【第3階 ネソラが午後3時をお知らせします。】
視界の片隅でガチャガチャの回す音が聞こえる。
並べらえた機械の隙間、ショーケースの向こう側、スピーカーのBGMに紛れて。
それはまるで、ガチャガチャの機械たちがひそひそ話をしているかのように。
「……前方に特殊領域を確認。マメドローンによる観測を試みる」
本作戦においては、対象の“ネソラ”そのものが特殊領域と言っても過言ではない。
本来、特殊領域とは、観測地点の一部で発生する現実味に欠けた異常な空間や事案を指す。
ガチャガチャを抜けて、キッズコーナーに通じる通路。ーー通じたはずの道。
「踊らされてるな。ネソラに」
断絶された通路の先には、ぽっかりと穴が垂直に延びていた。
底は見えない。音もない。
巨大なカプセルが眠っているのだろうか。もしそうなら、その中身は何か。
ドローンは下降を続ける。スライドした下部から円状に広がるレーザースキャナー。
暗闇の輪郭が、手元のデバイスに描画されていく。
木造建築に使われるような梁。
四方八方に胴を伸ばして、その穴をかろうじて支えている。
梁を抜け、レーザースキャナーは壁を照射する。凸凹した表面が、鮮明に描画された。
壁一面がお菓子の山だった。キャンディーやスナック菓子など、あらゆる駄菓子の包装や箱がびっしりと壁を埋め尽くしている。
「何か……登ってくる」
ドローンのマイクが、暗闇の底から響く音を拾う。 子供の笑い声。あるいは、叫び声にも聞こえる。
複数の足音。 かき分けられる、お菓子の山。
想像の中で、それは巨大なムカデのような形を結び始める。
その直後、金属がひしゃげる音が、デバイスを通して響き渡った。
こちらが動かすより先に、位置情報が移動した。
それは速度を上げ、地上へと迫る。
大きな揺れが走り、商品棚が遅れて身震いを始めた。
その場を離れようと立ち上がるが、激しい揺れにバランスを崩し、倒れ込む。
ガチャガチャの機械が倒れ、次々とおもちゃ箱が商品棚からこぼれ落ちていった。
「応答しろ。こちら阿蘇、応答を」
壁際から明かりが次々と消える。
穴の縁まで光は失われ、数秒前の騒ぎが嘘のように静まり返った。
何度も試してみるが、銃のライトも起動しない。
息を潜め、穴があった地点に銃を向ける。
「ギャハハハハハ!! アハハ!!」
笑い声。タイルの床を叩く複数の足。子供の賑やかな声が、頭上で声高に鳴り響く。
引き金を引けば助からない。本能がそう感じた。いや、恐怖心が勝ったのかもわからない。
虚空に目を凝らす。頬をつたう冷たい汗。
「ネソラが3時をお伝えします。子どもたちにお知らせです。大抽選会を1階の駄菓子屋コーナーにて開催します。是非ご参加ください」
アナウンスで直前まで聞こえた声が、ピタッと止む。明かりが次々と点灯して、周辺には静寂が訪れた。
隊長は、その場で腰を落とした。