【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第一章 英雄の昇華と新たなる王の覚悟

俺が今後の具体的な指示を出そうとした、その時。

 

「リムルの旦那ぁぁっ!! 大変だ、ファルムス王国がテンペストに宣戦布告して攻めてくるって噂を聞きつけて、急いで飛んできたっすよ!!」

 

「はぁ、はぁ……ぜぇ……っ。間に合ったか……って、ええっ!?」

 

「ちょ、ちょっとカバル、ギド! いきなり飛び込んじゃ……ひゃあああっ!?」

 

バタバタと騒々しい足音と共に広場に駆け込んできたのは、見知った三人組――ブルムンド王国を拠点とする冒険者、カバル、ギド、エレンだった。

どうやら、西側諸国で流れたファルムス王国のきな臭い噂を聞きつけ、俺たちを心配して慌てて救援に戻ってきてくれたらしい。

だが、彼らは広場に無防備に転がっているベニマルやハクロウたち幹部陣、祭壇で眠りこける過去の俺、そしてそれを見下ろすように立っている『俺』と異様なオーラを放つ三体の悪魔を見て、完全にフリーズしてしまった。

 

さらに彼らの後方から、焦った様子のヨウムとミュウランも走ってくる。

 

「おい、旦那! 急に町中の連中がバタバタと倒れちまったぞ! 一体何が……って、なんだこの見慣れねえヤバそうな連中は!?」

 

ヨウムが漆黒の悪魔たちを一目見るなりサッと大剣に手をかけ、ミュウランも顔を青ざめさせながら油断なく杖を構えた。

 

「ヨ、ヨウム、下がって! あの悪魔たち、ただの存在じゃないわ……っ!」

 

「お、おい! そこの悪魔!リムルの旦那から離れろ!!」

 

ギドがガタガタと震えながらも、必死に過去の俺を庇おうと武器を構える。

 

(うおっ、タイミングが悪いな……完全に状況を勘違いされてるぞ)

 

俺は思わず額に手を当て、深い溜め息を吐いた。

一方で、突然現れた人間たちに武器を向けられた三体の悪魔たちは、微塵も動揺することなく、ただ冷ややかな、虫ケラを見るような眼差しを彼らに向けていた。

 

「……主様の御前で武器を抜くとは。なんという無作法な者たちでしょう」

 

漆黒の悪魔が一歩前に出ただけで、広場の空気が凍りつくような重圧(プレッシャー)に包まれる。

 

「ヒッ……!」

 

カバルとギドが情けない悲鳴を上げて後ずさる。

ヨウムは冷や汗を流しながらも大剣を構え直そうとしたが、魔人であるミュウランだけは別だった。

彼女は目の前の存在の規格外の恐ろしさを本能レベルで理解してしまい、杖を持つ手から血の気が失せ、小刻みな震えが止まらなくなっていた。

 

「待て待て待て! ストップだお前ら!!」

 

俺は慌てて両者の間に割って入り、両手を振って制止した。

 

「早まるなカバル、ギド! それにエレンもヨウムたちも、まずは武器を下ろせ! 敵じゃない、こいつらは俺が今さっき召喚したばかりの身内だ!」

 

俺が声を張り上げると、殺気立っていたギドたちの動きがピタリと止まった。

 

「よ、よかったぁ……てっきりリムルの旦那がヤバい悪魔に囲まれてるのかと……」

 

エレンとカバルが腰から砕け落ちるようにへたり込み、ギドも大仰に安堵の息を吐く。

 

「悪かったな、驚かせて。今、過去の俺が『真なる魔王』への進化の眠りについてるんだ。その影響で、魔素の繋がりがある魔物の幹部や町の連中にも『祝福(ギフト)』が配られて、強制的な睡眠状態に入っちまっただけで、命に別状はない」

 

「なるほど……そういうことでしたのね」

 

ミュウランが深い安堵の吐息を漏らす。

彼女やヨウムが倒れなかったのは、過去の俺と直接的な魂の繋がり(系譜)を持たないからだろう。

 

