我、南雲ハジメは事故にあった。法定速度を守っているとは思えないほどの速度での突進。鉄の塊が激突したのだ。到底無事とは思えん。良くて下半身不随。悪くて死亡だろうな。
我はまだ二桁も生を謳歌していないのに………なんとも悲しい現実だ。
「そうだ。キミは死にかけだ。ボクがいなければの話だがね」
……貴様、一体何者だ?我の心を読んでいるのに加え、我の心に入っている。人間の技とは到底思えんな。どんな種族で、何が狙いか…懇切丁寧に答えてもらってもかまわんか?
「うーん、無理かな!でもまあ、簡易的なのは答えられるよ。ボクはXの魔神。狙いは、そうだね。別世界に神として降臨しているエヒトをぶち飛ばす事。つまらない復讐劇。ソレに付き合って貰いたい」
「なるほど。交渉、という訳か。我が助かるにはその道しかないのは分かった。して、貴様は我に何の恩恵を返す?」
「……話を聞いていなかったのかい?キミはボクの復讐を手伝わないと生き返れないんだよ?」
「聞いていた。その上で何の恩恵を返せるか聞いているんだ。貴様は、我にお願いをしている立場であろう?復讐を手伝ってくださいとな」
Xの魔神とやらの目つきが鋭くなる。何様と言いたげなその視線。大変愚かで笑いが出てくる。
なぜコイツが死にかけの我に頼っているのかは知らないが、そうしなければならないのは確か。我でなければエヒトという神を打ち倒せないのか、我に眠る力が必要なのかは分からないが………
どちらにせよ、下手に出るのは我の立場ではない。それは、貴様の立場なのではないか?祈り、懇願し、地に頭を擦り付ける。そうしなければならないと自覚するべきだ。
事情が説明できず、生き返らせて命懸けの戦いをしてくださいなど馬鹿だ。もしかしたらこのまま死ぬ事の方が楽な道かもしれないのに?生き返れるというメリットだけで選ぶというのは些か短絡的だ。ご生憎様、我はそのような生っちょろい人物ではないものでな。貴様の復讐に付き合ってもいいメリットを提示しろ。
それか………貴様がどうしてエヒトとやらに殺意を抱くのか。どうして復讐を望むのか。そこを話してやったら考えてやらんこともない。
「それは、本当かい……」
「さあな。今の我には到底想像もつかぬ世界だ。だが、貴様が筋を通して接するというのなら、それ相応の対応を使用。貴様がただ力を貸して欲しいというふざけたことを抜かすのなら、それ相応の対応をする。それだけの話」
「……」
Xの魔神から語れるは悲劇。神と名乗る者に支配された世界。それを解放しようと立ち上がった者たち。人が集い、思いが集い、神への牙を研いでいる時だった。牙は折れた。もう立ち直れないほどに。原型がないほどに砕かれ、世界を解放しようと立ち上がった解放者たちは神への反逆者とされた。
そんな上位存在に喧嘩を売れというのだ。なんとも酷い考えだ。それも若い子供を騙して。貴様、エヒトに復讐したいという割に自身も悪どいことをしているではないか。
世界を救おうとした解放者が聞いて呆れるな。
Xの顔が歪む。自身の罪を認知しているからこその顔だ。
「だがまぁ、理由は分かった。先ほどまでの嘘で塗り固められていた貴様よりかは幾分か愛らしい。意を決して筋を通してきたのだ。我が筋を通さないのは違うだろう。よかろう、乗ってやろう。この我が、貴様の復讐に」
「礼を………!」
「それはいらん。全てのリスクを考慮してなお、全てを話す事に決めた貴殿には敬意を払う。あぁ、我のこの姿は盟友を相手にしているとも言っていい。ならば、貴殿と我は友だ。友が困っているのに手を差し伸べない者など人ではない。つまり、礼などは不要。義によって手助けしよう、X」
「キミは……ボクが知っている中でも一番かっこいい男だよ」
「当たり前だ」
Xから聞いた限り、我が生き返る手段は一つ。Xが保有しているオンリーワンなスキル、[X]を完全に受け継ぎ、体を修復すること。
この[X]というスキルには万能性が眠っている。そうだな……わかりやすく言い換えるとするならば、この[X]は万物を活性化させる活性剤、と言ったところか。例えば、
つまり強化兼成長性増加という訳だ。そこで回復系に[X]を使うことで肉体を完全に修復する。
