データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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第13話 ひとつの結論、あるいは、全てのはじまり

 阿佐ヶ谷ダンジョン第四十九層。

 そこでは、アメリカに出現したというエクストラクラスのモンスターと、俺の後見人である最強クラスの少女が激突を繰り広げていた。

 

「死んで砕け散れェッ! ボクの前に現れたことを後悔して死ねッ!」

 

 人類の最高到達点と謳われるダンジョン探索者、水木(みずき)チヅル。

 俺が記憶喪失でぶっ倒れてるのを発見してくれただけでなく、九条博士(くじょうひろし)という名前を付けてくれて、そして一時期は生活の面倒まで見てくれていた恩人だ。

 

 そんな彼女は今、でっかい杖からビュンビュンとビームを撃ちまくっていた。

 

「ボクに殺されることが至上の栄誉だと理解しろッ! オマエの末路は、ここで絶望と共に死ぬことだ!」

 

 は、発言の格がすっげぇ低いよチヅルさん……

 

「……なに、してるの、これ?」

「――分かんない。何も、分かんないわ」

 

 俺のすぐそばでは、カスミさんとアリアさんがドン引きしている。

 

「いや、その、恩人だから誤解してほしくねぇんだが……普段からああいう感じってワケじゃないんだよ、ほんと」

 

 チヅルさんの評判は、俺が守護らねば。

 そう思っての発言だったのだが、カスミさんたちはこちらを恐る恐る見てきた。

 

「ち、ちがくて。あの人、今、何してるの……?」

「え? 杖からビーム出してっけど」

「あれって動画用のエフェクトとかじゃないの!? 冗談でしょ!?」

「ダリアはそんなことしねぇよ」

 

 え、もしかしてなんかフェイク動画だと思われてたりするの?

 言われてみるとあの人の動画って本人の知名度の割には再生数とかコメント数とかが少ないとは思ってたけども。

 

「最強の人が暇すぎて適当に動画編集してるんだと思ってたんだけど」

「ちょっと待ってよハカセくん……指パッチンでモンスターを爆発させたりとか、ビームを固体化させてモンスターを亀甲縛りで吊るしたりとか、あれは全部本物ってコト?」

「あ、あぁ……全部本物だよ。でもあれだな、そう並べられると、信じてもらえなくても文句言えねえな」

 

 というか――そうか、普通の人ってビーム出せないのか。

 チヅルさんはずっとビュンビュン飛ばしてるし、思うがままに曲げたり拡散させたり逆に収束させて分厚い岩盤をブチ抜いたりしてるから、分かんなくなってたわ。

 

 確かによく考えたら、あの人ってこれどうやってるんだろう。

 ギミックは何も聞いたことがないな。

 

「ずっと逃げ続けて、何がウォーキングだ!」

【どこなのだ……!】

 

 その時、騎士が動こうとした。

 常に間合いを保ち、チヅルさんのビームを剣で斬り払っていた(いやこれはこれで何してんだよ)のだが――地面を踏み砕き、一気に加速の前兆。

 

「ボクに正面から飛び込んでいいのは一人だけだ!!」

 

 しかし、それを人類の最高到達点が許すはずがない。

 騎士が踏み込んだ先の空間が、即座に爆砕した。

 

 今見ている範囲でも、チヅルさんの攻撃は多種多様な代物が揃っている。

 撃ちまくっているビームは分かりやすい。高威力だが、防御も回避も可能だ。

 しかしこの突然発生する爆発。これが本当に意味不明だ。急に空間が燃え上がっているのだ。

 

〇なんすかこれ

〇ビームと爆発の花畑や~!

〇ダンジョン彦摩呂やめてね

〇それもうア・バオア・クー戦とかだろ

 

 空間を無数の爆発が埋めてしまった。

 カスミさんが咄嗟に半透明のシールドを展開し、俺たちを守ってくれる。

 

 明らかにこの爆発は、人体どころか鉄とかですら粉々に吹き飛ばしてしまう威力があった。

 しかし――その炎の渦から、煙の尾を引きながら騎士が飛び出してくる。

 無傷かよ! なんで!?

 

【どこにいるのだ!】

「オマエの目の前だよ」

 

 しかし優勢はまるで動かない。

 その言葉通り、チヅルさんの姿は騎士の眼前にあった。

 

【な――】

「歯ァ食いしばれよ。オクラホマまで叩き返してやる」

 

 騎士の防御は間に合わない。

 チヅルさんの拳が、騎士の顔面にめり込む。

 

 接触の刹那――ドパンッ! という派手な破裂音。

 

 甲冑が砕け散るどころではなかった。

 騎士の首から上を、チヅルさんのパンチが丸ごと消し飛ばしてしまったのだ。

 

〇急なグロ映像!!

