夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第2訓裏【春雨】物事には良い面と悪い面の両方がある

入団OR死っていうクソ勧誘の結果、春雨に入ることになった俺こと神食だけど、なんやかや学びはあった。

 

一つ目は「俺って割と強いじゃん」。10歳までの記憶がパーンしてるから親はわかんねーし、それ以外で同族に会うことなんかめったにない。星海坊主(師匠)は比べるにも恐れ多いし、えいりあんはんたーとなると戦うのはえいりあんだかハエの大群かもう生き物としての規格が違うもんばっかだしで、自分が夜兎の中で第何位?とかはさっぱりわからなかった。

けど第七師団に入って、こんなに世の中に夜兎がいたのか、絶滅寸前ってウソだろと驚くと同時に、殴り合ったりどつきあったり任務での戦いぶりを見ていると、それなりに自分の位置がわかるもんだ。入団当時は十四歳の団長とかふざけてんのかと思ったけど、なんやかやアイツが一番強かったし、それと同じくらいに殴り合う俺も第七師団で上澄みの方であると流石に理解した。

 

 

二つ目は「強くないと生きている価値なし」と大体の団員がナチュラルに思っていること。もちろんここが春雨第七師団という、戦闘を至上目的とする集団の極北という偏りはあると思う。

女の夜兎とか数えるほどしかいないしな。ここの女は女とかいてマウンテンゴ、いやなんでもない。

 

俺も夜兎だしその思想自体はわかるんだけど、にしても大分キツいというか正直引いた。……みたいな話を、入団して一年……参謀長になったころだっけ、藻武に喋ったら「ゑ?」みたいな宇宙猫顔をされた。

 

強い方がそりゃいい、戦いが楽しくなるしできることも増える。

だけど弱いからって死ぬこたぁないだろ。何が弱いのかを受け入れて、じゃあどうしていきたいか考えなきゃいけないけど、弱いこと自体は悪じゃないし罪でもない。的なことを言ったら、「俺を一秒間に160回ぶん殴った奴がなんか変なこと言ってる」みたいな顔で見られた。

それは俺のガーデニングエリアに土足で踏み入った藻武が悪い。弱さは罪じゃないけどお前は万死の罪。

 

仮に俺が腕力のない夜兎だったら、「弱い奴がなんか言ってる」で一笑に付されただろうけど、さっきも言った通り俺はここで上澄み側だから、笑われるよりも「なんだこいつ」みたいな顔をされることが多い。マジか。みんなプロテインドラム缶で飲んでんの?

 

いや普通に、弱いなら死ねとか、戦えないなら死ねってキツくない?

少なくとも俺はヤなんだけど。

 

 

 

 

 

 

神食が春雨を(ほぼ勝手に)抜ける二か月ほど前。

 

第七師団霊安室。否、そう呼べるほど設備が整っているわけでもない。物置、じきに宇宙なりどこかの星なりに廃棄される、団員の死体置き場だった。死体の腐敗を抑えるために冷房だけは強く効いているが、その程度である。

そもそも、第七師団戦艦内で大量の死人が出ることは想定されていない。戦闘で死ぬ夜兎は、大半が戦場で死ぬからだ。ここに置かれることになる者は、深手を負いながらも助かるかもしれないと戦艦まで連れてこられたものの、手当の甲斐無く命を落とした者がほとんどだ。神食が参謀長になって以来、数少ない夜兎の損耗を少しでも下げるべく可能な限り任務後、団員の回収を可能な限り行うようにしたためそういった夜兎が増加傾向にある。

だが、それがすべてではない。

 

神食は薄暗く、陰気な死臭に満ちた静かな部屋にて腰を下ろしていた。目の前には、首と胴が離れた状態で失血死したかつての団員の姿があった。

この団員は、戦闘でその状態になったのではない。

 

「おまえ、そんなつまらないことをいつまでやるつもりなんだい?」

 

霊安室の入り口で、ドアに寄りかかっていたのは団長の神威だった。うっすらと眼を開いて、神食を見下ろしていた。

こいつ、例によってバカにしてんな?と神食は口をとがらせ気味に返した。

 

「俺が飽き飽きするまでだな」

「どうせ死ぬんなら戦場に転がしておいてあげる方がよかったと思うけどなぁ」

 

