夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第8訓表【地球】人を試す時には自分も試されている

かぶき町のはずれにある旅館『花野井』。客室十五の小規模老舗旅館である。よくある話だが、開国以降ターミナル近くの新築ホテルに押され、経営が悪化しつつあるという。

それでも二十年経営が続いているのは、かぶき町全体に流入する人間が増えていること、昔からの地元民に愛され、国内の旅人には需要があるからだそうだが、経営する老夫婦が三年前に事故で亡くなってからは雲行きが怪しい。

 

――そのはす向かいに建つ借り長屋に、真選組の山崎が民間人として張り込みのために住み込んでいた。ホテルの客の出入り、周辺住民や従業員への聞き込みを調査して一週間が経過する。

 

調査対象の『七條党』は攘夷を唱えてはいるものの、実態は全く乖離しており、天人と癒着し『幻影郷』という新型の麻薬売買にて巨利を得ようとする団体と化していた。食い扶持のない浪人を多数抱え、包帯などで顔を隠しているものの、天人が何人もホテルに出入りしていることがわかっている。長屋から様子をうかがいつつ、山崎は息をついた。

 

――スッキリしない御用改めになるかもなあ。

 

七條党に『幻影郷』の販売をさせている天人組織がもし、すでに幕府内部と癒着していた場合。幕府の下部組織たる真選組は、表向き七條党はとらえるものの幕府と天人の癒着は野放しになってしまう。その時、ドンドンと玄関を叩く音がした。バキッと不吉な音を立てて引き戸が開く。

 

「ヘェィAberEatsで~す」

「何!?そんなもん頼んでな……ってチャイ男さんん!?何でここに!?」

「あんぱんと牛乳とエロ本のデリバリー。張り込みといえばこれと聞いて」

 

黒色の傘を差した男が、当然の顔をして部屋に入り込み山崎の隣に腰を下ろした。「ジミーさんの趣味がわかんないからコンビニで一般的な趣向で選んだぜ」

 

袋の中に各種メーカーのあんぱん、牛乳、エロ本――表紙が『緊縛調教妻』『鬼イキ淫乱緊縛』『SM性感緊縛開発』と何故かSM緊縛だらけだった。宇宙では緊縛が一般的なの?

 

「いやそーじゃなくてェェ!なんでアンタここに!?」

「真選組から尾行した。ジミーさんじゃなくてマヨくんの方。でもなかなかの手練れとみた。用心して超~~距離開けてやったから手間取ったぜ、もう」

 

山崎は旅館周辺とコンビニにしか出歩かないが、ほかの仕事も抱える副長は時折連絡のためにここに来る。そちらを狙って追いかけていたのだろう。彼を一般人……と言っていいのか怪しいが、なぜわざわざ労を割いて割り込んでくるのかは読めない。

コンビニでレンチンしてきたであろうラーメンをすすりながら、神食は山崎が張り込みをしている旅館に目をやった。

 

「七條党。天人とつるんでヤク売りさばいてるっていう攘夷党……もう犯罪組織か。つるんでる天人って、アレかぶき町四天王の華陀ってやつだ。幕府高官じゃあない。あと、アイツら人身売買にも嚙んでるぜ」

「……チャイ男さんアンタ」

「これは独り言なんだけど、かくかくしかじかあって俺、七條党を壊滅させたいんだよな。でも俺よそ者だし、いろいろ表に出ると面倒だから代わりに誰かにやってほしいな~独り言終わり」

 

ラーメンの汁まで飲み干した後、神食はポケットをまさぐって手のひらサイズの板を取り出した。

 

「ところでジミーさん、電話番号とメルアドかライヌを交換しない?」

 

 

 

 

 

神食が華陀に辰羅を借りることを打診したが、適切な戦闘場所を工面できず模擬戦はいまだにやれずじまいだ。とにかく彼は彼で華陀を有効活用しようとしてしまったから、泥水次郎長に厄介ごとを吹っ掛けられてしまったわけだ。自業自得か。

華陀は神食を切り札(味方)だと認識しているので、彼女の持つ精鋭部隊――辰羅を隠そうとしなかった。自然、えどべがすでふらついていれば、彼らが何をしているのかを言葉の端々から察することが出来るし、ついでに直接華陀に尋ねることもできた。

ほかに神食個人で周囲に聞きこんだ情報も含めて、事の全体像はおおむねつかめている。

 

花野井旅館は七條党の拠点であり、今の旅館の主が党首でもある。そもそも旧七條党の党首は亡き老夫婦の夫の方だった。その時点では天人を排除してかつての国を取り戻すといった、古い思想の集団だったという。

しかし彼らの死後、三年前に旅館と党首の後まで継いだ娘婿によって、組織は大きな改変を遂げる。攘夷の為にはまず資金を集める必要があると、党員を使い賭場やヤクザものの領域にまで足をつっこみ、より利益のおこぼれにあずかれそうな天人――華陀の手足として、彼女が手広く行おうとする薬の売買まで積極的に主導し始めた。

