データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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第10話 祭りの時間

 阿佐ヶ谷ダンジョン第四十八層。

 ダンジョンを進んで行く中で、俺たちは手の空いた時間を利用して性格診断テストに興じていた。

 

「何度聞いても納得いかないわ……何よ『せかせかコンドル』って……」

 

 ぶつくさ言い続けるアリアさん。

 先ほどから遭遇するエリートをことごとく瞬殺しているのだが――やはり、多少の疲れが見えている。

 まあ累計で三十体ほどの異常個体を屠っているのだ、労力は想像を絶するものだろう。

 

 カスミさんは、そんな彼女がリラックスできるようにと、気を遣っているのだ。

 そのへんの気配りはさすがベテランといった感じで、頭が下がるばかりだ。

 

「この質問に答えていくだけで、性格診断ができるんですよね?」

「うん。あーちゃんは『せかせかコンドル』で、私は『うっかりタヌキ』だったよ。失礼しちゃうよね」

 

 あー、『うっかりタヌキ』。

 ぷんすこしているカスミさんには悪いが、ちょっと分かるかもしれん。

 

〇やってみたけど『いらいらイノシシ』だった

〇俺は『さみしがりウサギ』だな

〇さみしがりウサギの人って成人男性?

〇うん

〇キモ

〇なんだお前殺すぞ

〇『陰キャアリクイ』って出てきたんだけど

〇『他責カバ』でした 死ね

〇このチャンネルの視聴者の結果ゴミすぎんか?

 

 ……結果を確認するのが怖くなってきたな。

 というかこいつらに比べたら『せかせかコンドル』はめっちゃマシだろ。

 

「……あ、結果出ましたね」

 

 ちなみにこの画面は探索用デバイスに表示させている。

 マップを見ながらでも、こうして関係ないサイトを見れるのだ。

 

 で、俺の性格診断結果は……

 

「僕のタイプは『ファイアゴリラ』ですね。『ファイアゴリラ』!?

 

 なんか系統が違い過ぎない!?

 ありえない回答が表示されてしまったんだが……

 

『『あー……』』

 

 しかしあろうことか、カスミさんとアリアさんはそろって納得の声を上げていた。

 嘘だろ? 俺のどこに燃え盛るゴリラの要素があるんだ。

 

「じゃ、あたしって本当に『せかせかコンドル』なんだ」

「頑張って『うっかりタヌキ』として生きていくよ」

「すみません、もうこれが現実だと一気に受け入れないでほしいのですが」

 

〇ファイアゴリラ、もうこれしかなさすぎる

〇マジでそうとしか見えなくなってきた

〇九条"ファイアゴリラ"博士

 

 どいつもこいつも本当にふざけている。

 

 ……ここまでのやり取りを踏まえて、少しばかりの違和感がある。

 今までで最も下層へと潜っているのに、最も緊張感がないのだ。

 

 確かにアリアさんは尋常じゃない強さを誇っている。

 とはいえここまで彼女に頼り切りで進む必要はない――意図的にアリアさんが、自分の手ですべてのエリートを倒し続けている。

 

 理由は、少し考えればわかる。

 俺を連れてきたのは俺に自分の強さを見せるため。だからこそ、すべて自分の手で片づけようとしているのだ。

 

 これはダンジョンアタックを始める前の俺の計算と明確にズレている。

 このズレが、何か致命的なことにつながらなければいいんだが。

 

〇アリアさん頑張り過ぎじゃない?

〇解釈違いのエセデータキャラが躍動しないよう必死なんやろなあ

〇同意

〇ていうかアリアさんさっきから強すぎませんか

〇いうてダリア上位層クラスだからな

 

「……うちのコメント欄で、アリアさんは大体ダリアの上位層と同じぐらいだって言われてるんですけど……」

「ダリアで顔知ってるやつは何人かいるけど、確かにあたしと同じぐらい強いのはいるわね」

 

 彼女の言葉に、何人かの先輩方の顔を思い浮かべる。

 そもそも事務所のメンツが少数なのでアレだが、アリアさんと同格ってなるとあの辺かなー。

 

「――ただ、一人だけ、明確にあたしじゃ勝てないヤツはいるわ」

 

 あー……

 それは結構明確に、あの人だろうなあ……

 

