マッドサイエンティストは反省しようとした   作:蛸葦廃船ファン

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緋色の鳥が飛ぶとき

「原因はscp-444-jp。先日あなたが我々を連れて行った廃墟に住んでいたオブジェクト。あなた方日本生類創研が生み出した怪異ですよ。この先を聞いたら引き返せませんが続けますか?」

 

前に会った時の枝藤は確かに覇気のない弱弱しい男だった。だが、電話越しの声はそれよりも何割増しで力が抜けていた。彩葉はそれに覚えがある。先が長くないものの言葉だ。終わりが近くても、何とか少しでも伝えようとする必死さがある。

 

「続けろ。」

 

日本生類創研が絡んだ事件。そもそも自分が勝手に任せてしまったことが原因だというのなら彩葉には断ることはできなかった。死に際の願いならなおさら。

 

「緋色の..失礼、scp-444-jpは初期において特定の言葉を認知することで広がるオブジェクトでした。しかし、成長し今では知っているだけで汚染されます。これを早急に封印しなくてはじきに人類すべてが奴の餌になるでしょう。管理していた我々のサイトは暴動により壊滅。全職員がすでに汚染されました。サイトの封鎖は失敗、すでに汚染された職員が外部に出たと考えられます。数時間以内にパンデミックが発生。Kクラスシナリオにより人類は滅亡します。我々は上に報告することを断念しました。パンデミックをより進行させるだけでしょうから。私は最後の手段としてこの財団の人間として屈辱的な選択を行いました。我々より詳しいだろうあなたがたに…」

 

枝藤はそこから先の言葉を続けなかった。

 

「おい、どうした。おい!」

 

彩葉の叫びに返事はない。叫び続けながら走るうち、第五棟へ到着した。棟への通路には鋼色の壁が居座っている。アマテラスの防壁がすでに下ろされていたのだ。

 

「これは何が起きてるんだ?」

 

思わずそうつぶやくと返事をする声があった。

 

「中で起きているのはどうやらただの暴動じゃないみたいでね。」

 

辺りで動き回る武装研究員の間から出てきたのは久能だった。

 

「アマノイワトのログを見る限りでは東幣が記録していた危険な呪術か何かが内部で行われているらしくてね。アマノイワトが壊れる様子もないし第五棟は即時封印。この後、燃やすかはまだ悩んでいるところさ。」

 

「中には根田だって、医療部の連中だっているんですよ!」

 

彩葉は久能の胸倉をつかむ。周りの武装研究員が止めにかかるが、大柄な彩葉を止められない。だが、当の久能は気にした様子もなく飄々と語る。

 

「犠牲はいつものことじゃないか。進化の礎になるなら彼らも本望さ。Bエリア第三研究所がなくなることは絶対に防がなくてはならない。君でもそれくらいは分かるだろう?」

 

「中の連中を逃がすぐらいはしてもいいじゃないですか!」

 

「臭いものは早めに閉じるべきだし、そもそもここでの危険な実験は禁止だ。わざわざいくつも実験棟を分散している意味がなくなってしまうだろう。」

 

久能のいうことは正しかった。日本生類創研だって全てが許されているわけではない。日本生類創研に致命的な影響を及ぼさなければという条件が付く。甘いのではなくすべてが自己責任という文化なのだ。何か不測の事態が起きた時の対処さえ。

 

「ふうーー」

 

彩葉は一度大きく深呼吸をする。今はこの暴動の原因なのだというそのscpなんちゃらをどうにかしなくてはならない。

 

「久能さん。認識生物部に聞き覚えは?」

 

認識生物部、それは恐らく原因を研究していた廃墟で見かけた今は存在しない部署だ。知っているとしたら久能しかいない。同じリストに載っていた自主回収部を知っていたのだ。知っているに決まっていた。

 

「知っているが、10年以上前に廃止されている部署だよ。」

 

「資料はどこかに残っていませんか?」

 

「知らないな。零細部署だったし、この研究所では活動していなかったからね。」

 

その言葉が嘘なのかどうか、彩葉にはもはやわからなかった。問い詰めても聞き流すだけ。人類の危機だなんだという説得もここにいる狂人たちにはきっと響かない。自分の手で解決するしかないのだ。わかり切った事実にようやく思い至った彩葉は一度壁を殴りつけ、心を落ち着かせた。

