阿佐ヶ谷ダンジョン第二十層。
俺こと
「そっち行ったわよ!」
「あいあい!」
アリアさんの鋭い声を受けて、カスミさんが腕を振るう。
今日のカスミさんは、レーザーブレードを片手に持った接近戦スタイルだ。
すれ違いざま、カスミさんのブレードがツブたちを真っ二つに両断する。
真っ黒に焦げた切断面は、レーザーブレードの出力の高さを物語っていた。
「ヒェ~ッ……『ミラージュ』ってすごいですね、装備が潤沢だ……僕のデータにない代物ばかりです」
「アンタのデータが何も知らなさ過ぎるんじゃない?」
アリアさんが急に俺の柔らかい部分をエグってきた。
〇それはそう
〇それはそうだけど冷静に考えて記憶喪失なんだからデータ蓄積なんかあるはずないだろ
〇……じゃあやっぱりデータキャラがおかしいんじゃねえの?
「あと、装備が豊富なのは『ミラージュ』が力入れてるから……なんて思ってるんじゃないの?」
「え? カスミさんはそう言っていましたけど」
アリアさんは嘆息してから、首を横に振った。
「あの子が持ち込んでる装備類とか、あと、あたしが使ってるこの鎌とか……確かに『ミラージュ』の技術部でメンテナンスしてもらってるけど、根幹設計・試験運用は、カスミがやってるわよ」
「……っ!?」
〇そうなん!?
〇初耳なんだが
〇ガチの天才じゃん
聞いてたのと話が違うじゃん。
嘘つきすぎだろあの人。
「って、その鎌もカスミさん製なんですか?」
「もちろん。銘は――なんだったかしら。ええと、確か……『
「名前物騒過ぎませんか……」
俺は思わず嘆息しつつ、ロングソードを振るって目の前のツブを斬殺した。
今日の俺は新品の大型盾と、ロングソードを装備した前衛タンクスタイルである。
「アンタも一個ぐらい、装備作ってもらったら? まあ事務所違うから、高くつくかもだけど」
「ハハッ、検討しておきますよ」
肩をすくめつつ周囲に目を配る――目立った敵の影はない。
なにせアリアさんが、
今回、俺たちは後衛を置かず全員で相手を削り殺す超攻撃構成を選択している。
この方が消耗が少なく済むのだ。
それを可能とするのが、隣で俺と喋っているアリアさんの超スピード超火力。
「ん……あーちゃん! エリート反応、前方から来てるよ!」
「ラジャ」
軽く返事をして、アリアさんが手に握った大鎌『
その構造はいたってシンプル。
鎌の内側が鋭い刃に、そして外側がブースターになっている。
『グオゴオオオオッ!!』
「『鑑定』――敵エリート、『ティラノケルベロス』! 特性『復活』、それも五回!」
姿を現した二十層エリートは、首が三つある肉食恐竜といった具合の見た目だった。
即座にカスミさんが虫眼鏡越しに、敵の詳細を『鑑定』してくれた。
予想通り、きっちり特性を持った異常個体である。
〇五回復活!?!?!?!
