夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第5訓裏【春雨】自分の行いは自分に返ってくる

神食が春雨を(勝手に)退職する半年前。

 

よっ、宇宙海賊春雨第七師団に正式入団した、燕明(えんめい)だ!九歳……や、十歳になった!何で子供がこんなところにいるのかって?俺、実は元奴隷。なんか奴隷って言うと変な顔されるけど、ひどい目にあわされるとかなかったぞ。むしろ売られる前の方が大変だった気がする、親いなかったし、ゴミとか漁って食べてたような。売られた先ではご飯はおいしかったし、街を歩くも自由だったし、喧嘩するくらいなら怒られないし。でもめんどくさいなって思っていたのは、街から出ることが出来なかったことかな。

 

で、半年前まで俺がいた街――美食地下都市・上都(ザナドゥ)に、この春雨第七師団がやってきて、なんと楼主様を殺して占領してしまったんだ。俺はこの楼主様に買われた奴隷だし、楼主様は「とうてつ」っていう種族?現象?で、すごく強いって有名だったから驚いた。でも俺は楼主様に直接会ってしゃべることは少なかったから、殺された、って聞いてもあんまりショックはなかった。

それよりも、兄貴がその騒動の直前に行方知れずになって、死んでしまったことの方がショックだった。死体も見つかってないから、まだ生きてるんじゃないかなって思うこともある。

とにかく、行先のなくなった俺たち夜兎の子供を、この第七師団が一時的に引き取ってくれたんだ。俺以外の子はいろんな引き取り先にもらわれていって、俺も引き取り先が見つかったんだけど――ごねた。ごねまくった。

俺は宇宙海賊になる―――ッ!!とごねまくって、里親先でも暴れて、手に負えないとこっちに戻ってきた。やったぜ。

神威団長は「生きのいい子供は嫌いじゃない」と言ってくれたし、何より団長自身が八歳か九歳で春雨入りしたってことでウチの戦闘員でもいいんじゃない?と言ってくれたし、ほかの団員も戦闘で使い物になればまあいっか、という感じだ。副団長はガキが増えた……と言っていたけど、強く反対してなかった。

最後まで渋い顔をしてたのは師匠だったけど。団長がいいって言ってるもんねーーッ!!バーカ!!

 

副団長が言っていたけど、珍しくまとまった新団員がいるから、今日師匠がまとめて戦艦内や主要人物を紹介してくれる艦内ツアーを行うそうだ。俺も今日付けで団員だけど、もうここでは半年くらい暮らしてたんだ。つまり、俺が一番先輩だ。

食堂のソファ席周辺に集まった、見慣れない人たちが十人ぐらいいる。

特に会話もなく皆黙っているから、俺が先んじて先輩としてごしどーごべんだつをしてやろう。

 

「おい!お前ら新入りか!?俺は燕明、ここにきて半年だ、俺の事は燕明ぱいせんと呼べ!」

 

新入りたちは目を丸くしておどろいている。流石に十歳が先輩っていうのは衝撃なんだろう。だけどその時、頭をわしづかみにされて持ち上げられる。この掴み方は師匠だ。

 

「何やってんだお前」

赤い目と目が合うくらいに高々と頭を掴まれている。まあいつものことだ。「どうも師匠!ナイス握力!」

「だから師匠になるなんて言ってねぇだろーがクソガキィィ!!お前に案内なんかいらねえだろうが何やってんだ?」

「そう、言わばこのメンツの中では俺は先輩。かわいい新人たちに役に立つ第七師団マメ情報でも教えてやろうと思って」

「……藻武、コイツ持ってろ」

「エッ!?」

 

師匠――もとい、参謀長神食は俺をぽいっと隣の藻武に投げた。それなりに無茶ぶりになれている藻武はきっちり俺をキャッチしてくれる。師匠は大きなため息をついてから、顔をあげて片手で持っていた謎の旗を振り回した。

 

「ようこそ!アットホームな職場★春雨第七師団へ!艦内案内ツアー!!このクソガキの事は忘れろ、いいな」

「参謀長、アットホームって暗にブラックって言ってないですか?」

「バカ野郎宇宙海賊の時点で真っ黒だろうが」

「それはそう」

 

師匠は新入りたちを見回すと、咳ばらいをしてしゃべり始めた。

 

