夜兎男主は神威と河原(概念)で殴り合いたい   作:たたこ

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第3訓表【地球】流行モノには流行るだけの理由がある

ある平日、万事屋で神楽と銀時が依頼のために出かける準備をしていて、神食は居間でテレビをつけてせんべいをかじっていた。とその時、玄関先で「誰かァァ!」という新八の声が聞こえた。

暇していた神食が行くと、そこには大の男性の身長ほどもある巨大なダンボールが鎮座している。寝ぼけ眼のまま、彼は新八に向かって手を挙げた。

 

「おはよう新八くん」

「これなんですか?宛先の名前、神食さんですよ」

「さぁ?こんなでっかいもん頼んだ記憶ないんだけど」

 

よいこらしょ、と爺くさい声とともに巨大ダンボールを担ぎ上げ居間にまで運ぶ。箱を置き開封すると、中にはさらに冷蔵庫のような箱が入っていた。その蓋を外すと、ぷしゅうという気が抜けるような音とともに、箱が突然横に倒れた。

これには新八も、当の神食も驚き構える。ガタガタガタガタッ!と箱の中でもがく音がして――その後、ずるりと大柄な人物がはい出してきた。色黒でサングラスをかけた見知らぬオッサンが――「ウォアアアアッ!!」

 

神食は絶叫とともに箱ごとオッサンをバカ力でシュートキックし、和室から出てきた銀時にものすごい勢いでクリーンヒット。彼を巻き込んで和室の端まで吹き飛んだ。「おーい何やってんだバラゲフォッ!!」

「ご、ごめん突然のデリバリーオッサンに心の準備が出来てなかった。女の子がデリバリーされるサービスは聞いたことあるけど」

 

騒ぎを聞いて、洗面所から神楽も顔を出した。「も~うるさいアル、何やってるネ」

 

ほこりが舞い上がった和室で、のっそりと大柄な男が立ち上がり「この度はデリバリー「チェンジで、そっちの癖はないんで」

 

神食が真顔で手を横に振ったが、大男は自分の入っていた巨大冷蔵庫を彼に向かってぶん投げた。

「返品はうけつけておりまセン」

 

冷蔵庫を受け止めた神食、それに新八神楽に向かい、大男はすっくと向き直りサムズアップ。褐色に日焼けした肌、大きなサングラスに肉厚の唇、肩より下まであるドレッドヘアー、黒い海パン一丁に素足。

いぶかしげな顔で神楽が男に近づくと、銀時に向かって聞いた。

 

「コイツ、金丸とかいう奴じゃないアルか?銀ちゃんが前に言ってたヤツ」

「違げーよこっちは古橋さんだろ。ども」

「どっちも大して変わんねーよ!あれ?でもサイコガンつけてませんでしたっけ彼ら」

 

新八と神楽加入前に一時いたとされる旧万事屋のメンツに酷似している大男。彼は万事屋メンツのやり取りを気にせず、三人と神食にカタコトで、しかし堂々と告げた。

 

「この度はデリバリー大工をご利用いただきありがとうございマス。ワタクシ、黎烏(れいう)族のギョウカイと申しマス」

 

デリバリー大工。依頼があれば宇宙をかけて家を建てに行くサービスだ。神食が万事屋に墜落してきたため、万事屋の天井には穴が開いて現状ビニールシートで覆っている状態だ。

直しておかないとなと思った神食は、自分で依頼しておいて綺麗さっぱり忘れていた。

神食は知らぬことだが、以前坂本辰馬に万事屋が破壊された際にも、万事屋に送られてきたことがある。旧万事屋メンツとは似ているだけで完全に無関係である。

 

「前に来た人とは違いますね」

 

見た目はおっかないギョウカイだが、案外フレンドリーに口角を挙げてサムズアップした。「ウンケイカイケイサンは先輩デス、でもワタクシも腕にまちがいないので安心してクダサイ」

「つかあんた、黎烏って言った?滅多に見かけないけど、いるところにはいるもんだ」

 

神食はへぇ、と物珍し気にギョウカイを上から下まで眺めた。万事屋メンツが不思議そうな顔をしていたので、神食はソファに座りなおしてから口を開いた。

 

黎烏(れいう)族。端的に言えば、夜兎族の真逆の種族だ。見た目は地球人と大差ないが、男女ともに大柄で色黒な傾向(ギョウカイはかなり黒い方)がある。

 

日光を主なエネルギー源として活動し、食事は補助的なエネルギーにとどまるため小食もしくは必要としない。個体差はあるものの、逆に日光がない環境に長時間耐えることが出来ない。

夜兎族と同様に人型の天人からは想像できないほどの身体能力を誇り、古い血筋の黎烏は飛行能力も有するという。しかし彼らは夜兎のように傭兵部族として数えられていない。

 

理由は二つある。

 