 

「クソっ!」 

 

何か情報はなかったか。何かあるはずだ何かが。それを作り出したならその資料は必ずどこかにあったはずなのだ。そういえばあの廃墟で根田が本を持ったまま倒れてそのまま連れ帰ったはず。手がかりがあるとすればそれしか思いつくものはなかった。

 

「久能さん俺を中に入れてください。出てくる気はありませんから!」

 

彩葉は気が付くとそう言っていた。

 

「お願いです!」

 

「わかったわかった。」

 

久能はいつものように飄々と答えた。

 

「若者の熱意は応援しないとね。ただし、本当に帰ってはこれないよ。」

 

久能がそんな確認を取ってくるのは初めてだった。熱くなっていた頭が冷え、自分がどれだけ危険なことをやろうとしているか改めて理解した。だが、それでも出てくる答えは変わらない。

 

「…理解しています。節本、お前は来なくていい。」

 

「待ってください! 彩葉さん!」

 

節本がそう言うが、待っている時間はない。節本はこんなことに価値は見いだせないのだろう。ただ、彩葉にはやらなければいけないことだった。そうしないと自分にまた失望してしまうとわかっていた。

 

「アマノイワトに小さな扉を作らせる。そこから入りなさい。」

 

最後になるだろう会話でも、久能はいつも通り何の感慨もなさげだ。そのことが彩葉にはなぜか安心すると同時に、とても悲しかった。

 

 

 

第五棟内部は以外にも静かだった。彩葉は真っ先にウイルス部に向かう。同僚が全員行方不明になってからというものウイルス部は第1研究所がメインになってしまいここは彩葉専用の部屋になってしまっていた。いくつか役に立ちそうなものを回収すると部屋を出る。

根田と本が運ばれたはずの病室に向かっていると、誰かが壁に落書きをしている。白いはずの壁は赤と黒で塗られている。

 

「無事か?」

 

彼らは返事をせず壁に落書きを続けている。

 

「おいっ!」

 

彼らの肩をたたくが反応を示さない。だが、近づいたおかげか彼らがささやいている言葉が聞こえた。

 

「あかしげ やなげ 緋色の鳥 くさはみねはみ 気を伸ばせ」

 

そう口走りながら彼らは壁に落書きをし続けている。脳裏になぜか赤い荒野が広がる。その時ようやく彩葉は気づいた。彼らはペンのようなものを持たずに落書きをしていることに。手正しくは指をこすりつけることによって流れ出た血で落書きをしていたのだ。足元には壊れたペンが転がっている。そして壁に書かれているのは絵ではなく言葉だ。あかしげ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ 気を伸ばせ。壁には所せましと文字で埋められている。不思議な浮遊感に彩葉は包まれた。壁に手を当て、何も書かれていない丸い空間が目に見えてくる。脳裏の裏で何かが近づいてくる。

 

いや緋色の何かが、赤い空を飛んでいる。まだ遠いはずなのにそれが起こす風で吹き飛ばされそうになる。どんどんとそれは近づいてくる。どんどん大きくなっていく。鳥なんてものじゃないそれはドラゴンと言われてもおかしくはなかった。日本生類創研でもこんな生物は見たことがない。恐怖にかられ、赤い原野を走りだす。だが、後ろからの風がさらに強くなる。周囲が一瞬暗くなったかと思うとすぐに明るくなった。前方からドスンと音がする。恐る恐る顔を上げた。目に入ったのは口を大きく開けた緋色の鳥だった。視界が真っ暗になる。肌にぬるぬるとした感触を感じる。おなかのあたりが強烈な痛みに襲われる。体がはちきれそうだ。ただ悲鳴を上げることしかできない。

 

 

「彩葉さん!」

 

彩葉は誰かの声で目を覚ました。

 

「俺は…」

 

なぜ自分が床に倒れているのか彩葉は思い出せない。暴動が起きたと聞いて、何かを止めるために第五区画に突入した先が不明瞭だった。

 

「思い出そうとしない方がいいです。わざわざ忘れさせたんですから。」

 

脇で安心した様子の節本が声をかけてきた。彼女の指さす先には段ボールが置かれている。少し空いた空間から火のついた部分が見える。おそらく久能から渡された七輪だろう。

 