さらにタチの悪いことに、彼らは人身売買にまで手を付けている。華陀が宇宙海賊の一味であるということから、その販路で人間を宇宙に奴隷として出荷している噂がある。ここまでくると攘夷でも何でもない。実際すでに構成員は老夫婦の時とは全く異なる、ごろつきばかりで構成されている。

 

華佗のいる宇宙海賊?→華陀→七條党で薬を広範囲に売る。そして薬を求める者は、たいてい家庭か、金か、何かしら問題がある者が多い。薬を買う金も作れるし、もっと儲けられる方法があると提案し、七條党→華佗の手配する宇宙船に載せる。健康体ではないヤク漬けの人間なんて使い道あるのかだが、あと特殊な性癖の持ち主は宇宙にはごまんといらっしゃる上に、実験体として使いたい、食用としたいなどいろいろとあてはある。

 

真選組は神食が何もしなくてもじきに七條党を捕縛するだろう。捕縛できれば、幻影郷は押収されて市中には出回らなくなるだろう。問題は華佗にまで捜査の手が行くかどうかだ。現状深刻度としては、薬よりも人身売買が明るみ出てくれる方が真選組、もとい幕府も追いかけざるを得なくなり、結果として華佗の手を退けることになるだろう。

 

(真選組が人身売買の現場まで調査が進めばいいけど、うーん。薬だけでも華陀まではたどり着くと思うけど……)

 

こっちで突き止められないかなァと思案しつつ、一度万事屋へと帰ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

八郎の母ちゃんの一件以来、土方を遠距離尾行したり、えどべがすに聞き込みしにいったりでまるで春雨で仕事している感もある。第七師団一の一般人擬態力を自称している神食だが、流石に同業者や歴戦のジジイには通用していないようだ。

万事屋の玄関までたどり着き引き戸に手をかけたところで、階段を上ってきた神楽に出会う。

 

「神食!暇アル?缶蹴り人数足りないから来るネ!」

「え?別にいうぉっとおお」

 

疑問符で聞いていたが、ほとんど有無を言わせない勢いだ。実際本日、特に用事はないため腕を掴まれた神食はされるがまま、ほぼ引きずられるように近くの空き地へと連行された。

 

「よっちゃん見っけ――ッってウワァ!!」

「バカヤローお前缶踏み潰すの何回目だよ!リサイクルが捗ってしょうがねーよ!」

 

缶蹴りの鬼役をしていた神食は、使っていた缶を勢いよく踏み潰して圧縮した。よっちゃん、と呼ばれた男の子が突っ込んだ通り、広場の隅には圧縮された缶が山積みになっていた。

 

「もうお前オニなし!ユウキ交代してやれ!」

 

しかし、よっちゃんに命じられた男の子、ユウキも不満気に神食を指さした。

 

「でもコイツも神楽も地平線の彼方にまで缶蹴り飛ばすよ!」

「神楽はともかく神食お前は大人げなさすぎだろコラァ!」

「俺は全力で向かってくる奴は全力で叩き潰す主義だ!」

「いい大人がァそれを缶蹴りで言うゥゥ!?」

 

神食含めた男子たちが騒いでいる中、神楽は広場の隅で座っている女の子に目をやった。

いつもは活発で足も速く、缶蹴りも強い子にもかかわらず参加する様子がない。そもそも元気がないのは今日だけではなく、ここ最近ずっとだ。神楽はトコトコと彼女に近づいて、ポケットに入れていた酢昆布を差し出した。

 

「さきちゃんどうしたアル。最近ずっと元気ないネ」

「神楽ちゃん」

 

髪の毛を肩でおかっぱに切りそろえた、神楽と同い年の少女は、ゆっくりと顔を上げた。依然として顔は暗いが、おずおずと酢昆布を受け取った。

 

「……お母さんの具合が悪くて」

 

さきという少女の家では、父はおらず母が女手一つで彼女を育てていることは神楽も知っていた。だが最近その母の体調が思わしくなく、そちらも心配であると同時に家計も厳しいのだという。そのため、少しでも家計の足しになるようにアルバイトでもしようかと考えているようなのだが。

 

「ちょっとでも変だなって感じるヤツはやめるヨロシ、アネゴもパンツをしゃぶしゃぶして食べる仕事をやらされそうになったって言ってたアル」

「そ、そんなのじゃないけど……。かぶき町のはずれにある旅館で、住み込みのアルバイトに誘われてるから、悩んでるんだけど」

 

あんまり遊べなくなっちゃうかも、と彼女は憂鬱そうに言った。

帰り道、神食は神楽からそのさきちゃんの話を聞いた。神楽の友人の事は素直に気になる……が、その場所には心当たりしかないし、明らかに不味いバイトの気配が濃厚である。

やめとけ、と反射で口を突いて出そうになったが、ふと脳裏に閃きがありとどまった。

 

しばし考え込んでから、一言。

 

「もし気になるんだったら、神楽ちゃんも一緒についてけば?俺も付き合うぜ」

 

 

 

 

 

 

「山崎ィ……一般人に教えてもらうなんざおまえそれでも監察かァァ!!」

「副長だって全然尾行に気づいてなかったじゃないすかァァ!!」

 

