【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第二章 迫り来る空の災厄

執務館に設けられたテンペストの中央指令室。

普段は町づくりの図面が広げられている大きな円卓には、今やジュラの大森林周辺の広域マップが広げられていた。

部屋には、俺と過去の俺、そしてベニマルをはじめとする幹部たちが険しい顔つきで勢揃いしている。

トレイニーも、回復したトライアを安全な場所で休ませた後、会議に合流していた。

 

「――状況を整理する」

 

俺は卓上のマップを指差し、全員を見渡した。

 

「先ほどソウエイの偵察部隊が確認した情報によると、暴風大妖渦(カリュブディス)はジュラの大森林の奥深くで突如として復活を遂げ、現在上空を真っ直ぐ南東に向かって移動中だ。奴が従えている空泳巨大鮫(メガロドン)の群れは、およそ十数体。……いや、さらに増殖している可能性もある」

 

元の歴史ではメガロドンは十三体だったが、魔素量が本来の二倍にまで膨れ上がっている今回、取り巻きの数も増えていると考えるのが自然だ。

 

「問題なのは、奴の進軍ルートだ。このまま真っ直ぐ進めば……」

 

「武装国家ドワルゴンと我が国を繋ぐ、すでに開通した街道と完全に被りますな」

 

ハクロウが腕を組みながら、渋い声で補足した。

 

「その通りだ。あの街道には、今まさにドワルゴンや他国の商人、旅人たちが絶えず行き交っている。カリュブディスの奴、まるで俺たちの生命線をわざと狙い撃ちにするようなコース取りだ」

 

俺の言葉に、カイジンがギリッと歯噛みした。

 

「くそっ、あそこは交易の要になる一番大事な道だぞ。空からの無差別攻撃なんか喰らったら、街道の設備が破壊されるだけじゃなく、大勢の商人に犠牲者が出ちまう!」

 

「すでに各所の警備隊やゲルドたちには連絡し、街道の完全封鎖と、現在通行中の者たちを最寄りの安全地帯へ急ぎ避難させるよう指示を出してある」

 

ベニマルが冷静に答える。

 

「だが、街道の全長を考えれば全員の避難完了には時間がかかる。奴の進行速度を考えれば、このままでは避難の最後尾が追いつかれるか、最悪の場合、苦労して造り上げた街道そのものが蹂躙されるのは避けられないだろうな」

 

「それは困るのだ! あの道を使って、ドワルゴンから美味しいお酒や食べ物がいっぱい運ばれてきているところなのだぞ!」

 

いつの間にか会議室の窓枠に座っていたミリムが、ぷりぷりと怒りながら足をバタバタさせた。

 

「リムル! ワタシが行って、あんなデカブツ一発で消し飛ばしてきてやるのだ!」

 

「いや、待て待てミリム。お前の気持ちは嬉しいが、ここでお前の技なんかブッ放してみろ。カリュブディスと一緒に、完成したばかりの街道も森も、ついでにこの町の一部まで消し飛ぶぞ」

 

過去の俺が慌ててミリムを制止する。

事実、ミリムの手加減なしの広域殲滅攻撃は被害規模が大きすぎる。

それに、今回のカリュブディスの狙いは他でもないミリム自身だ。

下手にミリムを前面に出せば、カリュブディスの怒りを煽り、被害が予想外の方向へ拡大する恐れがある。

 

「ここは俺たち自身が対処するのが一番なんだ。今後を見据えて皆が実戦経験を積むのにもな。ミリムは切り札として、どうしても手が足りなくなった時のために温存させてくれ。頼む、この通りだ」

 

俺が過去の俺と一緒に頭を下げて頼み込むと、ミリムは「むー……」と不満そうに唇を尖らせたが、「……お前たちがそこまで頼むなら、仕方ないのだ。ワタシは大人しく見学しててやるのだ!」とふんぞり返った。

 

俺の知る歴史通りにカリュブディスの狙いがミリムだとはっきりしたときは手を借りようと思うが、それまでは『この時代の』俺たちがどれだけカリュブディスに肉薄できるか最大限試してみようと思うのだ。

 

「さて。奴を街道や町に到達させる前に、この森の上空で確実に迎撃し、墜落させる必要があるわけだが……奴の厄介な点は三つある」

 

俺は円卓を囲む幹部たちに向けて、未来の知識として持っているカリュブディスの能力を開示した。

 

「一つ、奴は常に空を飛んでいる。二つ、さっきも言った通り、周囲に無数の『空泳巨大鮫(メガロドン)』という眷属を従えて防壁にしている。そして三つ目――奴は『魔力妨害』と『超速再生』いう厄介な能力を持っていて、魔法攻撃の大半を無効化し、生半可な攻撃は直ぐに回復してしまう」

