【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第八章 集結する知と英雄擁立

朝早くに出発し、シエルのナビゲーションによる空間移動を駆使したおかげで、テンペストに帰還したのはまだ陽が昇りきったばかりの午前中のうちだった。

 

幻惑魔法で気配を絶ったまま村の外れに降り立った俺は、息をつく暇もなく、さっそく次の仕込みに取り掛かることにした。

向かったのは、村の南東区画。

俺の知るテンペストと全く同じ場所に指定しておいた『闘技場』の建設予定地だ。

 

現在はまだ基礎工事が終わったばかりで、ただ地固めされただけの広大な空き地が広がっている。

だが、いずれここに十万人規模を収容できる巨大な闘技場が建ち、その地下こそが、ラミリスの造り出す巨大迷宮(ダンジョン)の入り口となるのだ。

 

俺は現場を仕切るゲルドに話を通して、直属の『都市開発部隊』を呼び寄せた。

そして闘技場の基礎のさらに下、迷宮の入り口となる巨大な地下空間の掘削と、接続用の大階段の整備を命じた。

 

「よし、俺も手伝うぞ。こっちの地盤は俺が魔法で固めておくから、お前たちは掘削と瓦礫の運搬を頼む」

 

俺自身も土魔法を駆使し、シエルの完璧な構造計算に基づいて地下空間の壁面を一瞬にして強固な岩盤へと変えていく。

猪人族(ハイ・オーク)たちの驚異的な作業スピードと俺の魔法が合わさったことで、本来なら数日はかかるであろう地下空間の基礎工事は、まるでダイジェスト映像のようにあっという間に形になっていった。

 

(これなら、ラミリスがいつ引っ越してきても、すぐに迷宮の入り口を繋げられるな)

 

一通りの地下工事とハイ・オークたちへの労いを終え、俺が服の埃を払って町の中央部へと戻ってきた頃には、時刻はすでに昼を過ぎていた。

過去の俺の様子を確認しようと執務館の方へ向かっていると、迎賓館の前の広場が何やら騒がしいことに気がついた。

 

「おや……?」

 

立派な荷馬車が数台停まっており、その周りには重武装の護衛たち。

そして、見覚えのある白衣や作業着に身を包んだドワーフの集団が、山のような機材を運び下ろしている。

先日、ガゼル王が会談の席で約束してくれた、武装国家ドワルゴンからの技術派遣団だ。

どうやら俺が地下に潜っている日中のうちに到着していたらしい。

 

その集団の中心で、スライム姿の過去の俺が、二人の人物と向き合って何やら会話を交わしていた。

一人は、腕を組んで「ガハハハ!」と調子に乗った笑い声を上げている龍人族(ドラゴニュート)のガビル。

そしてもう一人は――以前の傲慢さはすっかり影を潜め、どこか憑き物が落ちたような、しかしひどく緊張した面持ちのドワーフの男、ベスターだった。

 

(ああ、そうか。ベスターの奴、もう着いたのか)

 

ヨウム率いるファルムスの辺境調査団や、フューズたちブルムント王国の面々はまだこの村を訪れていない。

嵐の前の静けさとも言えるこの絶妙なタイミングで、ガゼル王は公約通り、最高峰の研究者たちを送り届けてくれたのだ。

 

ベスターとガビル。

元の歴史を知る俺からすれば、この二人の出会いは魔国連邦の技術力――特に回復薬(ポーション)の量産体制を劇的に飛躍させる、超重要なターニングポイントである。

 

(よし、タイミングとしてはバッチリだな)

 

俺はかけていた幻惑魔法をスッと解き、物陰から彼らの前へと歩み出た。

 

「よお、お疲れさん。なんだか面白そうな話をしてるじゃないか」

 

「あ、お疲れ! 帰ってたのか」

 

俺の声に気づき、スライム姿の過去の俺がぽよんと跳ねて振り返る。

ガビルも「おお、未来のリムル様! お戻りになられましたか!」と元気よく頭を下げた。

その横で、ベスターだけが「えっ? リ、リムル殿が……二人……!?」と目を丸くして硬直している。

 

「驚かせて悪いな。俺はこいつ(過去のリムル)の相棒みたいなもんだ。俺のことはもう一人のリムルと思ってくれればいい」

 

「は、はあ……もう一人の、リムル殿……」

 

目を白黒させているベスターをよそに、俺は過去の俺に視線を向けた。

 

「無事に到着したみたいだが、挨拶はもう済んだのか?」

 

「ああ。ベスターはさっき着いたばかりなんだけど、馬車を降りるなり、俺とカイジンの前で土下座せんばかりの勢いで謝罪してきてさ。カイジンのほうは『過去のことはもう気にしてねえよ』って笑って許して、すぐに別の建築現場の指揮に戻っちまったんだ。忙しいからって」

 

過去の俺が呆れたように言うと、ベスターは気まずそうに身を縮め、再び痛切な後悔を滲ませた顔で深々と頭を下げた。

 

