Re:虚飾のお姉さんは曇り顔が見たい   作:MトK

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第十六話 王都帰還

 竜車の揺れは、思っていたよりも穏やかだった。

 

 ロズワールが用意した竜車は、アーラム村で見た荷車とは違う。

 

 座席は柔らかく、車輪の軋みも少ない。

 

 地竜の歩みに合わせて風が流れ、車内には不思議なくらい揺れが響かなかった。

 

 それでも、スバルの体には十分だった。

 

「……っ」

 

 肩の傷が、じくりと痛む。

 

 小さく息を詰めた瞬間、隣のレムがすぐにこちらを向いた。

 

「スバル君、痛みますか?」

 

「いや、ちょっと傷が自己主張しただけ」

 

「それは痛んでいるということです」

 

「最近、俺の言い換えが全部看破される」

 

「スバル君がわかりやすいからです」

 

 レムはそう言って、膝の上に置いていた包帯の予備を確認する。

 

 丁寧な声。

 

 けれど、以前のような硬さはない。

 

 スバル様ではなく、スバル君。

 

 それだけで、距離が変わったのだとわかる。

 

 まだ慣れない。

 

 くすぐったい。

 

 同時に、怖い。

 

 近づいた分だけ、失う時の痛みを想像してしまう。

 

 スバルは窓の外へ目を向けた。

 

 ロズワール領の景色が遠ざかっていく。

 

 森。

 

 村。

 

 屋敷。

 

 死んだ場所。

 

 恐怖した場所。

 

 それでも、帰る場所になり始めた場所。

 

 そこから離れて、王都へ向かう。

 

 王都。

 

 最初に異世界へ放り込まれた場所。

 

 エミリアと出会った場所。

 

 フェルトとロム爺と会った場所。

 

 エルザに殺された場所。

 

 何度も何度も、血を流した場所。

 

「……戻るんだな」

 

 思わず漏れた声に、向かいのエミリアが顔を上げる。

 

「スバル?」

 

「あ、いや。最初に王都へ来た時のことを思い出してただけ」

 

「そういえば、スバルは王都で私と会ったのよね」

 

「そうそう。あの時は右も左もわからない異世界初心者で」

 

「いせかい?」

 

「あー、こっちの話。とにかく、すごーく困ってたところをエミリアたんに助けられたわけです」

 

 軽く言う。

 

 笑って言う。

 

 けれど、胸の内側では別の記憶が疼いている。

 

 盗品蔵の床。

 

 腹を裂かれた痛み。

 

 エミリアの倒れた姿。

 

 ユイの白い髪に散った血。

 

 あの時も、自分は何もできなかった。

 

 今はどうだ。

 

 少しは変わったのか。

 

 スバルが黙りかけた時、ユイが横から声をかけた。

 

「顔が曇っているわ」

 

「え、そんなに?」

 

「ええ。今にも過去の自分と殴り合いを始めそうな顔」

 

「どんな顔!?」

 

「少なくとも、怪我人がする顔ではないわね」

 

「怪我人がしていい顔の基準がわからない」

 

 ユイは穏やかに微笑む。

 

 いつもの頼れるお姉さんの顔。

 

 その笑顔を見て、スバルは少しだけ肩の力を抜いた。

 

 ユイは知っている。

 

 スバルが王都を思い出す時、ただ懐かしんでいるわけではないことを。

 

 あの場所には、彼の死が染みついている。

 

 最初の失敗がある。

 

 それでも、彼はまた向かう。

 

 エミリアの隣に立ちたいから。

 

 彼女を支えたいから。

 

 その気持ちは尊い。

 

 そして、危うい。

 

 尊いものほど、間違えた時によく曇る。

 

 ユイは、内心の甘さを一切表に出さず、ただ優しくスバルを見守った。

 

 王都へ近づくと、竜車は一度街道で速度を落とした。

 

 王都側から迎えに来ていた者たちと合流するためだった。

 

 先頭に立っていたのは、白髪の老紳士。

 

 背筋はまっすぐで、動きに無駄がない。

 

 年齢を重ねているはずなのに、立っているだけで刃のような気配があった。

 

 もう一人は、猫のような耳を持った可愛らしい人物。

 

 軽やかな仕草。

 

 しかし、その視線はスバルの包帯を見た瞬間に鋭くなった。

 

 ロズワールが、いつもの調子で手を広げる。

 

「やぁ、ヴィルヘルム殿、フェリス。迎え、ご苦労だったねぇ」

 

「ロズワール卿。道中、ご無事で何よりです」

 

 老紳士、ヴィルヘルムが静かに礼をする。

 

 フェリスと呼ばれた猫耳の人物は、スバルを見て首を傾げた。

 

「その子が、治療が必要っていうスバルきゅん?」

 

「スバルきゅん!?」

 

 スバルが反射的に声を上げる。

 