一つは、夜兎や辰羅、荼吉尼は多かれ少なかれ闘争本能を有するが、黎烏には存在しない。もちろん個人で生業とする者はいるが、種族的に戦闘を好まず穏健であるため一族をあげて傭兵を生業にすることがなかった。

二つは、宇宙を股にかけて商売・戦闘・旅行を行うことが爆増した今において、黎烏の体質は致命的に不適だった。

前述のように生命活動に日光が必須の体質のため、日光のない宇宙生活を長期間続けることが難しいのである。白日鉱のような太陽光線を発するレアメタルを多量持ち運べは長期間の移動も可能だが、それだけ移動にコストがかかることも、黎烏が宇宙で目立たない理由の一つだ。

 

「黎烏の故郷『深閃(しんせん)』は大昔に自爆みたいなことして崩壊して数減らしてるし。その後宇宙に散ったけどちょうどいい日光のある星を見つけたら動かない奴らだから、お目にかかる機会も滅多にない。というか夜兎とは生活圏が違いすぎて会うことがねぇってカンジ」

「お前詳しいアルな」

「知り合いがいたからな。いけ好かないやつだったけど」

「こちらでも野蛮な野兎は願い下げだ、母ちゃんのおっぱい吸ってクソして寝な」

「口悪ッ!てーかさっきまでのカタコトキャラ作りかよォォ!カタコトキャラそんなんばっかなんだけどォ!」

 

突然流暢に夜兎をディスりだすギョウカイに、新八が律義に突っ込んだ。そして神食は中指を立ててギョウカイにメンチを切った。

 

「うるせぇ烏のくせに地面を這いつくばりやがって本当に地面とキスさせてやろうかオォン!?」

 

これまた古い話ではあるが、夜兎と黎烏はお互いにお互いをうっすらと嫌っていることが多い。生活圏が異なるために鉢合わせることは少なく憎悪しているは言いすぎだが、互いが互いを軽蔑している。

夜兎から見れば自分たちと同等の優れた体を持ちながらそれを生かさない軟弱な種族で、黎烏から見れば優れた体を持ちながら、それを殺し合いという生産性のないことに費やしている野蛮な種族という風に見えている。

まあそれも夜兎も黎烏ももう少し数が多かったころの昔の話であるため、最近は知らない者も多い。ギョウカイはしっかり親からそのあたりの話を聞いていたのかもしれないが。

 

ギョウカイに吹き飛ばされたきり返事がなかったが、銀時はしっかり復活してきていつもの着物を身に着けていた。ギョウカイの肩をぽんとたたく。

 

「まァまァ、ここは地球だぜ。私情は仕事に持ち込まないのがプロってもんだ。てなわけで屋根の修繕はよろしく頼むぜ、金丸君」

「ギョウカイデス」

「あっカタコトに戻った」

 

そもそも、今日万事屋は依頼があってその出発の支度をしていたのである。デリバリー大工でグダグダと時がたってしまったが、そろそろ出立しないと間に合わない時間だ。

銀時、新八、神楽の三人は、あわただしく万事屋を出て行った。

 

「神食、シール忘れんなヨ!」

 

玄関から神楽の言ってきます代りの声が届いた。ギョウカイは万事屋の天井にぽっかり空いた穴――今はビニールシートで覆っている――を眺め、修繕方法を考えている模様だ。

 

そして銀時たちを送り出し神食はニートを満喫するわけだが、本日の昼は予定があるため、彼もそろそろ出陣しなければならない。寝間着からいつもの中華服に着替えると、通常サイズの方の傘を手にした。

 

「オイ、俺出かけるけど修理任せたぞ。別にシャンデリアつけろとかねーから」

「そんな金もらってないのでやりません」

「どういう基準でカタコトキャラと標準語切り替えてんの?」

 

まぁいいか、と神食はブーツを履いて玄関を出て傘を開こうとした瞬間――ガキッ、と鈍い音がした。

開こうと何度も押してみるが梨の礫で全く開く気配を見せない。挙句の果てには力を入れすぎて柄がもげた。

 

「ゲッ!」

 

壊すようなことしたっけ?と思い返しても心当たりはない。しいて言えば小型宇宙船から万事屋までスカイダイブ墜落をキメたせいで余計な衝撃が加わってしまったからだろうか。それとも経年劣化か。

万事屋に来てから一週間、外出がほぼ夕方以降だったためすっかりノー傘で歩き回っていて気づかなかった。

 

しかし本日、万事屋の屋根の下にいるため日陰だが、それでも季節外れの高気温で日差しが強いことはわかる。

傘なしは今日の予定を考えても危険だ。もう一本の大きい方の傘は実質ビーチパラソルみたいなもので、正直日傘としてはかなりイマイチだ。

 

「しゃーない、どっかで日傘買おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万事屋から最寄りのゴン・キホーテは十時の開店である。時刻は九時半だったが、すでに店先に長い列ができていた。神食は列をたどって『バンバンドロップシール販売最後尾列』のプラカードを持った店員らしき人物に列を確認し、最後尾についた。