「……はい。ガゼル王より、これまでの己の傲慢さを猛省し、この地でリムル殿とカイジン殿のために粉骨砕身働くよう命じられました。かつての私の愚行……何度お詫びしても許されることではありませんが、本当に、申し訳ありませんでした」

 

ドワルゴンでのあの一件で完全に鼻っ柱をへし折られ、ガゼル王の裁きによって自分の過ちを心底から悔い改めたのだろう。

今の彼からは、かつての嫌味な大臣の面影は消え去り、純粋に真理を探求しようとする一人の研究者の顔になっていた。

 

「頭を上げてくれ、ベスター。カイジンが水に流したなら、俺たちから言うことは何もないさ。むしろ、ドワルゴン最高峰の知識を持つあんたみたいな優秀な研究者が来てくれて、本当に助かるよ」

「もう一人のリムル殿……っ! ありがたき幸せ……。このご恩に報いるためにも、私の持てる知識と技術のすべてを、この国のために捧げる覚悟です!」

 

俺の言葉に、ベスターは感極まったように目元を拭った。

 

「で、今はガビルと何を話してたんだ?」

 

「はい! 我輩が封印の洞窟で栽培しているヒポクテ草の管理状況について、ご説明していたところであります!」

 

ガビルが胸を張って答えると、ベスターも熱を帯びた声で頷く。

 

「ええ。ガビル殿の薬草に関する知識と栽培技術は素晴らしいものです。私が知るドワルゴンの手法とも異なる独自のアプローチがあり、ぜひ詳しい意見交換をさせていただきたく……」

 

「我輩もドワーフの最先端の理論には興味がありますぞ! どうです、これから共に研究に励む同志として、一つ握手でも!」

 

「ええ、喜んで!」

 

すっかり意気投合し、熱い握手を交わしている二人を見て、俺は過去の俺と顔を見合わせて思わず口角を上げた。

 

(やっぱり、この二人の相性は抜群だな。……これなら、俺が新しく用意する『最高の研究施設』も存分に活かせるだろう)

 

ラミリスの迷宮内に構築する、絶対に死なない安全な研究施設。

そこでこの二人がタッグを組めば、元の歴史以上のスピードで特効薬(フルポーション)の量産化に漕ぎ着けるはずだ。

 

「よし。じゃあベスターの歓迎会も兼ねて、今夜は宴会といこうか。……そうだ、お前たち二人に、近いうちに最高の『専用研究室』をプレゼントするから、楽しみにしててくれよ」

 

俺がそう宣言すると、ガビルとベスターは目を輝かせて歓声を上げたのだった。

 

 

 

 

あれから数日間、テンペストには嵐の前の静けさとも言える平和な日々が続いていた。

 

俺は、その期間を町のインフラ整備と工事の手伝いに全振りしていた。

シエルの演算による構造把握と、俺の大規模な土魔法や『法則操作』を駆使すれば、重機すらないこの世界での土木作業も文字通りチートの連続だ。

現場監督のゲルドやカイジン、猪人族(ハイ・オーク)たちの驚異的な体力も相まって、ドワルゴン方面へと続く広大な街道の舗装工事は、なんとこの数日でほぼ完成の域にまで達してしまった。

 

一方、表舞台を回している過去の俺はというと……現在、建国したばかりの魔国連邦のルール作り、つまり『憲法』の制定に向けて、執務室でデスクワークの地獄に沈んでいた。

人間と魔物が共存するための法律づくりは、前世がしがないゼネコンの営業マンだった俺たちにとってはひどく骨の折れる作業だ。

リグルドや役員たちと毎日のように頭を突き合わせ、「人間への襲撃を禁ず」「仲間内での争いを禁ず」「他種族を見下すことを禁ず」という三つの基本理念を軸に、細かい法整備に追われている。

 

夜、自室ですれ違うたびに、「法律の文言考えるのってマジでキツい……目がシパシパする……」 「お疲れ、俺。こっちは地下空間の地盤固めが大体終わったぞ」と、互いに肉体疲労と精神疲労を労り合うという、奇妙で充実した日々を送っていた。

 

そんなのどかな日常に、突如として『嵐』がやってきたのは、よく晴れた昼下がりのことだった。

 

俺が街道工事の最終チェックを終えて町の中央部へと戻ろうとしていた時のこと。

 

《マスター、中央広場にて空間転送の魔力反応を感知しました。転送元の座標から推測するに、どうやらあの妖精の魔王が、予定よりも随分と早く到着したようですね》

 

脳内に響く愛しい相棒からの報告とほぼ同時に、町の中央から「な、なんだぁっ!?」というゴブリンたちの悲鳴に近いどよめきが上がった。

俺が瞬時に『空間移動』で広場の死角に転移し、そこから様子を窺うと、広場はすでにパニックの渦中にあった。

 

