データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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第4話 阿佐ヶ谷ダンジョン十層(前編)

 阿佐ヶ谷ダンジョン第八層にて。

 

「はい、おーわりっ」

 

 若葉さんがさくさくとツブ……つまり小型モンスターを倒していく。

 今回彼女が装備しているのは、メカニカルな弓矢だ。

 背負っている矢筒は視線操作(アイ・ジェスチャー)で稼働し、アームで矢を手元に運んでくれる。

 

「お見事です」

「戦闘は苦手だけど、これぐらいはね」

 

 小型のゴブリンやらスライムやらは、あっという間に全滅した。

 こいつらから得られる素材はそんなに貴重じゃないので、今回は死体を隅っこに置いて先に進む。 

 

「その弓矢、僕のデータにない装備ですね……特注品ですか?」

「『ミラージュ』の装備部門が作ってくれたんだ。ウチの事務所、その辺結構重視してるからね」

 

〇ミラージュの人って確かに装備充実してるよね

〇ブースター付きの大鎌使いとかいるしな

〇見るからに金がかかってそう

〇"資本"

 

 言われてみれば、なんというか……単純に強いだけでなく、見栄えがいい。

 配信する際の画面映えも意識しているのだろう。

 

「しかし、若葉さんの力量もお見事です」

「へへ、そろそろ先輩らしいところを見せなきゃね」

「さすがに年季が違うと思いましたよ」

「今、年齢の話した?」

「してないです」

 

 俺は全身を使って謝罪した。

 明らかにこちらが悪かったからだ。

 

〇怖すぎ……

〇画面越しなのに死んだかと思った

〇俺たちの知らないカスミンの側面がじゃんじゃん出てきてヤバい

 

 コメント欄も戦々恐々である。

 でも同世代ぐらいだろ? なんでこんな怒られなきゃいけないんだ。

 

「そんな気にする年じゃないでしょ、って顔に書いてあるよ。でも女の子にとっては重要だから」

「はい……すみません……」

 

 心まで見透かされている。

 本当に怖い。

 

 俺は小さくなって、若葉さんの後ろについていった。

 八層攻略はもう終盤である。

 

「次がエリートかな?」

「ですね……っと、噂をすれば影ですか」

 

 のそりと姿を現したのが、第八層のエリート、四足歩行のキラータイガーだ。

 名前の通り、虎である。スピードもパワーも兼ね備えた強敵だ。

 

「ここは僕がやりましょう」

 

 今回、ダリアの先輩から槍を借りてきている。

 長期戦を想定し、被弾率を下げるために間合いを取りやすい武器を選択したのだ。

 

「キシャアアアアアア!」

 

 おたけびと共にキラータイガーがとびかかってきた。

 俺は後ろへ下がって間合いを維持しながら、槍を振るう。

 

「単調な動き、データ通りですね!」

 

 回避して当てる、回避して当てる、その繰り返しだ。

 リスクを負うことなく、一方的になぶり続ける。

 

「これこそがデータ殺法! アナタの勝率は0%です!」

 

〇見栄えゼロっすねぇ……

〇これ見るとカスミンってやっぱ配信者としてすごいわ

〇メカがガシャガシャ動くだけで楽しいもんな

 

 次第にキラータイガーの動きが鈍っていく。

 今だ! 俺は一歩踏み込み、キラータイガーの首元へと槍をずぶりと突き刺した。

 

「キシャアアア……」

 

 ぶしゅっと血を噴き出してもがいた後、キラータイガーは力なく倒れこみ、動かなくなった。

 

「フッ、これにて証明終了(QED)です」

 

 眼鏡をクイッとして、決め台詞を放つ。

 決まった……!

 

「う、うーん……安定感はあったけど、なんか、なんかなあ……」

「なんですか。見栄えゼロとでも言いたいんですか」

「……うん」

 

 ですよねー。

 

〇前回の衝撃で俺たちの脳が壊されているだけ説はある

〇ダリアらしいっちゃらしいんだけどな

〇いつものダリアという具合

〇効率化するとこうなっちゃうんよな

 

「ていうか、最初は短剣、それからステゴロ。で、今回は槍? 色々武器使えるんだね」

「なんか使えるんですよね」

「は? 本人があいまいなことある?」

 

 キラータイガーの素材を採取しながら、俺は頷く。

 若葉さんは持ち込んだ『鑑定』用アイテムの虫眼鏡で、その素材を手早く分別し始めた。

 

「いや……本当に、なんか使えるんですよ……」

「君それで本当にデータキャラやっていくつもりなワケ?」

 

 ちょっと心配にはなってきている。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 八層に続いて九層も踏破し。

 今、俺と若葉さんは十層にまでたどり着いていた。

 

 ここはエリートが出現せず、ツブも比較的少ない。

 完全な安全地帯というわけではないが、長期探索の際にはここで一休み、あるいは野営することが推奨されている。

 

「ここをキャンプ地としまーす!」

 

 若葉さんが元気いっぱいに、自分の視聴者たちに宣言していた。

 そういえば彼女の枠だと、俺ってどういうふうに思われてるんだろう。

 ……これでブッ叩かれてたら嫌だし、考えないようにしておこう。

 

「今日はここで野営して、それから十五層目指すよ! 帰り道も十層で宿泊かな~」

 

 どうやら視聴者向けに、今後の流れや進捗を改めて説明しているようだ。

 一方の俺は、野営用の装備を広げて、物資を確認している。

 なんというか……コンビでやってるというよりは、俺が裏方を担当してるみたいだな……

 

〇データ的には物資足りそう?