列は二列で並ぶらしく、テレビでも取り上げられていたが、実際にこんなにシールを求める人間がいることには驚きである。シールは色々な種類があり、特に女性は友人と交換して楽しむなどとテレビでは解説していたが何が面白いのか神食にはよくわからなかった。シールそれぞれに攻撃力とか防御力があって……とどうしても戦う方向に思考が偏っていく。

 

そもそも神食が興味のないシールの行列に並ぶことになったのは、昨日の夜にさかのぼる。

 

仕事も終わり夕食も済み、もう今日はくつろいで寝るだけですという弛緩した空気の中、突然神楽がチラシを手に叫んだ。

 

「バンバンドロップシールゥゥゥ!!」

 

銀時は社長椅子でジャンプを読み、神食はどこのキャバクラを開拓しようかと夢想し、新八はそろそろ道場に帰ろうかと身支度を始めていた。つまり誰もまじめに聞いていなかった。

 

「バンバンドロップシールゥゥゥ!!」

「うるっせェェ!!んな叫ばなくても聞こえてるっつーの!」

 

社長テーブルにチラシをたたきつけ、銀時の耳元で再度叫ぶ神楽。銀時は面倒くさそうに体を起こすと、テーブルの上のチラシに目を落とした。そこには、近所のゴンキホーテで件のシールを入荷できたので、明日開店から先着順で販売するとの記載があった。

なお、おひとり様一枚まで。

 

「つーかお前そのシール、興味ねぇつってただろーが。スーパーの半額シールの方がときめくアルとか言って」

「乙女心と秋の空って言葉を知らんアルか、シティー派は流行にも敏感ネ。全員で行けば四枚確保できるアル」

 

何故か全員で買いに行く想定がなされているが、首を傾げた新八が口を開いた。「神楽ちゃん、明日は朝から依頼が入ってるよ。大きなお屋敷の引っ越し手伝い」

「そうそう、仕事だ仕事。今流行りまくってるだけで少し待てばいつでも買えるようになるだろ」

 

仕事が終わってからだと夕方近くになってしまい、昨今の人気を見るにおそらくとうに売り切れてしまうだろう。

流石に万事屋従業員の自覚はある神楽は、ぶぅとむくれはしたものの、しょうがないアルとチラシを丸めてゴミ箱にシュートした……のを、神食が途中でキャッチした。

 

「明日の朝十時か。俺だけでいいなら行ってくるぜ?」

「マジでか」

 

神食は自分がヒマな時なら万事屋業を手伝うとは宣言しているが、万事屋従業員ではない。銀時も顧客である神食の労働力をあてにして仕事を受けてはいないので、明日の仕事に彼がいないのは問題ない(というか来ると考えてない)。

 

「でもシール代は自分で出すんだぞ」

「銀ちゃん!先月の給料もらってないヨ」

 

一瞬ビシッと硬直した銀時は、全額はともかくシール代くらいなら今出せるらしく、これで足りんだろと神食に現金を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

そういったわけで、神食は流行りのシールを手に入れるべくゴンキに並んだわけだが……暑い。思っていた以上にとても暑い。

道中日傘を求めたが女性向けの傘しか置いておらず、神食にとっては少し小さいうえに、そもそもの日傘としての性能が夜兎向けの傘よりは劣る。

時刻は九時五十分、開店まであと十分。せめて並んで待っている場所が日陰であればもう少しマシだろうと思う。隣なら少し日陰に入れるので、尋ねようとしたその時に、逆に声をかけられた。

 

「そなた、顔色が悪いが大丈夫だろうか」

「え……あ、そっちの日陰と替わってくれると助かるぜ」

 

隣人はうむと頷くと、神食と居場所を入れ替えてくれた後に、持っていたペットボトルのスポーツドリンクを渡してくれた。ここでやっと神食が顔を上げて隣人の姿を見た。

 

着物は一般庶民並みのものを身に着けている青年。すらりとした優雅なたたずまい。手拭いをほっかむりのようにかぶり、横からは顔を見にくいがのぞき込めば、どことなく品のある顔立ちに、きれいに結われた髷がちらりとうかがえた。

神食はもらったドリンクを一気に飲み干すと、改めて礼を言った。

 

「大分マシになった、ありがとう! くぁ~地球の日光舐めてたぜ」

「先ほどよりはよくなったように見えるが、まだ悪そうだ。落ち着いて休める場所に行った方がよいのではないか」

至極当然の言葉だったが、神食は首を振った。「……いや、大丈夫!妹からシールを任されてるんだ」

 

神楽は妹ではないが、赤の他人のためというと不審者度が増すためにざっくりとそう返した。すると、青年は目を開いて少し笑った。

 

