万事屋に来客を知らせるチャイムが鳴り響いた瞬間、全身包帯巻き、というか包帯しか身につけていないミイラ男が結婚式のエンダァァァイヤァァァァ、「I WILL ALWAYS LOVE YOU」を熱唱しながら全力で和室から抜け出し廊下を駆け抜けて走る。
そして玄関をぶち破らんばかりの勢いでスライドして開く。
「しぃぃぃぃしょぉぉぉぉぉ」
玄関に立っていたのは、白が基調の全身防護服のような厚手のコートに、ゴーグルを身にまとった男。ミイラ男に対し、容赦なく拳を振るい――「こんのバカ弟子がァ!!」
「ぉぉぉぉおおおおおおおおお~!!」
真っ正面顔面にその拳をくらったミイラ男は、ドップラー効果にて今度は段々と低い声をあげながら、これまで疾走してきた方向へと逆に吹き飛ばされ、廊下の突き当たりの壁にめり込んだ。壁を貫通しなかっただけ、まだ手加減はされている。
包帯巻きの神食は、万事屋の居間で茶と茶菓子を用意して、行儀良くソファに座っていた。
見舞いに来ていた生ける伝説と名高いえいりあんはんたー星海坊主は、神食の対面に座ると帽子を外して顔を出した状態で、神食をじろりとにらみつけた。対する神食はその眼光にもおびえること無くヘラヘラと笑顔だ。
「師匠♡お久しぶりです♡以前お会いした時よりも頭が儚げになっていて素敵です♡」
「オウ久しぶりにあったのにいい度胸だな、ブチ殺すぞクソ弟子」
「宇宙最強なのに頭髪は宇宙最弱っていうギャップが堪りませんね♡これがギャップ萌え」
「うるせェェそんなに萌えてんならお前の毛も除草してやろうか自分に萌えろォォ!」
「あっ俺が宇宙最強なんて恐れ多いんで特に萌えないです」
「突然の正気ィ!!」
ったく、と息をついた星海坊主は、神食以外に人の気配が無いことに気がついた。「あいつらは?」
「銀さん達は仕事でいないぜ」
神威との戦闘後、新八・神楽・定春と合流した銀時と神食は、既に天人たちが引いていたこともあり何事もなく万事屋にまで帰ることが出来た。飛耀の言っていた極光弾の効果はすでに切れ、身体能力は夜兎のそれに戻っていたのだが、予想されていなかった作用が後から判明した。
極光弾は太陽光線を凝縮した弾丸。弾自体は自力で指をつっこんで抜き出していたが、此の弾はただでさえ無い夜兎の太陽光線への耐性をより下げてしまう。神食が今ミイラ男をやっているのは、今太陽に少しでも当たると皮膚がただれてしまうからだ。
幸いこの耐性低下は永続せず、被弾から三日経った今は五分くらい日中を歩くくらいなら無事に帰ってこられるようになっている。完全回復は時を待つしか無く、今は万事屋に引きこもっているというわけだ。
どちらにしろ今の神食は町中で指名手配されたばかりなので、うかつに外を歩けはしないのでちょうど良くはある。
「でも師匠がわざわざ来てくれるなんて感激。前もって手紙出した甲斐があったぜ」
星海坊主が万事屋に来たのは、神食が春雨を辞めて地球に来ると知っていたことと、神楽がいるからである。神食を見舞いに来たわけでは無い。
「こんなことになってるとは思ってなかったけどな。……つーかお前、手紙でも何度でも言ったけど春雨なんて面倒なモノに入りやがって!犯罪シンジケートに関わるなって言っただろうが」
「師匠だって春雨の元老に知り合いがいるくせに」
「長らくえいりあんはんたーやってるとしがらみってもんが出てくるんだよ」
「俺だって入団か死ぬかのジョインオアデッドだったんですぅ~原因は月落としだし」
星海坊主は包帯まみれの弟子の姿を上から下まで眺め、苦笑した。
神食が送り付けてくる携帯通信機や文通で会話・連絡は時折できていたものの、直接会ったのはもう五年前になる。
神食が惑星深閃にて月を落とした後に会ったのが最後で、その後まもなく彼は春雨に入った。その気になれば都合を会わせて直接会うことも可能だっただろうが、お互い海賊業にハンター業に宇宙で住所不定、なんやかんや連絡をとれていたこともあり会わずじまいになっていた。
