Living Stone with Hail Mary 作:スカイリィ
減速を終えた宇宙船へ慎重に接近していく。
光センサーでその姿が徐々に判別できるようになっていって……僕は驚いた。
「うわ、ちっさ」
その船はとても小さかった。僕の船よりずっと小さい。全長は半分にも満たない。かなり小柄な種族なのかな?
光センサーで大まかな形状を探る。基本構造としては
後方の円錐形の先っちょが切り落とされたように平らで、そこに”星喰い”を利用したエンジンが搭載されているようだ。円錐形部分からは横に
ゆっくりと僕の船をエイリアン船の隣に寄せていく。光センサーでは船体が恒星からの光を強く反射している。
周りの円筒
フム。
とうとう異星の船を真横に捉えた。が、間もなくしてエイリアン船はエンジンを吹かして加速してしまった。
逃げた? こちらの大きな宇宙船が怖かったのか。それとも僕を試しているのか。
何にせよ追いかける。相手の加速度に合わせてエンジンを吹かす。時には文明を捨て去り野蛮になることも大事だ。
絶対に逃がさないぞエイリアン。こちとらずっとコミュニケーション相手を待ち望んでいたんだ。そんな簡単に諦められるか。
”星喰い”エンジンからの放射光に当たらないよう追随する。よほど動揺したのか異星宇宙船はあっちへフラフラこっちへフラフラと不規則な軌道で逃げていた。
そう。動揺だ。僕の船に驚いているのが動きから分かる。感情が出ている。機械による自動制御とはとても思えない。僕は歓喜した。間違いなくあの船は知的生命体が乗って操縦しているのだ。
しばらくの追いかけっこの末、相手は根負けしたようで逃走をやめた。やったぜ、僕の粘り勝ちだ。
再び同じくらいの位置に船を横付けして、カプセルを投げつける準備をする。
野蛮さから文明的優しさに切り替える。あの船体構造と材質からして、高い気圧に耐えられるとは考えにくい。低圧環境下で生きている種族に違いなかった。低い圧力下で僕のカプセルを開けたらドカンだ。
なので仮に真空で開けたとしても制御可能なくらいまでカプセル内部を減圧する。ポンプがあっという間に設定の圧力までカプセル内の大気を吸い出してくれた。
圧力を少し残しておくのは向こうさんに僕らの大気情報を伝えるためだ。彼らにとって僕らの大気が有害か無害かの判断材料になってくれたら嬉しい。
……さすがに無警戒で異星種族からのカプセルを開封する間抜けは居ないと思いたい。
内部減圧を完了したカプセルをまとめてエアロックに押し込んで、ちょうど操縦室に戻ってきたところで光センサーに動きがあった。
エイリアン船の後端がちらついた。エンジン放射だ。噴射時間はとても短い。それが
慌てて同じようにエンジンを吹かす。彼らの船の加速はその
噴射で増加した速度はとても小さい。逃げようとしているわけではない。彼らは通信しようとしているのだ!
やった!
