夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第11訓 愛を捨てたケモノと、愛を知らぬケモノよ

「ふんうぐぅぅッ!」

 

大便をいきむような声を上げて、銀時は神威からくりだされる尋常ならざる重さの拳を木刀で弾き飛ばした。並の人間なら一撃の衝撃のみで体が崩壊してもおかしくないはずだが、銀時は凌いだ。

思いもしなかった光景に神食は瞠目する。だが驚いている場合ではない――自分の体がおかしくなったのは先ほどの被弾が原因に違いない。効果があるのかはわからないが、銀時が生んでくれた隙に神食は己の右手で左肩の弾丸を捩じり摘出した。

 

銀時の介入で神威も追撃を止めてくれるかと思いきや、どこのだれであろうと己の本気の一撃を払いのけた人物は間違いなく強者と認識したのか、さらに連撃、左の拳を振るう。銀時は身を翻してそれも回避し、踊るように神威の背後を奪い、木刀が神威の胴を狙って振るわれる――が、察知している神威は体を後ろに捻り迎撃しにかかる。

 

神威の蹴りと木刀が激しくぶつかり合い、互いに大きく距離をとった。しかし神威はまだ止まらない。土煙の中、真っすぐに銀時へと走り出す。笑っている。決して大柄ではないのに恐ろしく重い蹴り、おそらく次の蹴りを木刀で受ければもう折れる。

 

だがその時、銀時は神威のはるか後方、煙の奥に人影を見た。どちらが、早いかだ。

 

「神威オルァァ!!」

 

神威の拳が銀時に襲い掛かる刹那、それは追い付いた。神威の背後、頭を狙った一撃。

僅か右側に振り向いた神威の顔に、神食の拳が叩きつけられた。前方の銀時に気を散らされ、それは珍しく仮借なくめり込んだ。神威の体が宙を舞い、剛速球で飛んでいく。

 

神威からのダメージ諸々が治ったわけではなく、身体能力が戻りきっておらずとも回復を始めていた神食は、肩で息をしながらも慌てて銀時に駆け寄った。

 

「…つか、ぎ、銀さん!? なんでここにオエッホガハッ」

 

驚きすぎて負傷も忘れて大声を出したせいで、血混じりに胃液を吐き出した。だが銀時は銀時で、彼の頭をげんこつで殴った。

 

「痛っ!」

「何ではこっちの台詞だバカヤロー。友達(ダチ)と河原で殴り合うのも結構だがよォ、地上の大騒ぎほっぽって何楽しんでんですかァァ!!??」

「友達!?いや友達よくわかんないけど、あんなん確実に友達じゃねーよ!!よしんば友達だとしても友達と書いて連続殺人鬼って読むけど!?でも銀さんメッチャやるじゃん、神威とやりあえる地球人ヤバ、これがジャパニーズサムライ?」

「マジお前なんの反省もしてねーだろォォ!!夕飯やらねーぞコルァ!!」

 

神食は感動の眼差しで銀時を見てくるが、あんなんと長時間もやってられるかが銀時の正直な感想である。今も神食の復活が間に合わなければ木刀は折れていたろうし、あんなものを一人で受け続けていれば耐久力切れを起こすのはこちらだ。

 

視界の端、闘技場の端に転がっている神食の傘または大傘を拾えれば――夜兎の振るう武器だから強度も高いはず――もう少しやれるかどうかだ。

 

「……そういえばキミ、誰?」

 

一発ぶん殴られて流石に正気、というか落ち着きを取り戻したらしい神威が、いつの間にか神食たちの元に戻ってきていた。

それと同時に、阿伏兎が飛耀の首根っこを捉えて三人の元に現れる。

 

「団長、戦犯はこいつだ」

 

ぽん、と神威の前に飛耀が転がされる。手には、硝煙の立ち上る番傘があった。

 

「どういうこと?」

「コイツ曰く、試作品で作った夜兎殺しの銃弾、極光弾を参謀長に撃ったんだとよ」

 

言われて神食も思い出した。「極光弾」

太陽を克服する道具を作ろうのコンセプトの真逆を行ってしまったために、飛耀と自分でお蔵入りにした銃弾だ。確か効果は、夜兎の身体能力を人間並みに落とす。他不明。詳しくは第二訓裏を読んでくれ。

 

極光弾、何だっけソレ?と神食は記憶を探る。あったわ、確かに。試し撃ちしていいとも言ったわ。

 

「あああ~~~ッ!!? えっ!?すごいタイミングで命狙ってくるじゃんお前!」

「うわぁああん参謀長~~!! 殺すつもりはないです少し弱らせたかったんデス~~!!」

「どういうこと!?ヨワラー!?」

 

