データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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第11話 VSパレードリーダー『アクマデボサツ』

 阿佐ヶ谷ダンジョン第四十九層。

 パレードリーダー『アクマデボサツ』を相手取り、俺は高速で拳を振るっていた。

 

「オラァッ!!」

 

 パンチが炸裂すると同時に、爆音と閃光音が響き渡る。

 メキョッと音を立てて、菩薩さまの顔が大きくへこんだ。

 

『ぬうう……』

 

 菩薩さまはうめき声をあげるが、次の瞬間には、顔は元通りになっている。

 おそらくは特性『復活』の効果だろう。

 

「まだまだァァァァ!」

 

 ひたすら菩薩さまの顔面に、連打を叩き込み続ける。

 目から出るレーザー、あれはもう撃たせないほうがいい。

 

〇これがパレードリーダー、初めて見た

〇本当に特性三つ持ちなの?ふざけてるだろ

〇国内で確認されたパレードリーダーの中でも、特性複数持ちは初めてだな……

〇海外でも聞いたことねーよ

 

 あのレーザー、回避してもしきれなかった。

 仕方ない、当たるもんは当たる――じゃねえんだよ!

 避けられないし防げないなんてふざけた話を鵜呑みにしてたまるか!

 あくまでも通常の回避方法が通用しないだけだ! じゃないと勝ち目がないからそう仮定する!

 

 そのうえで今は対策を思いつかないから、とにかく攻め続けて、撃たせないようにするべきだ。

 俺のデータがそう言っている。

 

『ぬうううう!』

 

 菩薩さまの背中の腕が、剣を振るう。

 それらを身をよじって回避し、インファイト続行。

 

「ハカセくん……!」

 

 この距離を維持できているのは、カスミさんの援護のおかげが大きい。

 無数にある腕のことごとくを、彼女が矢を連射して弾いてくれているのだ。

 どう考えても弓矢の連射速度ではない。

 

 背後には、まだ退避できていないアリアさんがいる。

 俺がここを譲るわけにはいかねえ!

 

「るぁぁぁぁっ!!」

 

 ドバン、とひときわ大きな破裂音。

 俺の振るった拳がついにクリティカル倍率4000%に達し、一撃で菩薩さまの頭部を消し飛ばしたのだ。

 

「再生先が丸ごと消えればどうだ!」

 

 これで死んでおけ――という願いもむなしく。

 まばたきの間に、菩薩さまと目が合う。

 

「右に半歩!!」

 

 カスミさんの声と同時、俺がどいた空間を通って雷撃の矢が菩薩さまの顔面に直撃、その目をつぶす。

 

「あっっっぶねぇ死んだかと思った……! カスミさん、『鑑定』結果で『復活』の回数は出なかったのかよ!?」

「出てたよ! さっきの段階で、あと200ぐらいあった!」

 

 聞くんじゃなかった。

 いやでも、腕とかの再生でも多分ストック使ってるんだよな。

 そう考えれば――接近戦を維持し続ければ、勝機はある。

 

「カスミさん、まだやれるよな!?」

「当たり前だよ!」

 

 頼れる返事を背中に受け、俺は再度踏み込む。

 菩薩さまの顔面めがけて拳を打ち込もうとして。

 

 

 

『ぬうううう……――――絶、滅せよ

 

 

 

 刹那。

 菩薩さまの背中から伸びる無数の手――()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

 あこれはダメだわ。

 目玉が全て一斉に妖しく光り――とっさにガードを固めるのもむなしく、俺は派手に吹き飛ばされた。

 

「がっ、ごっ!? が……っ!?」

 

 バウンドしながら数十メートルは転がっていき、最後は広間の壁に激突。

 そのまま、べしゃりと地面に倒れこんだ。

 

『ぬうう……――地下より、そして地上より退去せよ。そこはすでに貴様らの地ではない。退去こそが、絶滅こそが、救済と呼ばれるものだ』

 

 菩薩さまの声が、おごそかに響き渡る。

 何言ってるかわかんねえ。

 

「なんだよ、それ……」

 

 全身が痛い。

 視界がやけに赤いと思ったら、俺は自分の血の海に沈んでいた。

 耳鳴りもひどい。カスミさんの悲鳴が遠くにぼやけて聞こえる。

 

「ハカセくん! もう、こうなったら、緊急脱出装備――き、起動しない!? いや、起動したのに動かない、なんでっ!?」

 

 おぼろげな感覚の中で。

 俺は吹き飛ばされる寸前の光景を思い出す。

 

「……目玉が、増えやがった」

 

 それだけじゃない。

 直視したから分かる。あの目玉たちは、俺のことを嘲っていた。心の底から、バカにして、そして悪意を持っていた。

 いやそういう感覚的な話は、別にいい。

 

〇逃げて!