〇想像つくお 多分あの子はアリアさんのこと嫌いだろうし会うのは避けようず

〇lol星人さんはなんか知ってるんすか

〇その子、ハカセくんのこと監禁するか真剣に悩んでたヤバ女だお

〇え……怖……

 

 俺の命の恩人をヤバ女とか言わないでほしいんだが。

 

「アリアちゃん、ちょっとペース落とそう」

 

 コメント欄への真剣な抗議を検討していたところ、不意にカスミさんの声が響いた。

 いつになくまじめな声だ。

 

「……今回は一気に最下層まで駆け抜けるつもりなの。最短経路(パスルート)でこそないけど、急ぐに越したことはないわ」

「さっきの人たちのこと、気にしてるの?」

 

 カスミさんの指摘に、大鎌を持つ少女は虚を突かれたように数秒黙った。

 

「……はぁ? なんであたしが気にしなきゃいけないわけ」

 

 結局彼らは、俺たちの言葉を無視して、最短経路(パスルート)で進んで行ってしまった。

 

「気にしてるんだね。でも、今までは、ただダンジョンを進むだけだったけど……ここからは話が違うでしょ」

 

 カスミさんの言葉に、三人そろって足を止める。

 左手から同じぐらい大きな道が接続してきている合流路に差し掛かったところだった。

 

 ここは第四十八層の終着点、最短経路(パスルート)との合流地点。

 要するに、俺たちも後は四十九層を超え、最下層にまっすぐ向かうだけだ。

 

 一応、最短経路(パスルート)といえども、エリートとの遭遇がないわけではない。

 特に最終的な合流を果たした後は、苛烈な戦いが待っているわけだが。

 

「……やけに静かだね」

 

〇もう負けて死んでるとか?

〇A級踏破済みパーティーはそんなヤワじゃないお

 

 カスミさんの言葉に一理あると判断したのか、アリアさんが歩くペースを遅くする。

 そうやって三人で、最下層へとつながる道を進んで行くと。

 

「異常個体の死骸ですね」

 

 目の前には、物言わぬ骸となった巨大なモンスターの姿があった。

 それも一つじゃない。遠くにぽつぽつと点在している。

 先行した三人が倒したのだろう。

 

「フン、A級踏破済みはダテじゃないってワケね」

 

 素材になりそうなところはあらかたはぎ取られてしまっている。

 放置して進んでよさそうだ。

 

「どーする? あの人たちが最下層の異常個体かパレードリーダーも倒してくれてたら。上がってラーメン屋さん行く?」

「絶対イヤ。あたしがラーメン苦手なの知ってるでしょ」

「ラーメンが苦手なんですか? 珍しいですね」

「だってあれ――」

 

 アリアさんの言葉が急に途切れた。

 というより、三人同時に息を止めて静止したのだ。

 

 ガシャ、とアリアさんが鎌を展開する音。

 戦闘準備だ。

 

 暗闇の奥、四十九層の奥から、音が反響している。

 それはどんどん近づいてくる――

 

「人間の足音ですね」

「人間と同サイズのパレードリーダーの可能性もあるよ。注意して」

 

 しかし、これは……まっすぐ進んでいるわけではない。

 必死に、死に物狂いに、壁に身体をぶつけたり転げたりしながら走ってきている!

 

「僕のデータ上、これは99%で救護対象です! 行きます!」

「えっ!? ちょ、ああもう!」

 

 先に駆け出した俺に続いて、二人もついてくる。

 果たして視界に入ってきたのは、最短経路(パスルート)を選んだプロ三名のうち二名だった。

 

「大丈夫ですか!」

「お、お俺たちは無事だ! ただ武器がやられて戦えねえ!」

「最下層にいたのは、ありゃ異常個体なんかじゃねえ! 間違いなくパレードリーダーだ!」

 

 顔面蒼白で全身が震えている。

 よほど怖い目に遭ったのだろう――しかし状況報告はよどみない。

 さすがプロだ。

 

「り、リーダーが、逃がしてくれたんだ……ッ!」

「行こうって、一攫千金狙おうって言いだしたのは俺たちなのに……!」

 

 その言葉に、アリアさんがキッと目を鋭くする。

 

「何よそれ! 普通の探索者はみんなそうよ! そのうえでリスクとリターンを計算してるの! こんな目に遭うなら、最初っから来なきゃいいのよ!」

「こ、こんな風になってるなんて思わねえだろッ!? マップも全然違うしよッ!」

 

 その言葉に、俺たちは数秒絶句した。

 ――マップが違う?