飛耀は番傘を放り出すと、おろおろしながら神食のところに転がって土下座した。神食は何が起こっているのかわからず、飛耀と阿伏兎を交互に見やった。

阿伏兎は呆れながら飛耀を指さして言った。

 

「あ~……こいつ、団長がお前を殺したがるのは強いからで、じゃあ弱ければ殺さないって思ったらしい」

「ええ……お前、頭いい時と悪い時の差が激しすぎない!?つーかどういうこと!?」

「正直効果の長さはわかりマセンでしたが、数十秒でも弱くなればきっと参謀長、団長の攻撃くらうじゃないデスか!そうすれば団長も「アレ?変だな?」って思って止まるカト……しなしなの参謀長を殺しても、団長はきっと満足しマセン!」

 

なんじゃそりゃ、と神食は全力で脱力した。中途半端に合っているが中途半端に間違っている。

確かに体調不良などで不調の自分を殺して満足するような神威ではないが、こんなノリノリで戦っている時にいきなり弱くなっても神威は急に止まらない。宇宙船急には止まらないのと同じ。

 

それに攻撃を食らうだろうって、神威相手に普通の人間が10~20秒でも耐えられるか?死。

 

しかし元々極光弾について飛耀の話していた通りで、無理矢理引っこ抜いてからは体自体が回復傾向にある。ただ殺す蹴りをまともに食らってしまったダメージは残っている。

 

なんとなく弛んだ空気になったところだが、今まで黙っていた男が静かに口を開いた。

 

「飛耀」

 

勿論、神威である。彼はいつもの笑顔のまま、すたすたと飛耀と神食に近づくと腰を下ろした。

 

「俺の戦いを邪魔するなんて、本来なら殺すけど」

「ヒィ~~ギャッ!!」

 

神威は飛耀の頭にげんこつを落とし、地面にめり込ませた。ぴくりとも動かないんだけどこれ死んでないだろうか。

 

「面白いものが見れたから、これと減給で許してあげるよ」

「これ以上減給されたらワタシが給料払うことになりマス!!」

 

地面にめり込んだまま喋っているのでとりあえず大丈夫そうである。弱くとも夜兎。

神威は腰を落としたまま、地べたに座っている神食を見た。彼はものすごく不服げな顔をしていた。

 

「面白いものって、俺が無様に地面に転がっている事かよ」

「やっぱバカだね。そっちじゃなくて、なんでお前があんなヘナチョコ弾を避けられなかったかだ」

 

神食は悔しくもそれに関しては神威と同意見だ。通常であれば、あんなものかすりもしない。

 

神食の攻撃に対する異常な反応速度は、前触れとなる殺意を察知していることに由来する。害意、敵意、悪意、「己を傷つけようとする」意思に対する第六感、直感。

 

神食曰く、手練れであればあるほど殺意と実働の速度差が限りなくゼロに近づく。だから時によっては敵の初動よりも彼の防御行動、もしくは先制攻撃の方が速くなり、攻撃に至る前に敵が倒れる。

 

しかし、仮に「傷つける意思のない」攻撃があるとしたらどうだろうか。

 

目的に対する手段としては的外れもいいところだが、飛耀の本意は「神食を弱くして神威に興味を失わせ、殺させない」ことにある。とすれば、その彼から放たれる弾丸(攻撃)は、神食を傷つけようとする意思ではなくて、神食を護ろうとする意思。

 

飛耀の攻撃に殺意も敵意も害意もない。あったものは、言うならば友愛だろうか。

 

めり込みから復帰して神食の無事を確認している飛耀を見ながら、神威は笑う。

 

悪意や敵意、害意に気づけないことは死に直結するが、好意や愛に気づけなかったところで死にはしない。

生存のために殺意の探知に特化・最適化された戦闘学習の結晶。

それがゆえの陥穽。

 

「お前を殺すものは殺意じゃなくて、愛なのかもしれないね」

 

「護りたいから傷つける」「愛があるがゆえに傷つける」攻撃を、神食の体は想定していない。

神威は飛耀を眺めながら、それを理解しても自分にはできないことも理解していた。

 

地面に転がる能天気な好敵手は耳くそをほじって聞き返した。

 

「愛?えっ、お前愛って知ってんの?食いもんじゃないぞ」

「その言葉そのままお前に返すよ。やっぱり殺しちゃおうかな」

 