〇データ語が伝染ってる……

 

「データ的には足りそうですよ。二泊までは想定していませんでしたが……洗浄スプレーを持ってきておいて正解でしたね」

 

 ダンジョン中層に生息する特殊な虫の体液から作られた洗浄スプレーは、シャワーを浴びたりせずとも、服の隙間から肌に噴射するだけで肌を清潔に保つことができる。

 主に介護業界などでの利用を目的に開発されたのだが、長時間のダンジョンアタックをする探索者にとっても必須のアイテムだ。

 

「ねえねえハカセくん、私たち十層までにエリートを三体倒してるって、これ結構すごくない?」

「そうなんですか?」

 

 にこにこ笑顔の若葉さんに肩をバシバシと叩かれる。

 エリート三体つっても、俺は槍でチクチク刺してただけだし、若葉さんがなんか爆発する矢とか雷撃を纏った矢とかでブチ殺してたんだよなあ。

 戦闘は苦手って結構嘘なんじゃないの?

 

〇実際これってすごいんですか?

〇普通にすごいよ

〇上層のエリートなんか普通避けるからな

〇安心のダリアクオリティ

 

 ……どうやら俺も俺で、先輩方にかなり染められているのかもしれない。

 

「じゃ、先に寝ちゃって。私は雑談しながら警戒しておくから」

「ありがとうございます」

 

 枕代わりのクッションを膨らませてから、俺はそこに頭を置き横になった。

 眼鏡を外して、割らないよう物資ケースの上にぽいと投げる。

 

「お、眼鏡外してるの、この間ぶりだね……それって度入ってるの?」

「入ってませんよ、探索サポートデバイスなので。それに僕の視力は両目6.0です」

「逆に日常生活に支障が出てそう」

 

〇細かいスペックが異常なの何なんだよ

〇データキャラで視力がいいの、なんか変すぎないか?

 

 うるさいぞ。

 

「ねえねえハカセくん」

「はい?」

「こっちの視聴者が、君のこと知りたがってるんだけど……」

「……質問があるっていうことですかね」

 

 寝ようとしてたのにごめんね~、と若葉さんが手を合わせる。

 別にいい。ここで向こうの視聴者の好感度も稼いでおかないとな。

 

「えっとね、なんでダリアに入ったのかとか、ダンジョンで何したいのかとか」

「……ダンジョンを探索する理由ですか」

 

〇これ俺たちが先に聞いておくべきだったんじゃない?

〇他チャンネルのコメントにこれを先取りされるのヤバイ

 

 俺はダンジョンの天井を見つめた。

 理由は、明白だ。

 

「昔、潜ってたような気がするんです」

「え? ダンジョンに? 気がする? えっと、それはダリア所属前の……」

「もっと前です」

「……どういうこと?」

 

 若葉さんが首をかしげる。

 確かに説明が足りてないな。これ最初から話した方がいいか。

 

「僕は記憶喪失なんですよ」

「……え」

「それで、ある人に拾ってもらって、今こうして探索者になりました」

 

〇は?

〇ガチで聞いていない

〇ちょそんな大事な話急に始めんな

 

「……自分の名前、とかも覚えてないってこと?」

「そうです。九条博士は、仮の名前なんですよ」

 

 発見された時に持っていた装備に、『九条博士』という名前が刻まれていた。

 それが、今は暫定的に俺の名前になっている。

 

「でも、何も覚えてないってわけじゃなくて……本当にぼんやりとした、微かな記憶があるんです」

 

 夢とも現とも分からない、おぼろげな光景。

 

 その記憶の中で、誰かが俺に語りかけてくる。

 

 

『■■……心配するな。確かに強敵だが、勝率は100%だ。俺たちは必ず勝つ』

『ハイハイ。あたしらが揃ってたらいつでも100%だもんね~』

『うふふ、そんなこと言って、君も本気で100%だと思ってるでしょう?』

『そりゃね。あたしらで負けるなら人類誰でも勝てないでしょ』

 

 

 あいまいな、靄のかかったような光景だけど。

 

 聞こえる声は半ば反響に交じり融けたものだけど。

 

 それでも――絶対に忘れるな、忘れてはいけないことだと魂が叫んでいる。

 

〇そういう理由があったんだ

〇記憶喪失の感じ全然ないからびっくりしたわ

 

