怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第2話「正義の反転」

 英雄という言葉には、賞味期限がある。

 少なくとも、金城聖人にとってはそうだった。

 

 ホグラン討伐から数ヶ月。

 街は復興し、メディアは“奇跡の少年パイロット”を連日取り上げていた。

 テレビ番組、雑誌、特集記事。どこを見ても、聖人の顔があった。

 だが、その渦中にいる本人は、どこか現実感を持てずにいた。

 

「すごいな、お前」

 

 研究所の通路で、職員の一人が声をかけてくる。

 軽い調子だったが、その目には本物の敬意があった。

 

「いや……別に」

 

 聖人は曖昧に答えた。

 褒められることに慣れていなかったし、そもそも、自分が特別なことをしたという感覚がなかった。

 やったのはただ一つ。

 目の前の怪獣を殴り倒しただけだ。

 それがたまたま“人を救う行為”だっただけで。

 

「また出るかもしれないらしいぞ、怪獣」

「……そうですか」

「そしたら、また頼むぞ。ヒーローさん」

 

 背中を叩かれる。

 その言葉に、聖人は小さくうなずいた。

 当然だと思った。

 怪獣が出るなら、倒す。

 それだけの話だ。

 

 そして、怪獣は再び現れた。

 今度は沿岸部。

 魚のような外見をした怪獣が、港湾施設を破壊していた。

 避難は間に合っていない。

 漁師たちが取り残されているという情報が入る。

 

「マサムネ1号、発進準備完了!」

 

 オペレーターの声。

 聖人は迷わなかった。

 

「出ます」

 

 即答だった。

 その瞬間、彼の中には一切の疑問も葛藤もなかった。

 ただ一つの判断基準。

 ――人がいる。

 だから行く。

 

 戦いは、短かった。

 マサムネ1号の拳は、やはり有効だった。

 怪獣の装甲は厚かったが、関節や喉元といった弱点を的確に突けば、倒せる。

 聖人はそれを直感で理解していた。

 

「そこだ!」

 

 拳が突き刺さる。

 骨が砕ける感触。

 怪獣が悲鳴を上げる。

 だが――その時だった。

 

「……え?」

 

 モニターの隅に、奇妙な光景が映った。

 人間だ。

 ヘルメットをかぶり、何かを掲げている。

 旗のようなもの。

 そこに書かれている文字。

 

 ――保護せよ。

 

「なにしてるんだ……?」

 

 理解が追いつかなかった。

 ここは戦場だ。

 怪獣が暴れている場所だ。

 そこに、なぜ人がいる?

 しかも、逃げるでもなく、怪獣に向かって何かを訴えている。

 

「どけ……!」

 

 思わず声が漏れる。

 だが、届くはずもない。

 怪獣が動く。

 巨大な足が振り下ろされる。

 その先にいるのは――

 

「危ない!!」

 

 聖人は反射的に操縦桿を押し込んだ。

 マサムネ1号が強引に割り込む。

 衝撃。

 地面が抉れる。

 間一髪で、人間を踏み潰すのは防いだ。

 だが。

 

「下がれ!! ここは危険だ!!」

 

 通信で叫ぶ。

 しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。

 

『やめてください!!』

「……は?」

『その子を傷つけないでください!!』

 

 その子。

 そう言った。

 怪獣を。

 

「何言って……」

『怪獣にも命があるんです!!』

 

 言葉が、理解を拒んだ。

 聖人の中で何かが引っかかった。

 だが、考えている時間はない。

 怪獣が再び暴れる。

 今度は背後の建物へ向かっている。

 中にはまだ人がいる。

 

「くそ……!」

 

 判断は、一瞬だった。

 ――倒す。

 それしかない。

 

「ごめん……!」

 

 誰に向けたのか、自分でも分からないまま、聖人は拳を振るった。

 

 怪獣は、倒れた。

 前と同じように。

 圧倒的な力で。

 完全に。

 確実に。

 だが。

 歓声は、起きなかった。

 代わりにあったのは――沈黙と、視線だった。

 冷たい視線。

 責めるような視線。

 そして。

 数日後。

 それは“言葉”になった。

 

『怪獣は本当に倒されるべき存在なのか?』

『人間の都合で命を奪っているのではないか?』

『金城聖人の行為は、単なる暴力ではないのか?』

 

 テレビの中で、コメンテーターたちが語る。

 落ち着いた口調で。

 理性的な顔で。

 まるで当然の疑問であるかのように。

 聖人は、それを研究所の食堂で見ていた。

 箸が止まる。

 喉に何かが詰まる。

 

「……なんでだよ」

 

 小さく呟く。

 誰にも聞こえない声。

 だが、その言葉には確かな震えがあった。

 守ったはずだった。

 あの時も。

 今回も。

 人が死ぬのを防ぐために動いた。

 それなのに。

 

「なんで俺が……」

 

 視線が、テレビに釘付けになる。

 そこには自分の映像が流れていた。

 マサムネ1号が怪獣を殴り倒すシーン。

 スロー再生。

 何度も繰り返される。

 そして、その上に重ねられるナレーション。

 

『この“暴力”を、我々は正義と呼んでいいのでしょうか』

 

 暴力。

 その言葉が、頭の中で反響する。

 違う。

 違うはずだ。

 これは――

 

「……人を守るための……」

 

 言葉が続かなかった。

 その瞬間、食堂のざわめきが耳に入る。

 ひそひそ声。

 視線。

 さっきまでとは違う空気。

 敬意ではない。

 称賛でもない。

 もっと湿った、重い何か。

 疑念。

 あるいは――拒絶。

 

 その日を境に、世界は少しずつ変わっていった。

 怪獣は「敵」ではなく、「存在」へと意味を変え。

 それを倒す行為は、「防衛」ではなく「加害」と呼ばれ始める。

 そして。

 金城聖人という少年は――

 英雄から、疑問の対象へと変わっていった。

 まだ、ほんの始まりに過ぎなかった。

 本当の転落は、これからだった。

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