 

「四十九層の構造が全部変わってたんだ! ま、まるであそこが五十層みてえになってる!」

「ていうかパレードリーダーのやつが、四十九層を根城にしてんだ! あいつ、五十層に降りる直前の俺たちを奇襲してきやがった!」

 

〇ありえないお

〇いやでも、実際そうなってるみたいで……

〇これさ、A級ダンジョンを超えてないか?

 

「もしかして……危険度の反映が十分じゃなかったってこと? ここはもう臨時A級ですらなく、S級に該当するんだとしたら……!」

 

 カスミさんが絞り出した言葉。

 それに対して真っ先に反応したのは、俺の隣で唇を嚙んでいた、アリアさんだった。

 

「だったら、あたしたちの周知不足ってことじゃん……!」

 

 直後のことだった。

 アリアさんが大鎌のブースターに火をつけ、戦闘時に行う高速機動でカッ飛んでいく。

 えそれ移動にも使えるの? 便利過ぎるじゃん。

 

「ちょっと、あーちゃん!?」

 

 アリアさんの姿は、あっという間にダンジョンの闇へと吸い込まれ、きれいさっぱり見えなくなってしまった。

 

「ど、どどどうしようハカセくん」

 

 ワタワタしながら、カスミさんが俺の腕を引く。

 仕方あるまい。ここは冷徹なクールキャラの出番だ。

 

「おおお落ち着いてください、カスミさん。こういった時の対応はデータ上きゃんたんです。まずはお茶を淹れましょう、ティータイムを挟むことで人間は冷静になり、呼吸も減るんです。呼吸も減る? 落ち着く、落ち着くんですよ」

「……自分より焦ってる人を見ると冷静になれるって本当なんだね」

 

 途端に、カスミさんがものすごい冷めた表情で、俺から一歩引いた。

 俺はというと派手に噛んで舌が痛い。

 

「まずは君たち、ダンジョンキーパーに連絡して、退路を確保してもらってもいいかな? 道中のツブやエリートはほとんど倒してきたから、念のためになるんだけど」

 

 先ほどの動揺が嘘みたいに、カスミさんはプロ二名へ指示を出した。

 それから、俺の顔を見上げる。彼女の瞳には強い光があった。

 

「で、私たちは急いであーちゃんを追いかける。いいね?」

 

 今の一連のセリフを聞いて、俺も無事に落ち着けた。

 いや最初から動揺なんかしてないが? なぜならデータキャラだから。

 

「ふう……もちろんですよ」

 

 眼鏡をクイッと押し上げて、俺は不敵に笑う。

 

「あと多分だけど、今回は最初からアレをやってもらう必要があるよ」

「アレ、とは? ああ……もちろん承知していますよ」

 

 眼鏡をクイクイッと押し上げて、俺は冷酷に笑みを深める。

 

「僕の完璧な計算を、その結末たる無慈悲な勝利をお見せしましょう」

「…………ごめんハカセくん弁償はする! てりゃっ!」

 

 言うや否や。

 カスミさんのレーザーブレードが、鞭のように器用にしなり――俺の眼鏡を焼き切った。

 

 

「な……何しやがんだカスミさんッ!?」

「やっぱりダンジョンの中ならオッケーみたいだね! ヨシ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 阿佐ヶ谷ダンジョン第四十九層。

 最高速度で飛び出したアリアは、層の構造を一部貫通して無視。

 そのまますぐに、先行した探索者一名と、彼が対峙するパレードリーダーと思しきモンスターを視認した。

 

 敵は、開けたダンジョン広間の天井に頭をこすりそうなほどの巨体だった。

 その見た目は、日本に住んで長いアリアにも見慣れたもの。

 

 四十九層で待ち構えていたのは、巨大な仏像だった。

 

(人造物がモチーフのモンスター!? あんまり聞いたことないけど……戸惑ってる場合じゃないわ!)