それもそのはず。

広場の中央には、数メートルはある巨大な鉄の塊――先日俺が機能を停止させたままの魔装兵(エレメンタルコロッサス)が、ドゴォォン!という重い音と共に突如として出現し、鎮座していたからだ。

そして、その周囲には、見たこともないほど色鮮やかで小さな精霊や下位妖精たちが、キャッキャと笑いながら無数に飛び交っている。

 

「ちょっと! なんでみんな逃げるのよ! アタシたちは怪しいもんじゃないわ!」

 

巨大な鉄塊の頭頂部で、腰に手を当ててエッヘンと反り返っている小さな桜金色の妖精。

俺が渡した使い捨ての転送水晶を使ってやってきた、『迷宮妖精』の魔王ラミリスだ。

彼女はパニックになって後ずさる町の住民たちに向かって、俺に言われた通りの言葉を大声で張り上げた。

 

「アタシは『未来のリムルからの紹介で来た』大事なお客さんなんだからね! さあ、盛大に歓迎して、約束の特大ケーキを出しなさい! あと、トレイニーちゃんたちも早く呼んできてよねーっ!」

 

「み、未来のリムル様からの紹介……!? たしかそんなことを聞かされていた気も…」

 

「ケーキ……? それに、トレイニー様を……?」

 

ラミリスの言葉に、警戒していたゴブリンや警備のホブゴブリンたちが顔を見合わせ、戸惑いの声を上げる。

 

(よしよし、ちゃんと約束の合言葉を言ってるな。……しかし、あの鉄塊(魔装兵)を見せられたらそりゃビビるわな)

 

俺は苦笑しながら広場の中央へと歩み出た。

 

「みんな落ち着け! こいつらは敵じゃない!」

 

「あ、未来のリムル様!」

 

住民たちが安堵の表情を見せる中、俺はラミリスの元へと歩み寄った。

 

「よう、ラミリス。ずいぶん早かったじゃないか。ちゃんと俺が教えた合言葉を言ってて偉いぞ」

 

「あ、リムル! やっと来たわね! ほら、約束通り棲家を引き払って来てあげたわよ! さっそくケーキを――」

 

ラミリスが嬉しそうに羽をパタパタさせたその時。

 

「な、なんだあの巨大な鉄くず!? それにあのちっこい妖精……もしかして、お前が言ってた……!」

 

執務室から慌てて駆けつけてきたスライム姿の過去の俺が、目を白黒させて俺の足元へとぽよんと飛び乗ってきた。

俺たちを護衛するために、ベニマルやシオンたち幹部も慌てて武器を手に集まってくる。

 

「……えっ?」

 

ラミリスは、俺の足元で跳ねるスライムを見て、ピタリと動きを止めた。

そして、人型の俺とスライムの俺を交互に見比べ、目を限界まで見開いた。

 

「ええええええええっ!? ちょっと待って!? なんでアンタが二人いるのよ!? 人間とスライムに分身してるじゃないの! どういう原理なのよそれ!?」

 

「ああ、言い忘れてたけど。俺は未来から来てるから、この時代には当然『今の俺』もいるんだよ。俺が未来から来たリムルで、こっちのスライムの姿をしたが過去の俺だ」

 

俺がさらりと種明かしをすると、ラミリスは空中でジタバタと羽を揺らした。

 

「そ、そんなの聞いてないわよ! じゃあ、こっちのスライムもヤバいオーラ出しまくりの化け物なの!?」

 

「いや、こっちの俺はまだ覚醒前だから、今のところはちょっと強いスライムだよ。……過去の俺、挨拶してやってくれ。こいつが、前に話してた魔王のラミリスだ。地下迷宮の管理人になってくれる大事なお客さんだぞ」

 

「えっ、こ、こいつが!? 本当に手のひらサイズだ……」

 

過去の俺はスライムの体を伸ばし、信じられないといった様子でラミリスを見上げた。

 

「ちょっと! 手のひらサイズとか言わないでよね! これでもアタシは十代魔王が一柱、迷宮妖精のラミリス様なんだから! スライムのリムルも、アタシの偉大さにひれ伏しなさい!」

 

エッヘンとふんぞり返るラミリスに、過去の俺は「は、はあ……」と気の抜けた返事をしている。

そんな騒がしくも微笑ましいやり取りを見ながら、俺は幹部たちへと振り返った。

 

「ベニマル、シュナ。そういうわけだから、彼女は今この時からこの町の大事な仲間だ。歓迎の準備と……とりあえず、約束の特大ケーキを用意してやってくれ。あと、トレイニーさんたちにも連絡を頼む」

 

「承知いたしました、リムル様。すぐに手配いたします」

 

シュナが優雅に微笑んで一礼し、足早に厨房の方向へと向かっていく。

 

「よし、それじゃあ特大ケーキの準備ができるまでの間に、お前の新しい『マイホーム』兼『職場』になる予定地を案内してやるよ、ラミリス」

 

