夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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「夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい」の前身、大昔個人サイトで掲載していた「DEFECTIVE GOD」の再録を10/11スパークで出します。余った分を通販します。
サンプルとして第一話掲載です。
※表紙含め紙版のサンプルは後日お品書きと一緒にpixivに出します。


【新刊サンプル①】DEFECTIVE GOD 出来損ないの神様

 

「太陽に嫌われた一族」といわれる夜兎族。そんなことだれが言い出したんだ? 夜兎は太陽には弱いけど、嫌われているんじゃない。太陽が見たければ傘を持って外に出ろ、太陽はいつでもそこにあるんだ。 戦のみを好む蛮族? なに言ってんだ「のみ」ってのは完全に誇張だろ。食事も睡眠を人を愛することだって大好きさ! でも戦いを好むのは本当で、その戦うさまを見て恐れて近づかない人や利用しようとする人もいる。同族でもお互い戦って死ぬこともあるし、つまりどんどんひとりきりになる一族だ。ひとりだと戦うしかすることがないのか、本能に従ってますます戦う、ひとりになる。その血にまみれた手はとっくにどうやって人を愛するのかも忘れて傷つけることしかできない。手を伸ばしても傷つけるだけ。だったら手を伸ばさなくていいだろう? 腹のそこから声出して言えばいい「俺を愛してくれ!」抱きしめられないんだったら抱きしめてもらえばいい。

なに難しいことをごちゃごちゃと言ってるんだ、全く。諦めるならお俺は声が枯れ果てるまで叫ぶ方を選ぶ。

 

殺したいなら殺せ、護りたいなら護れ、笑いたいなら笑え、泣きたいなら泣け、愛したいのなら愛せばいい。自分の思うとおりに生きたいんだ。それが他人の迷惑になろうと自分の体に悪かろうと、この身朽ち果てるまで。

誰がどう言おうが、自分がすっげえ最高だと思える「夜兎族」として。 血で戦う夜兎(ケモノ)でもなく、血と戦う夜兎(ケモノ)でもない、血を創造つくる夜兎(ケモノ)でありたい。

 

宇宙海賊春雨。悪名高い宇宙最大規模の犯罪シンジケートである。ここはその中でも特に恐れられている、精鋭ぞろいの第七師団の戦艦である。その配管がところどころむき出しになっている金属質の通路を、真紅のコートを翻しながら整った顔立ちの眦を釣り上げながら大股で歩く男。ブーツが小気味よくカツカツと音を響かせる。その前方からだべりながら歩いてくる洋服をまとった二足歩行の豚と河童の天人がその青年に気づいた。 一瞬にして豚の天人に緊張が走る。

 

「ちょ、おまえ脇によけろっ」

「あ?」

 

河童の天人は豚の天人にわけもわからないまま、その青年の通行妨害にならないように脇に避ける。河童の方はぶしつけにその青年をじろじろ見ていたが、豚の方は空気と同化しようとしているようにすら見えた。しかしその努力も空しく、真紅の青年は二人のところで足を止め、逆にじろじろと河童の天人を値踏みするかのように見る。

 

「……河童の肉って食ったら不死身になるんだっけ」

「ひっ」

 

ぐわしっと砕けるほどの力で青年は河童の天人の肩をつかんで、にぃいと舌舐めずりする。河童と豚に、頭から氷入りの冷水を浴びせかけられたかのような悪寒が走る。しかし青年の笑みは次の瞬間太陽のような晴れやかなものに変わった。

 

「よっしゃぁ今週の日曜には第七師団で河童狩りだ! そして河童バーベキューして一師団全員不死身のゾンビ師団にしてやろう。すっげえ」

 

そうと決まればさっそく近くで河童の住む星探すぜ! と言い放ち、先ほどまでの仏頂面からは想像できない笑顔でスキップを踏みつつ通路を進んでいった。一時の竜巻のような青年が過ぎ去ったあと、数十秒してからやっと二人は人心地ついた。

 

「ああ……また今週も嵐だ」

 

豚が肩を落としながら零す。

 

「なあ、何なんだあの人」

 

河童はできれば二度と会いたくないというニュアンスをこめて訪ねた。

「あれはうちの師団の参謀長・神食様だ……平たく言えば団長鳳仙様、副団長神威様につづくナンバー3だ」

「あれが⁉」

 