もちろん肉体からだけでは限度がある。現実世界の我に原型の顔はない。故に精神世界に存在しているXに回復系X____ここからはヒールXと呼称することにする____を使用し、二重回復を図る。
即死の状態でもないのに二重回復をしなければならない事にXは嘆いていた。友としてなんと情けないことか。[X]のスキルの練度性を増し、この状態では何ともない状況にまでしなければ……。
早急に[X]の練度を上げるためXとリンクを行っているが、早々上手くはいかない。この[X]というスキル、本来想定していたよりも制御に難がある。現段階の我ではプロセスと終着が上手く噛み合っていないと言うべきか。制御に慣れているXとのリンクが合わない。
……始めたばかりで致し方ないと理解はしているが、我が友の足を引っ張っている。その事実が何よりも鋭く胸を穿つ。どうしたらXのように[X]を深く理解できるのか。そればかりに焦点が当たる。
あぁ……Xが上手く使えているのは経験の差。生まれてから死するまで共に生きてきたスキル。命懸けの戦いと共に積み上げられてきた想像を絶する圧倒的な経験値。その手綱を握るのは二桁も生きていない若造。手練れが取れば人懐っこい馬でも、幼子が取れば気性が荒い暴れ馬だ。
そのような差が、Xと我にある。一体どうすればコレを解決できると言うのか。そのような疑問が常に頭を巡り、迷わせる。友を思うが故の焦り。
それに、世界は微笑んだ。
Xへの領域に至らないのならば、我が[X]になればいい。[X]による事象への付与が遅れるのなら、我の行動そのものが事象Xになれば良い。ここは最高な事に身体的負担が一切ない。であるのであらば、出来るかと思った事は実験すべきだ。故に、この[X]も実験すべきだ。
頭に広がる空想を実現する。目の前にある超常は普遍的なモノに。如何なる事象も、我の前では変化する。
あぁ、分かる。頭の中で浮かんでくる。我の、我だけの技が。
「[Xタイム]」
奏でるは、誰よりも全てを癒す事を誓った光。暖かく、優しい光が自然とイメージできる。きっとこれは、Xの仲間のイメージだろう。全てを包み込み、受け入れ、壊れていった聖者。その全てが感じ取れてしまう。今は亡き聖者よ、貴殿の戦はこれより我が引き受ける。故に、安息たる天の地で休むがいい。
ここから先のヒーラーは、我が成ろう。
『ヒール!ヒール!ヒール!』
「X」
『ヒールXゥゥ!!』
聖職者としての白き服を見に纏い、領域を浄化するオーラを放つ純白の頭髪。回復作業の補助をする青月のピアス。満月を思わせる黄色の球体が浮かんだ杖。胸部に深く刻まれた黒色のクロス。
見かけだけで見れば薄っぺらい服装。けれど、ただの服にあらず。ヒールXとしての力が服にまで現れた代物。その硬度、並の鉄鎧を凌ぐほど。
「X。我は一度現世へと戻る。頼むぞ…………X!」
「全くほんと……!キミは無茶苦茶だ!」
目を閉じ、再度瞼を開ける。頭に激痛が襲う。今まで感じた事のないほどの痛みに思考がまとまらない。だが、それでも。約束を頭に据え、[X]を回すのだ。
「Xターン」
『ターンX!Xマキシマム!ヒールX!!』
「ブレイカムXヒール……!」
表側と裏側による強制医療。医療のイ文字も理解できていない者たちの治療は破綻していて、完璧だった。何故なら……我の後ろには盟友がついているからだ。
「ヒールXブーストバースト!」
渾身のヒールXを飛ばしたXは呆れを抱く。本来、[X]というものは体に纏うモノではない。事象に付与し、本来あった条理を捻じ曲げるためのもの。断じて強化術などではない。それを、南雲ハジメは強化に回した。例え肉体面に影響がないからと言っても、死ねば精神に影響が出てくる。最悪廃人だ。
コントロールに優れていると称されるXでさえやろうと思わない事をやり遂げた。
彼を天才として尊敬しようとは思わない。心強い仲間として積極的に頼ろうとも思っていない。あくまでも、南雲ハジメは手伝いである。復讐の結末を決めるのはXだ。
ゆえにこそ、Xは自身の[X]を掴む。かのものが成し遂げた芸当を再現するために。
「………[Xタイム]、ねぇ……」