「ほんと!? 行く行くー! アタシの新しい迷宮(ダンジョン)の入り口、すっごく立派にしてよね!」

 

「ああ、期待してていいぞ。……っと、このデカブツ(魔装兵)は広場に置いたままだと邪魔になるから、ひとまず俺の空間収納にしまっておくか」

 

俺が巨大な魔装兵に手を触れて黒い霧で飲み込もうとした、その時だった。

 

『――あ、リムル様、過去のリムル様!聞こえるっすか!』

 

不意に、脳内に少し焦ったような、それでいてどこか得意げな『思念伝達』が飛び込んできた。

声の主は、森の街道を巡回警備中のゴブタだ。

俺と過去の俺は同時に動きを止め、念話に応じる。

 

(どうしたゴブタ、そんなに慌てて)

 

『報告っす! 今、人間の集団を保護して町に向かってるっすよ! なんか森の中でデカいナイトスパイダーに追いかけられてたから、オイラたちゴブリンライダーの部隊でサクッと助けてやったっす!』

 

ゴブタの思念伝達による報告を聞いて、俺と過去の俺は顔を見合わせた。

ナイトスパイダーといえば、Bランク相当の強力な魔物だ。

ゴブタたちがそれをあっさり討伐したことにも成長を感じるが、問題はその助けられた人間たちだ。

 

(人間って、どんな奴らだ?)

 

『武装した集団と、前に村に来た冒険者の人たちも一緒っす! あと、見慣れない偉そうなおっさんもいるっすね』

 

その特徴からして、間違いなくファルムス王国の辺境調査団――ヨウムたちの一行だ。

それに「前に来た冒険者」と「偉そうなおっさん」ということは、カバルたちのパーティーと、ギルドマスターのフューズも一緒にいるのだろう。

 

「おお、ついに来たか。……よし未来の俺、こっちの対応は俺に任せてくれ。人間の客人たちの相手は、表舞台の代表である俺の仕事だからな」

 

過去の俺がスライムの体をピンと張って言う。

 

「ああ、頼んだ。ヨウムたちの英雄化計画、最初の接触が肝心だから上手くやってくれよ。……俺も、こっちの案内がひと段落して時間が空いたら、少し顔を出すよ」

 

「おう、任せとけって。相手の度肝を抜いて、きっちり丸め込んでやるさ。迎賓館の準備と……とりあえず俺は町の入り口で連中を出迎えてくる!」

 

過去の俺がポンッと跳ねると、影からスッと現れたランガがその体を背中に乗せる。

そして人間の使節団を迎え撃つべく、町の入り口方面へと颯爽と駆けていった。

 

「……なんか、スライムのくせにすごく偉そうにしてたわね、あっちのアンタ。あれでほんとに大丈夫なの?」

 

遠ざかるランガの背中を見送りながら、ラミリスがジト目を向けてくる。

 

「ははっ、まあ国主としての威厳を見せなきゃいけない相手だからな。あいつならきっちりやり遂げるさ。さ、俺たちは地下空間へ行こうか。お前が迷宮を造りやすいように、とびきり頑丈な基礎を打っておいたんだぜ」

 

俺はポカンとしているラミリスと、それにくっついて離れない精霊たちを引き連れて、今度こそ迷宮の入り口となる闘技場予定地へと歩き出した。

 

 

町の南東、闘技場の建設予定地。

今はまだ広大な空き地に基礎が打たれているだけの状態だが、その一角には、地下へと続く巨大なスロープと階段がすでに整備されていた。

 

「うわぁ……! なにこれ、すっごく広いじゃない!」

 

俺の案内で地下空間へと足を踏み入れたラミリスが、パタパタと飛び回りながら歓声を上げる。

猪人族(ハイ・オーク)たちの力と俺の土魔法によってくり抜かれた地下は、ドーム状の巨大な空洞になっていた。

壁面や天井はシエルの演算によって完璧な構造計算がなされ、俺の魔法で強固な岩盤へと変質させてある。

 

「ここが、お前の新しい迷宮(ダンジョン)の入り口になる。ここを起点にして、お前の『迷宮創造(チイサナセカイ)』の力で、地下に向かって階層を広げていってほしいんだ」

 

「なるほどね! ここからアタシの亜空間を繋げちゃえばいいってわけね! ふふんっ、任せなさい!」

 

ラミリスが空中でふんぞり返り、エッヘンと胸を張る。

 

「よし、頼もしいな。それじゃあ、とりあえず地下100階層まで作ってくれるか?」

 

「…………は?」

 

俺がさらりと要求を告げると、ラミリスは間抜けな声を漏らして空中でピタリと固まった。

そして、信じられないものを見るような目で俺をジッと見つめてくる。

 

