【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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第四章 紅蓮の来訪者

翌朝。

宴の熱狂が嘘のように引いた、清々しく澄んだ空気がテンペストの町を包み込んでいた。

 

俺は、リグルドたちが気を利かせて用意してくれた俺専用の真新しい家を出て、中央の行政区画へと向かって歩き出した。

 

昨晩はあの後、顔を真っ赤にしてパニックに陥ったアルビスたちを宥めすかすのに一苦労だったが、なんとか無事に解散し、しっかりと休息を取ることができた。

 

大通りを抜け、執務棟が見えてきたあたりで、向こうの角から歩いてくる見慣れた姿とバッタリ出くわした。

 

「おっ。おはよう、未来の俺」

 

「ああ、おはよう。お前も今から執務棟か?」

 

ひらひらと手を振って近づいてきたのは、町の端にある自宅から出てきた過去の俺だった。

真なる魔王へと覚醒して一晩経ったからか、その表情はスッキリとしていて、纏う膨大なオーラも昨日の目覚め直後よりずっと自然に自身の内へと馴染んでいるように見える。

 

「おう。昨日の会議の決定事項を、早速ゲルドやハクロウたちにも共有して、部隊を動かさなきゃならないからな。……それにしても」

 

過去の俺が、思い出し笑いをするようにクスクスと肩を揺らした。

 

「昨日の三獣士の反応、最高に面白かったな! 特にあのアルビスがあんなにポンコツな声を出すなんて思わなかったぜ」

 

「全くだ。あれ以上『相手は誰ですか!?』って詰め寄られたらどうしようかと思ったよ」

 

俺も苦笑しながら同意し、二人のリムルは並んで執務棟への道を歩き始める。

すれ違う町の住人やホブゴブリンの兵士たちが、全く同じ顔が二つ並んで歩いている光景に一瞬目を丸くしつつも、「「おはようございます、リムル様! 未来のリムル様!」」と元気よく敬礼をしてくれる。

 

「みんな、本当に元気になってよかったよ」

 

過去の俺が、嬉しそうに目を細めて住人たちに手を振り返す。

 

「ヒナタに襲われてテンペストの皆のことが心配だった時は、本当にどうなることかと思ったけど。お前が来てくれて、結果的に全員助かった。……本当に、ありがとな」

 

足を止め、改まって真っ直ぐに感謝を伝えてくる過去の俺。

その金色の瞳に浮かぶ深い安堵と、魔王として一皮むけた確かな成長の証を見て、俺は照れ隠しのように軽く肩を小突いた。

 

「だから、お前自身が勝ち取った結果だって言ってるだろ。俺はちょっと未来のカンニングペーパーを渡しただけだ。お前は自分の力に胸を張って、どーんと構えてりゃいいんだよ」

 

「へへっ……違いないな」

 

過去の俺が照れくさそうに笑い、気合を入れるように両手で自身の頬をパンッと叩いた。

 

「さて、相棒」

 

俺がふと口調を変えて呼びかけると、過去の俺はビクッと肩を揺らし、あからさまに警戒するようなジト目を向けてきた。

 

「……なんか、すっげえ嫌な予感がするんだけど。未来の俺がそういう風に『相棒』呼ばわりしてくる時って、大抵ろくでもない悪巧みをしてるか、とんでもない爆弾を落とす前触れだろ」

 

「人聞きの悪いこと言うなよ。今回はそんな話じゃないって」

 

そう話を一旦区切って、俺が「そろそろヴェルドラの――」と口を開きかけた、まさにその時だった。

 

「リムル様。急を要するご報告がございます」

 

影からソウエイが姿を現し、大鬼族(オーガ)の里からの緊急連絡を伝える。

 

「どうした、ソウエイ。何か異常でもあったか?」

 

「はい。先ほど、オーガの里の族長であるキエン殿より、緊急の魔法通話が入りました。……かつて傭兵として里を出ていたが者が帰還したとのことです。私もよく知る男ですが、まさか無事だったとは思いませんでした」

 

「里を出ていた? ソウエイやベニマルの知り合いなのか?」

 

過去の俺が目を丸くする。

 

俺は小さく息を吐き、記憶の糸をたぐり寄せた。

 

ヒイロだ。

 

俺の知る本来の歴史では、オークロードの侵攻によってオーガの里は完全に壊滅していた。

そのため、傭兵として故郷を離れていたヒイロは、里の惨状を見て絶望し、後に『魔王達の宴』の後の時期にテンペストを訪れ、ゲルドたちオークとひと悶着を起こすはずだった。

