Living Stone with Hail Mary   作:スカイリィ

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03 第λ話 I think this thing's broken.

 

 

 僕はエイリアンが何かしらのリアクションを取ってくるまでの間、自分の工房でエイリアン船の模型を作っていた。

 

 傍らに光センサーのディスプレイを置いた状態だから何かあればすぐに分かる。

 

 船の模型ついでにエイリアン自体の模型も完成させたあたりで画面に動きがあった。

 

 エイリアン船の真ん中、エアロックが付属している円筒が……本体から分裂した!

 

「なんで、どうして!?」

 

 叫びながら僕は身体を強張らせた。渡したカプセルが何か悪さをしたというのか? 僕らの大気、λ元素I番化・元素II番(アンモニア)が彼らの宇宙船に致命的な損傷を与えてしまったのか?

 

 確かに元素VI番(アルミニウム)は両性金属だけど、弱塩基には溶けないはずだぞ。

 

 せっかく会えたエイリアンを殺してしまったのかもしれない。僕は酷く動揺した。パニックと言って良かった。

 

 でもしばらくすると、分離した円筒と本体が滑らかな動きで回転し始めていることに気づいた。明らかに制御された動きだ。円筒は横倒しになり、本体との共通重心を回っている。ケーブルか何かで繋がっているんだ。

 

 あれはきっと遠心重力を発生させる機構だ。

 

 驚かせやがって。僕は無重力下で脱力した。船体が小さいから擬似重力モジュールを中に組み込めなかったんだ。それにしたってエキセントリックな仕組みだな。

 

 快適さのためか、もしくは内部にある何かしらの機材は重力が無いと正常に働かないとか。本体から分離している円筒が居住モジュールかな。エアロックもあそこに付属していたからたぶんそうだ。

 

 あの不思議な形状はこの機構のためだったんだ。僕はエンジニアとして妙な納得感を得ていた。

 

 異星の工学は興味深い。面白いし良くできているシステムだ。設計した存在は正気かどうかはともかく賢いに違いない。

 エイリアンと会ったらぜひこの件について話してみたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 ぐるぐるエイリアンの船はそのままずっと回転し続けていた。送ったカプセルを慎重に調べているのかも。

 

 そりゃそうだ。初めて出会った異星種族からの贈り物だ。時間をかけて研究したいに決まってる。ぜひじっくり調べてほしい。僕は焦らない。

 

 やがてエイリアン船の回転が止まり、元の形態に戻った。位置と姿勢を微調整しているのか”星喰い”の波長が船体各所からチラついた。

 

 再び開いたエアロックからあのカプセルが投げられ、僕の船に向かってきた。やった、返事が来たぞ! 船外ロボットアームを準備しなくちゃ!

 

 

 間もなくしてカプセルが到着した。僕は跳ね回りたくなる衝動を抑えながらロボットアームでキャッチ。エアロックまで輸送してカプセルを中に放り込む。

 

 エアロックには、内部を真空にして入れた物質を調査することができる小さな箱を用意しておいた。真空チャンバーだ。ここにカプセルを入れる。

 

 渡したカプセルは気密構造かつ断熱構造になっている。そしてカプセルはエイリアンの船で開けられた。彼らの大気情報も分かるはずだ。

 

 低圧でも高圧でも、低温でも高温でも、有毒ガスでもこのチャンバーの中なら対応できる。どんな空気の中で生きているんだろう。

 

 チャンバー内部のロボットアームでカプセルに触れる。少し軽い? アーム越しに意識を集中させてみる。

 

 どうやら”星喰い”の弧の模型が無くなっているようだ。なんでだろう。意図が分からなくて返事を保留したってことかな。それとも開封証明? 少なくとも向こうで開けたことは間違いない。

 

 蓋を捻ってカプセルを開けると中から何かのガスが噴き出した。これが彼らの大気だ。あとで分光装置で組成を確かめよう。

 

 引き出された星系図には何かがくっついていた。IℓIλ(225)番星系を示す球体に金属と何かのラベルのようなものが接続されている。

 

 やっぱりだ。彼らはIℓIλ(225)番星系からやってきた異星種族なんだ! 僕の意図も正しく伝わったんだ!

 

 喜んで飛び上がり、今度は分光装置と温度計を起動する。そして出てきた結果に僕は愕然とした。そして叫んだ。

 

「ほとんど元素IV番(酸素)だって!?」

 

 おいおいおいおい死ぬわ僕。びっくりして壁に激突する。元素IV番(酸素)ガスの中で活動する生物? 何の冗談だ。

 

 元素IV番(酸素)は僕らの体内でこそ代謝に必要だが、気体状態だと猛毒だ。もし触れたら放熱器を構成する金属が急速に変性して死に至る。

 そしてもっと重要なのが色んな物質を燃焼させてしまうことだ。僕の大気でさえ!

 

 それから気圧が低い。計算してみると彼らの気圧をざっとVℓℓ(72)倍にしてようやく僕らの大気と同じになる。

 温度もだいぶ低い。元素∀I番(ガリウム)融点(約30℃)より低いじゃないか。

 

 うーむ、会うには手間がかかりそうだぞ。僕はあのエイリアンと対面するにはどうしたら良いのか思考を巡らせた。元素IV番(酸素)ガスと低圧と低温に対処する必要がある。少なくとも会うのは壁越しだ。

 

 とにかくカプセルをまた準備しなくちゃ。今度は「会おうぜ」とメッセージを乗せて。

 

 

 

 

 

 

 λ()投目。僕の船とエイリアン船を繋げた模型を搭載したカプセルを送った後、僕はあのエイリアン宇宙船とのドッキング準備をしていた。

 ちなみにカプセルはエアロックに向けて投げた。僕は親切なんだ。

 