「それは奇遇だ。余も、妹からシールが欲しいと頼まれてここにいる」

「マジでか。……シールは女の子に人気って話なのに妙に野郎が多いのは、俺らみたいなのが混じってるからか。とにかくお互い妹のためにシールを手に入れような、……えっと、誰?」

「徳川茂茂だ。将軍だから将ちゃんでいい」

「じゃあよろしくな将ちゃん。俺は神食」

 

当然将軍の何たるかを知らない神食は、将軍=お坊ちゃんみたいな敬称?くらいの解釈で、傀儡政権とは言え表向きのこの国のトップとは露知らず、ともにシール獲得を目指すことになった。ちなみに、松平公はキャバクラに向かった。

 

十時になり、ゴンキのシャッターが上がり店員がアナウンスを始める。『十時になりました!シールは一人一点までです!押さないで一人ずつ……』

「行っくぜェ将ちゃんんん!!」

 

神食は右手に日傘、左手に将軍の腕をひっつかんで軽く助走をつけて高くジャンプすると、前に並んでいた客の頭を踏み台に、飛び石のように素早く跳ねて先頭へと踊りだそうとする。

あまりの勢いに、将軍のほっかむりがふわりと宙を舞う。――がその時、神食にぶん回されている将軍の着物の裾を、煙草をくわえた男の客が掴んだ。「テンメェェちゃんと並べェェ!」

 

とてもまっとうなツッコミをした客と神食で将軍の引っ張り合いになったが、日光の下でも夜兎が力で負けるはずもなく将軍の着物を引き裂いても前へ跳ぶ。先頭に天人と思われる巨体の客が見え、それよりも蹴りやすい一つ手前の客を踏み台にして最前列に躍り出フロアに着地した瞬間、彼の上にふわりと影が掛かった。

長い黒髪をなびかせて彼を飛び越えた女は、ブーツの音もなく着地して少しだけ振り返る。

 

「そうはさせない。シールは私のもの」

「そうはいくかァ!ってウワァァ!」

 

いつもの力で傘の柄を握りしめてしまったせいで、戦闘用ではない、先ほど購入した日傘の柄が粉みじんに砕けてしまった。

神食は舌打ちをしつつ間髪入れず、左手の将軍を武器代わりに女に向かってぶん投げようとした。

 

「二人の力でシールゲットだぜェえ~~~~~ッ!!?」

「走っては危ないですし、モノを人に向かって投げてはいけませんよ」

 

思いっきり振りかぶった将軍が、投擲フォームにはいる寸前で止められている。しばらく感じることのなかった圧迫感を背後に感じ、神食は振り返り、将軍をもぎ取って飛び退った。

 

体長二メートルを超える巨体、深緑色の肌に鬼の形相、頭の両脇から下に向かって大きく生えた角に鬣のような黒い頭髪。青いエプロンと頭上の一輪の花が場違いだったが――その面構えを、神食は知っていた。

 

「荼吉尼!しかも相当な手練れと見たぜ――地球でも征服しに来たかァ!?」

 

すでに販売会場は混とんとしていた。飛び出した神食と将軍、黒髪の女、一番最初に将ちゃんを掴んだ若い男――を皮切りに並んでいた客たちも我先にとシールを求めて店内になだれ込む。

統制を取ろうとしていた店員が悲鳴を上げ、マイクで店長にヘルプを求めたその時――陳列棚が動き出し左右に別れ、中央に開けたスペースが現れる。

そして店奥中央には、もこもこしたかわいらしいシルエット、あたかも羊のような着ぐるみに身をつつみ、マイクを持ったオッサンの姿が。

 

『貴様らァ!そんなにシールが欲しいかァァ!!』

「!?」

『ほしいならシールづくで奪え!シールはシールらしく交換して手に入れろ!……奪い合いというのは穏やかじゃない。そうだ、今真っ先に飛び込んできた燃えるシーラーたち――そこの黒髪のお嬢さんとお父さん、赤毛のお兄さんとブリーフ、あの……頭にお花の咲いた方&アンパン臭い彼らに三チームに分かれてゲーム勝負をやってもらおう』

「結局交換なのか勝負なのかどっちなんですかね」

「異三郎、シーラーって何?」

「何で俺までアンパン臭いことになってんだ山崎ィィ!!」

 

神食と将軍の少し前で、先ほどの黒髪の女と、その連れらしい着物に羽織を着たオールバックの男が会話をしていた。それと、黒髪に煙草をくわえた着流しの男性と、地味めだが何故か大量のあんぱんの入ったビニール袋を提げた男性のコンビもいる。

つまり敵はこの四人と先ほどの荼吉尼ということになる。

しかしブリーフって何?と思った神食はまるで傘のように片手に持っていた将軍を見た。

 

「あれ?将ちゃんどうしてブリーフ一丁なの?」

もちろん夜兎に武器代わりにブン回されている将軍に、すでに意識なんかなかった。

 