「初対面でその呼び方!?」

 

「可愛いでしょ?」

 

「俺の可愛さを引き出す方向性じゃない!」

 

「元気そうだけど、顔色は悪いにゃ。あと肩と腕、かなり無茶してるでしょ」

 

 フェリスの声は軽い。

 

 けれど、診る目は確かだった。

 

 スバルは思わず口を閉じる。

 

 レムが小さく頷いた。

 

「ウルガルムに噛まれた傷です。呪いはベアトリス様が解呪しましたが、体力の消耗と傷が残っています」

 

「ふうん。あとでちゃんと診るにゃ。ベアトリス様が呪いを剥がしたなら、そっちは安心だけど、体の方は別問題だし」

 

「王都に着いたら、カルステン公爵家の屋敷で診てもらうことになるよ」

 

 ロズワールが言う。

 

 スバルはフェリスを見る。

 

「つまり俺、王都到着早々、病院送り?」

 

「正確には治療にゃ」

 

「言い方が変わっても中身が変わらない!」

 

「スバル君は治療を受けるべきです」

 

 レムが静かに言う。

 

「王都に着いたら、絶対に逃げないでください」

 

「俺、逃げる前提?」

 

「逃げないと断言できますか?」

 

「……善処する」

 

「では見張ります」

 

「即決!」

 

 そのやり取りに、エミリアが小さく笑った。

 

 笑ってから、すぐに表情を引き締める。

 

 王都が近い。

 

 王選の場が近い。

 

 彼女もまた、緊張しているのだ。

 

 スバルはその横顔を見て、胸の奥が少し痛んだ。

 

 守りたい。

 

 支えたい。

 

 自分が何かしたい。

 

 その思いが、すでにスバルの中で膨らんでいた。

 

 王都ルグニカへ入ると、雑踏の熱が一気に押し寄せてきた。

 

 石畳。

 

 行き交う人々。

 

 商人の声。

 

 荷車の音。

 

 果物の匂い。

 

 それらのすべてが、スバルの記憶を揺さぶった。

 

「……おお」

 

 思わず窓から身を乗り出しかける。

 

 すぐにレムが袖を掴んだ。

 

「スバル君」

 

「はい」

 

「落ちます」

 

「まだ落ちてない」

 

「落ちる前に止めています」

 

「ごもっとも」

 

 竜車は城へ直行せず、まず商店の並ぶ通りで止まった。

 

 ロズワールが王都での用事を分けると言い、エミリアも少しだけ街の空気を見ておきたいと言ったからだ。

 

 スバルは怪我人だから大人しくしていろと言われた。

 

 しかし、王都の空気に触れた瞬間、じっとしていられるはずがない。

 

 レムの監視つきで、短い距離だけ歩くことになった。

 

 そして、すぐに見覚えのある屋台を見つけた。

 

「おっちゃん!」

 

 大きな体。

 

 強面。

 

 果物を並べた屋台。

 

 リンガ売りのカドモンだ。

 

 スバルは思わず駆け寄りかけ、肩の痛みで足を止める。

 

「っ、いて」

 

「走らない」

 

 レムが即座に言う。

 

「わかってる。今、体が勝手に」

 

「スバル君の体は信用できません」

 

「俺の体なのに……」

 

 カドモンはスバルを見て、眉をひそめた。

 

「なんだ、見ねえ顔……いや、どっかで見たか?」

 

「前にちょっと世話になったんだよ。リンガ、いくつかくれ」

 

「金はあるんだろうな」

 

「今回はある!」

 

 スバルは妙に胸を張った。

 

 エミリアから渡されていた小銭でリンガを買う。

 

 以前は金も文字も常識もなく、ただの迷子だった。

 

 今は少しだけ違う。

 

 それだけで、妙に感慨深かった。

 

「リンガ、ですか」

 

 レムが興味深そうに見る。

 

「そう。王都名物……かは知らないけど、俺にとってはわりと記念品」

 

「記念品を食べるんですか?」

 

「食べられる記念品ってお得じゃない?」

 

 レムは少し考えた。

 

「そうかもしれません」

 

「納得した!?」

 

 ユイはリンガを一つ受け取った。

 

 赤い実を手の中で転がし、静かに微笑む。

 

「スバルくんにとって、ここは始まりの場所なのね」

 

「まあ、そうだな」

 

 始まり。

 

 そして死の場所。

 

 その両方だ。

 

 スバルは、リンガをかじった。

 

 甘酸っぱい味。

 

 王都に戻ってきた実感が、ようやく少しだけ湧いてきた。

 

 その時だった。

 

 通りの向こうから、整った足取りで近づいてくる騎士がいた。

 

 紫がかった髪。

 

 整った顔立ち。

 

 優雅な所作。

 

 騎士らしい礼節を自然に身につけた青年。

 

 彼はエミリアを見つけると、静かに歩み寄り、丁寧に一礼した。

 

