執行人No.4【姫雛】と泡沫の夢   作:告天使

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異常個体

 ピリつく空気が張り巡らされた空間。

 時が止まった訳ではないと確信できるのは、飛竜たちがゆったりと滞空しているからだろう。

 そんな膠着を破ったのは、あやめだった。

 

「来ないのなら、こちらから行くぞ!」

 

 あやめの戦闘スタイルは、鉈と手斧、魔術を状況により使い分ける万能型。近接攻撃にリーチこそないもののの、魔術や技量でカバーできる範囲だ。

 ゆえに、鉈と手斧を同時に構えると言うのは非常に珍しいことなのだ。鉈は右手に順手で、手斧は左手に刃を外側へ向け斧頭の近くを握ると、そう宣言しながら一歩踏み込んだ。

 

 ────瞬間、即座に放たれるカウンターの一撃。

 【竜爪の槍】は本来、投槍器に番え放つものだ。魔術由来のものゆえ敵に取られる心配はなく、形成し直せば何度だろうと投げられる。

 しかしイグは自己流の改変を施し、穂をより重く、大身槍を思わせる形状へと変化させている。振り下ろしや薙ぎ払いが強力になる一方、斬り上げや細かな立ち回りが難しくなる欠点を持つ。

 ゆえにこれは見せ札とし、本命の武器は、第三の腕の如く扱える尾にある。尾の先だけ魔力外郭を硬化させ、鉤爪のような形状を維持。これ見よがしに大身槍を構えあやめの意識を逸らすと、伸縮する尾を使い地中を掘り進めた。そして踏み込んで来たところを、正面と地面からの二段攻撃で仕留める。そういう腹積りだったのだ。だが‥‥

 

「面白いことをするな。地竜の真似事か?」

 

 あやめには通じない。

 心の臓を狙った神速の突きは、手斧の握りの辺りで首筋を沿うように逸らされ。

 アキレス腱を裂こうとした鉤爪は、【力の発露】を転用した斬撃により断たれている。

 まさか反応するとは思わなかった。そんな顔をしたイグに対し、あやめは呆れたように大身槍ごとその右腕を斬り落とす。

 

「お? 刃こぼれしてしまった。中々頑丈じゃないか」

 

 鉈の刀身を見れば、刃先の辺りが僅かに欠けている。とはいえ、これは二年以上使い込んだ品で、迷宮資源製の物でなく、祖父母から貰った山仕事用の市販品だということを加味すれば、多くの探索者から「なぜそれで異常個体の腕が切れるのか」とツッコミを貰うのだろうが。

 

 右腕と武器を失ったイグは、上空に無数の【竜爪の槍】を形成すると、あやめに対し【誘引】による無気力化を試みる。そのまま尾を自切すると、【捕捉】対象への攻撃を飛竜たちに命じた。

 

「魔術【輝く結晶】──魔術【爆ける魔力】を付加、タイマーセット。飛んでけ」

 

 あやめの頭上に形成された固形魔力。それに自爆効果を十秒後に起動するよう仕込むと、天高く射出される。

 飛竜から砲撃が飛んで来ることはない。イグが命令を出す時、魔力を差し込み妨害したためだ。逃げ出そうとしていたイグには鉈を投げつけ妨害しておく。文字通りの槍の雨への対処は、斧一つでどうとでもなる。

 

 カッ、と頭上で光が爆ぜると、平衡感覚を失い飛行補助の魔術を解除してしまった飛竜たちが降ってくる。イグは大量の魔術行使により魔力が殆ど残っておらず、ほぼ無力化できたと言えるだろう。あやめの勝ちだ。

 

:つっよ

:はい瞬殺

:この子マジで十四歳??

:なんで基礎的な魔術と物理だけで異常個体ヤれるの?

:こ、こいつが弱いだけかもしれないし‥‥

 

「塵も積もれば、とは言うけどさ。塵はいくら積もったところで吹けば飛ぶでしょ」

 

 五ヶ月ぶりとなる異常個体。彼らを倒せば、通常種より多くの魔力を獲得することができる。しかし、イグは今までのどの異常個体より弱かった。ガッカリだ、と小さく吐き捨てたあやめは、手斧を片手にイグの方へ向かう。

 魔力枯渇と出血、オマケに鉈が後頭部に命中したらしい。イグは壁にもたれかかり苦しげに呻いていた。

 

「──で。塵の上に砂金が乗ったところで、それはもう塵と変わりないんだよ」

 

 イグを蹴倒しうつ伏せの状態にすると、その首へ手斧を振り下ろす。

 さながら処刑の様相だ。尊厳を殺し首を断つ。この後、通常の探索者ならば素材を剥ぎ取り回収するのだが、未成年のあやめは換金不可能であるためそんなことはしない。

 

「あとはこいつら〆るだけか。面倒だなぁ‥‥」

 

:異常個体の素材とか三桁万円するんじゃね?

:竜の鱗と魔石は最低二桁万円だぞ!

:未成年だと換金できないクソ制度

:こんだけ素材がありゃ国も嬉しいだろうにな

 

 斧で首を断ち、鉈で動脈を裂き、指揮官を失い混乱する竜の群れを処理していく。一部の優れた個体は応戦して来るが、あやめには狩りの対象でしかない。翼を傷つけ飛行を封じれば、後の脅威はその躯体だけ。魔術攻撃は前兆があるため、対処は容易だ。

 そんなこんな、七十体ほど倒した頃に、異変は起きた。

 

「あ、斧壊れちゃった」

 

:え

:斧頭が取れとる

:武器なくて大丈夫?

:まだ鉈があるし‥‥

 

「げ、鉈折れた」

 

:ちょぉ!?

:あかん(あかん)

:まだ竜残ってるよな??

 

「‥‥こいつら処理したら、流石に帰るか」

 

 万能型ゆえ火力のある魔術は使えないこともないが、単独かつ近接武器なしとなると、これ以上深く潜るのは厳しい。

 あやめは、泣く泣く帰還を決断するのだった。




Topic:探索者、探索者資格、探索者養成学校
探索者とは、迷宮を探索しその資源を持ち帰る職のこと。
探索者資格とは、迷宮管理協会と国家の承認を受け発行される迷宮への入場許可証。また、その能力に応じ等級が与えられ、最低は五級、最高は一級。
探索者養成学校とは、探索者になるための専門的な知識や技術を獲得するための学校。初年度の六月頃に探索者資格を得るプログラム。迷宮下層のパーティ単位探索、探索者資格三級相当が卒業の最低ライン。基本的に留年はなく、卒業ラインに満たない場合は見込みなしとされ、探索者資格剥奪ののち高卒資格を獲得し、卒業する。
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