【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~ 作:Hyades
少しだけ、時計の針を遡る。
二人のスライムが、中庸道化連のトップ二人と極秘の同盟を結ぶ数日前のこと。
傀儡国ジスターヴ。
その中心にそびえ立つ城の奥深く、薄暗い執務室の中で、魔人ミュウランは主である魔王クレイマンの前に静かに片膝をついていた。
ジュラの大森林に興った新興国――魔国連邦(テンペスト)の調査に赴いていた彼女は、未来のリムルに助けられた後、偽りの報告を行うため、一時的にこの城へと帰還していたのだ。
「――以上が、私がかの町を偵察して得た情報の概略です。クレイマン様」
ミュウランは頭を垂れたまま、張り詰めた声で報告を締めくくった。
「魔人たちが集って作られた町ではありましたが、特筆すべき軍事力は見当たりません。例のカリュブディスの件も、たまたま滞在していた魔王ミリムが戯れに単独で滅ぼしただけであり、盟主を気取るスライム自身には脅威となるほどの力はないかと。……念のため、さらに時間をかけて深く内部へ潜入し、慎重に内情を探るべきと考えますが」
「……私の計画に意見をするとは、ずいぶんと偉くなったものですね。ミュウラン」
静かな、しかし確かな冷酷さを孕んだ声が執務室に響いた。
クレイマンは手元のワイングラスをゆっくりと揺らしながら、見下すような視線をミュウランへと向ける。
「慎重に探る…? 道具の分際で、この私の計画を先延ばしにしろとでも言うつもりですか。たかがスライム一匹が盟主を気取っているだけの、烏合の衆の吹き溜まりを相手に」
優雅な振る舞いの中に底知れぬ圧を込め、ミュウランを萎縮させようとするクレイマン。
だが、その冷徹な仮面の奥にある瞳には、ひどく濁った狂気が渦巻いていた。
本来の『人形傀儡師(マリオネットマスター)』たる彼は、もっと狡猾で、慎重な策士であったはずだ。
相手の戦力を分析し、裏から手を回して同士討ちを狙うのが彼の手口である。
だが、今の彼の中には、何かに急き立てられるような不自然な『焦燥感』が常に付きまとっていた。
早く手柄を立てなければ。
早く覚醒魔王にならなければ。
早く、早く、早く――。
その思考が、彼自身の意志によるものなのか、あるいは『裏に潜む何者か』によって巧妙に誘導されたものなのか、今のクレイマンには知る由もない。
「いいでしょう、ミュウラン。お前はあの町に戻り、内部からかき回す準備を進めなさい。近々、ファルムス王国が強欲な理由でテンペストへ侵攻を仕掛けるよう、私が裏で手を引いています。お前はファルムス軍が到着するタイミングに合わせて、あの町に『大魔法』を展開しなさい」
「大魔法、ですか……?」
「ええ。町中の魔素の動きを封じる『魔法不能領域(アンチマジックエリア)』です。人間どもの軍勢が蹂躙しやすいように、下準備をしておきなさい」
その非情な命令を告げると、クレイマンは意地悪く口角を上げ、手元にある小さな箱をコツコツと指先で叩いた。
そこに入っているのは、彼がミュウランを支配するために奪い取った心臓――彼女の『命』そのものである。
「……できるでしょう? 貴女の命は、私が握っていることを忘れないように」
「っ……承知、いたしました……」
ミュウランは絶望に染まったような悲痛な顔を作り、深く、深く頭を下げた。
クレイマンはそれを見て満足げに鼻を鳴らす。
だが――頭を下げたミュウランは、その内側で密かに冷たい安堵の息を吐いていた。
(滑稽な男……。あなたが大事そうに握っているその心臓は、もはやただ魔力で鼓動を刻むだけのハリボテだというのに)
彼女の命を縛っていた呪縛は、未来から来た魔王の手によってとうの昔に解除されている。
彼女の胸にはすでに代わりの心臓が戻っており、箱の中身は精巧な偽物にすり替えられていた。
クレイマンの脅しは、今のミュウランにとっては何の効力も持たない。
彼女は今や、自分を救い、仲間の居場所を与えてくれたリムルたちテンペストを守るための『逆スパイ』として、完璧な操り人形を演じているだけなのだ。
