貞操逆転世界で『くっころの似合う男騎士枠』を狙ってみた。 作:くっ!殺す!!
冒険者と言うのは難儀な職業である。誰しもが一度は焦がれる職でありながら、その危険は計りしれたものではない。
今回のように、なぜか人里に降りた上級の魔物に襲われパーティーが壊滅するなんて話大きな目で見れば珍しくもないからだ。
命を懸けて魔物と対峙し、それでも生き残れる保証はどこにもない。運と実力と、それから少しの狂気があってようやく続けられる職業だと俺は思っている。
あのルナとか言うシーフは、今は冒険者ギルドお抱えの病院で気を休めているが……あの分だと、もう冒険者には戻れないだろう。心の深いところにある何かが、あの一件で折れてしまったように見えた。
冒険者を続けられる奴には二種類居る――――『危険を感じたことのない奴』と『危険を危険と思えない奴』だ。
俺……アスフィア・クコロセの場合には、一体どちらが該当するのであろうか。
あのマンティコアを討伐した後、俺はシーフのルナという少女をギルドに保護してもらってから、いつもの様に報酬を頂いていた。
「はい、ではマンティコア討伐分の報酬です。例の大熊の方は鑑定に時間がかかるのでまた後日になります。」
「頼む。」
ニルから硬貨の詰まった麻袋を受け取り荷物に詰める。重さはそれなりにある、十分な対価だ。だが、コレも装備品の調整や消耗品の買い足しで泡と消えることだろう。金が……金が足りねぇ……!!
「それにしても、あんな人里近いところにマンティコアが現れるなんて……依頼を受けた時は思わず二度見してしまいましたよ。」
ニルが眉をひそめながら呟く。俺も同感だ。
「あぁ、しかも相応に育った個体だったからな。」
若い個体ならまだ分かる。マンティコアが人里に降りるとしたら、それは住処を追われた若い個体が縄張りを求めてさまよってくるケースがほとんどだ。食い物に困り、追い詰められた末の行動というわけだ。
だが、あのマンティコアは違った。十分に育ち、残酷性も十分……とても食い物に困るような個体には見えなかった。あの体格、あの戦い方。奴はむしろ余裕があった。人間を捕食することに、躊躇いさえなかった。
つまりこれは、ちょっとした異変という訳だ。
人間と魔物はもはや切っても切り離せない存在だ。
互いの縄張りを踏み荒らさず、その調和を重要視するのも冒険者ギルドの大きな役割の一つである。
今回のような――――本来現れるはずのない生き物が人里に降りてくる事態は、その調和の乱れの最たる例と言えた。何かがおかしくなっている。どこかで、何かが崩れ始めている。
ニルはカウンターの引き出しから書類を一枚取り出して、目を流すように読みながら静かに呟く。
「冒険者ギルド本部もこの件を重く受け止めて、調査員を派遣したようです。もうじき此処へ到着するかと。」
「調査員……ギルド本部からの冒険者か。」
ギルドには本部直属の冒険者がいる。所謂フリーランスではなく、公務員のような立場の者たちだ。目の前にいるニルも書類上はギルド本部に属する受付係に当たる。
こういったイレギュラーなケースの場合には、信頼できる本部直属の名誉ある冒険者が調査のため派遣される。
基本的にはいい人たちではあるのだが——やはりその名誉ある職務柄、傲慢な態度がひしひしと出てくる奴もいる。どこの世界でも出世した人間というのはそういうものかもしれない。
そんな事を頭の片隅で考えていた矢先、それを証明するような荒々しい音を立ててギルドの扉が開いた。するとほかの冒険者達のざわめく声が、嫌でも耳に飛び込んでくる。
「みてみてよあれ……!!」
「まさか……ギルド直属の!?」
「30のミノタウロスをダンジョンで斬り倒したって……!?」
重々しい鎧の音が室内を踏み鳴らし、俺の背後でぴたりと止まる。続いて、耳に覚えのある豪快な女性の声が俺を呼びかけてきた。
「久しいな!狂戦士よ。」
俺は振り返る前から、もう誰だか分かっていた。よく知った声だったからな………
「はぁ……そういうお前もな、
面倒クセェのが来た……。俺はそう肩を落とす。
金髪の筋骨隆々、大型の鎧を纏った女騎士——その名は『セフィ・ルティア』。冒険者ギルド直属の冒険者にして、対人・対魔物どれをとってもエキスパート。