「エミリア様。お久しぶりです」

 

 エミリアが少し驚いたように目を瞬かせる。

 

「ユリウス。あなたも王都に?」

 

「はい。王選の件で、主に付き従っております」

 

 ユリウス。

 

 その名前を、スバルは知らない。

 

 けれど、彼の立ち振る舞いを見れば、ただの騎士ではないことはわかった。

 

 ユリウスは流れるような動作で、エミリアの手を取った。

 

 そして、礼節として手の甲に唇を落とす。

 

 その瞬間、スバルの中で何かが跳ねた。

 

「なっ……!」

 

 声が漏れる。

 

 エミリアは特に動揺していない。

 

 周囲も当たり前の礼として受け止めている。

 

 けれど、スバルにはそう見えなかった。

 

 目の前で、知らない男がエミリアの手に口づけた。

 

 それだけで、胸の奥がざわつく。

 

 ユリウスはスバルへ視線を向けた。

 

「そちらの方は?」

 

「ナツキ・スバル。エミリアたんの……」

 

 言いかけて、スバルは少し詰まった。

 

 何だ。

 

 自分は何者だ。

 

 使用人見習い。

 

 客人。

 

 助けられた男。

 

 支えたいと思っているだけの少年。

 

 騎士ではない。

 

 まだ、何者でもない。

 

「……付き添い、みたいなもんだ」

 

 なんとかそう言う。

 

 ユリウスは穏やかに微笑んだ。

 

「そうでしたか。エミリア様を支える方であれば、どうかご無理をなさらぬよう。お怪我をされているようですから」

 

 丁寧な言葉だった。

 

 悪意はない。

 

 むしろ気遣いだ。

 

 だが、スバルには少しだけ刺さった。

 

 上から見られている。

 

 そう感じた。

 

「どうも、ご親切に」

 

 皮肉っぽく返してしまう。

 

 エミリアが少しだけ眉を寄せた。

 

「スバル」

 

「わかってるって」

 

 わかっていない。

 

 自分でもわかる。

 

 ユリウスはそれ以上何も言わず、エミリアに改めて礼をして去っていった。

 

 スバルはその背中を睨む。

 

「……なんだよ、あの優男」

 

「スバル」

 

 エミリアの声が少し厳しくなる。

 

「今のは失礼よ。ユリウスはちゃんと礼を尽くしてくれたわ」

 

「わかってる。わかってるけどさ」

 

「けど?」

 

「……なんでもない」

 

 嫉妬だ。

 

 そう自覚するのが嫌だった。

 

 ユイは、その横顔を見ていた。

 

 ユリウス。

 

 ここで出会った。

 

 まだ小さな棘。

 

 けれど、その棘はこのあと大きくなる。

 

 スバルが自分の未熟を突きつけられる相手。

 

 騎士とは何かを、身体で教える相手。

 

 ユイは静かにリンガをかじった。

 

 甘い味がした。

 

 街歩きの途中、路地の方から騒ぎ声が聞こえた。

 

 スバルの体が反射的に動く。

 

 レムが止めるより早く、スバルは声の方を見た。

 

「今の」

 

「スバル君」

 

「ちょっと見るだけ」

 

「その言い方は信用できません」

 

 レムの言葉を聞きながらも、スバルは路地を覗いた。

 

 そこにいたのは、見覚えのある三人組だった。

 

 王都に来て最初に絡んできたチンピラたち。

 

 前のループでは、彼らに殺されたこともある。

 

 その記憶が、スバルの背筋を冷たくする。

 

 だが、彼らが囲んでいる相手を見て、別の意味で足が止まった。

 

 赤い髪。

 

 豪奢な雰囲気。

 

 路地裏にいるのが不自然なほど、圧のある少女。

 

 彼女は追い詰められているはずなのに、恐怖ではなく苛立ちを浮かべていた。

 

「何をしておる。妾の前に立つなら、相応の価値を示せ」

 

 あまりにも堂々とした声。

 

 チンピラたちの方がむしろ気圧されている。

 

 スバルは思わず呟いた。

 

「……なんだ、あれ」

 

「関わらない方がよさそうね」

 

 ユイが静かに言う。

 

「でも、放っておける空気じゃないだろ」

 

「スバル君」

 

 レムが呼ぶ。

 

 その声には制止があった。

 

 だが、スバルはもう路地へ踏み出していた。

 

「おい、お前ら!」

 

 チンピラたちが振り返る。

 

 スバルの体が一瞬だけ強張る。

 

 殺された記憶。

 

 刃。

 

 痛み。

 

 それでも、今は一人ではない。

 

 レムがいる。

 

 ユイもいる。

 

 スバルは震えを押し殺して声を張った。

 

「女の子相手に三人がかりとか、相変わらず趣味悪いな!」

 

「なんだてめえ」

 