〇ダンジョンキーパーはどこで何してんの!

〇今向かってるけどこれ間に合わん

〇ハカセだけじゃなくて全滅の危機なんだけど!

 

 反則じゃん。

 こっちが自転車を必死にこいで、車相手でも追いついてやるぞってやってんのに。

 実は車じゃなくてジェット機でしたー、みたいなもんじゃん。

 

 そりゃ、ダメだろ。

 ジェット機より速く走れねえよ。俺も人間だし。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 いや別に向こうもジェット機じゃねえよな。

 

 速度だけなら別に、対抗できるよな。

 

 なんなら体感、俺の方が速いよな。

 

 

 

 だったら本当は全部避けられるな?

 

 

 

「――――ぅぅぅぉぉおおおおおおおおおおああああああああああっ!!」

 

 

 

 文字通りに血を吐きながら、最後の力を振り絞って立ち上がる。

 顔を上げれば、カスミさんがひたすらに矢を放って菩薩さまを遠ざけようとしている。

 彼女の背後には、鎌を杖代わりにして立ち上がろうとしているアリアさん。

 

『ぬ、うう』

 

 菩薩さまは立ち上がった俺を見た。

 その両眼が、そして手のひらの目玉が、妖しく光を放つ。

 

「ハカセくん!?」

「避けなさい――ああでも避けられない! もう逃げなさいッ!」

 

 俺は回避を――しない。

 避けようとするんじゃない。

 

 確かにこいつは俺を狙っている。だから避けようとしても当たってしまう。

 しかし根本的な話で――避ける必要がない。何故なら、()()()()から。

 

 ()()、と。

 地面を蹴る軽い音の直後に、俺の背後の空間で、ねじ曲がった無数のレーザー同士が衝突し、大爆発を起こした。

 

 

「……え?」

「……は?」

 

 

〇は?

〇避けた?

〇避けた、っていうか、ハカセが動いたら当たらなかった?

〇それを避けたって言うんじゃ

〇今必中無視した!?どうやって!?

 

「ハカセくん、何を――」

「大丈夫だカスミさん。この問題、実は簡単だ」

 

 データはここに揃った。

 必要なのは計算だけ。

 

 灰色の脳細胞が連結し、かみ合い、無数の数字を吐き出す。

 脳が湯だつような感覚の果てに、答えが下りてくる。

 

 そうか。

 そういうことか……

 

 導き出された解答には、一切の曇りがない。

 俺は二人と視線を重ねて、フッと笑みを浮かべる。

 

 

「相手より早く動き続ければ……ひろしくんとぼさつさまが違う速度で動き続ければ、ぼさつさまは、ひろしくんに永遠に追いつけないよなァ!?

 

 

 広間に沈黙が下りた。

 カスミさんとアリアさんは、俺に向かって引きつった顔を向けていた。

 

「……あんた、いよいよ本当におかしくなっちゃったの?」

「ちょ、ちょっと待ってハカセくん。もしかしてそれって旅人算のこと? あれは同方向に異なる移動速度で移動するから、追いつくにしろ出会うにしろ、結局は接するんだよ?」

 

 カスミさんの説明は実に丁寧だった。

 

「大丈夫だ。俺の方が速い」

「だから大丈夫じゃないって! 君とレーザーじゃ速度差があり過ぎる!」

「さっきまではそうだった。だけどこっからは違うぜ」

 

 俺は両足で地面を踏みしめると。

 菩薩さまへの道を、いいや違う――ひろしくんとぼさつさまがこれから走る道を見据えた!

 

 

 

「かけっこが苦手なら――しっかり腕を振って走るんだよッッ!!」

 

 

 

〇何?

〇なんて?

〇小学生?

 

 地面を踏み砕き、走り出す。

 余波で足元がめくれ上がり、あまりのスピードに周囲の光景がマーブル状に溶けた。

 

「ひろしくんはァ!! 毎分2000m動きまぁす!!」

 

 降り注ぐレーザーの雨を()()()()()

 光が視界を埋め尽くすが、これが届かないのはデータ的には当然だ。

 俺の計算に狂いはない!

