夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第0訓 大人になってもダチとは定期的に会え。一年に一度でいいから。

『拝啓 星海坊主様 お元気ですか?

先に謝っておきます。犯罪シンジケートには近寄るなと言われていたのに、入団しちゃいました(笑)。浮気調査中に、昔師匠とやりあったとかいう夜王、神威とかいうやたら強いガキ、苦労性っぽいオッサンに包囲されて、入団OR死を迫られちゃいました(笑)。惑星深閃のことは話しましたよね。俺はまだあれが片付くまで、仕事でうっかり死ぬならまだしも、自殺行為して死にたくはないので、勘弁してください。

なので、しばらく気軽に会えなさそうで寂しいです。

P.S 知り合いの宇宙貿易の社長さんからいい増毛剤をもらったので、10本同封します。毎朝つければ一ヵ月くらいで効果が感じられるそうです。でも、俺は頭が儚げな師匠もいいと思います。男は女に見せられる弱みがあるとモテるって、前いた星で付き合っていたお姉さんが言ってたので、「毛根は最弱」って弱みを生かすのもいいんじゃないかなって思いました。「宇宙最強なのに毛根は宇宙最弱」っておいしくないですか?もちろん師匠が奥さん一筋なのは知っていますけど、モテる分には悪い気しないじゃないですか(笑)。でも前の前の星で付き合っていたお姉さん曰く、薄毛の男はまぁいいけどバーコードはダメ、なんか過去の栄光にこだわって必死すぎて気持ち悪いって言ってたので、思い切って全部燃やし尽くしてしまうのも一案だと思いました。あと前の前の前の星で付き合っていたお姉さんが、スキンヘッドの男は興奮する、ハゲるってのは性欲が強いってことじゃないって言ってました。頑張ってください。

貴方のかわいい一番弟子より愛をこめて』

 

「もう髪の話の方がなげーじゃねーかあのクソ弟子!!あとインスタントな恋愛ばっかしやがってロクな大人にならねーぞマセガキがァァ!!」と増毛剤をスパーキンしたものの、せっかく弟子からもらったし、薬に罪はないしと増毛剤を使う生ける伝説がいたとか、いないとか。

 

 

 

 

春雨第七師団戦艦。えいりあんはんたーとして商船の用心棒を請け負うこともあった少年であるが、ここまで大規模な宇宙船に乗り込んだことはなく、実は楽しんでいた。

戦艦内に番傘修理職人、夜兎に詳しい医者、義手義足義肢が常駐し、二十四時間使用できる食堂、綺麗ではないものの大浴場と寝床があり、さらに幹部は個室あり。操舵室に会議室、談話室もある至れり尽くせりぶりだった。海賊の宇宙戦艦であるがゆえに凝った内装どことか配管むき出しの機械丸出しの作りであるが、ここに来るまでたいていの夜兎はもっと劣悪な環境で生きていることもままあり、十二分と評されることが多い。

 

少年が春雨に勧誘され、第七師団の戦艦に乗り込んで五日が経過していた。初日に艦内を案内されて以来、仕事らしい仕事もなく、赤毛赤目の少年は食堂の端で山盛りのサンドイッチをむさぼりつつ、今日投函した手紙の事を考えていた。

 

(ここから出した手紙ってちゃんと届くのか?)

 

少年は師匠である星海坊主にはたまに手紙を出しているのだが、この春雨第七師団から外部へと出した場合、きちんと届くのかよくわからない。星海坊主はしょっちゅう移動していて、しかも筆まめタイプではないから、返事が来るかもわからない。首を捻っていたところに、背後から声がかけられた。

 

「おい新入り、仕事だ。初めての戦場だろ、お前さん」

 

声をかけてきたのは無精ひげが目立ち、ふわっとした栗色の髪を肩下まで伸ばしたままにした大柄な夜兎だった。少年が「仕事。仕事、何だっけ?」なきょとんとした顔をしているのを見て、その男は呆れたようにため息をついた。「オイオイ忘れちまったのか?お前さんの初陣が今日だって。『朔月』さんよ」

少年は余ったサンドイッチを勢いよく詰め込むと、黒い傘を手に立ち上がった。

 

