【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第九章 時を越えた真実と反逆の誓い

 

部屋に残ったのは、俺と過去の俺。

そして護衛として控えるベニマルとシオン、過去の俺の影に静かに潜むランガだ。

対する人間側の五人――ヨウム、フューズ、カバル、エレン、ギド。

 

部屋には、針が落ちる音すら聞こえそうなほどの重い沈黙が落ちていた。

ベニマルとシオンは一言も発しない。

だが、その洗練された立ち姿と微かに漏れ出る覇気が、「我が主たちの言葉を心して聞け」という無言のプレッシャーとなって人間たちを押さえつけている。

過去の俺も、事の重大さを理解しているのか、少し緊張した面持ちで俺の言葉を待っていた。

 

全員の視線が、人型の俺の一挙手一投足に集中している。

俺はゆっくりと息を吸い込み、彼らの目を真っ直ぐに見据えて、真実を口にした。

 

「単刀直入に言う。俺は『未来』から時間を遡ってやって来た、リムル・テンペストだ」

 

「「「…………は?」」」

 

見事なまでに、五人の声が重なった。

ヨウムは口を半開きにして固まり、ヒューズは眉間を抑えたまま石像のように動かなくなり、カバルたち三人は目を点にして俺とスライムの俺を交互に見比べている。

 

「だから、未来から来たんだよ。とある事情から時間を遡ってきてな。」

 

「じ、時間を遡るゥ……!?」

 

ヒューズが、ついに耐えきれなくなったように裏返った声を上げた。

 

「ば、馬鹿な! そんな神話のおとぎ話みたいな魔法、実在するはずが……いや、しかし……!」 

 

ヒューズの視線が、過去の俺と人型の俺を激しく往復する。

同じ姿、同じ気配。

分身ではなく、完全に独立した二つの『リムル』という存在を前にしては、どれほど常識外れな事実だろうと信じざるを得ないのだろう。

 

「マジかよ……アンタ、魔物の親玉ってだけでも規格外なのに、時をかけるバケモノだったのか……」

 

ヨウムが呆然と呟く。

 

「オイラの盗賊の勘、これっぽっちも役に立ってなかったっすね……次元が違いすぎるっす……」 

 

ギドが完全に白旗を揚げたように天井を仰いだ。

 

「信じられないって顔だな。まあ、当然の反応だ」

 

俺は肩をすくめ、信じきれないといった様子で固まっているヨウムたちを見回した。

 

「なら、俺が本当に未来から来たっていう証拠に、今の俺たちが絶対に知るはずのない『隠し事』をいくつか指摘してやろうか」

 

そう言って、俺は視線をヨウムたちから滑らせ――ヒューズの後ろで縮こまっている三人組、カバルとギド、そしてエレンへと狙いを定めた。

 

「な、なんすか旦那……俺たちの顔に何かついて……」

 

俺はその時、彼ら三人の脳内にだけ直接『念話』を繋いだ。

国際問題になりかねない彼らの秘密を、フューズたちの前で公にするのはさすがに不味いと配慮したのだ。

 

(カバル、それにギド、エレン。お前たちは――)

 

俺はそこでわざと意味深に言葉を区切り…。

 

(ブルムントの自由組合(ギルド)じゃなくて、魔導王朝サリオンの皇帝直属部隊『メイガス』……と、家出同然で冒険者をやってる大貴族の令嬢『エリューン』、だろ?)

