マッドサイエンティストは反省しようとした 作:蛸葦廃船ファン
花束を抱えた老人が白い廊下を歩いていた。男の顔は皺に覆われ、毛色は白くなり還暦は迎えているだろう外見をしていた。だが、背中は若者に負けないほどまっすぐに伸び、足取りは軽い。老人の名前は久能尚史。長老あるいは妖怪とまで呼ばれる、日本生類創研内外で一目置かれる人物だった。目的地に着いたのか、彼はその足を一つの扉の前で止めた。さび付いた扉の横には扉とは釣り合わない自主回収部と書かれた新品同様の看板がかかっている。
老人はドアの横に一度花束を供えたが、すぐに拾いなおすとドアノブを何度か回し鍵がかかっていないことを確かめた。
「やはり、皆燃えてしまったか。」
そうつぶやくと扉を開ける。もともと倉庫だった部屋は日当たりが悪く、暗かった。電気をつけるといまだに片付けられていない大量の棚が照らされた。掃除もされていないようで、無理やり開けたスペースに置かれた机にもすでにホコリが積もっている。わかっていたことだ。第五棟はすべて焼けた。自主回収部門を一人で引っ張っていた彩葉は当然帰って来なかった。彼の協力者も全員死んだ。なぜか突然火がつき焼死してしまった。彼を慕っていた者たちはもう生きてはいないのだろう。
「おや?」
机の端に目をやり久能はそこに花束とふたの開けられた酒が置かれていることに気が付く。
「ああ、教授か。」
しばらく考えた後、久能は答えを思いついた。教授、そう呼ばれる人物は日本生類創研の中でも浮いた人物だった。やり方は違ったが彼も日本生類創研を変えようとしていた。彩葉も最初は教授に助けを求めていたが、やがて考え方の違いから決裂したと聞いている。おそらく教授はこうやって終わることを予想していたのだろう。
「それにしても、教授も彼らを止めればよいものを。ああ、人として正しい答えゆえに間違った選択なんて君には伝えられないか。」
久能は教授の花束の横に自身の花束を置いた。
「彩葉君。なぜ君達の願いが叶わないのか教えてあげよう。あまりに中途半端だからだ。異常な世界でそんな甘い考えで生きていけるわけがないだろう? 君たちは異常な生物を安く見ているよ。彼らを正しく管理することがどれだけ大変なことかわかっていない。それを研究の片手間にやることなど不可能だ。日本生類創研が日本生類創研であろうとするならその部分は切り捨てるべきだ。世界を守る? そんなことをする金が、時間が、命があるなら我々は進化を追い求めるべきだ。危機管理? 崩壊の防止? そんなものは専門家に任せておきなさい。我々は時計の針を進めるだけでいい。それ以外の雑事は誰かがやってくれる。」
「故に君も、君の前も、その前も。何度だって君たちは絶滅した。だが、私は君達の選択を尊重するよ。いつだって多様性は大事だからね。もしかしたら、いつか我々の側が自然淘汰される日が来るのかもしれない。実に興味深いことだ。次に会うのは酩酊の先か、鬼の眼前かは知らないがその時は私の研究成果を報告させておくれ。」
そこまで言うと久能は部屋を見渡す。
「そういえば...」
能は壁にかけられた探し物を見つけて手に取る。それは部屋の鍵だった。
「部屋を手に入れたのは君が初めてだったね。次が現れるまでこの鍵は私が預かっておくよ。それが老人の義務というものさ。」
そういって久能は最後に手を一度振ると部屋の扉を閉じる。部屋は再び暗闇に覆われた。
日本生類創研 ハブ
by kumer1090
協力 snoj
原案 Mizuno
http://ja.scp-wiki.net/joicl-hub
最後までご覧いただきありがとうございました
うまくまとめきれてないのが悔しいですね。