五年。星海坊主の方は髪がより儚くなったくらいの変化だが、十五のときはもう少しかわいげがあった顔と身長だったが、今や身長は星海坊主よりも十センチは高く見紛うことなき成人だった。なんとなくムカついた星海坊主は無茶苦茶強烈なデコピンをかました。
ともかく出会った当時から並の子供では無いと思っていたが、その勘は外れなかったようだ。
ふと、包帯まみれの神食は何か思い出したように口を開いた。
「そうだ師匠、一つ相談したいんだけど。春雨で、俺の弟子になりたいっていってるクソガキがいて困ってんだけど、どうやって断ればいいのかな」
子供なんか飽きっぽいから、燕明は数カ月置けば「神威の弟子になる」と言っている可能性も大いにある。様子を見に行ってそのオチになる可能性も普通にあるし、それならそれで万事解決なのだが、そうでなかった場合を気にしている。
「弟子にしたけりゃすればいいし、嫌なら断ればいいだろう。何を悩んでんだ」
妙にもじもじしている神食は、しばらくもごもごしてから小声でつづけた。
「……多分、嫌ではないんだけど……師匠が俺にしてくれたみたいなことを、できる気がしないっていうか」
当時の神食からすれば星海坊主は圧倒的で、今でももらったものばかりで何一つ返せたとは思えない。得意の戦闘一つとっても、自分ってへっぴり腰じゃね?と悩んでいる真っ最中。
すると星海坊主はそんなことか、と笑った。
「お前は俺じゃないんだから同じことをしようとしなくてもいいだろ。それに弟子ってのはもらう立場だけじゃない。師匠の方も弟子から気づきや学びもあるもんだ」
「マジ!?師匠も俺から何か学んだの?髪が丈夫になる料理とか」
「お前は永久に卵かけご飯作ってただけだろうがァァ!」
負傷中の弟子にも容赦なくバックドロップをかけて床に叩きつける星海坊主。ただノーマルな師弟コミュニケーションゆえ、神食もイテテと言いつつそのまま会話を再開した。
「あと師匠。神楽ちゃんってバ神威、違った兄貴をどう思ってんの? 俺ボヤッとしてるとうっかりあのバカのこと話に出しちゃいそうで怖いんだけど」
星海坊主は細かい話はしていないが、それでも神食と3年以上宇宙を旅していれば家族の話も出る。
神食は神威や神楽と会う前から、彼らの話を知っていた。星海坊主の片腕は、神威によってもぎ取られたことも。
「バカ息子には違げぇねぇよ。だがな、そうだな……神楽は会いたいと思っているだろうし、家族に戻りたいとも思ってるよ」
星海坊主の言葉に、神食は今ひとつ納得してないようで疑いのまなざしを向けた。
むしろ、星海坊主の方だって家族に戻りたいかはともかく、思いはあるような気がする。夜兎の血に従い
だから力量的に夜兎の血は必要だったのではない。
精神的な意味で、自分ではない誰かに、任せないとやってられなかったのではないか。
まあそこは神威と星海坊主の話だ。神食は床から起き上がり、ソファに腰かけなおす。
「アイツ人生の半分は海賊つってたぞ。とすると、8年?9年?は神楽ちゃんとも会ってないはずだ。神楽ちゃん5歳とかそんなもんじゃん。そんなに会いたいもん?そんな経ったら忘れそう。むしろ神楽ちゃん神威好きすぎじゃね?」
「お前は何年も会ってないのに会いたい奴はいないのか?」
「うーん、師匠はもちろん会いたかったけど。あとは……あ」
会いたいというか、あの
「なんだ、
「あ~……見てくれこそロリババアだけどあれは……」
第十八代
「お前が月を落としてくれるなら、お前の不死はわしが剥奪しよう」と、5年前、神食の不死性を奪い――その後深閃の龍脈のどこかで深い眠りについた、
というか存在規模が惑星の生き物は、もう男女云々の域を超えているんじゃないか?