「だがよ、未来の旦那。その後ろの連中は一体何なんだ? さっきからミュウランの震えが止まらねえんだが……」

 

ヨウムが、依然として警戒を解かずに漆黒の悪魔たちを睨みつける。

無理もない。

人間であるヨウムやカバルたちよりも、魔人として長く生きているミュウランの方が、目の前の存在の恐ろしさを本能レベルで理解してしまっているのだ。

 

俺は肩の力を抜き、なるべく軽い調子で説明した。

 

「ああ、こいつらか。俺の知る未来の歴史だと、ちょうどファルムス戦が終わったこのタイミングで、こいつが俺の仲間になってくれてな。これからの事後処理で助けになるから、この時代でも『原初の黒(ノワール)』を呼び出したってわけ――あっ」

 

言ってしまってから、俺は自分の口を両手で塞いだ。

 

しまった。

 

名前を呼ばないように集中するあまり、うっかりポロリと、こいつの最もヤバい肩書きを口にしてしまった。

 

俺の失言に反応したのは、二つの対極的な感情だった。

 

「クフフフフ……! ああ、主様……! 私のような者の出自を、その尊き御口から直々に紡いでいただけるとは……! なんという至福……!」

 

漆黒の悪魔は、まるで至高の賛辞を受けたかのように両手で顔を覆い、身悶えするように歓喜の声を震わせている。

 

一方、その言葉の意味を正しく理解したミュウランとエレンは、まるで氷の彫像のように完全に固まっていた。

 

「……え? 今、未来のリムルさん……なんて言いました?」

 

エレンが、引きつった笑みを浮かべながら後ずさる。

 

「げ、『原初の黒』……!? 悪魔族の頂点にして、最古の七柱……おとぎ話の、絶望の象徴……嘘でしょ、なんでそんな存在が、こんな普通に……っ!?」

 

ミュウランに至っては、絶望したように顔を覆い、ついに膝から崩れ落ちてしまった。

 

「げ、原初の黒ぉぉぉぉっ!?」

 

遅れて事態を把握したカバルとギド、そしてヨウムも、先ほどまでの何倍もの恐怖に顔を引き攣らせ、悲鳴を上げて抱き合った。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! 落ち着けお前ら!」

 

俺はパニックに陥るギャラリーたちを宥めようと必死に手を振った。

 

「大丈夫だ、こいつらは完全に俺たちの味方だ! 暴走したり、お前たちに危害を加えたりすることは絶対にないから!」

 

「そ、そう言われても……っ! よりによって原初って……神話の時代のバケモノじゃないですかぁ!」

 

エレンが涙目で抗議してくる。

サリオンの貴族の娘であり、高度な魔法知識を持つ彼女なら、そのヤバさは骨身に染みているはずだ。

 ミュウランも真っ青な顔でヨウムの服の袖をきつく握りしめているが、ヨウムがその手を優しく、しかし力強く握り返して落ち着かせている。

 

「クフフフフ……。主様のご友人方に恐怖を与えてしまったようで、申し訳ありませんね。ですがご安心を。私は主様の忠実なる下僕。主様が慈しむ皆様に牙を剥くような真似は、天地がひっくり返ってもあり得ません」

 

漆黒の悪魔が一歩下がり、これ以上ないほど優雅で完璧な礼の姿勢をとる。

だが、その背後から滲み出る隠しきれない異常な覇気に、カバルたちはさらにガタガタと震えを強くしただけだった。

 

「……お前、とりあえず笑うのをやめて少し黙ってろ。余計に怖がられてるぞ」

 

「おや? これは失礼いたしました」

 

漆黒の悪魔がスッと表情を引き締め、背後の二柱と共に彫像のように静止する。

それを見て、ようやくカバルたちも少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。

 

「はぁ……全く、心臓に悪いっすよ。それで、未来のリムルさん。一体何があったんです? ファルムスが攻めてくるって聞いて、俺たち大急ぎで馬を飛ばしてきたんですけど……」

 

カバルが恐る恐る尋ねてくる。

 

「そのことなんだがな。結論から言うと、戦争はもう終わった」

 

「「「えっ?」」」

 

