こんなところから始まる小説は少ないと思いますが気長に進展をお待ちください。
第一話:ワシントン会議の行方やいかに
1921年11月2日ワシントン・ユニオン駅にたたずむ男が一人
「さあ、これは大変だぞ」
ああ、申し遅れた。私は幣原喜重郎。今回の会議で日本代表団の外務省の実務担当を務めてる。……今回はアメリカの主導で軍縮会議をやることになったが、やれやれ、勘違いも甚だしい。彼らは自分たちが世界の全体意思だと信じて疑わないらしいが、英国の友に言わせれば、『アメリカ人は、正しいことをするためなら、他に選択肢がなくなるまであらゆる間違いを試す』を地で行く連中だ。理想論はさぞかし崇高に見えるのでしょう。ですが、我々のように数世紀にわたって泥沼の均衡を保ってきた者からすれば、彼らの提案など子供の落書きにも等しい。
さてそう言ってたら徳川全権大使殿と加藤海相のお目見えだ。
「遠路はるばるお疲れ様でした、在米大使兼全権委員の幣原喜重郎であります。」
徳川議長はこちらを見つめ
「やあ幣原君、出迎え苦労。……ふむ、やはりアメリカの風は少しばかり騒がしいようだ。だが、我々が来たからには、これ以上好き勝手に吹かせるわけにもいくまいて」
加藤海軍大臣はあたりを気にしながら。
「……お役目ご苦労。幣原、メリケンどもの狙いは掴めたか。奴らのいいようにやられてたまるものか。」
「ええ、各国代表団も続々ワシントン入りしております。条約前の交渉はお任せください。つきましては大臣閣下、海軍より一名人員をいただきたいのですが。」
「わかった、わしの秘書官の堀 悌吉を出させよう。彼は理知的で語学にもたけている。
今回の任にぴったりだろう」
「ありがとうございます事前調整はお任せください。」
そしていよいよ会議開始日が来た。
「……さて。では、若造に『世界の歩き方』を教えてやるとしましょうか」
私がそう呟いて会議室の重い扉を開けると、待ち構えていたのは、眩いばかりの照明と、それ以上に眩しい「正義」を顔に貼り付けたアメリカ人たちの喧騒だった。
「おお、シデハラ! 遅かったじゃないか」
駆け寄ってきたアメリカ側の事務官が、私の肩を遠慮なく叩く。その目は、同盟国を見る目ではない。慈悲深い飼い主が、出来の悪い猟犬を見る目だ。
「君たちのために、実に分かりやすい形にしておいたつもりだよ。数字は、言語よりも誤解が少ないからね」
私はメガネの奥の目を細め、精一杯の「従順な微笑」を浮かべてみせた。
「それは光栄だ。閣下たちの寛大さには、いつも痛み入りますよ……本当に」
会議は開幕した。
始めに各国全権大使の挨拶が順調に進み最後にアメリカ代表 ヒューズ国務長官による挨拶が始まった。
「諸君、本日は各国代表をここに迎えることができたことを光栄に思う。
我々がここに集った目的はただ一つ、海軍軍備の負担を軽減し、世界の平和をより確かなものとすることである。
そのために、具体的な提案を申し上げる。
まず、アメリカ合衆国は建造中および計画中の主力艦の大部分を廃棄する用意がある。その総数はおよそ三十隻、総トン数にして数十万トンに及ぶ。
さらに、イギリスも同様に建造中の主力艦の一部を廃棄し、計画の見直しを行うことを提案する。
日本においてもまた、計画中の戦艦建造を整理し、軍備の均衡を保つための協調的措置を取ることを求めたい。
そのうえで、主力艦の保有比率は次の通りとすることを提案する。
アメリカ:五
イギリス:五
日本:三
さらに、これ以上の軍拡競争を防ぐため、新規主力艦の建造には厳格な制限を設けるべきである。
古い艦の更新については認められるが、それは軍備拡張ではなく合理化の範囲に限定される。
また、海軍戦力の将来を考えるとき、航空戦力の発展を無視することはできない。海軍の在り方そのものについても再検討が必要である。
我々は戦争の準備ではなく、平和の構築のためにここにいる。
この提案は一国の利益ではなく、すべての国にとっての安定を目的としたものである。
諸君の賢明なる判断を期待する。」
たまげたここまで強引だとはさすがに思わなんだ。
しかしこのままおとなしく引き下がるものかね。
私はゆっくりと息を整えた。
「発言よろしいか」
その瞬間、会場の空気がわずかに変わる。
――ワシントン会議は、ここから始まる。
はい、ということでワシントン会談が開幕しました!
なにやらすでに幣原さんには策があるみたいですよ。
今後の展開もお楽しみに~