首を傾げる神食をさておいて、着ぐるみのオッサンは一人ノリノリで解説を続ける。

 

『もちろん買ったチームにはただでシールをさし上げる。そしてほかのお客様は、どこのチームが勝つか予想してほしい。そして、勝利チームに賭けた者たちにシールを購入する権利を与えよう!万一在庫数が足らなくても安心してほしい、私が他店に全裸で土下座しても数をそろえ……イデッ!!』

 

どこからか飛んできたボールペンか何かがオッサンの頭に激突したのを皮切りに、石やノート、その辺にあったと思われるものが次々と投げつけられる。

オッサン、おそらくは店長の提案に全く納得のいかない人々のブーイングである。それはそう。

 

『んだよテメーら!こんな平日の真昼間からシールごときにムキになりやがって社会不適合者どもがァァ!』

「みなさん、そう騒がずとも大丈夫です。求めるはエリートのエリートによるエリートのシールです。賭けるならエリートOFエリート警察の私たちがいいでしょう」

 

ざん、と一歩前に出たのは黒髪女とオールバックのコンビだ。「シールと一緒にメルアドも交換してください」

 

黒のインナーを下着としたうえに、袖が半袖状かつ裾が深いスリット状になっている着物を着、下にホットパンツとブーツといういでたちの黒髪の若い女。

方や髪こそオールバックだが、着物は古式ゆかしき幕臣を思わせる上等なものを着た男。オフゆえだろう、二人とも帯刀はしていない。しかし身のこなしから、双方ともかなりの使い手であることを神食は理解した。

銀さんと言い、地球人もなかなか粒ぞろいでは?と心で笑みつつ、右手に持った白目をむいてブリーフ一丁の将軍を突き出して堂々と口を開く。

 

「んだァ~~?若いお父さんと娘さんで参加かァ!こっちだって妹の為に参加してんだゴルァ!エリートがなんぼのもんじゃい、こちとらニートと将軍だぜ、賭けるなら俺たちにしな!お嬢さん美人ですねあとでメルアド交換してください」

「ポンデリング持ってきたら考える」

「マジでか。もうシールとかいいやマスド行かない?おごるから」

 

神食のたわごとをスルーした黒髪の女は、将軍のワードに連れの男をちらっと見た。というか、そのほかの客も将軍というワードに首傾げていたが、何かの聞き間違いだろうと判断した。誰が将軍がブリーフ一丁でボコボコになっていると思うだろうか。

 

「……もしかして最後の一組は、僕とこのたばこさんとアンパンさんで一組ということでしょうか?」

『そうです。どうあっても1チームの人数がバラバラになっちゃうのであなたたちはもうひとまとめで』

 

割とアバウトなチーム割だ。

煙草をくわえた男と地味な男は連れ合いらしくお互いに顔を見合わせて、それから二人そろって荼吉尼を見上げた。

二人とも大量の汗を流して、要するにビビっている。

 

「屁怒絽といいます。争いごとはいけません、みんな仲良くしましょう」

くわっ、と迫力のある顔面にさらに深い陰影を加える茶吉尼の屁怒絽。

 

(コイツ、自分に刃向かう者皆殺しにして仲良しを実現しようとしている!)

 

「「「「屁怒絽さんにベットします」」」

 

神食や黒髪の女グループ以外の客の声がハモった。同じチームのたばことジミーも自分のチームにベットすると言い始めているし、なんなら羊着ぐるみの店長はあまりの恐怖にちびっていそうである。

 

「チッ、ずいぶんと舐められたもんだぜ!いいのかいお嬢さんとお父さん」

 

若干シールのことを忘れつつある神食は、茶吉尼への闘争本能を押さえつつ親子二人へと水を向けた。

 

「構わない。これで私が勝てばシールはすべて私のもの」

 

ルール上、ベットゼロのチームが勝てばほかの客も購入権を失うので、チームメンバーの総取りが実現する。

 

「……確かに!お嬢さんお名前は?」

「佐々木異三郎です。メルアドなければライヌでも」

「あっ結構です」

『ふふふ、なんやかんや皆さんの合意がとれたようなので、さっそくゲーム勝負の説明に入りましょう』

 

「ゲーム?殺し合いじゃなくて?」握り拳を作った神食は澄んだまなざしで店長を見た。

 

『いつ殺し合いになりましたかァァ!? ノリが良さそうだから盛り上げてくれるかもと思ったら一番物騒だなアンタ!』

 

こほんと咳払いをして、着ぐるみの店長は片手をあげて合図した。それとともに、両脇から片方はヘルメット、片方はフワッとした棒のようなものを持った店員が現れた。店員は参加者一人に一つヘルメットと棒を渡していく。

店長はどことなく自慢げな面持ちで、たっぷり息を吸い込んだ。

 