「下がりなさい、ミュウラン。ファルムス軍が動くまで、決してボロを出さないように」
「はっ」
ミュウランが一礼して執務室を後にすると、クレイマンは一人、誰もいない部屋で歪な笑みを浮かべた。
「忌々しいスライムめ。ファルムスの軍勢によってお前が大切にしている国が踏みにじられる様を、絶望と共に味わうがいい」
自身の背後に全く別の強大な思惑が忍び寄っていることにも、自分の足元がすでに未来のリムルたちによって完全に崩されていることにも気づかぬまま。
哀れな道化は、誰もいない部屋で狂気じみた高笑いを響かせた。
*
イングラシア王国、王都にそびえ立つ自由組合(ギルド)本部。
その最上階にある総帥(グランドマスター)の執務室では、最高ランクの防音と魔力遮断の結界が何重にも張り巡らされていた。
部屋の中には、総帥である神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)と、その有能な秘書に扮した元魔王――カガリ(カザリーム)の二人だけ。
彼らは本来の業務を一時的に止め、誰かが来るのを静かに、だが確かな緊張感を持って待ち構えていた。
「――お待たせ。ちゃんと結界は張ってあるみたいだな」
不意に、部屋の中心の空間が陽炎のように揺らいだかと思うと、そこに一人の銀髪の魔人――未来から来たリムル・テンペストが、音もなく姿を現した。
「……相変わらず、デタラメな隠密術ですね。これだけ警戒して探知網を広げていたのに、結界をすり抜けて実体化するまで魔素の揺らぎ一つ感知できませんでしたよ」
ユウキが呆れたような、それでいてどこか頼もしげな笑みを浮かべて肩をすくめる。
カガリもまた、スッと姿勢を正して深く一礼した。
昨日までの警戒心に満ちた刺々しい態度は消え失せ、そこには同盟者への偽りない敬意が表れていた。
「お待ちしておりました、リムル様。誰にも見られずに入室できたようですね」
「ああ。しっかりと魔法とスキルによる『隠蔽』をしてきたからな。ギルドの受付嬢や護衛の冒険者たちも、ただの風が通り抜けたとしか思ってないはずだ」
俺は軽く手を振って応えながら、勧められた革張りの高級ソファに腰を下ろした。
対面にはユウキが座り、カガリが手際よく温かい紅茶を淹れてテーブルに置く。
「さて。挨拶もそこそこに、早速本題に入ろうか」
俺が声のトーンを一段階落とすと、ユウキとカガリの顔つきもスッと引き締まり、裏社会を束ねる『中庸道化連』のトップとしての顔に切り替わった。
「今日詰めておきたいのは、今後の大まかな方針と……何より、近藤の『精神支配』を受けているクレイマンをどうやって救い出すか、だ」
「ええ。昨夜、ボスと共にクレイマンの最近の行動記録や不自然な命令の数々を洗い出してみました。……あなたの仰る通りでした。あれは本来のクレイマンの思考ではありません。何者かに『焦り』を植え付けられ、破滅に向かって強引に背中を押されている……そんな動きでした」
カガリが悔しげに唇を噛み締める。
大切な家族が知らぬ間に心を弄ばれていたという事実は、彼女にとって許しがたいことだろう。
「あいつの精神支配を解くこと自体は、俺の能力を使えば可能だ。だが、問題は『いつ、どこでやるか』なんだよな」
「……と、言いますと?」
「帝国側に気付かれずに解除しなければならない、ということですか?」
ユウキの鋭い問いに、俺は頷いた。
「その通りだ。近藤の支配は非常に厄介でな。下手に遠隔でいじったり、力任せに解除しようとすれば、術者である近藤に『支配が解かれた』と即座に伝わってしまう。そうなれば、帝国はクレイマンを切り捨てて証拠隠滅を図るか、最悪の場合、別の手段であんたたちごと潰しにかかってくるだろう。更に、近藤の支配を解除するほどの強者がいると知れば、警戒した帝国の侵攻が早まるかもしれないしな」
「帝国の侵攻が、早まる……」
ユウキが険しい顔で呟き、顎に手を当てた。
東の帝国の桁外れな軍事力と、世界制覇の野心は、裏社会を束ねる彼ら中庸道化連もよく知るところだ。
