データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

14 / 18
第14話 餃子四十個追加で

 俺は九条博士(くじょうひろし)

 先日ダンジョン探索配信者としてデビューした男だ。

 

 阿佐ヶ谷ダンジョンでの激闘を終えた俺は、その場にいたメンツで打ち上げを行っていた。

 住居としているダリアの配信者寮である『ダリア荘』から、歩いてすぐのところにある町中華のお店だ。

 

 店に入ってすぐのカウンター席を通り過ぎた先、奥のテーブル席に、俺、カスミさん、アリアさん、そしてチヅルさんの四人は座っていた。

 

 ちなみにウォーキングと遭遇してから三日経過している。

 チヅルさん以外の三人は、普通に病院送りになっていたので、こうして打ち上げが別日になったのだ。

 

「えーというわけで、今回はダンジョン攻略の打ち上げ配信をしていこうと思います。僕のデータ上、みなさんこういうの見たいと思うので」

 

〇無事に帰って来てくれてよかったよ

〇なんで三日で完治してるんですかね……

〇ダンジョン産の技術でウハウハよ

〇寿命だけ延びてねーんだよ

〇いびつな発展シリーズ好き

〇ボディアーマーだけ高品質化されまくって銃と刃物の価値が暴落してるんですけお!!

 

 コメント欄はいつにない盛り上がりだ。

 同接も歴代最高の数字を叩き出している。まあ、メンツがメンツだしな。

 

「では僭越ながら、ここは僕がデータに基づいた乾杯のあいさつを……」

「はいかんぱーい」

 

 チヅルさんがビールのジョッキを俺たちのグラスにガチャガチャとぶつけた。

 

「ちょ、何してるんですか」

「オマエのあいさつ絶対長いじゃん」

「確かにそうかも」

「長そうよね」

 

 カスミさんとアリアさんも無慈悲な同意をしている。

 本当に悲しい。

 

 ちなみに俺は戸籍を設定する際に二十歳ということになったが、お酒を飲んだことがないので、普通にソフトドリンクにしている。

 カスミさんとアリアさんはそれぞれウーロンハイなので、俺だけがノンアルコールだ。

 

「じゃあいただきまーす。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……」

 

 とりあえず歓談から始めるかと思っていたら、チヅルさんは目の前に並んでいた料理を一心不乱にかきこみ始めた。

 何しに来たんだよマジで。本当にメシだけ食いに来たのか?

 

「ていうかなんで町中華なの? ダリアがよく来たりするとか?」

「いえ、僕とチヅルさんでたまーに来ていたんです……もしかしてこれから混むようになったりしますかね?」

「聖地扱いされる可能性はあるわね」

 

 そこまで考えてなかったな。

 一応、大将は配信してもOKって言ってくれたけど。

 

「その辺って大丈夫なんですか~?」

 

 カスミさんが声をかけると、大将はこちらを一瞥して鼻を鳴らす。

 

「知らねえよ。ウチは誰が来ても、うまいもん出すだけだ」

「おぉ、職人気質っぽい」

「アサイーボウルもドバイチョコも七層多色クリームソーダも準備済みだ」

「おぉ……職人の反対側の人だったっぽい……」

 

 よく見ると大将の両眼には¥マークが浮かんでいた。

 完全に俺たちのことを宣伝の道具だと思っている。

 

 俺とカスミさんは顔を見合わせて、あいまいに笑った。

 この小汚い店でそれを出したところで、果たして映えるのだろうか……?

 

「ね、ねえちょっとハカセ、アンタこれ……」

 

 その時、隣に座っていたアリアさんが俺の肩を叩く。

 何かと見れば、彼女は顔面蒼白でテーブルの上を指していた。

 

「世界最強クラスだからってこれは無理でしょ!?」

「ん? どういうことですか?」

 

 アリアさんの指さした先では、テーブルの上に積まれた食べ物が次々と消えているところだった。

 バクバクバクと音を立ててチャーハンが、醤油ラーメンが、焼きそばが、モヤシ炒めがチヅルさんの小さな口の中に入っていく。

 

「ちょ、死んじゃう死んじゃう死んじゃう」

 

 カスミさんは、人がものを食べている時とは思えない反応をしていた。

 大食いとは思えない見た目だもんなこの人。

 

「僕らも食べましょうよ」

 

 俺は俺で、手元のチャーハンとオムライスをバクバクと食べて……食べきった。

 

「すみません、チャーハンって追加できますか」

「あいよ」

「いや普通にハカセくんもめっちゃ食べるんだ!?」

 

 栄養を大量に摂取する人間が強者になれる、これはデータ的に当然の話だ。

 そのせいで俺とチヅルさんが二人で暮らしていたころの食費は本当に大変なことになっていたが。

 

「あと大将、味噌ラーメンとオムライス追加お願いします」

「あいよ」

「食い合わせキモっ……」

 

 俺の注文に対してアリアさんが頬を引きつらせていた。

 個人の好みだろうが……!!

 

 その時、一通り食べ終わったチヅルさんも大将に向かって手を上げる。

 

「大将、中華ライス二つとソース焼きそば。あと……オイ、オマエら餃子は食うか?」

「え、あ、いや私はもういいです……」

「あたしも……」

 

 カスミさんたちはノックアウトされたボクサーみたいな顔になっていた。

 箸も進んでいないみたいだし、どうしたんだろう。

 まあ俺は食うけどな。

 

「僕は食べます」

「じゃあ餃子四十個追加で」

「あいよ」

「出てくる数字がおかしいよ……」

「見てるだけでおなかいっぱいだわ……」

 

 ごくごくと飲み物ばかり進める二人。

 あ、そういえば聞こうと思っていたことがあったんだった。

 

「アリアさん。阿佐ヶ谷ダンジョンで、話してたことなんですけど」

「何よ」

「ラーメン苦手なんですか」

 

 なんかそういうこと言ってたよね?

