データを集めて拳で殴るダンジョン配信   作:佐遊樹

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感想返信全然間に合ってなくてすみません、あとで全部やります


第7話 正義の味方だけが炎を持つ

 阿佐ヶ谷ダンジョン第三層安全地帯。

 俺は遠い昔……いやそんなに昔ではないけど、個人勢時代以来の再会を果たしていた。

 

「そうか、あの時の……お元気そうで何よりです」

「たった今アンタのせいで元気じゃなくなったわよ!」

 

 巨大事務所『ミラージュ』に所属し、強豪探索者として有名なアリアさん。

 彼女は顔を真っ赤にして、俺につかみかからん勢いで迫ってきている。

 

〇アリアさんがビービー泣いてた……?

〇嘘乙

〇さすがに盛りすぎだろ

 

 コメント欄は俺の言葉を全然信じてくれていなかった。

 そんなことはないと反論しようとして――ふと気づく。

 

 よく考えると、これはアリアさんに対する風評被害なんじゃないか?

 結構悪いことをしている気がしてきたな……ちょっとこう、ごまかしておくか……

 

「あー……そう、ですね。記憶違いだったかも……」

「フン、いまさら何! もう遅いわよ、取り繕う必要なんかないわ!」

 

 胸を張って、彼女はこちらをビシイと指さした。

 

「見なさい! 今のあたしは『ミラージュ』でもトップクラスの探索者! 宣言通り、強くなったし有名にもなったのよ!」

 

 これ別の人が言ったらものすごい嫌な奴みたいなセリフ過ぎるだろ。

 ただまあ、アリアさんの場合、溢れんばかりの自信が、きちんとした実績や実力に裏打ちされているのを感じる。

 

〇強くて有名、確かにアリアさんを表現するうえでピッタリではある

〇非配信者の方がガチ、みたいな風潮を吹っ飛ばしたのこの人だもんな

〇『ミラージュ』初期メンバーって大なり小なり偉人なところがある

 

 だから別に不快に思うことはない。

 問題があるとすれば、俺とカスミさんはばっちり配信中なので、今までの発言がネットに垂れ流されていることぐらいだろう。

 

「あ、あの、あーちゃん? こっち配信中なんだけど」

「えっ……」

 

 あわあわしていたカスミさんが、恐る恐る手を上げる。

 それまでの勢いが嘘のように、アリアさんが動きを止めた。

 紅潮していた顔が、一転して青くなっていく。

 

「……アンタ配信中に、あたしの黒歴史を暴露したってこと……?」

「いえ、あの、すみません……」

 

 フーッと深呼吸をして、彼女は天を仰いだ。

 言われてみるとかなりかわいそうなことをしてしまったかもしれない。

 

〇え、アリアさんの反応的にさっきのってガチでそうなの……?

〇本当に……?

 

「……別に、別にいいわよ。あれがあってこその、今のあたしだし。全然問題ないし。気にしてないし」

 

 明らかに自分を落ち着けるために、一人でぶつぶつ呟いている。

 なんだこの人。打たれ弱すぎるだろ。

 

〇一人の人間を壊してしまいましたねえ

〇駆け出しのころってこと?

〇最初のアリアさんってアーカイブあんま残ってないからな……

 

「と――ともかく、久しぶりねって挨拶をしに来たのよ」

「……ご丁寧にありがとうございます」

 

 ぺこりと頭を下げあった後、アリアさんはカスミさんへと目を向ける。

 

「で、なんだけど。アンタたちからは細かい事情聴取をさせてもらうわ。スケルトンアビスについて詳しく知りたいし……何より、阿佐ヶ谷ダンジョンで何が起きているのかを把握しなきゃいけないわ」

 

 お、まじめな話が始まったみたいだ。

 

〇よく考えたら、スケルトンアビスだけじゃなくてあのワイバーンもおかしかったよな

〇ワイバーンは報告案件なんじゃない?

 

「……確かにそうですね。アリアさん、僕たちはスケルトンアビス以前にも、上層へと上がってきた下層エリートに遭遇したことがあります」

「へぇ、じゃあ兆候があったワケね……」

 

 腕を組み、アリアさんが難しそうにうなる。

 カスミさんもしばらく思案した後、苦々しい表情になった。

 

「ってことはきっと、問題の原因は……ツブでもエリートでもない、パレードリーダーとの戦いを想定するべきなのかな」

「ええ。とはいえ、パレードリーダーとも違う、エクストラクラスの可能性もあるわよ」

 

 聞きなれない言葉だ。

 何それ? ダリアの座学で出てきたような、出てきてないような……

 

「あーちゃん、ハカセくんがついてこれてない顔になってる」

「ハァ……ダリアのくせに不勉強ね。海外では結構増えてきてるのよ?」

 

〇最近アメリカでウォーキングとかはカテゴリーとして公認されてたね

〇戦の王でウォーキング?