団長・鳳仙は猛者ぞろいの夜兎一族を統べる『夜王』としてあまりにも有名で、直接その姿を見るだけで只者ではない、王者の威風を身にまとっているのが分かる。格が違う、と。

そして副団長・神威は見た目こそ若年でしかも優男だが、あ誰もが一度その荒々しく闘う姿を見れば、狂気ともいえるその圧倒的力に反抗する気をなくす。

しかし参謀長・神食の噂と言えば団長副団長とは質を異にする。というか、同じような噂ももちろん所持しているが振る舞いの奇矯さの話が凄まじい。

 

「かつて、副団長の実の父であり団長と肩を並べる星海坊主に師事しその後えいりあんはんたーとして名を馳せ、まるで神がかったような武力から『神武(しんぶ)』と謳われた」

「え、あの神武ってあの人なのか⁉」

「……んだが春雨ではなぜか一番の大物をここ一番という時に副団長に譲り続け、その周りの雑兵を一掃することや後始末ばかりしてたから出世は副団長に及んでいないが」

 

それは第七師団の謎である。同時に春雨に入ったこの二人は何故かいつも神食が神威に一歩引くスタイルで、異例の出世を続けてきた。二人の実力は伯仲しているのだが。

 

「そして、あの参謀長は、極度の退屈嫌いでな。こう言う風に一カ月くらい宇宙でどこにも寄らず戦艦の中にずっといると、」

 

そこまで言って豚の天人は口をつぐむ。河童の天人は当然続きをせかす。しかし豚の天人の顔色はどんどん悪くなり、挙句の果てに吐き気を催したのか口を必死でふさいでいる。

 

「……わるい、言えない」

「はあ⁉」

「でも、あの人は、神武じゃない…….っていうか、むしろ闇の神だ……」

 

さっぱり理解できない言葉を残し、豚の天人は吐き気をこらえられなくなったらしくトイレに走った。

 

 

*

 

 

 

どうやら第七師団団長・鳳仙が引退するのは事実らしい。阿伏兎と云業はそのことを神威の口から聞いた。今この戦艦が向かっているのは太陽系第三惑星地球。鳳仙がずいぶん前からその星の「吉原桃源郷」という名の非合法遊郭を牛耳っていると言う話は有名、それどころかここ数年は吉原にいつつ副業として団長をしている状態であったので、今までも神威が実質団長として仕事をしていた。

だからこのたびの人事は名目と実質がようやく一致するようになるだけのことである。

 

神威と神食はそのまま団長、副団長に昇進する予定だが、時期参謀長のポストについては陰で暗闘や政治的駆け引きがあるらしい。しかしどうして鳳仙が「吉原桃源郷」に固執するのか、隠居場所に選んだのかは春雨上層部もわからない。

もちろんバトルマニアの神威が「吉原桃源郷」が鳳仙にとって何なのか知っているはずもない。

 

「鳳仙の旦那は何を考えてるんだろ? まあいいや、でも団長になるのはいいんだけど引き継ぎとかいろいろやることあるよねーめんどくさいや。神食に丸投げしよ」

 

無責任なことを笑顔で言い放つ神威に、阿伏兎は無駄だと思いつつも一言言う。

 

「団長そんなことしたらそろそろ参謀長がキレるぜ。ここ一カ月ずっと宇宙船で欲求不満だからあの人」

「それは僕らみんなそうでしょ? まあ次は地球だっけ?そこで俺たち欲求不満解消すればいいよ」

「地形は変えんでくださいよ」

 

云業も無駄だと思いつつ言っておいた。 神威たちは壁一面が透明で、星星が目の前にきらめく部屋でくつろいでいた。神威は米びつとしゃもじをかかえてソファに深く腰掛けている。阿伏兎と云業は今何もするでもなくその両脇に立ってぼーっとしている。

と、三人の背後の自動ドアがめきっと不吉な音をたてた。

 

「あーもー河童がいねーよ! 河童いねーから春雨やめる!」

 

意味不明な怒声とともにドアをぶっ壊して部屋に入ってきたのは参謀長の神食。

 

