データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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第22話 自然に体が動いちゃうんだ

 一夜明けて、翌日。

 交代での野営を終えて、各種物資を整頓した後、俺たちは再び渋谷ダンジョンの探索を続けていた。

 

 現在地は下層に入ってしばらくの、第三十九層。

 エリートどころか雑魚敵のツブすらほぼ出現しないが、代わりにマップにない様々な分かれ道や障害が発生することで有名な層だ。

 行き止まりが無限に続いたり、幻覚作用のある鱗粉が壁からまかれたりと、厄介なギミックが最初から最後までたっぷりである。

 

 誰が呼んだか、三十九層の異名は『敵無しの平野』――ツブもエリートもいない、しかし探索者を跳ね返す、渋谷屈指の名物(キリングエリア)

 この層でギブアップするパーティーも少なくないほどだ。

 

〇見てる分には色々なギミックがあって楽しいんだけどな

〇探索者からしたらたまったもんじゃないよなあ

〇推しがここで死んだから本当に嫌い

〇この層ほんと嫌いだお

 

 俺たちもまた、進行ペースを落として慎重に進んでいる。

 実際、どこからともなく毒矢が飛んできたり地面が突然底なし沼になったりと、経験の浅い探索者なら百回死んでもおつりが来そうな罠たちが次々と現れていた。

 

「なんていうか……自然発生のダンジョンとは思えないぐらい悪意満載よね」

 

 地面から飛び出してきた槍をひょいと飛び越えて、アリアさんがぼやく。

 確かに、もしもダンジョンに設計者がいるなら、その良心を疑いたくなるようなトラップばかりだ。

 

〇実際、ダンジョンは人類の意識を読み取って作られてるって説はあるしな

〇じゃないと地球の生物をもとにした敵が出てくるのはおかしい、ってやつ?

〇俺たちの意識を読み取った結果がレーザーばらまき菩薩像なのかよ

 

 とはいえ、厄介な層なのは確かだが――こういう直接的なブービートラップごときなら、俺とアリアさんの動体視力と反射神経なら、逆に引っかかる方が難しい。

 渋谷ダンジョンがS級じゃなくてA級なのはこの辺も理由として大いにあるだろう。

 基礎スペックの鍛錬を怠らない探索者にとっては、むしろ休憩タイムになってしまうのだ。

 

「うひ~、二人が先んじて処理してくれて助かるよお」

「アンタはバリアずっと張ってるから大丈夫でしょ……」

 

 指摘通り、カスミさんは持ち込んだ装備でバリアを張り続けている。

 このフロア対策用の装備らしい。

 俺たちの分もあるそうだが、素で対処できるので遠慮しておいた。むしろバリアあるしって油断してる時にバリア貫通できる罠があったらやばいし。

 

「……あれ?」

「……またマップにない分かれ道ね」

 

 そうして三十九層を進んでいると、前方で道が二手に分かれているのが見えた。

 マップ上は、四十層への道はまっすぐのはずなのだが。

 

「この層ってやっぱり定期的に道が変わってるのよね……どういう仕組みなのかしら」

「分かりませんが、左右のどちらからも、強い敵意を感じますね」

 

 俺の肌が、どっちを選んでも強敵、つまり異常個体エリート級の敵が待ち構えていると感じ取っていた。

 こういう直感は意外とバカにできない。データキャラは肌感覚も大事にするのだ。

 

「うーん、とりあえずは偵察ユニットでも飛ばしてみようか」

「いえ、ここはデータキャラたる僕にお任せください」

 

 俺はサブアームでカバンをあさろうとしたカスミさんを制して、分かれ道へと進んだ。

 注意深く観察し、情報を拾い集めれば、必ず正解を導き出せる。

 

「ったく、あいつに任せて大丈夫なのかしら」

「あはは……まあ時間も物資も余裕があるし、いいんじゃない?」

「あいつが戻ってきたらコイントスで決めるわよ」

「ハカセくんが当たりを選べるとは考えてないんだね……」

 

 空気の温度、風の流れ。

 目を閉じて意識を集中させ、そうした情報を吸い上げる。

 ふんふんなるほどなるほど。

 

「…………」

「…………」

「……あーちゃん、あのさ、さっきの話なんだけど……」

「ん?」

「レイが、もしかしたら、生きてるかもって」

 

 やべ全然分からん。

 右はなんか強そうなんだよな敵が。

 で、左は、敵がなんか強そう。殺気的にそんな感じがする。

 

「……可能性が低いのは、分かってるわ」

「うん。でも、信じるのは、悪いことじゃないと思う」

「アンタは信じてないっていうか、むしろ……信じる気がないって感じがするわ。どうして? レイが生きていたら、嬉しいでしょ……?」

「もちろんそうだよ。でも……私……私の中だと、レイはもう死んじゃってて……」

「……うん」

「それで、もしも今、レイと話せたとしても……私は多分、怖いんだ……」

「怖い? 何がよ」

「もしも――『なんで置いていったの』とか、『なんで助けてくれなかったの』とか、そういうことを言われたら、どうしようって」

 

 ぐっ……右か左か、データ上は完璧に50%と50%(フィフティ・フィフティ)だ。

 どうする? 木の棒とか持ってきて、どっちに倒れるかで選ぶか。

 いやそれはデータキャラとして本当にまずい。

 なんとか、なんとかかっこよく答えを出さなければ……!