俺の言葉に、カバル、ギド、エレンの三人組が間抜けな声を上げた。

一方で、事前に俺たちから大まかな作戦を聞かされていたヨウムとミュウランは、静かに頷いてその様子を見守っている。

 

「終わったって……ファルムスの軍勢は二万近くいたはずだぞ!? それが、もう終わったってどういうことだ!?」

 

ギドが信じられないというように叫ぶ。

 

「俺たちと過去の俺で、敵の本隊を強襲してな。エドマリス王は生け捕りにはせず、二万の軍勢ごと一度殺してから蘇生させたんだ。今は『恐怖と恩義』を魂に完全に刻み込まれて、大人しく国へ帰還している最中だよ」

 

俺があっさりとそう告げると、カバルたちの間に深い沈黙が降りた。

二万の大軍を、たった一晩で。

しかも皆殺しにするのではなく、一度全滅させてから蘇生させ、そのまま帰還させるという所業。

あまりにもスケールが違いすぎて、彼らの常識の範疇を完全に超えてしまったらしい。

 

「……ま、マジかよ。あのファルムス王国の大軍を……」

 

カバルが呆然と呟き、祭壇で静かに眠る過去の俺の顔を見る。

 

「ああ。その時の魔王への進化の副作用で、あいつらは今眠ってるんだ。……さて、ヨウム」

 

俺が不意に話題を振ると、ヨウムはビクッと肩を揺らし、隣のミュウランもハッとして顔を少し赤くした。

どうやら、さっき医療テントで二人が良い雰囲気になっていたのを俺に把握されていると気づいたらしい。

 

「な、なんでそれを……っ! み、未来の旦那、あんた聞いて……!」

 

「まあまあ、細かいことは気にするな。それよりヨウム、お前にはこれから、さっきテントで言っていた通り『でっかい男』になってもらうぞ」

 

俺は表情を引き締め、ヨウムの目を真っ直ぐに見据えた。

 

「ああ。エドマリス王は無事に国に帰還させたが、ファルムス王国自体が消えてなくなるわけじゃない。あいつらが国に帰れば、いずれまた新たな火種が生まれる可能性もある。だからこそ、事前に話していた『あの計画』をいよいよ実行に移す」

 

俺は一拍置き、そこで静止している漆黒の悪魔を顎でしゃくった。

 

「こいつら三人の悪魔をファルムスに潜入させて、内部から完全に国を掌握する。……そして、エドマリスを引きずり下ろし、予定通りお前を新しい王に立てて、テンペストと友好的な新たな国を作る」

 

俺の言葉が広場に響き渡ると、カバルたち三人組は「ええええええっ!?」と今日一番の悲鳴を上げた。

 

「よ、ヨウムさんが、王様!? あのファルムス大国の!?」

 

「いくらなんでも無茶苦茶っすよ! ヨウムの兄貴は、その……もとはゴロツキの親玉で……!」

 

「おいギド、お前一言余計だぞ」

 

ヨウムがギドを睨みつけつつも、その顔には既に揺るぎない覚悟の色が浮かんでいた。

事前に計画を聞かされていた時は戸惑いもあっただろうが、今の彼には、守るべき大切な存在がいる。

 

「テンペストを襲い、暴風竜ヴェルドラの逆鱗に触れて壊滅した愚かなファルムス軍。その生き残りをまとめ上げ、ヴェルドラの怒りを鎮めるためにテンペストとの和平を勝ち取った『英雄』……そういうシナリオを、俺たちで作り上げる」

 

俺の計画を聞き、ヨウムは深く息を呑んだ。

それは、ただの力押しではない。

人間の社会のルールを利用し、盤面をひっくり返すための緻密な謀略だった。

 

「ヨウム……」

 

ミュウランが、ヨウムの横顔を頼もしそうに見上げる。

 

「それに、ファルムス内部の邪魔な貴族どもや裏工作は、全部こいつら悪魔がやってくれる。お前はただ、覚悟を決めて玉座に座り、俺たちと手を結ぶだけでいい」

 

俺はヨウムの肩にポンと手を置いた。

 

