【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第四部
序章 王都の朝


朝の眩しい光が、安宿の薄いカーテン越しに部屋の中へと差し込んでくる。

窓の外からは、西側諸国の中心地である王都イングラシアを行き交う人々の活気ある声や、馬車の車輪が石畳を叩く音が絶え間なく聞こえていた。

 

「……朝、か」

 

俺はベッドからゆっくりと身を起こし、小さく息を吐いた。

昨夜の出来事が、まるでタチの悪い幻覚だったかのように、王都の朝はどこまでも平和で日常的な空気に包まれている。

 

未来の歴史から、突如としてこの過去の時間軸に送り込まれてから数ヶ月。

俺は悲劇の運命を塗り替えるため、過去の自分を陰から導き、数々の歴史改変を行ってきた。

豚頭帝(オークロード)の討伐、本来の二倍の力を持っていた暴風大妖渦(カリュブディス)の殲滅、そして昨日成し遂げたばかりの、世界を裏で操る『中庸道化連』のトップであるユウキやカガリとの極秘同盟。

 

俺の未来の知識と圧倒的な力、そしてシエルの完璧な演算サポートによって、盤面はこれ以上ないほど順調に進んでいるはずだった。

 

だが――昨夜、一人で寛いでいたこの部屋で起きた異常事態。

俺をこの過去へ送り込んだ謎の存在が告げた『再びイヴァラージュに勝利する』という不条理なクリア条件。

そして、俺の精神の奥底に直接干渉し、耳元で重なり合うように囁きかけてきた、得体の知れない『三つの声』。

 

(シエル。……昨日の謎の『干渉』について、何か新しいことは分かったか?)

 

俺が脳内で呼びかけると、絶対の信頼を寄せる相棒からは、どこか悔しさを滲ませたような声が返ってきた。

 

《……申し訳ありません、マスター。昨夜の事象に関する痕跡を全領域で再解析していますが、送信元はおろか、干渉に使われた術式の法則すら特定に至っておりません。ただ一つ言えるのは、あれが次元の壁を越えてマスターの魂そのものに直接アクセスを試みた、極めて高位の精神攻撃、あるいは接触であったということだけです》

 

(シエルが解析できないほどの術式、か……。やっぱり、ただの過去へのタイムスリップってわけじゃなさそうだな)

 

昨夜、ほんの数秒とはいえ、シエルとの繋がりが強制的に遮断された時のあの底知れぬ悪寒。

あれほどの力を持つ存在が、明確な悪意(あるいは執着)を持って盤面の外側から俺たちを狙っている。

「歴史を都合よく書き換えてハッピーエンド」という甘い見通しは、完全に捨て去るべきだろう。

 

「……まあ、いくら悩んだところで今は手掛かりゼロだ。相手がどこの誰であろうと、仕掛けてきたら真正面から叩き潰すだけさ」

 

俺はベッドから降り、ぐっと両腕を伸ばして凝り固まった体をほぐした。

見えない敵の影に怯えて、立ち止まっている暇はない。

今日からいよいよ、イングラシア王国での本来の目的が始まるのだから。

 

「さて、と。過去の俺も、そろそろ動き出す時間だな」

 

今日は、過去の俺が自由組合の総帥であるユウキの紹介状を手に、『自由学園』へと赴く日だ。

昨日はユウキと共に学園の下見をしたと言っていたから、今日からが本格的な過去の俺の教師デビューとなるはずだ。

 

シズさんの最大の未練であり、理不尽な召喚によって短い命を背負わされた五人の子供たち。

彼らを救うための、過去の俺の特任教師としての新たな戦いが幕を開ける。

 

(あっちの表舞台は、過去の俺に任せておけば問題ないだろう。元の歴史でもきっちりやり遂げたことだしな)

 

俺が今日向かうべき場所は、あいつの影の中ではない。

昨日、中庸道化連のトップ二人と交わした極秘同盟。

クレイマンを近藤の精神支配から解放し、東の帝国の暗躍を未然に防ぐための、具体的な作戦会議が待っているのだ。

 

「さて、俺も仕事に行くとするか」

 

俺は再び『隠蔽』のスキルを展開し、誰の目にも触れない透明な存在へと姿を変えた。

窓から王都の青空へとふわりと飛び立ち、過去の俺が向かう学園とは別の方角――ユウキとカガリが待つ、自由組合(ギルド)本部へと向けて、静かに飛翔を開始した。

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