「よくわかんねーけど今から戦いに行くんだろ?大丈夫。あと俺の名前は神食(じんく)だ!」

「わかったわかった。その元気があるなら文句はねぇよ、ついてきな」

「はいはい阿伏兎さん」

 

何しろ入団経緯はほぼ脅迫だ。存外素直についてきて、名前も過たず覚えていたことに阿伏兎は少し驚いた。「おや、俺の名前覚えていたんだなァ」

「神威とかいうガキがそう呼んでたろ」

 

ガキってお前さんも大して年も背も変わらんだろ、と阿伏兎は思うが、念のため釘を刺しておく。

「あんなんでもウチの団長だ。わきまえないとほかの団員からも目つけられるぞ」

 

そう、弱冠14歳で団長はちょっとふざけてるのかと思われるが、第七師団は大まじめだ。彼は10歳になる前から春雨に所属し、鳳仙の弟子として薫陶を受けてきた本物の強者である。その年にかかわらず師団内では年かさの夜兎からも相応に扱われている。それをないがしろにしたらこの新入りが今後やりにくくなるだろうという配慮である。少年――神食は神妙に頷いた。

 

「じゃあ俺に因縁つけてきた奴はぶん殴ればいいんだな、わかった」

「納得するのはそっちィィ!?」

「ていうか阿伏兎さんはなんで俺についてんの?」

「新入りの初陣は戦力にカウントしないルールでね。小競り合い程度の戦いはこなしたことがあっても大規模戦闘が初めてだと、テンパる奴もいるんでな」

 

これでも絶滅しそうな種族で人手不足なんだ、と阿伏兎は付け加えた。つまり阿伏兎の役目は、この新人のお守りである。とはいえ、今回の任務には団長も出るので、別途そちらのお守りというか後始末も発生しそうなので気が重い。戦闘以外の部分で気が重い、哀れな中間管理職。

ただ、このガキは戦場でテンパるタマではない。阿伏兎はすでに脅迫じみた勧誘の時に、神威と殴り合う神食の姿を見ている。俺に因縁つけてきた奴を殴る、も、威勢のいい新人だと一笑に伏せないのはそれが理由でもある。

 

すでに団員たちが着陸ハッチの前に集まって群れていた。新入りを連れた阿伏兎に、団員からまた子守りか副団長殿、と親しみ交じりのからかいが投げられる。神食は本人曰く16歳だそうだが、背も神威とそう変わらないためもう少し幼く見える。新入り、頑張れよと神食に対しても声がかけられる。「おう!」と愛想はいいが態度は謎にデカい。入団の経緯を詳しく知るのは鳳仙、阿伏兎、神威と朽名のみで、ほかの団員からは普通の新入りだと思われている。

 

第七師団の任務の規模も大小ある。小規模であれば2人~数人で小型宇宙船に乗り込んで現地へ向かうし、大規模であればこの宇宙戦艦そのものを星に乗り付ける。今回は後者で、団員の半数を割いて当該星の春雨に従わない対抗勢力をせん滅するという実に分かりやすい任務である。前々から交渉を重ねて決裂した経緯があるので、向こう側もこちらが兵力を送り込んでくることを予期しているだろう。

 

(今回は団長もいるし、戦果は上がるだろうが……)

 

阿伏兎としてむしろ、団長神威が余計な破壊をしつくさないかの方が心配だった。と、その時館内放送にて、後数分で目的の星に着陸するとの連絡が入った。

到着予定時刻は現地時刻で黄昏時――夜が来る。(夜兎)が来る。

 

 

 

殲滅の任務は、想定より早くに終わってしまった。すでに手筈が整っていたこの星のターミナルに戦艦を着陸させ、月明かりの元市街地にて戦闘行動を開始した。

一般市民はとうに逃げ出しており、残っていた敵戦闘員を殲滅・掃討することが目標であった。当該地区はいわゆるビジネス街であったが、すでに団員達の戦闘の結果、建物などビルを多数倒壊させて見る影もない有様となり、そこいらには倒れた戦闘員の死体が転がっていた。夜兎以外の戦闘種族の姿もいくばくか見られたが、精鋭ではなかったようで何ら支障なく葬られた。独特の臭気と湿気が立ち込める中、阿伏兎は周囲を回り始末し損ねた敵がいないことを確認していた。

