れよ!」

 

過去の俺が、盟主としての堂々とした態度を崩さずに大きく手を振って見送る。

するとその横から、デザートの器を抱えたままついてきていたミリムがひょっこりと顔を出し、「今度は土産に美味いものを持ってくるのだ!」とスプーンをぶんぶんと振り回した。

 

これには、極限まで張り詰めた顔を作っていたドワルゴンの騎士たちも、思わず頬を引き攣らせて必死に笑いを堪える羽目になっていた。

 

「全軍、飛翔!」

 

ドルフ団長の号令とともに、天翔騎士団の五百のペガサスが一斉に力強く羽ばたいた。

凄まじい風圧が広場を吹き抜け、白銀の鎧をまとった騎士たちが一団となって大空へと舞い上がっていく。

俺たちは駐馬場に立ち並び、雲ひとつない青空に吸い込まれていく美しい白銀の軌跡を、いつまでも見上げていた。

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