「阿伏兎っなんかチラシの裏紙とかでいいからくれ! 辞表書いてやる」

 

チラシの裏に辞表を書く気か。というかここは天下の春雨で、止めるとなればもちろんアルバイト感覚で辞めるのとはわけが違うぞ、つーか河童いないからって何? と心の中で突っ込みつつチャランポランな上司の部下である阿伏兎と云業は肩をすくめた。

 

「二人とも神食(バカ)の言うことなんか無視していーよ。どうせいつもの発作だよ」

 

神威はもっさもっさと米を食べながら、さわやかに毒を吐いた。

 

「うっせバ神威。今度こそ俺はマジだこんな河童狩りもできない組織なんかくそくらえだ。つーか組織なんかくそくらえだ。どうして俺は春雨なんかにはいってるんだ発狂する」

「そんなの神食が弱かったせいでしょ」

 

そうだ、すべては自分が弱かったせいなのだ。神食は不愉快げに唇をかみしめる。ああ、どうしてあの時に限って――――。

 

「参謀長、団長交代のこの時期にそんな場をひっかきまわす発言はよしてくれ」

 

云業のもっともな忠告がちゃんと聞き入れられれば、彼ら部下に苦労はない。我らが副団長と参謀長がタイプは違うにしろチャランポランだから部下は困ったものだ。

 

「うっせー云業俺は俺の言いたいことを言ってしたいことをするんだぁっ」

 

どう考えても組織のトップに立つ者の発言ではない。しかし上司の神威が仕事で暴走したときに止めるのは彼であり、また仕事それ自体に関してはまともに行う部分で救われている。

一方副団長神威は生粋のバトルマニアで「自分より強い奴と闘えればオールオッケー」を信条にし、そのために本来の仕事を逸脱して暴走することも多々あり、その後始末に部下がいつも追われることになる。自分勝手な神食までも、自分が春雨内で好き勝手やるために安全策として神威の後始末に追われるのだ。

 

「鳳仙のおっさんが引退するなら俺も引退してやらぁ河童狩りもできないこんな宇宙海賊なんかはポイズンだ」

 

そりゃ宇宙海賊は宇宙のポイズンかもしれないが。すっかり呆れ顔の阿伏兎がマントの中から紙の束を探りだし、どさっと神食に渡した。

 

「河童がなんだか知らんがまた下っ端ども使ってアンタの暇つぶしにつき合わせるのは勘弁してくれ。このまえ『ドッキリ第七師団一週間耐久フラフープ回し大会! ポロリもあるよ』をやった時の苦情が俺らに全部来るんだが」

「ああ、あれは酷かったねー。フラフープの回し過ぎで終ったあとに参加者の四分の三が腰がくがくで三日は立てなかったよ」

 

一時期フラフープに大嵌りした神食の神食による神食のための、宇宙船の無聊を慰めるイベントは団員たちを恐怖の渦に突き落とした。神食が「やりたくない奴は俺の屍を越えて行け!」と傘を構えて立ちはだかるので、いやいや腰を振り続けフラフープを回し続けるしかなかったのだ。

我らが参謀長はこのようなことばかりするので、哀れ阿伏兎と云業は仕事中は神威の後始末、仕事終了後は神食の後始末に終われる報われない中間管理職だった。

 

「俺はみんな退屈してると思ってやってんだ。あ、そういや云業の話で思い出したけど鳳仙のおっちゃん隠居するんだよな、どこの星に隠居するんだっけ」

 

苦情の紙束を一顧だにせず阿伏兎につき返し、いけしゃあしゃあと訪ねた。

 

「地球。あそこは食べ物がおいしいネ、今そこに向かってる」

「へー恥丘。なんだそれエロティックだな」

「活字でしかわからないギャグはやめれば? 地の球だよ」

 

神威の突っ込みはいつも毒付きのオフビートでさらっと流れる感じだ。ハイテンションにまっとうに突っ込むと神食に体力を食われていく一方なのでこのスタイルが一番だ。さらに神威も知らず知らずにボケるので神食と釣り合いが取れるのである。

しかしこの二人、付き合いは年単位だが仲がいいかと聞かれたら微妙である。神食は「へえー飯がうまいのか」と食事に思いを馳せつつどさりと神威のとなりに腰をおろした。すでに河童の件はどこかに追いやられている切り替えの速さ。