例の長屋から撤収した山崎は、真選組屯所の副長室にて土方から 責を受けていた。旅館に清掃員として紛れ込んだ際に、大量の薬物の現品があることの確認、捕縛対象となる党員の概数も出した。今や真選組内で御用改めの日を決めるだけになっているが、これらの報告の際に神食の事をどうしても省けず報告するハメになったのであった。

 

「御用改めで捕縛はできますが、ただ気になることが。チャイ男さんの言ってた人身売買の痕跡は見つかってないんですが、旅館に天人の出入りがあります。しかも、戦闘種族って言われるヤツらです」

 

体格は人間と大差ないが、顔手に包帯を巻き、白い装束をまとい耳が尖った者たち。戦闘種族辰羅の特徴に一致する。戦闘種族の天人を多数抱えることができる者は限られている。宇宙海賊か、それに類する者。神食は孔雀姫華陀の者と言った。

そこの繋がりは、御用改めにて捕まえた者たちを尋問すれば出てくるだろうと踏んでいるが、今回真選組は人間の攘夷浪士のみでなく戦闘種族との戦いを想定しなければならなくなる。

七條党は攘夷党としては桂のような大物とは比べるべくもない木っ端だが、こちらの被害は大きくなる可能性が高い。

と、その時、山崎のライヌにメッセージが入った。

 

『御用改めっていつ?』

 

それを一緒に見た土方は、さらに山崎をどついた。「山崎ィィ!張り込みがバレたのは百歩譲って見逃してやるとしても何ライヌ交換してんだコラァ!つーか、攘夷党を捕らえるのに協力するって、それでアイツは何を得するってんだ」

「それがさっぱり。ウソをついているようには見えませんでしたがね」

 

真選組からすれば新しい万事屋の一味。万事屋の坂田銀時はかつての攘夷志士白夜叉であることからして胡散臭いのだが、七條党のようなまがい物の攘夷党に協力するような輩ではない。ただ、あの夜兎が何者なのかはわからない。

 

「チッ。推測しかできねぇことを言っても仕方ねェ。俺たちは俺たちの仕事だ」

 

 

 

 

 

 

銀時が馴染みの定食屋のカウンターにて、宇治銀時丼に舌鼓を打っていた時――隣の隣から、「土方スペシャル」というおぞましいメニューを注文する声が聞こえた。全く出会いたくはない人物だったが、そのために行きつけの定食屋に行かないという選択肢はない。

特に話すべき用もなかったが、あちら――土方十四郎の方は何かあるらしく、「オイ」と声をかけてきた。

 

「なんだよ、オメーまだここの親父に犬のエサ拵えさせてんの?営業妨害の域じゃねーか」

「テメーは定食屋じゃなくてさっさと甘味屋に行けやァ!」

 

土方は初っ端から話が脱線しそうになり、頭を振った。「……そうじゃねェ、オメーんとこのあのチャイ男、何モンだ?」

「あ?ハゲ……星海坊主の弟子で、宇宙で働いてた会社辞めて遊びに来たつってたけど」

 

星海坊主が地球に来た時にターミナルがえいりあんに襲われた時、真選組の出動していたため土方も本物の星海坊主を見たことがある。ただ者ではないことは確か。

土方は煙草を燻らせながら銀時をにらんだ。

 

「アイツ攘夷浪士を捕縛したがっているみてーだが、お前何が目的だ」

「オイオイついに犬のエサの食べ過ぎで頭が……」

 

勿論銀時に何も含むところはない。神食は見た目は目立つが、有象無象の行きかうかぶき町ではそれほどでもない。遊びまわり金払いもよく、愛想も悪くない。ゴンキをめちゃくちゃにした話は人づてに聞いたが、神楽や星海坊主を思えば驚くほどではない。

 

だが、最近の神食は少し行動が変ではある。相変わらず留守にすることも多いが、キャバクラで派手に遊んだとか、賭場ですってんてんになったとか、そういった話を聞かなくなっていた。夜型生活寄りなので昼は寝ている姿もあったが、最近は昼間もせっせとどこかに出かけている方が多い。

あちらも二十歳、いい大人なのだから銀時もイチイチ詮索することはしないが。

 

――じゃあ今、何やってんだアイツ。

 

 

 

 

 

 

 

数日後の夕暮れ、神楽と神食は連れだってかぶき町の長屋街に足を運んだ。友人のさきちゃんが旅館のバイトの面接に行きたいと言っていたので、危険があったらすぐ引き返すために一緒についていくことを約束したのだ。

話に聞いていた通り、彼女は倹しい暮らしをしているようだ。試しにどこでそのバイトの話を知ったのか聞いてみたところ、寺子屋の友人に誘われて一度裏路地で怪しげな薬を買ったことがあるという。楽しい気分になれると勧められて興味本位でついてきてしまったが、その場の雰囲気が不穏で、買えばもう逃げられるかと思って買ってしまい、その場は逃げてしまったという。

今もその薬は使わずに家にあるが、その友人は薬を愛用しているらしく、彼女からそんなバイトがあると聞いたという。

かぶき町内で年齢問わず、給料日は毎日。年齢問わずで神楽と同年齢か少し下の子も可とするあたり怪しさしかない。

 