西側諸国がまとまっていない今の段階で大軍を動かされれば、彼らの理想の国造りどころではなくなってしまう。
「ええ……。帝国を油断させたまま、クレイマンをこちらの手札として裏返さなければ意味がありませんね」
カガリもまた、事の重大さを噛み締めるように頷いた。
「ああ。だから、精神支配を完全に解くのは、あいつが俺たちに『敗北』した瞬間にするべきなんだ」
俺は言葉を切り、二人の目を見据えて今後の具体的な『シナリオ』を告げた。
「近々、クレイマンはファルムス王国を唆して俺の国に軍を向けさせ、その混乱に乗じて魔王カリオンの獣王国(ユーラザニア)に攻め込む計画を立てているはずだ」
「! ……なぜ、そのことまで」
「未来を経験してるからな。……もちろん、テンペストへの被害は俺たちが未然に防ぐ。だが、クレイマンの軍勢の動き自体は、あえて帝国が望む通りに泳がせておくんだ」
俺の提案に、ユウキが顎に手を当てて思考を巡らせる。
「……なるほど。クレイマンが計画通りに動いていると帝国に思い込ませつつ、最終的には魔王達の宴(ワルプルギス)のような大舞台、あるいは直接対決の場で彼を『死んだ』と見せかけるわけですね?」
「ご名答。魔王達の宴(ワルプルギス)の会場は、俺のスキルや魔法を除けばこの世界でもトップクラスに情報の隠蔽性が高い。そこで過去の俺がクレイマンを公の場で討ち取ったことにして、その瞬間に精神支配を切り離し、あいつの身柄を密かに保護する。そうすれば、帝国は『クレイマンは失敗して死んだ』と判断し、これ以上あいつに干渉してこなくなる」
「死を偽装し、表舞台から退場させることで帝国の目から完全に隠す……。確かに、それならばボスの言う『ジスターヴの割譲』も、より安全な形で行えますね」
カガリが納得したように頷くが、その表情にはまだ僅かな不安が残っていた。
「ですが、リムル様。クレイマンの精神支配をその瞬間まで放置しておくのは、あまりにも危険ではありませんか? 暴走した彼が、テンペストや獣王国にどれほどの被害を出すか……」
「そこは心配いらない。すでに手は打ってある」
俺はニヤリと笑い、紅茶のカップを手に取った。
「クレイマンがテンペストに送り込んだ切り札の魔人、ミュウラン。……彼女の呪縛は、すでに俺が解いておいた」
「なっ……!?」
「今頃、あいつはクレイマンを欺いて、完璧な『逆スパイ』として働いてくれているはずだよ。だからテンペスト側の防衛は問題ない。獣王国にも、時期が来れば俺から直接話をつけて、住民を安全な場所に避難させる手筈を整えるつもりだ」
俺の口からスラスラと出てくる完璧な事前対策の数々に、ユウキとカガリは呆然と顔を見合わせた。
「……ははっ。本当に、デタラメにも程がありますよ。僕たちが数年かけても届かなかった盤面を、たった数ヶ月で完全にひっくり返してるじゃないですか」
「ボスが『この方にはどう足掻いても勝てない』と仰った意味が、骨の髄まで理解できました……。クレイマンの敗北シナリオ、我々も全力でサポートいたします」
二人の頼もしい言葉に、俺は満足げに頷いた。
「ああ、頼む。あんたたちには、クレイマンが決定的な破滅に向かわないよう、裏から上手く手綱を握っていてもらいたい。……これで、最初の大きな山場の裏打ち合わせは完了だな」
俺が紅茶を飲み干して一息ついた、その時だった。
『――俺! 未来の俺、聞こえるか!?』
不意に、俺の脳内に『思念』が響いた。
それは、今まさに自由学園で『特任教師』としての初日を迎えているはずの、過去の俺からの念話だった。
(……どうした、過去の俺。こっちはちょうど同盟の打ち合わせが一段落したところだが)
俺が内心で応じると、過去の俺はひどく疲労困憊したような、泣き出しそうな声で訴えかけてきた。
『……助けてくれ。オークロードやカリュブディスよりも、このクソガキどもの相手をする方がよっぽど命懸けだ……!』
どうやら、表舞台の「学園での指導」は、こちらの思惑通りにはスムーズに進んでいないらしい。
俺は思わず、執務室の中で噴き出しそうになるのを必死に堪えるのだった。
(悪いが、そっちの舞台はお前の管轄だ。頑張れ、過去の俺!)
