ARMORED CORE VI 始まりの火 作:山盛りは男の浪漫
"右手武器、残弾10%"
アラートがコックピットに響いた瞬間、焦燥が胸を締めつけた。
唯一の遠距離武器を失えば、残る手段はブレードによる接近戦しかない。
それは悪手だ。
あの猛攻をかいくぐり、あの巨体の懐へ飛び込むなど、自殺行為に等しい。
――なら、少ない手数で致命傷を与えられる部位はどこだ。
絶え間なく降り注ぐ砲撃を回避しながら、敵機の挙動を観察する。
やがて、一つだけ奇妙な違和感に気づいた。
これほどの巨体を動かすには、莫大な出力を生み出すジェネレーターが不可欠なはずだ。
にもかかわらず、敵は戦闘中、一度たりとも背面を見せようとしない。
……そういうことか。
背部に大型のサブジェネレーターを搭載している。
予想どおりなら、あれを破壊すれば出力は大幅に低下する。装甲を貫けなくとも、機能停止へ追い込める可能性はある。
残弾は、あとわずか。
外せば終わりだ。
「持ってくれよ……!」
俺はあえてブースター出力を落とし、その場に機体を留めた。
敵はその隙を見逃さない。
轟音とともに、巨大なパイルバンカーが一直線に突き出される。
――狙いどおりだ。
命中する、その寸前。
俺は機体制御OSを強制停止させた。
姿勢制御を失った機体は糸の切れた人形のように崩れ落ち、パイルバンカーは胸部をかすめて空を裂く。
「今だ!」
OSを再起動すると同時にブースターを最大噴射。
機体は敵の脇を滑るように駆け抜け、そのまま背後へ回り込む。
そこには、装甲で覆われた巨大な円筒ユニットがあった。
間違いない。
照準を固定する。
外すな。
引き金を絞る。
残された弾丸を、一発残らず叩き込んだ。
火花が散り、装甲が砕け飛ぶ。
――だが。
砕けた装甲は左右へ展開し、その内部から青白い光が奔流となって溢れ出した。
「……嘘だろ」
違う。
サブジェネレーターじゃない。
あれは、出力制限用のロック機構。
俺は敵のリミッターを解除してしまったのだ。
青白い粒子が機体全身を包み込み、各部の装甲がわずかに展開する。
低く唸っていた駆動音は甲高く変わり、機体全体が震え始めた。
嫌な予感がした。
もし、この状態で本来の性能を解放されたら。
もう追いつけない。
“右手武器、残弾0%”
無機質な音声が最後通告のように響く。
俺は空になったライフルを投げ捨て、左手でブレードを構えた。
白い刀身が静かに輝く。
敵機がゆっくりとこちらを振り向く。
赤いセンサーアイが、一度だけ強く明滅した。
次の瞬間――その巨体が消えた。
「速っ――!」
反応するより早く警報が絶叫する。
“右腕部、大破”
衝撃。
機体は錐揉みしながら吹き飛ばされる。
理解した頃には右腕は肩から消え失せ、宙を舞っていた。
地面を何度も跳ね、ようやく姿勢を立て直す。
モニターには真っ赤な損傷表示が次々と灯る。
敵は百メートル以上先にいる。
――そう見えた。
“背後、高エネルギー反応”
警報が響いた瞬間、反射的にクイックブースト。
一拍遅れて、青白い閃光が左脚を貫いた。
“左脚部損傷”
火花が散る。
だが、その一撃で確信する。
速すぎる。
だからこそ曲がれない。
加速性能に対して機体制御が追いついていない。
移動は一直線。
それなら、軌道は読める。
勝機はそこにしかない。
敵機と向かい合う。
互いに動かない。
次の一撃で終わる。
“警告 警告”
アラートが鳴り響く。
刹那。
俺は敵本体ではなく、肩部キャノンへ向かってブレードを振り抜いた。
閃光。
キャノンが宙を舞う。
同時に敵のブレードが俺の脚部を貫いた。
“脚部、大破”
“AP残量23%”
機体は片膝をつく。
画面の半分以上が赤い警告で埋め尽くされる。
だが、そんなものを見る暇はない。
俺は切り飛ばしたキャノンへ飛びついた。