〇運営さん数値ミスってますよ
〇運営とかいないんで……
〇阿佐ヶ谷ダンジョン、ガチの魔境と化している
「……九条博士、アンタはカスミを守りつつヘイトを稼ぎなさい」
「ダメージ出しは全てお任せしても?」
「誰に向かって言ってんのよ」
俺が差し出したロングソードを、彼女は大鎌の刃先で軽く叩いた。
途端、彼女の姿が掻き消える。
エリートの三つ首がぐいと伸び、消えたアリアさんの姿を追おうとして。
――ずぱっ、と、三つすべてが根元から断ち切られた。
「……あーちゃん! 今の1キル換算みたい!」
「チッ、ちょっと速すぎたわね」
三つ首が地面に落ちる直前、宙に縫い留められる。
それは首の根元から伸びた肉の紐につなぎ留められ、うじゅるうじゅると派手な音を立てて再生、元の姿へと戻ってしまった。
エリートはアリアさんを追いかけるのをあきらめ、俺の方へと突っ込んでくる。
その凶悪な牙が輝くのと同時、片手に持った盾を思い切り叩きつけた。
ジャストタイミングで放たれたシールドバッシュに、ティラノケルベロスが体勢を崩す。
「ナイスパリィよ!」
途端、その首が再び刎ね飛ばされた。
再び再生しようとするが遅すぎる。
エリートの背にはもう、金髪の美しき死神の姿があるのだから。
「これ再生待つより殺し続けた方が楽ね。あと何回だったかしら?」
「僕のデータ上――5ひく2は、3です」
「それすらできなかったら本当にどうしようかと思ったわよ……」
告げて。
振るわれた鎌が――肉を断つ音と、クリティカル発生時の閃光音を奏でた。
エリート異常個体『ティラノケルベロス』、無事討伐。
◇◇◇
二十層を抜けた二十一層。
周辺にエリートもツブもいないのを確認して――もともと、キリのいい数字の直後の層は、ちょっと敵の出現数が控えめになる傾向にあるのだ――俺たちは少しばかりの休息を取っていた。
ちょうど左右への分かれ道に差し掛かったところだ。
アリアさんは、行先は左一択だと言っていた。ここは詳しい彼女に任せていいだろう。
「さっきの異常個体戦、ナイスクリティカルでした」
やっぱあの閃光音最高だな。脳が幸せになる。
できれば自分で出したいところだが、今日の装備では難しいだろう。
「褒めるのはそこじゃないでしょ。再現性のない奇跡に喜ぶなんて、アンタずいぶんヒマなのね」
ガシュンと鎌を格納しながら、アリアさんが冷たく呟く。
ギロリとにらんできたその目には、明らかな怒気が宿っていた。
「これは失礼。見事なスピードと、それを生かしたバトルスタイルでしたよ。今日だけでもう6体目のエリート狩りとは驚きです」
「フン、最初からそう言っておけばいいのよ」
彼女は胸を張り、ふふんと誇らしげに俺を見下ろす。
座って休んだ方がいいと思うけどな。
「あたしが強くなるために重視したのは、効率と再現性よ。ダンジョンという過酷な環境を生き残るために、自分の幸運なんかアテにしちゃダメ。命がいくつあっても足りないわ」
〇はい
〇あまりにも正しい
〇ありえないクリティカル率を突き詰めてるバカは見習ってほしい
「いえ僕は再現性に満ちたデータ上の結論に従い戦っているのですが」
「真顔で言っていいボケじゃないわよ、それ」
「……?」
「……?」
〇ボケじゃなくってぇ
〇アリアさんこいつと話しても時間の無駄ッス
〇九条博士、お前を救いたい
「まあまあ。あーちゃんだって、再現性のない奇跡っていうのは言い過ぎじゃないかな。一応それ、クリティカル率75%以上あるからね」
「……確かにそうね。でもあたしにとっては、100%じゃないなら、信頼できない数値よ」
「あーちゃんはそう言うよね。開発者泣かせなんだから」
カスミさんは笑いながら肩をすくめた。
「なんというか……アリアさんって、流石は強豪探索者ですね」
「でしょでしょ」
「なんでアナタが誇らしげにしてるんですか」
実際、アリアさんのダンジョンでのふるまいは、実に堂々たるものだった。
ツブたちは容赦なく蹴散らし、エリート相手も力押しが通用すると判断したら、速攻で勝負を決めに行く。
前回俺とカスミさんが一泊して十層にたどり着いたのとはまるで次元が違う。
なにせ大きな休憩を取ることなく、爆速でもう二十一層に到達してるからな。
「で、九条博士。アンタちゃんと栄養補給しときなさいよ。タンクやるなら空腹は大敵なんだからね」
「分かっていますよ」
懐から取り出した栄養バーをむしゃむしゃと食べる。
データ上、これが最も効率的な栄養補給だ。
「あとエリートとの接敵が増えてきたし……もう十分ぐらいは休みましょうか」
「はいはーい! それならみんなで性格診断テストやろ?」
「それ、あたしのことを『せかせかコンドル』とか分類してきたふざけたテスト? 確かにコイツが何になるのかは気になるわね……」
「ぶふぉ」
俺は栄養バーにむせた。
数秒の沈黙の後、顔を赤くしたアリアさんが、鎌を展開してこちらに突き付けてくる。
「アンタ今『せかせかコンドル』でウケたでしょ」
「う、ウケてないですよ。めっちゃ面白かっただけで……」
「殺すわ! 殺してあたしも死ぬわ! カスミ、アンタも死になさい!」
「私は本当に悪くないよ!?」
「俺も悪くないですよ!?」
〇アリアさんのイメージが……崩れていく……
〇すまんこの人を冷徹な人類の守護者として見るのはもう無理
〇これアリアリスナーはどう思ってるんや
〇三窓してるけどアリア勢は「新しい魅力に気づかせてくれてありがとうハカセくん派閥」と「殺します派閥」で内戦始まってる
〇後者の名前がシンプル過ぎるだろ
こんな風にしてギャーギャー騒ぐなんて、朝集合した時にはとても想像できなかった。
普通にもっと静かに、まじめにやると思っていたんだが。
……まあ、これはこれでいいか。
そもそも俺が、記憶喪失で発見されて今に至るまで、ソロでやってた時期が数年あるせいでダンジョンに静かなイメージが強いってだけだろう。
みんなこうしてワイワイ攻略していたのかもしれない。
オイずるいだろそれ!!