この団員は、任務にて深手を負ったものの戦闘終了後に他団員に連れられて戦艦で一命を取り留めた夜兎だった。だが命こそ拾ったものの、前線復帰はもう厳しいと医者に断じられた。夜兎は四肢欠損なら義足義手を使えば余裕で戦線復帰ができるが、内臓系の損傷は酷いと回復しきることがない。この夜兎は肺と胃を半分以上潰され、日常生活はできるだろうが激しい運動は厳禁とされた。

 

戦闘ができずとも師団内では補給や調理専任の仕事をすることはできる。だが、戦好きであればあるほど、歴戦の兵であればあるほど、以前と今の自分の違いを受け入れられない。戦えない自分を認められない。

本能を満たすことができなくなる。その結果、どうなるか。

 

「なんで助けたんだ」

「いっそ殺せ」

「戦えないなら生きている意味が無い」

 

 

困ったことに、それに反論する方便を神食は持っていない。他の種族ならいざ知らず、夜兎にとって戦闘は本能の一つ。戦闘欲が満たせない状態を頑張って想像してみても、あくまで想像の範疇を出ずうまい説得もできなかった。

しばらく冷却期間をおき、それでも心境に変化がなかった場合。この団員もそうで、彼は言った。

 

――「どうせ死ぬなら、強者の手にかかって殺される方が良い」。

 

その結果が、今神食の目の前にある死体だった。手近にあったナイフで神食が首を切った。

 

弱いことは、死ぬ理由には足らない。

神食自身はそれを信条としているし、生きる以上殴る蹴るだけの戦いだけが戦いではない。弱かろうと、生きる以上戦いは続いてしまう。同じ場所(弱いまま)に居続けることはできない。

死ぬ方が、よっぽど楽をしている。

 

実際の戦闘だけがすべてではないと神食は信じているが、実際の戦闘で勝利することが至上命題の宇宙海賊第七師団(ここ)で、それを謳うことが空虚であると感じることもある。

否、介錯をした団員が間違っているとも思わないからこそ――自分の主義を謳うならここではない方がいいのでは、とも。

 

背後に立つ神威は、神食のことを考えているのかいないのか、人ごとのような口調で話しかけた。

 

「きれいごとを言うのは結構だけど、弱さが認められるためには――お前自身は弱くなれないなんて大変だね」

 

力こそがすべてが原理の夜兎の中で意見を通し意向をかなえるには、まずもって強さがなければ話にならない。

弱い夜兎が言っても、それは負け犬の遠吠え。

つまり「弱いことは悪くない」と嘯く神食だけは、弱くなることが許されない。

 

「強さに縛られたくないのに、一番弱くなることを恐れているのはお前だよ」

 

これだから神威(コイツ)のことが嫌いなんだ、と神食は心の中だけで言った。なにしろ反論が全く思い浮かばない。自分が戦闘で弱い夜兎であれば、弱さを受け入れることは、自分の価値を認めることにもなり、合理性がある。

だが、残念ながら客観的に見ても神食は強い夜兎に分類される。

 

ゆえに、その主張を唱えることに合理性、もとい神食が得することは何もない。そう、理にかなっていないのだ。

神食自身も、実は自分がなぜ頑なに弱さを認めることを嘯き続けているのか、わからない。失われた記憶に手がかりはあるかもしれないが、今は藪の中だ。

 

神威の言う通り、「つまらないこと」を捨てれば楽だろうとは思う。

ただ、仮にそうした場合、別の何か大事なものが失われてしまう気がする。そうなったら、きっと苦しいだろうという予感がある。

頭のてっぺんから足の先までを真っすぐ貫く、それなしでは立つことのできない信念か――違う。

たとえ自分が折れてぐにゃぐにゃになったとしても、そう思うことは止められないもの。

 

――きっと、理屈などない。ただ世界にそうあってほしいという祈りだ。

 

どちらを選んでも地獄巡り。ならば、まだマシな地獄を選ぶ方がいいだろう。

諦めることなどいつでもできるのだから。

 

 

 

 

神威はいつもより小さくみえる神食の背を見下ろしながら、つとめていつもの口調を保ちつつ言った。

神威が神食に求めるのは「強さ」それだけ。少なくとも神威自身はそのつもりで、故郷を捨てたときから強さのみを求めて戦い続けている。

にもかかわらず、能天気で何も考えてなさそうにみえる割に、弱さを許容しどう生きるかなどと余計なことばかり後生大事に抱えて生きているこの同年代のおかしな夜兎は、今も自分の隣で死なずに、同等以上に殴り合ってのうのうと生きさらばえている。