花野井旅館のエントランスは、和風と洋風の折衷だった。石畳で靴をぬぎあがると、赤いじゅうたんが一面に敷かれており、五メートルほど歩いたところに木製のテーブルの上に「案内」と札が載っていた。

 

「すみませーん、面接を予約したものですけど」

「はいはい、山田さんね。……そちらの方々は?」

 

案内の好々爺は愛想よく答えてくれたが、背後の二人を怪訝な顔で見た。

 

「姉アル」「兄」

 

さきが和服なのに対し、自称姉と兄はチャイナ服で髪の色も三人とも全く違う。ものすごく怪しい。その時、神食がいきなり腹を抱えて前のめりになった。

 

「ウッ!すみません、急に腹が!トイレ貸してください!」

「はあ、右手を奥に行ったところにありますが」

「もう何やってるアルかお前」

 

あきれ顔の神楽によろしく、と言って、大急ぎで右手に走り男性用のしるしのある小部屋に入る。そしてちらりと、エントランスの方を覗き見る。

好々爺は神楽をただの女の子だと思っているようで、神食がいなくなったのを見計らい二人を四階へといざなったようだ。

 

――昔、任務の合間に現地の女の子と遊んでいたときに、白物家電を買いたいからついてきてと言われたことがある。興味ないから一人で行ってくれば、と返したところ、後ろに男がいるだけで対応がよくなるのだから来いという話だった。

女だけだと舐められる現象というものがあるらしい。

 

それの逆で、成人男性である自分がいるとこの面接自体が渋られる、中に入れなくなるかもと踏んで一度退避したわけだが、想定は合っていたようだ。

 

「さて。どうするかね?ドコが一番いいかな?」

 

耳をすませば、外にはサイレンの音が響いてくる。神楽たちは四階に行った。

足音を殺し、気づかれないように神食も四階へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

――絶対変アル。きっとロクなバイトじゃないネ。パンツしゃぶしゃぶして食べる仕事ヨ。

 

神楽はこの旅館に入った時から、雰囲気の悪さを感じ取っていた。この時点でさきに帰ろうと言うか迷ったが、当人がやる気なのでそのままついていくことにした。

 

好々爺は最上階四階のあじさいの間という部屋に案内し、こちらでしばらくお待ちくださいねと言った。ドアノブを引いて中に入れてくれるが――そこには面接の為のテーブルやいすが置かれているのでもなく、猿轡をされ手足を拘束された男女、薬を決めているのか意識もうろうとした女など、十人近くが転がされており――部屋が閉まる瞬間、好々爺と入れ替わりに浪人が二人飛び込んで来、神楽とさきに襲い掛かった。

 

これから商品になる女を傷つけないようにするためだろう、彼らは帯刀していない。神楽はさきをかばうように前に踊り出て、浪人の腹部を殴り昏倒させた。

見るからに不味い状況であることは一目瞭然だ。さきを逃がしたいが、一人で行かせたら道中誰に襲われるかわからない。

 

この部屋に転がされている人々も助けていきたいが、一度にどうにかできる人数ではない。神食はまだクソしてるアルか、思ったその時。部屋の窓、外からサイレンが響き渡り、階下に人の気配を感じた。

 

「真選組だ!御用改めである!七條党神妙にしろォ!」

 

神楽たち以外にもこの階に攘夷浪士がいるのだろう。隣の部屋からも声が聞こえ、その後に廊下へと飛び出て階下へ向かう足音が激しく続いた。それらが静まってから、神楽は友人に振り返った。

 

「税金ドロボー時にはいい仕事するネ。さきちゃん、さっさとズラかるヨ」

「う、うん!」

 

さきの手を引いて廊下に飛び出す。だが階下に向かえば、真選組と鉢合わせることになる。一~三階にも捕縛対象がいて切った張ったをしている中に巻き込まれたくない、また[[rb:沖田 > サド]]あたりと行き会うと「チャイナ、攘夷志士だったんかィ」とか言いつつ切りかかってきそうだ。廊下は今来た手前とさらに奥に伸びている。手前の方が来た玄関、階下へつながる。

では奥に見える非常口から逃げた方が早そうだ。すぐに真選組はこの階にも来るだろう。

 

「奥の非常口からいくヨ、下の騒動に巻き込まれると大変アル」

「か、神楽ちゃん落ち着いててすごいね……」

「かぶき町の女王には屁でもないアル」

 

暗い廊下を駆け抜ける。鉄の非常扉に触れるがその時、自分たち以外の気配を感じて神楽は振り返る。そこには、攘夷浪士ではない何かが三人、こちらに向かって立っていた。

 

顔のみならず全身を包帯で包み、その上に白い着物とマントをまとった男たち。強いてわかる特徴は耳が尖っているくらいだ。各々直刀を腰に下げ、今でも引き抜いて切り付けてきそうな緊張感をはらんでいた。彼らが戦闘種族の辰羅であることは神楽の知る由もないが、それでも先ほどのした攘夷浪士のような簡単な相手ではないことは理解した。