 

神威はふと、隣に投げ出された神食の傘に目をやった。その柄には二枚のプリクラがついていた。縁には赤黒いしみがあり、プリント自体も色が薄くなっているが人の顔はよく分かる。神威はにっこり笑ったままその二枚を勢いよくはがしてぽいっと捨てた。

 

「ちょっばかなにすんだ!」

 

神食は血相を変えて無造作に投げ捨てられたプリクラを拾い、一生けん命にしわを伸ばす。

 

「ああっ俺の好きな子と師匠がぁってめー神威ぶっ殺すぞ」

 

ぎら、と今までのふざけた色とは全く異なるよく研いだ刃物のような瞳を神威に向ける。手の中のプリクラは神食と黒髪のかわいい少女のショットと、頭が見事なバーコードに眼鏡をかけたおっさんとのショットだ。

 

「俺のメモリーをくるくるポイすんなっつーのえいりあんにのまれて死ね!」

「その女の子前言った星で付き合ってた子だよね? 最終的には君が殺してたけどさ」

「殺したくて殺したんじゃねーよ、まさか敵方の間者とは全く思いもしなかったかんな。あーもったいねー」

 

神食はしょんぼりうなだれてプリクラを眺めた。見てくれはいいくせに中身が破たんしているせいで付き合っても一瞬で終わることがスタンダードの神食にしては珍しく月単位で続いた彼女だった。

 

が、なるほどそれは彼女が神食を春雨の幹部と知ってのことで情報をいただくために我慢をしていたのだ。たとえ情報のためでも彼女とすごした時間はとても楽しかったので、神食は殺意も怒りも感じていなかったが春雨側の要請で殺した。

 

(そういやこのときもすげー春雨抜けてやろうと思ったわ〰)

 

殺すことに罪悪感を抱いていたら神食は何回自殺しているかわからない。悪いとは思っていないが殺したかったわけでもなく、「殺せ」と言われたから殺した。

こういうときに神食は言い知れない不快感を覚える。

 

「俺、神食が誰かを好き好き言うところは嫌いだけど、そう言いながらもあっさり殺すところは好きだよ」

 

戦い、強さだけを追い求めることを至上とする神威から見れば、恋愛のような情にほだされることは言語道断である。だからそれこそ神食が女におぼれ殺せないことなどになればもう神威の目に彼が映ることは二度とないが、神食は普通に何のためらいもなく殺すのである。

 

おそらく彼は師匠である星海坊主―――神威の父――も、もし必要があれば躊躇いなく殺す。神威はそう確信している。ちなみに今まで神食とは幾度も戦ったが、打ち合いをし続け神食が「腹減った」「うんこしたい」「眠い」と言って勝手に戦線離脱して行くのが常である。それでも神威が薄々感じているのはわずかだが神食の方が上を行っていることだ。

だからこそ燃えるが。

 

「知るかんなもん。あーもーこのプリクラ師匠の頭が余計ハゲ散らかったように見えるじゃねーか」

 

ごめんなさい師匠!と神食は嘆いている。

が、神威は笑顔のまま自分の傘を取った。その行動によからぬものを感じるのは云業と阿伏兎。

 

「そんな息子に腕もがれるような奴に師事なんかしなくてよかったのに。あ、師匠は弟子に超えられることを喜ぶんだよ」

 

自分と同じように深い情を持たず生きてきた神食とはきっといい殺し合いができると思っている。しかしそう感じるからこそ神食が星海坊主を信奉することも気に入らないし、またなぜかやろうと思えば、またやれと言われれば殺すのにも関わらず戦闘時にあまり殺さないことも気にくわない。(これが神威より出世が遅い理由である)

 

本人曰く「ぎったんぎったんにして強くなって復讐しに来てくれれば一粒で二度おいしい」とのことだ。が、夜兎は本当に本能で戦いそれ一色になれば、殺さないと加減をすることなど無理だ。つまり神食は戦うときいつでも楽しむが本気の本気ではないということではないか? 