「ひゃ、100階層!? アンタ、簡単に言ってくれるわね! アタシの能力は確かに凄いけど、いきなりそんな広大な空間を造り出すのはそれなりに時間がかかるのよ!? いくらアタシでも、魔力だってゴリゴリ削られるんだからね!」

 

「ああ、大丈夫だ。その辺の事情は大体わかってるよ」

 

慌てて抗議してくるラミリスに、俺は苦笑しながら手をヒラヒラと振った。

 

「未来のラミリス……つまり、未来の『お前』から直接、迷宮の仕組みや限界についての説明は受けてるからな。別に今日明日で全部完成させろなんて無茶は言わないよ。何日かかけて、お前のペースでゆっくり作ってくれればいいさ」

 

「未来のアタシから……」

 

「ああ。焦らずに、まずは土台となる空間の確保から頼む。もちろん、作業中の美味しいケーキや食事の保証はするからさ」

 

「ケーキ……! じゃ、じゃなくて! ……なるほどね。アンタ、本当に未来のアタシと親しく話したことがあるのね」

 

ラミリスは空中で腕を組み、少しだけ真面目な顔になって俺を見下ろした。

 

「未来のアタシがどんな風に説明したかはわからないけど、アタシの『迷宮創造』に、空間の広さや深さの理論的な限界はないわ。魔力さえ続けば、それこそ無限に階層を増やすことだってできる。でもね……」

 

「今の状態のお前が、自身の権能を隅々まで及ぼした上で、現実的に作成・維持できるギリギリのラインが……ちょうど『100階層』なんだろ?」

 

俺が先回りして言うと、ラミリスは「その通りよ」と頷いた。

 

「100階層っていう具体的な区切りを知ってるってことは、未来のアタシはアンタに相当心を許して、自分の能力の底まで洗いざらい話しちゃってるってわけね。……まったく、未来のアタシも相当チョロいわね。どんだけアンタの国のケーキに餌付けされてるのよ」

 

「いや、俺の知ってる元の歴史じゃ、お前がテンペストに移住してきた理由は別にケーキに釣られたからじゃないぞ」

 

俺が肩をすくめて言うと、ラミリスはきょとんとして瞬きをした。

 

「えっ? 違うの? じゃあなんで未来のアタシはアンタの国なんかに……」

 

「お前がこっちに来たのは、俺たちが『開国祭』っていう国を挙げた巨大なお祭りの準備をしてる真っ最中だったんだ」

 

「かいこくさい?」

 

「ああ。世界中から王侯貴族や商人、冒険者たちを呼んで、俺たちの国をお披露目する一大イベントだ。そのお祭りの目玉として、冒険者が挑戦できる巨大なアトラクション――つまり『地下迷宮(ダンジョン)』を作ろうって俺が提案したんだよ」

 

「アトラクションとしての、ダンジョン……!」

 

「そう。冒険者から入場料をとって、迷宮の中でモンスターと戦わせたり、宝箱を見つけさせたりする遊び場だ。お前の能力なら、中で死んでも生き返る設定にできるから、絶対に死なない安全なスリルを提供できるだろ? その儲けを山分けしようって持ちかけたら、お前は『それ最高に面白そう!』ってノリノリで引っ越してきたんだ」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、ラミリスの瞳にキラキラと星が輝いたような気がした。

 

「なにそれ……! 入場料! 儲けの山分け! 冒険者たちがアタシの作った迷宮で右往左往して悔しがるのを、安全な場所から見下ろしながらガッポリ稼ぐってこと!?」

 

「そういうこと。お前、根っからのお祭り好きだし、そういう悪巧みみたいな企画には目がないだろ? だから自分の権能の限界から何から、俺に全部ぶちまけて一緒に最高の迷宮を設計したんだよ」

 

「うわぁぁぁ、何それすっごく楽しそう! さすがアタシ! 未来のアタシ、めちゃくちゃ話がわかるじゃない!」

 

空中でくるくるとバレルロールを決めながら、ラミリスが歓喜の声を上げる。

ケーキという食欲だけでなく、彼女の根底にある『面白いことが好き』という部分と『金儲け』の琴線に完璧に触れたようだ。

 

「だからまあ、今回は順序が逆になっちゃったけど、ゆくゆくはあの闘技場を使ってお祭りをやるつもりだし、冒険者を呼び込んでのダンジョン運営も並行してやっていく予定だ。それまでには、100階層まで到達しておきたいんだよ」

 

「なるほどねー! そういうことなら話は別よ! アタシの威信にかけて、最高に意地悪で凶悪で、でも挑戦したくなるようなすっごい迷宮を作ってあげるわ!」

 

両手をグッと握り締め、やる気に満ち溢れた顔で宣言するラミリス。

 

「ああ、頼りにしてるぞ。とりあえず今は、地下100階層までの空間の拡張と、セーフエリアになる95階層の設定だけ進めておいてくれ。細かい罠やボスの配置は、追々俺も一緒に考えてやるから」

 