「忘れさせたか…」

 

なるほど七輪を最初見た時、彩葉は記憶の一部を失っていた。それを使って彩葉から記憶を取り除いたということなのだろう。しかし、消された記憶を思い出せない彩葉にはその必要性は分からなかった。

 

「私が彩葉さんを見つけた時、暴れていました。何を聞いても答えなかった。明らかに思考が汚染されていました。そこで私が持っていたこの七輪を見せてみたところ予想通り彩葉さんは回復したということです。」

 

そこまで言われて、ようやく彩葉は気づいた。

 

「節本なんでここにいる。来るなって言っただろう。」

 

「彩葉さんはこういう時、準備不足ばっかですから。さすがに命の恩人を無駄死にさせたくありません。実際、こんな明らかな精神汚染対策にぴったしな道具忘れてましたしね」

 

にこやかにそんなことを言われても、彩葉の顔は冴えなかった。

 

「入るとき久能さんに言われただろ。帰れないぞ。死ぬんだぞ。研究を続けなくていいのか。そもそも君は久能さんと同じような考えだろ。どうして付いてきた?」

 

「確かに科学のための犠牲なんてどうでもいいです。ただ、恩義は大切にしないと。どうせあの時死ぬはずだったんです。もう十分といえば十分ですよ。」

 

落としたらしいカバンを差し出しながら、節本は笑っていた。

 

「さあ、行きましょう? 目的地は根田の病室であってますよね。」

 

彩葉はカバンを受け取りながら、「すまん、ありがとう。」と小さく言うことができた精一杯だった。

 

 

根田がいるはずの部屋に近づく。時間が経つにつれて、記憶も回復し始めていた。

彩葉は廃墟にあった資料を捜しに来たのだ。

 

「そういえば電話の相手はどうなったんですか?」

 

「電話!」

 

彩葉はポケットから慌てて携帯を取り出した。一番新しい履歴の番号にかける。確か、財団の人間である枝藤が途中で無言になったのだ。

 

コールが止まった。

 

「無事かっ!?」

 

「原因のくせにそんな相手を気に掛けるみたいに言わないでください。気分が悪いです。」

 

電話の先の声は女のものでどう考えても枝藤のものではない。だが、そのあたりの強さには覚えがあった。

 

「お前、花追とかいうやつか?」

 

「あら、マッドサイエンティストに名前を憶えられているなんて不光栄ですね。」

 

前にあった時ずっと突っかかってきた相手だ。最悪だ。情報交換もできそうにない。

 

「言い争ってる暇はないんだろう。何か進展は?」

 

「あなたたちとの協力には反対なんです。ですが、枝藤さんの頼みですから伝えます。やつを無力化しろ。できないなら、知った人間を止めろ。」

 

さすがに財団の一員か、この状況下では恨みつらみは止まないが最低限の会話をする気はあるようだった。だが、資料を見たのは意識を失ったらしい枝籐だけらしく、解決方法は明確ではないらしい。最も、枝藤が起きても答えなどないのであろうが。

 

「やっぱり資料を探すしかないか…」

 

そう考え通路を歩きながら、いまだに呪詛を吐き続ける追花に話しかけていた。

 

「そんなに日本生類創研が嫌いか。」

「嫌いです。」

 

「即答だな。」

 

「目を燃やされ、親を殺され、故郷を燃やされた人間の気持ちなんて倫理などないあなたにはわからないでしょう。私は偶然財団に助けられた。それでもまたすべてを失った。」

 

彩葉は息をのむ。彩葉にはそれに覚えがあった。だが、彼はそれ以上会話を続けることができなかった。

 

 

根田の病室に近づく。ここに来るまで何回か七輪で記憶を飛ばしていた。そのせいで記憶はあやふやだったが、中の資料を読むという目的だけは明確に覚えていた。

病室の扉は赤く染められている。地面も赤や黒で何かが描かれている。

 

「俺が入る。」

 

節本に声をかけ、携帯を渡す。

 

「わかっているとは思いますが、見ちゃいけませんよ?」

 

壁にかかれる文字、柄、その他の何か。七輪によって忘れていなければとっくに全滅していた。

 