 

「「「ビクゥッ!?」」」

 

俺の念話に、三人組が揃って雷にでも撃たれたように飛び上がった。

 

「なっ……なんで俺たちがサリオンの『メイガス』だってことを!?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよリムルさん! アタシの本名が『エリューン』だってことや、サリオンの貴族の家出娘だってことは、ごく一部の人間しか知らない秘密事項なのに……!」

 

完全にパニックに陥った彼らは、あろうことか大声で、自分たちの絶対に知られてはいけない正体を復唱してしまった。

 

ピタリ、と。

応接室の空気が、先ほどまでの怯えとは全く違う、ひどく気まずく、そして鋭いものに変わった。

 

「な、なにっ!? サリオンのメイガスだと……!? 大貴族の令嬢!?」

 

一番驚愕していたのは、彼らの自爆発言を聞いてしまったフューズだった。

彼らをただの自分のギルドの組合員だと思い込んでいたフューズは、椅子からガタッと立ち上がり、カバルたちを信じられないといった目で見つめる。

 

「カバル、ギド! それにエレン! それは本当か!? お前たち、身分を偽ってブルムントに潜入していたというのか!」

 

フューズの怒鳴り声にハッとしたカバルは、自分たちが致命的な失言をしたこと、そして目の前のスライムが本当に自分たちの底の底まで知り尽くしていることを悟った。

カバルはいつもの情けない愛想笑いを浮かべることなく、無言でスッとエレンを庇うように立ち位置を変えた。

ギドも同様に、エレンの死角を完全にカバーするように動く。

その洗練された身のこなしと、一切の隙がない警戒態勢。

彼らの目つきが、お調子者のBランク冒険者のそれから、一流の暗殺者や護衛だけが持つ、氷のような冷徹な戦士の瞳へと一変する。

それが何よりの答えだった。

 

「……くそっ。自分たちでバラしちまったが、ただのカマかけじゃないみたいっすね。マジで、全部知られてるっすか」

 

ギドが、いつもの語尾を残しながらも、声のトーンを地を這うような低さへと変えて呟く。

エレンも顔面を蒼白にして、カバルたちの背後でガタガタと震えていた。

 

「エレンお嬢様! どうかお下がりを! 相手は魔王級の化け物が二体……いくら我々メイガスでも、ここでは分が悪すぎます!」

 

「ああ。だが、お嬢様の命に代えてもここから逃がす……!」

 

カバルとギドが、隠し持っていた真の武装――サリオンの高度な魔導技術で作られた武具に手をかけ、いつでも特攻できる態勢をとる。

 

「おいおい、落ち着けって。武器から手を離せ。……ていうか、俺は一応フューズの旦那たちに聞かれないように『念話』を使って配慮したつもりだったんだが、お前らが見事に自分で大声でバラしたんだぞ?」

 

俺は深い溜め息を吐きつつ、両手を上げて敵意がないことをアピールした。

過去の俺も、「未来の俺の言う通りだ、落ち着けお前ら」となだめている。

 

「だ、だけど……!」

 

「未来の俺がこれを思念で伝えたのは、単に『俺が本当に未来から来た』っていう証明のためだ。お前たちがサリオンの貴族と護衛だろうと、ブルムントの冒険者だろうと、俺たちにとっては『シズさんの最期を看取ってくれた恩人』であることに変わりはない。だから国際問題にするつもりもないし、今まで通り、カバル、ギド、エレンとして接してくれればそれでいい」

 

俺がはっきりとそう告げると、カバルとギドは互いに顔を見合わせ、やがてゆっくりと構えを解いた。

 

「……はぁ。本当に寿命が縮むかと思ったっすよ。まさかこんな辺境で、サリオン本国でも一部の者しか知らない機密事項をいきなり突きつけられるなんて……」

 

カバルが深いため息をつきながら、元の気のいい冒険者の顔に戻る。

 

「……信じるしかないようだな」

 

フューズが、ドサリと椅子に座り直して頭を抱えた。

 

「そう言うなよ、カバル。安心しろ、この秘密は決して未来のお前たちがうっかり漏らしたわけじゃないさ」

 

俺が苦笑しながらフォローを入れると、三人は不思議そうに顔を見合わせた。

 

「え? アタシたちがボロを出したわけじゃないなら、どうして……?」

 

「サリオンの天帝エルメシアが、俺と一緒に酒を飲んでる時に、面白半分で直接教えてくれたからな」

 

「「「て、天帝陛下がぁっ!?」」」

 