 

それも済み、撤収して帰りましょうかとしたいところだったが、そうは許してくれないのが団長様である。予想より手ごたえのない敵に「え、こんなに弱っちいの?」と完全にご不満の様子だった。

いや、そうであってもそれだけなら、丸く収まっていたのだろうが――。

 

一方、阿伏兎と行動していた神食は、体に傷一つどころか返り血もないまま、己の黒い傘についた血を払って畳んでいた。戦いの直後だというのに、きょろきょろのんきに周りを見渡して戦艦内と全く変わらぬ様子である。

阿伏兎は、やはりこちらはこちらでただ者ではないと思い返す。今回は俺の後をついてこい、と言い彼はそれに従っていたが、簡単に向かい来る敵をひねりつぶしていて、恐怖もなく単にあんまり楽しくないなと顔に書いていた。

 

「阿伏兎さん、もう終わり?」

「あァ。予想より敵さんが少なかったみてぇだな」

「へぇ~。つまんな……ゲッ」

 

神食は、阿伏兎の視線の先を見てイヤな顔をした。満月の夜、倒壊したビル――かつては屋上であっただろう部分の瓦礫に立つ神威。こちらとは反対を向いている。

月下、神食が春雨に勧誘されたとき、神威から殴り掛かってきたことを思い出していたのだろう。そして阿伏兎、もしくは神食の視線に応じてか、同じく傷一つない団長、神威の視 線  が  。

 

 

「……ッ!」

 

視線の動きと、その体の跳躍のどちらが早いかは不明。神食は反射的に傘を持ち上げて拳を受け止めていた。足を開き腰を落とし、まだ成長途中とは思えない矮躯から繰り出される像のような重さの一撃を耐えしのぐ。激しい拳の主は、顔をあげて笑っていた。

 

「お前、今日初任務だったんだね。お互いつまらないと思っていたところだろ?」

「つまんないとは思っていたけどな、お前に殴り掛かってほしいと思ってねぇんだわ」

 

傘を振り上げ、神威の拳を払いのける。互いに距離をとり、月光の下に対峙する。「遠慮するなよ」

 

言葉とほぼ同時に神威が迫り、傘が振り下ろされる。神食の傘と神威の傘がほぼ同時にかみ合い、激しい衝突音を上げる。上、下、斜め右、斜め下、瓦礫と倒壊したビルの上を跳ねながら高速で刀でいう鍔競り合いが続く。高く何度も響き渡る金属音に、まだ残存敵兵がいたのかと思ったほかの団員たちが徐々に集まってくる。

 

神威が傘内臓の銃口を向けて連射するも、神食を怯ませる効果すらない。神食は弾が放たれる前にすでに軌道が既に見えているのかごとく紙一重で回避して跳ね、接近し――傘そのものを力いっぱい、神威めがけて投擲した。

投げ槍のように飛来するそれを、神威が傘で叩き落した瞬間に神食は神威の背後に回り込んでおり――そのまま背後から脇腹めがけて蹴りを叩き込む。避ける隙もなく、神威は真横に吹き飛んで瓦礫の上を転がった。神食がやったか、と思ったもつかの間、土煙を上げて目をかっぴらいた神威が猛然と走ってくる。思った以上の復帰の速さ、神食はそのまま――神威の右ストレート、神食の右ストレートが交錯し互いの顔を激しく打った。

 

刹那の間、双方とも、これまでの丁々発止の攻防を思い返す。

 

――多分、力は互角。

――でも神食(こいつ)、攻撃を察知するのが異常に早い。不意を突くのが難しいネ。

――でも神威(こいつ)、やたら打たれ強い。痛覚ねーのか。

 

 

「アレ、団長と新入りじゃね?」

 

集まってきたほかの団員たちが、ざわざわと二人を遠巻きにしながら騒いでいる。団長が任務の後にまだ暴れているのはたまにみるが、ヒラ団員が団長と同等以上の戦いを繰り広げているのを見たことはない。阿伏兎はすっかり頭を抱えていたが、もうこれは誰にも止められない。なぜなら止められる者がもうここにはいない。止めようと間に入ったらよくて腕や足が一本、悪くて命がないことを察した。