 

「ぼさつさまはァ!! 毎分1500m動きまぁす!!」

 

〇本当に腕ブンブン振ってて草

〇腕の残像できてるんですけど

〇こんなん運動会出禁に決まってんだろ

 

 左右前後全てで着弾の爆風が吹き荒れる。

 その中を、ひたすらにまっすぐ駆け抜ける。

 視界の中でチラリと輝く光、それはひろしくん(おれ)の進むべき道筋!

 

「二人の速さの差は毎分500mでぇ! 一分ごとに500mの差が広がっていく計算になるよなぁ!?」

 

〇そんなわけねえだろ

〇いや数字上はそうではあるんだけど

〇当たらなくなった……本当に『必中』を無力化してる?

 

「だから――テメェは一生俺に届かねぇッ!!」

 

〇言われてみれば『当たらない』と『届かない』って別物か

〇言葉遊びで世界を上書きできるわけないだろ!?

〇画面見ろ

 

 数十メートルに及ぶ絶死の片道路線。

 それを踏破して。

 俺は菩薩さまの眼前に飛び出し、ナックルガードを強く握りこんだ。

 

「そして第二問ンンン!!」

 

 至近距離で拳を振るう。

 爆音と閃光音が鳴り響き、数千パーセントに達したクリティカルダメージが菩薩さまの全身を砕く。

 当たり前に再生が始まるが、俺はそれすら上回る!

 

「ひろしくんは毎秒五億ダメージを与え、ぼさつさまは毎秒一億回復しまぁす!!」

 

 殴る、殴る殴る殴る殴る。

 へこんで戻る、殴って潰す。へこんで戻る、殴って潰す。

 

「五億ひく一億は四億! よってぼさつさまは毎秒四億ダメージを受ける計算になるよなぁ!?」

 

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 へこんで戻る殴って潰す。

 へこんで殴って戻って潰して戻ってへこんで。

 殴って戻ってへこんで潰して潰して戻って殴って殴って殴る!

 

「め、めちゃくちゃなことを言って、めちゃくちゃなことをしちゃってる……!」

 

 あとは、こいつが死ぬまで殺し続けるだけだ。

 しかし無抵抗のままで済むはずがない。

 

 菩薩さまの腕が、刃を俺めがけて突き込んでくる。

 もうこれは必要経費だ。俺の命で済めば安い。

 致命傷を食らったとしても、お前が死ぬまでは殴り続けるからな!

 

 

「――させるもんですかッ!!」

 

 

 だがそれらは、俺に到達する前に宙を舞った。

 

 視界の片隅。

 血濡れになっても美しいままの、金髪の死神が鎌を振るっている。

 

「カスミ! あいつの『復活』はあと何回!?」

「えっ!? あ、そ、そっか! 『鑑定』――あと、15!!」

 

 ひたすらに殴り続ける。

 菩薩さまが最後の抵抗に、突然その口をパカリと開けた。

 突き出されたベロにぎょろりと目玉が浮かび上がる。

 

 だがレーザーが放たれるより先に、俺の『レフトナックル』が、それを顔面ごと叩き潰した。

 なぜなら俺の方が速いからだ!

 

「あと6! 5! 4!」

 

〇カスミンASMR!?!?!?!?

〇違うぞ

 

「3! 2! 1!」

 

 こいつでラストだ。

 ぎょろりとこちらをにらむ菩薩さまに、俺は右の拳を高々と掲げる。

 

 

 

「これがデータの! そして――圧倒的な計算力の力だァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 狙い過たず。

 叩きつけた右ストレートが菩薩さまの鼻っ面に叩き込まれ、爆音と閃光音。

 

 吹き飛ばされた菩薩さまの身体が宙を舞い、それからダンジョンの壁面に激突。

 周囲に巨大な亀裂を走らせた後、その中心で――菩薩さまの身体が火を噴き、最後には大爆発を起こした。

 

〇ありえん

〇何起き?