「……その記憶の中で、僕はダンジョンに潜っていた気がするんです。だから、ダンジョン探索を仕事にしようと思いました。記憶が戻るきっかけになるかもしれませんし。ま、見つけてくれた人には猛反対されましたけどね」

 

 もちろん、ダンジョンは世界中にいくらでもある。

 夢の中で自分が探索していたのがどれかなんて分かりはしない。

 

 分かりはしないけど――それは、何もしない理由にはならない。

 

「やらなきゃ、あの光景が何なのか分かる確率は0%です。でも動けば、0%じゃなくなります。僕のデータは間違いありません」

「……ぷっ、ふふふふ、確かに。確かにその計算はバッチリだね」

 

 肩を揺らして、若葉さんが笑う。

 よかった。

 この話をして、彼女を暗い顔にさせたくはなかった。

 

 俺は安心して目を閉じた。

 夢の中だけでも、記憶に残った声が聞こえたらいいなと思った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 仮眠終了! 起床!

 

「――って、若葉さんは?」

 

 のそりと身体を起こすも、若葉さんの姿が見当たらない。

 

〇なんか暇だから近くの素材採集に行ってる

〇あと向こうのチャンネルでお前の寝顔晒されてたぞ

 

 何してくれてんのあの人。

 物資ケースの上に置いてあった眼鏡を手に取り、顔にかける。

 

 画面表示オン。データキャラっぽいセリフのカンペがレンズに表示された。

 機能は問題なく動いてるな。

 

〇お前は一生眼鏡をはずして前髪を上げてろ

〇あらやだ普段もステキよ、でも両目が隠れるぐらい前髪伸ばしたらもっと男前かも♡

〇性癖の終わってるオカマ?

 

「まったく、単独行動は危険ですよ……若葉さんを探しましょうか」

 

 マップに若葉さんの座標を表示させる。

 本人の了承が得られれば、指定した探索用デバイスの座標はいつでも確認可能だ。

 

 さてさて、そう離れてはいない――というか、全然近いな。

 念のために槍を拾い上げて、点滅する光点を目指して歩き始める。

 

〇あ

〇おっ

〇ハカセくんこれ急いだほうがよさげ

 

「ん? どうかしましたか?」

 

〇二窓してるんだけど向こうヤバイ

〇嘘だろ……十層で出てきていいわけないじゃん

 

「……二窓ってなんですか?」

 

〇カスミンの配信枠も同時に見てるってこと!いいから走れ!

〇エリートと遭遇してるんだよ!

 

 十層にエリート? な、なんで?

 しかし疑問に思っている暇はない。

 俺は意識を切り替え、ダンジョンを駆け抜ける。

 

 足音を反響させながら、地面を蹴って走る。

 本当はやっちゃいけないんだけど、今は仕方ない。

 

 そうして走り続けた先。

 角を曲がった瞬間、見知った少女の背中が。

 

 ――その奥に、剣を振りかざす骸骨のモンスター、スケルトンの姿が見えた。

 

「若葉さん伏せてッ!」

「っ!?」

 

 足じゃ間に合わない!

 その場で地面を踏みしめ、全身を使って槍を投擲する。

 

 狙い過たず、スケルトンが振り下ろす剣に直撃。甲高い衝突音と共に剣が吹き飛ぶ。

 その隙に、俺は全力ダッシュで接近。

 若葉さんの身体を掴むと、抱きかかえる形で拾い上げ、後方へと大きく後退した。

 

「は、ハカセくん……!」

「すみません、遅くなりました!」

 

 腕の中で、若葉さんがうるんだ目で見上げてくる。

 彼女を一瞥し、怪我がないのを確認。

 それから、俺は対峙するスケルトンへと意識を切り替えた。

 

 こいつは十五層に出現するエリート個体。

 ダンジョン探索者を襲う骸骨の戦士、スケルトン……のはずなんだけど。

 

〇なんか紫じゃね?

〇スケルトンってこんな色だっけ?

〇足元がドロドロしてるし、なんかの異常個体か?

 

「若葉さん、あれは?」

「わ、分かんないの。素材採集してたら急に近づいてきて……し、しかも矢がすり抜けちゃって! もしかして、幽霊!?」

 

 幽霊?

 ダンジョンは確かに超常現象の塊みたいな場所だが、そんなオカルトはありえない。

 幽霊なんてこの世に存在しない。してほしくない。普通に怖すぎるから。絶対に遭遇したくない。

 

 よってこれは幽霊じゃない。

 幽霊じゃないとなれば――

 

「いいえ……特徴的な紫色の体表色。足元の地面が融解しているのは、高温によるものではない……なるほど、正体見たりといったところですね」

「え? し、知ってるの!?」

 

 俺は一つ頷いて。

 スケルトンと対峙し、堂々と宣言する!

 

 

「僕のデータによれば、あれは――毒スケルトンですね!」

「は?」

 

 

〇最悪の毒チワワ?

〇知らん……何それ……

 

 

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