 

「テメェボケコラクソが死ねぇ―――ッ!!」

「ハハハ、初めて会ったときから思ってたけど――予想以上だ、いいねお前!」

 

お互いに疾うに傘を投げ捨て、スデゴロの喧嘩に入っている。神威が神食の腕を捕らえ、もう片方の腕で殴り折ろうとすると、神食は折ろうとする拳と、自ら同じ方向に力いっぱい飛んで折られることを防ぎつつ、手を振り払った。振り払い勢いのまま回転しつつ拾い上げたガラス片を神威の顔めがけ、アンダースローで投擲する。ただし神威の髪の毛を切り裂きつつ不発に終わる。神威は躊躇わず距離を詰め、投擲で体勢の傾いた状態の神食に容赦なく右フックを撃ちこもうとするも、正確にとらえられ彼の左手で防がれた。右フックを押し返しつつ神食は距離を取り、たまたまそばに戻ってきていた自分の傘を拾い上げた。

 

月下、血風、轟音。神威が喧嘩を売った形ではあるが、神食は自分で気づいているだろうか。二人とも、同じように笑っていることに。

 

 

「おいおい、おもしろいことになってんな、賭けようぜ。新入りが生き残るかどうか」

 

ほかの団員達も三々五々コンクリートや倒壊したビルの瓦礫に腰かけて、どこから持ってきたのか窃盗したのか、酒まで片手にやんややんや観戦に興じはじめていた。

 

「おーい団長ォォ!いい加減にしろォ!そいつ死んだら厄介だろうがァ!!」

 

阿伏兎はほか団員と同じように彼らを遠巻きにしつつ声をあげたが、当然団長様が聞いてくれるはずもない。神食は鳳仙や朽名も巻き込んで勧誘した夜兎ゆえに、仲間内で死ぬと厄介――案外、あの鳳仙であれば弱い方が悪いとかで見逃されそうな気もするが、それでもどう出るかわからない。

 

残念ながら神威も神食も全く聞く耳を持っていない。夜兎はシンプルに強い夜兎が好きだ。仮借なく団長とやりあう新入りを応援する者も出てきて、任務以上の盛り上がりを見せる。これだけの大太刀回りをすれば、先ほど阿伏兎がしていた「ほかの団員からも目を付けられる」懸念は、ある意味なくなったといっていい。別の意味で、つけられることは大いにあるとしても。

 

 

 

結局、空が白み始めるまで二人は殴り合い続けた。頭から血を流し、傘の骨も自分の骨も折れていても、双方致命傷にまでいたることはなかった。が、ゆえに、二人して日光に焼かれてダウンするという幕引きになった。二人とも任務で負った傷よりも、その後殴り合ってできた傷の方がはるかに多い。ほかの団員の手も借りつつ戦艦に戻るという、どうしようもない終わりだった。

それでも神食は「クソが」「バ神威」「早く死ね」と小学生レベルの罵詈雑言を投げ続けて神威のみつあみを引き千切ろうとしていたし、神威は神威で「俺はまだやれるよ」「四肢全部折ろうか」と神食のアホ毛をむしりとろうとしていた。

 

 

――これが、仁義なき殺し合い(バカ騒ぎ)の始まり。

四年も続けるハメになるとは神食も神威も思っていなかったし、逆に四年で終わるとも考えていなかった。

 

どちらかの死という明確な断絶以外では――ただ、なんとなくずっと続くような気がしていたから。

 

 

 

 

 

 

太陽系第三惑星地球。宇宙の辺境に位置しながらも今日、宇宙中の注目を集める星である。その青く輝く美しい環境もさりながら、星深くに息づく膨大な龍脈(アルタナ)によって、各星々から熱い視線を送られており――同時にその資源を狙われている星だった。

特に日本という国のかぶき町にはひときわ大きな龍穴が存在するため、ターミナルと呼ばれる宇宙船離着陸のための高層建築物が、青い天を衝いている一躍有名な町になっている。

 