 

「魔法が効かない上に超速再生ですか。それはまた面倒な相手ですね」

 

ベニマルが腕を組み、面白そうに、だが油断なく口元を歪めた。

 

「ああ。だから、精霊魔法や純粋な魔力による砲撃は決定打にならない。奴にダメージを与えるには、極限まで練り上げた『闘気(オーラ)』を武器に乗せて叩き込むか、再生が追い付かないほどの破壊力で圧殺するしかない」

 

「なるほど。ならば、斬り伏せ甲斐があるというものですな」

 

ハクロウが腰の刀の柄に手を当てて静かに目を細める。

 

「ですが未来のリムル様、空を飛ばれていては、我らの剣が届きませんよ?」

 

シオンがもっともな疑問を口にした。

 

「そこだ。まずは邪魔な取り巻き――メガロドンの群れを引き剥がしつつ、本体であるカリュブディスを地上に引きずり下ろす必要がある」

 

俺はマップ上、テンペストから街道へと向かうルートの途中に広がる、森の一帯を指差した。

 

「迎撃ポイントはここだ。この地点で奴らを迎え撃つ」

 

「空中戦なら、俺たちも役に立てると思うぞ」

 

過去の俺が提案してきた。

彼の背後には、いつの間にか俺たちの影から顔を出したランガが控えている。

 

「ランガの『黒雷嵐(デスストーム)』なら、メガロドンを空中でまとめて蹴散らせるんじゃないか? 魔法じゃなくて、雷や竜巻による物理的な自然現象の操作なら『魔力妨害』も関係ないだろ?」

 

「その通りだ。メガロドンの迎撃と足止めは、ランガと過去の俺、それに……」

 

「空の敵なら、我ら飛竜衆にお任せを!!」

 

円卓の横から、やたらと暑苦しい、だが頼もしい声が響いた。

いつの間にか会議室に駆けつけていたガビルだ。

彼は手にした水渦槍(ボルテクススピア)をビシッと構え、自信満々にポーズを決めている。

 

「おお、ガビル。お前たち飛竜衆の機動力なら、メガロドンの相手にはうってつけだな。頼んでいいか?」

 

「ははっ! このガビル、リムル様のご期待に必ずや応えてみせますぞ! さあ、行くぞお前たち!」

「「「ガビル様、ガビル様、ガビル様!!」」」

 

どこからともなく現れた部下たちに持ち上げられ、ガビルは意気揚々と出撃の準備に向かっていった。

相変わらず調子がいいが、空中戦において彼らは欠かせない戦力だ。

 

「よし。取り巻きはガビルたちと、過去の俺&ランガの機動力で削る。ベニマル、シオン、ハクロウ、ソウエイは地上に陣取り、近づいてきたメガロドンを確実に仕留めろ」

 

「「「はっ!!」」」

 

「そして……肝心の本体だが」

 

俺は改めて、過去の俺と視線を合わせた。

 

「メガロドンの数が減り、防御陣形が崩れたところで、俺と過去の俺の二人でカリュブディス本体を叩き落とす。一撃で地上に引きずり下ろすぞ」

 

「ああ、わかった。未来の俺との連携攻撃だな。ぶっつけ本番だが、なんだか上手くやれる気しかしないよ」

 

過去の俺が自信ありげに揺れる。

同じ魂、同じ思考回路を持つ俺たちなら、言葉を交わさずとも完璧な連携が組めるはずだ。

 

「私も、微力ながら森の精霊たちに呼びかけ、空中の気流を操作して奴らの動きを制限しましょう」

 

トレイニーも静かに申し出てくれた。

 

「助かるよ、トレイニーさん。無理のない範囲でサポートを頼む」

 

俺はそこで言葉を区切り、影に控える隠密へと視線を向けた。

 

「ソウエイ、出撃前にもう一つ頼みがある。オーガの里と、武装国家ドワルゴンに大至急、緊急の報せを出してくれ」

 

「カリュブディス復活、ならびに我が国での迎撃態勢への移行、ですね」

 

「ああ。万が一、討ち漏らしたメガロドンがそっちに流れたら大惨事になる。念のため、向こうでも警戒レベルを最大まで上げるように伝えてほしい。特にドワルゴンは街道の先だからな」

 

「御意。直ちに手配いたします」

 

作戦の骨子は固まった。

相手は、本来の歴史の二倍の力を誇るバケモノ。

だが、俺たちの手札も、かつてとは比べ物にならないほど分厚く、強靭だ。

 

「よし、各部隊、出撃! 迎撃ポイントに急行しろ!」

 

俺の号令とともに、テンペストの最高戦力たちが一斉に動き出した。

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