 

だが、この時間軸では違う流れとなったようだ。

 

俺がオークロード戦の直後に『反魂の秘術』を使って、壊滅したオーガの里の住人たちを蘇生させていたことが要因かもしれない。

 

「……なるほど。オーガの里が健在だっていう噂が、時間をかけて西側諸国の方まで伝わったんだろうな。それで、ヒイロは壊滅したはずの故郷が気になって里を訪ねてきたってわけか」

 

「未来の俺、そいつのこと知ってるのか?」

 

「ああ。今ソウエイが言った通り、ベニマルやソウエイ達の兄貴分だ。……ソウエイ、ヒイロは一人で来てるのか?」

 

俺が問うと、ソウエイは静かに首を振った。

 

「いえ。西にある『ラージャ小亜国』という人間の国の使者を二名連れているとのこと。ただならぬ事情を抱えているようで、キエン殿は我々の判断を仰ぐため、彼らを里に留め置いたまま、まずはこちらへ連絡を入れてきた次第です」

 

「分かった。ソウエイ、オーガの里出身の仲間を全員集めてくれ。せっかくだから、こちらから向かおう。久しぶりに里の様子も見てみたいしな」

 

「はっ。直ちに皆を招集いたします」

 

ソウエイが恭しく一礼し、影の中へと消えていく。

 

俺が振り返ると、過去の俺も賛同するように深く頷いた。

 

「ああ、それがいいな。里の皆も俺たちが行けば喜ぶだろうし、そのヒイロってやつの抱えてる厄介事も直接聞ける。すぐに出発しようぜ」

 

「決まりだな。善は急げだ」

 

方針が固まり、俺たちが執務棟を出てオーガ勢との合流地点へ向かおうと歩き出した時だった。

ふと、過去の俺が不思議そうに小首を傾げた。

 

「そういえば、未来の俺。ソウエイが来る直前、さっき何か言いかけてなかったか?」

 

「ん? ああ、いや……なんでもない。大したことじゃないから、今はこっちの用事を優先しよう」

 

俺は誤魔化すように軽く手を振って笑いながら、内心でそっと苦笑いを漏らした。

 

待ちに待った暴風竜の復活は、もう少々――この新たな騒動が落ち着くまで、お預けになりそうだった。

 

 

 

 

皆が集まり事情を説明した後、俺は空間転移の魔法を発動させ、俺たち――過去の俺と、ベニマル、シオン、ハクロウ、シュナ、クロベエ、ソウエイ――は、一瞬にしてオーガの里の入り口へと降り立った。

 

周囲を見渡して、俺と過去の俺は思わず感嘆の声を漏らした。

 

かつて豚頭魔王(オーク・ディザスター)の軍勢によって無惨に焼き払われたその集落は、今や見違えるような姿を取り戻していたのだ。

 

テンペストからの惜しみない技術提供と、ゲルド率いる猪人族(ハイ・オーク)たちによる懸命な復興支援。

 

その恩恵をフルに受けたオーガの里は、もはや「村」というよりも、整然と区画された立派な木造建築が立ち並ぶ「小さな町」に近い規模にまで発展を遂げていた。

 

「すごいな……。前に来た時よりも、さらに活気が出てるぞ」

 

「同胞たちの努力と、ゲルド殿たちのお力添えの賜物です」

 

過去の俺の呟きに、ベニマルが誇らしげに目を細める。

 

「あっ……! リムル様だ!」

 

「リムル様と、未来のリムル様が直々にお越しになられたぞ!!」

 

俺たちの来訪に気が付いたオーガの住民たちが、次々と作業の手を止め、道の両脇に避けて深く平伏していく。

 

彼らの顔には、俺たちに対する絶対的な敬意と、狂信的とも言えるほどの感謝の色が浮かんでいた。

 

「あー、みんな、そんなに畏まらなくていいから頭を上げてくれ。今日はちょっと用事があって顔を出しただけだからさ」

 

過去の俺が苦笑しながら手を振って平伏を解かせようとしていると、人垣がスッと割れ、奥から立派な体躯と燃えるような赤い髪を持つ鬼人が進み出てきた。

 

ベニマルとシュナの父親であり、里の族長である『キエン』だ。

さらにその半歩後ろには、シュナによく似た淡い桜色の髪を持つ、気品と優しさを兼ね備えた族長の妻も寄り添っている。

 