 

「そうよ。だってこんなの食べたらすぐふと――――配信中に何を言わせんのよ!!」

「アナタが勝手に口を滑らせただけでは?」

 

 まあ俺たち、配信中になんでも言いすぎなんだけど。

 その最たる例が、先日の、俺の出身に関する話だ。

 

「……で、なんだけど」

 

 話が途切れたのを見計らって、カスミさんが手を叩く。

 

「チヅルさんに、聞きたいことがあります」

「ん」

 

 ドカ盛りのカレーライスをバクバク食べながら、俺の恩人は目だけで続きを促した。

 

「この間の、ハカセはこの世界の人じゃないかもっていう話……配信で喋ってよかったワケ? ちょっとしたネットニュースになってたわよ」

 

 アリアさんの言う通り、俺は今、ネット上で『この素晴らしいダンジョンに計算(笑)を!』だの『転生したらデータキャラだった件』だの『落第データキャラの英雄譚(キャバルリィ)』だのあだ名をつけられている。

 最後のあだ名については、カスミさんがそれは異世界モノじゃないでしょと怒っていた。

 

「んぐんぐんぐ……ちょっと待て……オイ、ヒロシ」

「はいはい」

 

 名を呼ばれたので、ティッシュで彼女の口元のカレーを拭く。

 人前で喋る時はカッコついてないと嫌なタイプなのだ。

 

「いいなぁ……」

「……アンタの頭、何回か殴った方がいいかもしれないわね」

「なんでっ!?」

「オイ、話を聞け」

 

 チヅルさんは空になったカレー皿をテーブルに置いて、真面目な表情を作った。

 

「あれはヘタに隠すよりさっさと話した方がいい事項だと判断した。これはダリアの総意だよ――そうだろ、ずっとヒロシのコメント欄に張り付いている個人情報漏洩女」

 

〇あ、やっぱ内部の人だったんだ

〇おおおお女!?!?!?

〇数回殺されるぐらいは覚悟しているお

〇ていうかこの張り付き方してて、その、ご自身の配信は?

〇なんのことだお?

〇こいつ……

〇特定した

 

「ついでに今回は、ボクとコイツの出会いまでちゃんと話そうと思ってね。そいつはダンジョンの中に、ゴミみたいに落ちてんだよ」

「ご、ゴミって……」

「事実だ。ボクも最初見た時には、どうせいつものように探索者がしくじったんだと思ったけどね」

 

 ダンジョンにおいて、探索が失敗するのは別に珍しいことじゃない。

 配信中であればその場所を特定して、ダンジョンキーパーが向かうが、間に合わないことだってある。

 いわんや、配信をしていない人であれば、よほどの幸運に恵まれないと死は確実。

 

 その『よほどの幸運』に恵まれたのが俺ってワケ。

 

「でも僕も、詳しい話は聞いていませんからね……気になることはたくさんあります。どうしてわざわざ拾って、面倒を見てくれたのかとか」

「ああ、それはカンだ」

 

 ……。

 

 …………カン??

 

「ちょ、本気で言ってるんですか」

「モチのロンだ」

 

 顔を引きつらせるカスミさんに対して、チヅルさんは自身のこめかみを指でトントンと叩いた。

 

「ボクのカンは絶対に外れない。こいつはただ者じゃないと直感的に理解(わか)ったんだ」

 

 ほぇ~。

 データキャラとしてはまったくもって相容れない概念だ。

 

 しかしそのカンとやらのおかげで、俺は今ここにいる。

 ありがたいことだと感謝しなきゃいけないな。

 

「エクストラクラスの概念が生まれる前……異様極まりないパレードリーダーと殺し合う時、ボクはいつも出くわした瞬間から『こいつを放っておくと世界がおかしくなる』と感じていた。今ならあいつらもエクストラクラスに認定されていただろう」

 

 そこで言葉を切って、チヅルさんはビールジョッキを傾けゴクゴクと飲み干す。

 

「ぷはーっ……で、ヒロシも一緒だ。むしろ、今までの中でも最もボクのカンが働いた」

 

 なんか場の空気が重くなってきた。

 よく考えると今の話って微妙に整合性がない。

 

 彼女のカンとやらが、エクストラクラス……つまり先日のウォーキングのように、放置していると大きな被害が出るモンスターに対して働くのであれば。

 

「そのカンが僕に働くのっておかしくないですか?」

「モンスターがこの世界にとっての異物なのだとしたら、オマエが同様にこの世界にとっての異物なら筋が通るってことだ」

 

 チヅルさんは俺の顔を見ずに、ジョッキの外側をつたう水滴をじっと見つめていた。

 

「それは……いくらなんでも、チヅルさんの直感を論拠とし過ぎてると思うな」

「カスミの言う通りよ。ハカセが異世界から来てるだの並行世界から来てるだの……あのドッグタグがどれだけ特別なものだったとしても、荒唐無稽よ」

 

〇それは実際そう

〇なんなら今でもチヅルさんのジョークなんだと思ってる

 

 自分を見る三つの顔が、『お前の言うことをどうやって信じればいいんだよ』と物語っていることに、チヅルさんは一つ頷いた。

 

「こうなるのは分かってたよ。じゃ、ボクの回想でも観るか?」

「え、どうやって」

「ちょっと待って。投影するから……はいできた。大将、壁借りるよ」

「あいよ」

「ええええええええええこれどうやってるの!?」

「異世界のスキルよりアンタのやってることの方がよっぽど不思議よ!?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。