それに打ち勝てていない自分にも腹が立つと同時に、もし神食がその「余計なこと」を切り捨てたときにどうなるのかを知りたくもある。切り捨ててほしいとも思う。

それに余計なことを持ち続けているという意味で、神食は一度も本気で戦っていないのでは無いか、という忸怩たる思いもある。

ゆえに、この手の話をするときに、どうしても自分の口調がきつくなることを神威は自覚していた。要するに、神食が好敵手であることを認めながらも――自分と同じ地平にまでやってこないこの男が、鬱陶しく苛立たしく、目障りでもあるのだ。

 

それに、そんなつまらないことに、神食が心身を削っていること自体も気に食わない。

そんなモノに使い倒されるために、生まれてきたお前ではないはずだ。

 

 

当の神食は神威の心の内をつゆ知らず、いつものようにげんなりした顔をしていた。

言い返すのもおっくうにゆっくり立ち上がると、踵を返して霊安室を出た。

 

「どこ行くの?」

「あ?メシだよメシ」

「じゃあ俺も行こうかな」

 

何でついてくるんだよ、と神食の喉元まで出かかったが、八つ当たりで益体のない喧嘩会話になりそうだと思ったので飲み込んだ。気のせいでなければこの手の話をするとき、神威は機嫌がいいようなとてつもなく悪いような、どちらともいえない微妙な空気をまとっている。

機嫌がいいならそれはそれで性格が最悪だし、悪いなら悪いでなぜ悪くなるのか皆目見当もつかず、神食はただ舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行けども行けども宇宙は闇の中である。地球のような青く美しい星が見えるのはまれで、たいていはくすんだ色の星々である。特殊加工硝子越しに、太陽のような恒星ならば見がいはあるが、それもずっと戦艦の中で見続けていれば飽きる。そしてたまたま大口の任務がなく、団員の大半が暇を持て余している本日ではあるが、例外はある。

 

第七師団戦艦の狭い会議室。神食、白衣を纏い、ポニーテールの研究職の夜兎飛耀(ひよう)、牛頭を持ち全身毛深い胴体に晒しを巻き付けた番傘職人の杜晩(とばん)が、顔を突き合わせて視線を交わした。飛耀はコホンと咳ばらいをして、髪を七三になでつけてから口火を切った。

テーブルの上には、一発の銃弾とペットボトルに入った白濁の液体。

 

「では参謀長、杜晩さん、説明をさせていただきますネ」

 

春雨第七師団研究開発部。師団内では開発部とだけ呼ばれている。もともと夜兎を多数擁し、高い死傷率と武器損壊率を誇ってしまう第七師団は、お抱えの義肢製作者や番傘職人を持っていた。それを拡充し、修理修繕のみならず、戦闘効率向上や負傷率をさげるための道具を開発する部署となったのが研究開発部である。

第七師団は夜兎が多いが、調理部などバックオフィス系には夜兎以外も多数所属している。開発部もその例にもれず、深い内臓損傷を負い厳しい戦闘が難しくなった夜兎や、戦闘員と兼任の夜兎、夜兎の生態に興味のある他種族で構成されている。今神食と話しているのは、怪我による元戦闘員の夜兎飛耀と他種族の杜晩だった。

 

そして研究担当の主任である飛耀と杜晩が試作品として作り出したものを、参謀長神食に説明するのがこの会の趣旨であった。

 

 

夜兎の二大弱点は、燃費の悪さと日光への耐性のなさである。前者については、1本三万キロカロリーのエネルギーバー制作やドリンク制作を試みており、実用配備段階までこぎつけているが、後者についてはアイディアも成果も捗々しくなかった。

すでにほかの文明国に存在する、太陽のような恒星の光から身を守る道具は一通り調べた。

日焼け止め、効果なし。レインコートならぬサンコート、日常生活レベルであれば転用可、戦闘用には全身を覆うこと自体が不評&コートそのものが暑く不評。サングラスや帽子も同上。最近は洋服にファンがついたツナギなどもあるが、こちらも戦闘でオシャカになるので意味なし。

そこで彼らは原点に立ち返ってみた。

 

「太陽とか恒星の光と、人工の光の違いってなんだ?というか、俺たちは日光がダメなのか?暑さがダメなのか?両方ダメ?」

 