 

「さきちゃん、先に階段から降りて逃げるヨロシ。そしてそのまま帰るアル。難しければ下の税金ドロボーに助けを求めるネ」

「で、でも神楽ちゃん……」

「私は大丈夫ヨ。明日、ちゃんと空き地に来るヨロシ!」

 

ほかの売られる人間より、何故この三人が神楽とさきを優先して狙うのか。今の神楽にそこまで考える余白はない。なぜならすでに三人の辰羅は示し合わせたかのように同時に得物を抜いて迫り来ているのだから。

神楽はさきの背中を押し、己は高く跳躍して天井の梁を掴み、辰羅の背後の廊下へと着地した。そのまま振り返りざまに、辰羅の一人の背を蹴り飛ばし、非常扉に激突させた。だがその間に、残りの二人の刃が左右から同時に襲い掛かってくる。紙一重で――神楽はブリッジをするよう体をそらせ、紙一重で刃をすり抜けて手をつくバク転で後退しようとする。

が、敵も甘くはなく下に振り下ろされた刃を切り返して、バク転から顔を上げようとする神楽に突きを見舞う――が、バク転から顔を上げず、勢いよく前方に膝をカクンと床に落として切っ先より下に上半身を落とした神楽は床を滑り、二人の間の床をすり抜けざまに、右手で右側の辰羅の左足を、左手で左側の辰羅の右足を渾身の力でつかんで勢いよく引きずり倒した。

素早く身をひるがえし、右側の辰羅に背中に痛烈な踵おとしを加えた後その背に立ち、腕から刀を力任せにもぎ取る。そのまま体を起こしかけた左側の辰羅の脇腹をグーパンチで殴り、壁に激突させた。

 

「ふう、なんとかなったア「まだだぜ」

 

一番最初、非常用扉に激突した辰羅が神楽の背中に迫っていた。彼が得物を閃かせ背中に突き立てる方が早いか、神楽が振り返るほうが早いか。それよりも、赤い風の方が早かった。神楽の頭すぐ上に迫る刃が、甲高い音を立てて折れ――刃の主は、刃をへし折りなお威力を落とさない拳を顔面に受け、勢いよく宙を舞いながら再び非常用扉に激突した。

 

正拳突きフォームを崩した神食は、勢いよく神楽に振り返った。

 

「悪い、遅くなっ……あだだだだだ!!」

 

神楽も勢いよく飛びあがり、背後から神食の首にチョークスリーパーをかける。「テンメー今まで何やってたアルかァァ!どんだけ長いウンコしてんだヨ!」

「マジゴメ、今年一の会心の出来だった、スマホで撮影もしたんだけど見る?」

「誰が見るかァァァ!!」

 

チョークスリーパーから解放された神食は、ご立腹の神楽にジト目で見上げられた。「これからどうするアルか。あの部屋に拘束された人たちがいるネ」

 

「俺、下で真選組とかち合ったからお前らも攘夷浪士かァ~~みたいなことにはもうならないけど、コソコソする方が面倒そう。捕まってる人解放して、下に連れていくか」

 

 

ちなみに非常口から脱出させたさきは、外付けになっている非常階段で中庭まで降りてから真選組に保護を訴え、友人が四階に残っていると伝えた。真選組が四階にやってくるより早く神楽の戦闘は終了したわけだが、捕えられていた人を二人で解放して階下へ連れて行こうとしていたときに、上ってきた真選組とかち合うことになった。

捕らえられていた人と四階に転がった辰羅を真選組に任せ、神楽と神食は一階まで降りてきた。そこで神楽を心配していたさきと再会することになり、神楽も一安心したようだった。

 

周囲に規制線が張られ、その外にはやじ馬が集まりちょっとした騒ぎだ。旅館の前に大量に止まるパトカーに、次々と党員がのせられていく。斬りあいは神食が考えていたよりは激しくなく、早々に恐れをなした者が多かったのか逮捕者数の方が多いようだった。

 

「マヨラーくん、おつ!」

謎の馴れ馴れしさで晴れやかに、神食は陣頭指揮をとっていた土方に声をかけた。「テメェ」

 

「部下の人に伝えたけど、人身売買の為につかまった人とかもいるから、ちゃんと話聞いて海賊までたどり着いてね。あと、戦闘民族もいるから上に。倒れてるけど」

「チャイ男、ウチの山崎に情報を流してお前何が目的だ?」

 

結果的に真選組からすれば、神食は単なる協力者だった。七條党と、その先にいるかもしれない宇宙海賊にまで手を伸ばさせて彼に何の得があるのか、土方にはわからない。

 

「野暮用だよ。しいて言うならかぶき町の平和……神楽ちゃんさきちゃん、帰ろうぜ~」

 

 

 

 

 

 

 

多分華陀にキレられるなこりゃ、と前でしゃべっている神楽とさきの背中を眺めながら、神食は考え事をしていた。四階の辰羅は真選組に連れていかれたら、華陀の使いだというだろう。言わなくても、連行された七條党が絡んでいる天人は華佗なのだからいずれ割れる。ただ、あの場にいた辰羅は神食が華佗からレンタルしていた者たちである。