「ハイ、それじゃ自己紹介いくぜ。俺は神食、参謀長。趣味は戦闘とギャンブルと各種勉強、女の子。戦闘的に好きな奴は俺の首を刎ねられる奴。はい藻武」

「えっ俺?藻武だ。趣味は戦闘と喧嘩と決闘とタイマン。今年の目標は団長を闇討ちすること!」

「お前脳筋すぎてキモいな……」

 

参謀長に言われたくないです、と藻武が言った。次は俺の番だ。

 

「俺は燕明!趣味は戦闘と喧嘩と決闘とタイマン!目標は団長になること!」

「おい途中まで俺のパクんなよ!」

 

藻武が俺を小脇に抱えたままつっこんだ。おっ、新入りたちが笑ったぞ。多分俺みたいなガキが神威団長を倒すなんて、って思ってるんだろうけど、そこまでバカにされてる感じはしない。

ここはこういうこと言ってもこれから頑張れよ、みたいな笑い方をされるから嫌じゃない。

 

「ほいじゃあ次はそこの白髪くん」

 

藻武の近くにいた夜兎が師匠に指さされた。これは全員自己紹介しろという流れだ。慣れていないのか、なんだかみんな結構たどたどしい。それでも、聞き届けて師匠は満足そうに笑うと、俺についてこいと旗を振り回して歩き始めた。

第七師団戦艦は広い。俺はもう慣れたけど、ほかの新人はその広さに目を丸くしていた。素直に全部回ると半日はかかるから、主要施設――寝床、風呂とシャワー、操舵室、よく使う会議室、談話室、訓練ルームを、師匠と藻武で案内していく。訓練ルームを横切ったところで、ちょうど部屋から出てきた無精ひげに茶髪をぼさぼさに伸ばした夜兎と鉢あった。

 

俺は声をあげた。「副団長!」

「おう、藻武に神食……に燕明。何やってんだ?」

 

師匠は旗を見せびらかしながら笑った。「見てわかんないか?艦内案内ツアー。ホラ自己紹介」

 

そういやそんなことやるって言ってたな、と副団長は顎を撫でていた。「副団長の阿伏兎だ。あー、コイツの言うことは話十分の一で聞いとけ」

「じゃあ十倍喋るぜ!イデッ!!」

 

副団長の鉄拳が師匠の頭に落ちた。師匠も背が高いが、副団長の身長はもっと高くて、かなり大柄だ。副団長はさっきまでほか団員の訓練に付き合っていたみたいで、室内にもかかわらず番傘を片手に持った戦闘スタイルだった。ちょうどキリがよかったみたいで、副団長もついてきてくれる。あと案内されるのが食堂だけというのもあったと思うけど。

副団長といると師匠は少し子供っぽくなるなあと思う。年を聞いたら三十二と言ってた。俺からすればすごい大人に見える。師匠や団長も大人だけど、まだお兄さんっぽい。

 

春雨第七師団の食堂は二十四時間ご飯を作ってくれてありがたい、って団員は言ってるけど、美食都市から来た俺には物足りない。二百人は収容できそうな広めの食堂を、俺は引き続き藻武に抱えられて歩いていた。師匠がざっくり食堂のシステムを説明し終わると、じゃあ昼ごはんにするか、と言いかけた。

 

だけど突然師匠は配膳口側に振り返ると走り出した。

 

そこには何を食べようか、メニュー表を見つめるコーラルピンク色の髪を一本の三つ編みにした人が立っていた。師匠はその三つ編みを掴んで引っ張ってこっちに連れてこようとしたが、カジュアルに殴られていた。でもよく見る光景だ。

歳は十八。背はあまり高くないから身長だけで言えば幹部の中では一番話しやすいけど、ちょっと緊張する相手。

 

「新入りたちだ!神威自己紹介しろ」

「団長の神威だよ。好きなものは強い奴、嫌いなものは弱い奴」

 

そう、春雨第七師団の顔の、神威団長。超強くて超かっこいい。いつかこの人を倒して俺が団長になるのが目標だ。笑顔を向けられるとドキッとする。顔もカッコイイのもあるけど、これは殺意かな?って。

だけど師匠は全く気にすることなく、親指で団長を指示して言った。

 

「この通り第七師団の破壊装置だ。強いしツラもいいが性格はマジで悪いから気をつけろ。人の地雷はメッチャ踏むし煽るし隙を見せたら永久にこすり続けるからな」

「そんなの隙を見せる方が悪いだろ。それにお前は参謀長の自覚が足りない。夜兎の風上にもおけないよ」

 