俺は内心で腹を抱えて笑いそうになるのを必死に堪えながら、思念越しに泣き言を漏らす過去の自分へとエールを送った。
(あいつらはシズさんの教え子で、いずれ世界を救う立派な勇者になる原石だ。最初から素直に言うことを聞くわけがないだろ。……お前なら上手くやれるさ。
死なない程度に頑張れよ、リムル先生)
『お前、完全に他人事だと思って……! ああもう、くそっ、こうなったらヤケだ! やってやるよ!』
ヤケクソ気味な過去の俺の声を最後に、思念がプツリと途切れる。
どうやら覚悟を決めて、あの手のかかる五人の子供たち――クロエ、ケンヤ、リョウタ、ゲイル、アリスの暴走を正面から受け止める気になったようだ。
「……ふふっ」
「リムル様? どうかされましたか?」
俺が思わず微かな笑みを作ってしまったのを見て、カガリが不思議そうに小首を傾げる。
「いや、なんでもない。ちょっと過去の俺が、シズさんの教え子たちの相手で苦戦してるみたいでな。……さて、話を戻そうか」
俺は姿勢を正し、先ほどまでの穏やかな空気を一変させて、極めて真剣な眼差しで二人を見据えた。
「クレイマンの救出と帝国の目を欺くシナリオについては、これでいい。……次は第2の課題だ。フットマンを、最悪の運命から解放するための話を詰めよう」
その名前が出た瞬間、ユウキとカガリの顔からスッと血の気が引き、部屋の空気がピンと張り詰めた。
昨日、俺が突きつけた絶望の未来。
中庸道化連の『怒った道化(フットマン)』が、東の帝国の手先に利用され、別の凶悪な精神体に肉体を乗っ取られて魂ごと消滅するという残酷な結末。
家族を何よりも大切にする彼らにとって、それはクレイマンの死と同等か、それ以上に恐ろしい事態だった。
「……フットマンが乗っ取られるというのは、具体的にどういうことなんですか? あいつも腐っても中庸道化連の幹部です。そう易々と他者の精神侵略を許すとは思えないのですが」
ユウキがギリッと奥歯を噛み締めながら問いかけてくる。
俺は小さくかぶりを振り、極めて残酷な真実への前置きを口にした。
「ああ、あいつ自身の隙を突かれたわけじゃない。正確には、最近乗っ取られたわけじゃなく、大昔に『とある存在』の手によって、別の魂をその身に植え付けられていたんだよ」
「とある存在……? それは一体誰です?」
ユウキが鋭く問い返す。
だが俺は、首を横に振った。
「今は敢えて詳しくは言わないでおく。ただ、そいつは気が遠くなるほど用心深い性格でね。下手に俺たちが気付いた素振りを見せたり、力任せに魂を引き剥がそうとすれば、即座に察知されて俺たちにとって不都合な動きを取られかねない」
俺は二人を真っ直ぐに見据え、魂の摘出がいかに危険な綱渡りであるかを説明した。
「だから、ただ分離させればいいって問題じゃない。術式を行う際は、俺が万全を期して情報隠匿を厳とした専用の特設ルームを作る。そして分離させた後も、その『とある存在』の目を欺くための偽装を施し、フットマンの内部にまだその魂が潜伏しているかのように、偽の情報を流し続ける細工をしなければならないんだ」
「そこまでの隠蔽と偽装工作を……!?」
ユウキが驚愕に目を見開く。
元魔王であり、呪術の専門家でもあるカガリでさえ、そこまで桁違いに高度な細工が必要な事態に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「一体、誰の魂が植え付けられているというのですか……?」
カガリが震える声で尋ねる。
俺は小さく息を吐き、極めて残酷な真実を口にした。
「……フットマンの奥底に宿っているのは、『ジャヒル』ってやつの魂だ」
「ジャ、ヒル……!?」
その名前が出た瞬間。
カガリの顔から一瞬にして全ての血の気が引き、ガタッと音を立ててソファから立ち上がった。
彼女の美しい顔が、かつてないほどの恐怖と、底知れぬ憎悪でガタガタと震えている。
「カガリ……? どうしたんだ、ジャヒルって……」