〇ダンジョン配信の時点でそうだろ

〇え、これ、勝った?

〇やったか!?

 

「……フン。これしきでウォーキングが死ぬなら、ボクたち人類はとうの昔に地球上のダンジョンをすべて踏破しているよ」

 

 煙を立ち上げる拳をひらひらと振りながら、チヅルさんは首無し騎士となった敵をギロリとにらんだ。

 

「再生するなら、さっさとしろってんだ。ボクはヒマじゃないんだよ、この後しつけの時間がある」

 

 背筋が凍った。

 絶対に俺のことじゃん。

 

【…………】

 

 チヅルさんに言われてなのか、あるいは再生にラグがあるだけなのか。

 騎士は特に音もなく、いつの間にかその頭部を元の状態に戻していた。

 

「アメリカにはツテがあってね。オマエに関するデータももらっていたんだ――『鑑定』しても特性が見えないらしいな。その再生能力は特性ですらない、オマエの生命としての基本的な能力ってコトだ」

 

 その言葉に、俺たちは愕然とした。

 先ほど倒した菩薩さまは、特性として『復活』を持っていた。

 パレードリーダーとして突出した能力を持っているから、あんなにもしつこかったのだ。

 

 それが、なんだ?

 生まれ持った能力として……俺たちが息を吸って吐くみたいなノリで、頭部を吹き飛ばされても元通りにできるっていうのか?

 

「ま、オマエが派手にダメージを食らうのってこれが初めてだろうけど。どうする? オマエの再生限界がどれくらいなのか確かめさせてくれよ、なあ」

 

 チヅルさんは杖を突き付け、歯をむき出しにして笑った。

 その笑顔はサディスティックで、他人を幸せにするものじゃなくて、優越感とか支配感とかを味わった時に表出する、自分が世界の中心だと信じて疑わない人間特有の笑みだった。

 

【お前では、ない】

 

 しかし、騎士はそれだけ言って、チヅルさんから視線を切った。

 

「このボクを仲間外れにするなんて、傲慢なやつだな。ボクでなかったら、世界の誰だっていうんだ」

【どこに、いったのだ……どこに……】

 

 騎士はそうつぶやきながら、左手をスッと空中にかざした。

 直後、光の粒子が集まり、騎士のすぐそばに渦となって現れた。

 

「それ、どこにつながってるのか大体想像がつくぞ。他のダンジョンだろ?」

【…………】

「オマエさぁ、尻尾まいて逃げるのかよ。くだんないやつだな」

【――お前では、なかった】

 

 それだけ言って。

 闇夜狩りの騎士は、光の渦の中へと消えていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 危機は、ようやく去ったらしい。

 俺たちはダンジョン第四十九層の広間で、今度こそ本当にぶっ倒れて休んでいた。

 

「オマエ、ああいう時はすぐに逃げろって散々言っただろ」

「はい……」

「ボクの教えを無視するなんて、いつの間にやらずいぶんと偉くなったんだな。大手事務所の女どもに囲まれて、鼻が伸びきってるんじゃないか?」

「そんなことは……」

 

 正確に言えば、俺だけ倒れていない。

 倒れさせてもらえていない。

 俺は地面に四つん這いになって、その上にチヅルさんが座っているのだ。

 

「あ、あの、もうその辺にしてあげたほうが」

 

 遠慮がちに、カスミさんが手を上げた。

 

「私たち、ハカセくんに助けられたわけですし。命の恩人がそういう感じになってるのは、あんまり見たくないかなーって……」

「フン、これはボクらの家庭のことなんだけどね……まあいい、続きは家に帰ってからだ」

 

 チヅルさんが俺の上からひょいっと下りた。

 俺は、家に帰ってから続くと聞いて、普通にorzの姿勢から動けなくなっていた。

 部屋の権利者がこの人だから本当に逆らえないんだよ……

 

「――ていうか待ってくれ。チヅルさん、どうやってここまで来たんだよ」

 

 顔を上げて問うと、彼女は『何が?』みたいに首をこてんと傾げた。

 

「四十五層ぐらいまではダッシュで来た。で、間に合いそうになかったから、しゃーなしで地面ブチ抜いたんだよ。こう、ビームマグナムみたいな感じで」

「何言ってんのこの人……」

 

 アリアさんが真剣な困惑の声を上げた。

 俺も一言一句違わず同意見である。何言ってるんだろ。

 

「ビームマグナムっていうか……ツインバスターライフルなんじゃないかなあ」

「えぇ? まあシェルター貫通する時のやつって言われたらそうかもな」

「へぇ~。じゃあ力加減すれば、普段からもできるってこと?」

「モチのロンだよ」

 

 俺たちと違って、カスミさんはなんかコミュニケーションを成立させていた。

 おお、すごい。チヅルさんとまともに受け答えできる人って久々に見たかも。

 

「ボクが普段ダンジョンをブチ抜かないのは、それが結果として他の探索者たちのためにならないからだよ。みんな公園で遊ぶときに、壊れかけの遊具があったら、気を遣って触らないようにするだろ?」

 

〇話のスケールが大きすぎて理解が追いつかない

〇つまり……どういうことだ?