神食はこの話は星海坊主にもする気はなかったが、潰れたはずの右目が深閃を訪れただけで蘇ってしまっては、再会したときに必ず「右目ェェ!!」という話になってしまう。ごまかし切れず正直に話したのも懐かしい。
「それより神威だ、そんな好かれるもん?」
神食の中で、暴力の化身神威と、妹に好かれるハートフルないまじなりー神威が全くつながらない。星海坊主から聞いた話を勘案すると、計算上奥さんの江華さんと神威、神楽で暮らしていた時期があるはずだ。奥さんはアルタナ欠乏によるかなり手の施しようが無いモノだったはず。星海坊主は奥さんを助けるためにあちらこちら星を回り……
あれ?じゃあ病気の奥さんと小さい神楽の世話は誰がするんだ?家事なら金さえあれば家事代行もありえるが、夜兎の赤子なんて並の種族に面倒は見れない。
夜兎は赤子でさえ象顔負けの膂力を持ち、しかも赤子だから力の加減の概念も無い。夜兎の赤子の面倒は夜兎にしかみれない。つまり。
「ウソ!?ベビーシッター神威「ただいまヨー」うぉぉおおおおお!!??」
神がかったタイミングで、万事屋の三人が帰宅してきたようで玄関から元気な声が届く。神食は驚きすぎてソファから滑り落ちて尻を強かに打った。
星海坊主と会ったことのある万事屋は特に驚くこともない。万事屋一行はスーパーに寄ってきたらしく、それぞれビニール袋を下げていた。
「あれ坊主さん、こんにちは」
「眼鏡君坊主さんて」
「パピー!何しにきたアルか? 前に育毛剤のCM出てたけど変化なさそうネ」
「神楽ちゃん!もちろん神楽ちゃんに会いにだよ、バカ弟子はついでな。あと髪はね、変化が無いだけでも成果なの減ってないんだから!諦めるな、男達よ!」
「うるせーな諦めろよ、諦めたからこそ見える地平もあんだろ」
「だれの頭頂部が
銀時にヘッドロックをかけ始めた星海坊主に、神楽は思い出したように尋ねた。
「そうそうパピー、なんで今まで神食の話してくれなかったネ?おかげで初対面のこいつめっさ不審者」
「ああ、こいつは神楽ちゃんの教育上悪影響しかないから」
「なら仕方ないアル」
「えっ俺へのフォローなし!?どこが教育上よくなかった!?いい先輩やってたと思うんだけど」
あまりにもスムーズすぎる父娘のやり取りに神食はつっこんだが、神楽の目は冷ややかだった。「冷静に人生を振り返ってみろヨ」
*
万事屋内で一騒ぎして、ようやく一段落ついたころ。星海坊主はやおら立ち上がると神楽に宇宙土産を渡して、暇を乞うた。
宇宙最強のえいりあんはんたーは仕事にひっぱりだこで、今回も地球自体に仕事は無く、近隣の星に向かう途中で立ち寄ったのだという。
神食と神楽がターミナルまで見送るといい、神食は日焼け止めの上に包帯を巻きさらに傘も差す重装備で出た。
神楽は最近星海坊主と並んで歩きたがらないので、可哀そうなことに神食と神楽が並んでその後に星海坊主がついていくという謎スタイルになってしまった。
神食も怪しい格好すぎて結局神楽にどつかれているのだが、宇宙最強も娘には敵わない。
――もし、家族に戻れたら、こんな風に歩いているのだろうか?