「任せなさいって! アタシの『迷宮創造』の本気、見せてやるんだから!」

 

ラミリスが再び巨大な扉に向き直り、魔力を練り上げ始める。

空間が震え、迷宮が地下深くへとその顎(あぎと)を伸ばしていくのが魔力感知を通して伝わってきた。

 

(よしよし、いいモチベーションだ。やっぱりラミリスはこうやって上手く乗せるのが一番だな)

 

俺は順調に進み始めた迷宮の構築作業を背中で感じながら、満足げに頷いた。

 

「それじゃあ、俺はさっき言った通り、表のお客さんたちの様子を少し見てくる。無理しすぎるなよ」

 

「はいはい、行ってらっしゃーい! あ、特大ケーキの催促だけは絶対に忘れないでよね!」

 

背後から飛んできたラミリスの声にひらひらと手を振り返し、俺は闘技場の地下空間を後にした。

 

地上に出ると、外はまだ明るい日差しに包まれていた。

幻惑魔法で姿と気配を消し、俺は足早に迎賓館の方向へと向かった。

 

 

 

 

迎賓館の重厚な扉の前に辿り着くと、中からは重苦しい沈黙と、誰かが深く息を吐き出す音が漏れ聞こえてきた。

どうやら、ちょうど話の肝となる部分の説明が終わったところらしい。

 

俺は気配を絶ったまま、少しだけ扉の隙間を開けて中の様子を窺った。

広い応接室の中央、上座のテーブルにはスライム姿の過去の俺が鎮座し、その背後にはベニマルやシオンが静かに控えている。

そして対面には、ファルムス王国辺境調査団のヨウムとその部下たち。

さらにその隣には、ブルムント王国のギルドマスターであるフューズと、カバル、エレン、ギドのお騒がせ三人組が、揃って頭を抱えたり、青ざめた顔で虚空を見つめたりしていた。

 

「はぁ…なんだ…つまり、俺に『オークロードを討伐した英雄』になれって、そういうことか……?」

 

ヨウムが、絞り出すような声で過去の俺に問いかける。

その額には滝のような冷や汗が浮かび、無精髭の生えた口元が微かに震えていた。

無理もない。

ただの辺境のチンピラ紛いの傭兵だった男が、いきなり「国を救った大英雄として人間社会と魔物の国の架け橋になれ」などと、歴史を動かすような大役を丸投げされたのだ。

 

「おいおい、冗談キツいぜリムルの旦那……。そんな大嘘、もしバレたら俺たち全員、国家反逆罪どころの騒ぎじゃ済まねえっすよ……!」

 

「そうよ! アタシたちまで共犯なんて聞いてないわよ!」

 

「ひぃぃ、俺たちの首が飛んじまうよ……」

 

カバルたちが半泣きで抗議し、ヨウムの部下たちも「マジかよ……」と頭を抱えている。

唯一、状況を冷静に分析できているフューズだけは、眉間を深く揉みほぐしながら低く呻き声を上げていた。

 

「……なるほど。確かに、ジュラの森にこれほどの魔物の独立国家が誕生したとなれば、西側諸国は間違いなく脅威と見なして十字軍(クルセイダーズ)を派遣してくる。それを防ぐためには、『人間の英雄』がこの国と協力関係にあるという大義名分が必要……。理にかなってはいるが、あまりにも盤面がデカすぎるぞ、リムル殿」

 

フューズの言葉に、過去の俺は「その通りだ」とコクリと(スライムの体を曲げて)頷いた。

 

「俺たち魔物は、人間と敵対するつもりはない。でも、向こうがそう思ってくれない以上、どうしてもヨウムのような『人間の顔』が必要なんだ。もちろん、危険な役回りだってことは分かってる。だから、強制はしない。……どうだ、ヨウム?」

 

過去の俺の真摯な問いかけに、ヨウムはギリッと奥歯を噛み締め、俯いたまま必死に思考を巡らせている。

圧倒的な力を持つ魔物の主からの提案。

断れば殺されるかもしれないという恐怖と、しかしそれ以上に、自分という男の器を信じてこれほどの大役を任せようとしてくれていることへの戸惑い。

 

(過去の俺のプレゼンは完璧みたいだな。…よし、ここは俺が決断の後押しをしてやるか)

 

そう判断した俺は、幻惑魔法を解除し、わずかに竜霊覇気を開放しつつ応接室の扉を開け放った。

 

「その危険に見合うだけの『対価』と『後ろ盾』なら、俺たちが責任を持って用意してやるよ」

 

不意に響いた俺の声に、ヨウムやフューズたちが弾かれたように入り口へと振り返る。

シズさんの面影を残す、銀髪に金瞳の美しい人型の姿。

しかし、俺が意図的に出している竜種クラスの覇気は、ヨウムたち人間からすれば、死神に直接喉元に刃を突きつけられたかのような絶対的な気配として感じられたはずだ。

 

「な、なんだテメェは……!?」

 