薬の販路構築のために本当に華陀から遣わされたものではない。山崎が張り込みをしていた時から――宿の予約を取り、花野井旅館に滞在しろと頼んでいた者たちだ。

 

さきを長屋にまで送り届けた後、神楽と万事屋への道を歩きつつ、結局さき一家の問題は何も解決していない話をした。さきは神楽と同い年くらいだ。アルバイトもいいが、未成年でまっとうに働けるところは限られる。

そうなると神食にはお手上げだ。神楽は銀ちゃんやババアに聞いてみるヨと話をしているうちに万事屋に到着した。

 

すでに時刻は夜ご飯をとうに過ぎていたが、本日の夕食当番は銀時で、丁寧に神楽と神食の分の莫大な量を残しておいてくれていた。銀時はちゃらんぽらんだが案外生活力はあるようで、掃除洗濯料理一通りはそつなくこなす。

ちょうど食事は済ませた銀時は、ソファにてゴロゴロしつつ、ジャン●を読んでいた。新八は銀時の向かいに座り、テレビをつけてくつろいでいた。

 

「おかえり二人とも、遅かったね」

「遅かったなオメーら。バイトの面接の付き添いはどうだったんだよ」

「聞いてヨ銀ちゃん。マジクソ怪しいバイトだったアル、パンツをしゃぶしゃぶして食べる仕事ヨ」

「パンツをしゃぶしゃぶ?ノーパンでしゃぶしゃぶを食べるんじゃなくて?尖りすぎだろ、癖が」

「ホントついて行ってよかったネ。私汗かいたから先に風呂入るアル」

 

若干眠そうに伸びをしてから風呂に向かう神楽を見送り、神食は先に夕食にしようと台所に行こうとしたところ、銀時に呼びかけられた。

彼は目線をジャンプに落としたままである。

 

「……オメー、なんでわざわざ旅館まで行った?」

「どういうこと?」

「行く以前に止めろっつってんの。あぶねーことに首突っ込むなよ、ポリ公に面倒な疑惑かけられるのはごめんだぜ」

 

神楽は友人の面接の付き添いに神食と行くつもりと、数日前に銀時に言っていた。怪しげなバイトはこの町には掃いて捨てるほどあり、その時は銀時も気にも留めなかった。ただ事のついでに階下のお登勢に話したところ、ここ数年あの旅館にいい噂は聞かないと言っていた。

まあ神楽と神食なら、多少の荒事があっても切り抜けてくる、むしろあいつらの方が過剰戦力でことを大きくしかねない――と別の心配はしたが、身の心配はしていなかった。

が、本来であればそんな危ないバイトの面接現場に行くべきではない。それに加え、神食はあの旅館について知っていたのではないかと思われる節々があった。

馴染みに定食屋で土方から言われたこと。それに。

 

「血の匂いさせて、えらく嬉しそうじゃねーか」

 

ギョッとした顔をしたのは新八だった。神楽も神食も傷一つなくいつも通りだったので、多少何かあったとしても、たいしたことではなかったのだと思っていた。神食は首を傾げ自分の服の匂いを嗅いだが、すぐに手を離した。

 

「俺たちは入った直後にお巡りさんの捕り物が始まったからな。そりゃ多少の切った張ったはあったぜ」

「オメー自身は何もしてねぇって?」

「ほぼ神楽ちゃんが頑張ってくれたからな。俺は何もしてないぜ。見てただけ」

 

それはにっこりと、何か素晴らしい景色を見たような笑み。銀時はジャンプを閉じて立ち上がり、神食と真正面から向き合う。

神楽が頑張った。その頑張る彼女を見ていて、彼は何もしていない。

 

つまり、助けもしていないということ。

つまり、神食は荒事があることを見越して、神楽をそこに連れて行った。

 

「敬愛する師匠の一人娘、どんだけやれるのかは夜兎心に気になるじゃん?」

「バカ野郎。行った先で巻き込まれるならともかく、ハナから荒事があるとわかって巻き込むんじゃねえ」

「大丈夫!本当にヤバかったら俺が全員始末するし、安心安全」

「そういう話じゃねーっつの。荒事になるってわかってて、神楽とそのダチを連れてくことそのものをやめろっつってんだ」

 

ゴス、と銀時の拳が神食の頭を叩いた。当の神食は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いていた。

 

「えっ、そこからNGなの!?」

「……」

 

銀時は怒りよりも呆れた、といった様子で神食を見た。神食としては重傷を負わせることなくお返しすれば無問題だったのだが、そうではないことにショックを受けていた。

 

(こりゃ荒事があるとわかって連れてっただけじゃなくて、実は華陀さんから借りた辰羅に「ピンク色の頭の女の子が来たら襲って」って配備してました、はもっとアウトだよな?)