日光の強い星=暑いことがほとんどのため、その部分の訳は夜兎でも知らない。というより、もし徨安(夜兎の故郷)が滅んでいなければ、夜兎が日光の害を避けて戦う方法や、日光に当てられた際に早急に回復する方法や、エネルギーバーなど作成するまでもない長期保存高カロリー食文化が伝わっていたのではないか、と彼らは考察していた。

宇宙大戦後の集中砲火によりほかの星に散り散りになった夜兎から失われたものは、種族数だけでなく彼らをより精強に保っていたはずの文明・文化もである。

 

つまり、現状夜兎は夜兎のことをよくわかっていないのだ。原点に立ち返り、サンプル数はとりにくいながらもどんな状況の日光なら問題があるのか、神食含めた団員達で実験することにしたのだ。

 

その結果、試作品として作られたものがこの二つである。研究職の飛耀が弾丸をつまみ、二人の目の前に示した。銃弾としては最大クラスの20mm口径弾で、太さ20mm長さ100mmの弾である。

 

「これは極光弾(仮)です。た目はただの銃弾ですが、内部には太陽光線を発する結晶「白日鉱」を砕き凝縮して詰め込んであります。被弾すれば体内に結晶が入り込み、内部から太陽を浴びせることが出来「オィィィつまり夜兎を殺す兵器じゃねーか!何でこうなった!?」

「できるなと思って、ついゴゲファ」

 

照れたように眼鏡を押し上げた飛耀の顔面に、目にも映らぬ速さで神食の蹴りが叩き込まれた。受け身ゼロの飛耀はそのまま会議室の壁の血まみれオブジェと化した。

 

「ついじゃねーんだよボケェェ!貴重な白日鉱を何に使ってんだァァ!! それはそれとして後で俺にブチこんでくれ効果は見たい。たのしみ」

 

任務で内臓深くにまで達する傷を負い、最前線復帰は厳しく予備戦力希望となった飛耀も夜兎は夜兎、流血しながら満面の笑みを浮かべた。「参謀長大好きですッ!ケツを出してくださいネ!」

「なんでケツ?座薬?」

「ケツを真に受けんな参謀長、銃でブチこまんと意味がないぞ。夜兎の皮膚はえぐる程度の強度を持たせた弾頭だが、これが対象にあたって壊れることで中の結晶が露出するんじゃからな」

 

コントになった神食と飛耀のやり取りを諫めるように、杜晩が傍らに置いていた対物ライフルを示した。大口径の銃弾を撃つには大型の銃器が必要となる。一部の夜兎の番傘でも狙撃は可能だが、そこまで言われて、神食はあぁ~~と長く息を吐いた。

 

「……夜兎を殺すにも不便すぎじゃね?」

 

杜晩はうむ、と頷く。前提としてこの銃弾を夜兎に撃ちこむ必要があるが、大口径銃である必要上連射が難しいことと、一定以上の強さの夜兎に当てるためには、近距離だと撃つ前に殺される可能性が高く、遠距離から狙撃しなければならず、狙撃の腕が要求される。

また、レアケースであるが、気功を使う夜兎であれば銃弾そのものが刺さらないこともある。

 

飛耀(こいつ)曰く、これを体よく撃ち込めたから対象が弱りこそすれ死ぬことはないらしい。長年日光を浴びず耐性が落ちた夜兎ならまた違うかもしれんが」

「あと白日鉱は宇宙のレアメタル。これ一発作るのにいくらかかるか考えたくないですヨ」

 

まだ頭から噴水のごとく流血している飛耀だが、匍匐前進で二人のもとに戻ってきて、神食の足にまとわりついていた。

 

「テメーが考えない代わりに俺が金の事を考えてるの!どう考えても実装配備ねーじゃん! あーもうメンドクセーから阿伏兎に食費として計上しても~らお」

 

結局金の事を考えているのは阿伏兎では?とツッコんでくれる人もおらず、阿伏兎は食堂でどでかいくしゃみをしていた。

 

 

「銃弾の方はそれでいいとして、っていうがコンセプトからして違うんだけど、こっちの飲み物の方は? もしやこっちも夜兎殺し?」

 

コンセプト上許されないが、極光弾そのものには興味を持っている神食は、まだ銃弾を矯めつ眇めつ手の中でもてあそんでいる。

 

「いや、こっちはまだマシじゃ」

 

液体の説明は杜晩がするらしく、ペットボトルを手に取った。「こいつは和光薬(仮)。簡単に言うと夜兎用の熱中症対策薬。飲み物みてぇにしてるし実際飲めるが、粘度を増して塗り薬にするのもアリじゃ。体を冷却する効果があるぞ」