『――新発売!チキチキ☆スポーツチャンバラセットォォォ!頭をがっちりホールドヘルメットは、お子様から大人までサイズ調整が可能なうえメッシュ素材を採用し、夏でも涼やか!そして爽快エアー剣!天然ゴムで作られ空気で膨らますエアー剣は、どこに当たってもけがすることなく老若男女チャンバラが楽しめる!今なら初回限定で剣先から醤油がでてくる便利機能付き!これでいつでも卵かけ醤油ご飯だ!』

「「「商品の宣伝したいだけじゃねーか!便利機能いらねっ!!」」」

 

観客に突っ込まれるがスルー。『ルールを説明しよう。全員、一つのヘルメットと一つのエアー剣を持ってください。スタートの合図と同時に試合開始で、敵チームの体のどこでもいいので剣でたたいてください。叩かれたらその時点で失格! 最後に残った一人のチームが勝ちです。失格になった人は、その時点で私のところに戻ってきて待機。念のためだけど、相手を殴るとか蹴るとかしちゃだめだから!心配になってきた!』

 

店長の説明を聞き、タバコとジミーとあだ名された二人が会話をしつつヘルメットの装着をしていた。

 

「副長、なんだかおかしなことになってませんか?」

「おかしいのはお前が持ってきたアンパンの量だろーが。しかし、あの黒髪の女の隣にいる白髪……」

 

ここにいるは真選組副長、土方十四郎と監察方の山崎退。もちろん二人とも職務外、というよりれっきとしたオフだ。

明らかにシールなど興味のない二人だが、わざわざシールを求めに来た理由は一つ。近藤にハチャメチャに頼み込まれてしまったからだ。

このシール、どうやらキャバ嬢の間でも流行っているらしく、志村妙に買ってこいと[[rb:頼まれた > 脅された]]らしい。最初は近藤自身が買いに行くつもりだったが、お偉方の会議に呼び出されてしまった。

そこでオフの土方に白羽の矢が立てられたのだが、一人一枚の縛り上頭数があったほうがよい、あとカバディしててウザかったのでここまで連れてきた流れである。近藤の頼みであれば沖田も来るだろうが、残念ながら非番ではなかった。

 

土方はシールそっちのけで佐々木を見ていたが、確実にどこかで会っていると思うのに誰だか思い出せない。

あと、赤毛の男が武器みたいにぶん回している人間、かなり見覚えがあるのだがそちらは考えないことにした。今日はオフだ。

 

「そういえばあの赤毛の男、どこかで見たような……」

 

山崎が神食を見て首を傾げて眺めたが、思い出しきれずにいるようだ。そうこうしているうちに屁怒絽は流石に規格外の大きさ故、ヘルメットの装着に難儀していたが店員のフォローを受けて装着完了した。

 

「けがもしないし、音も大きくないのでいいスポーツですね。家の近所で子供たちが木の棒でチャンバラをしていると、目や喉を突いたりしないか心配ですから」

(コイツ、目や喉を突いて俺たちを一網打尽にするつもりだ!)

 

やはり屁怒絽が一番恐ろしい、と味方の山崎と土方までが震え上がる。

 

『それではシールをかけたスポチャンバトル、開始ィィィ!!』

 

店長の号令と同時に、否、寸毫早いのではないかと思える速度でエアー剣が神食の喉元に迫った。それを屈んで回避すると、左手に持った将軍で敵の足下を振り抜いた。

敵も然る者で斬りかかった勢いそのまま走り抜けて回避して、神食と入れ替わる形で対峙する。

 

『つーかまだ相方武器にしてんのかァア!ノーカンだしそれで剣受け止めてもそいつはアウトだからな!』

「お嬢さん俺を一番に狙うとはお目が高い!」

 

神食はちらりと屁怒絽を見たが、動く様子はない――が、屁怒絽を守るようにしているとタバコ、ジミーがおり、隙もない。

先に親子コンビを始末するかと背後のお父さんこと異三郎の気配を感じながら、正面は女に向ける。本当に親子かどうかはともかく、この二人は連携をとってくるはず。

 

容赦なく背後から斬りかかってきた異三郎と、それに呼応して神速で横薙ぎに振り抜く女――神食は片手の将軍を思いっきり上に突き刺さんばかりの勢いで投げ、自分も高く跳ね天井の照明をつかんで宙に浮いて剣戟を回避した。

将軍は頭が天井に突き刺さって浮いている。

 

ブランコのように体を振って手を離しそのまま宙から狙うのは屁怒絽の頭――!