そう考えると神威は不満でじれったくて居てもたってもいられなくなる。

 

「あー? なぁにナマ言ってんだ俺の師匠をバカにする奴は実の息子でもぶっとばすぞ」

「ぶっ飛ばしてごらんよ」

「おー最近欲求不満だったからなちょうどいいや」神食もがしゃ、と傘の調子を見る。

「よし校舎裏こいや」

 

校舎裏なんてねーよ、とのんきな突っ込みをするどころではない。一般人ならそれだけで卒倒してしまいそうな殺気がこの空間に満ち満ちている。神威はすでに開眼しておりいまにも飛びかかりそうだ。

この二人が戦艦で戦ったら戦艦が粉みじんになる。そしてここは宇宙空間である。 始まってしまってから止めるとしたら云業と阿伏兎が物言わぬ骸になる確率がコインの裏表ギャンブルで勝つくらいはある。

 

二人は今しかないと、地球でゆっくりやれと必死に凶悪な上司を止めた。

 

 

*

 

 

漆黒の闇の中の巨大宇宙船。とある星の上空、星の文明の明かりがはっきり見えるほどの高度で、その船は闇と同化し、すべてを呑み込まんとする圧迫感に満ちている。銀河随一の規模を誇る犯罪シンジケート・宇宙海賊春雨の第七師団戦艦である。春雨の雷槍と異名をとる第七師団の戦艦は、他師団の戦艦に比べて規模も大きく、大砲やレーザーなど設備の優秀さでも群を抜く。もちろんそれに乗り込む団員も選りすぐりの精鋭ばかりである。

 

そしてその精鋭を束ねるのは第七師団長・鳳仙、副団長神威、参謀長神食の三人だ。いや、で「あった」というべきだろう。

いま、この闇そのもののような戦艦の中のとあるドーム状のホール。真ん中には血染めのバージンロードのような真っ赤な絨毯が横断し、その両脇には何千という第七師団の団員が隙間なく蠢いている。しかし、彼らの口からは私語一つ漏れない。

 

そして厳粛な面持ちで絨毯の上を歩くのは、副団長神威、その後ろに参謀長神食。神威は穏やかな微笑みを張り付けて、この衆人の中を気後れすることなく闊歩する。優男で中肉中背の彼がこの大勢の獰猛な輩の中のナンバー2とはにわかに信じがたい。そして彼より背の高く、体つきもいい神食は真紅のマフラーに顔をうずめ、また真紅のつば広帽を目深にかぶっているためその表情は窺い知れない。

そして二人が歩いて向かう先に、絨毯と同じ真紅の豪奢な椅子に腰掛け、扇を片手に仰ぐ壮年の男は団長、凰仙。長い白髪をオールバックにし、足を組んで深く腰掛ける姿からは堂々たる王者の貫録があふれている。

一目見れば気押される、敵わないと思い知らされるような威圧感。

これこそ夜兎族の頂点に君臨した男「夜王」。

 

神威と神食は鳳仙から見て数歩前の位置で歩みをとめ、そこから少し段になった上にいる夜王を見上げた。

鳳仙は厳粛な面持ちで、自ら立ち上がりホールに声を響かせた。

 

「第七師団が副団長、神威。それに参謀長、神食」

「「はい」」

「神威を第七師団が団長、神食を副団長に任命する」

 

とたんに団員たちの間にさざめきが波のように広がっていく。

あの夜王・鳳仙が団長をやめ、吉原桃源郷とやらに隠居をするという噂は本当だったのか、と。ということは夜王の時代が終わりをつけることを示している。圧倒的武力と畏怖で同族まで震え上がらせ、従えた夜王が表舞台を去ろうとしている。

もちろん団員は神威と神食の実力はとうにわかっており不足もないことは承知しているが、第七師団が一挙に変化することは確かだ。

 

「まったく団長は全部俺たちに押しつけていっちゃうんだから」

 

場に不釣り合いに軽い声が響く。これからこの団員たちすべてを束ねていく者とは思えない気負いのない声。

 

「ククッ、そういうな神威。もはやこの第七師団はお前のものだ。お前にとってはどうでもいいのかもしれんが」

 

神威の性質を知っている鳳仙は動じずに笑い返した。神威という男は部下が何人いようと、自分の思い通りになるものが何人いようとどうでもよいと思っている。

師団長になれたことも、おそらく面倒くさい、または手ごわい相手と戦える機会が増えればいいとしか思っていないだろう。

 

