【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~   作:Hyades

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終章 理想郷への礎

(……よし。それじゃあ、今後の方針も固まったところで、俺は一度お前の村に戻って、皆に直接報告してくるよ)

 

俺が念話でそう告げると、名付け作業中の過去の俺は嬉しそうに飛びついた。

 

『おお、助かる! 一応、リグルドたちには念話で「オークロードは無事に倒したぞ」って一報だけは入れてあるんだけどさ。やっぱり直接顔を見て詳しい状況を伝えてやった方が、あいつらも安心するだろうし』

 

(ああ、任せとけ。それに、三十万の大軍を養う食糧の手配とか、これからの受け入れ準備の根回しも必要だからな。先にドカンと脅かしておくさ)

 

『うっ……リグルドの苦労する姿が目に浮かぶぜ……。頼んだぞ、未来の俺!』

 

過去の俺との通信を切り、俺は現実の視線を目の前に立つ二人の族長へと向けた。

 

「というわけで、俺はこれから急ぎの報告も兼ねて、留守番チームがいるゴブリンの村へ行ってくる。首領さんは、引き続きこの場の食糧調達の指揮を頼めるか?」

 

「はっ! この場は我らにお任せを。……未来のリムル様も、どうかお気をつけて」

 

首領が頼もしく頷いて持ち場へと戻っていくのを見送り、俺は大鬼族の族長へと向き直った。

 

「族長、あんたも一緒に来るか?」

 

「私が、でございますか?」

 

「ああ。あっちの村には、留守番をしてくれてるシュナとクロベエがいる。ベニマルから生きてるって話は聞いたかもしれないが、やっぱり自分の目で無事な姿を見たいだろ?」

 

俺の提案に、族長はハッと目を見開き、パァッと顔を明るく輝かせた。

「シュナと、クロベエ……。おお、ベニマルが話していた、我が娘と腕利きの鍛冶師の新たな名でしたな! ぜひ、ぜひ同行させてくだされ! ……ですが未来のリムル様、妻が少し離れた場所でけが人の手当てをしておりまして。あいつも娘の無事を知ればどれほど喜ぶか……一緒に連れて行きたいので、呼んできてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん構わないよ。待ってるから呼んできな」

 

俺が頷くと、族長は弾かれたように駆け出し、すぐに美しい桜色の髪を持つ奥方を連れて戻ってきた。

 

「愛娘の無事な姿を、一刻も早くこの目に焼き付けとうございます……!」

 

奥さんも感極まった様子で、俺に深く頭を下げる。

 

「よし、決まりだな。ベニマルたちには俺から『ご両親を少し借りる』って念話で伝えておくから、そのまま行こう」

 

俺は二人に近づき、軽く手を差し伸べた。

 

「距離があるから『空間転移』で一気に飛ぶぞ。舌を噛まないように気をつけてな」

 

「空間転移……!? よもや、そのような魔法まで軽々と……ッ!?」

 

族長が驚愕に目を剥いたその瞬間、俺はすでにシエルに座標の固定を指示していた。

 

《対象座標であるジュラの大森林・ゴブリン村の中央広場への空間座標のリンク、すでに完了しております》

 

足元に魔法陣が展開されたかと思うと、周囲の景色がぐにゃりと歪む。

次の瞬間、湿地帯の泥臭い空気はパッと消え去り、俺と族長夫婦は、見慣れた――いや、俺にとっては懐かしい、開拓途中の長閑なゴブリン村の中央広場へと降り立っていた。

足裏に湿地帯の泥ではない、踏み固められた土の感触が伝わってくる。

 

「……な、なんと。一瞬にして景色が……。これが、空間転移の魔法……!」

 

「あなた、ここは一体……」

 

突如として変わった光景に、屈強な大鬼族の族長が目を白黒させ、族長の奥さんも驚いたように周囲を見回していた。

 

そこは、ドワーフ三兄弟の指導のもと、着々と開拓が進められている長閑なゴブリン村の中央広場だ。

木材を運ぶ音や、かまどから立ち昇る煙の匂いが、戦場とは違う平和な空気を漂わせている。

 