よっしゃ、この流れに乗じてさっそくカプセルをぶん投げよう。ちょうどエアロックの減圧も終わったところだ。
小躍りしながら船外ロボットアームを操作する。エアロックから取り出した
記念すべき第
いいぞいいぞ。受け取れ受け取れ。僕はレーダーディスプレイに表示されたカプセルに注意を向ける。カプセルは相手の船の真ん中あたりへ順調に向かっている。
カプセルはしっかりと船体に当たって……跳ね返ってしまった。そのまま虚空に消えていく。僕は戸惑う。あれぇ、どうしたんだろう。
光センサーで再度エイリアン船を確認する。落ち着いて観察してみると、あの船にはロボットアームのような船外活動機械が搭載されていないように思えた。カプセルに対応して何かが動いた様子もない。
でもこの星系まで旅をしてきた以上、何かしらの船外装備は搭載されているはずだ。
うーん、僕だけ舞い上がって急ぎ過ぎたのかもしれない。彼らにも準備する時間は必要だった。相手の思考速度も分からないのに、自分のペースで行動したのは反省すべきだ。
心を落ち着かせる。今度はもっとゆっくり投げてみよう。彼らが準備できるだけの時間をかけて到達するような速度で投げるのだ。
慎重にロボットアームを操作して
レーダーと光センサーの両方を使ってエイリアン船を観察していると動きがあった。船体真ん中の円筒、その中腹にぽっかりと空間が現れた。その中から何か大きなモノが脚を使って這い出してくる。
この空間は、エアロックだろうか。そして這い出してきたコレが彼らの船外ロボットか。受け取る気になってくれたみたいだ。
おっと。船外活動ロボットが弾かれたようにエアロックから飛び出して、急に引き戻されて船体にぶつかった。テザーか何かで船体と繋がっているようだけど扱いが荒っぽいな。
レーダーも光センサーも解像度はあまり高くないけど、這い出してきたやつの大まかな構造はわかった。
僕よりずっと大きい。本体部らしき円筒形、その両端から
そいつは少し短めの
それにしても動きがぎこちない。移動もそうだが船体に走るレールにテザーを引っ掛けるたび本体が酷く揺れ動いている。初級エンジニアの造ったロボットアームでさえもう少し滑らかに動くというのに……。
えっちらおっちら船体表面を移動して、ロボットはようやくカプセル到達地点まで近づいた。すごくゆっくり投げたカプセルなのにロボットが遅すぎてもうギリギリのタイミングだ。
いや、このままのペースだと絶対に間に合わない。
……これは、また投げてあげた方が良いのかもしれない。
諦めて次のカプセルを用意しようと思ったその時、僕の予想外なことが起きた。僕は光センサーのディスプレイに引き寄せられた。
ロボットは今まで使っていなかった長い
そして……走りだした! 今までとは格段の素早さだ。船体表面のレールに沿って走り、カプセルの手前で飛び上がると鮮やかなキャッチを決めた。
すごい! 先ほどまでのぎこちなさは何だったんだ? ともかくこれでメッセージは届いた。
喜びのあまり僕は無重力状態で飛び回った。ボトルメッセージ作戦は大成功だ。
ディスプレイに意識を向けると、あにロボットは掴んだカプセルをこちらに掲げていた。どうだ、捕ったぞ! と誇示するように。その動きはまるで生きているようで……。
いや、まさか。
その動きはとても滑らかだ。とてもさっきまでヨタヨタ移動していたロボットとは思えない。この動きはロボットじゃない。
こいつはロボットなんかじゃない。この動いているやつこそが異星の種族なんだ! こいつは自分で宇宙空間に出ているんだ!
「なんてこった!」
その考えが浮かんだ瞬間、僕は驚きのあまり無重力状態の中でひっくり返ってしまった。そんなバカな話があるか。
でも説明はつく。あの長い脚で身体を支える姿勢こそがエイリアンの基本姿勢なんだ! あいつはとっさにレールとテザーで擬似的な重力を作って、慣れ親しんだ移動状況を再現したんだ!
狂ってやがる。僕は身体を大きく振って正気を保った。宇宙には音が無いというのに、気密服程度で外に出てくるなんて!
宇宙で周囲を確認するなら電磁波以外に手段は無い。あの気密服にはそれらのセンサーが詰まっているのだろうか。
それでもだいぶイカれているぞ。センサーに不具合が起きたら周りを何も知覚できなくなってしまう。
そういえばエアロックから外に出る時、あの球体部で外をうかがうような動作をしていた。何か光を放射して周囲を照らしてもいた。あそこにレーダーや光センサーを集約しているのかもしれない。
僕の動揺をよそにエイリアンはまたヨタヨタとエアロックに帰っていった。”星喰い”を含めて、異星生物というのは常識の埒外にあるのだということを僕は深く実感した。
「あれが、あれが異星の知的生命体なのか……」
僕は静かに呟いた。どうかあの生き物が、趣味や道楽で宇宙空間を遊泳するクレイジーなエイリアンで無いことを祈りながら。