〇あと、『ダンジョンを我が物顔で好き勝手に歩き回っているから』って意味もあるらしい

〇今のところは3体ぐらい確認されてるんだっけ?

 

 ほえ~。

 ダリアの先輩なら知ってるだろうか。

 俺が一番お世話になってる先輩なんか、アメリカに留学して、本場のダンジョン攻略を習ってたぐらいだし。

 

「大体アンタ、どういう経緯でダリアからデビューしてるワケ?」

「どういう経緯と言われましても……いろいろあったとしか……」

「フーン。まあ、ダリアっぽくはあるわよね。昔はソロでやりたい放題やってたし」

 

〇アリアさんが言ってる昔って、ダリア所属する前の話だよな?

〇普通に超大御所と知り合いなのびっくりする

 

「……あーちゃん、昔のハカセくんを知ってるんだね」

「知ってるってほどじゃないわよ、会ったのも一度きりだし。まあ、忘れようにも忘れられないんだけどね」

「ふーん……私、まだ全然ハカセくんのこと知らないんだな……」

 

〇冷静に考えるとカスミンに続いてアリアさんが出てるチャンネルってやばすぎ

〇豪華すぎるんだよな

〇ナルトと一護が連続で来てるみたいなもん

 

「……あとさあ、ダリアには言いたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

 

 アリアさんは俺を指さした。

 

「こいつにデータキャラやらせようとしてるの、絶対に間違ってるわよ」

 

〇はい……

〇それはそう

〇反論がないから俺たちの負けだが?

 

 真顔でそんなことを言わないでほしい。

 コメント欄も全然擁護してくれないし。何なんだよこれ。

 

「ともかく、あたしは明日にでももう一回潜ってみるけど……アンタたちも一緒に来る? 正直言って危険だけど、どうせカスミは好奇心が止まらないでしょ?」

「うん、行くなって言われても、こっそり行っちゃうと思うな」

「はぁ……早死にするわよホントに……」

 

 嘆息してから、アリアさんはこちらに目を向けてきた。

 

「で、アンタは来なさい。あたしがどれだけ強くなったか、見てもらいたいし」

「いいんですか? てっきり部外者は来るなとか言われると思いましたが」

「アンタの実力に疑いはないわ。危険性を考えると、むしろ力を借りたいぐらいよ」

 

〇アリアさんに頼られるって相当だな

〇過去に何があったのか超気になる

 

「この阿佐ヶ谷ダンジョンでは、何かが起きているわ。それも恐らく、あたしたちの想像を絶する何かが」

「それ何も分かってないんじゃないですか?」

「うっさいわね! ええ、そうよ! 分かってないからこれしか言えないのよ! なんか文句ある!?」

「あ、あーちゃん落ち着いて……!」

 

 ガルル! と威嚇してくるアリアさんを、カスミさんが必死になだめる。

 いいコンビだな、この二人。

 

〇ダンジョンキーパーよりアリアさんの方が強いの、やっぱり意味不明だよな

〇これだけ強い人がきっちり秩序側なの本当に助かる

 

「……ちょっと気になったんですけど。まあダンジョンキーパーより自分の方が強いからっていうのはさておき、アリアさんはどうして調査に乗り気なんですか?」

 

 俺の問いに、アリアさんは虚を突かれたように数秒黙った。

 隣のカスミさんは、まあ好奇心の下僕なので仕方ないとしても、アリアさんがやっていることはボランティアに近い。

 

「なんていうか、あれですよ。正義の味方みたいでいいなって」

「……別に大した理由はないわ。それこそ、ダンジョンに正義の味方がいたっていいでしょ」

 

 それに、と彼女は言葉を続ける。

 俺をじっと見つめて、ふっと表情を柔らかくしてから。

 

 

 

「――救われた命なんだから、誰かを救うために使いたいってだけよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 記憶の中の彼は、血まみれなのに笑っていた。

 

『モンスターたちの大行進! 多勢に無勢! 挙句の果てに、目の前にはパレードリーダー! 最ッッ高の状況だな!』

 

 プロテクターの拳を握りしめて。

 体中が痛いだろうに、そんなの関係ないと言わんばかりに。

 

『も、もう逃げなさいよ……! 多分だけど、アンタだけなら逃げられるでしょ!?』

『バカ言ってんじゃねえ! やっと面白くなってきたところだろうが!』

 

 絶望そのものを前にしているのに、彼は笑っていた。

 

『背後には、守るべきものがある! 退いちゃいけねえ理由がある!』

 

 強大なパレードリーダーと対峙し、すでに満身創痍なのに。

 

『だから負けられない……いいや、負けられないんじゃない――』

 

 拳を構えて、彼は雄々しく叫ぶ。

 

 

『――俺は!! 絶対に勝つッ!!』

 

 

 その言葉を、その目に宿る炎を。

 アリア・A・アミエルは、ずっと覚えている。

 

 

 

 

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