 当然だけど異星の船同士で規格が適合するわけがない。だからその場でドッキングポートを作らねばならない。

 

 元素Iλℓ番(キセノン)構造材で細いトンネルを構築することにした。幸いにもその機材はあった。軌道エレベーターからの物資搬入に使ったトンネル、それを造った際のマシンが船内倉庫に転がっていた。

 

 大きさをエイリアン船のエアロックに合わせて調節する。手持ちの接着剤は元素VI番(アルミニウム)と適合しているから問題ないはずだ。

 

 エイリアン船との位置と相対速度を慎重に合わせる。相手の船はこちらより脆いから気をつけないといけない。

 

 マシンを遠隔で操作してメインの骨組み、肋材、気密壁を順に組み立てていく。

 同時に閉鎖空間用の建築マシンを使って僕と向こうの船の中間に壁を構築する。トンネルと同じく元素Iλℓ番(キセノン)構造材で構築された壁だ。

 

「完成だ!」

 

 出来上がったトンネルに僕の大気を充填する。よし、気密は破れていない。頑強な元素Iλℓ番(キセノン)構造材と言えども、いきなり標準圧力まで加圧するのは事故の元だからゆっくり行こう。

 

 エイリアンの方の大気も充填しなくちゃ。船には実験や合成のためにたくさんの元素や化合物が積載されている。元素IV番(酸素)のタンクもある。

 これをトンネルに内蔵したパイプに接続して……おっと?

 

 向こうの大気を充填する前にエイリアン船のエアロックが開いてしまった。まずいな、まだ気密テストもしていないのに。僕の大気を準備するのに時間をかけ過ぎたんだ。

 

 このまま加圧しても良いけど、仮にどこか穴が空いていたらエイリアンはその穴から吸い出されてしまう。安全のためにこのまま会ってみよう。

 

 標準圧力と標準温度に達したことを確認して僕はエアロックからトンネル内部に躍り出た。うん、問題無い。

 

 

 トンネルから伝わる微細な振動でエイリアン船の様子が何となく分かる。

 

 聞いたことも無い複雑な構造物が折り重なるようにして船体を形作っていた。複合材料なんてものじゃない。もっと無数の部品によって組み上げられている。

 あと、いくつかのモジュールを分割して製造し宇宙で再度合体させたような感じだ。軌道上までの輸送の問題かな?

 

 エアロックの向こうにはあの気密服がV()着あって壁に固定されている。これ以上は分からない。エイリアン側は真空なせいで良く聞こえない。

 

 

 そして当のエイリアンはというと、トンネル内壁にあちこちぶつかりながらこちらへ進んでいた。真空だけど、ぶつかるたびにトンネルが震えるので位置は分かった。

 

 なんというかその……不器用だ。カプセルをキャッチした時もそうだった。どうも無重力状態か、あるいは真空状態での移動が不得意なように思える。

 

 ドタンバタンとのたうち回りながらエイリアンは中間壁にまで到達した。壁の凹凸に脚を引っ掛けて留まっている。

 

 僕も壁に引っ付いてみる。壁を経由してエイリアンの身体が少しは判別できるようになった。

 

 うわぁ、やっぱりこのエイリアンは大きいな。僕の体高より何倍もある。

 真空な上に分厚い気密服越しだからハッキリとは分からないけど、どうもこの服の中にある身体は柔らかそうだ。

 

 短い方の脚には()本の指らしき突起がある。長い方の脚には指が無い。いや、集中してみると気密服の中に短い指のようなものがある。物を掴むには向いてなさそう。たぶん歩くことに特化した脚なんだ。

 

 関節の構造からして、このエイリアンは前と後ろの区別があるみたいだ。

 

「はじめまして!」

 

 そう言ってエイリアンの前で脚を振ってみた。反応が無い。

 

 うーん? どうしたんだろう。真空で聞こえてないのかな。それとも元素Iλℓ番(キセノン)構造材越しには聞こえないのかも。

 

 戸惑っていると、エイリアンはふと何かに気付いたように中間壁のとある部分へ吸い寄せられていった。

 

 僕はこの中間壁について設定する際、エイリアンがどの振動波長で聞いているのか分からないので様々な配合の元素Iλℓ番(キセノン)構造材を使ったのだ。そのせいで凸凹の不格好な壁になってしまった。

 

 どうもエイリアンはあの配合の構造材が好みらしい。丸い部分を押し当てるようにしてこちらをうかがっているようだ。

 

 トン、トン、トン。

 

 エイリアンがその壁をλ()回叩いた。僕も同じ回数叩く。コン、コン、コン。ようやく対面でのコミュニケーションができたことに僕は嬉しくなる。

 

 でも向こうは居心地が悪そうだ。相手は明らかに無重力状態に慣れていない。ずっと壁にしがみついているのは疲れるだろう。

 それに真空だからお互い良く聞こえない。壁を叩き合うだけでは相互理解が進むとも思えない。

 

 うん、やっぱり出直してもらおう。トンネルも改良だ。僕は作業ポーチに入れておいたエイリアンの模型を掲げた。

 分かるかな? 続けてエイリアン船の模型を掲げ、エイリアンに船へ戻るようジェスチャーをする。

 

「キミは船に戻れ」

 

 何度か繰り返してようやく理解してくれたようだ。戸惑ったような音を出しながら、エイリアンはゆっくりと自身のエアロックに戻っていった。

 僕もエアロックに引き返す。予定通り向こうを元素IV番(酸素)ガスで加圧しよう。

 

 あとは重力だな。どうやってトンネル内部に重力を生み出すか。

 僕はエイリアン船が分離して回転するのを思い出した。

 

 よし、あのシステムをマネさせてもらおう。

 

 

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