貞操逆転世界で『くっころの似合う男騎士枠』を狙ってみた。 作:くっ!殺す!!
彼はこの世界では珍しい
しかし、シーフや魔法使い、聖職者などと言った手癖の器用さが肝心だったり、魔力を使用したりする職であれば、男の冒険者も居ないことは無い。体の造りよりも才覚が物を言う役職であれば、多少の例外はあるものだ。
……だが、それが剣士になると一気にその数を落とし、全身に鎧をまとった男騎士などゼロに等しい。
女性と男性では筋力が違う。この世界においてもそれは変わらない。勇ましく戦場へと駆け出す女性の騎士や戦士は珍しくもないが、男が鎧を纏い剣を振るうなど……笑い話か悪い冗談種にしかならなかった。
だが、何事にも例外は有る。
ある日、全身に鎧を纏った男騎士の冒険者がとあるギルドに現れた。初めは誰もが珍しがった、男なのに……と。
あるいは嘲笑した、男のクセに騎士気取り……と。
ギルドの片隅では賭けすら行われていた。いつ挫折して帰るかという、なんとも身も蓋もない賭けが。
日が経つに連れて皆の見る目は変わってきた。その嘲笑していた男騎士が、様々な討伐依頼をこなし始めたからだ。
小鬼から始まり大熊や大狼……様々な魔物を討伐してくるようになったのだ。その勢いたるや鬼神が如く。ありとあらゆる魔獣をその大剣に斬り伏せたと言う。
皆の視線は尊敬へと変わった。ある男たちからは希望や、強い男の象徴のように扱われ……彼のような騎士を目指す者もいた。その多くが挫折したことは語るまでもないが。
だがやがて、その尊敬に畏怖が混じり始めた。
魔獣を只管に討伐し斬り伏せる……返り血を浴びようとも、怪我をしようとも『治るから』と傷を顧みない。
だが、その斬り筋には憎しみのようなものは感じない。ただ目の前に斬るべきものがあるから斬る……それだけだと言わんばかりに。
まるで、目の前に邪魔な荷物があるからどかす——それと同じ感覚でその大剣を振るうのだ。その姿形、戦いざまを見て、人は彼をそう呼ぶようになったのだ。
―――――――――――――――
どうしてこんな事になってしまったんだ(絶望)。
はじめまして、貞操逆転した世界に生まれたので折角なら『誇り高い女騎士』ならぬ『誇り高い男騎士』枠をやろうとした男——名前は『アスフィア・クコロセ』です。もう名字が酷い。本当に酷い。
この世界は所謂貞操逆転したファンタジー世界らしく、女が雄々しく、男が女々しい……そんな世界だ。
はじめにこの世界のことに気がついたときは驚いた、妙に筋肉質な女性が多く、同時に妙に華奢で器用な男が多いのだから。
何の因果かこんな世界に生まれ辿り着いてしまった俺だが——ならばと、俺は一つ思いついたことがある。
折角なら前の世界でよく見たフィクションの定番の一つ……『鎧を纏った無口な女騎士』的な事を出来ないかな、と。
全身に鎧を纏った男と思っていた無口な騎士が実は女だった……というのはありがちな展開ではあれど、俺の大好物な展開だった。
というか俺はそもそも所謂女騎士が大好きだった。別にくっころ自体が好きなわけじゃなく……雄々しく格好いい女性というのが、俺のどストライクなタイプだったのだ。
例えばハ◯レンのアームストロング准将なんてドタイプで……いや、これはさすがに話がズレるか。
ともかく、せっかくならそんな感じのキャラになりきっちまおうって腹積もりだった。寡黙で、凛々しくて、頼もしい——そんな騎士に。
それに、シンプルにこんな異世界転生なんてフィクションに巡り合えたんだ。少しくらい自分の望むものになってやってもいいだろう?
