怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

10 / 10
第10話「夕焼けの中で」

 都市は、燃えていた。

 ビルが崩れ、道路が裂け、炎と煙が空を覆っている。

 その中心に――

 

 オゾラ。

 

「GAOOOOOOOOO!!」

 

 咆哮が、空気を震わせる。

 その一歩一歩が、地面を砕く。

 逃げ遅れた人々が、必死に瓦礫の間を走る。

 誰も止められない。

 誰にも止められない。

 そのはずだった。

 

「……待たせたな」

 

 低い声が、通信に乗る。

 次の瞬間。

 轟音。

 地面が揺れる。

 空気が震える。

 巨大な影が、街の向こうから現れる。

 

 マサムネ1号。

 その無骨な巨体が、炎の中に立つ。

 人々の視線が、一斉に向く。

 

「……あれは」

「まさか……」

 

 誰かが、呟く。

 忘れられていたはずの存在。

 否定されたはずの存在。

 それが、今。

 再び、ここにいる。

 

「……行くぞ」

 

 聖人は、操縦桿を握った。

 足を踏み出す。

 一歩。

 その振動が、街に伝わる。

 二歩。

 距離が縮まる。

 オゾラが、気づく。

 振り向く。

 目が合う。

 

 人と怪獣。

 機械と本能。

 そして。

 

「GAOOOOOOOOO!!」

 

 突進。

 大地を抉りながら、一直線に迫る。

 

「来い」

 

 聖人は、動かない。

 引きつける。

 ギリギリまで。

 そして。

 

「――今だ!」

 

 横にステップ。

 巨体とは思えない動き。

 すれ違いざま。

 拳を叩き込む。

 鈍い衝撃。

 オゾラの頭部が大きく揺れる。

 

「効いてる……!」

 

 手応えはある。

 だが。

 浅い。

 

 オゾラは止まらない。

 即座に反撃。

 腕が振り下ろされる。

 

「っ……!」

 

 直撃。

 マサムネ1号の胴体が大きく揺れる。

 警告音。

 だが、倒れない。

 

「まだだ……!」

 

 踏みとどまる。

 再び、踏み込む。

 

 拳。

 拳。

 拳。

 単純な攻撃。

 だが、それしかない。

 だからこそ、迷いがない。

 

「守るためだ……!」

 

 一撃ごとに、力を込める。

 

「それだけでいい……!」

 

 オゾラが吠える。

 そして。

 その顎が、大きく開く。

 

「――来る!」

 

 噛みつき。

 回避が、わずかに遅れる。

 激突。

 右腕に、衝撃。

 

「――っ!!」

 

 鈍い音。

 そして。

 警告。

 

『右腕部、損壊――』

 

 視界の端で、火花が散る。

 右腕が、動かない。

 いや。

 

 ――もげた。

 完全に。

 

「……っ、くそ……!」

 

 呼吸が荒くなる。

 だが。

 止まれない。

 

 オゾラは、まだ立っている。

 まだ、動いている。

 まだ――人を殺せる。

 

「だったら……!」

 

 左手で、操縦桿を握り直す。

 

「これで十分だろ……!」

 

 踏み込む。

 距離を詰める。

 オゾラの懐へ。

 至近距離。

 互いの息がかかるほどの距離。

 

「終わりだ」

 

 低く、言う。

 そして。

 残された左腕を――

 全力で、振り抜いた。

 狙いは。

 喉元。

 最初に、倒した時と同じ場所。

 

「――ッ!!」

 

 衝撃。

 骨が砕ける音。

 肉が裂ける感触。

 拳が、深くめり込む。

 そのまま、押し込む。

 さらに。

 さらに。

 力を込める。

 

「倒れろおおおおおお!!」

 

 絶叫。

 すべてを乗せた一撃。

 そして。

 オゾラの動きが、止まった。

 

 一瞬の、静止。

 やがて。

 巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 地面が揺れる。

 粉塵が舞い上がる。

 静寂。

 完全な静寂。

 

 そして。

 誰かが、声を上げた。

 

「……勝った……?」

 

 次の瞬間。

 歓声が、広がった。

 泣き声。

 笑い声。

 抱き合う人々。

 生き延びた者たちの声。

 

 その中心に。

 マサムネ1号が、立っている。

 

 右腕を失いながら。

 傷だらけで。

 それでも、立っている。

 

 コックピットの中で。

 聖人は、深く息を吐いた。

 

「……終わった」

 

 力が抜ける。

 全身の緊張が、ほどける。

 モニターの向こうに、空が見える。

 夕焼けだった。

 赤く染まる空。

 煙の向こうに広がる、静かな光。

 

「……はあ」

 

 小さく息をつく。

 そして。

 ほんの少しだけ、笑った。

 それは、二十年前の少年にも。

 今の自分にも似ていない。

 ただ。

 すべてをやり切った者の、静かな表情だった。

 

 誰かに認められるためではない。

 評価されるためでもない。

 

 ただ。

 目の前にあったものを、守った。

 それだけだった。

 夕焼けの中で。

 金城聖人は、静かに目を閉じた。

 それで、この物語は終わる。

 だが。

 守られた人々の中で。

 その記憶だけは、消えずに残り続ける。

 それが、彼の“戦いの意味”だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。