神食と神威は2歳しか差が無い。
もし大きくなった神威と神楽が歩くなら、こうなるのだろうか。
星海坊主が神楽に神食のことを全く話していなかったのは、ひとえに彼が後ろめたかったからだ。
神食が星海坊主の弟子になったのは、彼が11の頃合で、神威が親殺しを企図し家を出て行った少し後にあたる。そのころには江華も息を引き取っており、星海坊主も宇宙をさすらってえいりあん狩りをしていたころだ。
もっと神楽の元に帰ってくるべきだったのかもしれないが、神威が消え、江華も消え、唯一残った家族さえも壊すのを恐れ、あまり帰らなかった。
知り合いの依頼でも無い限り弟子などとるつもりも無かったが、ほとんど神食のストーカーまがいの押しかけに根負けした形だった。
なし崩し的に始まった師弟関係だったが、でも、星海坊主は楽しかったのだ。
もちろん神食が鍛えがいのある子供であったこともそうだが、それだけではなかった。
神食は他人だ。ゆえに壊してしまうかもと思うプレッシャーが実の家族ほどはなかったのが、肩の力が抜けて良かったのかもしれない。
いなくなってしまった神威と近い年頃の子供と、宇宙を旅してえいりあんと戦い、ともに食事をして、ともに寝た。
もし江華が元気になったら、神威と神楽もつれて皆でやりたいと思っていたことを、どこともしれぬ他人の子と自分だけが楽しんでいる。
実際には薄暗い雨ばかりのあの星で、神楽は一人ぼっちでいるのに。
その後ろめたさがいざ洛陽に帰ったときにも、弟子のことを話すことを、思いとどまらせていた。
そのくせ、弟子を宇宙に置いていくことも後ろめたかった。身寄りのない神食は、暗い宇宙でひとりきり。
それでも星海坊主が故郷に帰るときは、毎回いってらっしゃいと何食わぬ顔で送り出し、一人帰りを待っていた。故郷に帰ったら帰ったで、神楽も毎回笑顔で自分を迎えてまた送り出し、故郷でひとりぼっち。
一度、思い切って神食に「汚いところだが、一緒に俺の家族の故郷に帰るか」と提案したこともあったが、相変わらずあいつは、何食わぬ顔で首を振った。
せっかくの家族団らんに水を差すほど、俺は野暮じゃないぜ、と笑って。
どちらにしろ、子供たちに甘えて、気を使わせていたのは星海坊主の方だったのだ。
*
半分の月が昇る夜。江戸に張り巡らされた水路に停泊する昔ながらの屋形船。窓際にてヘッドホンをつけたまま三味線をかき鳴らすという不思議な状態で、河上万斉は常のように淡々と言った。
「第七師団の団長と参謀長が反目しているというのはデマでござる。ニュースで流れているものは団長方が何かしら工作した結果でござろう」
「では、元参謀長は生きていると?」
ちょうど居合わせ、目の前に膳を置いている武市変平太が訝しげに見遣る。ニュースではその参謀長は処刑待ちである。
この万斉が第七師団団長目当てに、一週間前の大捕り物に見学に乗り出したことは武市も知っている。放たれた天人たちが何かしら目標があって動いていることは、屋根の上から見ていた万斉からは一目瞭然。
流れに従い追いかけてたどり着いた煉獄関にて、戦いの一部始終を見ることが出来た。戦いの最中は天人も入り乱れていたのでいくらでも存在をごまかすことができたが、それらが掃けて静かになってしまえば気づかれる可能性がある。
興味本位に近い見物、万斉は戦いが止んだタイミングで離脱したため会話は最後まで聞けていない。
「団長と参謀長の戦いはとても割って入れるものではなかったが、あれは……いわばとの殴り合いであった。何か事情があるのだろう」
流石に参謀長が何を思い出て行ったのかはわからないが――万斉はさっと、数間開けて腰変えている高杉へと視線を向けた。
「晋助。戦い自体は不思議な終わり方をしたが――参謀長が危機に陥った時、白夜叉が助太刀をしていた」
高杉晋助は、煙管を燻らす手を止めて――万斉の方へ目を向けた。
「ほォ。万斉、そいつの名は?」
*
神食捕縛騒動から一週間後の夜、すなっくお登勢。今晩は貸し切り営業と、入り口に張り紙がされている。
お登勢、キャサリン、たま、銀時、新八、神楽、神食と万事屋だけでの内輪飲み会、神食の送別会だった。