戦場を駆ける雄々しさと圧倒的な実力は、この世界の女性たちの憧れの的となっている。
ぶっちゃけ絵に描いたようにくっころが似合いそうな女騎士だ。この貞操逆転世界においてもここまでくっころが似合いそうな人間にはなかなか出会えるものじゃない……マジで俺のタイプど真ん中である。それはそれとして、妙にねちっこくて苦手だが。
だがその実力は疑いようがない。剣の技量は俺を遥かに上回るし、昔にパーティーを組んで共に魔物討伐へ出たことがあるが、その腕前は本物だった。
『駆ける鋼鉄』という二つ名も、その圧倒的なパワフルさとあの鈍重そうな鎧を纏いながら戦場を縦横無尽に駆け回る俊敏さから来ている。
さっきの冒険者たちの声に聞こえたミノタウロス三十体斬りも、まぁ本当の話だ。……本当は25体なのをこの女が盛って話しているのだが。うん、30でも25でも大して変わらないから問題はない。多分30でも斬れるし。
だがそういうちょっと話を盛る妙にねちっこいところも含めて、俺はこいつが苦手だ。なんなら俺のことを
そのせいで俺の『くっころの似合う誇り高い男騎士』になる計画が盛大に頓挫したのも、遠因を辿ればこいつである。恨んでも恨み切れない。それと、普通に俺を嫌ってるのか知らんが隙あらば煽る。
「事、今回のマンティコア討伐ご苦労であったな。噂は聞いてるぞ。頭から真っ二つに唐竹割したそうじゃないか。相変わらず趣味の悪い男だ。」
なんで知ってんだこいつ……。まだ俺が戻ってきてそんなに時間は経っていない。情報網が異常すぎる。そしてこうしてナチュラルに煽ってくる……まぁ俺も似たようなもんだ。煽られると反射的に言葉が出る。
「まぁな。お前こそ本部でヌクヌクとした生活してて大丈夫か?まだちゃんと駆けられるか?ただの動けない鉄塊に成り果ててないか?」
次の瞬間、セフィの拳が飛んできた。俺はそれを掌の装甲で受け止める。甲高くも鈍い衝撃音が響き、お互いに力を込めて腕が震える。ギルド内の冒険者たちがさっと距離を取る気配がした。
「……ふんっ、可愛くない男だ。」
「相変わらず傲慢な女だ。」
俺とセフィはお互いに拳を離す……こんな関係も、もう何年続けていることやら。昔からこの関係は変わらない。
「お二人とも〜、これ以上ギルドの中で暴れたら怒りますよ〜!」
ニルの鋭い声が飛んでくると、俺とセフィの声がハモった。
「……ごめんなさい。」
周囲の冒険者たちから、微妙な空気が漂ってくる。全員が全員、同じ顔をしていた。――関わりたくない、という顔だ。
まったくもって正しい判断である。
するとセフィは突然俺の左腕を一瞥して、目を細めて俺に問いかけた。
「それで、その
「……よく気がついたな。」
相変わらず洞察眼も鋭い、流石と言うべきだな。
実はマンティコア戦で奴の潰れた左目の死角からぶん殴ってやった時に、腕を痛めていたらしい。
骨にヒビが入ったのかもしれないが、まぁすぐに回復薬をぶっかけたのでもうほぼ完治している。やはり質のいい回復薬は治りも早くて助かるぜ。
「マンティコアを死角から殴り倒した時にな。」
「驚かんぞ、お前なら不思議はない……昔からそうだ。すぐに無茶をする。いくらお前が人と違って力も代謝もあって傷の治りも早いとは言っても、怪我をしたときくらい出歩かずに休めと言っただろう……お前は、その、男……なんだからな。」
「んっ?……あぁ、そう、だな?」
時折こうした貞操逆転的な言葉が出てくるのだが、いまだに慣れない。昔からこうして男扱いされて、危ないことはやめろと言われ続けてきた。けどまだ男騎士として名を馳せるにはまだまだ実績も足りないからな。
それに何より傷のことなら別に平気だ。
俺は生まれつき代謝が良くて傷がすぐ治る体質だ、それが同じように代謝を倍増させて傷を癒す回復薬と相性が良くてひび割れ骨折くらいなら回復薬かけとけば治るようになった。
よく心配されるが今のところ何の問題もないしヘーキだ。
「心配ないさ。もう直ってる。」
「そういう問題じゃ…………いや、もう、いいが。」
そう言ってセフィや、なんなら後ろのニルまでもがは何処か呆れたような瞳で俺を見て肩を落とすのだった。