俺そういう思い出ないんだけど!!
『へへっ、■■の負け~♪まだまだ甘いねガキンチョ。あたしに勝つなんて十年早いから』
『もう、大人げないんだから……それに、君もまだ子供よ?』
『はあ? あたしの方が二個も年上なんだけど!』
『それ、誤差のような気が……』
…………。
………………今のは、なんだ?
胸の奥が、悲鳴を上げている。
激痛に近いざわつきを上げている。
薄暗いダンジョンの中で。
火を囲んで。
俺は誰と一緒にいた?
俺は誰と笑い合っていた?
「……ん? 九条博士、どうしたの?」
「ハカセくん――ハカセくん?」
気づけば、二人が心配そうにこちらを見ていた。
〇今、なんかぼーっとしてたぞ
〇昨日の夜もこんな瞬間あったよな
〇おい本当に大丈夫か?
〇ダンジョンで無理は絶対に禁物だお
うまく声が出せない。視界が明滅している。
頭の奥で、不規則に火花が散っているような感覚。
「大丈夫……大丈夫です。ちょっと、今多分……昔の僕の記憶が……」
「――っ! ほ、ほんと!?」
カスミさんが俺の肩に手を置き、ゆっくりと背中をさすってくれる。
その様子に、アリアさんは目を丸くしているばかりだ。
ああ、そういや、この人には俺が記憶喪失って言ってないかもしれん。
「で、でも無理しないで。記憶が戻る時って、脳にどんな負荷がかかるか分からないから」
「……多分、もう大丈夫です。見えたのはほんの一瞬でしたし、ほぼ何も思い出せなかったので……」
かすかな一瞬だけ、ひどくにじんだ光景だった。
けれど――俺の魂は、それを忘れるなと叫び続けている。
「九条博士、アンタ……」
アリアさんが、俺に何か声をかけようとしてくれた――その刹那。
『『『…………ッ!!』』』
俺たちは三人同時に顔を上げ、武器に手を伸ばした。
誰かの足音が近づいて来た。
足音は、ツブでもエリートでもない。
となれば極端に人型のパレードリーダーか、あるいは人間。
配信中とはいえ、ダンジョン内での犯罪行為は、例がないわけではないのだ。
〇このタイミングで来るって……
〇今の阿佐ヶ谷ダンジョン、ほまに危険なんだが
〇火事場泥棒思考のやつは、こういう時によく来る
警戒する俺たちの前に、やがて三つの人影が姿を現した。
それぞれが高級そうな装備をした、恐らくは強豪の探索者。
「おっ、ここにいたのか。久しぶりっすね」
先頭に立つ男の挨拶は、俺以外の二人、カスミさんとアリアさんに向けられていた。
流石に俺は会ったことがない、というか顔に見覚えすらない。
「へぇ……珍しい顔ね」
アリアさんはなんか知ってるらしい。
誰なんだ?