極光弾の後遺症から回復したはいいものの、テレビで全裸写真で指名手配犯として著名になってしまった今、かぶき町を観光できるような状態ではない。ちなみに、表向き神食はすでに捉えられ宇宙裁判所で処刑を待つ身ということになっている。
元々ニート期間も大雑把にしか期限を切ってなかったので、いっそいい機会として宇宙に戻ることにした。ひとまずお登勢たちには、過去関わった犯罪組織に命を狙われていたカンジと説明してある。間違っていない。もともとかぶき町は得体の知れない連中の多い町であり、キャサリンも臑に傷持つ身である。
すでに星海坊主の名義を借りて宇宙船を一隻チャーターしている。指名手配ホヤホヤの神食は、身分証の偽造は可能とはいえ大型の旅客宇宙船に乗ることは少々避けたい。
明日の朝には出立する予定のため、荷物は新しく買ったリュックに詰め直した分と2本差しの傘のみ。地球に来る際に使っていたリュックは、朽名あたりに発信器でもつけられていたのでは無いかと疑い廃棄した。
カウンターにて神食と銀時が並んで酒をたしなみ、神楽は健全に飯を食い続け、新八は勝手にカラオケで熱唱している。もう送別会では無くただ好き勝手に呑んで食っているだけである。手酌で冷やを飲む銀時が尋ねた。
「んで、お前これからどうすんだよ」
「指名手配犯がマトモな仕事につけるわけねーダロ!ギャハハ!」
「キャサリンさん、それはブーメランではないでしょうか」
キャサリンとたまの応酬を魚に、神食はたこわさをつまみながら銀時と同じ酒を飲む。
「ん~、一からえいりあんはんたー兼何でも屋のやり直しだな。あとは」
彼は椅子をくるりと回し、ガツガツとドッグフードを食べている定春を見た。
「龍脈や定春みたいな狛神を調べてるからそれの続き。現状ライフワーク……しっかしえいりあんはんたー久々だし、完全に無名だぜ。また一から浮気調査だな」
えいりあんはんたーをしていたのは、星海坊主から独り立ちして春雨に入るまでの2年ほどである。当時14~16で見た目も幼くなかなか信用も得られず舐められも発生していたが、流石にその点では昔より楽だろう。
と、神楽がなにやら見つめてくることに気づいた。
「お前もう地球来ないアルか?」
「此の騒ぎのほとぼりが落ち着くまではな。春雨、俺を血眼になって探したいわけじゃねえから……三ヶ月~半年くらいしたらまた来るか」
「!また稼いでウチに泊まるヨロシ、おまえが来ると卵かけごはんに鰹節かけられてせれぶアル」
「はぁ~地球のセレブって大分質素なんだなあ。ミニマリストってやつ?」
新八は熱唱していて誰も突っ込んでくれなかった。ちょうどその時、カウンターのお登勢が口を開いた。
「そういえば神食、ほら、探し人を太陽と月みたいだとか、って言ってただろアンタ」
「おう」
万事屋にそれを依頼したのも遙か昔のように感じられる。元々、見つかるとは思っていなかったので発見できてなくても気にしていなかった。神食が目で続きを促すと、お登勢はゆったりと紫煙を吐き出し、思い出すように上方を見た。
「吉原桃源郷にねェ、太陽と月に喩えられる女がいるってさね。伝説の花魁、日輪太夫。それを護る自警団の頭、死神太夫月詠。知ってるかィ?」
神食は曖昧にふぅんと笑い、手元の冷をあおった。
――もちろん知らぬわけがない。むしろ地球の地名で真っ先に覚えたもの。
というか、神食の春雨入団後まもなく夜王鳳仙が「新入りは挨拶に来い」とか言いだして、さっそく行くハメになった場所。
神食はおぼろげな記憶の中にある、太陽のママと月の女の子に会いたい。それは、曖昧模糊として失われた記憶の中でも上澄み、輝かしい部分だという根拠のない確信があるからだ。
だが他は、と言われたら、おそらく米のとぎ汁、いやそれは掃除に使えるから違う、ジジイの痰ツバ的ななにかだ。
仮に自分が10歳まで吉原にいたとする。
太陽と月が吉原のその二人だとしたら、なぜ自分は吉原で吐くのか。輝かしい部分のはずなのに。
現実的なラインで吉原にいたバージョンの過去を想像するなら、孤児でゴミでも漁っていたり、人を殴ったり殺したりして日銭を稼ぎ、どこかで人身売買組織にかどわかされて、女と勘違いされて吉原にまで運ばれてきた。あ、男でも客を取るパターンあるらしいから、もしかしたら処女じゃないのかも。
とまあ吉原にいるうちに太陽さんと月ちゃんと知り合って、良くしてもらった、ってところだろうか。