新入りたちは目の前で師匠が叱られているのかとひやひやしている。でも、団長と師匠はいつもこんな感じだ。師匠は口をとがらせて、バカにするように団長に言った。

 

「だったら風下においていただいて結構ですぅ~」

「お前はそういうところだよ」

 

ちょっと団長の言うこともわかる。師匠、バカにされても全然怒らないんだよな。第七師団で今更師匠をバカにする奴はいないけど、夜兎のくせに軟弱とかいう奴、ほかの師団にはいるみたいだから。

笑顔の団長は師匠を親指で指さした。

 

「コイツは強いし人付き合いもいいけど、メンヘラだし生態がうるさいしよく全裸で倒れているし野グソもするから近づかない方がいいよ」

 

団長のいうメンヘラってよくわかんないんだよな。

そんなしょうもない話をしているところに、副団長がこのまま立ち話もなんだからメシでも食うか、と言ってくれたので、そうすることになった。

 

新入りも自分もそれぞれ好きな食事を注文し、席に着いた。俺は流れるように師匠と団長の間の席を取った。慣れれば大したことないけど、夜兎って話上手が少ないのかなと、第七師団に入ってから感じた。

大人になればしゃべるのが上手になるわけじゃないんだな。

 

それでも師匠が喋って、ついで副団長が合いの手を入れて、たまに団長が師匠を殴ってで和やかって感じじゃないけど、色々な話が聞けた。半年いるけど、まだまだ知らないことがたくさんあるなと思う。

みんな食べ終わってツアーは解散したけど、師匠と団長は食べる量が多いからまだ座っていた。

そういえば俺、メンヘラってよくわかんないし、せっかくだから団長に聞いてみよう。

 

「団長!メンヘラの話聞きたいです!」

「オイ」

 

団長がおよ、と目を丸くしていた。色々あるよ、と言ってから、じゃああれにしようと話を始めた。

それは確か二年半くらい前、師匠が十七、団長が十五か十六のことだった時のことらしい。

師匠が参謀長になったばかりの時の事だとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「第五師団の奴を殺したァ!?」

 

阿伏兎は驚愕の声をあげた。第一報を聞いた阿伏兎は、どうしたってそんなことになったのかと眉間にしわを寄せた。情報は錯そうしていたが、つなぎ合わせた話によると――任務でとある星に向かっていた第七師団の夜兎五名が、任務自体は敵を殺しつくし完遂したものの、殺しすぎた。

たまたま第七師団の殲滅対象だった敵組織近くの倉庫にて、第五師団の面々が新種の麻薬流通のために土地の反社会組織とやり取りをしていたところまで殺害した。

その場にいた第五師団の一人が、服装から第七師団の者だと気づいてこっちも春雨だ!と叫んで、第七師団の者も事態に気づいたらしい。

 

不幸な事故、というべき内容だと思ったが、事の是非を明らかにすべく第七師団幹部と当事者の団員は中央本部にまで来るように提督から命令が下っていた。

そのため、幹部――神威、阿伏兎、神食は大急ぎで春雨本部に向かったのだ。

 

第七師団以上に巨大な宇宙要塞に接続し、機械丸出しの通路を通り提督室へ歩いていく。

道中、神食が面倒くさそうに口を開いた。「もういっそ最後に残った第五師団の奴も、取引相手も皆殺しにしておけばよかったのにな。そうすれば第七師団のせいってのもうやむやにできたろ」

「俺も同意見だ。中途半端はよくないね」

 

物騒な意見だが阿伏兎も同意である。生き残りがいるから喋ってしまう。死人に口はないのだから。

 

いつ見ても金尽くしで逆に悪趣味な阿呆提督の執務室。宴会でもできそうな広さの洋室の真ん中に阿呆提督が豪奢な装飾の椅子に腰かけていた。その傍らに、第五師団の提督、[[rb:陽炎 > ようえん]]が立っていた。

第八師団の勾狼と同じく二足歩行の狼の姿を取った男は、傲然と、すでに勝ち誇った様子で三人を見下していた。

 

阿伏兎はこれはもう旗色が悪いと察した。元々この提督は第七師団の強大さにおびえて、その力を隙あらば削減したいと思っている。そして第五師団は第七師団と同じく実働部隊であるが、この男は第七師団に対抗心を燃やしている。

