貞操逆転世界で『くっころの似合う男騎士枠』を狙ってみた。 作:くっ!殺す!!
「イテテテ……全身痛え。」
「そりゃそうですよ!あんな無茶するから!!」
あのワイバーンを倒した後、俺は近くの木陰に腰を下ろして休むことにした。流石に☆8クラスの危険度モンスターとやり合うのは骨が折れる(物理的に)
いや笑い事じゃないな、肋骨の一本か二本はいってるかもしれねぇ。まぁ回復薬あるから平気平気!!やっぱ回復薬は万能だね!!
回復薬を鎧の隙間からぶっかけながら息を整えていると、レミが血相を変えてこちらへ駆け寄ってきた。手帳を抱えたまま、目に見えて慌てている。
「ど、どこか骨折れてませんか!?鎧の中、確認させてください!」
「平気だ、折れてるけど回復薬かけてある。」
「そういう問題じゃないんですよ!!」
レミの声がひっくり返る。さっきまであんなに縮こまっていたのに、こういう時は声が大きくなるらしい。怖かったんだろうなぁ……まぁ、当然か。あんな化け物が目の前に現れたんだ、俺だって初見は面食らった。
「あの大剣投げは何ですか!武器なくなったらどうするつもりだったんですか!」
まぁ、気持ちは分かる。傍から見たらだいぶ無茶苦茶な戦い方だったとは思う。ブレスを大剣で受けて、大剣を投げて……でもあれが一番手っ取り早かったしな。それに結果的にちゃんと当たったわけだし。
「剣はちゃんと回収したしな。」
「そういう話をしてるんじゃありません!!」
俺は何も言い返せずに、素直に回復薬の瓶をまた傾けた。そう言えば回復薬って本来は傷口に塗り込んだり、風邪の時に水と混ぜて飲むものらしいな、俺は面倒くさいし治るから適当に鎧の隙間から身体にぶっかけてるけど。
それにしても、あのワイバーン……一発一発が重いくせに身軽で、なかなか攻撃が当たらなかったなぁ。上空に逃げられた時はさすがに厄介だと思ったが……まぁ、どうにかなったから良かった。
もっとも隙を見いだせたのは、レミのおかげだ。ブレス直後の硬直。あの情報がなければあのまま消耗戦になっていただろう……俺の体がもったかどうかは正直分からない。
「それよりも!…………さっきは助かった、レミ。」
「…………それは、その……どういたしまして、ですけど。」
荷物の整理をしながら顔を赤くしてうつむくレミ。全くなんて顔をしているのやら。するとしばらく間を置いて、彼女は申し訳なさそうに呟いた。
「でも、ごめんなさい……私、女なのに守ってもらってばっかで……私、よく言われるんです。女のくせに勇気も力もない根性なしって……」
「またその話か……」
この話をされるたびになんかムズムズするんだよな。
根本的な価値観の違いってのもそうだけど、この世界やっぱり男女間の固定観念が強いからかな。
俺も騎士として冒険者を始めた頃はえらい色々言われたし……まぁ、そんな事を今更気にしていても仕方ない。
「気にするな。そもそも俺の役割は護衛だ、その役目を果たしたに過ぎねぇ。それにお前のおかげで助かったのはこっちも同じだろうが。」
「で、でも……」
「それよりも、あのワイバーンについて何か分からないか。」
話を切り替えると、レミはしばらくもごもごしていたが……やがて手帳を開いて、研究者の顔に戻った。
「あ……はい。あのワイバーンの個体群……というよりも、全ワイバーンに共通しますが、ここは彼らが住まうには標高が少し低いです。」
まぁ思い返せば、あいつら明らかに動きづらそうにしてたもんな。翼の動かし方がどこかぎこちなかった。そもそもこんな木々の密集した森の中に、あんな巨体のワイバーンが生息していたとは考えにくい。
ならやはり、他所からやってきたと考えるのが自然だ。人里に降りてきたマンティコアと同じように。
「ワイバーンの生息域は通常、標高の高い山岳地帯や崖沿いの地形です。魔素の濃い森に生息することはありますが……それでも、もっと開けた場所を好む。こんな木々の密集した森の中に単独でいるのは、やはりおかしいです。」
レミは手帳にペンを走らせながら続ける。さっきまでの申し訳なさそうな顔はどこへやら、専門の話になるとやっぱり別人みたいになるなこの子は。
「つまりあいつも、追われてここまで来た、と。」
「可能性が高いです。マンティコアもハイガーゴイルもワイバーンも……みんな同じ方向から追い出されてきているとしたら。」
レミが地図を広げて、今俺たちがいる位置と魔物たちが飛んできた方角、そして例のマンティコアが出現した方向に印をつけていく。細い指がたどる線が、やがて一点に収束していく。
この森を抜けた先の、さらに奥。
竜が休み場を作っていると伝承されている場所―――――その場所の名はそのままに『竜の止まり木』。