太陽――日輪さんは夜王鳳仙のお気に入りだから、そのお気に入りの周りでうろついている変な子兎が目障りで、夜王に殺されかけたとか。単なる子兎一匹夜王は覚えてないから、春雨入団時はもう俺の事を忘れている、とか。
正直いろんな矛盾や疑問はあるが、こんなところか。
――具合悪くなるから避けてたけど、一回しっかり調べるべきではあるよな。
神食は冷を飲み干し、お登勢に向かって、オレンジジュースをくれと言った。アルコールには気合を入れないと酔わないので、酒の席の気分を楽しむために呑んでいる側面もある。
味自体はジュースの方が好きだ。
「また地球来るとき、吉原にも行くぜ!」
夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい 春雨退職編
読んでいただきありがとうございます。
でもこれ全然吉原が本編じゃね!?といわれたらそれはそう。グウの音もでねぇ
今後の予定を書いておきます。
実際予定こなしたら、この部分は不要になると思うので消します。
下の新刊①②のサンプルとかはpixivに上げる予定です。
今後の予定
・9月
pixivに夢絵LOG④掲載(春雨退職編を踏まえた内容)
10/11のサークル参加準備のため、サークル参加サンプルやおしながきを更新する予定。小説サンプルは小説として更新かも?
9/25から映画吉原大炎上編再上映やるので、勢い余って過去編1本上げるかも
・10月
10/11 東京COMIC CITY SPARK かぶき町大集会24 サークル参加
サークル名:嘆け鶯閉暗京
スペース:まだ不明
新刊①:DG ARCHIVE 旧版:夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい。
本体+おまけ旧版神食VS新版神食対比コピ本 たぶん1000円以上
2010年~202Xサイトが消えるまで個人サイトで掲載していた、この「夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい 春雨退職編」の前身。夢主固定名:神食
新版と大筋だけは一緒。夢主の原型ありますがだいぶ違う&銀魂完結前のものなので、原作設定と齟齬あり。
売りは「夢主が自然現象みたい&キャラに好かれやすいので新版より夢小説度は高い」
若さと勢いがすごくて自分は今でも好きですが何分古めで恥ずかしいので、金を出す猛者だけに見てもらうスタイル。
本編はWEB掲載予定は今のところナシ、本のサンプルで1話だけ掲載する予定
コピ本はWEB掲載するかも、新たに漫画書いたので。
新刊②:夜兎男主はちょっとだけ神威と河原(概念)で殴り合いたい。
本体+挿絵コピ本(8P)
この夜兎男主シリーズの書き下ろし短編。夢主固定名:神食
【春雨時代】星海坊主大好きな神食と神威の普段の討伐任務編【春雨時代】一日艦長神食と具合の悪い神威編【春雨脱走中】ヅラの攘夷党に入るアルバイト神食 の三本立てでお送ります。一応このシリーズ読んだことなくても読める、多分。
第二部やるならヅラの話は最低限載せたいので、頒布半年~1年を目安にWEBにも上げるかも。挿絵本WEB掲載は未定
リアルイベント、いつ参加できるかわからないオフ生活なので今回は出るぞ!
余ったら通販しますが余るでしょう。初参加&この通り趣味出過ぎニッチ本だぞオラッ
お前はいつもそうだ!わけわからんニッチな本ばっか作りやがる
10月下旬~11月
春雨参謀長は神威と河原(概念)で殴り合いたい(夜兎男主春雨過去編)開始
春雨参謀長~は散発式過去話なので、吉原編の前に読んでおいた方が伏線人間関係的に楽しいかも?なものを数本アップ予定だけど更新順は未定。
以降は不定期更新。コメント欄でリクエストあれば。
必ずしも書くことは約束できませんが、こんなシチュの読みたいとかあれば書くかもしれない。かもしれない。あと春雨~って名前ですが、星海坊主弟子期間ネタも入れるならここになる。
吉原炎上!夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい
名前の通り吉原編の話です。設定的にこれが本編なのでは説。