まっとうに自分の師団を強くする方向にその意気を向けてほしいものだが、どうもその矛先はこちらに向いているようだ。すでにことは決まった言いたげな阿呆が、傲然と口を開いた。

 

「話は陽炎から聞いておる。第七師団、此度の不始末どうつけてくれる?師団同士の連携と友好を欠くような真似は決して許されぬぞ」

 

神食はこの時、もうこの場は土台で負けていることを察した。阿呆提督と会うのはこれが初めてだったが、この男は最初から第七師団の話を聞く気がない。

夜兎は、政治工作や謀略が苦手だ。苦手というか、その必要を感じていない。あまりにも暴力が簡易で簡単だから。

陽炎が口角を釣り上げて笑う。

 

「ハハハ、提督。そう怒らんでも。兎があなた様の言うことを聞くとわかればいいでしょう。私は、彼らの誰かが――提督のおみ足を舐めでもすればこれ以上は不問としましょう」

 

空気が凍るようだった。神食の右隣の神威は、笑顔だがどう考えてもキレている。いつもはそんな神威を押さえる左側の阿伏兎も、今回ばかりは止める気はないように見えた。

 

さて、どうするか。神威がキレて第五師団長を殺したら第五師団とも戦争だし、ここに提督がいる以上他師団とも自動的に戦争。阿呆は第七師団を恐れるなら、罰として来年度の予算を減らすことや武器の配備を減らすことが順当だろうかと考えたが――

 

足舐めてノーダメージならそれでよくね?二人が嫌なら俺でいいし。

 

神食は殺気をまき散らす左右の二人に構わず、静かに前に歩き出した。数歩で阿呆の目の前に立つまでに来る。そこで阿呆は恐れたように顔を一度ひきつらせたが、神食が足元に跪くと今度は目を丸くした。

だが、凍った空気はまだ冷える余地があるのかというほど、さらに冷え冷えとしていく。

 

神食が阿呆の靴を手に取った時、氷点下にまで達した声が――神食の右隣、上から降ってきた。

真っ黒い瞳が見下ろしている。神威。

 

「何してるんだ、お前」

「何が減るもんでも」

 

その言葉は最後まで続かなかった。目にもとまらぬ速さで、神威が神食の顔を蹴り飛ばしたからだ。

神食は神威の蹴りを捕らえたが、防ぐことに全力を費やすことになり右腕で直撃を防いたものの、そのまま左の壁へ猛烈なスピードで蹴り飛ばされた。

今のはマジで殺す気だったな、と神食は思った。幸い意識はある。だが神威は蹴りで満足せず、土埃を突き抜けて神食の背中に肘鉄を見舞い、腕力で床に縫い付けた。

神食の上から降ってきたのは、氷にして雷槍の言葉だ。

 

「お前、本当に気持ち悪いよ」

「団長、そいつそのままにしておけ!」

 

神食が本気で暴れたらもう神威しか止められない。阿伏兎は全く予想だにしない事態にまたしても頭を抱えつつ、自分で言ったくせに神威に恐れおののいている阿呆に向かい合った。

 

結局、オチは第七師団の来年度予算削減で話が付いた。

正直この件は大問題であるが、それよりも別にどでかい問題が出てしまった。

第七師団の戦艦に戻った阿伏兎、神食、神威だが――足早に会議室に向かうと鍵を閉め、阿伏兎は神食を怒鳴りつけた。

 

「テメェ、立場考えろ!!」

 

神威は一緒に来たものの喋る気は全くないようで、本部での氷のような空気のまま壁に寄りかかって二人の様子を見ていた。阿伏兎も阿伏兎で一発ぶん殴ろうかと思ったが、すでに神威が全力で蹴っているので自重した。

だが神食は蹴られた右腕をさすりつつ、逆に文句があると言いたげだ。

 

「別に減るもんじゃないし、予算も減らないだろ」

「バカ野郎、その舐められる行為がどんだけヤバイかわかってんのか!!」

 

夜兎の世界、ひいては裏社会は弱肉強食。進んで相手の靴を舐めるなど自ら侮られるような真似をするのは命取りだ。

「あれはどう扱ってもいい」と思われる恐ろしさを知らないのか。

だが、神食はいつもと変わらぬ落ち着きはらった声で答えた。

 

「俺たちは殺すのならいつでもできる。だったらそれは最後でいいだろ。殺しは不可逆だ、情報や今まで築いてきた利用価値も全部消える」

 