「前に会ったような気がする三人組!」

 

「意味わかんねえぞ!」

 

 チンピラたちが近づく。

 

 スバルは内心でかなり後悔した。

 

 まだ傷が痛む。

 

 戦えない。

 

 そもそも健康でも戦えない。

 

 だが、その時、路地の奥から低い声が響いた。

 

「邪魔だ」

 

 巨大な影が現れる。

 

 ロム爺だった。

 

 チンピラたちは、その姿を見た瞬間に顔色を変えた。

 

 そして、逃げた。

 

 本当にあっさり逃げた。

 

 スバルはぽかんとする。

 

「え、俺の啖呵の意味は?」

 

「最初からありません」

 

 レムが辛辣に言う。

 

「傷つく!」

 

 ロム爺はスバルを見て、目を細めた。

 

「お前、徽章の件でいた小僧か」

 

「ロム爺!」

 

「馴れ馴れしいな」

 

「まあ、いろいろあって」

 

 ロム爺は周囲を見回し、それから短く息を吐いた。

 

「剣聖に連れていかれた嬢ちゃんを追って、王都をうろついとったら、妙な騒ぎにぶつかった。まったく、面倒な日だ」

 

 スバルは頷いた。

 

 そうだ。

 

 ロム爺は、フェルトがラインハルトに連れていかれたことを知っている。

 

 盗品蔵の後、何も知らずに探しているわけではない。

 

 わかっていて、それでも会えない。

 

 剣聖に連れていかれた少女が今どこで何をされているのか、手が届かない場所にいる。

 

 だから、こうして動いている。

 

「フェルトは、まだ会えてないのか?」

 

 スバルが聞くと、ロム爺の顔が険しくなった。

 

「王城か、騎士どもの手の中か。場所の見当はついても、こっちが簡単に踏み込めるところじゃねえ」

 

「……そりゃ、そうか」

 

「お前も関わりすぎるな。あの赤髪の騎士は、悪い男には見えん。だが、剣聖に見込まれるってのは、普通の幸運じゃ済まねえ」

 

 ロム爺の言葉は重かった。

 

 スバルはフェルトの顔を思い出す。

 

 金髪の少女。

 

 小柄で、口が悪くて、王都の裏通りを駆け抜けていた盗人。

 

 彼女が剣聖に連れていかれた。

 

 その意味を、まだスバルは知らない。

 

 けれど、普通ではないことだけはわかった。

 

 ロム爺はそれ以上長居せず、路地の奥へ去っていった。

 

 その背中には、フェルトを案じる重さがあった。

 

 スバルはしばらく見送る。

 

 そして、赤い髪の少女の視線に気づいた。

 

 彼女はずっとスバルを見ていた。

 

 まるで珍しい道具でも見つけたような目。

 

「下郎」

 

「開口一番!?」

 

「妾の退屈を紛らわせようとしたことだけは認めてやろう」

 

「助けたことへの礼がそれ!?」

 

「助けた? 思い上がるな。妾は救われる側ではない」

 

 少女は当然のように言った。

 

 自分が世界の中心だと信じて疑わない声。

 

 スバルは圧倒される。

 

 ユイは、その少女を見て目を細めた。

 

 プリシラ・バーリエル。

 

 王選候補者の一人。

 

 傲慢で、鮮烈で、世界に愛されていると本気で信じている女。

 

 彼女もまた、舞台の役者だ。

 

 プリシラの視線が、スバルからユイへ移った。

 

「そちらの白い女」

 

 ユイは静かに瞬きをした。

 

「私?」

 

「他に誰がいる。名を名乗ることを許す」

 

「ユイよ」

 

「ふむ。ユイか」

 

 プリシラは扇を広げ、口元を隠す。

 

 その目は、品定めをするようにユイを見ていた。

 

「妾の前で、ずいぶんと落ち着いておるな。下郎のように騒ぐでもなく、そこの青い娘のように主を案じるでもなく。ただ、見ている」

 

 レムの眉がわずかに動いた。

 

 スバルも少し身構える。

 

 けれどユイは、いつもの柔らかい顔のまま答えた。

 

「驚いてはいるわ。ただ、顔に出すのが少し苦手なの」

 

「嘘じゃな」

 

 即答だった。

 

 スバルがぎょっとする。

 

「おい、初対面でそれは」

 

「下郎は黙っておれ」

 

「下郎扱いが雑!」

 

 プリシラはスバルを一瞥しただけで、すぐにユイへ視線を戻した。

 

「そなたは妾を見ても怯えぬ。媚びもせぬ。かといって、逆らうわけでもない。退屈な従者の顔ではないな」

 

「従者ではないもの」

 

「では何じゃ?」

 

「今は、怪我人の付き添いかしら」

 

「今は、か」

 

 プリシラの目が細くなる。

 

「言葉を選ぶ女じゃな。気に入らぬようで、少し気に入った」

 