「テンペストと人間の国が、本当の意味で手を取り合うためには、どうしてもお前のような『人間側』の信頼できるトップが必要なんだ。……どうだ、ヨウム。ミュウランを守るためにも、この国で一番『でっかい男』になる覚悟は決まってるか?」

 

ヨウムは俺の顔を見つめ、そして隣に立つミュウランへと視線を移した。

かつてクレイマンに操られ、居場所を持たなかった彼女。

そして、彼女を守り抜くと誓った自分自身の言葉。

しばらくの沈黙の後、ヨウムはふっと自嘲気味に笑い、そして力強く頷いた。

 

「……へっ。前にその無茶苦茶な計画を聞かされた時は流石にビビったが、もう腹は決まってるぜ。未来の旦那。あんたらがそこまで俺を信じて、最高の舞台を整えてくれたんだ。愛した女を一生守り抜くためにも、俺が、ファルムスの新しい王になってやる」

 

「おおっ! 言ったっすね、ヨウムの兄貴!」

 

「ヨウムさん、すごい……!」

 

カバルたちが歓声を上げる。

ミュウランも、深い愛情に満ちた目でヨウムを見つめていた。

 

「よし、契約成立だな。それじゃあ――」

 

俺が漆黒の悪魔たちに具体的な指示を出そうと口を開きかけ、ふと周囲を見渡した。

広場には、進化の祝福(ギフト)による眠りで心地よさそうに眠るベニマルたち幹部陣。

そして祭壇の奥では、真なる魔王への進化の眠りにつく過去の俺。

 

(……いや、待てよ。 今ここでこいつらにファルムス乗っ取りの細かい指示を出しても、後で過去の俺やベニマルたちが起きた時に、また一から説明し直すハメになるな)

 

二度手間は御免だ。

それに、ファルムスという大国を裏から操るという大掛かりな作戦は、過去の俺や幹部たちも交えて、全員でしっかりと情報を共有しておいた方がいい。

 

(それに、いくらテンペストの結界内とはいえ、進化の眠りについているこいつらをいつまでもこんな屋外の地面に寝かせておくのは流石にまずいな。風邪…を引くことはないだろうが無防備すぎる)

 

俺はパチンと指を鳴らし、自身の権能を発動する。

 

直後、広場に無防備に転がっていたベニマルたち幹部陣や住民たち、そして祭壇で眠る過去の俺の身体がふわりと宙に浮き、次の瞬間、青白い光の粒子となって一瞬にしてその場から姿を消した。

 

「うおっ!? リ、リムルの旦那たちが消えたっ!?」

 

ギドが目を丸くして素っ頓狂な声を上げる。

 

「心配すんな。俺の空間転移で、過去の俺は自宅へ、他の皆は迎賓館やそれぞれの自室のベッドの上に直接運んだだけだ。流石にこのまま外で寝かせたままにはできないからな」

 

俺が説明すると、カバルやヨウムたちはホッと胸を撫で下ろした。

 

その時、不意に、夜空から甲高い声が降ってきた。

 

「リムルー! 無事だったのねーっ!!」

 

バタバタと慌ただしく飛んできたのは、妖精女王ラミリスだ。その後ろからは、樹妖精(ドライアド)のトレイニーがついてきている。

 

「お、ラミリスにトレイニーさん。久しぶりだな」

 

俺が軽く手を上げて挨拶すると、ラミリスは涙目で俺の顔の周りを飛び回った。

 

「久しぶりじゃないわよ! 異世界人が攻めてきて、あんたが急に倒れたって連絡をもらった時は、心臓が止まるかと思ったんだからね! 本当に体調は大丈夫なの!?」

 

トレイニーも恭しく一礼し、深く安堵の息を吐く。

 

「未来のリムル様……ご無事で何よりでございます。事前の指示通り、迷宮での研究所の管理や避難民の受け入れなどを優先して進めつつも、気が気ではありませんでした」

 

「ああ、心配かけて悪かったな。ゴブタの頑張りのおかげで危機は脱したし、俺の体調ももうすっかり元通りだ」

 