 

 仏像は背後から伸びた無数の手に、それぞれ刀剣類を持っていた。

 見た目は接近戦寄りだが、位階がパレードリーダーなら遠距離にも問題なく対応してくるだろう。

 

「伏せなさいッ!!」

「うおっ!?」

 

 飛び込みざまに鎌を振るう。

 仏像が器用に背後の刀剣を振るい、アリアの鎌を噛みとめた。

 

「あ、アリアさん……!?」

「動けるなら逃げなさい――ッ!?」

 

 ちらりと背後を見やるが。

 男の右足は、足首から下がなくなっている。走れない。

 

「――歯ァ食いしばっておきなさい!」

 

 判断は即座だった。

 アリアは前に向き直ると同時、ノールックで男の身体を蹴り飛ばし、戦場から遠ざけた。

 そのまま鎌を振るう。

 

『――ぬう』

 

 交錯の寸前、アリアの生存本能が最大音量で警鐘を鳴らす。

 即座に接近をやめて真横へとブースターを噴射しスライド移動。

 

 直後、仏像の目が妖しく光り、そこからレーザーを吐き出す。

 

(やっぱり持ってるわよねそういうの! それぐらい予想のはんちゅ――)

 

 しかし。

 攻撃を回避したはずのアリアは、自分の眼前に迫るレーザーを見た。

 とっさの反応で『頸椎切り(アサシネーター)』を振るい、レーザーを叩き切ろうとする。

 

「がっ……!?」

 

 だが防いだはずのレーザーが、衝撃をアリアの身体に叩き込んだ。

 身体を吹き飛ばされ、そのまま広間の壁へと激突する。

 

(今の――避けたはずの攻撃が当たったうえに、防いだはずの衝撃が通ってきた!? こいつの特性!?)

 

 ガラガラと壁を崩して立ち上がるアリア。

 そんな彼女めがけて、仏像がゆっくりと、一歩一歩近づいてくる。

 

「舐めてくれて……!」

 

 まだ戦闘継続は可能。

 アリアは軋む身体に鞭を打ち、長い連戦によって尽きつつある体力を絞り出して駆ける。

 

「りゃあああああああああああああッ!!」

 

 絶え間ない高速機動の中で、次々と仏像の腕を切り落として回る。

 しかし先ほどの『ティラノケルベロス』の比ではない速度で、最初から斬られていなかったかのように腕が再生していく。

 

(そんな――さっきのが特性じゃないの!? 複数の特性を持ってるとしか思えない……!)

 

 思考を回しながら、かすむ視界の中で必死に答えを探す。

 眼前の敵に対抗するすべてを計算する。

 

 こいつを倒さなくてはならない。

 もうこれ以上、ダンジョンのモンスターによって犠牲が出てほしくない。

 あの日の自分のように、泣き叫びながら死を待つだけの人なんて、いてはならない。

 

 だから自分が!

 あの日来てくれたヒーローに、自分がなると!

 

 そう誓ったのだから――

 

 

『ぬうう』

「……?」

 

 

 声が聞こえた――仏像から漏れ聞こえる鳴き声だった。

 

(あ)

 

 いやな予感、では済まない。

 濃密な死の予感が絶対零度の悪寒となってアリアの背筋を凍らせた。

 

 

 

『ぬうううううううう……――――庇いに来たのか

 

 

 

 仏像の目が。

 アリアではなく、広間の片隅で、これ以上足手まといになる前にと必死に這いずり回って退避しようとしていた男を捉えた。

 

(ま、ず――――)

 

 思考より行動が先んじた。

 仏像と彼の間に割って入り、鎌を全力で振るう。

 

 直後に仏像の目より打ち出された、無数のレーザー。

 それらすべてを鎌で切り払い。

 

 しかし――完璧に切り払ったはずのレーザーが、アリアの身体各部に、まるで直撃したかのような激痛を叩き込んできた。

 

「――ぅぁ」

 

 うめき声をあげて、鎌を取りこぼして、アリアがその場に崩れ落ちた。

 必死の思いで立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。

 

(これ、は……あたしの防御を無視した、ってこと? 回避行動を無視した命中、再生能力、そして防御貫通――なによ、それ。クソボスにもほどがあるでしょ……)

 

 顔を上げる。

 仏像が間近までやってきて、その剣を振り上げていた。

 

「……はは」

 

 あの日の光景を思い出した。

 ダンジョンが本気を出せば、人間などいつでも滅ぼせるのではないかと。

 むしろダンジョンによって人類が滅んでいない現代が異常でないかと、そんなことすら思ってしまうような。

 

 そんな絶望がまた、心を折りに来た。

 