――必要ならバケモノにもなるし、必要なら泥も飲む。神食の目はそう言っていた。

 

阿伏兎はまた別の意味で頭を抱えた。己の身に置き換えて危機感に訴えるのはダメか。

だがお前個人がよくても、第七師団ではダメだ。

 

「……お前は第七師団の参謀長だ。立場は俺と同じで、団長の次といってもいい。そんな強い奴が、やすやすと舐められる行いをするってことは、第七師団全体が舐められるってことだ。迷惑なんだよ」

 

そこで初めて神食は言葉を失った。そんなこと考えたことなかった、といった様子で阿伏兎を見上げていた。

「なるほど、わかった。やめるわ」

 

阿伏兎は一気にどっと疲れた。この件、最初から最後まで精神に悪すぎる。

話の終わりを見届けて、神威もやっと口を開いた。まだご機嫌は斜めのようだが、氷が刺すような雰囲気はなくなっていた。

 

「だったら最初からそうしろよ。メンヘラ」

「メンヘラ!?どこが!?俺は合理的に考えただけだっつーの!」

 

神食は組織論的には納得したようだが、個人レベルでは納得していない。団長、イマイチ通じてねーぞと、阿伏兎は突っ込もうかと迷った。

が、あんまりお優しいことを翻訳すればそれはそれで団長はご機嫌斜めになるだろう。

 

 

 

 

 

 

こんな話を団長がざっくりと、副団長が補足しながら話してくれた。メンヘラといわれた師匠は腕を組み、あの時は勉強になったと頷いていた。

 

「っていうわけで、俺は少しずつ本部にも顔出すようにして動向を伺ったり他師団の奴とつるんだりして情報とか雰囲気を掴もうと思ったんだぜ。夜兎も謀略大事、謀略ってほどでもねぇけど」

「いやこれそういう話じゃねーだろこのあんぽんたん」

 

副団長が師匠をどついていたが、俺も師匠をどついた。何だよその話。

 

「強いのになんでそんなことすんだよ!殴ればいいだろ!」

「ハァ~~ミニ神威かよ。大人は殴ってハイ解決とはいかねぇこともあるの。俺は第七師団の理性なの、最小の労力で最大の利益」

 

師匠は呆れていたが、呆れたいのはこっちだ。難しいことはわからないけど、師匠はそんなことをやっていい人ではない。すると、食べかけのスパゲッティを飲み込んだ団長が援護射撃をしてくれた。

 

「アハハ、燕明の方がわかってるじゃないか。俺はいざとなったら提督も元老も皆殺しにするよ」

「の、脳筋~~イデッ!!」

 

なんだかイマイチ通じてる感じがしないので、俺はとりあえず師匠の脇腹を殴った。

 

 

 

 

 

 

一体どういうことなんだろう。変な奴だとはずっと思っていたが、神食が第七師団を嫌っているとは思えない。

あまりの驚きに動揺していたが、飛耀は段々腹立ってきた。というかやめるにも一言くらい言ってほしい、薄情者め!

 

参謀長退職届騒ぎから一度解散した後、飛耀は自分の巣である研究開発部のデスクまで戻っていた。エナドリの空き瓶を脇に寄せて、自分の引き出し、部屋のロッカーを開けて私物を点検する。

落ち着かないのと、神食とやり取りした中で辞める理由の手掛かりになるものがないか探すためだ。

 

「アッ」

 

手がかりではなかったが、半年くらい前に神食から頼まれていたことを思い出した。頼まれて一週間くらいはまじめに取り組んでみたが、その後忙しさに紛れて忘れてしまっていた。個人的な頼みだから仕事優先でいいと言われていたのでそのままになっていた。

 

ロッカーに積まれていたのは沢山のブルーレイディスク。これは神食が任務で戦っている姿を録画したものだ。こんなもの誰が撮っているんだと思ったが、あの鳳仙の右腕の爺やがビデオカメラを持って撮影しているらしい。

なお、参謀長のみならず団長や副団長、その三人ほどではないがほかの団員の映像もある。本当に何をやっているんだあの爺さん。

 

 

 

 

用事があるから研究開発部のデスクに二十時に待ってて、と神食に頼まれて待っていたが、十分経過しても来なかったので探しに行くことにした。するとトイレ行きがけの通路で、彼はヒラ団員と喋っていた。

こっそり気配を消して近づくと、話的には雑談だったので――いたずら心で背後から大声で話しかけた。

 