接続ケーブルを力任せに引き千切り、自機の接続部へ押し当てる。
火花が散る。
規格は違う。
電圧も制御方式も一致しない。
それでも無理やり固定する。
“警告。不明なユニットを検出”
“認証エラー”
“接続を拒否します”
「黙れ……!」
警告を強制的に閉じる。
コックピット全体が激しく震えた。
強制接続開始”
“出力同期率12%”
“24%”
“41%”
右腕に、とてつもない熱が走る。
敵専用兵装。
本来なら動くはずがない。
しかし次の瞬間――
“接続完了”
キャノンの砲身が青白く発光した。
敵機の赤いセンサーアイが、初めて揺らいだ。
――驚愕。
そう見えた。
「今度は……俺の番だ。」
右腕に無理やり接続したキャノンを敵へ向ける。
砲身の奥で青白い光が渦を巻き、暴力的なエネルギーが収束していく。
右腕が悲鳴を上げる。
警告音が絶え間なく鳴り響き、フレームが軋む。
"右腕部、負荷限界"
それでも構わない。
この一撃で終わらせる。
対する敵機も、火花を散らしながら巨大なパイルバンカーを構えた。
リミッターを解放したまま、一直線にこちらへ突撃してくる。
互いに後退はない。
先に当てたほうが勝つ。
「当たれぇぇぇぇ!」
引き金を引く。
轟音。
青白い閃光が砲口から解き放たれ、一直線に敵機へ奔る。
敵も止まらない。
パイルバンカーを突き出したまま、閃光の中へ飛び込んでくる。
光が敵機の胸部を撃ち抜く。
装甲が弾け、内部構造を焼き尽くし、青白い粒子が爆発的に噴き出した。
「これで――!」
その瞬間だった。
敵は最後の力を振り絞るように踏み込み、突き出されたパイルバンカーが俺の右半身へ深々と突き刺さる。
凄まじい衝撃。
コックピットが激しく揺れ、視界が白く染まる。
"右腕部、中破"
"右半身フレーム損傷"
"AP残量12%"
衝撃波に弾き飛ばされながらも、俺は機体を必死に制御する。
そして前方では――
胸部を撃ち抜かれた敵機が、その巨体を震わせていた。
内部から青白い光が亀裂という亀裂から溢れ出し、まるで断末魔のような金属音を響かせる。
次の瞬間。
轟音とともに敵機は大爆発を起こした。
爆炎が夜空を赤く染め、巨大な機体は力なく崩れ落ちる。
土煙を巻き上げながら地面へ横たわり、その赤いセンサーアイはゆっくりと消灯した。
もう、動くことはなかった。
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あのデカブツを片付けたあと、俺は指定されたポイントにあるドームへ向かっていた。
正直、警告は鳴り止まず、モニターも真っ赤だ。
だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
ドームのゲート前へ立つと、自動的に重厚な扉が開く。
まるでこちらを待っていたかのようだった。
もう戦う気力も体力も残っていない。
この先に何もいなければ助かるんだが。
だが、内部を進んでも封鎖機構は現れず、戦闘もないまま最深部へたどり着いた。
そこには広大な空間が広がり、その中央には何かを封じ込めるような巨大なオブジェクトが鎮座していた。
近づくと、モニターへ新たなメッセージが表示される。
"それを破壊して"
ここまで来た以上、従うしかない。
ブースターを最大出力まで吹かし、そのまま突撃する。
激突。
オブジェクトは爆散した。
だが――何も起こらない。
そう思った、その瞬間。
ブゥゥゥン……
低い振動音が空間全体へ響き渡る。
キィィィン……
鋭い高周波音。
次の瞬間、視界が真紅に染まった。
耳鳴り。
激しい頭痛。
「これは……コーラルか……!」
機体が反応しない。
まずい。
意識が、引きずり込まれる――
そのまま俺の意識は、深い闇の底へと沈んでいった。