「それは光栄ね」

 

「妾が褒めているのだ。もっと喜べ」

 

「ええ。嬉しいわ」

 

「顔が変わらぬ」

 

「だから、苦手なの」

 

 プリシラは一拍置いて、笑った。

 

 高く、楽しそうに。

 

「よい。そなたは少し面白い」

 

「ユイさんがプリシラ様に気に入られてる……?」

 

 スバルが小声で呟く。

 

 レムがさらに小声で返す。

 

「よいことなのでしょうか」

 

「わからん」

 

 そこへ、兜を被った大柄な男が現れた。

 

 片腕を覆うような鎧。

 

 どこか軽い雰囲気。

 

「姫さん、また勝手に歩き回って……って、なんか増えてるな」

 

「アルか。遅い」

 

「いやいや、姫さんが早すぎるんだって。で、こっちの兄弟は……ああ、なんか面白そうな顔してんな」

 

「兄弟?」

 

 スバルが眉を寄せる。

 

「なんとなくそう呼びたくなった」

 

「距離感が急!」

 

 アルは肩をすくめ、次にユイを見た。

 

「で、こっちの嬢ちゃんは?」

 

「ユイよ」

 

「へえ。兄弟の連れか?」

 

「そうね。今は」

 

「今は、ねえ」

 

 アルは兜の奥で笑ったようだった。

 

「姫さんが興味持つってことは、見た目より変わった嬢ちゃんなんだろうな」

 

「変わっているかは、自分ではわからないわ」

 

「自分でわかってる変人はまだ軽症だろ」

 

「アル、無駄口が多い」

 

「へいへい」

 

 アルは肩をすくめる。

 

 プリシラはつまらなそうに扇を揺らした。

 

「行くぞ、アル。茶番にも飽いた」

 

「了解、姫さん」

 

 去り際、プリシラはスバルを見た。

 

「下郎。次に妾の前に立つ時は、もう少し面白く振る舞え」

 

「無茶振りすぎる」

 

 続いて、プリシラはユイを見る。

 

「ユイ。そなたは次もその顔でいるがよい。動かぬ水面ほど、石を投げ込む甲斐がある」

 

「石を投げられるのは困るわね」

 

「困る顔を見せぬから投げたくなるのじゃ」

 

「難しい人ね」

 

「妾を測るな。測る側は妾じゃ」

 

 プリシラはそう言って、当然のように路地を去っていった。

 

 アルは去り際、スバルに軽く手を振る。

 

「じゃあな、兄弟。姫さんに目ぇつけられたなら、まあ頑張れ」

 

「不穏な応援を残すな!」

 

「ユイの嬢ちゃんもな。姫さんに面白がられると、退屈はしないぜ」

 

「それは良いこと?」

 

「良いか悪いかは、運次第だな」

 

 アルは笑い、プリシラの後を追った。

 

 スバルはしばらく立ち尽くす。

 

「王都、濃すぎない?」

 

「スバル君が自分から濃い方へ向かっているようにも見えます」

 

「レムさんの分析が鋭い」

 

「事実です」

 

 ユイは静かに笑った。

 

 この出会いもまた、流れの中にある。

 

 プリシラは、スバルが王城へ向かうための道になる。

 

 彼の約束破りを、派手な形で成立させる女。

 

 そして、プリシラはユイにも興味を持った。

 

 それは大きく流れを変えるほどではない。

 

 けれど、後で効いてくる小さな棘にはなる。

 

 ユイは、何も知らない顔でリンガをもう一口かじった。

 

 その日の夕方、クルシュ邸でスバルはフェリスの治療を受けた。

 

 フェリスは軽い調子で話しながらも、診断は厳しかった。

 

「はい、結論。スバルきゅん、しばらく大人しくすること」

 

「やっぱりそれか」

 

「やっぱりも何も、当然だにゃ。呪いは問題ないけど、体がぼろぼろ。特に肩。無茶したらまた開くよ」

 

「開くって言い方怖い」

 

「怖がって大人しくしてくれるなら何度でも言うにゃ」

 

 フェリスの治癒魔法は、不思議な感覚だった。

 

 ベアトリスの解呪のように、体の奥から何かを引き剥がされる痛みではない。

 

 乱れた体の流れを整えられるような、温かくも落ち着かない感覚。

 

 スバルは素直に驚いた。

 

「すげえな、フェリス」

 

「フェリちゃんって呼んでもいいよ?」

 

「それはちょっとハードル高い」

 

「じゃあフェリスで許してあげるにゃ」

 

「許可制かよ」

 

 治療の後、フェリスはレムもちらりと見た。

 

「あと、そっちの青髪メイドさんも少し休むこと」

 

「レムですか?」

 

「顔色はいいけど、魔獣騒ぎの後から働きっぱなしでしょ。主の付き添いは大事だけど、倒れたら意味ないにゃ」

 