「これはこれは、リムル様、未来のリムル様。よくぞお越しくださいました」

 

キエンは俺たちの前まで来ると、恭しく、しかし堂々とした所作で深く頭を下げた。

 

「キエン、久しぶりだな。族長自らわざわざ出迎えてくれるなんて、ありがとう」

 

俺が気さくに声をかけると、キエンは恐縮したように首を大きく横に振った。

 

「何をおっしゃいますか。我ら一族を死の淵から救い出し、こうして里がここまで発展するほどの活気を与えてくださった至高の御方なのですから、私自らが出迎えるのは当然のことでございます」

 

キエンはそう言って顔を上げ、俺たちの背後に控えるベニマルやシュナたちを一瞥し、親として、そして族長として、どこか嬉しそうに目を細めた。族長の妻もまた、子供たちの元気な姿を見て安堵の笑みを浮かべている。

 

「ヒイロも、まさか皆が揃ってやってくるとは夢にも思っていないでしょうから、さぞかし驚き、喜ぶことでしょう。……さあ、彼とラージャからの使者殿は、私の屋敷の広間でお待ちしております。どうぞ、こちらへ」

 

キエンの丁寧な案内に従い、俺たちは活気に満ちたオーガの町の中央にある、一際大きな族長の屋敷へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

族長の屋敷の奥にある広間へ通されると、そこには二人の人間の使者と、そして二本角を持つ長身の鬼人――ヒイロが、緊張した面持ちで正座して待っていた。

 

扉が開き、キエンに案内されて入ってきた俺たちを見るなり、ヒイロの目が限界まで見開かれた。

 

「……兄者!」

 

「若! それに、皆も! 本当に、本当にみんな無事だったのか……!」

 

ヒイロは弾かれたように立ち上がり、ベニマルの元へ駆け寄ると、ガシッと力強くその腕を交え合わせた。

 

ベニマルもまた、力強い笑みを浮かべて兄貴分の肩を叩く。

 

「ああ、俺たちも親父殿たちもそこにいるリムル様のおかげで全員無事だったんだ!兄者も、無事で本当によかった!」

 

ベニマルの言葉に続くように、他の仲間たちも次々とヒイロへ声をかける。

 

「兄者…! 本当に…生きていてよかったです!」

 

「全く、心配をかけおって。だが、無事な姿を見られて何よりだのう」

 

シオンが涙ぐみながら身を乗り出し、ハクロウが目を細めて深く頷く。

 

ソウエイも「……久しいな」と短くも安堵の籠もった声をかけ、シュナとクロベエも「ヒイロ兄様、ご無事で本当に……!」「元気そうで何よりだべ!」と心からの喜びを露わにした。

 

皆の無事をその目で確かめ、ヒイロは顔をくしゃくしゃにして大粒の涙をこぼした。

 

「ああ……! 実は以前、一度里に戻ってみたら完全に壊滅していてな……。俺は皆が死んだと思い、失意の中で過ごしていたんだ。だが最近、里が復興しているという噂を聞いて、半信半疑で再び訪れてみたら……里がこんな立派になっていて、俺の両親も皆も無事で、本当に驚いた……!」

 

ヒイロは嗚咽を漏らしながら、かつての仲間たちとしばらくの間、生きて再会できた喜びを分かち合っていた。

 

「本当に……生きて戻ってきてくれてよかったですよ、ヒイロ」

 

族長の妻が、まるで母親のように優しく微笑みながらヒイロの背中にそっと手を添える。

シュナも「母様……」と嬉しそうに寄り添い、温かな空気が広間を包み込んだ。

やがて、ひとしきり感情を落ち着かせたヒイロは、居住まいを正して俺と過去の俺へと向き直った。

 

 

「リムル様……! そして未来のリムル様!話は族長より伺いました。我が故郷を、そして同胞たちの命を救っていただいたこと、いかほどの感謝を捧げても足りません。このヒイロ、貴方様への御恩は生涯忘れません!」

 

「ま、まあまあ、頭を上げてくれ。ヒイロのことはベニマルから少し聞いてたし、里のみんなが元気ならそれでいいんだよ」

 

過去の俺が慌てて手で制する。

 

「それで、ヒイロ。お前がここに来たのは、ただの挨拶や恩返しのためだけじゃないんだろ? その後ろの人間の使者たちを見るに、何か厄介事を抱え込んでいるんじゃないか?」