「努力はする。行くぞ。」

 

目を閉じ感覚だけで扉を開く。

中ではカリカリという音が鳴っている。それだけじゃない。誰かが歌を歌っていた。薄く目を開ける。白いはずの部屋は赤い世界になっていた。飛べることに気づいた彩葉はとっさに節本の方を見る。彼女が抱えているものは七輪だった。先ほどより焼かれている餅が膨らんだ。

 

「クソっ! ええいっ!」

 

彩葉は目を閉じたまま歌う何かに近づくとそれをどうにか持ち上げ扉の方へ投げた。

赤い荒野の中を彩葉は飛び始めた。手に何かが触れる。彩葉はそれをつかんだ。後ろから巨大な何か赤い鳥が寄ってくる。彩葉は奇声を上げながら高度を下げ、速度を上げようとする。顔面に痛みを感じる。まだ地面より遠いはずなのに。速度も思ったよりも上がらない。赤い鳥は口を大きく開きどんどん近づいてくる。

 

頬に痛みを感じた。

 

「何分経った?」

 

「2分ほどです。それにしても彩葉さんは化け物ですね。急に人間をぶつけられるとは思いもいませんでしたよ。」

 

そういって節本は近くの地面を指す。そこには入院用の服を着た根田が転がっている。

 

「大丈夫なのか?」

「少なくとも、歌ってはいません。手も止まっています。骨も折れてるでしょうし、出血はひどいですがまあしばらくは持つでしょう。」

 

そう聞いて彩葉は少し安心した。どうせ生きて戻ることはできなというのに。そこでできた間で彩葉は自分の目的を思い出した。

 

「回収はできたか!」

 

脳裏に赤い世界がすぐに広がる。だが、そこは気にしないようにした。

節本は返事の代わりに、彩葉の横を指さした。そこには赤く染まった本がある。

とっさに伸ばした手を節本に止められた。

 

「中身は確認しました。中は奴に汚染されています。もうまともに読むことはできないでしょう。」

 

「クソがっ!」

 

彩葉は思わず本を投げ捨てる。手詰まりだった。

 

「内容ならおぼえてますよ…」

 

その時聞こえた弱弱しい声は節本のものではなかった。

 

「根田!」

 

「状況はわかっていませんが。その本の内容は認識を用いた。拡大。移動。感染を行う生物とその呪術的な遺伝子についてです。」

 

赤く染まる無機的な廊下に沈黙が広がる。

 

「使えないですね。人類の存続のためコールドスリープ装置でも急いで作ります?」

 

節本の言葉に彩葉は反応を示さなかった。

 

「彩葉さん?」

 

「はっははっ!」

 

彩葉は小さく笑う。

 

「何かいい案でもありましたか?」

 

電話の向こうで花追が聞く。

 

「なあ、ウイルスで本来絶対にありえない進化ってわかるか?」

 

「感染者を操るとかですか?」

 

「いや?それぐらいは自然にだっているさ。ありえないのは感染者を必ず殺す進化だ。感染者を殺したら、ウイルスは増えようがない。そんなのが子孫を残せるわけないだろう。」

 

「それが何か?」

 

「俺たち日本生類創研にはそれが作れる。例えば、ここに感染者を必ず焼死させるウイルスがある。」

 

そういって彩葉は懐から一つのアンプルを取り出した。

 

「scp、いえあなた方は芽原6号と呼ぶものでしたか、それを使って世界を一からやりなおさせるとでも?」

 

「違うぞ。これは芽原1号。試作品で不完全。一人が発症したらそれで終わりの失敗作だよ。だが認識を利用した感染でこれを広げれば、奴をに汚染された人間をすべて燃やせる。」

 

アンプルを節本が受け取る。

 

「根田。本の内容を教えてください。恐らく大本は負号部隊で研究されていた内容です。呪術的な遺伝子の改造なら私の専門分野ですね。」

 

「やっぱり、あなたも同じなんですね。倫理がない。」

 

追花がそう言う。だが、どうにか彼女を説得する必要があった。これが終わった後、説明役が必要だった。

 

「花追。おまえは芽原6号にかかって感染して生存したんだろう。」

 

追花は続けていた呪詛を止める。

 