「ハハ、そうよね……ダンジョンで実力を見誤ったヤツが死ぬのなんか、当然よね……!」

 

 分かっていたはずなのに。

 誰よりも言い聞かせてきた摂理の前に屈するのか、と自嘲の笑みがこぼれた。

 

 

 

 だから――絶望の淵にいたから、背後から轟く疾走音に気づけなかった。

 

 

 

「死ぬのが当然なヤツなんか!! いるわけねーだろうがッ!!」

 

 

 

 背後から飛び出した影が弾丸の如く疾走。

 一筋の閃光と化して、パレードリーダーへと、その拳を思いっきり叩きつけた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 俺が突撃の勢いで『ライトフィスト』を叩き込んだと同時。

 爆音と閃光音にまじって。

 

 ――ぎょろりと、パレードリーダーの目玉が動いた。

 全身を死の予感が舐める。

 

『ぬううううんっ!』

「……ッ!?」

 

 刹那、空中で身をよじる。

 目玉から放たれた熱線が、さっきまで俺がいた空間を引き裂き――俺に直撃する!

 

「んなァッ!?」

 

 とっさの判断で『レフトナックル』のブースターを起動、地面にへばりつくように着地し――レーザーが俺に直撃する!

 

「何してんだよこれッ!?」

 

 仕方ないので両腕をクロスさせてガード。

 直撃、イダダダダダダダ!

 

「いってェ~~~~ッ! 最近の仏像は追尾レーザー出すのかよ!」

 

 いや追尾で済むのかこれ?

 追いかけてくる軌道すら見えなかったぞ。

 もう『当たっているという結果』が決まっていたとしか思えない。

 

 明らかに、一人で戦っていい相手ではない。本能がそう告げている。

 あと菩薩さまをブン殴っていいのかも分からん。バチが当たりそうだ。

 

 しかし――俺は一人ではない!

 

「いよいしょーーーーっ!!」

 

 元気な叫び声と同時に、菩薩さまの顔面に激しく迸る雷光が直撃する。

 後衛用に、装備をメカニカルな弓矢へと換装したカスミさんの攻撃だ。

 

『ぬうん……っ!』

 

 ダメージは通ってなさそうだが、うっとうしそうに菩薩さまが顔を横に振る。

 その隙に、カスミさんが俺のすぐそばに着地した。

 

「大丈夫ハカセくん!? パレードリーダーと戦ったことは……あるんだっけ!?」

「当ッ然経験済みだッ! 一回倒したんだ、倒せない道理はねぇッ!」

 

 俺の言葉に、彼女は数秒黙ってから……フッと笑みを浮かべた。

 

「そうこなくっちゃ! じゃあさっそく『鑑定』するよ! ……あとハカセくん、仏像がレーザー出すのは結構前から定番だよ」

「マジで言ってんのか? 現代社会って怖ぇな……」

 

 警戒態勢を維持するも、菩薩さまは動かない。

 

『ぬうん……』

 

 やつは――俺たちを睥睨しながらも、どこか気が散っているように見えた。

 なんだ? 単純にナメられているのか? だとしたらムカつくだけなんだが。

 

 そうこうしているうちに、カスミさんの手の中で虫眼鏡が完了音を奏でる。

 

「『鑑定』――完了! 位階はやっぱりパレードリーダー! 個体名『アクマデボサツ』! 特性は……特性は『必中』『復活』『貫通』! え!? 三つあるよぉ!?」

 

 カスミさんからもたらされる情報は、ことごとく最悪のものだった。

 だが関係がない。

 

「ハッ、だからどうした! 三つで足りると思われてんなら心外だなァ!!」

 

 座り込むアリアさんを背後にかばって。

 俺は菩薩さまに向かって、右の拳を突き付ける。

 

 

「俺の背後には、守るべきものがある! 退いちゃいけねえ理由がある! だから俺はッ!! 絶対に勝つッ!!」

 

 

「…………ぁ」

 

 

 この瞬間、俺が負ける確率なんか0%だ!

 考える価値がない!!

 

 

「来いよお祭り野郎(パレードリーダー)ッ! テメェがどんだけ盛り上げようと、この祭りの経済効果はゼロだッ! とっとと畳ませてやんよッ!!」

「いや向こうも儲けに来てるわけじゃないから」

 

 

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