 

俺が単刀直入に切り出すと、ヒイロはハッとして顔を上げ、後ろに控えるラージャの使者たちと顔を見合わせた。

 

「……ご明察の通りです。実は、俺の命を救い、名前を与えてくれた『ラージャ小亜国』の女王トワ様が、呪いに侵され命の危機に瀕しているのです」

 

そこから、ヒイロと使者たちはラージャの現状を語り始めた。

国を支えてきた金資源が枯渇してしまったこと、国を脅かす湖の猛毒を浄化するために、女王が代々受け継ぐティアラを使用していること。

そのティアラの呪いがトワの命を削っていること。

 

「俺は最初、森の開墾をお許しいただければ、枯渇した国の財政の助けになると思い、ここへやってきました。……ですが、先ほど族長から『未来のリムル様』が為されたという数々の奇跡の御業を伺い、一つの希望を抱いてしまったのです」

 

ヒイロは改めて俺たちを真っ直ぐに見据え、言葉を続けた。

 

「いきなり訪れて、このようなことを願い出るのが図々しく、失礼極まりないことは重々承知しております……。ですが、どうか! 貴方様のその力で、俺の恩人であるトワ様とラージャを救っていただけないでしょうか! この命に代えても、必ず御恩は報います!」

 

床に額を擦り付けて懇願するヒイロ。

その痛切な願いを聞き終え、過去の俺は静かに頷いた。

 

「なるほどな。大体事情は分かった」

 

過去の俺は腕を組み、少し思案するように目を伏せた。

そして、隣に座る俺へと視線を向けてくる。

 

「……未来の俺はこの事態も経験してきたんだろ?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

俺が短く返すと、さらに言葉を繋いだ。

 

「そのティアラの呪いの正体もな。……あれは、ラージャの初代女王が『原初の紫(ヴィオレ)』と契約を交わしたことによって発生している呪いだ」

 

「「原初の……紫!?」」

 

俺の言葉に、ベニマルやシオン、ハクロウたちが息を呑んだ。

悪魔の恐ろしさ、その中でも『原初』という存在の格絶したヤバさを彼らも本能的に理解しているからだ。

ヒイロもまた、想像を絶する名前に顔を青ざめさせる。

 

「契約の内容はこうだ。ラージャの女王は魔力の宿るティアラを用いて国を豊かにする代わりに、自らの身に『呪毒』を引き受ける。そして、その身が呪毒で完全に染まった暁には……ヴィオレに受肉体(肉体)として引き渡すというものだ」

 

「なっ……!? 受肉体として、引き渡す……!?」

 

ヒイロが絶望と怒りの入り混じった声を上げ、ワナワナと拳を震わせた。

 

「そんな……それではトワ様は、国を救うために自らの命を削り、最後には悪魔の器として肉体を乗っ取られてしまうというのですか! あまりにも……あまりにも残酷すぎる……ッ!」

 

使者たちも顔を覆い、「おお、トワ様……」と絶望の涙を流している。

キエンやベニマルたちも、そのあまりにも悪辣な契約内容にギリッと歯を食いしばり、静かな怒りを燃やしていた。

過去の俺も、厳しい顔つきで腕を組み直す。

 

「ヒイロの話を聞く限り、ただの病気じゃなくて、裏で何か厄介な魔法や陰謀が絡んでそうだとは思っていたが、まさか原初の悪魔が関わっているとはな。俺としてもベニマルの兄貴分の頼みなら助けてやりたいが……」

 

過去の俺が言葉を濁すのも無理はない。

 

現在のテンペストは、ユーラザニアからの数万の避難民の受け入れ、クレイマン軍への迎撃部隊の編成、そして間近に迫る魔王達の宴(ワルプルギス)への対策と、国家の存亡を懸けた超重要タスクが山積みになっている。

 

国のトップである俺たちが、長期間テンペストを空けて西側の小国へ出向くのは、あまりにもリスクが高かった。

 

「……なぁ、未来の俺」

 

少しの沈黙の後、過去の俺が顔を上げ、俺に向かって真剣な眼差しを向けてきた。

 

「俺は今のテンペストを離れるわけにはいかない。でも、ヒイロの恩人を見捨てるなんて絶対にしたくない。……だから、未来の俺。ラージャへは、お前が行ってくれないか?」

 