木とは言っても、そこは森ではない。山岳地帯に広がる洞穴の連なりで、そこの魔素濃度はかなり高く、80度を超えると言われている。それに、ワイバーンの生息域とも合致する。
通常、魔素の濃い森でも70度が限度な事を考えると……あの場所に何かある可能性は高い。
「……そういうことか。」
「はい。全部の線が、竜の止まり木に向かっています。」
俺は腕を組んで地図を眺める。
そもそも竜とは何か……この世界においては伝説上の生物だが、十年に一度、翼をはためかせて飛翔する姿を目撃されている。
だが、誰もその全貌を見たことがない。姿を間近で見たものは、竜の種類とは関係なしに皆この世から消え去るからだ。奴らの獲物として。
俺も流石に竜とやり合ったことはない。自慢話をすると竜に最も近いワイバーン種の最上位……アークワイバーンとは一戦交えたことがあるが、あの時はあえなく敗走している。
お陰でその時パーティを組んでた奴らが一人は死んで一人は冒険者を引退……その時一緒にいたのがセフィでもある。あれと比べ物にならない何かが、あの場所にいる可能性がある。そう考えると、さすがに生唾を飲んでしまう。
レミが不安そうにこちらを見ていた。きっと、俺がこのままそこへ突っ込もうとしているんじゃないかと思っているのだろう。正直、その心配は分からなくもない。俺の戦い方を見ていたら、そう思うのも無理はないか。
「あ、あの……アスフィアさん?」
「安心しろ、さすがにこの先には行かねぇ。」
レミの肩が、ほっと下がった。俺だって闇雲に突っ込むことの無謀さくらい知ってる……普段はあれだよ。俺の緻密な計算のもとに生まれた必然的な特攻だから。
「ワイバーンがいたという情報を持ち帰らなきゃいけねぇからな。そっから先はギルドの仕事だ。」
面倒ごとは全部公的機関に丸投げとも言う……我ながら実に合理的な判断だ。惚れ惚れしちゃうね。などと思っていたら、レミが苦笑いをしていた。
「……今、面倒だから丸投げしようって思いましたよね。」
「だって面倒くせぇもん。俺ソロで気ままに冒険者してたいしな。」
「正直ですね。」
褒め言葉として受け取っておく。
俺は立ち上がって大剣を担ぎ直した。体のあちこちがまだ軋んでいるが、回復薬が効いてきているのか動くには問題ない。レミも手帳を閉じて、荷物をまとめ始めた。
「戻るか。」
「はい……あ、でも少しだけ待ってください。」
レミが立ち止まって、もう一度手帳を開く。崩れたワイバーンの方へ数歩近づいて、その体表の鱗をじっと観察し始めた。
「……何してんだ。」
「観察記録です。せっかくここまで来たんですから。」
倒れたワイバーンの前でさらさらとペンを走らせるレミ。さっきまであれほど怖がっていたのに、今は全然平気そうな顔をしている。研究者というのはこういうものなのか。
それとも亡骸だから平気なのか……すると何かに気づいたのか、レミが目を見開いて呟く。
「……鱗の変色、見てください。ここ。」
レミが鱗の一部を指さす。俺は屈んで覗き込んだ。言われてみれば、確かに一部の鱗が他と色が違う。黒ずんでいて、質感も荒れている。
「魔素の体表による過剰摂取が続くと、こういう変色が起きる場合があるんです。つまりこのワイバーンは……かなり長い期間、濃い魔素に晒され続けていた。」
「竜の止まり木の周辺で、ずっと、か?」
「……はい。そして、それに耐えられなくなって逃げ出してきた。」
俺たち人間は衣服という自分の身体とは全く違う材質のものを身に纏うおかげでほかの何も着ない野生の魔物と同程度には魔素に耐えることができる。
きっとそれは鱗や毛皮で身を守る魔物も同じなのだろう。魔素とは高純度なエネルギー源であると同時に、魔素の濃い森にいるということは永遠に風船に水を入れ続ける行為と同じ……いつかは破裂してしまう可能性があるのだ。
その寸前までこのワイバーンは行って……命の危機を感じてここまでやってきたのだろう。それが連鎖してマンティコアも来たくもない人里に降りた……まったく、質の悪い連鎖だ。
俺たちはしばらく、そのまま黙っていた。
風が吹いて、木の葉が揺れる。森は静かだった——静かすぎた。本来なら虫の声や鳥の声がするはずの場所が、しんと黙り込んでいる。
ここに生きている連中は、先ほどの騒ぎを嗅ぎつけてかもう逃げた後なのだろう。ここから去るまでの間は比較的安全そうだ。
「……早めに戻るぞ。」
「はい。」
俺は先に歩き出す。レミが後に続く。来た道を戻りながら、俺は一度だけ振り返って森の奥を見た。
改めて覗き込むと木々の向こうは暗く静かで、何も見えない。
だがあの先に何かがある。
何か、俺にははかれない何かが起きているそれだけは、確かだった。