本日何度目になるか分からない、見事な三人分のハモリが応接室に響いた。

エレンに至っては白目を剥きかけている。

 

「ああ。ついでに言うと、その時隣に座って一緒に飲んでたエラルド公爵――エレンの親父さんが、『陛下! いくらなんでも国家の最高機密を、他国の者にそう簡単にペラペラと話されては困ります!』って、涙目でめちゃくちゃ抗議してたけどな。エルメシアは『固いこと言うな』って笑って聞き流してたよ」

 

「お、お父様……! じゃなくて、呼び捨て!?」

 

「サリオンの天帝陛下を呼び捨てにして、酒を飲み交わす仲……だと……?」

 

エレンは頭を抱えてしゃがみ込み、ヒューズは再び胃の辺りを強く押さえた。

もはや、彼らの常識のキャパシティは完全に限界を突破しているようだった。

 

「まあ、そういうわけだ。未来の俺は、サリオンのトップともそういう個人的な繋がりを持てるくらいには、一応『人間社会の裏側』まで深く入り込んでる。だからこそ、今のこの西側諸国の危うい状況も、これから起こる悲劇も、すべて知っているんだ」

 

俺はわざとらしく作っていた軽い空気をスッと消し、再び静かな、しかし重みのある声でヨウムたちを見据えた。

 

「俺が時間を遡ってまで変えようとしている悲劇。……それは、いずれファルムス王国が数万人規模の軍勢を率いて、このテンペストに一方的な侵略戦争を仕掛けてくるという未来だ」

 

ピクリ、と。ヨウムの肩が大きく跳ねた。

ヒューズの目にも、先ほどまでの混乱とは違う、為政者としての鋭い光が戻る。

 

「数万……だと? ファルムスが、正規軍だけではなく傭兵まで根こそぎかき集めて、この森を本気で焼き払いに来るというのか……?」

 

「そうだ。そして俺の知る歴史では、その戦いの火蓋が切られた時……俺たちの対応が後手に回ったせいで、この町に住む多くの仲間たちが、シオンを含めて無惨に殺された」

 

背後に控えるシオンが、俺の言葉にわずかに息を呑む気配がした。

過去の俺も、押し黙ったまま静かに俺の言葉を聞いている。

 

「俺は、二度と同じ轍は踏まない。その侵略軍を完璧に迎え撃ち、テンペストの仲間を誰一人として死なせないために、こうして過去の俺に協力している。そして、ファルムスの軍勢を壊滅させた後、欲にまみれた今のファルムスの王を玉座から引きずり下ろす。……その後のファルムスを、新しい王として平和的に治める『人間の顔』が必要なんだ」

 

俺はそこで言葉を切り、真っ直ぐにヨウムの目を見つめた。

 

「お前を『オークロードを討伐した英雄』に仕立て上げるのは、そのための布石だ。いずれお前には、ファルムスの新王になってもらう。……改めて聞くが、ヨウム。俺たちと一緒に、世界を引っくり返す覚悟はあるか?」

 

「お、王……? 新王だと……!?」

 

ヨウムが、まるで頭をハンマーで殴られたかのような顔で、テーブルの上の魔鋼の鎧に手をついた。

 

「英雄の次は、一国の王様かよ……。冗談も休み休み言ってくれ。俺はスラム上がりのチンピラだぜ? 読み書きだって怪しいし、貴族の作法なんて一つも知らねえ。そんな俺が、大国ファルムスの玉座に座るなんて……」

 

「だから、その後ろ盾になるって言ってるんだよ」

 

俺はヨウムの言葉を遮り、力強く断言した。

 

「教養や作法が足りないなら、うちの優秀な文官たちを派遣して徹底的に叩き込んでやる。貴族どもが反発するなら、英雄であるお前の武力と、背後にいる魔国連邦(テンペスト)の圧倒的な軍事力で黙らせる。それに、仮に戦争になったとしても、ボロボロになったファルムスの経済を立て直すための資金や技術も、俺たちが全面的に支援する」