「参謀長!」

「アジャパーッ!!」

 

どういう悲鳴?神食は本当に気づいていなかったようで、奇怪な悲鳴を上げて振り返った。

戦場では遠距離かつ背後からの狙撃でさえ避けると言われた夜兎とは思えないアホの姿だ。戦場とそれ以外でスイッチのオンオフでもあるのか。

 

「なんだ飛耀か……あ、時間。悪い!」

 

ヒラ団員はこちらに用事があるようだと察し、一礼をして去った。神食はそれを見送ると、さっそく本題に入った。

腕に引っ掛けていたトートバッグにはたくさんのDVDが入っている。

 

「俺の戦闘を分析してくれ!」

「ハァ?」

 

いやいや、このクソ弱戦線離脱夜兎に何を言ってるんだ。この戦闘集団のトップクラスの戦闘に意見するなんて恐れ多すぎる。

 

「いや、言いたいことはわかる。だがひとまず聞け――俺、戦ってると多分へっぴり腰だと思うんだよな」

「ハァ?」

 

ますますもって何言ってんだコイツ。並の茶吉尼なら装甲貫通するグーパンをする奴が何を言ってらっしゃるのか。

 

「なんか攻めきれないときがあるというか、いつも半身引いてる感じになっちゃうっていうか。客観的な意見が欲しい!」

「だったら私じゃなくて団長の方がいいデスヨ」

 

客観的な意見と言われても、自分では大して建設的な意見を言える気がしない。いつも殴り合っていて戦闘も高レベルな相手に求めるべきだと、飛耀は思う。だが、神食は居心地悪げにもごもごしていた。

 

「バ神威は……なんか嫌だ」

 

神食参謀長と神威団長、お互いに対しては実像より自分を大きく見せようとするクセがある。しょうもないなと思いつつ、つついてもかわいそうだ。なお、ほかの戦闘員にも頼んでみたけど何言ってんですか、でまともにとりあってくれなかったそうだ。

そこで研究を職務にしている自分にお鉢が回ってきた、流れらしい。

 

「……じゃあいいですケド、あんまり期待しないでくださいヨ。戦闘技能はからきしなんですから、コッチ」

 

そういうと神食は喜んで礼を言った。まあ友人に頼まれて悪い気はしなかったのでモノは試しとやってみることにしたのだ。

 

しかし実際に研究開発部のテレビで見てみると、スロー再生しないと画面に映ってすらいないってどういうこと?ほんとバケモンだなあ、そしてこれをちゃんと画角内に収めて撮影し続ける朽名爺もなかなかやばい。

と眺めてみたものの、人間でいうと草野球やってる奴がメジャーリーグ見てるみたいな感じですげぇ~~と語彙力が消えているだけだった。あの大傘で四人一気に刺し殺したり横なぎに十人もぶっ飛ばしたり、素手の拳で分厚い鋼鉄の鎧も貫通して殺している奴が攻めきれない??辞書引いてきて。お前も破壊装置ダヨ。

しかもすごい笑顔だから悪鬼羅刹感がすごい。あとさっさと終わって暇だからって敵の小腸?で三重跳び始めるのは止めた方がいいと思う、色々ギリギリダゾという感じで、半年前は止まってしまっていた。

 

 

 

 

飛耀は今日最低限やらなきゃいけないことは終わっており、退職届騒動で集中力切れたので、思い出したかのように戦闘ディスクを見ることにした。そしてすっかり失念していたが、何かを分析する時には比較をするのが鉄則だ。

参謀長神食の戦闘だけでなく、団長神威のものを一緒に見てみることにした。

というか、ずっとグロゴア動画を見ている感じである、慣れているけど。

 

もう最初からスロー再生で見たが、団長もヤバイ。知ってた。神食との違いを出すなら、こっちの方が殺意は高そう……自分が傷ついてでも相手を殺す、腕が折れても相手を殴り殺すみたいな……。

その時飛耀はふと引っ掛かりを感じて、ディスクを神食のものと入れ替えて再生する。

 

――あれ、確かになんか変カモ。

 

研究者気質、得意分野ではないとはいえ、違和感もといきっかけをつかんでしまうと燃え上がる。パソコンを起動し、動画解析ソフトを使えないか確認する。テレビからディスクを抜き、パソコンに飲み込ませる。ああもっと使いたい解析ソフトがあるのに!あとAIも導入して、参謀長予算持ってきて!と飛耀はワクワクが止まらなかったが、その参謀長が退職希望なのである……と、その時、研究開発部の自動ドアが開いた。

