怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第3話「声なき多数」

 それは、ゆっくりと、しかし確実に広がっていった。

 最初は一部の意見だった。

 怪獣にも命がある。

 人間だけが優先されるのはおかしい。

 共存の道を探るべきではないか。

 それ自体は、否定しきれない言葉だった。

 聖人自身も、最初にそれを聞いたとき、完全に否定することはできなかった。

 命がある、というのは事実だ。

 怪獣も生きている。

 だが――

 

「……じゃあ、どうすればいいんだよ」

 

 研究所の片隅で、聖人は独り呟いた。

 誰もいない整備ドック。

 マサムネ1号の巨大な影が、静かに横たわっている。

 その装甲には、戦いの痕が残っていた。

 凹み。擦り傷。補修跡。

 それらはすべて、“守った結果”だった。

 

「放っておけば、人が死ぬだろ……」

 

 誰に言うでもない言葉。

 だが、その言葉はどこにも届かない。

 外の世界では、すでに別の“正しさ”が形を持ち始めていた。

 

 街ではデモが行われるようになった。

 最初は小規模だったものが、やがて大きな流れになる。

 プラカードを掲げる人々。

 拡声器で訴える声。

 

『怪獣を殺すな!』

『共存を!』

『国家による暴力を許すな!』

 

 その中心にいるのは、かつて戦場にいた“彼ら”だった。

 あの時、怪獣の前に立っていた人間たち。

 命を危険に晒しながら、怪獣を守ろうとしていた者たち。

 彼らは英雄のように扱われ始めていた。

 メディアは彼らを取り上げる。

 勇気ある行動。信念ある市民。命を守る活動家。

 そして、その対比として語られる存在。

 ――金城聖人。

 

 テレビの中で、女性が涙ながらに語る。

 

『あの子は……怖がっていただけなんです』

 

 “あの子”。

 怪獣のことだった。

 

『ただ、生きようとしていただけなのに……』

 

 画面には、マサムネ1号の拳が振り下ろされる映像。

 何度も、何度も。

 繰り返し流される。

 

『どうして、あんな酷いことができるんでしょうか……』

 

 その言葉に、スタジオが静まり返る。

 誰も反論しない。

 できないのではない。

 しないのだ。

 それが“空気”だった。

 

 研究所でも、それは同じだった。

 視線が変わった。

 言葉が減った。

 以前のように気軽に声をかけてくる者はいない。

 代わりにあるのは、距離だった。

 

「……おはようございます」

 

 聖人が挨拶する。

 

「ああ……」

 

 返事はある。だが、それだけだ。

 それ以上、何も続かない。

 沈黙。

 気まずさ。

 居心地の悪さ。

 それらが、日常になっていく。

 

「気にするな」

 

 唯一、変わらず接してくれるのは、父だった。

 白衣姿のまま、マサムネ1号の足元で工具を握る。

 

「お前は間違ったことはしていない」

「……でも」

「“でも”じゃない」

 

 きっぱりと言い切る。

 その声には、迷いがなかった。

 

「人を守った。それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 聖人は黙った。

 その言葉は、確かに正しい。

 だが――

 

「……みんなは、そう思ってない」

 

 絞り出すように言う。

 父は一瞬だけ黙った。

 そして、小さく息を吐く。

 

「人間はな、聖人」

 

 ゆっくりとした口調。

 

「見たいものしか見ない」

「……」

「今は、“怪獣がかわいそう”という物語の方が、都合がいいんだろう」

 

 その言葉は、どこか疲れていた。

 諦めにも似た響きがあった。

 

 やがて、その“空気”は制度になる。

 政府内でも議論が始まった。

 怪獣への対応方針。

 これまでの“即時排除”から、“観察・保護”へ。

 理由は明確だった。

 世論だ。

 支持率だ。

 選挙だ。

 誰も口には出さないが、全員が理解している。

 だからこそ、誰も逆らわない。

 

 そして、決定的な通達が下る。

 マサムネ1号の運用停止。

 理由は――

 “過剰な武力行使の懸念”。

 

「ふざけるなよ……」

 

 その書類を見たとき、聖人の中で何かが切れた。

 机を叩く。

 紙が揺れる。

 

「じゃあどうするんだよ!!」

 

 声が、研究所に響いた。

 

「次に出たら!! また人が死ぬぞ!!」

 

 誰も答えない。

 いや、答えられない。

 それが分かっているからこそ、聖人は余計に苛立った。

 

「俺が行かなきゃ……!」

「ダメだ」

 

 父の声だった。

 

「……なんでだよ」

「命令だ」

 

 短い言葉。

 だが、それは絶対だった。

 

「今、お前が動けば……完全に“悪”にされる」

「もうなってるだろ!!」

 

 叫ぶ。

 息が荒い。

 胸が苦しい。

 

「何もしてないのに!! なんで俺が!!」

 

 声が震える。

 怒りと、悔しさと、どうしようもない無力感が混ざり合っていた。

 

 その時、サイレンが鳴った。

 研究所全体に響く警報。

 全員が凍りつく。

 そして、アナウンスが流れる。

 

『新たな怪獣反応を確認――』

 

 聖人は顔を上げた。

 父を見る。

 父もまた、彼を見ていた。

 何も言わない。

 だが、その沈黙がすべてを語っていた。

 

 ――行けない。

 ――行かせられない。

 

 モニターに映るのは、崩れていく街。

 逃げ惑う人々。

 そして。

 それを、ただ見ているしかない自分。

 その瞬間。

 金城聖人の中で、何かが静かに壊れた。

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