 

俺の言葉に、ヨウムは息を呑んで絶句した。

 

「お前には、人間を引き付けるカリスマがある。下層民の痛みが分かるお前なら、欲にまみれた今のクソ王より、よっぽど民草のためのいい国を作れるはずだ。……それに、お前自身にも守りたいモンや、成り上がってやりたいって野心くらいはあるだろ?」

 

ヨウムの脳裏に、外で待たせている部下たちの顔がよぎったのだろう。

彼らをただの捨て駒で終わらせず、国を動かす中枢へと引き上げる。

それは、スラムで泥水をすすってきたヨウムにとって、どれほど荒唐無稽でも、決して抗えないほどの魅力的な提案だったはずだ。

 

「……」

 

ヨウムは再び深く沈黙し、ギリッと拳を握りしめた。

 

その横で、ヒューズが信じられないものを見るような目で俺を見上げていた。

 

「数万の軍勢を……壊滅させる…? リムル殿、あんた自分がどれほど恐ろしいことを言っているか分かっているのですか。西側諸国のパワーバランスが一夜にしてひっくり返る。おまけにファルムスを内部から乗っ取り、新王を擁立する……そんなことが世間に知れ渡れば、神聖法皇国ルベリオスや西方聖教会が黙っていませんよ!」

 

フューズの血を吐くような悲鳴に近い抗議に、俺は涼しい顔で頷いた。

 

「もちろんだ。だから俺たちに悪評が向かない手段だって、ちゃんと考えてあるさ。カバルたちやフューズの旦那に情報操作を頼むのもそのためだしな」

 

俺はあっけにとられるフューズに、さらにとんでもない事実を投下した。

 

「それに、もし戦争になってファルムス軍に死者が出たとしても、あとで生き返らせればいいだけの話だからな」

 

「「「…………は?」」」

 

本日三度目となる、見事なハモリが応接室に響き渡った。

ヒューズは今度こそ椅子から滑り落ちそうになり、机に両手をついてどうにか堪える。

 

「い、生き返らせる……!? 死者を蘇生させるだと!? 神の奇跡でもあるまいし、しかも軍勢を相手に……!?」

 

「ああ。俺は、条件さえ揃えば死んだ人間を完全に蘇生させる術をすでに身につけてる。だから最悪、十万の軍勢を魔法で一網打尽にして心をへし折った後、生き返らせて『降伏』させちまえばいい。そうすれば、死者はゼロだ」

 

俺が平然と言ってのけると、応接室は水を打ったような、いや、絶対零度に凍りついたような静寂に包まれた。

時間を遡るだけでも神話級の御業なのに、あまつさえ死者の大規模な蘇生までやってのける。

もはや彼らの目の前にいるのは、魔物の主などという枠に収まる存在ではなく、文字通りの『神』や『悪魔』の類だった。

 

「……」

 

カバルとギドは完全に魂が抜けた顔になり、エレンは「アタシ、とんでもない人とマブダチになっちゃったかも……」と虚空を虚ろな目で見つめている。

 

ヒューズは完全に魂が抜けた顔になり、ヨウムも口を開けたままフリーズしている。

 

そんな極限の、人間の理解を完全に超越した空気の中。

 

「はぁ……未来の俺のデタラメっぷりには、もう大抵のことじゃ驚かないつもりでいたけどさ。逆に、いずれ『俺』がここまで躊躇なく規格外のことをやらかすようになるって事実の方がこえーよ……」

 

過去の俺が、やれやれと深くため息をついた。

ここ数日で未来の自分のやりすぎな行動を散々見せられてきたせいか、もはやドン引きを通り越して諦めの境地に達しているようだ。

 

そのぼやきに、カバルたち三人組が弾かれたように激しく頷いた。

 

「わ、わかる! めっちゃわかるよリムルさん! 未来のリムルさん、ヤバすぎてアタシ本当に息止まりそうだったもん!」

 