「誰だか分からないって顔してるな。俺たちは配信をせず、ひたすらダンジョンに潜ってるんだ。ま、いうなればプロ探索者ってとこだな」
ニヤニヤしながら、彼はそんな言葉を口にした。
「……プロ探索者?」
「そうだ。君みたいに変なビルドを使うことはまずないし、たかが異常個体相手に、ギャンブルみたいな戦いを仕掛けたりもしない。堅実に、そして確実にダンジョンを攻略するのが俺たちだ」
「A級も何度か攻略してるし、実績で考えるなら、君は比較対象にもならないんだよ」
それは。
それはつまり……
「まさか――僕はまだ、アマチュア探索者だったんですか……!? 一体どこで試験を受ければいいんです!?」
「ハカセくん、こういう煽りを受け取る能力が本当に低いよね」
驚愕に打たれる俺の隣で、カスミさんが嘆息する。
「……そいつをからかうために来たのなら、時間のムダよ。さっさと次に行けば?」
「そうかい? そっちの彼、ダリアの新人さんだろ? 確かにダリアはすげー事務所だけどよ……アリアさんとパーティー組むってのは、まだ早いんじゃない?」
〇うお
〇はい、ついに来ましたね
〇こういう僻みは本当に無視でいいぞ
〇俺たちも力技で納得させられてるだけではある
「しかもカスミさんとで三人パーティーって……ちょっとさあ」
「ねえアンタたち、どんだけヒマなの?」
彼の発言はズバと遮られた。
あまりにも冷たい声だった。
直接言われた三人組だけでなく、聞いていただけの俺ですら、背筋を冷たいものが走った。
〇怖……
〇アリアさんの身内認定あったけぇ
「なんかアリアさん怖くないですか?」
「んっ……あーちゃんっていつもあんな感じだよ」
「いつもあんな感じなのは、かなりどうかと思うんですが……」
こそっとカスミさんに囁くと、彼女は一瞬くすぐったそうにした後、同じく小声で返してきた。
あまり対人コミュニケーションの経験がない俺から見ても、攻撃性が強すぎるだろ。
「びっくりしてるのは私の方だよ? あーちゃんの君への態度、信じられないぐらい柔らかいんだから」
「この間僕を殺して自分も死ぬとか言ってたんですけど」
「アレはあーちゃんなりの甘えなんじゃない?」
カラカラと笑うカスミさん。
この人、そういえば大ベテランの大御所だったな。
変なこと言ったり変な鳴き声上げたりしてる印象が強すぎて、つい忘れそうになる。
「アンタたち、このダンジョンを自力で攻略できると、本気で思ってるワケ?」
「はあ? 俺たちはこんなD級――いや臨時A級ではあるのか。とにかく、阿佐ヶ谷ダンジョンは何度も攻略済みだ。異常個体が出てくるつっても、たかがしれてるだろ。ここに来る途中までも問題なく対応できたぞ」
男たち……ええと、プロの皆さんの言葉に、俺とカスミさんは顔を見合わせた。
これはもしかしてなんだけど、俺たちがめっちゃエリートを倒して回った結果、彼らは楽してここまで来れただけなんじゃないか?
「ハッ、語るに落ちたわね」
同じ点に思い至ったらしく、アリアさんは肩をすくめて鼻を鳴らす。
「――あたしたちの後を追ってきただけじゃない。ここから先はきっと地獄よ、もう帰ったら?」
「ハッ……残念っす。オレたちは先に行きますけど、一緒に来ます? お二人ならエスコートできますよ」
「誰が行くもんですか」
〇普通に最悪だった
〇アリアさん、攻防自在すぎる
〇ていうかこの人ら先に行かせて大丈夫なんか……?
彼らは肩をすくめて、分かれ道の右側へと進もうとする。
それを見て、アリアさんの目つきが鋭くなった。
「アイツら、
〇パスルート?
〇エリートが出現するエリアを回避する形の進路のこと
〇下の層へ行く穴が複数あったりすると使える裏技みたいなもん
俺がデータキャラとして解説する前に、コメント欄で説明が完了していた。
視聴者に出番を奪われるの意味分かんなすぎるんですけど?
〇そもそも、開拓が進んでそういうのが見つかってるから、D級とかに認定が下がっていくんだお
〇だからD級とか行くなら、最初は楽な道を選んでいこうず
〇それは恥ずかしいことでもなんでもなくて、自分を生き残らせるための正しい手段だお
〇連投失礼したお
〇……この口調終わってるlol星人、ダンジョンに詳しすぎないか?