 

〇データキャラが顔真っ赤にして力まないでほしいんだけど

〇それより後ろ!ハカセ後ろ!後ろですげえ大事な話してます!

〇聞けよオイ

〇本当に置いていったわけじゃ、ないはずだよな?

〇カスミン多分これ生き残った罪悪感がずーっとある感じだな

 

「アンタは……アンタは親友を見捨てたりしない。そんなことする人間じゃないわ。世界中の誰がなんと言おうとあたしはそう知ってる。ついでに、あそこのバカ学ラン眼鏡ファイアゴリラもそうよ」

「……分かってる。だから私は、二人に、救われてるよ。だけど――二人がそう思ってくれていて、嬉しいけど、私自身が私に対して、どうしても思っちゃうんだ。あの時親友を助けられなかった人間のくせに、って」

「そんな、ことは」

「だからそんな自分を変えたい。ずっと、ずっとあの日のままでいたくない。そのためには――このダンジョンを、乗り越えなきゃいけないんだ」

「…………」

 

〇カスミン……

〇そりゃ、そうだよなあ

〇如月レイが行方不明になった時期って、日本だとまだパレードリーダーの概念すら浸透してなかったよな

〇それこそアリアさんとかのガチ勢は知ってるけど一般知識ではないって感じだったかな

〇あのーカスミンとアリアさんの配信のコメ欄がドシリアス空気になってる中、ここは何?

〇配信主が"これ"なもんで

 

 よし決めた。

 左右で選ぼうとするからこんな風になるんだ。

 

 データキャラとは、すなわち王道なり。

 王道とは、すなわち真ん中の道なり。

 

 証明終了(QED)、よって俺が選ぶべき道は!

 

「――フン!」

 

 俺は右腕のトンファーで、目の前の壁を思いっきり殴りつけた!

 壁にひびが入り、そしてがらがらと崩れていく。

 

 この壁を掘って直進すればいいだろと思っていたのだが――壁が崩れた先は空洞だった。

 普通に道出てきたんだけど。

 

「は? 何してんのあいつ」

「え、あ、いや道出てきちゃった!?」

 

〇何してるんですかこの人

〇お前もう公道歩くなよ

〇こいつが免許取った後の初運転って首都壊滅の危機か?

〇助手席にチヅルさん座らせときゃセーフ

〇俺嫌だよ、バック駐車で助手席に手を置かれてメロつくチヅルさん見るの

〇誰もそこまで言ってないんだが……

 

 コメント欄も、俺が正解を選んだことを祝福してくれていた。

 俺は背後で絶句しているカスミさんたちに振り向き、クイと眼鏡を押し上げる。

 

「どうやら――データの導きが、僕たちを論理的な結果へとたどり着かせてくれたようです」

「これは非倫理的な暴力よ」

 

 アリアさんの言葉にカスミさんもこくこくとうなずいていた。俺は泣いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 それからしばらく探索を進め、渋谷ダンジョン第四十八層。

 下層部もいよいよ大詰めといった具合だ。

 

「この層のエリートはこいつで終わりね」

 

 倒れ伏した異常個体エリートから素材をはぎ取り終わって、俺たちは顔を見合わせて大きく息を吐いた。

 

 今倒したのは特性『分離』を持った、ロボみたいなエリートだった。

 斬撃属性に圧倒的な耐性を持っていたのだが、首を飛ばした刹那のみ弱点が露出するのを発見し、俺とアリアさんで隙を作ったところでカスミさんの狙撃が直撃、撃破した。

 

 うんうん、いい感じだ。

 ここまで誰も負傷してないし、ペースも想定よりずっと早い。

 

「なんていうか……ここまでうまくいくなんて、思ってなかったかも」

 

 カスミさんの言葉に、俺とアリアさんは肩をすくめる。

 

「ま、A級なんてこんなもんよ。そうでしょハカセ」

「厄介なダンジョンだと想定したうえで訓練を行い、対策をしてきましたからね。データ通りですよ」

「は? 同意取り消しするわ」

 

 なんでッ!?

 

〇私はバカです同盟なんか組みたくないだろ

 

 なぜだ、データキャラと一緒なんて嬉しいはずだろ。

 俺が歯噛みしている間に、二人はマップを開き、進路の最終確認を行っていた。

 

「じゃああとは四十九層に降りて……ここの四十九層って確か……」

「うん、渋谷ダンジョンは、パレードリーダーの活動範囲が最下層の五十層だけじゃなくて、四十九層にも届いているって話だね」

 

 一瞬の沈黙。

 

〇ここからが本当の戦いってわけね

〇ハカセ、カスミさんの恩に報いるときが来たぞ

〇でもこいつさっきの話聞いてないよ

〇ここのパレードリーダーの『シャドウテイル』って情報なし?