そういう男だが、師団の統率については実際上司が適当である場合、バランスをとるかのように部下がしっかりするので案外うまくいくことも多い。おそらく神威はその典型で、阿伏兎、云業という案外しっかり者の部下がいる。

そして極めつけにこの男、神食がいる。

どうしても武闘派が大多数の中、性格に相当難があるが参謀役を務められる人物は貴重だ。

 

「まぁ俺はちゃんと団長職を拝命しますよ。……神食?」

 

まったく口を開かない神食に違和感を感じて、神威は横の彼を覗き込んだ。平時は非常にちゃらんぽらんでエキセントリックだが、こういう正式の場では神威よりも数段礼儀正しいのがいつもの彼であるのに。

 

「……悪りーけど、俺春雨抜けるわ!」

「……何言ってるの?」

 

神食以外のすべてが我が耳を疑った。まさか前に叫んでいた「辞める!」は本気だったのか。

 

ワリイケドオレハルサメヌケルワ? たっぷり間をおいてから聞き返したのは神威。神食は真紅の帽子を脱ぎ、マントの内側に突っ込む。

 

「一言でいえば飽きた。まあ割合よく手ごわいのとも戦えたとも思うけどよ、それ以外がめんどくさすぎんだよ。周りが脳みそ筋肉隊だと頭使おうとしちゃうし、何よりバ神威の尻拭いをなんで俺が率先してやんなきゃいけねーんだ?」

 

饒舌に、しかし面倒くさそうに言いながら神食は背中の傘を抜く。神威は不満そうに横から口を出す。

 

「えーそれを神食が言う? 俺だってたくさん君の道楽に付き合ってあげたつもりだよ? たとえば一晩に手だけで何回抜けるか、まさかの第七師団オナニーマラソンとかドッキリ男だらけの酒樽飲み干し酒乱闘争大大会とか、 君頭狂ってんじゃないのって思うくらい馬鹿げた遊びに最後まで付き合ったじゃん。最終的に神食と俺しか残らないからいっつも二人だけ残るのっておかしくない? って一部のデマゴーゴスにホモ疑惑まで流されて最悪だったよ」

「うるせっ戦闘狂が。仕事で思う存分暴れたお前のケツ拭いてんのはいっつも俺だぞ。あ、これは云業たちもな。それからお前が体よく最強の敵と当たれるようにセッティングして計画立てたの全部俺だぞ。肥溜めに顔突っ込んで死ねバ神威」

 

周囲に剣呑な雰囲気が満ちていく中で、神食と神威は相当個人的な言い合いに花を咲かせる。痺れを切らした神食はいらいらと遊床を蹴り飛ばした。

気づかぬうちに周囲のさざめきが嫌がおうにも大きくなり、すべては神食に向けられ殺意にも似てくる。

 

「ああもうとにかく、体よく強いのと闘えるようになるだろと考えながら出世してきたけどよう、どんどん周囲の軋轢とか取引とか体面とか考えなきゃいけなくなってきてもう発狂するほどめんどくせー。……それによ」

 

神食は瞳孔を開き、口に歪んだ笑みを浮かべて鳳仙に傘の切っ先を向けた。

 

「一カ月もずっと宇宙船の中とか俺ほんとダメだ発狂する」

 

大胆すぎる脱退宣言。春雨すべてを敵に回すこの行為の恐ろしさが分からないほど愚かなのか、という目が注がれる。

 

「俺はまだ神食と一緒にやっていきたいんだけどなぁ。君が逃げたら君を殺すのが俺じゃなくなっちゃうかも」

 

ニコニコ笑いながら神威も腰もとの傘を抜いた。神食の顔がにぃ、と歪む。

 

「お前の都合なんか知らねーよ。もうバ神威のしりぬぐいもめんどくさいし、なにより俺だれかに命令されるの、どぅあいっ嫌いなんだよ」

 

がたり、と今まで沈黙を保っていた鳳仙が椅子の後ろに立てかけていた巨大な傘を抜き神食に近寄る。その眼は愉快げでもあり、はやる若者を憐むようでもある。

 