「全く同感っす……! 未来の旦那、もはや魔王とか通り越してただの神様じゃないっすか……。俺たち、神様の秘密を知っちまったんすね……」

 

「オイラたちの心臓、これじゃいくつあっても足りねえっすよぉ……」

 

エレン、カバル、ギドが過去の俺の周りに集まり、うんうんと涙目で慰め合うように共感している。

そのあまりにも場違いで緊張感のないやり取りに――。

 

「……ははっ。ははははっ!」

 

唐突に、ヨウムが腹を抱えて乾いた笑い声を上げた。

 

「おいおい……時を遡って、死者まで蘇らせる。そんなデタラメな神様みたいな連中が、俺たちみたいな下っ端のチンピラに、わざわざ大芝居の相棒を頼み込んでるんだぜ? これを断って逃げるなんて、男として最高にダサい生き方じゃねえか」

 

ヨウムはテーブルの上の魔鋼の大剣をガシッと掴み上げると、その重厚な刃をじっと見つめ、やがて獰猛な笑みを浮かべた。

 

「やってやるよ。英雄でも、新王でも、なんだってなってやる。十万の軍隊だろうが神聖法皇国だろうが、アンタらが後ろ盾にいるなら、負ける気もしねえしな。……俺は、外で待たせてる俺の部下たちに、腹いっぱい美味い飯を食わせてやりたい。そのために、アンタらの壮大な計画に乗るぜ」

 

迷いの消えたヨウムの力強い宣言に、過去の俺は嬉しそうにポンと跳ね、俺も満足げに頷いた。

 

「よし、よく言った。お前ならそう言ってくれると信じてたぞ、ヨウム」

 

「へっ、買い被りすぎだ。で? ギルドマスターの旦那はどうするんだい。俺はもう完全に首を突っ込んじまったが」

 

ヨウムがニヤリと笑って視線を向けると、フューズは深々と何度目か分からないため息をつき、乱れた襟元を正した。

 

「……ふん。私が断れるとでも思っているのか? こんな恐ろしい計画、ブルムント王国を蚊帳の外に置かれたら、それこそいつ国が吹き飛ぶか分かったものではからな。西側諸国を欺く大芝居、ブルムントのギルドを挙げて全力で協力させてもらおう」

 

「助かるよ、フューズ。あんたの機転と情報網が頼りだからな」

 

俺が声をかけると、フューズは疲労困憊といった顔で頷きつつ、カバルたちを睨みつけた。

 

「カバル、ギド、エレン。お前たちもだぞ。サリオンの密命があるのかもしれんが、今は私の部下として、ヨウムを英雄に仕立て上げる手伝いをしてもらう」

 

フューズはそこで一度言葉を切り、深く息を吐き出してから、一国の情報網を束ねるギルドマスターらしからぬ言葉を口にした。

 

「……その代わり、今日ここで聞いたお前たちの正体は、特別に国王陛下にも他の者にも秘密にしておいてやる。私の胸の内にだけ留めておくという、立場を逸脱した最大の譲歩だ。……だから、命が惜しければ全力で働け」

 

「ギルドマスター……!」

 

「い、言われなくても全力で協力するっす!」

 

「アタシ、もう実家に帰りたいよぉ……」

 

フューズの思いがけない配慮(と、その裏にある強烈な脅し)に、カバルたちは泣きそうな顔で何度も頷いた。

 

 

これで、ようやく役者が揃った。

未来の知識と圧倒的な武力を持つ俺たち魔国連邦(テンペスト)。

人間の顔として祭り上げられるヨウム一行。

そして、彼らを裏から支援し、情報を操作するフューズとカバルたち。

 

「それじゃあ、これからの具体的な方針を決めていくぞ」

 

俺はテーブルを指先で叩き、全員の視線を集めた。

 

「まずヨウムと部下たちだが、明日からさっそくうちの指南役であるハクロウのしごきを受けてもらう。英雄を名乗る以上、最低限のハッタリが利く強さと、集団戦の動きを身につけてもらう必要があるからな」