これまでずっと神食を殺すために、その戦闘と矛盾を読んできた。でも自分と同じくいずれ最強へと至りうる夜兎を刺したものは、まったく違うモノだった。

そして、その手段は神威には使えない。神威には、善意で神食を傷つけることができない。

 

「まあいいや、どっちにしろ白けた。お前は懲戒解雇(クビ)、どこへなりとも行けばいい。後始末は阿伏兎がなんとかするよ」

「団長ォォ!」

 

神食は死なずにすんだが、代わりに阿伏兎はダメらしい。これからのことを考え始めたのか、目の下のクマがなんとなく濃くなったように感じる。

むっとした神食は腹を抱えて立ち上がり、神威にガンをつけて言った。

 

「クビじゃなくて自主退職」

「クビ」

「自主退職」

「クビ」

「自主退職!」

「おい、もうそろそろ時間だスットコドッコイ」

「オイいつまでじゃれてんですかコノヤロ-。つーか俺ずっと話においてけぼりだからな?」

 

神威の首根っこを阿伏兎が引っ張り、神食の首根っこを銀時が引っ張った。はいはい、と神威は阿伏兎に告げて手を離させ、服についた埃を払うと、地面にめり込んだままの飛耀の首根っこを掴んで力尽くで持ち上げた。

そのまま片手で阿伏兎にパスすると、神食を見た。

 

「なんでクビなのかは宿題だ。ま、おまえが宇宙で跳ね続けるならまた会うこともあるだろう。甘ちゃんのおまえがどこまで死なないでいられるか、楽しみにしているよ」

「俺知ってる、お前みたいな無駄な強キャラ感を出す奴は豆腐の角に頭をぶつけて死ぬとか便所で乙るとかしょうもない死に方をする」

「何でもいいよ。強者生存、生きていた方が勝ちだ」

「お前の葬式でリンボーダンスして棺桶に唾はいてやるから楽しみにしてろ」

「俺が死ぬのとお前のメンヘラが治るの、どっちが先かな?」

 

双方、視線が交錯する。顔の造形は異なるがお互いに狂気じみた笑顔を浮かべていたが、それも刹那の事だった。

 

「ところで」

そこで神威の目が、傍らの銀時に移る。「そこの人はこの国のお侍さん?」

 

まずい、と神食はもう手遅れだが銀時の前に立ち、神威の視線を遮った。

まがりなりにも夜兎ではない地球人が、本気の神威の攻撃をいなした事実。それを忘れる団長様ではない。

 

「この人はそう、なんでもない、綿菓子の妖精さん!綿菓子を食べることしかできないフワフワの妖精さんだから何の力もないぜ!」

「ちょお前どんなファンタジー?そりゃ綿菓子は好きだけど「だからそう、ねっ、帰ろう銀さん!俺お腹空いたよアッハッハッハッカレー残ってる?」

 

神食は銀時側に振り返ると、ぐいぐい彼の体を押して退場させようとする。

神威は興味深げにそのさまを見ていたが、神食に背を向けると、もう振り返らなかった。

 

「阿伏兎、飛耀、撤収だ」

 

はいよ、ハイ、と各々の返事を返す。だが、その時に飛耀が振り返った。

 

「神食」

「……え、お、おう」

 

参謀長になってからはずっと役職で呼ばれ続けていたため、神食は反応が遅れた。そう呼ばれていたのはもう3年は前の話だ。そうだ、春雨を辞めるからもう役職もクソもないのかと遅れてから気づく。飛耀の顔は、何やら文句ありげだ。

 

「やめるなら一言くらい言エ!元気でやれヨ!ご武運を!これは餞別!」

「あ、お、おう、ごめん、あ、ありがとう」

 

確かに世話になったのに不義理だったかもしれない。そんなに自分が辞めることを気にされるとは思っていなかった神食は、弱冠挙動不審の返事をした。

差し出された封筒には、表に「戦闘分析レポート」とシャープペンシルで書かれていた。大分前に戦闘を見てくれと頼んだことを思い出した。

 

そして、なぜか神威に続き飛耀までも銀色の侍の方をじっと見つめる。

というかすぐ近くまで近寄り――「天パのお侍さん!参謀長、じゃなかった、神食を末永くよろしくお願いしマス!」

「ハァ!?飛耀お前どういうポジションから言ってんだ!?お前は俺の何!?」

「ハァ!?こんな危ない奴を勝手に末永くよろしく任せんなァァ!!」

 

神食と銀時がほぼ同時に突っ込む。逆に飛耀の方が不思議そうに口を開いた。

 

「何って、大事な友人デスよ。まったく腕力ばっかり強くなっちゃってェェ!!ヨロシク」

 