「あ~夜兎用の経口補水液みたいな?ほかの種族が太陽当たりすぎ病にかかった時に使うやつ」

「熱中症。夜兎のは仕組みとしてはちょっと違うみたいだが、かかった時の処置としては同様のものが効くじゃろう。これは組成を組みなおして夜兎向けに最適化したもので回復を早める」

 

本来夜兎の回復力はほか種族に比べても頭一つ二つぬけている。

涼しい暗所に運べば、より速やかに回復を促すことが出来るのだが……。

 

「でもそもそも、夜兎って熱中症にならないですヨネ~」

 

飛耀の言う通りではある。夜兎が暑さと日光に弱いことはもう常識的に知れ渡っており、それゆえに夜兎は日傘を手放さず、なおかつわざわざ暑いまたは日光の強い場所に行かない。

酒に弱い人間がアルコール中毒にならなかったり、体の弱い人間が無理な運動を控えて肉離れを起こしたりしないように、夜兎は熱中症になる場所にはいないのである。

 

「第七師団は任務上暑い星にも行くことがあるから使えなくはない……かなぁ~~~?」

 

微妙~と言いつつ、神食は杜晩からペットボトルを奪うと無茶苦茶にシェイクしてから、おそるおそるふたを開けた。

炭酸飲料のように爆発はしなかった。

 

「ウーン、弾の方は大却下、オモロだけどコンセプト忘れ去られてるし。薬の方もパンチが弱いな~暑い星の任務の時事前に飲むと体力長持ちとかもう一声ほしい」

 

開発部で試作されたモノは、参謀長神食の判定を経て団長副団長の判定で許可が出たら、提督の審査を経て元老院の決済を仰ぎ実戦配備が行われる。第七師団内の予算で行う分には団長副団長の許可が下りれば可能だが、第七師団は花形部署であると同時に超絶金食い虫のため、現状でも余計な金はないのである。

 

今回の会議は神食のレビューが目的だったため、主題はこれで終了である。ところで、と仕切り直すように神食は足元の飛耀に顔を向けた。

 

「そーだお前、新作持ってきたぞ」

そういうと、神食は部屋の隅に置いていたどでかい風呂敷包みを抱えて持ってきた。床に卸して布をとくと、かなり古びた紙の本が百冊以上は積まれていた。文庫本、百科事典、雑誌のようなものまでさまざまであるが、一様に古い。飛耀は飛び起きると、埃も構わず本に抱き着いた。

「ありがとうございマス!ちゃんと読める!これは娯楽本デスネ」

上の一冊をとり、ぱらぱらとめくる飛耀。この本は前回の任務地が徨安の近くだったため、こっそりそこに立ち寄った神食が物色して回収した本である。夜兎の故郷は星としては死んでいて、残っているのは荒廃した大知と旧文明の建物、惑星寄生種「オロチ」なる巨大な蛇のようなアルタナ突然変異の生物程度だ。神食が初めて訪れた時は、オロチの襲撃(おそらくじゃれていただけ)で予定日数のすべてを費やしてしまったが、複数回帰るたびにオロチは襲わなくなった。その後、廃墟を漁り本を中心に回収するようになった。

 

「面白い?」

「内容は微妙。でも、廃墟の徨安で回収できる本の大半は当時の徨安で多く流通したものである可能性が高いデス。当時の夜兎が好んだ本や文化、教養レベルを推し量ることは可能カト」

「おーい、終了なら儂は戻ってもいいか?番傘の修理がたまってんだ」

 

徐々に空気が弛緩してきたところで、各々用事もあるため解散となった。杜晩は番傘修理に、神食は昼食へ、飛耀は実験室でレポートをまとめるために。

本を背中に担ぎ配管丸出しの金属質な床をとことこと歩きつつ、飛耀は却下された極光弾を電灯に当てた。

 

「あ、参謀長試しに撃たれたいっていってたのに、いつやれるカナ……ウワッ!」

「飛耀危ねーぞ!前見ろ!」

 

ぼんやりとよそ見をしていたせいで、前方から歩いてきた団員三名に激突しそうになった。すんでのところで脇によけて汗をぬぐう。負傷はなさそうだったが濃いめの血の匂いがしたため、任務帰りだろうと予想する。

 

「任務に出れていいなァ」

 

