怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜 作:アイアイホイホイおさるさん
都市は、燃えていた。
ビルが崩れ、道路が裂け、炎と煙が空を覆っている。
その中心に――
オゾラ。
「GAOOOOOOOOO!!」
咆哮が、空気を震わせる。
その一歩一歩が、地面を砕く。
逃げ遅れた人々が、必死に瓦礫の間を走る。
誰も止められない。
誰にも止められない。
そのはずだった。
「……待たせたな」
低い声が、通信に乗る。
次の瞬間。
轟音。
地面が揺れる。
空気が震える。
巨大な影が、街の向こうから現れる。
マサムネ1号。
その無骨な巨体が、炎の中に立つ。
人々の視線が、一斉に向く。
「……あれは」
「まさか……」
誰かが、呟く。
忘れられていたはずの存在。
否定されたはずの存在。
それが、今。
再び、ここにいる。
「……行くぞ」
聖人は、操縦桿を握った。
足を踏み出す。
一歩。
その振動が、街に伝わる。
二歩。
距離が縮まる。
オゾラが、気づく。
振り向く。
目が合う。
人と怪獣。
機械と本能。
そして。
「GAOOOOOOOOO!!」
突進。
大地を抉りながら、一直線に迫る。
「来い」
聖人は、動かない。
引きつける。
ギリギリまで。
そして。
「――今だ!」
横にステップ。
巨体とは思えない動き。
すれ違いざま。
拳を叩き込む。
鈍い衝撃。
オゾラの頭部が大きく揺れる。
「効いてる……!」
手応えはある。
だが。
浅い。
オゾラは止まらない。
即座に反撃。
腕が振り下ろされる。
「っ……!」
直撃。
マサムネ1号の胴体が大きく揺れる。
警告音。
だが、倒れない。
「まだだ……!」
踏みとどまる。
再び、踏み込む。
拳。
拳。
拳。
単純な攻撃。
だが、それしかない。
だからこそ、迷いがない。
「守るためだ……!」
一撃ごとに、力を込める。
「それだけでいい……!」
オゾラが吠える。
そして。
その顎が、大きく開く。
「――来る!」
噛みつき。
回避が、わずかに遅れる。
激突。
右腕に、衝撃。
「――っ!!」
鈍い音。
そして。
警告。
『右腕部、損壊――』
視界の端で、火花が散る。
右腕が、動かない。
いや。
――もげた。
完全に。
「……っ、くそ……!」
呼吸が荒くなる。
だが。
止まれない。
オゾラは、まだ立っている。
まだ、動いている。
まだ――人を殺せる。
「だったら……!」
左手で、操縦桿を握り直す。
「これで十分だろ……!」
踏み込む。
距離を詰める。
オゾラの懐へ。
至近距離。
互いの息がかかるほどの距離。
「終わりだ」
低く、言う。
そして。
残された左腕を――
全力で、振り抜いた。
狙いは。
喉元。
最初に、倒した時と同じ場所。
「――ッ!!」
衝撃。
骨が砕ける音。
肉が裂ける感触。
拳が、深くめり込む。
そのまま、押し込む。
さらに。
さらに。
力を込める。
「倒れろおおおおおお!!」
絶叫。
すべてを乗せた一撃。
そして。
オゾラの動きが、止まった。
一瞬の、静止。
やがて。
巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
地面が揺れる。
粉塵が舞い上がる。
静寂。
完全な静寂。
そして。
誰かが、声を上げた。
「……勝った……?」
次の瞬間。
歓声が、広がった。
泣き声。
笑い声。
抱き合う人々。
生き延びた者たちの声。
その中心に。
マサムネ1号が、立っている。
右腕を失いながら。
傷だらけで。
それでも、立っている。
コックピットの中で。
聖人は、深く息を吐いた。
「……終わった」
力が抜ける。
全身の緊張が、ほどける。
モニターの向こうに、空が見える。
夕焼けだった。
赤く染まる空。
煙の向こうに広がる、静かな光。
「……はあ」
小さく息をつく。
そして。
ほんの少しだけ、笑った。
それは、二十年前の少年にも。
今の自分にも似ていない。
ただ。
すべてをやり切った者の、静かな表情だった。
誰かに認められるためではない。
評価されるためでもない。
ただ。
目の前にあったものを、守った。
それだけだった。
夕焼けの中で。
金城聖人は、静かに目を閉じた。
それで、この物語は終わる。
だが。
守られた人々の中で。
その記憶だけは、消えずに残り続ける。
それが、彼の“戦いの意味”だった。