 

と、刹那暴風が神食の頬をかすめていった――それは屁怒絽の丸太のような腕。ただし剣は握られておらず、手刀が掠めた形だった。重くて、恐ろしく速い。

 

「おっと危ない。ちょうちょさんが紛れ込んでしまったみたいですね。殺生はよくない」

 

どうやら神食と屁怒絽の軌道上にちょうちょがいたらしく、守るために神食の動きをずらしたかったが故の手刀だった。

そのまま軌道のわかりきった着地をすると、屁怒絽の周囲を固めていたタバコこと土方とジミーこと山崎にすかさず狙い打たれる――が、山崎の一撃をエアー剣で受けた刹那、足を床に滑らせて屁怒絽の股を猛スピードで潜り抜ける。

 

やはり茶吉尼の中でも最上位級の強さ、そして唯一の欠点である遅さをあの二人が補っている。

神食は場所もわきまえず口角をつり上げそうになるが今回はシールだ。ほかに手練れもいることだし、と考えたところで、あることを思いだした。

 

(そういやゴンキって前に銀さんが……)

 

『ってどこいくのぉぉ!!??』

 

チャンバラするどころか、神食はエアー剣を持ったまま店の奥に向かって突っ走っていった。店長もほかの客も騒然としている。

 

(こ、恐えええええええ)

 

屁怒絽チームであるはずの土方と山崎はもう、味方の屁怒絽の方が怖い。今はいい感じに連携が取れた風になっているが、離れて戦った方が精神的にはいい。

しかし、と土方は爆走していった神食を見送って眉を寄せた。

 

「あの赤毛、とんでもない身体能力だな。万事屋んとこのチャイナ娘に似ているような……」

土方が考え込んでいると、山崎が手を打った。「思い出した! あの人、この前万事屋の旦那と一緒に全裸で歩いてましたよ。近藤さんも一緒で」

「ハァ?」

 

どういう状況だよ。字面だけでもうまともそうではない空気だけ感じて、土方は頭を押さえた。

 

一方、異三郎も信女に声をかけた。「信女さん」

「わかってる。夜兎でしょ」

 

信女はボコンと将軍の股間を剣で叩きつつ、店の奥を見た。「宇宙規模で人気みたい」

「というか、あなたそんなにシール欲しかったんですか」

 

お一人様一枚の人数増やしのために連れてこられた異三郎だが、話で聞くに流行っているのはシール「交換」らしい。信女の友人関係までは知らないが、そういった友人がいるようには見えない。異三郎のメル友はさっぱり増えないというのに。

信女はその問いには答えず、話題を変えた。

 

「あの茶吉尼は底が見えない」

「あの夜兎もそう思っているように見えます。それに、無策ではなさそうです」

「……どうかしら、夜兎だし」

 

 

 

「どこだァァァァ!」

 

ゴンキの訪問自体は初めての神食である。店の構造も、ドンキ特有の商品を高く積み上げる陳列方式も知らない。

探し求める物品のために猛スピードで店内を駆け抜けるため、容赦なく通り道の商品が散乱し棚も破損する。

 

「大人のおもちゃはどこだァァァ!!」

 

突如真横から――陳列で死角になった向こうの通路から鋭い突きが穿たれる。信女のエアー剣による刺突だ。

もうエアー剣で怪我をしないという売り文句が真っ赤な嘘になっている。

 

さらに反対側の真横から、異三郎がスナックの山の奥から切り払う。それでも神食は二人の攻撃を躱す一方で、探すことを優先している。結果的に高積みの陳列を崩壊させたことで、彼は目的のエリアを発見した。

だが、背後からダース●ーターのテーマを伴い、巨大な鬼が追ってくる。

 

「みなさ~ん、どこですか? 乱暴はよくありませんよ」

「アーッ!向こうででテントウムシが潰されそう!」神食は異三郎に向かって指を指して叫んだ。

「何ですって?」

 

屁怒絽が茶吉尼に似つかわしくないスピードで異三郎に迫り、エアー剣でない腕をたたきつける。

コンクリート製の床に大きく穴が開いてえぐれ、埃が舞い上がる。異三郎はすんでの所で転がり、テントウムシガードアタックを回避した。すぐさま態勢を立て直そうとするが、屁怒絽を背後から追いかけていた土方がその姿を見せた。

屁怒絽は縦幅も横幅も人間よりはるかに大きく、その背後に隠れて追ってきたのだ。

 

「どりゃあ!」床に転がった異三郎を狙った、屁怒絽の股を抜く低空飛行の一撃。

しかし敵もさるもの――土方の一撃とほぼ同時に投擲された異三郎のエアー剣が、土方ではなくて――あんぱんの安売りに目を取られていた山崎に当たった。

 

「山崎ィィ!!」

「すんませんすんません、でも一個50円ってすごくないですか!?」

「知るかァァ!!」

 

土方がエアー剣で山崎をボコっている間に、神食は18禁コーナーに滑り込みぬるぬるローションの封をできる限り切っていった。

エアー剣を腰の帯に挟み込み、抱えるだけローションを抱えると部屋から飛び出す。

 

そう、三大傭兵種族とされる茶吉尼の弱点は、ローションをかけると皮膚が焼けただれて弱体化すること!