「ヒッ……!? な、なんすかこのヤバいオーラ……!?」

 

ヨウムたちが反射的に武器に手をかけようとするが、恐怖で体が竦んで動けない。

フューズに至っては、あまりのプレッシャーに息を呑み、椅子から崩れ落ちそうになっていた。

 

「あ、お疲れ! ちょうどいいところに来たな」

 

そんな極限状態の人間たちをよそに、上座の過去の俺が呑気に声をかける。

 

「な、なんだリムルの旦那……このバケモ……いや、とんでもないお人は……!?」

 

カバルが歯の根を合わさずに震えながら尋ねると、過去の俺はポンッと軽く跳ねた。

 

「ああ、紹介が遅れたな。こいつは俺の相棒というか……まあ、もう一人の『俺(リムル)』だと思ってくれればいい。色々と事情があってな、細かいことは気にしないでくれ」

 

「「「もう一人のリムルゥ!?」」」

 

応接室に、人間たちの見事なまでの絶叫がハモって響き渡った。

 

俺は悠然と部屋の中へと歩みを進め、青ざめるヨウムの正面に立ち、彼を真っ直ぐに見下ろした。

そして、空間収納から、事前にクロベエやガルムたちに打たせておいた特注の武具一式――ドワルゴンの最高技術と魔鋼を惜しみなく使った、本物の『英雄』に相応しい重厚な輝きを放つ装備を、ドサッとテーブルの上に展開してみせた。

 

鈍い、しかし極めて質の高い金属音が響き、応接室の空気が再び凍りついた。

テーブルの上に並べられたのは、漆黒の輝きを放つ大剣と、機能性と防御力を極限まで高めた全身鎧(フルプレートアーマー)のセットだ。

一目見ただけで、それが国宝級……いや、それ以上の逸品であることは、荒事を生業としてきたヨウムたちには痛いほどに理解できた。

 

「こ、これ……全部、魔鋼(まこう)製じゃねえか……!」

 

ヨウムの部下の一人が、震える指で鎧を指差す。

 

「嘘だろ……王国の近衛騎士団の団長クラスでも、こんな極上のモンはお目にかかれねえぞ……」

 

俺はヨウムたちの反応に満足しつつ、竜霊覇気をスッと引っ込めた。

途端に、部屋にいた人間たちが「ぷはっ!」「げほっ、げほっ!」と、水面に顔を出したように激しくむせ返り、肩で息をし始める。

 

「悪い悪い。ちょっと気合が入りすぎた。……さて、ヨウム」

 

俺は努めて友好的な笑みを浮かべ、テーブルの上の武具をトントンと指先で叩いた。

 

「お前が『英雄』を引き受けてくれるなら、こいつらは前払いとしてくれてやる。英雄ってのは、強さだけじゃなくハッタリも大事だからな。俺たちの国の最高技術の結晶だ、文句はないだろ?」

 

「これを……俺たちに……?」

 

ヨウムは信じられないという顔で、武具と俺の顔を交互に見比べた。

 

「それに、ただ名前だけの飾りにするつもりはない。うちの指南役であるハクロウに頼んで、お前たちが本物の『英雄』に相応しい強さを身につけられるように、みっちり鍛え直してやる。……もちろん、死なない程度にな」

 

背後に控えるベニマルとシオンが、俺の言葉に深く頷く。

 

「……」

 

ヨウムは無精髭を撫でながら、じっと考え込んだ。

ファルムス王国からは捨て駒として辺境の調査に送り出され、死んでも誰も悲しまないようなチンピラの集まり。

そんな自分たちを、圧倒的な力を持つ魔物の主が、これだけの対価と労力を払って『相棒』として迎え入れようとしているのだ。

 

「……へっ」

 

やがて、ヨウムの口から自嘲気味な、しかしどこか吹っ切れたような笑い声が漏れた。

 

「おいおい、冗談じゃねえぜ。魔物の親玉が、俺たち人間のクズどもをここまで信用してくれてるってのに……ここで尻尾巻いて逃げたら、男がすたるってもんだ」

 

「頭(かしら)……」

 

部下たちが、ごくりと生唾を飲み込んでヨウムを見つめる。

 

ヨウムは真っ直ぐに過去の俺と未来からきた俺を見据え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「……乗ったぜ、その話。俺の命、あんたらに預ける。今日から俺が、オークロードを討伐した英雄ヨウムだ。好きにこき使ってくれや」

 

「よく言った!」

 

スライム姿の俺が嬉しそうにポンと跳ねる。

 

「よし、契約成立だな。よろしく頼むぜ、英雄ヨウム」

 

俺も右手を差し出し、ヨウムとその手を力強く握り合わせた。

 

そのやり取りを、顔を引き攣らせながら見ていたフューズが、深いため息とともに天を仰ぐ。

 