その一言に、神食は絶句。酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を開けたり閉じたりして処理落ちしている。

一方の飛耀は言いたいことは言い終えたようで、くるりと踵を返して振り返らなかった。

彼の白衣と、ポニーテールが呑気に揺れていた。

 

「さ、最近友人ってワードをよく聞くな……?」

 

処理落ちから戻った神食は、わからないながらも決して不愉快ではない気持ちで、彼の事を思い返した。

思えば飛耀はほぼ同期のようなもので、神威とは全く別種の時間を長く過ごした相手だった。春雨入団が十六歳、今が二十歳。

だから何だ、というわけではないけれど――あまりにも血生臭くも、烏兎怱怱に過ぎた青春の終わり。

 

 

飛耀。変な夜兎だな。神食は自分の事を棚に上げてそう思う。

さっきはいいところに邪魔入れやがって、と思ったけれども、止めてくれてよかった。あのノリノリ状態のとき、もちろん楽しいのは楽しいんだけど、思ってること全部口から出るから、あとで思い出してちょっと恥ずかしいし。

それにあれの果てって、結局横死だぜ。あ~やだやだ。

 

神食がぼんやりそんなことを考えている時、神威の足が止まり、最後に振り返った。

 

「神食」

「何だよ」

「お前の赤い大傘。あれ、大層な高級品だろう? 春雨辞めても大切にしなよ」

 

変なコメントだなと思いつつ、神食は頷いた。

とにかくどうやらこれで退職はできるらしい――しばらく会うことはないだろうと、神食は手を振った。

 

 

「じゃあな神威。ご武運を」

「お前も」

 

 

 

 

 

 

 

 

神威、阿伏兎、飛耀が立ち去り、天人の死骸がそこら中に転がる闘技場。舞い上がった土煙やつり屋根、観客席の残骸が散らばり、埃っぽく血の匂いに満ちていた。

神楽や星海坊主の戦いを見たことのある銀時だが、やはりとんでもない種族だなと再確認する。

 

此の戦いを演じた片方は、ひょこひょこ歩きつつ自分の番傘2本とリュックサックを探していた。戦いの序盤で傘も放り投げてしまい、後から探すことはよくあるという。

無事発見し、黒い傘をリュックに差し、赤い大傘を右手に持ち撤収する運びになった。

錆びた階段を上りながら、そういえば、と神食は銀時を見た。

 

「銀さん、何でここに?」

「遅せーよバカ。あの天人の大群、どうやらテキトーに動いてるんじゃ無くて指示を受けて走っているみてぇだったからな。大筋を追いかけていったらここについたんだよ」

「じゃあ神楽ちゃんと新八くんは?」

「速報も知らず出歩いてた酔っぱらいがいてな。武装天人から助けたりしてたら俺だけになっちまった」

 

後から追いかける、と二人は言っていたが、すでに天人の大群自体が消失した今となっては追いかける方法もないだろう。

万事屋に戻っているとみるべきだ。神食はほっと胸をなで下ろした。

 

「てか、なんとなくわかってるかもだけど」

「あん?」

「あのピンク頭俺の前職の上司。で、神楽ちゃんの兄貴。そんで、ここにいたことを黙ってて欲しいんだよな」

「え”っ」

 

壮絶な戦いを繰り広げていた、三つ編みのピンク頭の男。思い返せば確かに神楽によく似てはいた。星海坊主曰く、親殺しで父の片腕を奪った凶悪なガキ。

だが、一家離散状態になった今でも、神楽は元の家族の姿に戻りたがっているとも。

 

「師匠詳しいこと言わないけど、どう見ても複雑なご家庭になってるじゃん。俺、なんか流れで父息子娘と知り合っちゃったし、神楽ちゃんは意図的に会ったけど」

 

傘を小脇に抱え、折れた左手を右手でばきばきと雑に直しながら、神食は困ったように口を開いた。

 

「俺は師匠と神楽ちゃんのことは好きだけど、他人だし。引っかき回したいわけでもないというか」

「……オメーがそう言うなら、俺は構わねぇけどよォ」

 

銀時は大仰にため息をついて隣の男を見た。常時時速200キロで厄介事に首を突っ込むか起こすくせに、どうしてここで時速200キロで後退するのだ。

銀時の思いはさておき、黙っていてくれることに安心した神食はスキップで階段を上り始めた。

夜兎とはいえ負った傷は治りきっていないだろうに、現金なものである。

 

階段を上りきり、地上に出た。スラム・廃墟といっていい場所柄、空気が良いとは言いがたいが――黎明にもまだ遠く、暗闇深い街でも月はあった。雲間から顔を見せた満月は歩くには十分な光を与えた。