「芽原1号は芽原6号に一度かかった人間では発症しない。」

 

10年以上前、芽原主任の下で研究した内容だ。間違いない。

 

「おまえは事情を知った財団が探りを入れないようにした後、死ね。」

 

電話越しに、息を呑む音が聞こえた。

 

「どうして、私が発症したことを知ってるの。」

 

「俺たち日本生類創研が実験の追跡調査をしないわけがないだろうが。馬鹿め。」

 

「でも…」

 

「それより、あとは財団の上にどうにか合わせてもらう必要がある。」

 

まだ話を続けようとする花追に残る問題をぶつける。それさえできれば、人類を救うことができるのだから。

 

「そこは、私が言葉を残しま、しょう」

 

電話にとぎれとぎれの誰かの声が混ざりこむ。

 

「枝藤さんか。できるのか?」

 

「これでも影、の権力者ですからね。時間はあまりない、ですよ。そろそろ、汚染者が街に出かねない時間です。作業はどれくら、いで?」

 

「あとはアンプルを割ればばらまけます。」

 

さすが将来有望の若手、節本の仕事は早いらしい。

 

「では、これでおさらば、ですね…」

 

枝藤が言う。そこまで言われて、実感が湧いてきてしまった。燃やすのだこの男も、節本も、根田も、花追も。彩葉は自分の行いがあっていたのかわからなくなる。自分に倫理なんてものはやはりなかったのではないか。最後に思うのがそんなものだというのがなおさら惨めでしょうがなかった。

 

「私は、倫理の本質は悩み続けることだ、と考えています。だから、あなたの倫理は、壊れていたかもしれない、が持っていた、と思うんです。少なくとも、審査も受けず、にこんなことを、する倫理委員失格な、私ぐらいは」

 

そういい残すと枝藤は電話を切った。その言葉でなぜか彩葉は救われた気がした。

 

「彩葉さん。七輪を見てください。」

 

彩葉が壁にもたれながらこれまでの人生に浸っていると、節本がそう言ってきた。

 

「今見たら俺が燃えないだろう」

 

「大丈夫ですよ。恐らく奴を忘れることは可能です。何かほかにもトリガーがあるだけですよ。ここから脱出すればどうとでもなります。」

 

確かに、そうなのかもしれない。ただ、彩葉にはそうする気にはなれなかった。

 

「俺はいいんだ。」

 

「見てください。私がそうしたいんです。」

 

彩葉の視界に七輪が広がる。餅がまた膨らんだ。

 

「私も…」

 

節本も七輪を見ると餅がまた膨らんだ。

次の瞬間、餅は膨らみに耐えきれず破裂した。中から黒い煙が飛び出し、急激に辺りに広がっていく。

 

驚いた節本の手からアンプルが落ちていく。

 

視界が赤く染まる。強風が吹き荒、足元の草が大きく揺れ肌に触れる。今ならどこまでも飛べる気がする。空に飛ぶと背後からプレッシャーを感じた。後ろを振り向くと、強大なあまりにも巨大な赤い鳥が追いかけてきていた。なぜか何度も同じことをした気がする。それがさらに恐怖を増す。こちらも空を飛んでいるというのに一行に距離を離せない。それどころかだんだん近づいてきていた。足に激痛が走る。それと同時に姿勢を保てなくなる。赤い鳥に咥えられたのだ。何も見えない。体中がきしむ音がする。血管が詰まる感覚がする。手足はもう動かない。

 

体の奥が熱くなる感覚がした。次の瞬間、視界が明るくなり赤く光る。近くに光源があるようだった。目線を自分の体に落とすと、自分自身が光っていた。体が、自分が燃えている。服も燃えつぎつぎに灰となっていく。口を動かしてももう声は出なかった。

 

最後に見たのは白衣に刻まれた意匠。緋色に沈んでいく二重螺旋だった。

 

 

 




日本生類創研 ハブ
by kumer1090
協力 snoj
原案 Mizuno
http://ja.scp-wiki.net/joicl-hub

SCP-444-JP - █████[アクセス不許可]
by locker
http://ja.scp-wiki.net/scp-444-jp

SCP-783-JP - 絵に描かせない餅
by KanKan
共著nanaminagisa
http://scp-jp.wikidot.com/scp-783-jp
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