〇lolやってるからな
「でも、信頼できるんですかね? このダンジョン、異変だらけじゃないですか」
「使えると思うわよ。昨日あたしがこの二十層まで潜った時に、ダンジョンの基本構造が変わってるわけじゃないのは確認したもの」
ほーん、抜け目ないなこの人。
「だったら……僕たちも最下層を目指しているわけですし、一緒に行ってよかったんじゃないですか?」
「ダメよ。パレードは副次的に大量のエリートを生み出すわ……あたしはそういうエリート共も狩りに来てるの」
アリアさんの言葉は、普通にありえない代物だった。
データキャラたるこの俺が、数秒間ガチで絶句してしまったほどだ。
「……あの。ダリアの新人研修で言われたことと、完全に真反対なのですが」
「自分の生存のためなら、確かにエリートとの連戦は避けるのが賢明ね。でもあたしは違う――エリートなんか相手にもならないわ」
だから、と。
彼女は真剣なまなざしで、ダンジョンの暗闇を見つめて言葉を続ける。
「生き残りが隠れていて。それが後から来た初心者と遭遇したら……どうなるか分かるでしょ。それを防ぐのも、あたしたちの仕事よ」
その言葉には、重みがあった。
単に強者として君臨しているのではなく、様々な人への目配せというか、思いやりがあった。
いやその、この人……
なんていうかさ……
「厳しくも暖かいお母さんって感じですね、アリアさんって」
「わかるー」
「あんま嬉しくないんだけど! その評価!」
〇気づいたか?このあふれ出る母性に
〇アリアさんは柔らかなママというよりは確かな硬度を持つ"オカン"なんだよな
〇岡田斗司夫?
〇アリアさんは私の母になってくれるかもしれない女性だ
〇シャアまで来ちゃったよ
〇じゃあ岡田斗司夫に逆シャアの評論やってもらって同士討ちさせよう
〇なんで岡田斗司夫とシャアが同士なのが前提なんだよ
俺のコメント欄キモ過ぎるかもしれん。
これアリアさんには見せられないな。
「まあ、とにかく……多分なんですけど、アナタは言動で凄く損をしていますね」
「アンタにだけは言われたくないんだけど!?」
俺の言葉に、アリアさんが歯と覇気をむき出しにして威嚇してくる。
歯はともかく覇気は浴びせてこないでほしい。
アリアさんは何度か深呼吸をして息を整えると。
改めて、俺とカスミさんに向かって言い放つ。
「と、とにかく。ダンジョンをただ攻略すればいいってもんじゃないわ。それじゃ、他の人たちを守れないの。あたしたちは他の探索者たちのために、この事件を解決する使命があるってことよ!」
知らない誰かが言ったら、本気で言ってるのか? と疑ってしまいそうな理想論。
でもそれは、アリアさんなら本気なんだと分かった。
だから俺も俺にもあった俺にもある使命俺は使命があった俺には使命がある果たさねばならぬ使命があるそのために潜れ潜れ潜れダンジョンの果てに到達しろ誓いを守れ使命を果たせ使命を忘れるな。
使命を、忘れるな。
『――■■。俺たちの使命を忘れるな。ダンジョンをただ攻略すればいいんじゃない。それでは地球は守れない。俺たちは地球上の全ての生命のために、勝利し続けなければならないんだ』
……今日は。
……今日は本当に調子が悪い。
意図しないフラッシュバックに視界が潰され、脳のリソースを食いつぶされている。
だけど、これは、きっと理由がある。
「すみません、プロの皆さん」
「あん?」
立ち去る寸前だった彼らを呼び止めたうえで。
俺は彼らをじっと見つめた。
「帰った方がいいですよ」
「……は? 何がだよ?」
「データを見るまでもない、アナタたちがこのダンジョンを攻略できる可能性は0%なんだ……今すぐに帰ってください、本当に危険だ」
俺の魂がそう断言している。
ダンジョンの深奥に潜む何者か、その気配が、彼らの手には負えないと告げている。
今このダンジョンの奥底にいるヤツは――――間違いなく、俺を呼んでいる。
~本文で全然説明するタイミングがない時系列~
ダンジョン出現する
記憶喪失状態でダンジョンで発見され、手持ち装備を参考に九条博士を名乗るようになる
拾ってくれたダリアの先輩にお願いして探索者になろうとするが断られる
~仕方ないので個人配信者として活動開始~
アリアと遭遇
勝手に個人で潜っていたのがバレてダリアの先輩にマジギレされる
逆に監禁でもされないとダンジョンに行き続けるとゴネ、監禁するか許可するかで真剣に悩んだ先輩が、最終的に手の届く範囲で面倒を見るために(そして落ちれば監禁していいので)事務所の非公開オーディションを受けさせる
~ダリアで受かってデビュー~
カスミと遭遇
現在に至る