 レムは少しだけ目を伏せる。

 

「ですが、スバル君が」

 

「スバルきゅんはフェリちゃんが診た。ユイちゃんもいる。今夜くらい休むにゃ」

 

 スバルも慌てて頷いた。

 

「そうだぞ、レム。俺のせいでレムまで倒れたら嫌だし」

 

「スバル君に言われると、説得力があるような、ないような……」

 

「そこはある方で頼む」

 

 レムは少し迷ったが、最後には頷いた。

 

「わかりました。では、今夜は休ませていただきます」

 

「それがいいわ」

 

 ユイも優しく言った。

 

「レムさんが休んでくれた方が、スバルくんも無茶しにくいでしょう?」

 

「それ、俺が見張り不在で無茶するみたいな言い方じゃない?」

 

「違うの?」

 

「……否定しきれない」

 

 レムは心配そうにスバルを見る。

 

「スバル君。約束してください。レムが休んでいる間、無茶はしないと」

 

「わかった。無茶はしない」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

「……信じます」

 

 その言葉に、スバルは胸が少し痛んだ。

 

 信じます。

 

 その信頼を、これから裏切るかもしれない。

 

 まだこの時点では、そう決めているわけではなかった。

 

 けれど、自分が約束を守れる自信もなかった。

 

 夜、エミリアがスバルの部屋を訪れた。

 

 表情は少し硬い。

 

 スバルは、なんとなく嫌な予感を覚えた。

 

「スバル」

 

「お、おう。どうした、エミリアたん」

 

「明日、私は王城へ行くわ」

 

「王選のやつだよな」

 

「ええ」

 

 エミリアは頷く。

 

 そして、まっすぐスバルを見た。

 

「スバルは、来ないで」

 

 言葉は静かだった。

 

 けれど、はっきりしていた。

 

 スバルは息を詰める。

 

「……なんで」

 

「あなたはまだ怪我をしている。それに、王城は簡単に入っていい場所じゃない。明日はとても大事な場なの。私が、自分で立たなきゃいけない場所」

 

「でも、俺は」

 

「お願い」

 

 エミリアの声が少しだけ強くなる。

 

「私のためだと思うなら、待っていて」

 

 スバルは何も言えなくなった。

 

 彼女のため。

 

 そう言われると、反論できない。

 

 エミリアは優しく続けた。

 

「スバルが心配してくれているのはわかっているわ。でも、これは私の問題なの。私がちゃんと向き合わなきゃいけないことなの」

 

「エミリア……」

 

 真面目な声で名前を呼ぶ。

 

 エミリアは少しだけ目を伏せた。

 

「約束して。王城には来ないって」

 

 約束。

 

 スバルの胸が苦しくなる。

 

 約束は重い。

 

 守りたい。

 

 けれど、守れる自信がなかった。

 

 それでも、ここで頷かない選択肢はなかった。

 

「……わかった」

 

「本当に?」

 

「本当に。大人しくしてる」

 

 エミリアは、まだ少し疑わしそうだった。

 

「スバルの大人しくしてる、は信用できないことが多いわ」

 

「そこまで言う?」

 

「言うわ。だって、実際そうだもの」

 

「返す言葉がない」

 

 スバルが苦笑すると、エミリアも少しだけ笑った。

 

 けれど、その笑顔には不安が残っていた。

 

「ちゃんと治してね。私が戻ってきた時、また傷を増やしていたら怒るから」

 

「はい」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

 エミリアはようやく頷き、部屋を出ていった。

 

 扉が閉まる。

 

 スバルはしばらく動けなかった。

 

 行くな。

 

 待っていろ。

 

 エミリアのために。

 

 その言葉は理解できる。

 

 理解できるのに、胸の奥がざわついた。

 

 エミリアが一人で王選の場に立つ。

 

 自分はここで待つ。

 

 それでいいのか。

 

 本当に。

 

 レムは、フェリスに言われた通り、別室で休むことになっていた。

 

 だから、この部屋にいるのはスバルとユイだけだった。

 

 ユイは窓辺に立ち、夜の王都を見ていた。

 

 スバルは約束した。

 

 だが、彼はきっと破る。

 

 エミリアを傷つけるつもりはない。

 

 むしろ、守るつもりで。

 

 そして、その守りたい気持ちが、彼女を傷つける。

 

 ユイは、それを知っている。

 

 だから、何も言わない。

 

 ただ、頼れるお姉さんの顔で振り返る。

 

「スバルくん」

 

「ん?」

 

「眠れそう?」

 

「……無理かも」

 

「でしょうね」

 

「否定してくれよ」

 

「嘘はよくないわ」

 

 ユイは微笑む。

 

「でも、横にはなりなさい。眠れなくても、体を休めることはできる」

 

「ユイさんまで保護者みたいになってきたな」

 