広場の中央に突然現れた俺たちに、周囲で作業をしていたホブゴブリンやゴブリンナたち、それに遊び回っていた子供たちが一斉に足を止めた。

 

「あ、あれは……!」

 

「未来のリムル様だ! 未来のリムル様がお戻りになられたぞーっ!」

 

「わぁぁっ、リムル様! おかえりなさいませ!」

 

俺の姿を認めた村の住人たちが、パッと顔を輝かせて歓声を上げる。

だが、その直後、俺の隣に立つ巨大なオーガの姿に気が付き、少しだけざわめきが広がった。

 

「お、おい……隣にいるあの方は……?」

 

「す、すげえ気迫だぞ……。ベニマル様たちと同じ、大鬼族の方か?」

 

族長は『鬼人』に進化していないとはいえ、長年一族を束ねてきた歴戦の戦士であり、奥方もまた上位魔族としての気品を纏っている。

その姿から発せられる威圧感と覇気は、並の魔物なら近寄るのも躊躇うほどだ。

 

そんな住人たちのざわめきの中、しばらくすると広場の奥の人だかりが、まるでモーセの十戒のようにサッと左右に割れた。

 

「おおおおおおっ! どいてくだされ、道をお空けくだされぇぇっ!」

 

はち切れんばかりの筋肉を限界までパンプアップさせたリグルドが地響きのような足音とともに猛ダッシュで駆け込んできた。

 

「未来のリムル様ぁぁぁっ!!」

 

ズザザァァァッ!!

リグルドは俺の目の前数メートルのところで勢いよくスライディング土下座をかまし、泥だらけの顔をバッと上げて滝のような涙を流した。

 

「あああ、ご無事で何よりでございます! 昨日、こちらの時代のリムル様から『オークロード討伐完了』の念話を受け取っておりました! このリグルド、嬉しさのあまり心臓が破裂するかと思いましたわぁぁっ!」

 

「ははは、相変わらず元気そうだなリグルド。留守番ご苦労だった」

 

俺が苦笑しながら労うと、リグルドは「もったいないお言葉!」とさらに地面に額を擦り付けた。

そして、顔を上げたリグルドはようやく俺の隣に立つ族長の存在に気が付き、ピタッとその大声と涙を止めた。

 

「む? 未来のリムル様、そちらの威風堂々たる御方と美しき方は……もしや、新たなお客様でございますか?」

 

「ああ。紹介するよ。この人たちは――」

 

俺が族長たちを紹介しようとした、まさにその時だった。

 

人混みの奥から、弾かれたように駆け出してくる二つの影があった。

一人は、薄桃色の髪をなびかせた、神々しいほどに美しい鬼人の姫。

もう一人は、真っ黒な前掛けを身につけた、屈強な鬼人の鍛冶師。

 

留守番を任されていた、シュナとクロベエだった。

 

「未来のリムル様! ご無事で……っ!」

 

シュナが安堵の笑みを浮かべて駆け寄ろうとし――ピタリと、その足を止めた。

彼女の後ろに続いていたクロベエも、息を呑んで硬直する。

二人の視線は、俺の隣に立つオーガの夫婦に釘付けになっていた。

 

「あ、ありえない……。でも、この妖気は……」

 

シュナの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出す。

クロベエもまた、信じられないものを見るように目をひん剥き、震える指で二人を指差した。

 

「う、嘘だろ……? 族長と、奥方様……だべか!?」

 

族長と奥方もまた、目の前に立つ二人の姿に言葉を失っていた。

大鬼族特有の禍々しい角は小さく洗練され、放つ妖気はかつてとは比べ物にならないほど澄み切って強大になっている。

だが、その面影と、何より魂の繋がりが、彼らが誰であるかを雄弁に物語っていた。

 

「おお……。間違いない、その姿は変われど、お前たちは……」

 

族長は、震える一歩を踏み出した。

奥方もまた、両手で口元を覆いながら涙ぐんでいる。

 

「シュナ……それに、クロベエ……なのか? なんと美しく、そして逞しくなったことか……!」

 

