両者、魔力を巡らせながら構える。
衝突に備え、持ち得る力の限りを尽くすため。
先手はカグラ。口腔内へ溜めた魔力を放つ。
「良いんじゃない!?」
それを
「【
この砲撃は複合式によるものだ。三つから六つの【力の発露】を組み合わせ"弾き"を通じにくくすると共に、【大砲】さながらの威力を確保している。しかし"任意地点に対する狙撃"という【大砲】の効果からは外れ、"魔力を任意の形状で放つ"魔術でしかないために、接触=着弾判定となってしまう弊害が起こっていた。
カグラ、その元となったアームストロングは生まれついての強者だ。複雑な魔術の運用や戦法は必要なく、単なる出力が敵にとっての必殺となり得た。ゆえにこうした試行錯誤は初めての経験であり、思考と行動に僅かなズレが生じる。この隙をあやめは見逃さなかった。
擬似【大砲】の失敗。新規魔術への切り替え。その刹那に、一息で距離を詰める。
「そら、まずは鱗を剥がしてやる」
鱗の継ぎ目。そこを目掛け剣を突き立てると、弧を描いた魔弾が飛来する。追尾性を付加した【力の発露】だ。あやめはそれを無防備に受ける。バチッと音を立てながらも、傷をつけることは一切なく消滅した。
「追尾性を付与するために威力を犠牲にしたな? それじゃ意味ないよ」
言い終えると同時。てこの原理を使い、その馬鹿力で鱗を引っぺがす。思わず悲鳴が漏れるカグラだが、傷口を即座に再生しながら結晶を生やすことであやめを拘束する。捕まったのは右足首。自切しようとしたところに、斬撃と化した【力の発露】が飛来する。
あやめも度々使うやり方だが、実は見た目以上に難しいものとなっている。なぜかと言えば、斬撃の威力を高めようと思えば魔力を集める必要があるが、魔力を集めると分厚くなり、斬撃にならないためだ。これを回避するには、刃となる部分の厚さを変えず、密度だけを増やす必要がある。魔力の操作技術に長けたものでなければ成せない技だ。
チ、と舌打ちを一つ。同じく斬撃を飛ばし打ち消すが、すぐに二つが飛来する。そのすべての狙いが頭、首、胴のいずれかゆえに迎撃せざるを得ず、その度に個数が増えてゆく。ジリ貧を自覚した瞬間、【ロリー・ポリーの外郭】の範囲を拡大し、ほんの数秒の隙を作ると急ぎ自切し窮地を脱する。
もうカグラの背は危険だと地面に降りると同時、ボンッと爆発音が響きあやめの左半身が消し飛んだ。
「っ、はは、マジかよ」
魔術【マイン・スイーパー】は、いわゆる地雷だ。設置した地点に設定した存在が入り込んだ瞬間、起爆する。ここら一帯には既にカグラの魔力が残留しており、ゆえにあやめも気づけなかった。
左脚をほぼ全損。脇腹が抉れモツが溢れ落ち、左腕は欠損こそしていないものの大火傷だ。まともに動かせはしないだろう。だが、それでも。
「私はまだ戦えるぞ‥‥ッ!」
これほどの大怪我。なぜ動けるのか。
その答えは、開戦前に起動した虎の子の魔術。
名を【ジーヴァの正循環】という。
その効果はシンプルだ。
"あらゆる異常があろうとも、生命活動と精神統一を持続する"
この"異常"にはもちろん、元来なかった欠損も含まれている。そう。これほどの大怪我にも関わらず、あやめは一切出血していない。それは、欠損部位を架空の魔力管を用い再現することで、血液の正循環を止めないようにしているためだ。
凄まじく強力な魔術だが、使い手は一切と言えるほど存在しない。
なぜかと言えば、欠損した際の痛みや苦痛、精神へのダメージは肩代わりされないためだ。確かに生き残れはするが、大抵はその後に廃人となる。あやめがこうして戦闘を続行しようとしているのは、類稀なる鋼の精神の持ち主ゆえだろう。
とはいえ、あやめも魔力の余りは多くない。ゆえに取るべき手段は限られる。
たとえすべての魔力を使おうと、従えたカグラから譲り受ければいい。
片足がないゆえに膝をつき、情けない格好ではあるが、これ以外にやりようがないのだから仕方がない。
「カグラ、次の一撃で決めよう」
その言葉を理解したのか否か。魔力を集め、不動を貫き大技を準備するあやめに対し、速攻を仕掛けることはなかった。代わりと言うべきか、カグラもまた魔力を溜め始める。
【健体】を切る。
【健腕】を切る。
【健脚】を切る。