俺が胸を張って無事をアピールすると、ラミリスはホッと胸を撫で下ろした。だが、すぐにまた涙目になって俺に詰め寄ってくる。

 

「よかったぁ……。でもでも! あんたが無事なら、なんで急にベレッタがバタッて倒れちゃったのよ!? アタシの可愛い従者が壊れちゃったぁぁっ!」

 

「はい。迷宮内でも一部の魔物たちが突如として深い眠りに落ちておりました。事前に伺っていた過去のリムル様の『魔王への進化(ハーヴェスト・フェスティバル)』がついに始まったのだとは思いますが、なぜベレッタ殿までがと……」

 

トレイニーの的確な疑問に、俺は頷いた。

 

「ああ、トレイニーさんの推測通りだ。過去の俺が『真なる魔王』への進化の眠りに入った影響で、魂の系譜にある者たちに『祝福(ギフト)』が配られて、進化の眠りに入ってるんだよ」

 

「そりゃ魔王に進化する話はアタシも事前に聞いてたから知ってるけどさ! なんでアタシのベレッタまで巻き込まれて寝ちゃってるのよ!?」

 

「そりゃお前、ベレッタに名付けたのは過去の俺だからな。あいつも魂の系譜に連なってる身内ってわけだ」

 

俺が呆れながら説明すると、ラミリスはピタッと空中で止まった。

 

「……あっ! そっか、そういえばそうだった! ってことは、この眠りから覚めたらベレッタ、もっと強くなるの!?」

 

「そういうことだ。だから今はゆっくり寝かせておいてやってくれ」

 

「なーんだ、びっくりさせないでよね! もう、本当に壊れちゃったのかと思ったじゃない!」

 

安心したようにクルクルと飛び回るラミリス。だが、ふと彼女の視線が、俺の背後に静かに控えている三体の悪魔――特に、中央で優雅に微笑む漆黒の悪魔へと向けられた。

 

「……ん? ちょっと待って、そこのすっごくヤバいオーラ出してる黒い悪魔……どこかで見覚えが……って、えええええええっ!?」

 

ラミリスが今日二番目の特大の悲鳴を上げて、トレイニーの背後にシュバッと隠れる。

 

「な、なんで『原初』がこんなところにいるのよ!? リムル、あんた何喚び出してんのよぉぉっ!?」

 

「クフフフ……。お久しぶりですね、妖精女王。主様の前ゆえ、本日は羽虫を叩き落とすような無粋な真似はいたしませんから、どうぞご安心を」

 

「全然安心できないわよ! 目が完全に笑ってないじゃない!」

 

相変わらずの調子で騒ぐラミリスたちを見て、俺は思わず苦笑をこぼした。

 

「――ということでだ、さっきの話の続きだが、具体的な指示は後回しにしよう」

 

俺が言葉を区切ると、漆黒の悪魔は不思議そうに小首を傾げた。

 

「過去の俺と皆が目覚めてから、改めて全員で作戦会議を開く。それまでの数日間、お前たち三人はこのテンペスト周辺の警備と、事後処理のサポートに回ってくれ」

 

「クフフフフ。承知いたしました。主様の半身たるお方が健やかに目覚めるその時まで、この国に害なす塵芥は我らが全て排除しておきましょう」

 

漆黒の悪魔が恭しく一礼し、二柱の悪魔もそれに深く倣う。

それを見て俺はホッと息を吐き、呆然と突っ立っているヨウムやカバルたちに向き直った。

 

「というわけだ。お前たちも長旅と今回の騒動で疲れてるだろ? あいつらが起きるまでにはまだ時間かかるはずだから、今は客館でゆっくり休んでくれ」

 

「あ、ああ……そうさせてもらうぜ。なんか色々と起こりすぎて、頭がパンクしそうだからな」

 

カバルがフラフラと頭を抱え、エレンやギドも深く頷く。

ミュウランに支えられたヨウムも、自身のこれからの『新王』という途方もない運命を噛み締めるように、静かに夜明け前の空を見上げていた。

 

「さあて……みんなが起きるまで、俺たちも少し休むか。これからもっと忙しくなるぞ」

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