 

彼の様子を見るに丸く収まったであろうことはわかったが、詳しい事情は万事屋で聞かないといけないと銀時が思ったとき、急に神食が振り返った。

 

神食は埃塗れの銀時を上から下まで眺めて、大怪我がなくてよかったと思う。

たかだが弾丸を抜くまでの短い間の効果でも、神威相手にその時間無防備になることは死を意味する。銀時の介入がなかったら今どうなっていることか。

 

それでもどうせ死ぬのは自分だけだから、銀時がそんなに危ないことをする必要はなかったと神食は思う。

それでも助けてもらったことは確かだ。なんやかや生を拾った。

 

「言い忘れてた。銀さん、ありがとう。生きててよかったよかった」

「へいへい」

 

銀時自身は、あれは本当に助けたカウントでいいのかよくわからなかった。

彼は煉獄関に到着してすぐさま助太刀に入ったのではない。神威と神食の戦いを見て、神食がそれはそれは生き生きと楽しそうに戦っているものだから――「アレ?あいつ何かに追われてたはずだけど、これ俺が入ったら邪魔な奴じゃね?」という疑念すら浮かんだのだ。

銀時以前に飛耀の超ド級の茶々が入ったので、その思いも吹き飛んだが。まあいいか、と神食の顔を再度見た瞬間、後悔した。

 

彼は笑顔といえば笑顔なのだが、赤い瞳が爛々と輝き口角を上げ切った満面の――神威と戦っていたときに似たそれ。

 

「それはそれとして、今度俺と()らないか!?」

「野郎に誘われても何も嬉しかねぇんだよ」

「イデッ!!」

 

神食に拳骨を落とし、まともに取り合わない。

一方的に対人で夜兎を殺す方法を嬉々として語りまくっていたので、もう一発落とした。

 

「いや~地球来てよかったな。銀さん以外にもちょいちょい骨がありそうな奴いるし」

 

平穏と戦争を同時に望むような厄介な奴、そして多分、自分の命を勘定に入れていない。

 

銀時は大仰にため息をつき、頭を掻いた。

と、その時前方から獣が走ってくるような鈍い音が響いてきた。それに、懐中電灯のようなライトの光。

 

「銀ちゃん!神食!」

 

それは定春に乗った神楽と新八だった。新八の方は懐中電灯を携えて銀時と神食を照らし出した。二人とも、酔っぱらいを救助した後も大人しくしていることはなく、神食と銀時を探していたらしい。

 

「こんなところで何やってるアルか!神食お前結構ドロドロネ、何してたアルか!」

 

神威と殴り合ってればこれくらい大した傷ではないのだが、極光弾がまずかった。

あなたのお兄さんと殴り合ってました、というわけにはいかない。神食はヘラヘラ笑いながら答えた。

 

「元上司が来て退職面談してた。退職していいって」

「へえよかったですね……ってなるかァァ!!かぶき町一帯巻き込んで血まみれになる退職面談って何!?」

「反社だし死んだり殴り合ったりすることもあるぜ」

「そういわれるとツッコミづらいんですけど!」

 

新八は顔をひきつらせて律義に突っ込んでくれた。でも嘘じゃないし、と神食は心の中で思う。

しかし振り返れば、自分を連れ戻しに来るでも上層部からの指令でもなく、神威は本当に面談の為に地球くんだりまでやってきたことになる。結構真面目に上司、もとい団長をやってて感心する。

 

「つーかお前らよくここまでこれたな?」

「神食の靴下ウチに残ってたアル」

 

神楽はイヤそうに指先で黒い長靴下をつまんでいた。定春もイヤそうに顔をしかめていた。

 

「エッまさか加齢臭!?俺まだ二十なんだけど!?」

「単に洗ってなくて臭いだけですよ、神楽ちゃんが洗濯物分けろって言うからまだ洗ってなくて」

「ウソォ!?それ俗にいうお父さんじゃん!むしろ嫌がられるべきは銀さんだろ!」

「銀さんの足は臭くありません~甘いお砂糖の匂いなんですぅ」

「それはそれで大丈夫!?糖尿的な意味で」

 

神食、銀時、神楽、新八、定春。

まだ月の高い、騒乱から打って変わって静かになった夜を、万事屋一行と居候は帰途についた。

 




文章では「直感」って書いたけどfate的に表現すれば夢主のあれは「心眼」 
心眼(偽)か心眼(真)かは悩ましいところ ※偽が天賦の才で真が修練の結果
次回と次次回で春雨退職編完結
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