 

余計なことは言わぬが華である。

神食は「人間倫理ムズ~」とうめいたが、気を取り直し、今後はやらないとして、神楽を見た感想を口にした。

 

「師匠と神楽ちゃんの話を合わせると、今までだれかに師事して戦闘訓練を受けたわけじゃないだろ。故郷の治安は悪いけど、師匠が仕送りをしてるから窃盗強盗を毎日して生きてきたわけでもない。それであの戦いぶり、で、殺さないように手加減もできている」

 

とてもおいしい和菓子屋をみつけた、とてもかわいい女の子が歩いていた、とてもおいしい酒をみつけた。ここ数週間、神食は心底楽しそうにくだらなくも楽しいやり取りを銀時や新八とも繰り広げていた。

今話している口調もそれと全く同じで、だからこそ異様だった。

 

「だからこそ殺人の才能しか感じないぜ。このまま腐らせるのはあまりに勿体なさすぎる――俺が引き取ろうかな?」

「……テメェ」

 

銀時が神食の胸倉をつかむ。銀時と新八は知っている。

夜兎は戦って戦って独りぼっちになったから――己を律し、己の力に溺れず、壊すだけでない力の使い方を模索する神楽の事を。その意思を踏みにじることを、許すことはできない。

 

「大丈夫だって、14って俺もう一人でえいりあんはんたーやってたし。イケるイケる!」

 

口調はどこまでも軽く、楽し気で。いつものへらりとしている神食と、銀時の鋭いまなざしが交錯する。

そこで神食は己を掴む銀時の腕をつかみ返し、力を込めた。

 

だが、それは敵意の籠った掴み返しではなかった。

 

「……って俺はソワソワしちゃうんだけど、当の神楽ちゃんにその気がないからな~諦めるしかないか」

 

ハァ~と至極残念そうにため息をつく神食。あれ?と銀時と新八の方が拍子抜けする。

 

「え……?あの神食くん?これは、お前がアイツを無理矢理宇宙に連れて行ってビシバシ鍛える、俺たちはアイツは行かせねぇ!ってシリアスに戦うジャンプ的な流れじゃないの?」

「何その流れ?神楽ちゃんもしかして殺戮に興味あるの?殺人プレゼンとかした方がいい感じ?」

 

きょとんと答える神食に、ついに我慢できなくなった新八までも突っ込む。「いいわけねーだろ何おっそろしいプレゼンしようとしてんだァァ!教育に悪すぎるわ!さわやかに犯罪教唆すんなァァ!」

「ほら、俺もやりたくないこと強制されるの嫌いだし。自分が嫌なことを人にやるのはよくないだろ? こういうのは本人の自主性が大事だからな」

「え?結局お前は何もしない……ってこと?」

「うん。師匠の娘さんの戦いぶりが見れて眼福って話」

 

ハァ~と、一気に力が抜けた銀時と新八。

銀時は神食から手を離すと、どっかりとソファに座りなおした。紛らわしいことをするなと言いたい。

神食も胸元を整えると、さらりと銀時の隣に座った。

 

「戦闘の才能があるからお前は戦って生きろ!っていうのも、なんか窮屈でつまんないよな。才能がある分野で生きた方がいいのかもしれないけど、才能なくてもやりたいことあんならそっちをやればいいんじゃないかって思うワケ」

「へーへーそうですね。もう二度とすんなよ」

 

もうどうでもいいや、と完全に弛緩した銀時はソファに再着席し、ジャンプを再び手に取り読み返し始めた。

新八も「今日はカレーですよと」伝え、そろそろ道場に帰る準備をすると席を立ち、完全に通常運転に戻ったのだが――なぜか、相変わらず神食はニコニコして銀時を眺めているのであった。

 

「……何?俺の顔になんかついてる?」

「……もう師匠が神楽ちゃんを預けるのをOKしてるから、俺がさらにコイツら大丈夫?って思っちゃうのも僭越感があったんだけどさ。銀さんたちでよかったんじゃないかと思って」

 

言われてみればその通りで、銀時たちが神食を危険でないかと考えるならば、星海坊主の弟子である神食も、銀時たちが神楽にとって危険でないかを考えるのは至極当たり前である。

 

「銀さんと新八くんは、神楽ちゃんが危ないことしそうになってたら止めるだろ?で、俺が神楽ちゃんを、悪い道……つか本人の望まないところに連れて行くと思ったから怒ったんだろ」

 

銀時は黙って神食を見た。それは全くもって正しいのだが、わざわざ言葉にするなよという気持ちである。銀時の内心を知ることなく、彼は微笑んだまま嬉しそうに話し続けた。

 

「神楽ちゃん十三、十四だっけ? 行動に色々文句言われるのとかウゼーかもしんないけど、てか確実にウゼーけど、変な誘惑が多いからね女の子は。変な彼氏を連れてきたらシバくけど、普段は放置くらいで遠くから見守るくらいのお父さんがちょうどいいのかなって。親ごと記憶ブッ飛んでる俺に説得力はないんだけどな」

「オメーどういう立ち位置?」

「自認は近所に暮らすお兄さん。成長を生暖かい目で見守っています」

 

どや、と何故かサムズアップして誇る神食に対し、銀時は盛大にため息をついて頭を掻いた。

 