「頼れるお姉さんだから」

 

「そこはブレないな」

 

 スバルは寝台に横になった。

 

 天井を見る。

 

 王城。

 

 王選。

 

 エミリア。

 

 約束。

 

 来るな。

 

 待っていて。

 

 その言葉が頭の中で回り続ける。

 

 そして翌朝。

 

 エミリアは王城へ向かった。

 

 ロズワールと共に。

 

 スバルは窓からその背中を見送った。

 

 銀の髪が朝の光に揺れる。

 

 小さく、けれどまっすぐな背中。

 

 彼女は一度だけ振り返り、スバルを見た。

 

 そして、微笑んだ。

 

 待っていて。

 

 そう言われている気がした。

 

 スバルは、拳を握った。

 

「……待つ」

 

 呟く。

 

「待つって、決めたんだ」

 

 ユイは窓辺にいた。

 

 レムはいない。

 

 彼女は今、フェリスの言いつけ通りに休んでいる。

 

 だから、ここでスバルを止める声は、ユイしかない。

 

 時間が過ぎる。

 

 十分。

 

 三十分。

 

 一時間。

 

 スバルの足が揺れ始める。

 

 拳が開いたり閉じたりする。

 

 呼吸が浅くなる。

 

 そして、昼前。

 

 屋敷の外から、華やかな竜車の音が聞こえた。

 

 窓から見下ろすと、そこには赤を基調とした派手な竜車が停まっていた。

 

 扉が開く。

 

 中から現れたのは、昨日の赤髪の少女。

 

 プリシラ・バーリエル。

 

 彼女は窓辺のスバルを見上げると、扇を開いて笑った。

 

「下郎。退屈しのぎに、妾の供を許してやる」

 

 スバルは固まった。

 

「……は?」

 

 プリシラは当然のように言う。

 

「王城へ行くのであろう? 顔に書いてあるぞ」

 

 ユイが静かにスバルを見る。

 

 約束。

 

 エミリアとの約束。

 

 行かないと決めた。

 

 待つと決めた。

 

 それでも、胸の奥が叫んでいる。

 

 行け。

 

 エミリアのそばへ。

 

 今行かなければ、何かが間に合わない。

 

 スバルは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……悪い」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

 

 エミリアへか。

 

 レムへか。

 

 ユイへか。

 

 自分自身へか。

 

「俺、やっぱり行く」

 

 ユイは、すぐには止めなかった。

 

 ただ、静かに問いかける。

 

「約束を破ることになるわ」

 

「わかってる」

 

「エミリアさんは、怒るわ」

 

「それも、わかってる」

 

「それでも?」

 

 スバルは歯を食いしばった。

 

「それでも、じっとしてられない」

 

 ユイは少しだけ目を伏せた。

 

 そして、外套を取る。

 

「なら、私も行くわ」

 

「ユイさん」

 

「一人で行かせるよりはいいもの」

 

 王城へ行くのは、スバルとユイだけ。

 

 レムは休んでいる。

 

 スバルは少しだけ扉の方を見た。

 

 レムに言えば、止められる。

 

 それでもついてきてくれるかもしれない。

 

 けれど、それでは休ませる約束も破ることになる。

 

「レムには……言わないで行く」

 

「いいの?」

 

「よくない。でも、言ったら止めるだろ。あいつ、休まなきゃいけないし」

 

「そうね」

 

「だから、帰ってから怒られる」

 

「たくさん怒られるわね」

 

「覚悟しとく」

 

 プリシラの竜車へ向かう。

 

 プリシラは満足げに笑っていた。

 

「よい。面白い顔をしておる。約束と感情の間で揺れる顔は、なかなか退屈せぬ」

 

「性格悪いな、あんた」

 

「妾に向かってよく言った。褒めてやろう」

 

「褒められてる気がしねえ」

 

 プリシラの視線がユイへ向く。

 

「白い女。そなたも来るか」

 

「ええ。スバルくんを一人で行かせるわけにはいかないもの」

 

「止めぬのか?」

 

「止めるべきだとは思うわ」

 

「ほう」

 

 プリシラは楽しそうに目を細める。

 

「ならば、なぜ止めぬ」

 

「止めても、きっと行くから」

 

「それだけか?」

 

「いいえ」

 

 ユイはスバルを一度見て、それからプリシラへ向き直った。

 

「約束を破ってでも行かなければならないと思っている人を、ただ閉じ込めても意味がないわ。間違えるとしても、一人で間違えさせるより、隣にいた方がいい」

 

「綺麗事じゃな」

 

「そうかもしれないわ」

 

「そのくせ、そなたの目はずいぶん冷えておる」

 

 スバルが少しだけユイを見る。

 

 ユイは柔らかく微笑んだままだった。

 

「そう見える?」

 

「見える。面白い女じゃ。優しげな顔で、下郎が破滅に向かうのを見届けるつもりか?」

 