 

誰かと思えば、姿は予想以上に小さい――燕明だ。茶色い髪を、団長リスペクトなのか三つ編みにした十歳の少年。

ザナドゥの奴隷の生き残りで、養育先を蹴ってここに残った子供。神食の事を師匠だと一方的に言っていることは、団員皆が知っている。

 

(まあ師匠っていうか、兄っていうか、親って言うか……なんだヨナ)

 

神食が、燕明の春雨入団を最後まで渋っていたのは、「流石に春雨の仕事って危なくね?」と思っていたからだ。戦闘集団の極北、いきなりこんなところで命かけて働いて履歴書真っ黒にしなくても、もう少しマイルドなところに行けよと思っての事だ。

春雨から手配できる子供の引き取り先もよくてグレーな組織になるのだが、いきなり春雨よりははマシという思いである。それを経てから春雨にくるなら、もう止めようがないが。

ただその注文のせいで、奴隷の子の貰い手探しは難航した。数少ない夜兎(どうぞく)の奴隷だったから神食や団員もここまでやったのであって、流石に人間の奴隷にはここまでしない。

 

(でも多分、コイツはコイツでもう脳みそ焼かれちゃってるヨネ、多分……)

 

大人の夜兎の戦いを知らない状態で出会った、神威と神食。

龍脈(アルタナ)九大現象の第五、貪欲と暴食の饕餮(とうてつ)をも食い殺した月の兎。

戦闘意欲が高い少年がそんなものを見て、感化されないままでいられるか。無理だろ。

 

飛耀は少年を招き入れ、隣の椅子を示した。クソガキクソガキと言われている元気いっぱいの血気盛んな少年は、いつもとは打って変わって静かだった。

 

「どうしタ」

「……師匠、ここ辞めるのか」

「なぜそう思ウ?」

 

神食が一二週間ふらっといなくなることがあるのは、燕明も知っている。今思えば、神食の弟子を自認する少年が、今の今まで何も言わず静かだったのも奇跡的である。

燕明は団服のポケットに詰めていた手紙を飛耀に差し出した。それを受け取り開く。

 

『燕明へ

 俺は春雨を辞める。上層部は第七師団の戦力低下でラッキーとしか思わないから、大した騒ぎにはならないと思うが、念のため時を置いて会い方を考える。それまで静かに過ごせ。 神食』

 

神食の手紙はふざけた内容が大半を占めるので、用件だけを書いたものは珍しい。紙もレターセットのようなものではなく、ルーズリーフで急ぎ書いたもの。

多分、出るギリギリまで何も残さないべきか、残すべきか迷っていたのだろう。

 

「師匠、何で辞める?」

「私もわからないヨ。第七師団が嫌いになったわけじゃないと思うケド」

 

手紙に「静かに過ごせ」とあるから、燕明なりに空気を読んで何も言ってないのだろう。

そして飛耀は重鎮ではないが、神食とは親しいポジションである。相談にはちょうどいい。

 

「ハァ~……私もアイツに野暮用があるから、ちょっと行先を探してみるヨ。やめる理由、私も興味アル」

 

これは飛耀の偽らざる気持ちでもある。団長の神威はどう考えても神食を探すつもりだろうから、それにくっついていけば会えるかもしれない。ただ流石に十歳の燕明を連れて行くのはどうか。修羅場になる可能性も大きい。

飛耀は戦闘力は底辺だが、被弾しないように逃げ隠れする技術はあるから、身一つで逃げ回るなら何とかいけるか。

 

飛耀の思考をよそに、現金な少年は顔をあげて喜んだ。

 

「本当か!?やった!流石過集中のオタク夜兎!!」

「マテそれ誰が言ってタ?まさか参謀長?」

「師匠。誉め言葉だって」

「どういう認知?罵倒ダロ!!」

 

とにかく大人しく過ごせと燕明に言い含め、彼を追い出した後に飛耀は息をついた。

神食を追いかける神威、絶対に殺し合いになる。オイ燕明を放置で死ぬのはちょっとアレじゃないか、と飛耀は内心で困る。

春雨の職務自体が危険だらけで今更だが……。

 

 




ザナドゥ編はこれとは別に春雨過去シリーズを立てるのでそこに放り込みます。
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