そのかぶき町のはるか上空――大気圏外の暗い宇宙に、巨大な宇宙戦艦が航行していた。その戦艦の片隅――薄暗い非常用小型宇宙船ハッチにて、一人の青年が特殊ガラス窓前に胡坐で座り込んでいた。どうやら少し眠っていたらしく、目をこすって顔を上げ、立ち上がった。窓の向こうには、青く輝く美しい星――地球の姿があった。

 

「入団したての時の夢とかなぁ……」

 

あれからもう四年が経過した。青年はなんとなく、この四年間を思い返す。朝から神威が殴りかかってきた。任務がつまらなかったから背中から襲われた。朝まで耐久の殴りあいをした。エトセトラエトセトラ。

「俺は過去を振り返らない男、忘れよう」

青年があまりの虚無さ加減にブリッジして悶絶していると、一人の老人が姿を現した。

 

「殿下」

 

殿下と呼ばれたのは、十代後半~二十代前半の色白の青年。臙脂に近い深い赤毛に、同色の瞳。アホ毛が一本ひょろんと立っている。襟つき深い青地の中華服を身にまとい、ズボンの余りを膝下ブーツに詰め込んでいる。

声をかけたのは、目じりに深くしわが刻まれ、片眼鏡をかけ、傘を杖替わりにした白髪交じりで色白の老爺。白地の長袍に白いカンフーパンツ――隠すつもりはないのか、右足が義足であることが一見してわかる。老爺は窓の外を見て言った。

 

「前、殿下が地球に来られたのは、鳳仙様にご挨拶に参られた時でしたな」

「あ~~あんときバタバタして観光どころじゃなかったんだよな。今回は楽しませてもらうぜ」

 

気心知れた仲なのか、青年と老爺は楽しそうに笑った。だが、ふと老爺の顔に影が差した。「殿下のなさることに私が文句をつけることはありません。ですが……」

老爺はどこか寂しそうに、「第七師団に何かご不満がありましたか?」

 

思いもしなかった問いだったのか、青年はきょとんとした顔で答えた。

 

「え?何で?ない……いやあるか、バ神威のランダム発生飛び蹴りモーニングコールで俺の部屋のプライバシーがゼロだとか、阿伏兎の加齢臭が気になってきたとか、アホのバ神威が死なないってわかってて俺に毒盛って喜んでいるとことか、云業実はあの見た目で萌えキャラ狙っている疑惑で先行き不安とか、負傷して動けない団員は団員で鍛えなおすなりヤクの実験台にするなり使いでがあるから、もっと積極的に作戦後捜索して戦艦に収容するべき、SDGSを心掛けろっつってんのにカスのバ神威が「弱いのが悪い」の脳みそ夜兎(ケモノ)ですか??なこと言ってんのがウザイとか」

 

「半分団長ですね」

 

青年はへらりと軽く笑ったかと思うと、珍しく困ったように口元に手を当て、首を傾げた。

ふと睫毛の影が目に落ちて、光を失う。「朽名爺」

 

朽名と呼ばれた老爺は、青年を見上げた。朽名は当然察してはいた。青年の口から憎まれ口は山盛りにでてくるとも、そこには同量の――があることを。

 

「第七師団がどうとかじゃない。ただ、春雨にいたまんまだと気になることが手つかずになっちまう。……つーか入団だってもう脅迫だったじゃねーか。本来は根なし草だぞ、俺」

 

青年はヘラッと笑った。本来、彼は自らをごまかすことをよしとしない。朽名から見れば、団長の神威よりもよっぽど素直だと感じられる。だがこの場においては、今の言葉がすべてではないと察していた。朽名は呻きながら、絞り出すように口を開いた。

 

「殿下のご意思なら仕方ありませんが……老い先短いこの爺の推し活を、もう少し続けさせてはくれませぬかッ!!」

 

朽名はいつの間にか頭にハチマキを巻き、両耳の上に七色に輝くペンライトを縛り付け、さらには黒字にラメで『神食♡月砕いて♡』と『団長♡星落として♡』とド派手に描かれた2本のウチワを両手にし、さらに背中に兎のマークがついた法被まで着込んで号泣していた。