 

「しごきって……アンタんとこの指南役って、どれくらい強いんだ?」

 

「そうだな。お前たちの部隊全員が束になっても、木刀一本で一分以内に全員気絶させられるくらいには強い」

 

「……マジかよ。死なねえ程度に頼むぜ……」

 

青ざめるヨウムをよそに、俺はヒューズたちに向き直る。

 

「フューズとカバルたちは、ブルムントに戻り次第、ヨウムたちの噂を流し始めてくれ。『オークロードを討伐した若き英雄が、ファルムス王国から現れた』とな。うちの国も、その英雄との協力関係を大々的にアピールする」

 

「分かった。自由組合(ギルド)の情報網を使えば、噂を西側諸国全体に広めるのはそう難しくない。だが、ファルムス本国が『そんな部隊は派遣していない』と否定してきたらどうする?」 

 

「そこが狙い目さ」

 

過去の俺が、俺の言葉を引き継ついだ。

 

「ヨウムたちはあくまで『辺境調査団』の末端だ。国が切り捨てようとした連中が、勝手に大功績を上げて周辺諸国で英雄扱いされ始めたら……欲深いファルムスの王や貴族たちは、絶対にその功績を自分たちの手柄として横取りしたくなる」

 

「あえて手柄を主張させ、ファルムス側から『ヨウムは我が国の英雄だ』と公式に認めるよう仕向けるわけか。……えげつない手だ」

 

フューズが唸り声を上げ、ヨウムも「なるほどな」と感心したように無精髭を撫でた。

ファルムス王国が自らヨウムを英雄と認めれば、その後、彼が国を乗っ取った際の正当性が強固になる。

すべては、来るべきファルムス侵攻軍を完封し、その後の国取りをスムーズに進めるための盤面作りだ。

 

「ああ、そうだ。フューズ」

 

俺は思い出したように、ブルムントのギルドマスターへと視線を向けた。

 

「細かい話は後で過去の俺から正式な提案があるとは思うが……実は未来の歴史だと、うちの国とブルムント王国は正式に国交を開いて、強力な同盟関係を結んでるんだ」

 

「なんと……我が国と、魔物の国が国交を……」

 

「ああ。だからこの時代でも、早速お互いの国同士を結ぶ『直通の街道』を建設したいと思ってる。物理的な距離が縮まって安全な交易ルートができれば、物流も盛んになって互いに莫大な利益が出るはずだ。……あんたの口から、国王や上層部にも前向きに検討するよう口添えしておいてくれよ」

 

フューズは驚きに目を丸くした後、すぐに為政者としての鋭い顔つきに戻り、深く頷いた。

 

「……なるほど。数万の軍勢を退けるほどの武力と、死者すら蘇らせる魔術、おまけに他国を内部から乗っ取るほどの策謀……。そんな国と敵対するより、いち早く街道を繋いで物流の拠点となる方が、我が国にとってどれほど有益となるか。いいでしょう、国王陛下には私から必ず話を通しましょう」

 

「大枠の計画はそんなところだ。細かい打ち合わせは明日以降、過去の俺と一緒に詰めてくれ。……俺はそろそろ、裏方の仕事に戻るよ。待たせている『大事なお客さん』もいるんでな」

 

俺がそう言って立ち上がると、ヨウムやヒューズたちは、先ほどまでの怯えを幾分か和らげた表情で頷いた。

彼らの中で、俺たちへの恐怖が「頼もしい共犯者」への信頼に変わり始めている証拠だ。

 

「よし、じゃあ今日のところは解散! 外で待たせてるヨウムの部下たちも呼んで、今夜は盛大に宴会といくか!」

 

過去の俺の明るい宣言で、重苦しかった応接室の空気が一気に弛緩した。

俺は幻惑魔法で再び姿と気配を消し、静かに迎賓館を抜け出すと、ラミリスが待っているであろう闘技場予定地の方へと向かった。

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