 

 そうだ、いよいよ接敵間近ならばパレードリーダーの情報を再確認する必要がある。

 確か外見が変幻自在とかで、不意打ちを多用してくるとか……

 

 脳内でパレードリーダーの情報を改めようとした、その瞬間だった。

 

「……え?」

 

 四十九層へと向かう道筋の奥。

 俺の目は、そこをこちらに向かって歩いてくる、信じられないものを見つけた。

 

「ん? どうしたのよハカセ。あっちに何か……はぁっ!? な、何あれ!?」

「嘘。嘘だ、こんなこと、噓でしょ……」

 

 二人も驚愕に凍り付く中で。

 こちらへと近づいて来たその人影は、やがて明確に視認できる距離でピタッと足を止めた。

 

 深紅のアフロヘア。

 紅白ボーダーの服。

 そしてその上にまっ黄色な()()()を着込んだ、一度見たら忘れられない外見。

 

 俺はわなわなと唇を震わせながら。

 それを、いいや……その方を指さした。

 

 

「ド――ド●ルド・マクドナ●ドさん……!?」

 

 

〇おいカメラ止めろ

〇モザイクかけろ!!!

〇だめだあいつ色調強すぎてモザイク貫通すんだよ

〇消えたと思ったらダンジョンに潜ってたのか……

 

「え、なんか見たことある気がするんだけど……えっと、ハンバーガー屋さんのあいつよね?」

「あーちゃんって義務教育受けてない感じ?」

「オタクって自分の知識ベースで世界を構築してるけど、それ本当に良くないわよ」

 

 アリアさんにありえないぐらい辛辣なことを言われて、カスミさんは身を小さくした。

 しかしよく聞くと『ホモビじゃないだけ一般知名度はあるはずだもん……』とかなんとか言っている。

 意味は分からないが、多分だけど反省してなさそうだ。

 

「しかしなぜ彼がここに?」

「いやどう見てもモンスターでしょ。下手したら異常個体エリートよ」

「なっ……!? アリアさん正気ですか!? 彼はモンスターなんかではありません! どこからどう見ても、善良で子供好きのピエロじゃないですか!」

「正気を疑うべきはアンタの方よ」

 

〇まあ見た目がモンスター寄りなのは確か

〇善良で子供好きのピエロ←絶対に排水溝だろ

 

 ともかく、本当に彼ならば対話が可能なはずだ。

 聞きたいことはたくさんある。どうしてここにいるのか、今まで何をしていたのか、靴は何センチなのか、ランランルーって何なのか。

 

 そうか……チヅルさんの部屋で動画を見て以来、俺は彼に一度会ってみたかったのかもしれない。

 憧れの人(人……?)に会えるなんて、ダンジョンも捨てたもんじゃないな。

 

 俺は一歩前に踏み出して、彼に話しかけようとした。

 しかしそれより先に、彼の方がこちらを向く。

 

 それから彼は、自分の手で自分の肩を触る形で、腕をクロスさせて。

 

『ラン……』

 

 次に両手を胸の前で合わせて。

 

『ラン……』

 

 

 最後に、両手をピシッと真上に挙げて。

 

 

『ルー♪』

 

 

 直後、俺の身体は不可視の強い衝撃を受けて、大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「があああああああああああああっ!?」

 

 砕け散った眼鏡のレンズが宙に舞う中、地面をゴロゴロと転がる。

 こいつッ! 問答無用で攻撃してきやがった!

 

「い、今の何!? 攻撃なの!?」

 

 慌てて俺のカバーに入ったアリアさんが悲鳴を上げる。

 

「今のはランランルー……相手を傷つける言葉として使われたこともある、忌まわしき呪いの言葉だよ……!」

「ハンバーガー屋のマスコットってそんなことできるの!?」

 

 カスミさんの説明を受けたアリアさんが目を見開く。

 しかしそれを聞いて、俺は首を横に振った。

 両手に『ライトフィストプラス』と『レフトナックル』を召喚して、ゆっくりと立ち上がる。

 

「違う……違うッ!! こいつはド●ルドさんなんかじゃない!」

「それはそうよ」

 

 認めない、認めないぞ。

 俺はチヅルさんの部屋であの人を見て、確かに笑えたんだ。笑顔にしてもらったんだ。

 それがこんな風に、暴力として使われていいはずがない!

 

 

「ランランルーは嬉しくなるとついやっちゃうもので、人を傷つけるものなんかじゃない!! 偽物野郎、俺とランランルーで勝負だッ!!」

「あたし、こいつに憧れてるのってもしかして黒歴史になる感じ?」

 

 

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