「この老兵、夜王鳳仙様にお仕えして幾星霜……。王が吉原にご隠居なされ私の運命もここが終着点かと思われたときに、鳳仙様のお弟子たる団長神威殿と、星海坊主のお弟子である参謀長神食(じんく)殿下が第七師団にあらせられることになるなんて……第七師団ひいては春雨の未来は順風満帆向かうところ敵なしの明るさでございましたのに!」

 

宇宙最大の犯罪シンジケートの未来が明るいということは宇宙的にはお先真っ暗だと思われるが、ここでそういったツッコミをしてくれる人員はおらず、ただただ流されるのであった。

 

「まぁまぁ、年食うと何かに夢中になるの難しくなるっていうけどよ、爺やはその年でゲキアツなんだからこれからもハマるもん見つかるって。あと神威はいるじゃん」

「イヤ~~~~~ッ!!! 爺やは箱推しなのッ! セットで推したいの~~~ッ!できれば「やれやれだ」な顔して満更でもない副団長殿も含めて推したいィィィ!フィギュアがあったらセットで並べて撮影するの~~~ッ!!」

 

謎の金切り声をあげて床に寝転がりジタバタする老夜兎を見ても、青年――神食はいつものことのようにヘラッと笑った。深刻なツッコミ不足である。

 

「時々爺の言ってることよくわっかんねぇんだよな~」

「ううっ、爺めだけでなく団長殿も寂しがりますよ」

「そりゃ反撃してくるサンドバッグがなくなるんだから寂しいだろうよ」

 

未練がましくすんすんと泣いている朽名をしり目に、神食はのんきに窓の外を見た。「あっやべ、流石にそろそろ出ないとこの船星間ワープに入っちまう!爺、用意はできてるな?」

「うっ、推しだからここにいてほしいけど推しだからいうこと聞いちゃう。もちろんです殿下、左から二番目の小型宇宙船に必要なものはすべて積み込んでありますぞ」

「ありがとう!」

 

神食は振り返りざまに礼をいい、そのまま金属の堅い床を走った。「第七師団について気になることは阿伏兎に言い残しておいたし、やり残しはないな。後はよろしく――じゃあな!」

「――ご武運を!」

 

 

それを耳で聞き、もう神食は振り返らなかった。もともと契約社員とうそぶき三年の予定だったものを、四年もいることが出来た時点で、少なくとも第七師団は快適だったのだろう。

ただ、春雨にいたままではやり残しがあることと――もう、自分は第七師団にいない方がよいという予感のために、彼はここを去って、元の根なし草に戻ることを決めた。

 

全長十メートルほどの小型宇宙船。慣れた手つきでハッチを開いて乗り込み、自動操縦を起動させ目的地を『地球・日本・かぶき町・万事屋銀ちゃん』に設定する――が、万事屋銀ちゃんで躓いた。ヒットがない。住所どこだっけ?と迷ったが、ぼやぼやしていると戦艦がワープに入ってしまう――ひとまず宇宙空間に抜けることを優先し、エンジンをかけた。

これまで何回も行っているため、迷いはないが――小型宇宙船が宇宙空間に出た瞬間、神食はあ。と声を上げた。

 

「何で俺が殿下なのか聞き忘れた~~ッ最後まで忘れてた!」

 

まあいっか、と操舵室の椅子にどさっと座りこむ。後ろを振り返れば、上陸に使う宇宙服とパラシュート、巨大リュックサックが目に入った。朽名は言葉の通りしっかり準備を整えてくれていた。

正式な身分証など持ち合わせない身の上である。正当にターミナルから入国する気ははなからなく、かぶき町上空で宇宙船から宇宙スカイダイビングの敢行予定である。

通常、これを不法入国と呼ぶ。

 

かぶき町上空にたどりつくまでまだ時間はある。ゆるりと操縦席側に体を戻すと、眼前に映し出されているのは、先ほどまで眺めていた地球であった。

 

――ひとまずは退職記念にしばらく観光とバカンスだ!美しいと評判の星地球は、まさにピッタリである。それに、師匠から聞いていたこともあり興味のある場所がある。

 

真っ暗な闇の中に一つ浮かぶ青い星。神食は一つ伸びをして、悪童のように笑った。

 

「師匠の娘さんはどんな子かな? 暴力の化身(兄貴)に似てないといいけど」

 

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