「シュナ……無事だったのですね、私の可愛いシュナ……ッ!」

 

「お父様……ッ! 母様ッ!!」

 

「族長ぉぉっ!!」

 

もはや言葉は不要だった。

シュナが衣服が汚れるのも構わず飛び込み、クロベエも泣き顔をくしゃくしゃにして族長の巨体にすがりついた。

族長はクロベエの肩を力強く叩き、奥方は飛び込んできた愛娘をしっかりと抱きしめ返す。

 

「よくぞ……よくぞ生き延びてくれた。立派になったな、二人とも……!」

 

「うわぁぁぁん! お父様、母様ぁ……っ!」

 

「生きて……生きておられたのですね……ッ!」

 

広場の中心で繰り広げられる、死別したはずの家族と同胞の、奇跡の再会。

事情を完全に飲み込めていない周囲のゴブリンたちでさえ、そのあまりにも感動的な光景にボロボロともらい泣きを始めていた。

 

「おおお……っ! なんという美しき家族愛……! このリグルド、感動のあまり前が見えませぬぅぅっ!」

 

足元では、リグルドがスライディング土下座の体勢のまま、滝のような涙を流して広場の土を泥に変えている。

 

(ふふっ。連れてきて大正解だったな)

 

俺は泣きじゃくるシュナの頭を優しく撫でる族長の姿を見つめながら、心の中で静かにガッツポーズをした。

 

しばらくして、シュナたちがようやく涙を拭って落ち着きを取り戻したところで、俺は改めて周囲の皆を見渡した。

 

「さて、感動の再会の最中に悪いんだが、皆に報告と……ちょっとした『爆弾発表』がある。リグルド、村の主要な連中を集めてくれ。今後のこの森の……いや、この村の未来に関わる、超重大な話だ」

 

俺がわざと勿体ぶってそう告げると、リグルドはビクッと体を震わせ、慌てて涙と鼻水を拭って立ち上がった。

 

「は、ははぁっ! ただちに皆を広場の中央へ集めますぞ!!」

 

リグルドの号令によって、広場には次々と村の主要な面々が集まってきた。

各ゴブリンの長たちに続き、土埃を払いながら腕利きのドワーフたち――カイジンと、ガルム、ドルド、ミルドの三兄弟も顔を揃える。

 

「リムルの旦那、えらく騒がしいじゃねえか。オークロードの討伐が終わったってのは本当かい?」

 

「ああ、カイジン。皆も集まってくれてありがとう。……結論から言うと、オークロードの脅威は完全に去った。ジュラの大森林はもう安全だ」

 

俺の言葉に、集まった村人たちから「おおっ!」という歓声と安堵の吐息が漏れた。

だが、俺はすぐにスッと表情を引き締め、片手を上げてその歓声を制した。

 

「喜ぶのはまだ早いぞ。俺から皆に伝えなきゃならない超・重大発表がいくつかある。心して聞いてくれ」

 

ゴクリ、とリグルドやカイジンたちが息を呑む。

俺は隣に立つ大鬼族の族長夫婦、そしてシュナやクロベエたちと一度頷き合い、ゆっくりと口を開いた。

 

「まず一つ目。俺たちは先ほど、湿地帯にてリザードマン、大鬼族、オーク、そしてこの村のゴブリンたちを含めた『ジュラの森大同盟』を結成した」

 

「だ、大同盟!? この森の主要な種族が手を結んだというのか……!」

 

カイジンが目を見開いて驚愕する。

 

「そして二つ目。その同盟に伴い、敵であったオークたちをすべて俺たちの陣営に受け入れることになった。その数――およそ三十万だ。そしてその一部はここで受け入れる」

 

「「「――はぁぁぁっ!?」」」

 

広場に集まった全員の声が、見事に一つに重なった。

無理もない。

たかだか数千人規模の村に、いきなり数万の人口がプラスされるのだ。

カイジンに至っては「さ、三十万!? 桁が一つ、いや二つ違わねえか!?」と、咥えていた葉巻をポロリと落としていた。

 

