「う"っ、寒すぎだろぅ…」
真冬の朝、布団から起き上がった青年は刺すような寒さにちぢみあがり即座に布団の中に潜り込んだ。
「でも、そろそろ起きねぇとなぁ」
朝に牛乳配達のバイトしている彼としては、ゴロゴロ出来る時間というのはない。しかし、それでも寒いものは寒いのだ。布団からはなかなか出られない。
「頑張れ、頑張るんだ!俺!」
彼は布団から飛び出すと、一目散にロッカーに向かった。
「行ってきまっすー‼︎」
孤児院のドアを閉めた後、ドアのすぐ近くに置いてある自転車に飛び乗るとそのまますごい速さで漕いでゆき、やがて見えなくなった。
「ねぇ、総司お兄ちゃんは今日も配達?」
「そうだよ、照美。」
青年が出て行った後に孤児院の院長と思わしき壮年の男性と、寝ぼけ眼をこすりながら少女が話していた。
「私、総司お兄ちゃんと一緒に朝ごはん食べたいよ!なんで総司お兄ちゃんは分かってくれないの⁉︎」
「照美、何回も言っただろう?総司くんはね、この孤児院に出来るだけ負担をかけないようにって働きに行ってくれてるんだよ。頑張っている彼の足を引っ張っちゃだめだろう」
「それでも、嫌なものは嫌だもん!」
その時、孤児達が就寝している部屋が開き欠伸を浮かべながら少年が出てきた。
「照美、また院長に文句つけてんのか?」
「うるさいッ、春雄は黙ってて‼︎」
「まあ、まあ落ち着きなさい照美。これは仕様がないことなんだよ。総司くんと会いたいのはわかるけど、そこまでにしときなさい。」
「べ、べつに会いたくなんてないもん!」
と、そのまま逃げるように二階へ上がった。
「なんだよ、あいつ。」
「…クソガキ、皆そんなこと分かってるんだよ」
「こら!春雄!クソガキとはなんだ!」
「…ごめんなさい」
彼もまた、少女の後を追うように二階に上がった。
「…寂しいてのは分かるけどね。」
孤児院というほとんど全員が少なからず心の傷を負っている中で、総司は孤児院での最年長として立派に責務を果たしていた。全員と真摯に向き合い、心の傷を癒やしてきた。そのせいか孤児院では全員の父である院長よりも信頼されているありさまである。
「これはやっぱり彼の人徳だろうね…責任感だけでは出来ないよ、こんなこと」
彼は人格的にだけでなく、全てにおいて突出した才能を発揮した。身体能力、勉学、知能、容姿、そして人格。全てが神に愛されている他ないと言わざるを得ない程だった。
「なぜ、こんな良い子に育ったんだろうね…」
身体能力などは、元が良かったなどと説明出来るのだが人格はどうしても説明がつかなかった。院長がこれまで数多く育ててきた子供の中でも、彼は非常に優れた人格を持っていた。
「ほんと…何でだろう」
「まさか、僕の育児能力が高まったのか⁉︎」
盛大な勘違いである。
朝の配達が終わった総司は、カバンに入れておいた制服に着替え直接学校に向かった。
「うわっ、ギリギリセーフじゃねぇか、やべぇやべぇ」
誕生日に孤児院の子供たちからもらった安物の腕時計を見ると、8:28であった。朝礼が8:30から始まることと総司の教室が3階にあることを考えれば、十分に遅刻といえる時間であり全くもってセーフとは言えなかったが普段から遅刻しまくっている彼としては遅刻とは考えなかったのだ。
本来学校というものは、遅刻を多数すれば良い成績はもらえず下手をすれば卒業出来ないという事態に陥る可能性があった。
しかし、学校側も彼が孤児院出身でバイトをしなければならないのを了承していたため見逃されていたのだ。
それでもやはり善良な彼としては罪悪感があったのだった。
「…仕方ないか、ここは学校の好意に甘えよう」
階段を上った総司は、教室のドアを開けた。
「おっ、やっと来たか沖田。」
「遅すぎー沖田くぅーん」
「沖田くんだー!」
と既に朝礼で席についていた同級生が声をかける。
「うぃーっす!今日は速ぇだろ⁉︎」
「いや、遅いだろ。遅刻してるし」
「もうっ沖田くんったら!」
沖田総司は人気者で、彼の周りには人が寄ってくる。その理由は、顔が整っているからとか勉強が出来るからなど様々な理由が人々に話されているが、1番の理由は彼の人格だった。言動はぶっきらぼうだけど、優しいし此方のことを考えてくれる。それがこの教室内での彼の評価だった。