 

「うおりゃああああぁぁああァ!!??」

 

走りながらローションを剛速球で投擲していく神食だが、慌てて開封したせいですでに床と彼自身がローションでベチャベチャになっており、つまりは思いっきりこけてすさまじいスピードでスライディング、壁に激突した。

が、投擲した分は見事屁怒絽にクリーンヒットしたようで、焼け焦げるような音が響く。

 

「ウギャアアアアアア!」

 

ここで唯一無傷であった信女は、縮地もかくやの電光石火で屁怒絽に接近して――剣で屁怒絽を打ったのである。

これで最大の脅威は去った――と神食はズルズルのまま立ち上がろうとしたが、信女の背後に迫る黒い着流しを見た。

 

背後から迫る、屁怒絽チームのラストメンバーである土方。神食はすぐさま立ち上がるのをやめ床に寝そべるとそのまま壁を全力で蹴り飛ばし、ローションまみれになりながら弾丸のごとく突撃しようとするが、信女の反応の方が早かった。

暗殺染みた閃光の速さで振り返ると、土方のエアー剣を躱して己の剣を振りぬいた。

 

土方の脇腹に当たり、これにて屁怒絽チームは壊滅、残るは――

 

「あ、ホットパンツだった」

ローションに乗って床を加速して滑った神食がすぐ足元に、つまり。察してください。

元々ハイライトのない信女の瞳がつや消しブラックになり、そのままエアー剣を足元に突き刺した。

 

 

もう安心安全のスポーツチャンバラって何だっけ?な店内の惨事であるが、幸い防犯カメラが機能しており勝敗判定は覆ることはなかった。店員は崩壊した売り場を見て顔を引きつらせて「どーすんだコレ!?」と騒いでいたが、神食的には死人もいないし建物も崩壊してないしお行儀よくできました、と鼻高々である。

そして彼は天井に突き刺さったままの将軍を、これまた力づくで抜くと床に横たえた。神食自身はローションでズルズルなうえ、もうスポーツチャンバラ関係なく信女にボコられて顔面ボコボコだったが、どこか満足そうだった。

 

「いや事故だから、見ようと思ってみたわけでなくてな、いやみたのはホットパンツだけど。でも叫ぶべきではなかった、俺の心に秘めておくべきだったぜ、紳士失格……それはともかく、ごめん将ちゃん、負けちゃったぜ」

「……余は、誰だ?」

「ウワァーッ将ちゃん記憶が!?こんなにボロボロでブリーフ一丁で足軽になって、一体誰の仕業だ許せねぇ!」

「ねえそれアンタ本気で言ってる?」

 

いろいろな意味でドン引きの店長が突っ込んでくれた。とにもかくにも信女と異三郎ペアが勝者だ。

だが、異三郎は血と汗の結晶たるシールを眺めつつ首をかしげた。

 

「……ベンベンドロップシール?」

 

それにつられて、信女もワゴンに積まれたシールを一つ、二つ手に取り眺めた。

「ベンベンドロップシール」

 

今度は別の意味で場が騒然としてきた。観客、もとい客たちもぞろぞろとシールを手に取って見る。

 

「「「「バッタもんじゃねーか!!!」」」

 

 

 

 

温暖化著しい地球では、真夏でなくても日差しの強い日がしばしばある。神楽はいつものように日傘をさして、待ち合わせの場所に向かう。とことこ歩いているうちに見えてきた馴染みの駄菓子屋の店先には、すでに友人の姿があった。

 

「そよちゃん!」

 

店先の椅子に腰掛けていたのは、つややかな黒髪に綺麗な髪飾りを挿した、神楽と同じ年頃の女の子だった。

着物も一瞥して上等なものだとわかる、上流階級の人間――現将軍の妹君であるそよ姫だ。

 

「遅くなってゴメンアル」

「ううん、私もさっききたところ。いきなりなんだけど神楽ちゃん、前言ってたシールのことなんだけど……」

 

そよ姫は眉を下げながら、小袖から一枚のシール台紙を取り出した。上部にはベンベンドロップシールと書いてある。

神楽がそれほど興味のなかったシールににわかにこだわりだしたのは、そよ姫とのやりとりが原因だった。

テレビでシールを見たらしいそよ姫が、シールの交換楽しそうというものだから、私たちもやるネと二つ返事で乗ったのが始まりだった。

 

「本当は自分で買いに行きたかったけど、入荷して買える日に体調がよくなくて、兄上様が買ってきてくれたんだけど……」

 

なぜかその日、お忍びの兄こと将軍茂茂が満身創痍だったのはそよの中でも不思議である。

すると神楽は隣に座り、同じくシールを取り出した。こちらもベンベンドロップシールと書いてある。

 

「私も舎弟に買ってきてもらったけど、アイツパチもん掴まされたアル」

 

やれやれ、と神楽はポケットに入れていた酢昆布をかじりだした。

二人は顔を見合わせて笑うと、お互いのシールをのぞき込んで笑った。

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