そう思い幼い頃から剣を磨き体を鍛え付けて……今やかつては男には無理とまで言われた『大剣を背負った騎士』という立ち姿が、この世界での一般的な女以上に様になるとまで言われるくらいになった。
だが、その代償も大きく……例えば今みたいに、大熊の魔物を退治したので仕留めてギルドへ持っていこうと背負って歩いているだけで、陰口が聞こえてくる。
「見て……あれが噂の……」
「あの大熊、ギルドが☆6の危険度で手配書出してなかった?」
「流石に
皆からは今や立派に
やりすぎたんだよ、俺は……(戒め)。
寡黙で凛々しい男騎士になるはずが、いつの間にかただただ無口に魔物を狩り続ける恐ろしい何かになっていた。
この貞操逆転異世界で男の俺が魔物などを狩る冒険者として名を挙げて『誇り高い男騎士』ポジションを確立したかった……その為には実績を積むのが一番早いと思って魔物達を只管に狩り続けたのだ。気づけば☆6の手配魔物を単独討伐していた。いつの間に。
幸いこの世界は回復術の研究がそこそこ盛んに行われていて、腕がちぎれるとかでなければ、市販の回復薬で全快することができた。そもそも全身鎧だから衝撃さえ受け止められれば深手は負わない……勿論、相応に訓練をしたからではあるのだが。
それでも傷を気にしない素振りが、周囲からはあの恐ろしい称号に繋がったわけで……俺のプロデュースミス以外の何物でもない。
やがて大熊を背負ったままの俺がたどり着くのはギルドだ。魔物の素材の換金や仕事の斡旋をしてくれる場所で、冒険者たちの拠点とも言える。
熊を背負った俺が室内へ入れば、皆が目を丸くしてこちらを見る……こら
……俺はそっと大熊をいつもの素材提出用のカウンターへと乗せる。するとカウンター奥の可愛らしい少年が、笑顔を張り付かせたまま眉をわなわなと震わせながら呟く。
「アスフィアさん……?こういった魔物丸ごとの換金はこちらのカウンターではご遠慮願いますぅ……!!」
「近場だともう隣町になるからな……面倒だからそっちで斡旋できないか?買取金額は半額でいいから。」
カウンター奥の少年は深々と頭を抱える……彼はこのギルドの受付係、ニル君だ。俺より年若いのにこうしてベテランの受付をこなしている偉い子だ。
普段は朗らかで明るい性格なのだが、今の彼の顔は若干引きつっている。俺のせいだ。申し訳ない。だが反省と後悔はしない。そのまま俺は静かに、真剣に問いかける。
「頼むよ、頼む。」
「……はぁ……仲介料で35%頂きますよ! 誰か!この熊を裏に回して!!」
ニルの指示のもと、力自慢の女性冒険者たちが大熊の魔物を裏へと運ぶ。重量のある獲物を軽々と持ち上げる彼女達はさすがだと思う。
ニルが軽く挨拶を交わすと嬉しそうに彼女達も頭を下げる、俺も礼節として軽く会釈すると、若干顔をこわばらせながら会釈を返してくれた。もはや男とか女とか関係なく、皆がこの対応である。
こんな事になるのなら誇り高い男騎士になるなんて、やめておけばよかったかも知れない……
するとニルが少し顔をほころばせて優しげに言葉を紡ぐ。
「はぁ、でも助かりました。お陰で度々被害にあっていた近くの村の人達の生活も落ち着くと思います。」
あの大熊の魔物は人里に降りてきた個体……人の作物や家畜、果ては人間を襲うような魔物だ。
……前言は撤回だ、おれの評判云々で村一つが救われるのなら、案外悪くもない仕事なのかもしれない。
「それにしてもアスフィアさん、なんでいつも鎧を?」
「……習慣だ。」
言える訳ねぇだろ『ずっと女かと思ったら鎧脱いだら男でした』展開をやろうとしてるなんて。
……いやぁ、俺がこの世界の男にしては筋肉質で、おまけにほとんど鎧を脱がないから最近には『実は女なんじゃないか?』って論争が耳に入ったりはいらなかったり。
やっぱり女騎士的な要素をいれるならそういうのは外せないかなって。さぁて!んじゃ納品も終わった事だし!!
「それじゃあ次の依頼行ってくる。今度はマンティコア狩ってくるから。」
「マンティコア……なぁっ!?また行くんですか!?」
後ろでニルの声が聞こえる。
だって……だって!最近よく荷馬車が襲われて困ってるらしいんだもん!!誇り高き男騎士としては助けなくちゃね!?(使命感)