「魔導大帝、ジャヒル……! 嘘よ、あいつは……あいつはとうの昔に滅びたはず……!」
カガリは両手で自らの腕を抱きしめ、悲鳴のような声を絞り出した。
ユウキが戸惑うのも無理はない。
ジャヒルといえば、かつてハイエルフの姫だったカガリの故郷(超魔導帝国)を滅ぼし、彼女の父親の肉体を乗っ取った上で理不尽な呪いをかけ、妖死族(デスマン)へと変えさせた張本人――彼女の人生を狂わせた最大の元凶そのものなのだから。
「ああ、そのジャヒルだ。あいつの魂は完全に滅びてなんかいなかった。さっき話した『とある存在』の力で密かに生き延びていてな。あろうことか、あんたたちの大切な家族であるフットマンの肉体を『器』として、ずっとその魂の奥底で眠りについていたんだ」
「そんな……私の、私のせいで……あの子の中に、あの化け物が……!」
カガリが耐えきれずに膝から崩れ落ちそうになるのを、ユウキが慌てて支えた。
ユウキもまた、事のあまりの残酷さに顔を激しく歪めている。
自分たちが心から信頼し、共に笑い合ってきた家族の中に、よりによってカガリの尊厳を破壊した最大の仇敵が潜んでいたのだ。
これほどの悪意と冒涜が他にあるだろうか。
「くそっ……! 運命ってやつは、どこまで僕たちをコケにすれば気が済むんだ……!」
ユウキの瞳に、明確な怒りの炎が燃え上がる。
「だからこそ、歴史を先回りしてその最悪な盤面をひっくり返すんだよ」
俺は絶望と怒りに震える二人に、力強く告げた。
「未来の知識と俺の『能力』があれば、フットマンの魂とジャヒルの魂を完全に分離して、ジャヒルだけを摘出させることができる。……あいつが完全に目覚めてフットマンの自我を喰い殺す前に、俺が直接、魂の『手術』をしてやる」
「リムル様……」
カガリが涙のにじむ目で、すがるように俺を見上げる。
「どうだ? もし可能なら、残りの『中庸道化連』のメンバー……ラプラス、ティア、それにフットマン本人を、今すぐここに集めて事情を全部説明してしまうか?」
その俺のストレートな提案に、二人は一瞬目を丸くしたが、すぐに真剣な表情で顔を見合わせた。
「……確かに、中途半端に隠し立てして彼らが帝国やクレイマンの暴走に巻き込まれるよりは、一気に真実を共有してしまった方が確実ですね。信じがたい話でしょうが、カガリさんの正体や、あなたの未来の知識と圧倒的な力を見せれば、彼らも必ず納得するはずです」
「ええ。それに、あの子をあの忌まわしい化け物の器になど……絶対にさせません。一刻も早く真実を伝え、手術を行うべきです」
二人の目には、どんな手を使ってでも家族を守り抜くという強固な決意の光が宿っていた。
「ラプラスは今、西方聖教会(ルベリオス)への潜入準備で動いていますが、緊急の暗号通信で呼び戻します。ティアとフットマンも、クレイマンや帝国に悟られないよう、極秘でこのイングラシアへ招集しましょう」
「よし、決まりだな。他のメンバーが王都に集まり次第、俺がフットマンからジャヒルの魂を摘出する。それまでは怪しまれないよう、普段通りに振る舞ってくれよ」
「ええ、承知いたしました。……すぐにラプラスたちへ極秘の招集をかけます」
「頼んだぞ」
俺が頷くと、ユウキとカガリも力強く頷き返した。
「連中がイングラシアに集結するまでには、早くても数日はかかるだろう。……それまでの間、俺はちょっと『学園』の方を見てくるわ」
「学園……ああ、過去のリムルさんが赴任した自由学園ですか?」
「ああ。さっき泣きついてきてな。どうやらあの問題児たちの相手で手こずってるみたいだから、少し援護に向かってやるとするよ」
俺が苦笑いしながら言うと、ユウキもかつて自分が手を焼いた子供たちの顔を思い出したのか、同情するように乾いた笑いを漏らした。
「あはは……。あの子たちはシズ先生の直弟子ですからね、一筋縄ではいきませんよ。どうか過去のリムルさんによろしくお伝えください」
俺はユウキとカガリに軽く手を上げると、再び『隠蔽』の魔法とスキルを展開し、誰にも感知されることなくギルド総帥の執務室を後にした。