「……はぁ。全く、とんでもない貧乏くじを引かされたもんだ。魔物の国が本物の英雄をでっち上げる瞬間に立ち会っちまうとはな」

 

「フューズ。あんたのところのギルドにも、協力してもらうぞ? ヨウムたちがオークロードを倒したっていう噂を、もっともらしく流してほしいんだ」

 

過去の俺が声をかけると、フューズは「分かってますよ」と面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「乗りかかった船ですからね。それに、あなた方のような存在を敵に回すくらいなら、共犯者になった方が国にとってもマシでしょうからね。……ブルムントのギルドマスターの権限にかけて、ヨウム殿を立派な英雄に仕立て上げてあげてみせますよ。カバル、お前たちも証人として一役買ってもらうからな」

 

「えええええっ!? 俺たちまでっすかぁ!?」

 

「も、もう嫌ぁ……なんでアタシたち、いっつもこんなトラブルのど真ん中にいるのよぉ……」

 

「諦めましょう、お嬢。リムルの旦那たちに逆らえるわけないっす……」

 

カバルたちが抱き合って涙目になる光景に、応接室の空気がようやくふっと緩んだ。

だが、その和やかな(?)空気を引き締めるように、フューズがわざとらしく咳払いを一つ落とした。

 

「……さて。ヨウム殿を英雄として擁立する件については、これで異論はありません。私も腹を括りましょう。ですが……」

 

フューズは鋭い、探るような視線をスライムの俺と、人型の俺へと交互に向けた。

 

「それとは別に、どうしても拭いきれない大きな疑問があります。……なぜ、リムル殿が『二人』おられるのですか? 分身魔法の類かとも思いましたが、どう見てもそれぞれが独立した意思と実体を持っているようにしか見えませんが」

 

その言葉に、カバルとギドがビクッと肩を揺らして激しく同調した。

 

「そ、そうっすよ! 俺もずっと気になってたっす! いくらなんでもリムルの旦那が二人いるなんておかしいっすよ!」

 

「オイラの盗賊の勘が、そっちの人型の旦那からとんでもねえヤバさを感じ取って、さっきから警鐘を鳴らしまくってるんすけど……!」

 

二人の言葉に後押しされるように、ヨウムも真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

 

「俺も知っておきたい。これからアンタらに命を預けて、世界中を騙す大芝居を打つんだ。俺たちが一体、どんな存在と手を組もうとしてるのか……教えてくれねえか」

 

彼らの真っ直ぐな、しかしどこか本能的な怯えの混じった視線。

俺はふっと目を細め、応接室の空気をもう一段階冷やすように、あえて重く低い声で告げた。

 

「……良いのか? これは正真正銘、世界の根幹に関わるようなトップシークレットだ。一度知ってしまったら、知る以前の日常にはもう後戻りはできないぞ?」

 

俺の凄みのある警告に、応接室に重い沈黙が降りた。

ごくり、と誰かが生唾を飲み込む音が、やけに大きく響く。

 

「……へっ、脅かさねえでくれよ。さっき自分の命はアンタらに預けるって言ったばかりだぜ。ここでビビって耳を塞ぐようなら、ハナから英雄になんてなれやしねえよ」

 

ヨウムが、額の汗を拭いながらもニッと不敵に笑う。

それに続くように、フューズも重々しく頷いた。

 

「同感だ。ブルムントの、いや人間の西側諸国の未来が懸かっているんです。相手の底知れなさを前にして、無知のままでいるわけにはいけませんからね」

 

「アタシたちだって、ここまで巻き込まれたら最後まで付き合うわよ!」

 

「お、お嬢がそういうなら、俺たちも腹を括るっす……!」

 

カバルやギドも、エレンの言葉に半泣きになりながらも同意した。

 

彼らの目には、恐怖を上回るだけの確かな覚悟が宿っていた。

これなら、真実を打ち明けても情報漏洩の心配はないだろう。

 

「……わかった。そこまで覚悟が決まってるなら、教えてやる」

 

俺はふっと微笑み、プレッシャーを完全に解いた。

そして、ヨウムの背後にいる調査団の男たちへと視線を向ける。

 

「ただし、この話は知る人間が少ないに越したことはない。悪いがヨウム、あんたの部下たちは別室で待機させてくれ。教えるのは、この場を仕切る代表のヨウム、フューズ、それに事の成り行きを最初から知っているカバルたち三人だけだ」

 

「……なるほどな。頭数が多いと、どこから情報が漏れるか分からねえからな。おいお前ら、リムルの旦那の言う通りだ。隣の部屋で待ってな」

 

ヨウムが顎でしゃくると、張り詰めた空気に耐えきれず限界寸前だった部下たちは、「へ、へい!」「失礼しやす!」と、逃げるように応接室から退出していった。

 

バタン、と重厚な扉が閉まる。

念のために俺が部屋全体に『防音結界』と『情報隠蔽』の魔法を展開すると、いよいよ外界から完全に隔離された密室が完成した。

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