 スバルの背筋が、わずかに震えた。

 

 ユイは表情を変えない。

 

「破滅なんてさせないわ」

 

「ふん。言葉だけなら誰でも飾れる」

 

「なら、見ていて」

 

「そのつもりじゃ」

 

 プリシラは扇で口元を隠し、笑った。

 

「よい。下郎だけではなく、そなたも乗るがよい。妾の竜車に退屈な者は不要だが、そなたらは多少は退屈を紛らわせそうじゃ」

 

 アルが御者台から軽く手を振る。

 

「兄弟、ユイの嬢ちゃん、乗るなら早くしな。姫さんの気が変わる前にな」

 

「変わるのかよ」

 

「変わる時は秒だ」

 

「怖いな!」

 

 スバルは竜車に乗り込んだ。

 

 ユイが隣に座る。

 

 向かい側ではプリシラが当然のように扇を広げている。

 

 竜車が動き出した。

 

 カルステン公爵家の屋敷が遠ざかる。

 

 約束を破った。

 

 もう戻れない。

 

 レムはここにいない。

 

 ユイだけが、隣にいる。

 

 プリシラは、揺れる車内でスバルをじっと見た。

 

「下郎。そなたはなぜ王城へ行く」

 

「エミリアが心配だからだよ」

 

「それだけか」

 

「それだけって……十分だろ」

 

「十分ではないな」

 

 プリシラは即座に切り捨てた。

 

「心配だから行く。守りたいから行く。聞こえはよい。だが、相手が望まぬなら、それはただの押し売りじゃ」

 

 スバルは息を詰めた。

 

「……あんたに何がわかるんだよ」

 

「妾には大抵のことがわかる。世界は妾に都合よくできておるからな」

 

「無茶苦茶だな」

 

「無茶苦茶であっても、事実じゃ」

 

 プリシラは笑う。

 

「そなたは約束を破った。その時点で、そなたの正しさには傷がついておる。そこから先、何を言おうと、そなたはまず約束を破った下郎じゃ」

 

 言葉が、スバルに突き刺さった。

 

 エミリアとの約束。

 

 待っていて。

 

 来ないで。

 

 それを破った。

 

 エミリアのためだと言いながら。

 

「……わかってる」

 

 スバルは低く言った。

 

「わかってるよ。でも、じっとしてられなかったんだ」

 

「だから下郎なのじゃ」

 

「本当に容赦ねえな!」

 

「容赦が欲しければ、容赦されるに足る者になれ」

 

 プリシラの目は笑っている。

 

 けれど、その言葉は妙に鋭い。

 

 ユイは、隣で黙って聞いていた。

 

 プリシラが続ける。

 

「ユイ」

 

「なにかしら」

 

「そなたはどう見る。この下郎は、王城で何をする」

 

「きっと、前に出るわ」

 

「ほう」

 

「エミリアさんを守ろうとして、言葉を選ばず、場を乱すかもしれない」

 

「わかっていて連れていくのか」

 

「一人で行かせたら、もっと悪い形になるかもしれないもの」

 

「それも綺麗事じゃな」

 

「ええ。私は綺麗事が嫌いではないわ」

 

 プリシラは愉快そうに笑った。

 

「よい。そなた、やはり退屈せぬ」

 

「そう言われるのは光栄ね」

 

「下郎」

 

「今度は俺かよ」

 

「王城で無様を晒すなら、せめて妾の退屈を紛らわせる程度には派手にやれ」

 

「応援の方向性が最悪!」

 

「応援などしておらぬ。妾は見物するだけじゃ」

 

 アルが御者台から声をかけた。

 

「兄弟、姫さんなりに気に入ってるんだぜ、それ」

 

「どこが!?」

 

「罵倒が長い」

 

「判断基準が終わってる!」

 

「姫さん、興味ない相手にはもっと短いからな」

 

「聞こえておるぞ、アル」

 

「へいへい、黙ります」

 

 車内に、奇妙な沈黙が落ちた。

 

 王城が近づく。

 

 スバルは窓の外を見る。

 

 白い城壁。

 

 高い尖塔。

 

 そこに、エミリアがいる。

 

 行ってはいけないと言われた場所。

 

 それでも、向かっている。

 

 ユイは隣でスバルの横顔を見た。

 

 不安。

 

 焦り。

 

 罪悪感。

 

 それでも止まれない衝動。

 

 すべてが混ざって、彼の顔を曇らせている。

 

 さあ、スバルくん。

 

 あなたは今、優しさの形を間違えに行く。

 

 約束を破って。

 

 エミリアさんのためだと信じて。

 

 そして、その信じたものに傷つけられる。

 

 私は隣にいるわ。

 

 頼れるお姉さんとして。

 

 あなたが曇る場所へ、一緒に向かってあげる。

 

 竜車は、王城の門へ近づいていった。

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