飛耀も、かつては通常の第七師団員として戦場に駆り出されていた夜兎である。夜兎として戦うこと自体は好きだったが、その気合に体が追い付いてこなかった。人間と一口に言っても色々な人間がいるように、夜兎にもバリエーションがある。

砕けた話、飛耀は弱かったのだ。弱かったから任務で内臓を貫かれる重傷を負い、ほかの団員たちによって標的は掃討されたものの、飛耀はその場に死体に埋もれた状態で動けなかった。

このままなら悪くて死、よければ傷がふさがってなんとか歩けるようにはなるが、そのころには第七師団の戦艦は宇宙へ飛びだっているか移動しているかだ。

行く当てがなく夜兎という理由で拾われた身。あの藻武のような、犯罪シンジケートで一旗あげてやろうという野望はない。

ただ少なくとも第七師団は夜兎だらけで、肩身は狭くなかったナァ――と、だんだんと湧き上がってきた眠気に身を任せようとしたときに――急に手を掴まれた。

 

「お、まだ生きてる」

 

死体の山から引きずり出され、米俵のごとく担がれてエッホエッホと戦艦まで運ばれていった――それは現参謀長が、まだ参謀長になる前の、春雨に来て間もないころのことだった。

神食と飛耀はほぼ同時期の入団で同期のようなものである。単に拾われた飛耀に比べ神食は入団経緯が少々派手だったので、一方的に知っていた。その彼は、飛耀をぶっちぎってあっという間にヒラ団員から参謀長にまで成り上がるのだが、当時は同期の気楽さで――今ももう気軽さとしては大差ないが――手当がされた後に、タメ口で会話をしていた。

 

「お、生き返ったじゃん。よかったよかった」

 

飛耀と違って傷一つない同期の神食は、勝手に横にしゃがんで話しかけてきた。

 

「あ、ありがトウ。……でも、なんで助けたの?ワタシ、強くないから、助けても戦力にならない、役に立たないヨ」

 

親が死んで、春雨に入る前にも強盗団に入っていたがそこでも足を引っ張ってばかりで、敵の攻撃をよけられずその場に昏倒し、仲間に置き去りにされることがしばしばあった。

目を覚まして何とかアジトに戻っても、ああいたのか、死んでなかったんだくらいの反応。みんな生きるか死ぬかで、弱いやつのことをかまっていたら自分が死ぬ。

だから飛耀も、強盗団の仲間の事を悪く思うことはなかった。当たり前だから。

 

すると、逆に神食の方が不思議そうな顔をした。

 

「役に立つか立たないかで助けるかどうか決めるの?」

「ア、 ハイ」

思いもしなかった返事のため、飛耀の返しもどこか間抜けな感じになる。

 

「ん~、戦闘では役に立たなくても、ほかで役に立つかもしれないじゃん。いや、ん~~」

 

一度返した言葉が適した言葉ではなかったらしく、同期は斜め下を見ながらしばらく黙考した。

 

「もし本当に弱くても、これから強くなる努力はできるだろ。あとさ、ホラ、みんな赤んぼから始まったと思えばさ、弱いってだけでは死ぬ理由には足りなくない?」

 

それは、ほかの人を助けることが出来るくらいに強いあなただから言えることでしょう。

事実、弱いと死ぬんだから。弱くて死んだ夜兎、たくさん見てきた。

 

と、言い返すことは察しのよくない飛耀にもできた。でも言い返せなかった。

 

「エッ!?なんでそこで泣くんだ!?」

 

目の前の同期はギョッとして慌てていた。現状は何も変わっていない。

自分は弱いままだ。

でも、心底安心してしまった。

弱いのが悪い、弱いから死ぬ、弱いと生きている価値がない。

言い返す気にもなれないくらい、仕方ない。

どれも本当の事だからと、己で己をバカにし続けて生きてきた。

 

「弱い」にとどまってはいられなくても、今弱いことは死んでいい理由にはならない。

だから、まだ生きていてもいいと、初めていわれた気がしたのだ。

 

結局飛耀はその戦いでの肺への損傷で心肺機能が戻りきらず、戦闘員の第一線からは退くことして開発部に至る。色々あったが、三食寝床つきで夜兎のことを日々調べつつ生活できるのだから文句はない。

それになにより、開発部のトップが参謀長であることから、彼と関わるタイミングが増して喜ばしかった。

飛耀はあの変わった友人と、たくさん夜兎と未来について話せるのだから。

 

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