〇鳥が地面トコトコ歩いてるみたいなもんか

 

 日頃俺の味方をしてくれないコメント欄だが、今回に限っては俺も含めて心が一つになっていた。

 俺もたまに思うけど、この人が人の形をしているのって普通に奇跡だと思うんだよなあ。

 

「あとさあ、オマエ、眼鏡はどうしたワケ?」

「え?」

 

 見れば、チヅルさんは顔中に『私は今イライラしています』と書いていた。

 これはまずい。

 

「えーと、スペアを……今……」

 

 学ランの内ポケットをごそごそと漁ろうとしたが、もう遅かった。

 

「フン!」

「がはぁっ!?」

 

 チヅルさんの鉄拳が俺のみぞおちにめり込んだ。

 

〇暴力ヒロインじゃん

〇暴力ヒロインだとしても脈絡がなさすぎるだろ

〇通り魔?

〇拳を使う通り魔なんて聞いたことねえよ

 

「きゅ、急に何すんだよ……!」

「だから、ボクの前ではその死に急ぎモードをやめろって言ってるんだ! 眼鏡かけろオラッ」

「ぎゃぁっ!?」

 

 チヅルさんの右腕がブレると同時、俺の顔にズビシと眼鏡が装着される。

 

「ちょっと――急に投げつけてこないでくださいよ」

「ヨシ。一生そのままでいろよ」

 

 満足げにむふーと鼻から息を吐くチヅルさん。

 

「……もしかしてなんだけど、データキャラってさ」

「誰の発案なのかとか、何のためなのかとか、ちょっと見えたわね今……」

 

〇内部事情が透けて見えるなア

〇もう本当にお恥ずかしい限りだお

〇lol星人さん、お前さあ……

〇いるだろ 内通者

〇なんのことだか分からないお

 

「そういやヒロシ、これ返す。解析が終わった」

 

 その時、チヅルさんが突然ポケットをガサゴソと漁り始めた。

 飴やらお菓子やらを地面にボトボト落としてから、彼女は銀色に輝く何かを取り出して、俺に手渡す。

 え、返すって言われても、それ何? 知らないんだけど。

 

「ドッグタグ? アンタそんなの持ってたの?」

「いえ、身に覚えがありませんね……」

 

 チヅルさんが突き出してきたドッグタグを、掌にのせてしげしげと眺める。

 途端に、何かが身体に流れ込んでくるような感覚がした。

 

「……っ?」

「ボクがオマエをダンジョンで発見した時、オマエはそれを握ってたんだ」

 

 恐る恐る、手の中のドッグタグの文字を読み取る。

 そこには『HIROSHI KUZYO』という名前が刻印されていた。

 

「漢字はボクが当てたけど、オマエの今の名前はそこから来てるんだよ」

「装備としか聞いていなかったんですが、ドッグタグのことだったんですか」

 

〇HIROSHIで博士って字を当てたの普通にチヅルさんのセンスかよ

〇いや……その、ドッグタグを握ってるって……

〇マジでこれ真相を聞きたくなさ過ぎるんだけど

 

「色々と聞きたいことはあると思うけど、まずこっちから話させてくれ」

「は、はい」

 

 チヅルさんの真剣な声色に、俺は背筋を伸ばす。

 彼女はじっとこちらを見上げてから、ふっと視線を横にそらした。

 

「……そのドッグタグは、ボクたちの星の技術では解析しきれないオーパーツだ」

 

 えっ。

 

〇はい?

〇見た目普通のドッグタグなんですけど……

 

「このドッグタグを身に着けた人間は、異常個体エリートが持つ特性のような代物を得る――ボクはこれを、暫定的に『スキル』と名付けた」

「す、スキル!?」

「アンタ黙ってなさい。今だけはお願い」

 

 俄然テンションが上がったカスミさんを、アリアさんが羽交い締めにして止めているのが、視界の隅に見えた。今だけは本当にやめてほしいので助かった。アリアさん後でなんか奢ります。

 

「……順序だてて話すと、オマエの理解が追い付かなくなっちゃうかもね。なら結論から話すよ、ヒロシ」

 

 そこで言葉を切って。

 チヅルさんは改めてこちらに向き直り、ビシッと指を突きつけてきて。

 

 

 

「オマエはこことは異なる世界――いわゆる並行世界、あるいは異世界からやって来た可能性がある」

 

 

 

 そんな、わけのわからないことを言い放つのだった。

 

 

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