「落ち着け、三十万のオークが今すぐ全員この村に押し寄せるわけじゃない。だが、彼らは飢えから解放され、優秀な労働力である『猪人族(ハイ・オーク)』へと進化した。彼らの強靭な体力を使って、まずはこの森全体を切り拓き、街道を整備していく」

 

俺はさらに言葉を続ける。

 

「三つ目だ。オークたちの労働力も借りて、焼け落ちた大鬼族の里の再建支援を行う。ここにいる族長たち、大鬼族の皆がまた安心して暮らせる故郷を、俺たちの手で必ず取り戻すぞ」

 

その言葉に、族長夫婦は深く頭を下げ、シュナは胸の前で両手を組みながら感極まったように瞳を潤ませた。

クロベエも「リムル様……!」と声を震わせている。

 

「そして最後、四つ目だ。……カイジン、リグルド。お前たちには一番苦労をかけることになる」 

 

「ご、ゴクリ……」

 

「今までは『俺たちの村を立派にしよう』という計画で進めてきたが、これからは違う。この村は、多種族同盟の中心地であり、将来的に建国される『魔物の国』の首都になる」

 

俺は彼らを真っ直ぐに見据え、ニヤリと笑った。

 

「つまり、ただの村造りじゃない。三十万の民を養い、すべての種族が笑って暮らせる、最高に豊かで巨大な『都市』をここに造り上げるんだ。……というわけで、明日から目が回るくらい、いや吐き気がするくらい忙しくなるから、覚悟しておいてくれ!」

 

しばしの間、広場には水を打ったような静寂が落ちた。

情報量が多すぎて、皆の頭の処理が追いついていないのだ。

だが――。

 

「……カァーッ! やってくれるぜ、うちの旦那は!」

 

最初に沈黙を破ったのは、カイジンだった。

彼は落とした葉巻を拾い上げると、呆れたように、けれど最高に楽しそうな笑顔を浮かべて豪快に笑い飛ばした。

 

「三十万人の受け入れに、大鬼族の里の再建、それに国に相応しい巨大都市の設計だと!? ……ふざけやがって、俺たちドワーフの職人魂に火をつける気か! 上等だ、やってやろうじゃねえか!」

 

「「「応ッ!!」」」

 

ガルムたち三兄弟も、カイジンの言葉に力強く拳を突き上げる。

 

そして、我らが村長であるリグルドはといえば。

 

「おお……おおおおお……っ!! 未来のリムル様が語られる、途方もなく壮大な夢……我らゴブリン一同、この命が燃え尽きようとも、必ずやその御期待に応えてみせますぞぉぉぉっ!!」

 

もはや涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにしながら、天に向かって雄叫びを上げていた。

 

「よし! それじゃあ、細かい都市計画の修正や物資のやり繰りは、カイジンとリグルドを中心に詰めてくれ。今頃、向こうの湿地帯では過去の俺が三十万のオークを相手に必死こいて名付けをしてるはずだからな。こっちも負けずに受け入れ準備を進めるぞ!」

 

「「「おおおおおおおっ!!」」」

 

夕暮れが近づくゴブリン村の広場に、かつてないほど熱気と希望に満ちた歓声が響き渡った。

 

この時代に転移した時は正直焦ったが、今はもう一度”俺たち”の国を作るのが楽しみで仕方がない。

新たなる理想郷を作る物語は始まったばかりだ。

 

 

 

転生したらスライムだった件 〜双星の智慧と新たなる理想郷~ 第一部 完




ここまで読んでいただいてありがとうございます。
この外伝作品は転スラが好きな私が完全なる趣味として執筆しているものになります。
現在、第七部まで執筆が終わっており、文字数も100万文字ほどに到達したのでこちらで共有をさせていただくことにしました。
このように物語を長く書くのは初めての経験であり、読みずらい箇所、用語が間違っている部分もあるかとは思いますがご容赦ください。
もし第一部以降を引き続き投稿するとしても、私生活や他の趣味(3Dモデリング等)で時間がかかるかもしれません。
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