〇か、勝った……

〇計算力の力←頭が悪すぎる

〇あの超緊迫場面でカスミンASMRとか言い出したリスナー本当に死刑

〇……よかったけど、生き残れてよかったけど……本当に無茶はしないでほしいお

〇それは本当にそう

 

「うそ……これ、勝ったの……?」

「なんか、まだ、生きてる実感がないね……」

 

 アリアさんとカスミさんの声は震えていた。

 いいや、これは三人で成し遂げた勝利だ。

 

「だから言っただろーが。俺たちが揃えば、成功率は1億%だって」

「……はは。確かにそうかも」

「あれ本気で言ってたのね、呆れた」

 

 二人が崩れ落ちて、それからふにゃと笑う。

 よかった。アリアさんは派手に流血こそしているが、この調子なら大丈夫だろう。

 

 ……っと。

 俺もかなりふらふらだが、忘れちゃいけない。

 データキャラ特有の、最後の決め台詞を放っておこう。

 

 壁にめり込んでゴミになった菩薩さまに向きなおって。

 俺は一度親指を立てた後、ビッと下に向けた。

 

 

証明終了(QED)――テメェなんざに救済してもらう必要はねえッ!」

「アンタの頭はいい加減救ってあげたいけどね」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 菩薩さまの死骸(ありえない不敬表現)が横たわる中。

 俺たちは地面にぶっ倒れて、素材をはぎ取ることすらできないまま、必死に息を整えていた。

 

「……結局、なんで『必中』を無視してたのよこいつ」

「うーん、多分なんだけど……『必中』は発動してて、必ず当たるようになってたんだよ。でもハカセくんは、本人が言うにはそれより速く動いたから当たらなかった……というか、『確かにいつかは当たるけど届かない』って状態になって無効化されたんじゃないかなあ」

 

 片足が吹っ飛んでるプロの人は、いつの間にかいなくなっていた。

 戦闘中に、恐らく自力で逃げ出せたのだろう。後で安否を確認しておかなくちゃな。

 とはいえ救助部隊が来てるって話だし、脱出装置が起動しなくても、その辺で発見してもらえるだろう。すまんが俺たちで探しにいく余力はない。

 

 ……そう、脱出装置が起動しないのだ。

 さっさと帰りたいのによお!

 

「脱出装置が動かない? なんでよ……もう動けないわよあたし……」

「上の層までは動いてたから気づかなかったんだけど。四十九層に入ってから、動作が阻害されてるみたい」

「パレードリーダーが日本語喋るし、おかしいわよここ」

 

 カスミさんの説明に、アリアさんがうへぇと嫌そうにする。

 確かにここからもう一層戻るだけでも、今の俺たちにとっては無理難題だ。

 

 ちなみに俺は圧倒的に血が足りないので、全員から手持ちの食料を拝借して、むしゃむしゃごくごくと食べ飲みしていた。

 あ~、生き返る~。

 

〇データキャラが肉食って回復するの嫌すぎる

〇お前の回復方法ルフィすぎんか?

〇九条・D・博士

〇Dなのかい!?

 

「……またハカセくんに助けられちゃったね」

「それあたしのセリフ。成長したって思ってもらいたかったのに」

 

 二人はゆっくりと上体を起こして、俺を見てきた。

 

「ん? 気にすんなよ。俺たち仲間なんだから、助け合うのは当然だろ。俺だってさっき、命を助けられたしな」

 

 俺の言葉を聞いて。

 アリアさんは虚を突かれたように数秒黙って、それから何度か頷いた。

 

「……仲間、仲間ね。うん、今日のところはその言葉で満足しておくわ」

「あーちゃんってば、ライバルとか思ってほしかったの?」

「うっさいわよ」

 

 ぺすぺすと、アリアさんが力なくカスミさんを叩く。

 それにくすぐったそうにした後、ふと、カスミさんがこちらに顔を向けた。

 

「あ、そういえばなんだけど。ハカセくんのスキルは、私が思ってるよりもハカセくん本人の認識が重要なのかもね」

「スキルって、まだ言ってたのかよ」

「むしろ相当な確証が得られたけどね」

 

 この人、アニメ見るのやめた方がいいぞ。

 

〇いやこれはスキル持ちですわ

〇カスミン疑ってごめん

〇レーザーすり抜けてる時本当に心臓止まった

〇成仏してクレメンス

〇あそこNT能力最盛期の天パすぎる

 

 なんかコメント欄が向こうの味方してる。

 

「だとしたら、なんだけど」

「だとしたら、なんだよ?」

「君は算数ドリルを解かないほうがいいかも」

 

 カスミさんはとてもまじめな表情で言い放った。

 え……あんまり言われるもんだから、さすがに買おうかと思ってたんだけど。

 

「そういえば、なんでパレードリーダーがこの層に来たのかしら」

 

 一息ついて、アリアさんがふと疑問をこぼす。

 

「そりゃ……なんでだろーな? 五十層にまだなんかいるとか?」

 

 俺の言葉に、カスミさんが笑って手を振る。

 