過去の俺からの合理的な提案に、俺は少し思案した。

この時代に来てからというもの、俺は『過去の俺』の『経験』や『成長の糧』となるような出来事を極力奪わないように立ち回ってきた。

だが、今回は事情が事情だ。

今のテンペストが抱えるタスクの多さと、相手が『原初』であることを考えれば、過去の俺が言う通り、俺自身が自ら動いて事態を解決するのが最善かもしれない。

 

「……お前がそう言ってくれるなら、今回は俺が表舞台に立つか」

 

俺は立ち上がり、過去の俺の肩をポンと叩いて言葉を続けた。

 

「たしかにお前の言う通りだ。避難民の対応も、防衛網の再構築も、俺たちのどちらかが陣頭指揮を執らなきゃならない時期だしな」

 

俺はヒイロたちを見下ろす。

 

「それに、呪いの解呪や裏で糸を引いてる黒幕の炙り出しなら、未来の知識と力を持ってる俺がサクッと行ってきた方が、圧倒的に早く終わるからな。……今日中には片付けて帰ってくるさ」

 

「きょ、今日中って……お前な。相手は『原初』だぞ?」

 

過去の俺が呆れたようにツッコミを入れるが、俺の実力を一番よく知っているからこそ、「……分かった。ラージャの件は、お前に任せる。俺はテンペストの守りを固めておくよ」と力強く頷いた。

 

「よし、決まりだな。同行者は……ヒイロと使者の二名。それに、ベニマルとシオン。お前たちも来い」

 

「ハッ! 兄者の窮地、必ずやお救いしてみせます!」

 

「承知いたしました、未来のリムル様! 女王様を苦しめる計略など、私が一刀両断してさしあげます!」

 

頼もしい返事を返す二人に、俺は頷く。

 

「あの、未来のリムル様」

 

そこで、静かに控えていたキエンが一歩前に出た。

 

「不躾なお願いとは存じますが……この私も、同行をお許しいただけないでしょうか。ヒイロは私にとっても息子のようなもの。彼の恩人の危機となれば、ただ里で待っているわけにはまいりません。それに、一族の長として、ヒイロの命を救ってくださったトワ王女に直接御礼を申し上げたく存じます」

 

「親父殿……!」

 

「あなた。どうかヒイロと恩人の方を助けてあげてください。里の留守は、私とシュナたちでしっかりと守っておりますから」

 

族長の妻が、キエンの背中を力強く押すように微笑みかける。

 

「キエンもか。……ああ、いいだろう。ベニマルもヒイロも、族長が一緒なら無茶はしないだろうしな」

 

俺が許可を出すと、ヒイロは「リムル様……何から何まで、本当にありがとうございます!」と再び深く頭を下げた。

 

(シエル。ティアラの呪いと、その裏にいる『原初の紫(ヴィオレ)』の気配……座標の特定はできてるな?)

 

《はい、マスター。呪いの術式の解析も既に完了しています。空間転移の準備はいつでも可能です》

 

俺は脳内でシエルの報告を聞きながら、軽く首を鳴らした。

 

元の歴史では色々と回り道をして被害も出たが、今の俺の力を使えば、あんな呪いや陰謀など、文字通り指先一つでひねり潰せる。

 

それに、この騒動の裏で暇を持て余しているであろう『あの悪魔』に挨拶をしに行くのも悪くない。

 

「さあ、そうと決まれば善は急げだ。ヒイロ、そしてそちらのお二人。ここまで乗ってきた飛竜は外の広場に待たせてあるんだろ?」

 

俺がそう尋ねると、使者の一人がハッとして頷く。

 

「は、はい。広場で休ませておりますが……再び飛竜に乗って行かれるおつもりですか? ラージャまではここから時間がかかってしまいますが……」

 

「そんな悠長なことしてる暇はない。飛竜ごと一瞬で飛ぶぞ」

 

俺たちは屋敷の外へ出ると、広場で休んでいた彼らの飛竜たちをもすっぽりと包み込むような、巨大で複雑な魔法陣を足元に展開させた。

 

「えっ!? ひ、飛竜ごと、これほどの人数を一瞬で転移させるなど……!?」

 

「そんな魔法、おとぎ話でも聞いたことがありませんぞ!?」

 

常識外れの大魔法に驚愕して目をひん剥く使者たちを余所に、俺は空間転移の魔法を発動させた。

 

目指すはジュラの大森林の更に西、ラージャ小亜国。

未来の魔王の圧倒的な力による救済作戦が幕を開けた。

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