「……お前、結構メンドクセーな……」

「エッ!?めんどくさい要素どこにあった?初めていわれたんだけど」

 

銀時は衝撃を受けて頭にクエスチョンマークを浮かべる夜兎を横目で見た。神食自身の性格は面倒くさくない。

むしろ天邪鬼や不器用者が多い銀時の周りと比べれば、図抜けて率直かつ裏表がない。シラフで言ってて恥ずかしくないのかとも思う。嘘もあまり得意ではないから、嘘はつかず、隠したいことは喋らないことで隠ぺいを図るタチだろう。

 

面倒なのは、彼が言った二つの言葉「一人で鏖殺の才能を生かして戦うべき」「保護者に見守られつつ、才能に関わらず自分の意志で道を選ぶべき」は両方とも本音であろうことだ。それは彼の中でも、おそらく両方とも重要な価値観として並び立っていることを意味する。本人のなかでその二つは反目しあっていないのか、それとも……。

 

銀時の脱力をよそに、まだ話したいことがあるらしく神食はそうだ、と話を続ける。

 

「言ってどうこうなるもんじゃないんだけど、神楽ちゃん、本能を怖がって過剰に押さえつけてるようにも感じんだよな。でも戦闘って俺たちには本能だからさ。必須順は寝る、食う、ヤるor[[rb:戦 > や]]るだから、極論戦わなくても生きてはいけるんだけど……溜まるもんは溜まるっていうか・・・・・・」

 

うーん、と明後日の方向を見る神食。「あんま我慢すると暴発するって話。殺すつもりで殺すならいいけど、そういうつもりじゃないのに気がついたら周り死体だらけとか目も当てられねーから「さっぱりしたアル」

 

気がついたら神食の横に風呂上がりの神楽の姿があった。おっくうがって髪の毛は乾かしてないらしく、タオルをかぶったままの寝間着姿だ。完全に彼女を意識に外していた神食はちょっとソファから飛び上がる。

 

「ウァアアアアびっくりした、早くない!?」

「おなか減って早く出てきたヨ、何の話してるネ。私の名前聞こえたアル」

 

神食はちらっと銀時を見たが、おまえが始めた話だろうがよと助け船を出してくれない。仕方ない、と神食は咳払いをして、立ち上がり中腰になって神楽と目線を合わせ、両肩に手を置いた。

 

珍しく真面目な顔をした神食に、神楽も少しかしこまる。よく全裸になってたり白目をむいていたり、どこの伊達男かヨってくらいに美人には粉をかけているが、大本の顔立ちは整って、目付きは三白眼ゆえにやや悪いが眼光鋭い。

だいたいはヘラヘラしているものの、逆に言えば、笑っていないと少々怖いともいえる。珍しく強めに、大きな手が神楽の肩を掴む。

 

「神楽ちゃん。これは夜兎の先輩としての言葉なんだけど」

「な、何アルか」

「オナ禁はほどほどに「何の話だァァァ!!」

 

神楽の正面右ストレートが神食の顔面にクリーンヒットし、ついでに神食の直線上の背後でジャンプを読んでいた銀時まで巻き込んで、ふたりは壁に激突した。

鼻血を吹き出しつつも意識を保っていた神食は、何か重大なことに気づいたように叫ぶ。

 

「こ、ここでパンチが飛んでくるってことはもうオナ禁の意味を分かって……かぶき町教育に悪「お前が言うなァァァ!!」

 

神楽の追撃、二発目の右ストレートがさく裂し、ついでにまた背後の銀時までもっと壁にめり込んだ。二度の大きな衝突音に、和室で荷物をまとめていた新八も顔を出す。

 

「ちょっと何やってるの二人とも」

「マジキモいアル、私に触らないで」

 

神楽が汚らわしいものを見る目付きで神食を見下ろしていたとき、バラエティが流れていたテレビが特徴的な音を立てて速報に切り替わった。

神食と銀時は仲良く白目をむいて気絶しているが、神楽と新八はなんとなくそちらに目をやった。

 

『宇宙指名手配中の凶悪犯がかぶき町に潜伏しているとの情報が入りました。今このときから警察組織が捜索・捕縛をするので、住民の方々は極力外出をお控えください』

「宇宙指名手配犯?物騒で……」

 

新八のコメントは途中で途切れた。

なぜなら、テレビに映されたその手配犯の写真が、ものすごく見覚えのある人物のものだったからだ。

 

多少荒いが、全裸で空の一升瓶を抱えて爆睡している赤い髪をした男の写真。

まさに今、壁に激突してのびている居候と全く同じ。

 

「えっ!?」新八は高速でテレビと居候の姿を見比べた。他人の空似?双子?

 

その間に神楽が神食に馬乗りになって高速で頬をビンタする。

逆に意識が永久に消失しそうだが、目が覚めた彼はのろのろと起き上がり、必死の形相の新八が指さす画面をまじまじと見た。

 

 

「……俺だな?」

 




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更新とか裏話とか妄想をする予定※現在鍵垢

この小説2010年頃書いてたモノのリメイクなんですが、旧版発掘して読んでたらもう大筋しか残ってなくて(笑)
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