「まさかぁ。パレードリーダーを追い出せるようなモンスターなんて――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そこに、いるのか】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえた。

 誰かのくぐもった声だった。

 地獄の底から響いてきたかのような声だった。

 

『――――――――』

 

 全員の呼吸が止まった。

 息を吸うことも吐くこともできなくなった。

 

 砂利を踏みしめる音が近づいてくる。

 金属装甲の擦れ合う音が近づいてくる。

 

 やがてそれは、広間に姿を現した。

 明らかにそれは、第五十層の方から歩いてきた。

 

 

 

【ああ、いるのか。いるんだな】

 

 

 

 一見すれば、全身を黒い鎧で包んだ騎士だった。

 目測で、背丈は2メートルを超えているだろうか。

 その右手には大きな両刃剣を持ち、二本の鞘を背負っている。

 

 しかしその異様なほどの前傾姿勢と、異形と呼ぶしかないほど長い手足が、視覚的な不安を呼び起こさせる。

 肌は一ミリも見えず、頭部の目に該当する部分は、横一筋の赤い光が発光し、空中に残影を描いていた。

 

「う、そ……」

 

 アリアさんの声は、完全に心が折れていた。

 

「なんで……コイツが、ここにいるのよ……?」

 

 死に物狂いで打倒したパレードリーダー。

 その直後に姿を現した、新たなモンスター。

 

 場にいる全員が、一瞬で理解した。

 阿佐ヶ谷ダンジョンに起きていた異変の原因は、こいつだ。

 

 思い出す――『アクマデボサツ』の攻撃は苛烈だったが、やつそのものは、時折気が散っていた。

 あれは俺たちを舐めていただけではない。

 多分、ずっと、何かに気を取られていた。

 あるいは怯えていた。

 

 つまり――今やって来たこいつが、最下層からエリートたち、それどころかパレードリーダーすら駆逐し、ダンジョンの環境をめちゃくちゃにしたのだ。

 

 事実、見た瞬間に分かる。

 先ほどのパレードリーダーとは比にならないほど強い。

 一方で、こちらは全員、満身創痍。

 

〇まずいお 逃げようず

〇勝ったんじゃないの!?

〇なんか、新手の敵が出てきた……?

〇そいつからは本当に逃げてじゃないとlolやる前に君死んじゃうお

〇何が起きてるんだこれ

 

「こいつは、何者だ……?」

 

 俺の問いかけに答えたのは、アリアさんだった。

 

「――アメリカのS級ダンジョンで出現が確認されたエクストラクラス、ウォーキングのうち一体よ」

 

 鎧のウォーキングはこちらを、いいや、俺をじっと見つめている。

 

〇こいつネットニュースで見たぞ……

〇オクラホマダンジョンの最下層に半年前に急に出てきたやつか?

〇そこ、米国最難関S級って言われてるところじゃん

〇アメリカの最上級パーティーがことごとく返り討ちにされたんだよ

 

「今、オクラホマダンジョンは米国政府から『踏破不能ダンジョン』として認定されて、探索が禁止されてるわ……こいつは、人類を明確に敗北させたダンジョンの主なのよ」

 

〇名前は、日本語訳だと確か……『闇夜狩りの騎士』だったお

 

 なるほど。

 そんなんが阿佐ヶ谷ダンジョンにいていいわけないわ。

 ていうかなんでいんの?

 

【見つけたぞ】

 

 理論ではなく本能が告げている。

 逃げる暇すらない。

 こいつは俺たちを逃がすまいと、五十層から上がってきたのだ。

 

 俺は砂を払って立ち上がり、二人より前に出る。

 大丈夫、少しは休めた。まだ戦える。

 だから。

 

「――最高に盛り上がって来たじゃねえかッ!!」

 

 ガギィン、と鉄のぶつかる音。

 それは、俺が両手のプロテクターをぶつけ合った音。

 

「テメェをブッ倒せば! 俺が世界で、いいや人類でナンバーワン! さらにはオンリーワンってことだろうが!」

 

 騎士がゆっくりとこちらに来る。

 明らかに俺を見ている、俺を狙っている。

 ならそれでいい俺だけを見ろ!

 

【――ヴォオオオオオオオオオオッ!!】

 

 騎士の絶叫が、振動だけでダンジョンの壁面を次々に爆砕した。

 背後から聞こえる制止の声を無視して、俺は拳を振りかぶり、大きく踏み出す。

 

 

 一つの危機を乗り越えた先。

 

 そのまた次の危機が、始まる。

 

 

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