【ロリー・ポリーの外郭】を切る。
【接続】を切る。
リソースを一点に、集め、厚め、圧める。
斬撃化した【力の発露】より薄く細く、けれど密度はより高く。
これもまた、あやめのオリジナルの魔術だ。
魔力出力と操作の自動化でしかないのだが、このような状況ならば有用だろう。
互いに構える。
右手を銃の形にし、人差し指の先に小さな光球を灯したあやめ。
大きく口を開け、やはり口腔内に溜めた魔力を輝かせるカグラ。
──勝てない。
その輝きを見た刹那、カグラは理解する。
かの光球は、全力の【大砲】すら穿ち、結晶鱗と魔力外郭・内郭すら貫くだろう。
──それでも。
やってみたい。
挑んでみたい。
絶対強者、初の
見様見真似で【大砲】を圧縮。より細く、熱く、輝く魔弾へと変貌する。
「────見事だよ、カグラ」
チカ、と光が弾け、両者の全力がぶつかり合う。
カグラの【大砲】改め【スナイパー・キャノン】と。
あやめの────
「【
無音。
閃光。
爆発。
言葉にするなら、ただそれだけ。
僅か一秒の間に二十層は消し飛び、上下左右一層程度のスペースに居た生物は死滅した。瓦礫や魔力結晶は灰燼と化し、地上は震度五程度の地震に襲われた。この場において原型を留めているのはあやめとカグラだけ。カグラが咄嗟にあやめを守らなければ、彼女もまた灰になっていただろう。
「勝負に勝って試合に負けた、か。」
あやめを助けたと言うことは、カグラは既に隷属しているのだろう。
ゆえに
「あ゛ー、悔しいなぁ」
唸るあやめに、カグラが頭を擦り付ける。結晶鱗が地味に痛い。
「なぁ、カグラ。お前は私に従う必要なんてないよ。それでも私について行きたいと言うのなら────対等な友としてのみ許す」
目を瞬かせ、数秒の間を置き嬉しそうに鳴くカグラ。
その様に頬を緩めたあやめは、気づけば完治していた体を起こし、気怠げに叫んだ。
「よぉし。それじゃあまずは地上へ戻るぞ。‥‥うへぇ、服も武器も無いじゃん。端末は‥‥うん、無いよね」
一層ずつ上がって行こう、と正規ルートを指し示すカグラを尻目に、天井に開いた穴を見て、ふと思う。
「今の私らなら、天井ぶち抜いて行けんじゃね?」
思い立ったが吉日と言わんばかりに、早速カグラを説得するあやめ。
その熱量に呆れたような、ドン引きしたような表情を見せながらも、渋々とその身を魔力へ還しあやめの内に入り込む。
「これで今の私は、擬似とはいえドラゴンみたいなものだ。なら、モンスターにしか使えない身体変化系の魔術も‥‥! 魔術【ワイバーンの翼腕】」
あやめの両腕が光ると同時、ぐにゃぐにゃと形を変えながら、さながら蝙蝠の翼へと変化する。それに気を良くしたあやめは、勢い良く飛び立ち、十八層の床へ向け────
「複合式魔術【大砲・六連】」
超出力を、いとも容易く解き放つ。
今度は震度四ほどの地震に断続的に襲われる地上。馴染みの警備員と受付は説教を決意したとか。
ともかく、そんな調子で上層へ帰還したあやめは、内に在るカグラへ向けて笑いかけた。
「楽しかったねぇ、カグラ!」
あとがき
ここまでお読み頂きありがとうございます!
前々から設定自体は練っていたのですが、このGW中に投稿しようと決めたのが四月の二十日。ふんわりとした妄想を出力するのは滅茶苦茶大変でした‥‥。何かと拙い拙作だったと思いますが、面白く、楽しく、ワクワクしながら読んで貰えたなら幸いです。
書きながら、「なぜ配信という要素を入れてしまったのか」と自問自答しておりました。今回に至ってはコメント欄すらつきませんでしたし‥‥。
それはそれとして、ここから先は一切手をつけていないうえ、ふわふわした設定がアホほど転がっているので、投稿は当分先になると思います。やる気がどこまで続くかという問題もあるので、かなりのスローペースとなることでしょう。それでも待ってくれる方が居るというのなら、何が何でも書き上げます。
改めて、本当にありがとうございました。本作以外にも調理していない妄想は沢山あるので、本作じゃないどこかでお会いすることもあるかも知れません。これからもハーメルン様を中心に活動していきますので、どうぞ宜しくお願いします。
追伸
次の話に幕間を置いてあります。お時間がある際にご覧ください。