「クククク、神食よ。隠居するからと言ってこの夜王鳳仙をなめているわけではあるまいな?」

「そんな恐れ多い。ひょっとしてお相手してくれるんで? 発狂しちゃうぜ」

「ここを抜けてどうするつもりだ?」

「普通にえいりあんやら夜兎やら辰羅やらと闘うだろーな。しばらくしたら春雨壊滅させるってもの面白い。自分の爪ってのは自分で研ぐ」

「……酔狂な輩だ。脳みそが最も筋肉なのはぬしではないか」 「はっ、脳みそが筋肉じゃない夜兎がどこにいるんだ?」

 

その瞬間鳳仙が神食の頭を掴み、そのまま団員の群れの中に投げた。巻き添えを食った団員がまとめてホールの壁に激突する。

しかし投げられたのは変わり身で、神食は高く跳躍し鳳仙の頭に突き刺す。しかし寸前で傘の先を掴まれ傘ごと投げられる。飛ばされて壁に足をつき、また跳ねて飛びかかる。

 

「俺も入れてよ」

「!」

 

脇から飛び出してきた神威の、傘を振り回した強烈な一撃を神食は傘を開いて防ぐ。と、鳳仙がすでに背後に迫っている。拳の風圧を感じながら紙一重でよけ、その際に素手で鳳仙の脇腹に拳をめり込ませた。しかし今度は神威が背後から傘で突き、しかも脇腹の拳と腕を鳳凰仙に捕まれ、ぼぎぃと鈍い音と激痛。

 

「ち、」

 

腕は掴まれたまま身だけよじり、神威の突きを避ける。そして彼の突きは神食をそれてその向こうの鳳仙へ。夜王はそれを片手で止める。神食はつかまれた腕を力づくで引き抜く。と、床に足をついた瞬間にどこからか銃弾が飛んでくる。

 

それはこの獣の食い合いのような戦闘の中でも春雨に忠義を尽くして、裏切り者の神食を始末しようとする者の弾丸だった。 「おらおらおらぁ!」

 

面倒くさいと言わんばかりに傘から一斉掃射したが、そのすきに鳳仙に後ろからはがい締めにされる。空気が気道で詰まり、息ができない。

 

「『神武』の名を持つお前だからこそ、わしに敵うと幻想するか」

「ん……? 別に俺はあんたに敵うとか思ってねーよ? ただな」

 

神食はにいと笑った次の瞬間、神威の蹴りが鳳仙の後ろに飛んできた。一瞬の隙を突いて神食は抜け出し、鳳仙は神威の蹴りを避ける。

 

「俺とあんたと神威の三つ巴なら話は違うぜ?」

「さすが」

 

神威は鳳仙の味方ではない。というよりは二対一で自分が一の時は燃えるが、二の方であればとたんに白ける。自分と同等、それ以上ではないと戦いがいがないと思うのだ。だから神威は鳳仙の味方でもなければ、神食の味方でもない。

 

しかしそれだけ分かれば神食にとっては十分だ。

 

「ま、俺は死にたがりじゃねーから今日はトンズラするぜ。まだうまい飯も女も食い足りねー。いつか戦ってくれ、元団長!」

 

幸い今この船が上空で浮いている星は文明化されていて、傘を開いて降りれば大丈夫だろう、と神食は読んだ。

そして渾身の力をこめて、壁に自身の傘を叩きつけた。

 




10/11(日)COMIC CITY SPARK21 かぶき町大集会24
サークル名「嘆け鶯閉暗京」 スペースNO:西1ホール ス27a
新刊①「DG ARCHIVE 旧版:夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい」サンプル1話です。新刊本体では全10話。

==詳細==
新刊①「DG ARCHIVE 旧版:夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい」
A5/146P/1500円(予定) +新版主人公VS旧版主人公のしょうもない小冊子(8P)
大昔個人サイトで掲載していた「夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい」の前身、DEFECTIVE GODの再録。
夜兎男主春雨退職編に該当する部分を収録。誤字などは直してますが加筆等はなし。
また銀魂完結前に書いていたものなので、設定が変な部分もぽろぽろあります。
なんやかや夜兎男主~とは主人公性格結構変わりました。
セクシーなのが旧版(DEFECTIVE GOD)でキュートなのが新版(夜兎男主~)です。(えっ)
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